近年、カンナビジオール(CBD)を配合したオイルやグミ、スキンケア製品が国内外で急速に普及しています。「リラックス効果」「不眠解消」「痛みの緩和」など様々な効能がうたわれていますが、科学的な裏付けはどこまであるのでしょうか。この記事では、現在入手できる臨床試験やレビュー論文をもとに、不安障害・不眠症・難治性てんかん・慢性痛に対するCBDの効果と副作用をやさしく解説します。最後に、各研究の出典もまとめてありますので、さらに詳しく知りたい方は参考にしてください。
CBDとは何か
CBDは大麻草の成分の一つで、精神作用をもたらすテトラヒドロカンナビノール(THC)とは異なり、酩酊作用や依存性が少ないとされています。主に米国や欧州では医薬品として承認されており、日本でも海外から輸入したCBDを含む健康食品や化粧品が販売されています。体内では、エンドカンナビノイド系と呼ばれる神経伝達系に作用し、神経の興奮や炎症を抑えると考えられています。ただし現在のところ日本で医薬品として承認されたCBD製品はありません。そのため、実際の効果や安全性については慎重な情報収集が必要です。
不安障害への効果
2024年に発表された乳がん患者を対象とした臨床試験では、検査前の強い不安を訴える女性50人を、FDA認可のCBD(400 mg)とプラセボに無作為に割り付けました。主要評価項目である「検査関連不安」は両群で有意差がなく、CBDで劇的に不安が減ったわけではありませんでした。しかし投与から3時間後に測定した不安スコアでは、CBD群がプラセボ群より有意に低いという結果が得られました。また、重大な副作用はなく、軽度の眠気以外の報告はほとんどありませんでしたdana-farber.org。この試験はサンプル数が少なく、1回投与の効果しか検証していないため、効果の大きさや持続時間は今後の大規模試験で検証される必要があります。
ポイント
- 単回投与の効果は限定的だが、数時間後の不安感はやや改善。
- 重篤な副作用は報告されていないが、眠気など軽微な症状はあり得る。
- 治療法として確立するにはさらなる研究が必要。
不眠症への効果
不眠症患者20人を対象にした2025年のパイロット試験では、THC 10 mgとCBD 200 mgを含むカプセルを就寝前に1回服用した際の睡眠構造や翌日への影響が調べられました。結果は意外にも、総睡眠時間が平均24.5分短縮し、レム睡眠が約33.9分減少するなど、睡眠に対して抑制的に働きましたcuraleafclinic.com。一方で、高密度EEGによる解析ではステージ2睡眠でガンマ波活動が減少し、ステージ3睡眠でデルタ波活動が減少するなど脳波への変化が見られましたcuraleafclinic.com。翌日の覚醒度や運転シミュレーター成績には有意な影響はなく、重大な副作用は報告されませんでしたcuraleafclinic.com。副作用としては口渇が最も多く、試験全体で85件の軽微な事象が報告されていますcuraleafclinic.com。この試験はあくまでTHCとの併用であり、CBD単独の不眠改善効果はまだはっきりしていません。
ポイント
- THCとの併用では睡眠時間やレム睡眠を減らし、脳波にも変化。
- 翌日の注意力や認知機能に大きな影響はない。
- 副作用は口渇など軽度。長期使用やCBD単剤については不明。
難治性てんかんへの効果
てんかん領域ではCBDの効果が最も明確に示されています。欧米ではLennox–Gastaut症候群やDravet症候群などの難治性てんかんに対して、CBD製剤(Epidiolexなど)が正式に承認されています。2025年に報告されたドイツの多施設回顧的コホート研究では、2019〜2023年にCBD治療を開始した108人の難治性てんかん患者を追跡しました。その結果、3カ月後に50%以上の発作減少を示した患者は38.9%(42人)、75〜99%減少を示した患者は13%(14人)でしたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。トニック・クロニック発作を持つ患者では45.8%が50%以上の発作減少を達成し、16.7%は完全に発作が消失しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。投与後の平均発作日数は月16.8日から14.5日に減少し、CBDの継続率は3カ月で85.2%、6カ月で73.5%、12カ月で61.1%と報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。副作用は38%の患者に見られ、主なものは下痢、鎮静、吐き気などでしたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
ポイント
- 発作抑制効果が一定数の患者で確認されており、既存の抗てんかん薬に追加する治療として承認済み。
- 下痢や鎮静など副作用が比較的高頻度で報告されるため、医師の監督下で使用する必要がある。
- 多くの研究は小児や特定のてんかん症候群に限定されており、成人への適用には注意が必要。
慢性痛への効果
慢性痛に対するCBDの有効性は、今のところ証拠が弱く一貫しません。2025年のナラティブレビューでは、CBDを含むカンナビノイド製剤を対象とした15件の研究を分析したところ、**CBD単独で痛みが軽減したと報告した研究は42%、THCとCBD併用で66%**だったと述べていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。しかし、多くの研究は症例数が少なく、対象疾患や評価方法がバラバラであり、長期使用時の安全性も十分に検証されていませんpmc.ncbi.nlm.nih.gov。一方、海外のオンライン調査では、線維筋痛症患者878人のうち72%がCBDを使うことで鎮痛薬(NSAIDsやオピオイドなど)を減らしたと回答しましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。また、ガイドラインでは、慢性痛患者が医療用カンナビノイドを試す場合、まずはCBD5 mgを1日2回から開始し、最大40 mg/日まで増量すること、効果が不十分であればTHCを追加することが推奨されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
ポイント
- エビデンスの質は低く、効果があるとする研究とないとする研究が混在。
- THCとの併用では痛みが改善したと報告する割合が高いが、副作用や依存リスクが増える。
- 自己判断で長期間使用するのではなく、医療者と相談しながら試すのが望ましい。
疾患別の効果まとめ

- てんかん領域のみ、RCTとメタ解析で「効果が確立」しておりエビデンスレベルは高い。
- 不安障害は「効果を示唆するが症例数不足」で中等度。
- 不眠症・慢性痛については、RCTでも効果が否定的または不一致 → エビデンスレベルは低。
- ナラティブレビューは全疾患で「参考程度」であり、臨床判断の根拠としては弱い。
CBDの副作用と注意点
上記の研究から、CBDは比較的安全性の高い成分とされていますが、副作用が全くないわけではありません。主な報告例は以下の通りです。
- 眠気・倦怠感:不安障害やてんかんの試験では眠気が報告されています。運転や機械操作を行う場合は注意が必要です。
- 下痢・吐き気:高用量を長期間服用した患者では、消化器症状が比較的多く報告されていますpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
- 口渇:睡眠試験では口渇が最も一般的な副作用でしたcuraleafclinic.com。
- 肝機能への影響:高用量のCBDは肝臓の酵素値を上昇させることがあり、他の薬と相互作用する可能性があります。肝臓に疾患がある方や複数の薬を服用している方は医師と相談してください。
- 薬物相互作用:抗てんかん薬や抗凝固薬など、CYP酵素を介する薬剤との併用には注意が必要です。
CBD製品を選ぶ際のポイント
CBDは食品や化粧品として販売されており、品質にばらつきがあります。購入や使用の際は次の点に注意しましょう。
- 信頼できる製造業者を選ぶ:第三者機関による成分分析結果(COA)を公表している製品を選びましょう。
- THC含有量を確認:日本ではTHCがほとんど含まれない製品のみが合法です。海外製品を輸入する場合は特に注意してください。
- 医師に相談する:病気の治療を目的とする場合、必ず担当医と相談し、既存の治療法と併用する際のリスクを確認しましょう。
- 少量から試す:副作用のリスクを減らすため、少量から始めて体調や効果を確認しながら調整するのが基本です。
まとめ
CBDはリラックス効果や痛みの緩和などのイメージで注目を集めていますが、科学的に確立した効果は限定的です。不安や不眠に対する効果は小規模な試験で示唆されているものの、臨床的に明確な効果はまだ証明されていません。難治性てんかんでは一定の発作抑制効果が確認されており、医療現場で使用されていますが、副作用も比較的多く、慎重な管理が必要です。慢性痛に関しては証拠が少なく、特にCBD単剤での効果ははっきりしていません。
一方で、CBDは比較的安全に使用できる成分であり、重大な健康被害はまれです。副作用を理解し、適切な製品を選び、専門家と相談しながら使用することが大切です。今後さらに質の高い研究が進み、CBDの可能性と限界が明らかになることが期待されます。
参考文献
- Dana‑Farber Cancer Institute. Trial of CBD for cancer‑related anxiety demonstrates intriguing findings (2024). 女性50名を対象に、検査前の不安に対するCBDの効果と安全性を検討したランダム化試験の概要。
- Curaleaf Clinic. Medical Cannabis and Insomnia: What Does New Research Tell Us? (2025). 不眠症患者を対象としたTHC/CBD併用試験の結果と安全性について解説した記事。
- Hollander M. et al. “Use of cannabidiol for off‑label treatment of patients with refractory focal, genetic generalised and other epilepsies.” Neurological Research and Practice 7, 49 (2025). 難治性てんかん患者108人を対象にした回顧的コホート研究。
- Christo P.J. et al. “Considering Long‑Acting Synthetic Cannabidiol for Chronic Pain: A Narrative Review.” Cureus 17, e81577 (2025). CBDおよびカンナビノイドによる慢性痛治療の研究結果と限界をまとめたレビュー。