福岡県では、2025年8月末の時点でインフルエンザの定点当たり報告数が流行開始の目安である1.0を超え、例年より2か月以上早い流行期入りが宣言されました。この記事では、福岡県および全国の流行状況、流行しているウイルス株、予防効果とワクチン、そして早い流行の背景を分かりやすく解説します。最後に、身近にできる予防策をまとめました。

1. 今年の福岡は2か月早く流行期入り

福岡県が公表した定点調査によれば、2025年第32〜36週(8月上旬〜9月上旬)のインフルエンザ患者数は下表のとおりです。報告数の急増とともに、定点当たり報告数(医療機関1か所当たりの患者数)が0.32→1.20へと約4倍に増えています【1】。

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この数値は昨年の同時期よりも高く、流行開始が2か月早まっていることを示しています。以下のグラフは、福岡県の2025年第32〜36週における定点当たり報告数の推移です。

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2. 全国各地で異例の早さ – 青森や北九州の状況

福岡だけでなく、青森県や九州各地でもインフルエンザが早期に拡大しています。青森県では8月末の定点当たり報告数が1.23人に達し、過去10シーズンで最も早い流行入りとなりました【7】。また北九州市内の中学校では新学期早々に全校生徒の3割以上が発症し、2日間の臨時休校となりました【7】。例年は秋の終わりから冬にかけて増えるインフルエンザが、今季は夏の終わりから急増していることが分かります。

3. なぜ今年は流行が早いのか?

早い流行には複数の要因が関係しています。

  1. 新学期による接触機会の増加 – 夏休み明けに学校や職場で人が集まることでウイルスが広がりやすくなります【7】。
  2. 厳しい残暑と換気不足 – 猛暑でエアコンを長時間使用するため、室内の換気が不十分になりウイルスが滞留しやすくなります【7】。
  3. 体力・免疫の低下 – 暑さによる疲労や睡眠不足で体調が落ち、感染を受けやすくなります【7】。
  4. 複数の感染症が同時に流行 – 新型コロナウイルスや溶連菌感染症などの受診者が多く、コンビネーション検査キットの普及でインフルエンザが早期に検出されやすいことも一因です【7】。
  5. 免疫ギャップ – コロナ禍の数年間はインフルエンザの流行がほとんど無かったため、集団免疫が低下しました【4】。2023/24シーズンは久しぶりの大流行で、2024/25シーズンも早期に流行しました【4】。この免疫ギャップが今季にも影響していると考えられます。

4. 今シーズン流行しているウイルス株

国立健康危機管理研究機構の検出状況によれば、2024/25シーズンに検出されたウイルスの約87%がA型で、その内訳はA(H1N1)pdm09が5,453件A(H3N2)が136件B型(Victoria系統)が821件B型山形系統が4件B型不明が5件でした【3】。以下のグラフはウイルス検出数の割合を示したものです。

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感染の可能性があるのは3つの型であることがわかる

A型がほとんどを占めていることから、今季もA型を中心とした流行が予想されます。B型が増えるのは例年冬の終わり〜春にかけてなので、今後の動向に注意が必要です【4】。

5. 2025/26シーズンのワクチンと予防効果

厚生労働省が公表した2025/26シーズンの季節性インフルエンザワクチンは3価ワクチンで、以下の株が含まれています【6】。

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近年検出例のほとんど無いB型山形系統(山形系統)はワクチンには含まれていません。世界的に検出例がほぼ無くなったため、2025/26シーズンから日本でも3価ワクチンに移行しています

ワクチンの効果

  • 発症予防効果 – ワクチンを接種すると感染後に発病する確率が下がります。国内外の研究では、6歳未満の小児で約60%、2~17歳では60〜65%、18~64歳で36〜55%、65歳以上で40〜55%の発症予防効果が示されています【5】。
  • 重症化予防効果 – ワクチンには重症化を防ぐ働きもあります。日本の研究では、介護施設入所者におけるインフルエンザ関連死亡がワクチン未接種群に比べて約80%減少したと報告されています【5】。また18歳以上の入院予防効果は約41%とされています【5】。
  • 昨シーズンの有効性 – 日本感染症学会は、2024/25シーズンにオーストラリアで報告されたワクチン有効性が**62%(入院予防効果56%)**であり、日本でも流行株とワクチン株がほぼ一致していたため同程度の効果が期待できるとしています【4】。

ワクチンは感染そのものを完全に防ぐものではありませんが、発症を減らし重症化を防ぐための重要なツールです。免疫が付くまでに2週間ほどかかるため、流行が本格化する前に接種することが推奨されます。6か月以上のすべての人が接種対象で、特に高齢者、妊婦、基礎疾患のある人、乳幼児は早めの接種が勧められています【5】。小学生以下は2回接種で効果が高まります。

6. 過去6年の流行と今年の位置づけ

福岡県では、2023/24シーズンに過去5年間で最も大きな流行があり、第47週時点で定点当たり報告数が41.44と警報レベルに達しました【2】。2024/25シーズンはピークが80.94(第52週)と高いものの、前年ほどではありませんでした【2】。下のグラフは過去6シーズンの週別定点当たり報告数の推移を比較したものです。

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コロナ対策しているとインフルエンザも当然流行しない

2020/21〜2021/22シーズンは新型コロナウイルス対策(マスクや休校)によりインフルエンザの流行がほとんど見られませんでした【2】。2022/23シーズンから徐々に増え始め、2023/24シーズンには免疫ギャップと行動規制の緩和が重なって大流行となりました【4】。2024/25シーズンは早期に急増したもののピークは前季より低く、2025/26シーズンは現時点ではまだピークに達していません。今後の動向を注視しながら、早めの対策が重要です。

7. インフルエンザに備えるために

流行が早まっているとはいえ、適切な対策を取れば感染拡大を抑えることができます。

  • ワクチン接種 – 発症と重症化を予防するため、特に高齢者や基礎疾患のある方、妊婦、小児は早めに接種を検討しましょう。
  • 基本的な感染対策 – 手洗い、うがい、適切なマスクの着用、咳エチケットを徹底します。
  • 換気と湿度管理 – 空調使用時も定期的に窓を開けて換気し、室内を乾燥させすぎないようにします。
  • 十分な休養とバランスの良い食事 – 体調を整え免疫力を保つことで感染しにくくなります。
  • 体調不良時は早めに受診し、登校・出勤を控える – 自分が感染しているかもしれないときは他人にうつさないよう配慮しましょう。

8. おわりに

2025年は福岡県を含む全国各地で例年より早くインフルエンザが流行しています。これは免疫ギャップや暑さ、換気不足など複数の要因が重なった結果と考えられます。流行時期はまだ続く可能性があり、今後の動向によっては再び報告数が急増する恐れもあります。しかし、ワクチン接種と基本的な感染対策を徹底することで発症や重症化を大きく減らすことができます。正しい情報に基づき早めに備えることで、この冬を健やかに過ごしましょう。

参考文献

  1. 福岡県保健環境研究所「週報(定点報告)インフルエンザ 2025年第32~36週」 – 定点当たり報告数および報告数のデータ【1】。
  2. 福岡県庁「インフルエンザの流行状況についてお知らせします」 – 過去6シーズンの週別定点当たり報告数の表【2】。
  3. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報センター – 2024/25シーズンにおけるインフルエンザウイルス検出数(A(H1N1)pdm09、A(H3)、B/Victoriaなど)【3】。
  4. 日本感染症学会「2024/25シーズンのインフルエンザ流行予測」 – A型が主流であること、ワクチンと流行株の一致、ワクチン有効性(62%)および免疫ギャップに関する指摘【4】。
  5. 厚生労働省「インフルエンザQ&A」 – ワクチンの発症予防効果・重症化予防効果に関する研究結果や接種推奨対象【5】。
  6. 厚生労働省「インフルエンザワクチン製造株のお知らせ(2025/26シーズン)」 – A/Victoria/4897/2022、A/Perth/722/2024、B/Austria/1359417/2021 からなる3価ワクチン【6】。
  7. TBS NEWS DIGほかの報道 – 青森県や北九州市での早期流行、接触増加・換気不足・免疫低下・検査キット普及による早期流行の理由【7】。
  8. 国立健康危機管理研究機構「インフルエンザの解説ページ」 – インフルエンザウイルスの種類や季節性の特徴、A型・B型の概要【8】。
  9. 東京都感染症情報センター「インフルエンザウイルス検出状況」 – 2025/26シーズンの検出数(ゼロ)と2024/25シーズンの検出数(247件のA(H1N1)pdm09、81件のA(H3)、57件のB型など)【9】。