この記事の要点

① 2026年7月3日、厚生労働省が「地域医療構想策定ガイドライン」を公表しました。2040年頃の日本を見据えて、これまで「病院のベッドの数」が中心だった地域医療の計画が、外来・在宅医療・介護・人材確保まで含めた地域全体の設計図へと作り替えられます。

② 病床の区分は「回復期」が「包括期」に生まれ変わり、病院には「うちはこの役割を担います」という機能の名札がつきます。各都道府県は2028年度までに新しい構想をつくります。

③ 在宅医療は今回、はじめて構想の“本体”に組み込まれました。ただし方向性は「在宅を増やせ」ではなく、療養病床・在宅医療・介護施設を組み合わせて地域全体で慢性期を支えるという考え方です。この記事では在宅の部分をとくに詳しく解説します。

SECTION 012026年7月、静かに公表された「地域の医療の設計図」

2026年7月3日、厚生労働省が「地域医療構想策定ガイドライン」を公表しました。ニュースで大きく報じられたわけではありません。けれども、この文書は、これから十数年のあいだに「あなたが住んでいる地域で、どの病院がどんな役割を担い、具合が悪くなったときにどこへ行くことになるのか」を決めていくための、いわば設計図の描き方を示したものです。

そもそも「地域医療構想」とは何でしょうか。2014年の法改正で始まった仕組みで、都道府県が地域ごとに「将来これくらいの入院ベッドが必要になる」と見積もり、病院どうしで話し合いながら役割を分けていく、というものでした。ターゲットは、団塊の世代が全員75歳以上になる2025年。その2025年が過ぎた今、次の目標年として設定されたのが2040年です。

2040年の日本はどうなっているのか。厚労省の資料を並べると、輪郭ははっきりしています。85歳以上の高齢者が増え続け、支える側の現役世代(生産年齢人口)は減っていく。手術を必要とするような急性期の医療の需要は多くの地域で減る一方、高齢者の救急搬送と在宅医療の需要は増える。亡くなる方の数は2040年ごろにピークを迎え、年間およそ170万人に達すると見込まれています。

つまり、医療の「量」ではなく「中身」が変わる。それに合わせて地域の医療の形を組み替えないと、必要なときに必要な医療が受けられなくなる——それが今回の構想の出発点です。

地域医療構想の守備範囲は、こう広がる これまで(2025年に向けた構想) 入院(病床の機能分化) ベッドの数と種類が議論の中心 外来・在宅・介護は それぞれ別の計画で扱われていた 目標年:2025年 これから(2040年に向けた構想) 入院医療 外来医療 在宅医療 介護との連携 人材確保(医師・看護職員など) 目標年:2040年とその先 医療計画の「上位概念」として位置づけ直される

図1/新しい地域医療構想は、入院だけでなく外来・在宅医療・介護との連携・人材確保までを一体で扱う「地域の医療提供体制全体の設計図」になります。(厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン」2026年7月3日をもとに作成)

SECTION 02いつ、何が決まるのか スケジュールを押さえる

「2040年の話」と聞くと遠い先のことに思えますが、実際に地域の姿が決まるのはこれから2年半ほどのあいだです。ここが今回いちばん重要な点かもしれません。

改正医療法(令和7年法律第87号)により、都道府県は2028年度までに新しい地域医療構想をつくることとされています。ガイドラインは、その手順をこう示しています。まず2026年度から2027年度の上半期ごろまでに、人口や医療の需要のデータを分析し、話し合いの単位である「構想区域」を点検・見直す。そのうえで2028年度までに、どの病院がどの役割を担うのかを具体的な病院名まで含めて決める——という流れです。

2040年までの道のり 2024年3月 「新たな地域医療構想等に関する検討会」設置。議論がはじまる 2025年 改正医療法(令和7年法律第87号)が成立。制度の枠組みが法律に 2026年3月 「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」を社会保障審議会医療部会が承認 2026年7月3日 地域医療構想策定ガイドラインを公表 ← いまここ 2026年度〜 2027年度上半期 データにもとづく分析・課題の整理 話し合いの単位(構想区域)の点検・見直し 2028年度まで 新しい地域医療構想を策定 2040年に各病院が担う機能・必要病床数・在宅や介護の取組を決める 2029年度ごろ 第9次医療計画を策定(構想を実行する具体的な計画) 2035年ごろ 役割分担について一定の成果を確保 → そして2040年へ ※必要病床数は2030年・2036年に見直しが予定されています(医療計画の見直しに合わせて)

図2/新しい構想が形になるのは2028年度まで。つまり、いま地域で行われている話し合いが、2040年の医療の姿を決めていきます。

住民が関われる仕組みも書き込まれました。ガイドラインは、都道府県に対して、話し合いの内容を段階ごとに公表すること、パブリックコメントを実施するなどして住民の意見を十分に把握するよう努めること、話し合いの場に住民の意見を反映できる人を参加させることを求めています。「気づいたら病院がなくなっていた」とならないための仕掛けです。
SECTION 03「回復期」が「包括期」になる ベッドの区分の作り直し

これまで入院ベッドは、医療の濃さに応じて高度急性期・急性期・回復期・慢性期の4つに分けられてきました。今回、このうち「回復期」が「包括期(ほうかつき)」という新しい名前と中身に変わります。

単なる名称変更ではありません。従来の回復期(骨折や脳卒中のあとのリハビリなど)に加えて、「高齢者の急な体調悪化を受け入れ、治療しながら入院早期からリハビリを行い、早く自宅や施設に戻す」という役割が正面から加えられました。ガイドラインの言葉を借りれば「治し支える医療」です。

背景にあるのは、高齢者の入院の実態です。誤嚥性肺炎や心不全のように、手術は必要ないけれど入院は必要、という患者さんが増えています。しかも入院しているあいだに体力や生活動作の力(ADL)が落ちて、家に帰りづらくなる。だからこそ、受け入れたその日からリハビリ・栄養・口の管理をはじめ、退院の段取りを組む病棟が要る、という発想です。

入院ベッドの4区分 ―「回復期」から「包括期」へ これまで これから 高度急性期 高度急性期 急性期 急性期 回復期 骨折・脳卒中のあとの 集中的なリハビリなど 包括期【新設】 従来の回復期 + 高齢者の急性期患者を受け入れ、 早期からのリハビリで在宅復帰につなげる「治し支える医療」 慢性期 慢性期 ・高度急性期と急性期は、地域の話し合いでは「合計した数」で扱うことになりました(病棟ごとの線引きが難しいため) ・75歳以上で急性期に分類されてきた患者さんのうち、およそ半数は「包括期」の需要として見込みます

図3/新しい区分では「包括期」が高齢者医療の受け皿として位置づけられます。(厚生労働省「地域医療構想策定ガイドライン」より)

ことば解説:必要病床数 「2040年にこの地域ではこれくらいのベッドが要る」と計算した推計値です。実際の病院のベッド数(病床機能報告)とは計算のしかたが違うため、単純に引き算して「余っている・足りない」と判断してはいけない、とガイドラインはくり返し注意しています。日本医師会も「2040年という遠い未来を予測するために統計に基づいて導出された推計値にすぎない」として、実態を無視した運用をしないよう求めてきました。

もうひとつ、細かいけれど実務に効く変更があります。必要病床数を計算するときの「ベッドの稼働率」の前提です。これまでは高度急性期75%・急性期78%・回復期90%・慢性期92%という数字が使われていました。「急性期78%では病院の経営が成り立たない」「新興感染症に備えるゆとりも要る」といった指摘を受けて、高度急性期78%・急性期83%・包括期87%・慢性期92%に改められました(さらに医療DXなどによる効率化分として高度急性期・急性期は+1%、包括期+2%、慢性期+0.5%を上乗せ)。数字が上がるということは、同じ患者数ならば必要なベッドは少なく計算される、ということです。

SECTION 04病院に「機能の名札」がつく 5つの医療機関機能

今回の構想でいちばん大きな新機軸が、「医療機関機能報告」です。これまでは病棟ごとに「うちのこの病棟は急性期です」と報告する仕組みでした。これに加えて、病院そのものが「地域のなかでどの役割を担うのか」を都道府県に報告することになります。

用意された名札は5種類です。

5つの「医療機関機能」 ① 急性期拠点機能 手術や救急など、医療資源を多く必要とする医療を 集約して引き受ける、地域の中核となる病院 災害医療・新興感染症への対応、研修医の教育、 他の病院への医師派遣なども担う ② 高齢者救急・地域急性期機能 高齢者を中心とした救急を受け入れ、入院早期から リハビリと退院調整を行って早く生活の場へ戻す 介護施設の協力医療機関としての役割も期待される 住民にいちばん近い「地域の急性期」 ③ 在宅医療等連携機能 地域で在宅医療を行う。あるいは、在宅を担う診療所や 訪問看護・介護と連携して24時間の対応と入院を支える 急変時の入院先(バックベッド)の確保、 夜間・休日の往診の補完など ④ 専門等機能 集中的なリハビリテーション、中長期にわたる入院医療、 有床診療所の地域に根ざした診療、特定の診療科に 特化した診療など 有床診療所は基本的にこの機能を選択する ⑤ 医育及び広域診療機能(大学病院本院が担う) 医師の派遣、卒前・卒後教育、小児がんや移植医療など症例数の少ない医療を広域で担う 大学病院本院は、地域ごとの機能ではなく、この⑤のみを報告する 組み合わせのルール ・①急性期拠点機能 と ②高齢者救急・地域急性期機能 を、ひとつの病院が同時に報告することはできません ・③在宅医療等連携機能は、①や②を担う病院が併せて報告することができます(在宅も支えている場合)

図4/病院は「現在どの機能に近いか」と「2040年にどの機能を担うか」を毎年報告します。2028年度までに、地域の話し合いを経て2040年の役割が決まります。

①と②を同時に選べない、というのが今回の設計の肝です。「手術と重症救急を集約する病院」と「高齢者救急を面で受け止める病院」を地域のなかで分ける。そうしないと、どちらの機能も中途半端になり、当直も緊急手術も回らなくなる——という危機感が背景にあります。

もうひとつ大切なのは、「◯◯という診療報酬を届け出ているから、この機能」という機械的な決め方はしないとガイドラインが明記していることです。入院料の届出は目安にすぎず、実際の診療の中身、地域での役割、医師の確保の見通し、さらには病院の経営状況や建物の老朽化まで含めて総合的に話し合うこととされました。築年数が浅いというだけで拠点に選ぶのも適切ではない、とも書かれています。

SECTION 05話し合いの単位と、急性期拠点の「20万〜30万人に1か所」

地域医療構想の議論は「構想区域」という単位で行われます。原則として二次医療圏と一致させて運用されてきましたが、現在、二次医療圏の半数近くが人口20万人以下。人口減少が進むなかで、そうした地域で入院医療を区域内だけで完結させるのは難しくなっています。そこで今回、構想区域そのものを見直す(隣の区域と統合する、市町村単位で再編する等)ことが求められました。

そして、もっとも具体的な数値目標が、急性期拠点機能を担う病院の数です。

急性期拠点機能を担う病院は、いくつ確保するのか 人口の少ない地域 1か所 区域内に一つ確保・維持する 区域内で完結が難しい場合は、 隣の区域と合わせて一つ確保する ことも検討する 県境をまたぐ連携も想定 地方都市型・大都市型 20〜30万人 につき1か所程度 2040年の推計人口をもとに算出 ただし、手術件数が少ない・ 減る見込みなら、目安より 少ない数での確保を検討する 人口100万人超の区域 目安をそのまま 当てはめない 高度な機能をもつ病院が複数あり、 個別性が高いため 一定の総合性を有する病院に 限って設定する 診療実績の順位だけで機械的に決めることは「適切ではない」とされています

図5/急性期拠点機能の数の考え方。あくまで目安であり、患者さんの流出入や医師の確保見通しを含めて地域で総合的に決めます。

参考までに、当院のある福岡・糸島構想区域(福岡市と糸島市)は人口160万人規模の大都市型です。九州大学病院・福岡大学病院をはじめ高機能病院が集まり、周辺の区域や九州各地から患者さんが集まってくる地域でもあります。図5でいえば右端の「個別性が高い区域」に当たり、20〜30万人に1か所という目安をそのまま当てはめる地域ではありません。一方で、急性期の病床が多く回復期(新しい区分では包括期)が不足しているという指摘は以前からあり、大きな区域をどう分けるか、あるいは区域内をいくつかのまとまりに分けて議論するかが、これからの論点になっていきます。

SECTION 06外来医療 「近所のクリニック」をどう残すか

外来については、これまで医療計画の一部として扱われてきましたが、今回、構想の協議事項に正式に入りました。課題として挙げられているのは、診療所の医師の高齢化による閉院、小児科や産婦人科の維持の困難、休日・夜間の初期救急体制の確保、そして通院そのものの難しさです。

対策として書き込まれたのは、地域の医師会と連携した輪番体制や、病院がかかりつけ医機能の一部を補うこと。そして通院手段の確保です。具体例として、対面診療を基本としたオンライン診療の活用、過疎地域での送迎支援、へき地の巡回診療、公共交通の確保が挙げられ、都道府県の地域交通担当部局や都市計画担当部局と連携することまで求められています。医療の話に「バスの路線」や「まちづくり計画」が出てくるのは、今回のガイドラインの特徴のひとつです。

もうひとつ、医科・歯科・薬局が連携する「医歯薬連携」も明記されました。口の機能が落ちてきた方を歯科につなぐ、服薬情報や重複投薬・多剤投与の状況を共有する、といった取組です。これらについては「新たな地域医療構想の方向性に関わらず速やかに進めることが重要」と、めずらしく前のめりな書き方がされています。

HOME MEDICAL CARE / 在宅診療の視点から SECTION 07 在宅医療は「増やす」のではなく「組み合わせる」
——ここを一段深く読む

ここからは、当院が日々関わっている在宅医療の部分を掘り下げます。今回のガイドラインで在宅医療がどう位置づけられたのかは、患者さんとご家族の生活に直接ひびく話です。

7-1 まず、数字で現在地を確かめる

在宅医療の需要がこれから増えることは、はっきりしています。厚生労働省の推計では、2020年から2040年にかけて、75歳以上の訪問診療の需要は43%増、そのうち85歳以上に限れば62%増。同じ期間に85歳以上の救急搬送は75%増える見込みです。全国の二次医療圏のうち237の圏域では、在宅患者数のピークが2040年以降にやってきます。

2020年 → 2040年 どれくらい増えるのか 2020年の水準 75歳以上の 訪問診療の需要 +43% 85歳以上の 訪問診療の需要 +62% 85歳以上の 救急搬送 +75% 亡くなる方の数は2040年ごろにピークを迎え、年間およそ170万人と見込まれています

図6/在宅医療の需要と高齢者救急は、いずれも大きく伸びます。(厚生労働省 医政局地域医療計画課の推計をもとに作成)

ところが、支える側は増えません。在宅医療は、医師や看護師が患者さんの家まで移動して行う医療です。ガイドラインはこの点をはっきり指摘しています——医療従事者が減っていくなかで、人口密度の低い地域ではとくに提供が難しくなる、と。需要は増え、担い手は減る。この二つの線が交差するところに、今回の政策の悩みがあります。

7-2 いちばん大事な発想の転換:「全部を在宅で受け止めるわけではない」

ここが、今回のガイドラインを読むうえで最も重要な一文だと感じました。

増える在宅医療の需要について、そのすべてを在宅医療で受け止めるものではなく、広く「慢性期の医療需要」としてとらえ、療養病床のほか、介護医療院、介護老人保健施設、特別養護老人ホームといった介護保険施設を含む地域の既存資源を組み合わせて対応していくことが必要である。(ガイドラインの記述を要約)

これは「在宅医療をたくさん増やしましょう」という掛け声とは、かなり違う方向を向いています。慢性期の医療が必要な方を支える受け皿は「療養病床」「在宅医療」「介護保険施設」の3つあり、地域によって、どこが厚くてどこが薄いかが違う。だから、その地域にすでにあるものを見てから配分を考えなさい、というのです。

慢性期の医療ニーズを、地域の3つの資源を組み合わせて支える 慢性期の医療ニーズ 医療と介護の両方が必要な高齢者が増えていく 療養病床 長期の療養が必要な方の 入院ベッド 多疾病をあわせもつ方の 中長期の入院医療は 「専門等機能」が担う 在宅医療 訪問診療・往診・訪問看護 訪問リハ・訪問歯科・訪問薬剤 診療所が中心。足りない地域は 病院が「在宅医療等連携機能」 として支える 介護保険施設 介護医療院・介護老人保健施設 特別養護老人ホーム 地方や人口の少ない地域では、 施設入所が訪問診療の必要量を 補っている場合が多い 「単純に在宅医療の提供量を増やすことだけを目指すのではない」——ガイドラインの基本姿勢

図7/慢性期を支える3つの受け皿。地域ごとに厚みが違うため、まず現状を把握したうえで組み合わせを考えます。

患者さんやご家族の立場に置きかえると、こういうことになります。「最期まで家で」という希望も、「施設で穏やかに」という選択も、どちらも地域の医療のなかに正式に位置づけられている。在宅か施設か入院か、を対立させるのではなく、その時々の状態と、ご本人・ご家族の生活に合う場所を選び直していける——そういう体制をつくろう、という方向です。

7-3 「在宅医療等連携機能」という新しい役割

5つの医療機関機能のうち、在宅に直接関わるのが③の在宅医療等連携機能です。これは主に病院が担うことを想定した機能で、地域によって求められる中身が変わります。ガイドラインが例示しているのは、次のような役割です。

  • バックベッドの確保——在宅で療養している方が急に悪くなり、入院が必要になったときの受け入れ先になる
  • 夜間・休日の往診の補完——診療所だけでは対応が難しいときに、病院が代わりに往診に出る
  • 自ら訪問診療を行う——診療所が少ない地域、あるいは小児や医療的ケア児など専門性の高い在宅医療について
  • 訪問看護との連携——自院で訪問看護を提供する、あるいは訪問看護ステーションを技術的に支援する
  • 定期的なカンファレンスの開催——連携する診療所と患者さんの情報を共有し、夜間・休日の連携体制をつくる

ここで注意したいのは、ガイドラインが釘を刺している点です。「在宅療養中の患者の緊急入院を受け入れうる医療機関がすべてこの機能を報告することは、趣旨にそぐわない」。つまり、「うちも一応受けますよ」という病院が全部手を挙げても意味がなく、その地域で在宅を実際に支える役割を引き受ける病院はどこかをはっきりさせることが目的だ、ということです。

7-4 24時間をどう地域でつくるか

在宅医療でご家族がいちばん不安に感じるのは、「夜中や日曜に容態が変わったらどうすればいいのか」でしょう。ガイドラインは、この24時間体制を一つの診療所の頑張りではなく、地域の仕組みとしてつくるという考え方を示しました。

夜間・休日の急変を、地域で受け止めるかたち ご自宅・施設 療養している患者さん 在宅医療を担う診療所 ・定期的な訪問診療 ・電話相談への対応 ・急変時の初期対応、往診 まずはここが動くのが基本 在宅医療等連携機能の病院 ・入院が必要なときの受け皿 ・診療所が動けない時の往診 ・訪問看護の提供・支援 診療所を後ろから支える 平時からの情報共有(ICTの活用・定期的なカンファレンス)が土台になる 生活を支える多職種のチーム 訪問看護 訪問リハビリ 訪問歯科診療 訪問薬剤管理指導 訪問栄養指導 訪問介護などの介護サービス 通所リハビリテーション ケアマネジャー・居宅介護支援事業所 退院するときは、退院の「前から」多職種で調整し、帰ったその日から支援が途切れないようにする ——ガイドラインが繰り返し強調しているポイントです

図8/急変時はまず在宅を担う診療所が初期対応し、入院が必要なら在宅医療等連携機能を担う病院が受ける。平時からの情報共有がその土台になります。

7-5 効率化の道具として名指しされた3つ

担い手が減るなかで在宅医療を続けるために、ガイドラインは具体的な手段を挙げています。

手段どういうものか患者さんにとっての意味
ICTによる情報共有在宅を支える医療機関・訪問看護・薬局・介護事業所が、平時から患者さんの情報を共有しておく仕組み夜間・休日に当番の医師が替わっても、経過を一から説明しなくて済む
D to P with N を含む
オンライン診療
看護師が患者さんのそばにいる状態で、医師がオンラインで診察する形。対面診療が基本であることが前提状態が安定している時期は訪問の頻度を調整でき、必要な医療は続けられる
遠隔モニタリング血圧・体温・酸素飽和度などを離れた場所から継続的に把握する急変のリスクがある方の変化に早く気づき、往診や訪問看護につなげられる
誤解しないでいただきたいこと。オンライン診療は「訪問診療の代わり」ではありません。ガイドラインも脚注で、オンライン診療は「かかりつけの医師」が行うことが基本で、対面診療と適切に組み合わせて行うべきこと、急変などでオンラインが適切でない状況になった場合にも患者さんの安全が確保されるよう医療機関が体制を確保しなければならないことを、あらためて確認しています。当院でも、実際にお会いして診ることを土台に、その補完として位置づけています。
7-6 施設で暮らしている方への医療も、構想に入った

今回はじめて明確に書き込まれたのが、高齢者施設に入所している方が、必要なときに医療を受けられる体制です。背景には、老人ホームからの救急搬送が2021年の約45万件(救急搬送全体の8.2%)から2040年には約67万件へ増える見込み、という推計があります。

2024年度の介護報酬改定で、介護保険施設などには「協力医療機関」を定めることが義務づけられました。求められている体制は次の3つです。

  • 入所者の容態が急変した場合などに、医師または看護職員が相談に応じる体制を常時確保していること
  • 診療の求めがあった場合に、診療を行う体制を常時確保していること
  • 入院が必要と認められた入所者の入院を、原則として受け入れる体制を確保していること(これは病院のみ)

ガイドラインはさらに、施設と医療機関のあいだで「どういう状態変化が起きたら相談するのか」「受診と搬送のルールをどうするか」を平時から整理しておくこと、対面やオンラインでの定期的な会議やICTによる連携を広げていくことを求めています。そして入院しても、状態が落ち着いたら元の施設に戻れるように——退院後の再入所まで見据えた連携も重要だとしています。

7-7 早く退院するために、介護施設を「退院先」として使う

高齢者救急が増えると、病院のベッドが埋まります。そこでガイドラインが示したのが、介護老人保健施設や介護医療院を退院先として活用するという道筋です。

高齢の方は、治療が一段落しても、すぐに自宅の生活に戻るのが難しいことが少なくありません。かといって、急性期や包括期の病棟に入院し続ける必要があるとも限らない。介護老人保健施設はリハビリを提供して在宅復帰を支える施設ですし、介護医療院は医療が必要な要介護の方の長期療養・生活の場です。こうした施設の機能を病院側がよく理解して、退院時の情報連携を丁寧に行うことで、早い退院につなげられる——という考え方です。

ガイドラインは、地域で具体的に進めることとして次のような例を挙げています。
・介護保険施設の医療提供やリハビリの機能について、地域の関係者が理解を深める場をつくる
・入院中の患者さんの状態像と、施設側が受け入れられる状態(たとえば酸素療法が実施可能かどうかなど)を整理して地域で共有する
・退院時の連携の実例を、具体的なタイムスケジュールや情報のやりとりの中身まで含めて地域で共有する
7-8 在宅で療養する方とご家族にとって、何が変わるのか
場面これから期待されること
訪問診療をお願いするとき診療所が中心であることは変わりません。ただし診療所が少ない地域では、病院が在宅医療を担うケースが増えていきます
夜間・休日の急変まずかかりつけの在宅医が対応。入院が必要なときの受け入れ先が、地域のなかであらかじめ決まっている状態を目指します
入院したあと入院した日から退院の準備が始まります。退院前に、訪問診療・訪問看護・介護のメンバーが顔をそろえて段取りを組むのが標準になっていきます
施設に入っているとき協力医療機関が決まり、相談・受診・搬送のルールが整理されます。入院してもまた戻れるように、という前提での連携が求められます
看取りのとき骨太の方針2026にも「看取りなど人生の最終段階における患者中心の適切な医療・ケア」が明記されました。どこで、どのように過ごしたいかを話し合っておくこと(ACP)の重みが増します

最後に、在宅医療に長く関わってきた立場から、正直に感じることを書いておきます。今回のガイドラインは、在宅医療をはじめて構想の本体に据えたという点で、大きな前進だと思います。同時に、書かれていることの多くは「地域で話し合って決めてください」という形になっています。誰が話し合いに参加するかによって、その地域の在宅医療の形は変わる。だからこそ、実際に訪問している診療所・訪問看護ステーション・薬局・歯科・ケアマネジャーの声が、都道府県や市町村の会議に届くかどうかが、これからの数年でとても重要になります。

SECTION 08骨太の方針2026は、この構想をどう位置づけたか

2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針2026)は、副題を「『責任ある積極財政』元年」としています。この文書のなかで、地域医療構想はこう位置づけられました。

2040年に向けて、病床数の適正化を着実に実施した上で、2027年度以降の地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を促進するとともに、地域包括ケアシステムの深化を図り、地域の実情に応じた質の高い効率的な医療・介護サービス提供体制を構築する。(骨太の方針2026より要約。「連携・再編・集約化」には、有床診療所も含めた医療機関の役割分担の明確化を図ることが含まれると注記されています)

あわせて、救急医療体制の確保、看取りなど人生の最終段階における患者中心の適切な医療・ケア、精神医療に関する地域医療構想を踏まえた取組、訪問看護の適切な実施を推進すると明記されました。在宅医療と終末期のケアが、国の経済財政の基本方針に名前入りで書き込まれているわけです。

さらに、「新たな地域医療構想の下、将来需要を踏まえ、老朽化・災害対策を含む地域に不可欠な施設・設備の計画的な整備への必要な支援の在り方を検討する」との記述もあります。病院の建て替え費用をどう支えるかは、どの病院が拠点機能を担うかという議論と表裏一体です。

負担の話も同時に動いています。骨太の方針2026には、70歳以上の高齢者の医療費窓口負担割合について、低所得の方の必要な受診が確保されるよう配慮することを前提としつつ、原則3割の現役世代とのあいだで「年齢によらない真に公平な応能負担」を実現する観点から見直しを行い、そのための改革工程表を2026年末までに策定すると書かれています。介護保険の2割負担の判断基準の見直しについても、2026年度中に結論を得るとされています。提供体制の話と負担の話は、同じ時期に並行して進んでいることを知っておいてください。
SECTION 09立場別・これから何を見ておけばいいか
立場これからの数年で見ておきたいこと
患者さん・ご家族お住まいの都道府県のウェブサイトで「地域医療構想」のページを確認してみてください。話し合いの資料やパブリックコメントの募集が公表されます。かかりつけの病院がどの機能を担うかは、2028年度までに決まります
在宅で療養中の方急変したときの連絡先と入院先が決まっているかを、あらためて確認しておきましょう。ケアマネジャーや訪問看護師と、どこまで話が共有されているかも大事です
診療所・かかりつけ医在宅医療等連携機能を担う病院がどこになるか、休日・夜間の輪番や後方支援をどう組むかが議論の的になります。かかりつけ医機能報告の協議の場と一体で運用される可能性があります
病院2026年度から医療機関機能報告が動きます。「現在担っている機能に近いもの」と「2040年に担う機能」を自ら検討して報告し、地域の話し合いを経て2028年度までに決定します
訪問看護・介護事業所慢性期の受け皿をどう組み合わせるかの議論に、現場の実態を届けることが重要です。協力医療機関の確保や、受診・搬送のルールづくりも協議事項です
自治体市町村は病院の開設者、介護保険の実施主体、そして住民に最も近い立場として参加が求められます。都道府県には、医療部局だけでなく介護・薬務・地域交通・都市計画の各部局との連携体制づくりが求められています
SECTION 10よくあるご質問

Q1 結局、近くの病院がなくなるということですか?

そうとは限りません。厚生労働省は「地域医療構想は、病床の削減や医療機関の統廃合ありきではなく、地域での自主的な協議を踏まえて取り組むもの」と明記しています。ただし、手術や重症の救急を集約する方向であることは事実です。集約された場合でも、その病院は高齢者救急を受け止める役割など、地域で必要な役割を担うことが求められます。また、集約によって通院や搬送が難しくなる地域については、送迎支援や巡回診療、公共交通の確保をあわせて検討することとされています。

Q2 「包括期」のベッドが増えると、何が変わりますか?

高齢の方が誤嚥性肺炎や心不全などで入院したとき、治療と並行して入院早期からリハビリ・栄養管理・口腔管理を受け、早く生活の場に戻ることを目指す病棟が増えていくことになります。「治すだけ」でも「寝かせておくだけ」でもなく、生活に戻す視点をもった入院医療が増える、とお考えください。

Q3 在宅医療をやっている診療所が減ってしまうのではないですか?

診療所の医師の高齢化や閉院は、ガイドラインでも課題として明記されています。だからこそ、これまで在宅を担ってきた医療機関だけでは維持が難しい地域では、病院が新たに在宅医療を担うことや、在宅医療の後方支援を担うことが求められました。地域全体として必要な在宅医療を提供できる体制を確保する、というのが基本的な考え方です。

Q4 精神科の医療はどうなりますか?

改正医療法により、地域医療構想に精神医療が位置づけられることになりました。ただし今回のガイドラインには精神医療の具体的な中身は含まれておらず、専門のワーキンググループで検討が進められ、2026年度中を目途に結論を得るとされています。精神医療についてのガイドラインが出てから、地域での取組が検討されることになります。

Q5 必要病床数が今のベッド数より多い/少ないと、すぐに増減するのですか?

しません。必要病床数と、病院が報告するベッド数は計算方法が違うため、単純に比較して過不足を判断するのは適切でない、とガイドラインは明記しています。実際の診療の実態や病床の稼働状況を踏まえて、地域で議論することとされています。一方で、増床の申請については、地域医療構想の達成のために必要ないと認められる場合に都道府県知事が許可しないことができる、という仕組みが改正医療法で新設されました。

Q6 私たちが意見を言う機会はありますか?

あります。ガイドラインは、都道府県に対して、検討内容や方向性を整理した案を住民も含め広く共有できる形で公表すること、パブリックコメントの実施等により住民の意見を十分に把握できるよう検討を進めることを求めています。また、都道府県の会議に住民の意見を反映させられる人を参加させることも重要だとしています。お住まいの自治体の医療計画・地域医療構想のページを、ときどき見てみてください。

在宅での療養を考えている方へ

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区を拠点に訪問診療を行っています。緩和ケア、難病、精神科、認知症を専門領域とし、法人内の訪問看護リハビリステーションと連携しながら、24時間の連絡体制で在宅療養を支えています。

「退院を勧められたが、家で診てもらえるだろうか」「通院が難しくなってきた」「施設に入っているが、体調の変化にどう備えればよいか」——こうしたご相談を、ご本人・ご家族・ケアマネジャー・病院の連携室のいずれからでもお受けしています。まずはお気軽にお問い合わせください。

この記事は、2026年8月時点で公表されている法令・通知・公的資料にもとづいて作成した一般向けの解説です。地域医療構想の内容は都道府県ごとの協議によって決まるため、実際の取組はお住まいの地域によって異なります。また、制度は今後見直される可能性があります。個別の医療については、かかりつけの医療機関にご相談ください。

参考にした資料

  1. 厚生労働省医政局「地域医療構想策定ガイドライン」2026年7月3日公表(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001718620.pdf)
  2. 厚生労働省「2040年に向けた地域医療構想」(政策ページ、2026年7月3日更新)
  3. 医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)/「『医療法等の一部を改正する法律』の公布及び一部施行について」令和7年12月12日付け医政発1212第2号 厚生労働省医政局長通知
  4. 「地域医療構想における取組について」令和8年7月8日付け医政発0708第12号 厚生労働省医政局長通知
  5. 「地域医療構想における重点支援区域、モデル推進区域等の取組について」令和8年7月8日付け医政発0708第13号 厚生労働省医政局長通知
  6. 厚生労働省「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(地域医療構想及び医療計画等に関する検討会、令和8年3月/社会保障審議会医療部会 令和8年3月審議・承認)
  7. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026 『責任ある積極財政』元年 〜日本の挑戦を起動する!〜」令和8年7月21日閣議決定(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf)
  8. 厚生労働省医政局地域医療計画課「在宅医療の現状と体制整備について」(訪問診療需要・救急搬送・死亡数の将来推計)
  9. 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」「日本の地域別将来推計人口(2023年推計)」
  10. 令和6年度介護報酬改定(介護保険施設等における協力医療機関の確保に係る要件)
  11. 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」
  12. 日本医師会「新たな地域医療構想に係るガイドラインの方向性について確認」(都道府県医師会担当理事連絡協議会、2026年)
  13. 福岡県「福岡県地域医療構想」「福岡県保健医療計画(令和6年度〜令和11年度)」