夏は暑いですね。当院のように訪問診療をしていると外を歩くことが多いですが日焼けは疲労感と密接に関連していることが報告されています。疲労回復も大事ですが、「疲労しない」ということも患者さんへの診療の質を上げる大切なポイントです。
本日もその機序に触れながら、客観的なデータを解説していきます。
- 1. 紫外線暴露の有無による主観的疲労感・パフォーマンスの比較
- 2. 炎症マーカー(例:IL-6, TNF-α)と疲労指標の相関
- 3. 紫外線暴露と酸化ストレスマーカー(例:ROS, MDA)の関連
それでは順に見ていきましょう。
1. 紫外線を浴びると疲労感やパフォーマンスはどう変わる?
紫外線に当たると「なんとなく疲れやすい」――そんな現象は実際に科学的にも確認されています。例えば、日本で行われたフィールド試験では、夏場に15名の男性が3日間連続で日光浴(1日あたり100 kJ/m2のUVを3~4回浴びる)を行ったところ、日光浴をした日の夕方や翌朝に、主観的な疲労感スコアが対照週(全く日光に当たらなかった週)より有意に上昇しました。さらに、脳機能パフォーマンスを評価する「Advanced Trail Making Test (ATMT)」でも、日光浴直後の夕方や翌朝にスコア悪化(=認知的疲労の増大)が認められています。この結果は強い日射しの下で過ごすと、普段より疲労が蓄積し認知機能も低下することを客観的に示したものです。
また、紫外線による日焼けと運動時の疲労についての最近の研究では、肌の赤み(日焼けの指標)が強いほど運動後の疲労感が大きいことが報告されています。資生堂らの共同研究によれば、屋外で運動を行った被験者を日焼け止め使用群と非使用群に分けて比較したところ、日焼け止めを使用せず紫外線を多く浴びた群では、運動直後~翌日に感じる疲労感が高く、逆に紫外線防御をした群では疲労感が軽減する傾向が確認されました(図1参照)。このように、紫外線曝露の有無で主観的な疲労感や運動後のコンディションに差が生じることが示唆されています。

2. 炎症マーカー(IL-6やTNF-α)と疲労との相関
紫外線による疲労のメカニズムの一つに、「免疫系の炎症反応」が関与する可能性があります。日焼けした肌では炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)が放出され、それが全身に影響を及ぼすことで倦怠感や発熱、眠気といった**“日焼け疲れ”症状**を引き起こすことが報告されています。実際、慢性的な疲労感を訴える人ほど血中の炎症マーカー値が高い傾向がさまざまな研究で示されています。
ある研究では慢性疲労感と血中IL-6濃度の関係が見られています。。疲労感が強い群では血中IL-6値が平均5.1 pg/mLと、非疲労群(1.6 pg/mL)の約3倍に達していました。また別の研究では、疲労感の指標(質問票スコア)とIL-6濃度に有意な正の相関があること、さらに慢性疲労症候群やうつ病患者では炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-α)が健常者より高値を示すことが報告されています。炎症性サイトカインは脳内に侵入して中枢に作用し、倦怠感や眠気、意欲低下など「疲労」に関連する症状を引き起こすことが分かっています。実際、免疫細胞の炎症反応が疲労発生の一因となりうること、そしてTNF-αやIL-6などのサイトカインは「疲労のバイオマーカー」として利用できる可能性が日本の研究でも示唆されています。
これらの知見から、紫外線を浴びて皮膚で生じた炎症(サイトカイン放出)が、全身倦怠感という形で表れる可能性が考えられます。実際、日焼け後には皮膚から放出されたIL-6が血中に乗って全身を巡り、発熱や倦怠感(いわゆる「日焼けによるぐったり感」)の一因となることが明らかになっています。紫外線による疲労を軽減するには、こうした炎症反応を抑えることが重要と言えるでしょう。
3. 紫外線と酸化ストレス(ROSやMDA)の関係
紫外線を浴びると、肌で**活性酸素種(ROS)**が大量に発生し細胞が酸化ストレスにさらされます。この酸化ストレスは、細胞や組織のダメージのみならず、筋肉の疲労や回復遅延にもつながることが指摘されています。では実際に、紫外線曝露で体内の酸化ストレス指標はどの程度変化するのでしょうか?
皮膚科学の研究によれば、紫外線を照射した肌では脂質の過酸化が起こり、マロンジアルデヒド(MDA)などの酸化ストレスマーカーが大量に生成されます。実際、試験管内で人の皮膚を日光相当のUVに照射した実験では、照射30分後の皮膚中MDA量が非照射時の3倍以上に増加していました(図3)。このようにUVは皮膚に強い酸化ダメージを与えますが、さらに注目すべきはその酸化ストレスと疲労との関連です。
前述の屋外運動実験(資生堂の研究)では、運動後の肌の赤み(UVによる日焼け程度)の変化量が、運動時に生じた酸化ストレスマーカーの変化量と比例関係にあることも示されました。つまり、日焼けによって生じる酸化ストレスが大きいほど、筋肉への負担も増大し疲労感や筋肉痛が強まる可能性があります。紫外線によるROSの増加は筋組織の回復を妨げ、持久力低下や疲労蓄積を招くとされ、スポーツ科学の分野でも注意が促されているところです。
以上のことから、紫外線対策によって酸化ストレスを軽減することが、疲労予防・回復促進に有効と考えられます。例えば高機能日焼け止めの使用は、肌で発生するフリーラジカル(ROS)を抑制し、その結果として筋肉への酸化負荷を減らし疲労回復を助けると期待されています。実際、日焼け止めを塗布した群では運動後の乳酸値上昇や疲労感が抑えられたとの報告もありました。紫外線から身体を守ることが、単なる肌の健康だけでなく疲労軽減やパフォーマンス維持にも役立つといえるでしょう。

ポイントまとめ: 紫外線と酸化ストレス
- UV照射により肌でROSが大量発生し、脂質過酸化産物MDAが増加(平時の3倍以上)pmc.ncbi.nlm.nih.gov。
- 紫外線による酸化ストレスは筋細胞の修復を阻害し、疲労回復を遅らせる可能性pelotan.ccpelotan.cc。
- 日焼けの程度と酸化ストレスは比例関係にあり、UV対策で酸化ストレスを抑えることが疲労軽減につながるcorp.shiseido.compelotan.cc。
以上、紫外線と疲労に関するエビデンスを3つの視点でご紹介しました。強い日差しを浴びる機会が多い方は、炎症や酸化ストレスによる疲労の蓄積に注意し、適切なUV対策や休養を心がけましょう。そうすることで、夏のレジャーやスポーツも元気に楽しめるはずです。疲労をため込まない工夫で、太陽の下でもアクティブに過ごしていきたいですね。
参考文献:
- Horikoshi et al., Int. J. Cosmet. Sci. 26(1): 9-17 (2004) – 「太陽光曝露による疲労発生の評価」に関する研究
- 資生堂 研究リリース (2024年) – 「日焼け止めで紫外線から肌を守ることで疲労感を軽減」(第75回日本体力医学会発表)
- Urbanski et al., J. Invest. Dermatol. 94(6): 808-811 (1990) – 紫外線照射によりヒトでIL-6が増加し全身倦怠感を誘発
- 清水ら, 科研費報告書 (2014-2016) – 「疲労のバイオマーカーとしての炎症性サイトカイン」
- K. M. Valentine et al., J. Pain Symptom Manage. 49(3): 556-569 (2015) – 血清IL-6値と慢性疲労感の関連(透析患者の研究)
- R. H. Wright et al., Sci. Rep. 10: 16611 (2020) – 炎症性サイトカインと疲労の関連
- Moldovan et al., Free Radic. Biol. Med. 65: 1473-1481 (2013) – 紫外線で皮膚に生じるMDA付加体の解析
- 廣田ら, 日本化粧品技術者会誌 38(2): 95-103 (2004) – 「脳機能パフォーマンスの低下を指標とした太陽光曝露による疲労」(Horikoshiらの日本語報告)
- Pelotan Performance Insights #005 (2024) – 「UV曝露と筋肉疲労・持久力」