「このコカコーラはゼロだから太らないの!」と主張する方を時折見かけます。
確かにカロリーはゼロですが、人工甘味料が入っており、腸内環境の変化を通して肥満を助長するなどの報告も出てきて、「実際どうなの?」という人も多いと思います。この記事では、査読付き論文のデータをもとに、コカコーラゼロに限らず砂糖入り飲料と比較した場合と水などの無糖飲料と比較した場合の二つの観点から人工甘味料入り飲料の肥満への影響を紹介し、一般の方が注意したいポイントを分かりやすくまとめます。
砂糖入り飲料との比較
砂糖入り飲料(Soft Drinks, Sugar‑Sweetened Beverages: SSB)は高いカロリーと糖質を含み、摂取量が多い人ほど体重増加や肥満リスクが高まることが多くの研究で示されています。それでは、同じ飲料を人工甘味料で甘くした場合はどうなるのでしょうか?
ランダム化比較試験(RCT)の結果
研究デザインが厳格なランダム化比較試験では、砂糖飲料を人工甘味料入り飲料に置き換えることで体重増加が抑えられることが繰り返し報告されています。代表的な例として、オランダのRCTでは小児に18 か月間毎日1本の飲料を与えた結果、砂糖飲料を飲んだ群より人工甘味料飲料を飲んだ群の体重増加が約1 kg少なく、BMIや体脂肪率の増加も有意に抑えられました。同様に、Espinosaらが小児・青年を対象とした複数のRCTをまとめたメタ解析でも、砂糖飲料から人工甘味料飲料への置換によってBMIの増加が有意に小さくなると報告しています。
以下のグラフは、代表的なRCTから得られた体重変化の比較をまとめたものです。砂糖入り飲料(青)、人工甘味料入り飲料(オレンジ)、水を用いた減量プログラム(緑)を比較しています。小児対象のde Ruyter 2012試験では水群が存在しないため緑の棒は表示されません。
※SSB: sugar-sweetened beverage(砂糖甘味飲料)、ASB: artificially sweetened beverage(人工甘味料飲料)。RCT: 無作為化比較試験

水より体重の減少が大きい可能性も示唆されるがまだ不明。
観察研究の結果
長期間にわたるコホート研究では、人工甘味料入り飲料の摂取が肥満や体重増加と関連するとの報告もあります。Ruanpengらのメタ解析では、砂糖入り炭酸飲料を多く飲む人は肥満リスクが1.18倍、人工甘味料炭酸飲料を多く飲む人は1.59倍高いと報告されました。これは、「すでに肥満傾向にある人がカロリーを抑えるために人工甘味料飲料を選んでいる」といった逆因果や、人工甘味料を飲むことで甘味嗜好が強まり他の食品でカロリーを補ってしまうといった交絡が影響している可能性があります。疫学データだけでは因果関係を正確に判断することが難しく、観察研究の結果は慎重に解釈する必要があります。

ただしこれだけでは断定できない
水・無糖飲料との比較
水やお茶などカロリーを全く含まない飲料は体重管理に最適と考えられます。人工甘味料入り飲料はカロリーをほとんど含まないものの、甘味料による代謝への影響が懸念されています。ここでは水と人工甘味料飲料を直接比較した研究を紹介します。
減量プログラムにおける成人の比較
アメリカで行われたPeters 2016年の研究は、肥満成人300人を対象に減量プログラムを実施し、飲料として人工甘味料入り飲料を飲む群と水だけを飲む群に無作為に分けて1年間追跡しました。その結果、人工甘味料飲料を飲んだ群は水群よりも減量効果が大きく、52 週時点では約6.2 kgの減量を維持していました。同様にイギリスのHarrold 2023年試験でも、1年間の減量プログラムで人工甘味料飲料群が水群より約1.4 kg多く減量したと報告されています。
一方、世界保健機関(WHO)は2023年のガイドラインで「長期的に人工甘味料を使用しても肥満予防の効果は確認できない」と述べ、体重管理目的での常用を推奨しないと結論づけました。成人でも小児でも、人工甘味料入り飲料と水を比較して長期的な体重変化に有意差は認められなかったという報告に基づいています。
なぜ結果が異なるのか
人工甘味料入り飲料の効果について、研究結果が相反する理由には以下のような要因が考えられます。
- 研究デザインの違い – ランダム化比較試験(RCT)は因果関係を検証できますが、試験期間が数か月~1年と短期であり、長期的な影響を捉えにくい。対して観察研究は長期追跡が可能ですが、逆因果や交絡因子の影響を受けやすい。
- 対象者の違い – 小児・青年と成人、正常体重者と肥満者では効果が異なる可能性があります。元々砂糖飲料を多く飲んでいた人や肥満傾向の人では、人工甘味料飲料への置換の効果が大きく現れる一方、普段から甘味飲料をあまり飲まない人では効果が小さい。
- 生理学的メカニズム – 人工甘味料は腸内細菌叢を変化させ耐糖能を低下させる可能性が示唆されており、甘味とカロリーが乖離することで満腹感の調節が乱れるという仮説もあります。ただしヒトを対象とした研究では影響の大きさに個人差があり、総合的な結論には至っていません。
結論と生活へのアドバイス
現在の証拠から言えることは次の通りです。
- 砂糖入り飲料から人工甘味料入り飲料への置き換えは、摂取カロリーを減らし短期的な体重増加を抑制する効果が確かにあります。甘い炭酸飲料をたくさん飲む方にとって、人工甘味料飲料は有力な代替手段といえるでしょう。
- しかし水やお茶など無糖飲料と比べて人工甘味料飲料が優れている証拠はなく、長期的な肥満予防効果や健康への安全性については不確実です。喉が渇いた時はまず水を飲み、人工甘味料飲料はどうしても甘さが欲しいときのサポートとして利用するのが良いでしょう。
- 最終的には、飲料だけでなく食事全体や運動習慣など生活全体を見直すことが肥満予防に重要です。人工甘味料入り飲料は魔法の薬ではなく、バランスの取れたライフスタイルの一部として上手に取り入れることが望まれます。
参考文献
- de Ruyter JC, et al. A trial of sugar-free or sugar-sweetened beverages and body weight in children. New England Journal of Medicine, 2012。
- Ruanpeng D, et al. Sugar and artificially sweetened beverages linked to obesity: a systematic review and meta-analysis. QJM, 2017
- Espinosa A, et al. Effects of Nonnutritive Sweeteners on the BMI of Children and Adolescents: A Systematic Review and Meta-Analysis of RCTs and Cohort Studies. Advances in Nutrition, 2024
- Peters JC, et al. The effects of water and non‑nutritive sweetened beverages on weight loss and weight maintenance: a randomized clinical trial. Obesity (Silver Spring), 2016
- Harrold J, et al. SWITCH: A randomized controlled trial of non‑nutritive sweetened beverages vs water on weight maintenance. International Journal of Obesity, 2023
- Rios‑Leyvraz M, et al. Health effects of the use of non-sugar sweeteners: a systematic review. WHO evidence review, 2023
- Suez J, et al. Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature, 2014