はじめに:なぜスポーツドリンクが必要?
汗をかくと体内の水分と電解質が失われます。水だけでは補えないナトリウムやカリウムを一緒に摂ることで、より効率よく水分が吸収され、脱水や熱中症を防ぐことができます。
日本スポーツ協会などのガイドラインでは、100 mL当たりナトリウム40〜80 mg(0.1〜0.2 %塩分)と3〜8 %程度の糖質を含む飲料が効果的だとされています。
ポカリスエットとアクエリアスは日本で代表的なスポーツドリンクですが、成分や設計思想に違いがあります。本記事では、両製品の主な成分と科学的根拠を比較し、シーン別の使い分けや注意点を紹介します。
成分比較:100 mLあたりの栄養素
次の表は各製品の栄養成分をまとめたものです(日本国内向け現行品の公表値)。

グラフで見る成分の違い
以下の棒グラフは、100 mLあたりのエネルギー、糖質、ナトリウム量を比較したものです。ポカリスエットのほうがカロリーと糖質、ナトリウムが高く、エネルギー補給とイオン補給に重点を置いていることがわかります。アクエリアスは糖質とナトリウムが少なめで、さっぱり飲みやすい設計です。

科学的エビデンス:水分・電解質・糖質の効果
水より優れた水分保持効果
Nutrients誌に掲載されたランダム化比較試験では、運動により体重の2.6 %分の水分を失った後、水・スポーツドリンク・経口補水液(ORS)を摂取して体内に保持された水分量を比較しました。その結果、3.5 時間後の体内保持率は水が約58 %、スポーツドリンクが約74 %、ORSが約77 %であり、スポーツドリンクとORSが水よりも明らかに優れていましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。飲料中のナトリウムと糖質が腸での水分吸収を促進し、尿量を抑えるためと考えられています。この試験結果は次のグラフに示します。

糖質の役割:持久力を支えるエネルギー
炭水化物(糖質)を含む飲料は、運動時のパフォーマンス維持に役立ちます。複数の試験をまとめたメタ分析では、糖質入り補給飲料が持久運動のパフォーマンスを平均6 %程度向上させることが示されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。特に1時間を超える運動では、体重1 kgあたり0.7 g/時間程度の糖質を補給するとパフォーマンス改善が期待できます。このため、ガイドラインでは糖質4〜8 %程度のスポーツドリンクが推奨されていますotsuka.co.jp。ポカリスエットの糖質濃度は約6 %とちょうどこの範囲にあり、持久運動時にエネルギー源となります。一方アクエリアスは糖質が約4〜5 %で、軽い運動や日常補水向けに設計されています。
電解質(ナトリウム・カリウム)の重要性
汗には水分と共にナトリウムやカリウムが含まれており、これらが不足すると筋肉の痙攣や血液循環の低下を引き起こします。ガイドラインは0.1〜0.2 %の塩分(ナトリウム40〜80 mg/100 mL)を含む飲料を推奨しotsuka.co.jpotsuka.co.jp、ポカリスエットもアクエリアスもこの範囲に設計されています。ポカリスエットはナトリウムとカリウムがやや高めで発汗後のイオン補給に適し、アクエリアスは塩分控えめで飲みやすさを重視しています。
クエン酸とBCAAはどうなのか?
両製品に含まれるクエン酸は酸味付けの役割が主で、疲労回復効果については科学的根拠が限定的です。アクエリアスには微量のBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)が添加されていますが、メタ分析ではBCAAを数十グラム単位で摂取した場合に筋肉痛や筋損傷マーカーの低減が確認されたものの、運動パフォーマンスの向上効果は限定的だと報告されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。アクエリアスのBCAA含有量は100 mLあたり約2.5 mgとごくわずかであり、実際の効果はほとんどないと考えられます。
シーン別の使い分けガイド
運動時
- **長時間の持久運動(1時間以上)**には、エネルギー源となる糖質と発汗で失われたイオンをバランスよく補えるポカリスエットが向いています。糖質濃度は約6 %で、エネルギー補給と水分吸収の両方に貢献します。
- 短時間や軽めの運動では、カロリーを抑えたい人や甘さが気になる人にアクエリアスが適しています。糖質を抑えつつもナトリウムとカリウムを補えるため、水やお茶より効率的に水分が吸収されます。
熱中症予防
- 暑い環境で大量に汗をかく場合は、0.1〜0.2 %の塩分と糖質3〜8 %を含むスポーツドリンクが有効です。ポカリスエットはナトリウム量が高めで、汗に含まれる塩分をしっかり補給できます。
- 軽度の発汗やこまめな水分補給にはアクエリアスでも十分です。ただし、脱水症状が強い場合にはより高ナトリウムの経口補水液(OS‑1など)を用いるのが安全ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
日常の水分補給
- 基本は水やお茶が推奨されますが、軽い運動後や入浴後に素早く水分を吸収したい場合はスポーツドリンクが便利です。ポカリスエットは甘味と塩味が強く、体調不良時や発汗後に飲むと「しみわたる」感覚があります。
- アクエリアスはカロリーが低く人工甘味料で後味がすっきりしているため、日常的にも飲みやすいですが、人工甘味料の味が苦手な方は注意してください。
健康上の注意点
- 糖質とカロリーの摂りすぎ:ポカリスエットは500 mLで約31 gの糖質と125 kcal、アクエリアスは約23 gの糖質と95 kcalになります。運動で消費していない時に大量に飲むとエネルギー過剰や血糖の急上昇につながり、肥満や糖尿病リスクを高めます。
- 虫歯・酸蝕症:スポーツドリンクは酸性で糖分も含むため、歯の表面を溶かし虫歯の原因となります。だらだら飲まず、飲んだ後は水でうがいをするなどの対策をしましょう。
- 塩分の摂りすぎ:1本500 mLあたりの食塩相当量はポカリスエットが約0.6 g、アクエリアスが約0.5 gです。高血圧や腎疾患で塩分制限が必要な方は量に注意し、日常的な飲用は避けてください。
まとめ:目的に合わせて賢く選ぼう
ポカリスエットとアクエリアスはいずれも、水分と電解質を効率よく補給できる優れたスポーツドリンクです。しかし成分や設計思想が少し異なり、用途によって向き不向きがあります。
持久運動や大量発汗時→塩分と糖分がしっかり補えるポカリスエット
軽い運動→カロリー控えめで飲みやすいアクエリアス
が適しているでしょう。いずれの場合も、**「必要なときに適量を」**という点を忘れず、健康的な水分補給を心がけましょう。運動もしていないのにスポーツドリンクを多量に飲むことは避けるようにしましょう。
参考文献
- ポカリスエット公式サイト「成分・栄養成分表示」otsuka.co.jp
- アクエリアス公式サイト「栄養成分表示・原材料名」coca-cola.comcoca-cola.com
- 大塚製薬「水分補給とイオンと健康の深い関係」- 推奨される塩分・糖分の解説otsuka.co.jpotsuka.co.jp
- Ly et al., “Post-Exercise Rehydration in Athletes” (Nutrients 2023) – スポーツドリンクと経口補水液の再水和効果pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Vandenbogaerde & Hopkins, “Effects of carbohydrate supplementation on endurance performance” (Sports Medicine 2011) – 糖質補給と持久運動パフォーマンスのメタ分析pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
- Doma et al., “Effect of branched-chain amino acids on muscle damage” (Appl Physiol Nutr Metab 2021) – BCAAの筋肉痛・筋損傷に関するメタ分析pubmed.ncbi.nlm.nih.gov