はじめに
2025年9月現在、日本では新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)を毎年1回の定期接種として実施しています。2025/26年シーズンに使われるワクチンは、オミクロン系統の変異株の中でもLP.8.1やXECといった株に対応したmRNAワクチンが主流です。65歳以上の高齢者や基礎疾患のある方は引き続き重症化リスクが高いため、年1回のワクチン接種が勧められています。また、年齢や体調に応じていくつかの選択肢があり、どれを選んでも重症化予防効果に大きな差はありません。当院では今シーズンはコスタイベ(明治製菓ファルマ)を採用(小児ではモデルナ)したのでその理由も合わせて解説します。
現在流行している株とワクチンの対応
国際的な感染症学会やWHOは、2025年度の定期接種で使用するワクチンの抗原について「LP.8.1、JN.1、KP.2のいずれかの単価ワクチンまたは2025年5月時点で流行している変異株に対して広範な抗体応答を示した抗原」を推奨していますjsvac.jp。日本感染症学会の見解でも、国内では2025年5月頃からオミクロン株XECが主流になりつつあり、LP.8.1やXECに対応した新しいワクチンが供給されると説明されていますjsvac.jp。厚労省のワクチン分科会で検討された資料でも、第一三共が開発するダイチロナ®筋注の2025/26年版はXEC由来の受容体結合部位(RBD)抗原を採用し、XECおよびLP.8.1株に対して中和抗体を誘導することが示されていますmhlw.go.jp。明治製薬のコスタイベ®筋注用についても同様に、非臨床試験でXECワクチンが世界的な流行株(XEC、MC.1、KP.3.1.1、LF.7.2.1、LP.8.1など)に対して広範な中和抗体を誘導することが確認され、2025/26シーズンはXECワクチンを供給すると報告していますmhlw.go.jp。
ファイザー社とビオンテックの**コミナティ®**シリーズ(12歳以上用・5〜11歳用・6か月〜4歳用)もLP.8.1株対応製剤として2025年8月に製造販売承認を取得しました。このプレスリリースでは、LP.8.1対応ワクチンが過去のJN.1対応ワクチンに比べて現在流行中の変異株(XFG、NB.1.8.1、LF.7など)に対しより高い免疫反応を示した非臨床データが含まれていると述べられていますpfizer.co.jppfizer.co.jp。
このように、2025/26年版ワクチンはLP.8.1やXECなどの最新流行株に対応しており、いずれも交差的な抗体反応が確認されています。そのため、一般の方は基本的に「入手しやすいワクチンを年1回接種する」ことが推奨されます。
主なワクチンと特徴
主要ワクチン4種類の概要を表にまとめました。いずれも1価ワクチン(単一株対応)で追加接種用です。mRNAワクチンは従来株全長のスパイクタンパク質(S全長)をコードするものが多いのに対し、第一三共のダイチロナは受容体結合部位(RBD)のみをコードするmRNAワクチン、明治のコスタイベは自己増幅型mRNA(レプリコン)を用いた新しい技術です。

効果 – 発症予防と重症化予防
ワクチンの発症予防効果は、追加接種から数ヶ月間でおよそ5割前後と報告されています。日本感染症学会の資料では、2024年秋から2025年春にかけて行われた国内多施設共同研究(VERSUS研究)の結果として、JN.1対応ワクチンを接種しなかった人に比べて65歳以上で発症率が約52.5%低下したと述べていますjsvac.jp。同研究では60歳以上の入院予防効果が63.2%であったことから、重症化予防にも有効であることが示されていますjsvac.jp。海外の研究でも、65歳以上を対象としたコホート研究で、ファイザーのLP.8.1対応ワクチンはCOVID‑19入院を70.2%、死亡を76.2%予防したとの報告があり、モデルナ製ではそれぞれ84.9%、95.8%と高い効果が示されていますjsvac.jp。
第一三共のダイチロナについては、XEC由来のRBD抗原を用いた試作製剤がマウス実験でXECおよびLP.8.1に対する中和抗体を誘導したことが示され、XEC対応ワクチンとして今シーズン製造予定であると報告されていますmhlw.go.jpmhlw.go.jp。明治のコスタイベでも、非臨床試験でXECワクチンが多数の変異株に対し強い中和抗体を誘導したことが確認されておりmhlw.go.jp、臨床試験ではJN.1株ワクチン(CSL402)の追加接種でDay29の中和抗体価が15.4倍に上昇したことが報告されていますmhlw.go.jp。このように、国産ワクチンでも免疫原性がmRNAワクチンに劣らないことが示されています。
全体として、各ワクチン間の効果差は大きくなく、接種を受けること自体が感染や重症化を防ぐ重要な手段であると考えられます。特に高齢者や基礎疾患のある方は、定期的な追加接種を行うことで重症化を大きく減らすことが期待されます。
コスタイベの抗体持続性 – 長期免疫の可能性
2024年11月に明治製薬が公表した国内第III相試験の継続解析では、コスタイベ®(ARCT‑154)を追加接種した成人の中和抗体価が従来型mRNAワクチンよりも高く、12か月まで持続したことが報告されましたmeiji-seika-pharma.co.jpmeiji-seika-pharma.co.jp。この試験では、mRNAワクチンを3回以上接種した成人828人を対象に、コスタイベまたはBNT162b2(従来型mRNAワクチン)を無作為に割り付け、接種後1、3、6、12か月に採血して中和抗体価を比較しました。結果は、
- 50歳以上の参加者では、12か月時点のオミクロンBA.4/5株に対する中和抗体価の幾何平均値がBNT162b2群の約2.14倍だったことが報告されましたmixonline.jp。
- 50歳未満では、同じく1.68倍の差がみられましたmixonline.jp。
- 従来型mRNAワクチン群では3か月目から抗体価が低下し始めたのに対し、コスタイベ群では高いレベルを維持し、12か月まで差が広がりましたmeiji-seika-pharma.co.jp。
こうした結果から、自己増幅型mRNAを採用するコスタイベは低用量でも長期間抗原産生が続くことが示されており、従来型mRNAワクチンに比べて抗体持続性に優れる可能性が注目されていますmeiji-seika-pharma.co.jp。しかし、このデータは免疫原性(抗体価)を比較したものであり、発症予防や重症化予防といった臨床効果が1年間持続することを直接示すわけではない点に注意が必要です。また、ウイルスの流行株が変化するため、最新株に対応したワクチンを年1回接種する基本方針は変わりません。コスタイベの長期免疫特性は、年に1回の定期接種をより効果的なものにする可能性があるという位置づけです。
副反応 – 一般的な症状とその頻度
接種後に起こりやすい副反応は、接種部位の痛み、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛、悪寒、発熱などで、数日以内に治まることがほとんどです。ワクチンごとの副反応頻度に若干の差はありますが、重大な差ではありません。以下のグラフは2023〜2025年の追加接種データを基に、発熱が確認された割合をまとめたものです。

発熱の頻度はおおむね20〜40%程度で、モデルナのスパイクバックス®では37〜40%とやや高めですが、ファイザーや国産ワクチンでは15〜22%程度です。副反応には個人差があるため、体調や既往症も踏まえて判断しましょう。
また、重篤な副反応は非常に稀です。例えば岐阜県が公表した副反応疑い報告の状況(2025年8月31日時点)では、特例臨時接種による総接種回数約704万回に対し、副反応疑いの報告は531件(0.0075%)で、そのうち重篤とされたものは158件(0.0022%)、死亡事例は39件(0.0006%)でしたpref.gifu.lg.jp。これらの報告は必ずしもワクチンとの因果関係が確定したものではないことに注意が必要です。心筋炎・心膜炎などの報告はごく稀であり、国産ワクチンでも同様に重大な安全性の懸念は示されていません。
ワクチンの選び方と接種のポイント
対象年齢と利用可能なワクチン
一般に、生後6か月以上であればファイザーまたはモデルナのワクチンを受けられます。5〜11歳の小児にはコミナティ®やダイチロナ®が用いられますが、コスタイベ®は18歳以上が対象です。高齢者や基礎疾患がある方は、どのワクチンを選んでも重症化予防効果に差はないため、入手しやすい製品を年1回接種してください。
副反応の出方を踏まえた選択
副反応をできるだけ抑えたい場合は、モデルナよりもファイザーや国産ワクチン(ダイチロナ、コスタイベ)を選ぶと、発熱や倦怠感などの全身症状が少ない傾向があります。また、自己増幅型mRNAを採用するコスタイベ®は2回接種型から1回接種型へと改良されており、接種回数を減らしたい成人には一案です。とはいえ、副反応の感じ方は個人差が大きく、接種のメリットが副反応のリスクを上回ることが繰り返し示されています。
年1回の定期接種
厚労省やCDCの推奨では、生後6か月以上のすべての人が年1回の定期接種を受け、65歳以上や免疫抑制状態にある人は半年以上の間隔をあけて2回接種することが推奨されています。2025/26年シーズンのワクチンはLP.8.1やXECといった最新株に対応しており、流行株が変化しても一定の交差防御が期待されます。春~夏にワクチンを接種してから冬までに免疫が低下しないよう、スケジュールには余裕を持っておきましょう。
まとめ
2025/26年度の新型コロナワクチンは、いずれも最新のオミクロン株(LP.8.1やXECなど)に対応したmRNAワクチンです。ファイザー、モデルナ、第一三共、明治製薬のワクチンは、どれも発症を約50~60%抑え、重症化を半分以上減らす効果が確認されていますjsvac.jpjsvac.jp。副反応は一過性で重篤なものは極めて少なく、特に高齢者や基礎疾患のある方にとって接種による利益が大きいことが明らかです。
自己増幅型mRNAを用いるコスタイベについては、従来型mRNAワクチンよりも中和抗体価が12か月持続したという試験結果が報告されておりmeiji-seika-pharma.co.jpmixonline.jp、長期免疫の面で期待される特徴があります。ただしこれは免疫原性の指標であり、臨床効果が1年続くことを保証するものではありません。ウイルスの流行株が変化する現状では、年に1回の定期接種を続けることが最も現実的な予防策です。
接種対象年齢や副反応の出方には違いがありますが、基本的には**「接種可能なワクチンを年1回受ける」**ことが重要です。体調に不安がある場合はかかりつけ医に相談し、自分に合ったワクチンを選びましょう。
参考文献
- 日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会 『2025年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解』(2025年9月1日)jsvac.jpjsvac.jp.
- 第一三共株式会社 『ダイチロナ®筋注アップデート抗原製剤のSARS‑CoV‑2流行株に対する薬理評価結果』(2025年5月28日)mhlw.go.jpmhlw.go.jp.
- Meiji Seikaファルマ株式会社 『「コスタイベ®筋注用」2025/26シーズン供給に向けた開発概要』(2025年5月28日)mhlw.go.jpmhlw.go.jp.
- ファイザー株式会社/ビオンテックSE プレスリリース 『ファイザーとビオンテック、新型コロナウイルスオミクロン株JN.1系統LP.8.1株対応COVID‑19ワクチン 製造販売承認を取得』(2025年8月8日)pfizer.co.jppfizer.co.jp.
- 岐阜県感染症対策推進課 『ワクチン副反応』(2025年9月3日更新)pref.gifu.lg.jp.
- Meiji Seika ファルマ株式会社 プレスリリース 『新型コロナウイルス感染症に対する次世代mRNAワクチン(レプリコン)「コスタイベ筋注用」の接種12カ月後の免疫原性に関する比較結果がThe Lancet Infectious Diseases誌に掲載』(2024年11月19日)meiji-seika-pharma.co.jpmeiji-seika-pharma.co.jp.
- MixOnline記事 『Meiji Seika ファルマ コスタイベの免疫原性、接種後12カ月持続 従来のmRNAワクチンよりも』(2024年11月20日)mixonline.jp.