2025 年 8 月に欧州心臓病学会誌(European Heart Journal)に掲載された「CARTESIAN(Covid‑19 Effects on ARTErial StIffness and Vascular AgeiNg)」研究は、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)後の血管の老化が加速している可能性を示しました。欧州心臓病学会によるプレスリリースによれば、この研究は16か国・34施設から2,390人を登録し、感染の有無や重症度(軽症・一般病棟入院・ICU入院)、ワクチン接種歴などを比較しましたeurekalert.org。主な指標は**頸動脈と大腿動脈間の脈波伝播速度(PWV)**で、値が高いほど動脈が硬く“血管年齢”が高いとされます。今回の結果では女性の血管年齢が用意に「老けて」しまうことが示されました。
CARTESIAN研究の概要
- 対象者: 2020年9月〜2022年2月に欧州、北米、南米、アジア各国から2,390人を登録eurekalert.org。
- 分類: コロナ未感染群と、軽症(非入院)・一般病棟入院・ICU入院という重症度の異なる既感染群に分けたeurekalert.org。
- 測定時期: 感染後6か月と12か月でPWVを測定し、年齢・性別・血圧などの影響を統計的に補正したeurekalert.org。
- 評価指標: PWVの上昇を中心に、性差やロング COVID 症状、ワクチン接種との関連を検討したeurekalert.org。
研究が示したこと
1. どの程度血管が硬くなったのか?
COVID‑19 に感染した全てのグループで、未感染者より PWV が有意に高くなっていましたeurekalert.org。特に女性では顕著で、軽症でも約 0.55 m/s、一般病棟入院で 0.60 m/s、ICU 入院では 1.09 m/s の PWV 上昇が報告されていますeurekalert.org。研究者は **0.5 m/s の PWV 増加は「血管年齢が約 5 年進む」**ことに相当し、心血管疾患リスクが約3%上昇する可能性があると説明していますeurekalert.org。

2. 性差と長期症状(ロングCOVID)
研究では 男性では上昇が小さく、統計的に明確ではなかった一方、女性では軽症であっても顕著な上昇がみられましたeurekalert.org。特に持続的な症状(息切れや倦怠感など)を伴うロングCOVID患者で血管の硬化が大きい傾向がありましたeurekalert.org。
3. ワクチン接種と時間経過
ワクチン接種者は未接種者と比べて血管スティフネスが低い傾向を示し、感染後12か月までの追跡では PWVの増加が横ばい又はわずかに改善する兆候が見られましたeurekalert.org。完全な正常化は確認されていませんが、ワクチンによる保護効果や回復の可能性が示唆されています。
4. なぜ女性に影響が強いのか?
報告では、SARS‑CoV‑2が利用する ACE2 受容体が血管内皮に多く発現していることや、女性の免疫応答が男性より強く迅速であることが関係している可能性が挙げられていますeurekalert.org。この免疫応答が感染後も長く続き、血管にダメージを与えることで血管が硬くなると考えられていますeurekalert.org。
ビジュアルで見る血管年齢の変化
以下のグラフは、CARTESIAN研究で報告された女性患者のグループ別 PWV 増加量を視覚化したものです。

私たちにできること
- 生活習慣の改善: 血管の硬化は高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、肥満などによっても進みます。バランスの良い食事、適度な運動、禁煙、塩分や脂質の摂取制限は従来から血管保護に有効とされています。
- 医療機関での相談: PWV測定は専門機関で行えます。感染歴があり長引く症状が心配な方は、主治医に相談し必要であれば詳細な血管評価を検討しましょう。
- ワクチン接種: プレスリリースでは、ワクチン接種が血管スティフネスの上昇を弱めている可能性が示されていますeurekalert.org。重症化予防だけでなく、長期的な血管健康の観点からもメリットが期待されます。
- 長期的なフォロー: 研究者たちは今後も参加者を追跡し、PWVの上昇が実際に心筋梗塞や脳卒中などのイベント発生に結び付くのかを検証するとしていますeurekalert.org。現時点では血管の生理指標の変化に過ぎないため、引き続き注意深いモニタリングが必要です。
まとめ
- CARTESIAN研究は、新型コロナ感染が6〜12か月後も血管年齢を押し上げる可能性を示しました。
- 性差が顕著で、特に女性でPWVの増加が大きく、軽症でも血管年齢が約5年分進むことが分かりましたeurekalert.org。
- ワクチン接種により血管スティフネス上昇が緩和される可能性があり、長期的なフォローでリスクを評価していく必要がありますeurekalert.org。
- 生活習慣の改善や定期的なチェックにより、将来の心筋梗塞・脳卒中リスクの低減に取り組みましょう。
参考文献
- European Society of Cardiology Press Release: “Covid infection ages blood vessels, especially in women”eurekalert.orgeurekalert.org
- Rosa Maria Bruno et al. Accelerated vascular ageing after COVID‑19 infection: the CARTESIAN study. European Heart Journal (2025). DOI:10.1093/eurheartj/ehaf430.