はじめに

注意欠陥/多動性障害(ADHD)は、注意集中の困難や衝動性・多動性によって学習や仕事、家庭生活に支障を来す発達障害です。国内外で診断される人は増えており、治療法として薬物療法と行動療法が組み合わせて用いられます。当院では2025年現在、メチルフェニデート徐放製剤(商品名:コンサータ®)の処方が可能です。ただこの処方薬は一層注意を必要とするお薬です。本稿ではコンサータの導入方法、効果や副作用、治療の見通しについて、お伝えしたいと思います。

コンサータとは何か

コンサータはメチルフェニデートを有効成分とする中枢神経刺激薬で、脳内のドパミンとノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで注意力を改善し、衝動性や多動性を和らげます。一日一回朝に服用する徐放錠のため、学校や仕事中に薬を追加する必要がありません。海外の大規模試験で有効性と安全性が確認されており、わが国でもADHD適正流通管理システムへの登録を条件に処方が許可されています

当院での導入の流れ

コンサータを安全に使用するために、当院では以下のようなステップで導入します。

  1. 診断と評価 – 医師による問診・心理検査でADHDの診断を確認し、他の疾患や生活上の課題を評価します。心疾患や緑内障、重度の不安障害などは禁忌となるため、事前に既往歴と併用薬を詳しくお聞きします
  2. 登録手続き – 日本ではメチルフェニデート系薬剤の乱用防止のため、患者を「ADHD適正流通管理システム」に登録する必要があります。当院でサポートしますので初診時に保険証をご用意ください。
  3. 初期投与 – 通常は18 mg錠1錠から始め、効果と副作用を1~2週間ごとに確認しながら18 mgずつ増量します。多くの児童は54 mgまで、体格の大きい青年や成人は72 mg/日を上限とします。
  4. モニタリング – 投薬初期から定期的な診察を行い、効果(集中力や落ち着きの変化)と副作用(食欲減退、不眠、頭痛、腹痛など)を評価します。児童では身長・体重の伸びを確認し、必要に応じて夏休みなどに休薬日を設けます。成人では血圧や脈拍を測定し、口渇や動悸などの症状をチェックします。
  5. 行動療法との併用 – 薬物だけでなく、保護者や本人への心理教育、行動調整、学習支援を組み合わせて総合的な治療を行います。

効果と改善率

メチルフェニデートはADHD治療薬の中でも有効性が高く、多くの研究で症状改善が報告されています。米国国立精神衛生研究所のMTA研究では、適切な投薬調整により77%の児童が有意な改善を示したと報告されています。他の研究を含めると、およそ70%の児童が心理刺激薬に臨床的に有意な改善を示すとされます。成人に対する大規模試験では、プラセボと比較して中等度の症状改善効果が確認され、約6割の成人患者が反応を示すことが報告されています。

グラフ:改善率の比較

以下の棒グラフは、児童と成人におけるコンサータの臨床的改善率の目安を示します。児童(MTA研究)と児童全般の改善率は70〜77%で、成人は約66%と報告されています。

画像
小児でも成人でも高い改善率を示す
MTAは最適化された用量・密なモニタリングをした時のデータ。実臨床では真ん中に近い。

副作用と注意事項

コンサータは多くの患者に効果を示しますが、副作用にも注意が必要です。成人向けの長期観察では、よく見られる副作用として

  • 食欲減退(約20%)
  • 口渇(約15%)
  • 動悸・心拍数増加(約13%)
  • 軽度の消化器感染症(約10%)
  • 落ち着きのなさや不安感(約10%)

が報告されています。多くは軽度で一過性ですが、症状が強い場合は主治医に相談し、投与量の調整や中止を検討します。

児童の場合は食欲不振による体重増加不良や身長伸びの鈍化が問題となることがあります。2002年の薬剤情報によると、食欲低下や吐き気が成長を阻害する可能性があるため、身長・体重を定期的に測定し、必要に応じて休薬期間を設けるべきとされています。また、メチルフェニデートはまれに痙攣閾値を下げることがあるため、既往にてんかんがある方には慎重に投与するか他剤を選択します。

グラフ:成人における主な副作用の頻度

次のグラフは成人を対象とした研究から得られた、主な副作用の頻度を示したものです。個人差がありますが、減量や休薬で多くは改善します。

画像
副作用も1〜2割に起こることは知っておくべき事項

回復の見込みと治療期間

ADHDは神経発達症の一つであり、症状は成長に伴って軽減することもあれば、成人まで持続する場合もあります。最新の長期追跡研究(MTA研究のフォローアップ)では、約9.1%の患者が長期にわたって完全寛解(症状が持続的に消失)した一方、10.8%は症状が持続し、63.8%は寛解と再発を繰り返す波のある経過を示したと報告されています。このことから、コンサータ服用中に症状が改善したとしても、薬を急にやめると再発することが多く、主治医と相談しながら徐々に減量する必要があります。特に児童の場合は思春期に脳の成熟や環境の変化により薬を減らせることもありますが、成人では継続的な服薬が必要なケースが多いと言えます。

グラフ:ADHD患者の長期経過

以下のグラフは、長期追跡研究で報告されたADHDの経過分類を示します。寛解と増悪を繰り返す例が多いことがわかります。

画像
完全に薬をやめても症状が消失するのは1割程度。
薬を継続することで生活が安定する人の方が圧倒的に多い。

当院からのメッセージ

コンサータはADHD症状を和らげ、学業や仕事・日常生活の質を向上させる有力な治療薬です。当院では専門医が個々の症状や体質に合わせて用量を調整し、行動療法や心理教育と併用することで安全かつ効果的な治療を目指しています。薬の効果と副作用は人によって異なり、適切なモニタリングが不可欠です。気になる症状や疑問があれば遠慮なくご相談ください。

参考文献

  1. Marcia L. Buck. “Methylphenidate: New Information and New Options”. Pediatric Pharmacotherapy 8(2), 2002. MTA研究のデータを紹介し、77%の児童がメチルフェニデートに好反応し、10〜50 mg/日が適切な用量であることを報告している。
  2. Marcia L. Buck. 同上資料。食欲抑制による体重増加不良や成長抑制の可能性があるため、身長・体重を定期的に測定すべきと述べる。また、てんかん発作のリスクがある患者では注意が必要である。
  3. Rafał R. Jaeschke ら. “Methylphenidate for attention‑deficit/hyperactivity disorder in adults: a narrative review”. Psychopharmacology 238(10), 2021. 成人に対するメチルフェニデートの有効性と安全性を検討し、主な副作用として食欲減退(約20%)、口渇(15%)、動悸(13%)、消化器感染症(10%)、落ち着きのなさ(10%)が挙げられている。
  4. Natalie Grizenko ら. “Efficacy of methylphenidate in children with attention‑deficit hyperactivity disorder and learning disabilities: a randomized crossover trial”. Journal of Psychiatry & Neuroscience 31(1), 2006. 精神刺激薬による臨床的有意な改善は児童の約70%に留まることを報告している。
  5. Defense Health Agency. “A New Study Examines the Prevalence and Course of ADHD among Children”, 2023. MTA研究の長期追跡結果を紹介し、約9.1%が持続的寛解、10.8%が症状持続、63.8%が寛解と再発を繰り返すと報告している。