2026年1月から当医療法人ふくろうの樹では、全ての常勤職員を対象に企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)制度を導入します。企業が用意する退職給付制度は「確定給付型」と「確定拠出型」の2種類がありますが、企業型DCは従業員が自分の掛金を運用し、資産が成長するにつれて将来の給付額も伸びる仕組みです。企業が拠出した掛金と従業員が選択的に拠出する掛金は全額が積み立てられ、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。本記事では、医療法人で企業型DCを導入する理由と、昨今の経済的に厳しい環境にある医療従事者にとってのメリットを中心に分かりやすく解説します。

企業型DCとは何か

企業型DCは厚生年金の上に位置する「3階部分」の年金制度で、事業主が拠出した掛金をもとに従業員が運用を行う仕組みです。従業員は金融機関が提示する運用商品から選択し、自身のリスク許容度に応じて資産配分を決めます。給付額は運用成果によって変動し、積立金は転職時に他制度へ持ち運ぶことも可能です。当医療法人では常勤職員全員が加入対象となり、月額1万〜5万円の範囲で掛金を設定できます。また企業側が管理費を負担するだけでなく、職員一人につき月額1,000円を追加拠出し、資産形成を後押しします。

税制面のメリット – 三つのフェーズで優遇

企業型DCの大きな魅力は、拠出時・運用時・受取時の三段階で税制優遇を受けられることです。以下の表は各段階のメリットをまとめたものです。

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この三段階の税制優遇により、従業員は同額を給与として受け取る場合よりも効率的に資産を積み立てることができます。

給与受取りとDC拠出の違いを可視化

掛金を企業型DCに拠出すると社会保険料や所得税・住民税が軽減されます。同額を給与として受け取る場合と比較すると、その差は大きくなります。以下は月額3万円を給与として受け取った場合の手取り(所得税20%・社会保険料15%を仮定)と、同額をDCに拠出した場合の積立額の比較です

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税金・社会保険料を引かれずに投資に回せるメリットはかなり大きい

表で見ると、給与として受け取ると約1万9,500円(税金・保険料控除後)しか手元に残りませんが、DCに拠出すれば3万円全額が積み立てに回ります。こうした差は長期では大きな資産差につながります。

運用の自由度と投資教育

企業型DCでは加入者自らが運用商品を選択します。厚生労働省は、運用結果が将来の給付額に影響するため「適切な資産運用を行うための情報や知識を有していることが重要」とし、事業主は必要かつ適切な投資教育を行わなければならないと定めていますmhlw.go.jp当法人では制度導入にあたり、運用商品の選び方やリスク管理の基礎を学べるセミナーや個別相談を実施し、初心者でも安心して利用できる環境を整えます

資産の持ち運び(ポータビリティ)

従業員が離職や転職をした場合、企業型DCで積み立てた資産は他の制度へ移換できます。厚生労働省は「離転職時の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)」を明示し、企業型DCから確定給付企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)への移換が可能であることを示していますmhlw.go.jp従業員が制度を無駄にすることなく、キャリアの変化に応じて資産を引き継げる点も大きなメリットです。

長期運用による資産形成効果

企業型DCでは、長期にわたって積立投資を行うことで資産が大きく増える可能性があります。次のグラフは、月額1万円・3万円・5万円の拠出(当法人の1000円補助を含む)20年間・年利3%で運用した場合の将来受取額を試算したものです。

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安定した資産形成につながる

例えば月額1万円を拠出すると、20年後にはおよそ300万円台後半の資産になります。月額5万円なら同じ期間で約1,900万円まで増える計算です。これはあくまで仮定に基づく試算ですが、運用益が非課税となる企業型DCでは複利効果が生かしやすく、長期で積み立てるほど大きな差が生まれます。

インデックス・オールカントリーでの運用効果

企業型DCでは、預金や保険商品だけでなく国内外の株式インデックスファンドなども選択できます。世界の株式市場全体に投資する「MSCIオールカントリーワールドインデックス(ACWI)」は、過去10年間の年平均リターンが約11.1%と高い成長を示していますmsci.com。この利回りを前提に、当法人の月額1万〜5万円の掛金(会社補助1,000円含む)を10年・20年・30年・40年間積み立てた場合の試算を以下に示します。

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過去10年間の利回りが永続することはないが、試算上は資産は爆増する

以下の表は、各月額掛金(会社補助1,000円込)をそれぞれ10年・20年・30年・40年間運用した場合の将来資産額(税引き前)を概算したものです。単位は円で、四捨五入しています。

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単位は円。
(手取り換算)月々6500円程度の負担で、当法人の企業型だと11000円掛けられ、その他税制優遇もあり40年で8000万円以上に。退職金として破格。

月1万円+会社補助1,000円なら10年後に約232万8千円、20年後に約900万0千円、30年後に約2,811万6千円、40年後に約8,288万4千円となる見込みです。他の掛金ケースも含めて、運用期間が長くなるほど複利効果で急速に資産が増加する様子がわかります。
もちろん過去の成績は将来の運用成果を保証するものではありませんが、世界分散投資による高い成長ポテンシャルを実感できるでしょう。運用益が非課税となる企業型DCなら、一般的な投資口座よりも複利効果を効率的に享受できます。

当法人が提供するプラスアルファ

当医療法人では、従業員が安心して制度を利用できるよう、次のようなサポートを用意しています。

  • 会社からの補助金:毎月1,000円を従業員の掛金に上乗せします。この補助分も運用に回るため、長期的な資産形成に大きな違いをもたらします。
  • 口座管理手数料の負担:企業型DCでは通常、口座管理手数料や資産管理手数料が差し引かれますが、当法人がこれらの手数料を負担します。そのため従業員の掛金は全額運用に充てられます。
  • 運用教育の実施:運用成果は自身の選択に左右されるため、初心者でも安心して運用できるように定期的な投資教育セミナーや個別相談を開催します

制度利用の注意点とリスク管理

企業型DCはメリットが多い一方、いくつかの注意点があります。

  1. 60歳まで原則引き出せない:老齢給付金は原則60歳から受給でき、通算加入期間が短い場合は支給開始年齢が61~65歳に繰り下げられますmhlw.go.jp。短期の資金用途には適しません。
  2. 給与減額による社会保険料への影響:厚生労働省のQ&Aでは、掛金を拠出するために給与や賞与が減額されることで社会保険料負担が軽減されるだけでなく、標準報酬月額や雇用保険の基礎手当日額が下がり、将来受け取る社会保険・雇用保険の給付が減額する可能性があると説明していますmhlw.go.jp。拠出額は生活費や将来受け取る公的給付への影響を踏まえて設定する必要があります。
  3. 運用リスクは加入者が負う:確定拠出年金では元本保証型商品を選ぶこともできますが、株式や債券などリスク商品を選択した場合は運用成績により受取額が増減します。投資教育を受け、自分のリスク許容度に応じてポートフォリオを組むことが重要ですmhlw.go.jp
  4. 脱退時の手続き:資産を移換せずに放置すると口座管理手数料が差し引かれるため、離転職時には必ず資産を次の制度へ移換する必要がありますmhlw.go.jp

当法人では、拠出額の設定や運用商品の選択について専門スタッフが相談に応じ、定期的に運用状況を見直すためのサポートを行います。また、制度変更や法改正が行われた際には速やかに情報共有し、職員に不利益が生じないよう対応します。

まとめ

企業型確定拠出年金は、国が整備した税制優遇付きの私的年金制度で、老後資金を効率的に準備できる仕組みです。厚生労働省は掛金が所得控除の対象となり、運用益は非課税、受取時には公的年金等控除や退職所得控除が適用されることを明示していますmhlw.go.jp。さらに、運用商品は加入者が選べるため、世界株式インデックスのような高成長が期待できる商品に投資することも可能です。当法人では会社補助や投資教育を通じて職員の資産形成をサポートし、今後も経済的に厳しい状況に置かれることが予想される医療・介護分野において魅力的な職場づくりを実現します。制度の特性やリスクを理解し、長期的な視点で活用することで、働きながら堅実に老後資金を築くことができます。

参考文献

  1. 厚生労働省「確定拠出年金制度の概要」mhlw.go.jpmhlw.go.jp
  2. 厚生労働省「離職・転職時等の年金資産の持ち運び(ポータビリティ)」mhlw.go.jp
  3. 厚生労働省「確定拠出年金Q&A(令和6年12月1日施行)」mhlw.go.jp
  4. 厚生労働省『令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-』第1章mhlw.go.jp