はじめに
精神疾患の治療は長期に渡ることが多く、医療費や生活の支援が課題になります。福岡市では「自立支援医療(精神通院)」と「精神障害者保健福祉手帳」の二つの制度が整備されており、当院ではそれぞれの診断書を作成することが可能です。この記事では、制度の概要、利用方法、両者の違いを分かりやすく解説します。
自立支援医療(精神通院)
制度の目的と対象者
自立支援医療(精神通院)は、精神疾患(てんかんを含む)のため継続的に通院医療が必要な方が指定自立支援医療機関で治療を受ける際に、医療費の自己負担を軽減する制度です。福岡市のサイトでは、通院費用の自己負担が原則1割になると説明されていますcity.fukuoka.lg.jp。
有効期間と更新
受給者証の有効期間は1年間で、更新手続きは毎年必要ですcity.fukuoka.lg.jp。病状や治療方針に変更が無い場合、診断書の提出は2年に1回で良いとされていますcity.fukuoka.lg.jp。申請窓口は手帳と同様に各区保健福祉センター健康課で、郵送申請も可能ですcity.fukuoka.lg.jp。
月額負担上限額と所得区分
医療費の自己負担は1割ですが、所得に応じた月額負担上限額が設けられており、それを超える医療費は公費負担となります。厚生労働省の資料による区分と上限額は次の通りですmhlw.go.jp。

福岡市では、この「重度かつ継続の一定所得以上(自己負担上限額2万円)」区分に関する経過的特例が令和9年(2027年)3月31日まで延長されたと告知していますcity.fukuoka.lg.jp。これにより、受給者証に「経過的特例が延長されなかった場合、有効期間は令和6年3月31日まで」と記載されていても、特別な手続きなく引き続き利用できますcity.fukuoka.lg.jp。
申請の流れ
自立支援医療の申請手順は次のように紹介されていますcity.fukuoka.lg.jp。
- 自立支援医療費支給認定申請書の受け取り。
- 診断書(精神通院医療用) – 申請日から3ヶ月以内に作成されたもので、病状や治療方針の記載が必要です(当院の診察後に当院で発行可能です)
- 世帯の所得等の状況・同意書 – 世帯員の所得を確認する書類を添付しますcity.fukuoka.lg.jp。
- 申請書類一式を窓口または郵送で提出します。更新申請時には受給者証の写しを添付しますcity.fukuoka.lg.jp。
申請から交付まで1〜2か月程度かかり、その間に支払った医療費は受給者証が届いた後に差額の払い戻しを受けられます。(当院では支払いを猶予し、受給者証が届いてからまとめて支払って頂いています)
精神障害者保健福祉手帳
制度の目的と対象者
精神障害者保健福祉手帳は、精神疾患が原因で日常生活や社会生活に長期の制約があることを公的に認定する手帳です。福岡市のホームページでは、初診から6か月以上経過した精神疾患のある方で、長期にわたり生活に制約がある方が対象とされていますcity.fukuoka.lg.jp。年齢や入院・在宅の別は問われません。
等級と有効期間
手帳には障害の程度に応じて1級・2級・3級の3段階があります。福岡市による等級の目安は次のとおりですcity.fukuoka.lg.jp。

有効期間は2年間で、更新は有効期限の3か月前から申請できますcity.fukuoka.lg.jp。更新ごとに診断書または年金証書の写しで障害状態を再認定します。
主な申請方法
手帳申請は各区保健福祉センター健康課の窓口または郵送で受け付けていますcity.fukuoka.lg.jp。福岡市のチラシでは次の書類を案内していますcity.fukuoka.lg.jp。
- 精神障害者保健福祉手帳交付申請書
- 診断書(初診から6か月以上経過した日に作成されたもの)又は障害年金証書の写しと同意書city.fukuoka.lg.jp。
- 写真(縦4cm×横3cm)city.fukuoka.lg.jp。
- 個人番号カードと本人確認書類(マイナンバー確認・身元確認)city.fukuoka.lg.jp。
申請時は必要書類をそろえて窓口に提出し、不備がなければ1〜2か月程度で手帳が交付されます。福岡市では郵送申請も可能で、その場合は返信用封筒に切手を貼って同封しますcity.fukuoka.lg.jp。city.fukuoka.lg.jpでは、プライバシー保護が十分配慮されることも明記されています。
手帳所持者のメリット
福岡市では、手帳所持者が受けられる支援策を多数紹介しています。一部を抜粋すると次の通りです。
- 税制上の優遇 – 所得税の障害者控除(2級・3級: 27万円、1級: 40万円)、住民税の障害者控除(2級・3級: 26万円、1級: 30万円)などcity.fukuoka.lg.jp。相続税や贈与税の特例もありますcity.fukuoka.lg.jp。
- 公共交通の割引 – 市営地下鉄や市営渡船の運賃割引。手帳1級〜3級所持者や1級所持者の介護者が対象で、地下鉄は半額、渡船は全額割引city.fukuoka.lg.jp。
- 市営住宅の入居申込優遇 – 1・2級の手帳所持者には公募抽選での優遇制度がありますcity.fukuoka.lg.jp。
- 文化・スポーツ施設の利用料減免 – 福岡市の博物館・美術館・科学館・動植物園などの施設では、手帳または障害者手帳アプリ提示により利用料金が割引されますcity.fukuoka.lg.jp。
- 福祉乗車券・タクシー助成 – 手帳1級を持つ方で所得要件を満たす場合、公共交通機関の助成やタクシー料金助成が受けられますcity.fukuoka.lg.jp。
- 重度障がい者医療費助成制度 – 手帳1級を持つ人は医療費助成を受けられ、保険診療の自己負担額が全額助成されますcity.fukuoka.lg.jp。
これらの支援は福岡市独自のものも含まれます。利用条件や手続きは各制度の担当窓口に確認してください。
両制度の比較

当院でのサポートと注意点
当院では、精神障害者保健福祉手帳および自立支援医療(精神通院)の診断書作成が可能です。診断書料金は数千円かかりますが、制度利用による医療費軽減や各種支援を考えると大きなメリットがあります。申請時には必要書類の準備や手続きについてスタッフがサポートしますので、分からない点は遠慮なくご相談ください。
制度利用にあたっては次の点にも注意しましょう。
- 申請・更新期限を忘れない – 手帳は2年、自立支援医療は1年の有効期間があります。特に自立支援医療は更新を忘れると自己負担が3割に戻ってしまうため、期限管理が重要ですcity.fukuoka.lg.jp。
- 個人情報の管理 – 手帳や受給者証には氏名や診断名が記載されますが、福岡市はプライバシー保護に十分配慮しており、第三者に知られることはありませんcity.fukuoka.lg.jp。利用時は自ら提示する場面を選択し、職場や学校へ開示するかどうかは本人の判断となります。
- 制度併用のメリット – 手帳を持たなくても自立支援医療は申請できますが、両制度を併用すると、医療費の自己負担を抑えつつ生活支援策も受けられます。生活保護や低所得世帯では月額負担が0〜2,500円に設定されており、経済的負担が大幅に軽減されますmhlw.go.jp。
- 重度かつ継続の特例 – 高所得世帯でも、統合失調症や双極性障害など長期治療が必要な場合は「重度かつ継続」と判定されれば月額上限2万円の対象となりますcity.fukuoka.lg.jp。該当するかどうかは主治医の意見書が必要です。
まとめ
福岡市の精神障害者保健福祉手帳と自立支援医療制度は、精神疾患を抱える方の治療継続と生活支援を目的とした重要な社会資源です。手帳は生活支援や税制優遇を受けるための公的証明書であり、自立支援医療は医療費の自己負担を減らして治療を継続しやすくする仕組みです。制度の違いを理解し、自分や家族の状況に合わせて適切に活用することが大切です。申請や更新の際には当院や区役所の担当窓口に相談し、必要書類をそろえて手続きを進めましょう。
参考文献
- 福岡市公式サイト「自立支援医療(精神通院)と精神障害者保健福祉手帳」(2025年7月1日更新)city.fukuoka.lg.jpcity.fukuoka.lg.jp
- 福岡市「ご存じですか?2つの制度」(2025年1月版)city.fukuoka.lg.jpcity.fukuoka.lg.jpcity.fukuoka.lg.jpcity.fukuoka.lg.jp
- 厚生労働省「自立支援医療における患者負担の基本的な枠組み」(PDF)mhlw.go.jp