麻疹(はしか)に注意してください(福岡市で発生しています)

2026年9月7日、福岡県と福岡市は、大野城市にお住まいの20代の方が麻しん(はしか)と診断され、感染させる可能性のある期間に西鉄電車・福岡市地下鉄・西鉄バスを利用していたと発表しました。「その日、その電車に乗っていたかもしれない」という方に向けて、いま知っておいていただきたいことを、最新の医学情報と行政の発表をもとに整理します。

結論を先に言うと、心当たりのある方がいま最優先ですべきことは、9月22日まで毎日の体調チェックを続けることと、熱や咳、発疹が出たら「受診の前に電話をする」ことの2つです。理由を順番に説明します。

SECTION 01 この記事の結論を先に3つ

  1. 1心当たりがある人は、9月22日まで「毎朝の体温と、咳・鼻水・目の充血・発疹」を確認する麻しんは、うつってから症状が出るまで10〜12日、長いと21日かかります。発表で示された最後の利用日(9月1日)から数えて21日後が9月22日です。それまで症状がなければ、心配はほぼ終わりです。
  2. 2熱が出たら、病院に「行く」前に「電話する」麻しんは空気感染します。待合室に座るだけで、そこにいた免疫のない人にうつります。医療機関は電話をもらえば、別の入口や時間帯を用意して待つことができます。受診には公共交通機関を使わないでください。
  3. 3「発症を防ぐ注射」の期限はもう過ぎている。だからこそ、次のために接種記録を確かめておく接触から72時間以内のワクチン、6日以内の免疫グロブリンという手立ては、公表の時点で期限を過ぎています。今回については観察するしかありませんが、今年は全国で麻しんが2019年以来の水準に増えています。今回の騒ぎを、母子手帳を開くきっかけにしてください。

SECTION 02 いま福岡で起きていること(9月7日の発表内容)

福岡県と福岡市の発表と報道によると、患者は大野城市に住む20代の男性で、予防接種歴は不明、海外渡航歴はありません。8月28日に発熱し、29日から咳が出て、9月1日に医療機関を受診。その後、のどの痛み・発疹・目の充血が出たため9月4日に再び同じ医療機関を受診して麻しんと診断され、県の保健環境研究所の検査で陽性が確定しました。

麻しんは発症の1日前から人にうつします。発熱が8月28日ですから、8月27日以降の行動が公表の対象になっています。県と市が公表した、不特定多数の方と接触した可能性のある交通機関は次のとおりです(時間帯はおおよそで、幅を持たせて示されています)。

日付時間帯(およそ)交通機関と区間
8月27日(木)08:20〜08:50西鉄天神大牟田線 急行(下大利 → 西鉄福岡(天神))
08:50〜09:10福岡市地下鉄(天神 → 中洲川端 → 呉服町)
13:10〜13:20福岡市地下鉄(呉服町 → 中洲川端 → 天神)
13:15〜13:40西鉄天神大牟田線 急行(西鉄福岡(天神) → 下大利)
8月28日(金)12:20〜12:40西鉄天神大牟田線 急行(下大利 → 西鉄福岡(天神))
12:40〜12:50福岡市地下鉄(天神 → 呉服町)
18:20〜18:40福岡市地下鉄(呉服町 → 天神)
18:40〜19:10西鉄天神大牟田線 急行(西鉄福岡(天神) → 下大利)
8月31日(月)10:00〜10:20西鉄天神大牟田線 急行(下大利 → 西鉄福岡(天神))
10:20〜10:40西鉄バス 20番(天神ソラリアステージ前 → 石城町)
17:50〜18:15福岡市地下鉄(呉服町 → 天神)
18:00〜18:40西鉄天神大牟田線 急行(西鉄福岡(天神) → 下大利)
9月1日(火)08:20〜08:50西鉄天神大牟田線 急行(下大利 → 西鉄福岡(天神))
08:50〜09:10西鉄バス 20番(天神ソラリアステージ前 → 石城町)
13:10〜13:20福岡市地下鉄(呉服町 → 中洲川端 → 天神)
13:10〜13:40西鉄天神大牟田線 急行(西鉄福岡(天神) → 下大利)

※県・市の発表による。現時点でこれらの路線を利用しても感染することはありません。各交通機関への問い合わせは控えるよう呼びかけられています。最新情報は福岡県「【令和8年】麻しん(はしか)の発生に関する県民への注意喚起情報」および福岡市保健所のページをご確認ください。

福岡県内は今年4例目、全国は2019年以来の多さ

福岡県の集計では、2026年の県内の麻しん患者は第35週(8月24〜30日)までで4例(北九州市・福岡市・久留米市を含む)。昨年(2025年)は8〜9月に県内で患者が相次ぎ、年間22例でした。一方、全国は第34週(8月17〜23日)までに550例で、すでに昨年1年分(265例)の2倍を超え、2019年(744例)以来の水準です。

国立健康危機管理研究機構(JIHS)は2026年4月に「国内の患者は10〜20代が中心で、家庭・医療機関・学校・施設での感染に加え、通勤・通学で公共交通機関を利用していた例もある」と注意を呼びかけています。10〜20代の患者では、2回のワクチン接種が済んでいない人や接種歴が不明な人が約半数を占めていました。今回の福岡の発表は、まさにこの「公共交通機関を利用していた例」にあたります。

なぜ「海外に行っていない人」がかかるのか

2023年以降、世界的な流行を背景に海外から持ち込まれる例が増え、そこから国内で二次・三次感染が起きています。2026年前半に国内で検出されたウイルスの遺伝子型はB3型(中東・アフリカで多い)が約6割、D8型(北米・東南アジア・インドで多い)が約4割で、どちらも「輸入されたウイルスが国内で広がった」ことを示しています。渡航歴がないことは、麻しんを否定する材料になりません。

SECTION 03 麻しんとはどういう病気か

麻しんは、麻しんウイルスによる全身の感染症です。ほかの多くの感染症と決定的に違うのは、空気感染することです。患者の咳やくしゃみで出たウイルスは、細かい粒子(飛沫核)となって空気中を漂い、同じ空間にいた人が吸い込むだけで感染します。手洗いやマスクだけでは防げません。免疫を持たない人が1人の患者と同じ空間にいると、12〜14人にうつるとされ(インフルエンザは1〜2人)、免疫のない人がウイルスにさらされると90%以上が発症します。

図1 麻しんに感染してから回復するまでの流れうつってすぐには症状が出ません。「風邪のような時期」がいちばん人にうつしやすい時期です。感染(曝露)患者と同じ空間の空気を吸うだけで感染します。手洗いやマスクだけでは防げません。0日目潜伏期症状のない期間。ふつう10〜12日、長くても21日。この間はうつしません。10〜12日カタル期(風邪の時期)38℃前後の熱・咳・鼻水・目の充血・目やに。2〜4日続く。発症の1日前から人にうつす。口の中に白い斑点(コプリック斑)が出ることがある。最もうつす発疹期いったん熱が下がり、再び39℃以上の高熱とともに赤い発疹が顔から全身へ広がる。3〜4日続く。高熱+発疹回復期発疹が出て3〜4日で熱が下がり始める。解熱後3日を過ぎるまでは人にうつす可能性がある。解熱後3日体力の回復免疫の働きが一時的に落ちるため、ほかの感染症にかかりやすい状態が続く。元に戻るまで1か月ほどかかることも。約1か月※合併症:肺炎、中耳炎、脳炎(約1,000人に1人)など。乳幼児・妊婦・免疫の弱い人は重症化しやすい。

図1 福岡県「麻しん(はしか)に注意しましょう」、厚生労働省「麻しん(はしか)」をもとに作成。潜伏期は発症前なのでうつしませんが、風邪のような症状が出た日の前日からうつし始めます。

やっかいなのは、いちばん人にうつす時期が「ただの風邪に見える時期」だということです。38℃前後の熱、咳、鼻水、目の充血や目やに。この段階で麻しんと気づく人はほとんどいません。今回の患者さんも、発熱から4日目に受診し、発疹が出た後の2回目の受診で診断されました。これは本人の落ち度ではなく、麻しんという病気の性質です。

「風邪だと思った」を責めない代わりに、「電話する」を決めておく

だからこそ、この記事を読んだ方にお願いしたいのは、「9月22日までに熱が出たら、どこに行くにも先に電話する」と、いま決めておくことです。麻しんかどうかを自分で判断する必要はありません。「注意喚起に心当たりがある」と伝えてもらえれば、あとは医療機関と保健所が判断します。

特効薬はなく、合併症が問題になる

麻しんウイルスに直接効く薬はなく、治療は熱や脱水への対症療法です。多くは7〜10日で回復しますが、肺炎や中耳炎、まれに脳炎(約1,000人に1人)を起こし、命に関わることがあります。さらに、回復した後も免疫の働きが一時的に落ちるため、ほかの感染症にかかりやすい状態が1か月ほど続きます。乳児、妊婦、がんの治療中など免疫が抑えられている人は重症化しやすく、周囲がうつさないことが最大の防御になります。

SECTION 04 心当たりがある人が「いま」すべきこと

該当する日時・路線を利用した記憶がある方は、次の順で考えてください。

図2 今回の公表内容から見た「注意が必要な期間」福岡県・福岡市の発表(2026年9月7日)で示された利用日を起点に、それぞれ21日後まで健康観察が必要です。8月27日(木)利用分西鉄天神大牟田線急行(下大利〜西鉄福岡(天神))、福岡市地下鉄(天神〜中洲川端〜呉服町)9月17日(木)まで8月28日(金)利用分西鉄天神大牟田線急行(下大利〜西鉄福岡(天神))、福岡市地下鉄(天神〜呉服町)9月18日(金)まで8月31日(月)利用分西鉄天神大牟田線急行(下大利〜西鉄福岡(天神))、西鉄バス20番(天神ソラリアステージ前〜石城町)、福岡市地下鉄(呉服町〜天神)9月21日(月)まで9月1日(火)利用分西鉄天神大牟田線急行(下大利〜西鉄福岡(天神))、西鉄バス20番(天神ソラリアステージ前〜石城町)、福岡市地下鉄(呉服町〜中洲川端〜天神)9月22日(火)まで接触後72時間以内のワクチン、接触後6日以内の免疫グロブリンという「発症を防ぐ手立て」は、公表の時点(9月7日)でいずれも期限を過ぎています。いま心当たりのある方にできるのは、①症状を毎日チェックする ②出たら電話してから受診する、の2つです。

図2 福岡県・福岡市の発表(2026年9月7日)から作成。最大潜伏期21日をそれぞれの利用日に足した日付です。保健所の対応ガイドラインも「最終曝露後21日間を目安に健康観察」としています。

1. 発症を防ぐ手段は、もう間に合わない

麻しんには、うつった後でも発症を防げる手立てが2つあります。接触から72時間以内のワクチン接種と、ワクチンを打てない人(乳児・妊婦・重い免疫不全の人)に対する接触から6日以内の免疫グロブリン製剤です。しかし今回は、最後の利用日が9月1日で、公表が9月7日。72時間の期限は9月4日、6日の期限は9月7日で、記事を読んでいるいまはどちらも過ぎています。

これは行政の対応が遅かったのではなく、麻しんという病気の構造上の問題です。発症から診断まで数日、検査での確定にさらに数日かかるため、公表の時点で予防の窓は閉じていることがほとんどです。「間に合わない」と正直に書くのは、だからこそ次に書く「観察」と「記録の確認」に意味があるからです。

2. 期限の日まで、毎朝これだけ確認する

確認すること目安あてはまったら
体温37.5℃以上、とくに38℃前後が2日以上続く電話のうえ受診
咳・鼻水風邪のような症状が出始めた熱と組み合わさったら電話
充血、目やに、光がまぶしい麻しんに特徴的。電話のうえ受診
口の中頬の内側に1mmほどの白い点々(コプリック斑)ほぼ麻しん。電話のうえ受診
発疹顔・首から始まり体へ広がる赤い発疹。熱が再び上がる電話のうえ受診(出る前に受診できれば理想)
外出無症状なら日常生活は制限されないただし乳児・妊婦・病院への訪問は控えめに

症状がなければ、外出や仕事を一律に制限する必要はありません。保健所のガイドラインも「日常生活を一律に制限するものではない」としています。ただ、期限の日までは、乳児や妊婦のいる家への訪問、病院・高齢者施設への見舞いは、できれば延期してください。もし自分がうつっていた場合、いちばん重症になるのはそこにいる人たちだからです。

3. 症状が出たら「電話 → 車 → マスク」

図3 「熱が出た」そのとき、何をどの順番でするか症状が出てから医療機関に着くまでの動きが、次の感染を生むかどうかを分けます。1. 受診の前に電話する「◯月◯日に西鉄/地下鉄/バスを使った」「麻しんの注意喚起に心当たりがある」と伝える。医療機関は別の入口・時間帯を用意して待つ。必ず2. 公共交通機関を使わない電車・バス・タクシーは避ける。自家用車か家族の車で。無理なら保健所に相談する。必ず3. マスクをして向かうマスクだけで麻しんは防げないが、飛沫を減らす意味はある。同行者もマスクを。推奨4. 持っていくもの母子手帳(接種記録)、お薬手帳、症状が出た日と行動のメモ。診断が早く正確になる。推奨5. 診断が確定したら医師が保健所に届け出る(法律上の義務)。学校は解熱後3日を過ぎるまで出席停止。仕事も同じ期間は休む。医師が届出6. 家族への連絡同居家族の接種記録を確認。2回受けていない人は、家族の発症から72時間以内なら接種で発症を防げる可能性がある。72時間

図3 福岡県・福岡市の呼びかけ、保健所における麻しん対策・対応ガイドライン第三版(2026年4月)をもとに作成。医療機関側は、電話をもらえば動線を分けて受け入れる準備ができます。

電話する先は「かかりつけ医」でも「保健所」でもよい

福岡市にお住まいの方は各区の保健福祉センター(保健所)健康課、それ以外の地域は県の保健福祉環境事務所が窓口です。夜間や休日で連絡がつかないときは、救急安心センター #7119 も使えます。どこに電話しても「9月◯日に西鉄/地下鉄/バスに乗った」「麻しんの注意喚起に心当たりがある」の2点を伝えれば、必要な案内が受けられます。

SECTION 05 自分に免疫があるか、生まれた年から考える

「乗っていたかもしれないが、子どものころに予防接種を受けたはず」という方も多いでしょう。ここで確かめてほしいのは、受けた回数が2回か、1回か、0回かです。日本の定期接種は制度が何度も変わっており、生まれた年で「受けられた回数」が違います。

図4 生まれた年で分かる「定期接種で受けられた回数」母子手帳に記録がなければ、この表が目安になります。ただし実際に受けたかどうかは記録で確かめてください。〜1972年10月1日生まれ昭和47年10月1日以前。定期接種はなし(0回)。ただし、この世代は子どものころに麻しんが流行しており、かかったことで免疫を持っている人が多い。0回1972年10月2日〜1990年4月1日生まれ昭和47年10月2日〜平成2年4月1日。定期接種は1回だけ。1回では免疫が十分でない人が5%前後残る。20〜50代の患者が多い背景のひとつ。1回1990年4月2日〜2000年4月1日生まれ平成2年4月2日〜平成12年4月1日。定期接種は1回だが、2008〜2012年度に中学1年・高校3年相当で2回目(第3期・第4期)の機会があった。受けたかどうかは記録次第。1回+追加2000年4月2日以降の生まれ平成12年4月2日以降。1歳と小学校入学前の年の2回が定期接種。2回受けていれば95%以上が免疫を獲得。2回※出典:福岡県「麻しん(はしか)に注意しましょう」の年代別定期接種回数、厚生労働省MRワクチンページ。「受けられた回数」であり「受けた回数」ではありません。

図4 福岡県「麻しん(はしか)に注意しましょう」の年代別定期接種回数と厚生労働省の資料をもとに作成。第3期・第4期は2008〜2012年度の5年間だけ実施された追加接種です。

この表が示しているのは、いま20代後半〜50代前半の「働き盛りで、電車に毎日乗る世代」の多くが、定期接種を1回しか受けられなかったということです。1回の接種でも9割以上は免疫を獲得しますが、5%前後は免疫が十分につかず、時間とともに弱まる人もいます。今年の患者が10〜20代に多いことと、この制度の歴史はつながっています。

記録がなければ、抗体検査か、そのまま接種か

母子手帳に2回の記録があれば、それ以上の対応は基本的に不要です。記録がない、1回しかない、母子手帳が見つからない、という場合の選択肢は2つです。

  1. 1血液の抗体検査を受けてから決める麻しんIgG抗体を測り、十分なら接種不要、不十分なら接種します。費用は自費で数千円程度(医療機関により異なる)、結果まで数日かかります。医療従事者向けの基準では、数値によって「十分」「不十分」「陰性」が分かれます。
  2. 2検査をせず、そのまま接種するすでに免疫がある人がもう一度打っても害はほとんどなく、検査と接種の2回通院を1回にできます。JIHSも、時間がないときは検査を省いて接種することが有効と述べています。成人の任意接種は自己負担で、MRワクチン1回あたりおおむね1万円前後が目安です(医療機関により異なります)。

どちらを選ぶかは、費用と通院回数、そして「急いでいるか」で決まります。今回の接触に対しては間に合いませんが、今年は全国で流行が続いており、次の接触に備える価値は十分にあります。

SECTION 06 ワクチンについて知っておきたいこと

効果と副反応

麻しんワクチン(現在はほとんどが麻しん風しん混合=MRワクチン)は生ワクチンで、2回接種すれば95%以上の人が十分な免疫を得ます。副反応は、接種後5〜14日ごろに出る発熱(38.5℃以上が1期で約14%、2期で約3%)と発疹(1期で約9%)が中心で、いずれも一過性です。重い副反応である脳炎・脳症は100万〜150万回に1回以下、血小板が減る紫斑病は100万回に1回程度とされています。麻しんそのものの脳炎が1,000人に1人であることと比べれば、ワクチンの安全性は桁が違います。

打てない人がいる。だから周りが打つ

生ワクチンを受けられない人理由と対応
妊娠中の方生ワクチンは妊娠中に接種できません。接種後は約2か月避妊が必要です。妊娠前に記録を確認しておくのが理想です。
1歳未満の乳児定期接種は1歳から。お母さんからもらった免疫が薄れる生後6か月以降がもっとも無防備な時期です。家族全員の免疫で守ります。
免疫が抑えられている方抗がん剤治療中、ステロイド大量服用中、免疫抑制薬の使用中、造血幹細胞移植後などは接種できません。同居家族と、身の回りで接する人が接種を済ませることが本人の防御になります。
最近、免疫グロブリンや輸血を受けた方ワクチンの効果が落ちるため、一定期間(通常3か月以上)あける必要があります。主治医に確認してください。

2026年のワクチン供給と制度の動き

MRワクチンは2024年秋から製造3社のうち1社(武田薬品工業)が出荷を止めていましたが、2026年5月に出荷再開を発表し、6月から限定出荷が始まっています。他の2社の前倒し出荷で全体としては例年並みの供給が見込まれる一方、地域によって偏りが出ることがあり、厚生労働省は「需要がひっ迫している場合は小児の定期接種を優先する」としています。成人が任意接種を希望するときは、事前に医療機関へ在庫を電話で確かめると無駄足になりません。

また2026年5月には、麻しん・おたふくかぜ・風しんの3種混合(MMR)ワクチンが国内で30年以上ぶりに製造販売承認を受けました。ただし、定期接種にどう組み込むかはこれから議論される段階で、いま接種を考える方には関係のない話です。東京都は2026年5月、麻しん患者と接触した人への「72時間以内の緊急接種」を公費で行う事業を始めており、自治体の対応も動いています。

SECTION 07 重症化しやすい人が家にいるとき

当院は在宅の緩和ケア・難病・精神科・認知症の患者さんを診ています。その立場から、家族に「うつしてはいけない人」がいる場合の考え方をまとめます。

  1. 1高齢の患者さん本人は、多くの場合すでに免疫を持っている1972年10月以前に生まれた世代は、子どものころに麻しんが毎年流行しており、自然にかかって免疫を持つ人が大半です。ただし「確かめる手段」は記録か抗体検査しかありません。本人よりも心配なのは、通ってくる若い家族と、訪問するスタッフです。
  2. 2抗がん剤・免疫抑制薬を使っている人は、周囲の免疫が防波堤になる本人は生ワクチンを打てず、かかれば重症化しやすい。同居家族、頻繁に通う家族、介護・看護で出入りする人の接種歴を確認し、2回受けていない人は接種を検討してください。接種した人から患者さんにうつることは基本的にありません。
  3. 3家族が今回の注意喚起に該当するなら、期限まで「距離」を取る同居していれば完全な隔離は無理です。それでも、期限の日まで介助のときにマスクをする、同じ部屋で長時間過ごさない、体調の変化を毎朝患者さんの前ではなく自分の部屋で確認する、といった小さな工夫は意味があります。熱が出たら、患者さんの主治医にも一報を入れてください。
  4. 4訪問看護・訪問診療は「うつさない側」に責任があるスタッフが感染すれば、免疫のない患者さんの家を回って歩くことになります。医療・介護に携わる人は、厚生労働省と福岡県が2018年から「接種歴・罹患歴を確認し、明らかでなければ接種を」と繰り返し求めている対象です。

当院の視点|「はしかかも」と気づくのは、家族と訪問スタッフ

ふくろう訪問クリニック・ふくろう訪問看護リハビリステーションとして、今回の注意喚起を受けて考えていること

  1. 1「熱・咳・目の充血」の三つが揃ったら、発疹を待たずに麻しんを疑う在宅では発疹が出るまで様子を見がちですが、いちばんうつす時期は発疹の前です。訪問時にこの三つが揃っていれば、訪問の順番を変え、その家を最後に回し、主治医に連絡してから次の家に行く。それだけで次の感染を止められます。
  2. 2患者さんより、患者さんを支える若い家族の接種歴を先に確認する1972年より前に生まれた患者さんは自然感染で免疫を持っていることが多い一方、介護を担う40〜50代の子ども世代は定期接種が1回だけの世代です。「お母さんに何かあったら困る」と思う家族ほど、自分の記録を確かめてほしいと伝えています。
  3. 3抗がん剤治療中の患者さんの家では、出入りする人全員が「防波堤」本人はワクチンを打てません。家族、ヘルパー、看護師、医師。誰かひとりが免疫を持っていなければ、そこが穴になります。家に出入りする人の接種状況を、患者さんのカルテと同じ重さで扱っています。
  4. 4「受診の前に電話」を、家族に言葉で伝えておく症状が出てから探すのでは遅い。訪問診療を受けている家には、当院の連絡先とともに「熱と咳が出たら、まず電話」を紙で渡しています。麻しんに限らず、この一手が待合室の感染を防ぎます。

SECTION 08 場面別・早見表

こんなときどうする
該当する日時に該当路線に乗った9月22日(利用日+21日)まで毎朝、体温・咳・鼻水・目・発疹を確認。無症状なら日常生活は制限なし。
期限までに熱が出た受診の前に電話。公共交通機関を使わない。マスク。母子手帳とお薬手帳を持参。
熱に加えて目の充血・口の中の白い点麻しんの可能性が高い。すぐ電話。発疹が出る前の受診が理想。
乗ったかどうか記憶があいまい「乗ったかもしれない」として同じ対応を。定期券の履歴や交通系ICの利用履歴で確かめられることがある。
今回は該当しないが、接種記録が1回だけ急ぎではないが、今年は流行年。抗体検査か2回目の接種を検討。
母子手帳が見つからない1972年10月2日以降生まれなら「1回以下」の前提で考える。検査か接種を検討。
妊娠中で、心当たりがあるすぐ産科に電話。ワクチンは打てない。抗体検査と、症状が出たときの受診方法を事前に決めておく。
1歳未満の子どもがいる子どもは接種できない。家族全員の記録を確認し、未完了なら接種。心当たりのある家族は期限まで距離を取る。
家族が抗がん剤治療中・免疫抑制薬を使用中本人は接種不可。同居・出入りする人の接種を。心当たりがある人は主治医に一報。
医療・介護・保育・教育の仕事をしている2回の接種記録がなければ接種を(国と県が推奨)。職場の担当者にも報告。
子どもの定期接種(1歳・小学校入学前の年)がまだいま受ける。供給の事情で受けられなかった一部の年齢には期限延長の特例がある。市町村の予防接種担当に確認。
海外渡航を予定している出発前に2回の記録を確認。帰国後2週間は体調に注意。

SECTION 09 よくある質問

同じ電車に乗っていたら、必ずうつっていますか?

いいえ。「同じ時間帯・同じ路線」であって「同じ車両」とは限りませんし、あなたに免疫があれば発症しません。免疫がなく、同じ空間にいた場合に90%以上が発症する、というのが正確な言い方です。だからこそ、自分の接種記録を知っていることが安心につながります。

マスクをしていたので大丈夫ですか?

残念ながら、マスクで麻しんは防げません。空気中を漂う細かい粒子は一般的なマスクを通り抜けます。予防できるのはワクチンだけです。ただし、症状が出た人がマスクをすることには、飛沫を減らす意味があります。

いまからワクチンを打てば、今回の分は防げますか?

接触から72時間を過ぎているので、今回の接触に対する予防効果は期待できません。ただし今年は全国で流行が続いており、次の接触に備える意味では、2回の記録がない人が今から打つ価値は十分あります。潜伏期間中に接種しても、害が増えることはありません。

子どものころに麻しんにかかったと親に言われました。免疫はありますか?

本当に麻しんだったなら、一度かかると生涯免疫が続くとされています。ただ、昔は風しんや突発性発疹など別の発疹の病気と混同されることが多く、記憶だけで「かかった」と判断するのは危険です。記録がなければ抗体検査で確かめるのが確実です。

診断されたら、仕事や学校はどのくらい休みますか?

学校は法律(学校保健安全法)で「解熱した後3日を経過するまで」出席停止と決まっています。仕事には法律上の決まりはありませんが、同じ期間は人にうつす可能性があるので、保健所の指示に従って休んでください。医師には診断後すぐに保健所へ届け出る義務があり、その後の接触者への対応は保健所が行います。

1回しか接種していない世代です。急いで打つべきですか?

今回の接触に該当しないのであれば、急ぐ必要はありませんが、後回しにする理由もありません。1回接種で免疫がつかなかった人が5%前後おり、その人が誰かは検査しなければ分かりません。とくに、医療・介護・保育に携わる人、妊娠を考えている人、乳児や免疫の弱い家族がいる人は、今回を機に記録を確認し、なければ検査か接種を検討してください。

SECTION 10 ご利用・採用のご案内

ふくろう訪問クリニックとふくろう訪問看護リハビリステーションは、福岡市早良区を拠点に、通院が難しくなった方の暮らしを自宅で支えています。今回の注意喚起に関する個別のご相談は、まず保健所へ。すでに訪問診療・訪問看護をご利用の方で、ご家族に心当たりがある場合は、当院・当ステーションにご一報ください。

ふくろう訪問クリニック

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  • 通院が難しい方への定期的な訪問診療と、急な体調変化への往診
  • がんの緩和ケア、神経難病、精神科疾患、認知症の在宅療養
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SECTION 11 参考資料

  1. 福岡県「麻しん(はしか)に注意しましょう」(2026年9月3日更新)https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/mashin20160908.html
  2. 福岡県「【令和8年】麻しん(はしか)の発生に関する県民への注意喚起情報」https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/masinjoukyou.html
  3. 福岡市保健所「日本国内で麻しん(はしか)が発生しています」https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/hokensho/kansensho/kansenshojoho/hashika/masin.html
  4. 福岡市保健所「国内で麻しん(はしか)が発生しています」(患者の来訪・利用施設の公表一覧)https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/hokensho/kansensho/sonota/kokunaimasin.html
  5. FBS福岡放送「はしか患者 西鉄電車や福岡市地下鉄など利用 福岡県と福岡市が注意を呼びかけ」(2026年9月7日)ほか、KBC九州朝日放送・RKB毎日放送の同日報道
  6. 国立健康危機管理研究機構「麻しん(はしか)の発生状況について」(2026年4月20日)https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/20260420-about-situation/index.html
  7. 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所「麻しんの発生に関するリスクアセスメント(2026年第一版)」(2026年3月19日時点)https://id-info.jihs.go.jp/risk-assessment/measles/measles_ra_2026_1.pdf
  8. 国立健康危機管理研究機構「麻疹 発生動向調査」https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/diseases/measles/graph/index.html
  9. 国立健康危機管理研究機構「麻しんQ&A(麻しんワクチンについて)」https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/faq/vaccine/index.html
  10. 国立健康危機管理研究機構「麻しんQ&A(医療機関での麻しんの対応について)」https://id-info.jihs.go.jp/relevant-information/measles/faq/medical-institution/index.html
  11. 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所「保健所における麻しん対策・対応ガイドライン 第三版」(令和8年4月)https://www.mhlw.go.jp/content/001695907.pdf
  12. 厚生労働省「麻しん(はしか)」https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
  13. 厚生労働省「MRワクチン」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/mr/index.html
  14. 厚生労働省「麻しんに関する特定感染症予防指針」(平成31年4月19日改正)https://www.mhlw.go.jp/content/000503060.pdf
  15. 東京都「麻しん患者の接触者へのワクチン緊急接種事業を開始」(2026年5月15日)https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/05/2026051516
  16. 日本感染症学会「麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています」https://www.kansensho.or.jp/jaid_measles_warning/jaid_measles_warning-2.html
  17. 日経メディカル「武田薬品工業のMRワクチン、限定出荷で再開へ」(2026年5月12日)
  18. 当法人の関連記事「福岡で広がる麻しん:背景と気をつけるべきこと」(2025年9月)https://note.com/fukuoka_fukurou/n/nb576b30a92fb

本記事は2026年9月7日時点の行政発表・公的資料に基づいて作成しています。発生状況や注意喚起の内容は日々更新されるため、最新の情報は福岡県・福岡市・保健所の発表をご確認ください。本記事の作成にあたり、企業からの資金提供・便宜供与は受けていません。