エナジードリンク(以下、ED)は「短時間で元気を出せる」「眠気を覚まして集中力を高める」といった宣伝で近年人気が高まり、若者を中心に世界的な市場を拡大し続けています。
日本でもコンビニエンスストアや自動販売機で簡単に手に入る一方で、健康への影響がしばしば議論の的になっています。ポーランドでは未成年への販売を禁止する法律が2024年に施行され、各国で規制の議論が進んでいることからも、その健康リスクは看過できません。本記事では、主要成分ごとに体への作用を整理し、心臓血管系・精神神経系・肝腎機能・特定集団への影響・長期的な健康リスクの5つの観点から、科学的エビデンスに基づく解説を行います。
主な成分と役割
EDには多種多様な成分が配合されていますが、特に影響が大きいのはカフェイン、タウリン、砂糖(または人工甘味料)、ビタミンB群などです。以下の表は主要な成分とその役割・健康への影響を簡潔にまとめたものです。

1. 心臓血管系への影響

ED摂取後は交感神経が活性化し、血圧や心拍数が上昇します。健常な若年成人に250〜355 mLのEDを飲ませた研究では、収縮期血圧が約10 mmHg、心拍数が20拍/分近く上昇したと報告されています。この血圧上昇は高血圧患者や高齢者ではさらに顕著になりうるため注意が必要です。カフェインはアデノシン受容体を遮断し心筋を興奮させるほか、ホスホジエステラーゼ阻害作用により心筋収縮力を増大させるため、心房細動や心室性期外収縮など様々な不整脈の誘因となります。レビューではED関連有害事象のうち不整脈が最も多く、狭心症や心筋梗塞、大動脈解離、突然死といった重篤な心血管イベントも報告されています。
タウリンは本来神経伝達や浸透圧調節に寄与するアミノ酸ですが、EDではカフェインと組み合わさることで心筋の興奮性を増強し、不整脈リスクを高める可能性が指摘されています。また高濃度の砂糖摂取は血糖値急上昇に伴う交感神経刺激を通じて血圧・心拍数を上昇させ、心臓への負荷をさらに増大させる一因となります。
2. 精神・神経への影響

適量のカフェインは眠気や疲労感を軽減し、注意力や反応時間の短期的な改善につながります。二重盲検試験ではEDを摂取した群で注意力や主観的活力がプラセボ群より改善したと報告されています。一方で、500 mgを超えるような大量カフェインを急性に摂取すると焦燥感や不安、不眠、震えなどの症状が現れやすくなり、EDを飲んだアスリートで入眠困難や神経過敏が有意に増加したとの報告もあります。カフェインやタウリンの過剰摂取は痙攣発作や精神錯乱・躁状態を引き起こすことがあり、ED乱用が重篤なけいれん重積を伴う中毒例につながるケースも報告されています。
カフェインは繰り返し摂取により身体的依存を形成しやすく、飲まないと頭痛や倦怠感といった離脱症状が現れます。ED常飲者には不安障害や抑うつ傾向のスコアが高いという疫学的指摘もあり、精神衛生面への長期的な影響も懸念されています。
3. 肝臓・腎臓への影響
EDの多量摂取によって肝臓や腎臓に急性障害が起こる例が報告されています。特にナイアシン(ビタミンB3)を高用量含む製品を大量に飲み続けた結果、急性肝炎や黄疸を発症したケースが複数報告されています。多くの場合はEDの中止で回復しますが、重篤な場合には入院治療や肝移植が検討されることもあります。腎臓に関しては、1日に数リットルのEDを飲んだ60代女性が急性腎不全と肝炎を同時に発症し、タウリンの過剰負荷とナイアシンの肝毒性が原因と推定された症例が報告されています。カフェインは強い利尿作用があり、ED摂取は脱水や電解質異常を招いて腎機能に悪影響を与える可能性もあります。
砂糖や人工甘味料の多量摂取は長期的に脂肪肝やメタボリックシンドロームのリスクを高めます。マウスを対象とした研究では、砂糖入りED・無糖EDのいずれを長期間与えても空腹時血糖の上昇や中性脂肪の増加が起こり、インスリン抵抗性が進行したと報告されています。つまり、無糖タイプであってもエナジードリンク自体が代謝系に負担をかける可能性が示唆されています。
4. 若年層・妊婦・基礎疾患を持つ人へのリスク
未成年者
子供や10代の若者は体格が小さくカフェイン感受性が高いため、同じ量を摂取しても血中カフェイン濃度が高くなり、心拍数の急上昇や不整脈、神経症状が起こりやすいとされています。米国小児科学会は「エナジードリンクは子どもや思春期の青年には不要で有害であり、摂取すべきではない」と明言しており、ポーランドやリトアニアでは18歳未満への販売を禁止する法律が施行されています。エナジードリンクを習慣的に飲む若者は将来のアルコールや薬物乱用行動と関連するとの報告もあり、教育現場や家庭での注意喚起が求められます。
妊婦・授乳中の女性
カフェインは胎盤を通過して胎児に移行し、胎児はカフェインを代謝できないため蓄積しやすいことが知られています。欧州食品安全機関(EFSA)は妊婦・授乳婦のカフェイン摂取上限を200 mg/日までに制限すべきと勧告しており、エナジードリンク1本(250 mL)で80 mg程度、大型缶(500 mL)では160 mg前後のカフェインが含まれることを考えると、数本飲むだけで安全域を超えてしまいます。妊娠中のカフェイン過剰摂取は流産や早産、低出生体重のリスクと関連する可能性があるため、妊婦・授乳婦はエナジードリンクを避けるのが無難です。
心疾患や高血圧など基礎疾患を持つ人
高血圧や心臓病を抱える人はカフェインの血圧上昇効果が健常者より大きく、高血圧緊急症や脳卒中の引き金になり得ます。冠動脈疾患や不整脈の既往がある人がEDを飲むと、致命的な心室細動や心筋梗塞を誘発する危険があると報告されています。持病のある人はエナジードリンクの摂取を避け、医師に相談することが重要です。
5. 長期的な健康リスク
EDを頻繁に飲み続けると、短期的な血圧上昇や心拍数増加が慢性化し、高血圧症や動脈硬化のリスクを高める可能性があります。また砂糖を大量に含む製品を習慣的に飲むことは体重増加や2型糖尿病の発症率を高め、メタボリックシンドロームの発症に寄与します。同じく、人工甘味料入りの無糖タイプでもインスリン抵抗性を誘導する可能性が報告されており、長期的な代謝への悪影響が懸念されます。慢性的な高血糖や高血圧は腎機能低下や心血管疾患のリスクを高め、また糖や酸を含む飲料の常飲は虫歯や歯周病の要因となって全身の炎症状態を悪化させることがあります。
精神面でも、常習的なカフェイン摂取により慢性的な睡眠不足や不安症状が続けばうつ症状や集中力低下につながる恐れがあります。さらに、EDに慣れた若者がより強力な覚醒物質に手を出す可能性も懸念されており、依存傾向への影響にも注意が必要です。
カフェイン・砂糖含有量の比較
エナジードリンクの健康リスクを理解するためには、含有成分がどの程度かを数字で知ることが役立ちます。
カフェイン含有量と安全摂取量の比較
下図は成人と妊婦の安全摂取上限と、一般的なエナジードリンク(250 mL)および大型缶(500 mL)に含まれるカフェイン量を比較したものです。
成人では1日400 mgまでが安全とされますが、妊婦では半分の200 mg/日が上限です。一般的なED1本には約80 mg、大型缶では160 mg前後のカフェインが含まれるため、妊婦が2本飲むだけで上限を超えてしまうことが分かります。カフェインは複数の製品から摂取されることが多いので、コーヒーやお茶との合計摂取量にも注意が必要です。

砂糖含有量と推奨摂取量の比較
世界保健機関(WHO)が推奨する成人の1日当たりの遊離糖類摂取上限(25 g)と、エナジードリンク1本および大型缶に含まれる砂糖量を比較しています。一般的なED250 mLには約27 gの砂糖が含まれ、大型缶では50 gを超える製品も存在します。これは推奨上限を容易に超える量であり、毎日飲み続ければ肥満や2型糖尿病のリスクが高まることが理解できます。無糖タイプであっても、人工甘味料がインスリン抵抗性に影響する可能性が指摘されているため、飲み過ぎには注意が必要です。

エナジードリンクとの付き合い方:安全に楽しむために
エナジードリンクは短時間の覚醒や集中力向上には役立つものの、その効果は一時的であり、多量または頻繁な摂取は健康リスクにつながります。以下の点を意識して上手に付き合いましょう。
- 量を控える – 成人でも1日1本程度に留め、他のカフェイン飲料との合計摂取量を400 mg以内に抑えるよう心掛ける。
- 未成年は摂取しない – 子供や10代の若者はカフェイン感受性が高く、心臓や神経への影響が大きいため、専門家は飲用を推奨していない。
- 妊婦や授乳中は避ける – 妊娠・授乳期は胎児や乳児への影響を考え、カフェイン含有飲料を控える。どうしても飲みたい場合はかかりつけ医に相談する。
- 基礎疾患がある場合は医師に相談 – 心臓病や高血圧、腎・肝疾患を持つ人はEDによる症状悪化のリスクが高く、摂取前に専門医に相談する。
- アルコールと混ぜない – EDとアルコールを同時に摂ると酔いを自覚しにくくなり、危険な行動や急性アルコール中毒につながるリスクがある。
- 代替飲料を活用する – 水分補給には水やお茶、低糖質のスポーツドリンクなどを選び、疲労回復には十分な睡眠とバランスの良い食事を心掛ける。
おわりに
エナジードリンクは強い刺激作用を持つカフェインやタウリン、砂糖を多量に含み、一時的な覚醒効果はあるものの、その代償として心臓血管系や精神神経系、肝腎機能への負荷が明らかになっています。特に未成年者や妊婦、心臓病・高血圧など基礎疾患を抱える人にとってはリスクが大きく、専門家は摂取を控えるよう勧告しています。長期的に常飲すれば、肥満や糖尿病、動脈硬化など生活習慣病の温床となる可能性も否定できません。宣伝のイメージに惑わされず、成分表示を確認し、自身の健康状態に応じて適切に付き合うことが重要です。
参考文献
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