「食事のたびにむせるようになった」「肺炎で入院したら、また同じ肺炎だと言われた」。親の介護をしていると、こうした飲み込みの変化に気づくことがあります。高齢の方の肺炎には、食べ物や唾液が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」がかかわるものが少なくありません。
この記事では、日本呼吸器学会のガイドライン、厚生労働省の統計、口のケアの臨床研究などをもとに、誤嚥性肺炎を防ぐための口のケアと食べ方の工夫、ご家庭で気をつけたいサイン、受診・相談の目安をまとめました。
SECTION 01 結論:誤嚥性肺炎を防ぐ4つのポイント
口の中を清潔に保つ
歯・舌・入れ歯の汚れを毎日落とします。とくに寝る前のケアが大切で、入れ歯は夜は外して洗います。口のケアで肺炎が減ったという研究がある一方、研究全体の確実性はまだ低いとされています。
食べるときの姿勢とペース
上体をしっかり起こし、一口を少なめにして、ゆっくり食べます。むせやすい方は、とろみや食事の形を主治医や専門職と相談します。
食後すぐに横にならない
胃の中のものが逆流して気管に入るのを防ぐための工夫です。寝る直前の食事も避けます。
薬・ワクチン・体調の変化を主治医と確認
眠気が出る薬の見直しや、肺炎球菌・インフルエンザのワクチンを相談します。高齢の方は熱や咳が目立たないことがあるため、「いつもと違う」に早めに気づくことも大切です。
SECTION 02 誤嚥性肺炎とは:気づかないうちに起こることも
誤嚥性肺炎は、飲み込む働き(嚥下機能)が弱くなったために、唾液や食べ物、胃液などと一緒に細菌が気管から肺に入り込んで起こる肺炎です。飲み込む働きが落ちた高齢の方や、脳梗塞の後遺症・パーキンソン病などの神経の病気がある方、寝たきりの方に多いとされています[1]。
誤嚥というと、食事中に激しくむせる場面を思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、眠っている間などに、むせることなく少しずつ唾液が気管に入る「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」も起こります。肺炎になった高齢の方14人と、同じ年代で肺炎のない方10人を比べた日本の研究では、睡眠中の不顕性誤嚥が、肺炎の方の71%、肺炎のない方の10%にみられました[2]。人数の少ない研究ですが、「むせていないから大丈夫」とは言い切れないことを示しています。
数字でみる誤嚥性肺炎
厚生労働省の人口動態統計(2025年・確定数)では、誤嚥性肺炎で亡くなった方は64,396人で、死因の第6位でした(死亡総数の4.1%)。2024年の63,667人から増えています。誤嚥性肺炎は「肺炎」(第5位、84,021人)とは別に集計されていて、両方を合わせると、がん、心疾患、老衰に次ぐ規模になります[3]。また、日本呼吸器学会のガイドラインによると、誤嚥性肺炎で亡くなる方の約99%は65歳以上です(2021年の統計)[4]。
入院した肺炎のうち、どのくらいが誤嚥性肺炎なのかは、調査によって数字に幅があります。2008年に報告された国内の多施設共同研究(入院した患者さんを前向きに登録して調査)では、入院した肺炎の66.8%が誤嚥性肺炎でした[5]。一方、2019年に宮城県の8つの急性期病院で入院した肺炎をカルテから調べた研究では38.4%で、70歳未満の22.3%に対し、70歳以上では42.8%と、年齢が高いほど割合が高くなっていました[6]。
誤嚥性肺炎には、しっかり確立された診断基準がまだありません。どこまでを「誤嚥が原因」と判断するか、前向きに調べたかカルテをさかのぼって調べたか、調べた時期や地域によって、割合は変わります。後者の研究の著者らは、この10年ほどで飲み込みの障害への関心が高まったことも、割合が低くなった理由の一つではないかと考察しています[6]。
SECTION 03 口のケアで肺炎は防げるのか:研究からわかること
高齢の方では、口の中にふだんからいる細菌が肺炎の原因になるため、口を清潔に保つことが大切だとされています[7]。では、口のケアで実際に肺炎は減るのでしょうか。
介護施設での研究
代表的な研究に、日本の介護施設11か所で行われた米山らの研究があります。入所している高齢の方417人を、職員や歯科の専門職による口のケアを受けるグループと、ふだんどおり自分で歯みがきをするグループに分けて2年間追跡しました[8]。口のケアは、看護や介護の職員による毎日の歯みがき(歯・舌・口の粘膜・入れ歯)に、歯科の専門職による定期的なケアを組み合わせたものです。2年間で肺炎になった方は、口のケアを受けたグループで11.4%(184人中21人)、ふだんどおりのグループで18.7%(182人中34人)でした(肺炎以外の原因で亡くなった方などを除いた366人で集計)[9]。熱が出た日数や肺炎による死亡も少なく、歯がない方でも効果がみられたと報告されています[8]。ただし、後で紹介するコクランレビューがこの研究のデータを計算し直したところ、肺炎の発生の差は、統計的にはっきりしたとまでは言えない範囲でした(リスク比0.61、95%信頼区間0.37〜1.01)[9]。
研究全体では「確実性は低い」
一方、介護施設での口のケアの研究をまとめたコクランレビュー(2022年版)は、6つの臨床試験(6,244人)を検討し、専門的な口のケアが肺炎を減らすかどうかは「まだはっきりしない(エビデンスの確実性:低い)」としています。肺炎による死亡については、2年間追跡した2つの研究(454人)を合わせると、専門的な口のケアで少なくなる可能性がある(リスク比0.43、確実性:低い)とまとめています。対象になった研究はいずれも方法上の偏りのおそれが大きく、より大規模でしっかりした研究が必要とされています[9]。
こうした結果を踏まえ、日本呼吸器学会の「成人肺炎診療ガイドライン2024」は、肺炎の予防に口腔ケアを「弱く推奨する」(エビデンスの確実性C)としています[4]。「確実に防げる」とまでは言えないものの、毎日の生活の中で取り組める予防策として勧められています。なお、これらの研究は介護施設などで行われたもので、ご自宅で療養する方に同じ効果があるかは、直接は確かめられていません。
入れ歯をしたまま寝ると
東京都に住む85歳以上の方524人を約3年間追跡した研究では、入れ歯を使っている方のうち、寝るときも着けていた方は、夜は外していた方に比べて、肺炎による入院や死亡が約2.4倍(ハザード比2.38)多いという結果でした[10]。観察研究のため、入れ歯を外せば必ず肺炎が減るとまでは言えませんが、夜は入れ歯を外して清潔に保管することは、すぐに始められる工夫です。
SECTION 04 食べ方の工夫:姿勢・一口の量・とろみ
日本呼吸器学会は一般向けの解説で、食事のときには上体を十分に起こし、ゆっくりかんで飲み込むよう、介護する人が気を配ることが大切だとしています[1]。日本摂食嚥下リハビリテーション学会がまとめた訓練法の一覧にも、「一口量の調整」や、あごを軽く引いて飲み込む姿勢(chin down)が挙げられています[11]。ただし、どの姿勢や方法が合うかは、飲み込みの状態によって異なります。
また、うとうとしているときや、ぼんやりしているときに無理に食べると、むせたり誤嚥したりしやすくなります。目がしっかり覚めているときに、テレビを消すなど食事に集中できる環境で食べるようにしましょう。
図1 食事の前から寝る前までの工夫
左が場面、右がそのときの工夫です。飲み込みの状態によって合う方法は異なるため、主治医や専門職と相談しながら取り入れてください。
出典:日本呼吸器学会「誤嚥性肺炎」[1]、Iinumaら[10]、日本摂食嚥下リハビリテーション学会[11][12]、日本消化器病学会ほか[13]をもとに作成。
とろみと食事の形
飲み込む働きが落ちた方では、水やお茶のようなさらさらした飲み物でむせることがあり、とろみをつけて飲みやすくすることがあります。日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」では、とろみの程度を次の3段階に分けています[12]。
| 段階 | 目安 |
|---|---|
| 段階1 薄いとろみ | コップを傾けると、流れ落ちるのが少し遅いと感じる程度。細いストローでも吸える。 |
| 段階2 中間のとろみ | 明らかにとろみを感じ、スプーンで混ぜると表面に跡が残る。ストローは太いものが必要。 |
| 段階3 濃いとろみ | まとまりがよく、スプーンで「食べる」感覚。コップを傾けてもすぐには流れ落ちない。 |
同じ分類では、とろみをつけるかどうか、どの程度にするかは、一人ひとりの飲み込みの状態を評価して決めるべきだとしています[12]。ご家族の判断だけで濃さを決めず、主治医や訪問看護師、歯科、言語聴覚士などの専門職に相談しましょう。食事の形(刻み・やわらか食など)も同じです。
食後と寝るときの姿勢
胃液などの胃の中のものを誤嚥することも、誤嚥性肺炎の原因になります[1]。胃食道逆流症の患者さん向けに日本消化器病学会などがまとめたガイドでは、逆流は食後2〜3時間までに起こることが多いとされ、寝る前3時間の食事を避けることや、上半身を少し起こした姿勢で寝ることが、逆流を減らす工夫として紹介されています[13]。食後すぐに横にならず、しばらくは座った姿勢で過ごしましょう。ベッドで過ごす時間が長い方は、ベッドの角度について訪問看護師などに相談するとよいでしょう。
SECTION 05 薬とワクチンも見直しのポイント
眠気が出る薬に注意
日本呼吸器学会は、飲み込む働きに悪い影響を与える薬を飲んでいないかを確認することを挙げています[1]。厚生労働省の「高齢者の医薬品適正使用の指針」も、認知症にともなう行動・心理症状に使われる薬(抗精神病薬など)について、誤嚥や効きすぎによる眠気(過鎮静)などに注意し、少ない量から使うこととしています[14]。睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬などを飲んでいて、「むせが増えた」「日中も眠そう」といった変化があれば、主治医や薬剤師に伝えてください。自己判断でやめたり減らしたりせず、相談のうえで調整します。
一方、血圧の治療が必要な方で薬を選ぶときには、誤嚥性肺炎をくり返す方では、飲み込みの反射を改善する効果が確認されているACE阻害薬(血圧の薬の一種)が候補になることがあります[1][14]。せきなどの副作用もあり、合うかどうかは持病やほかの薬との兼ね合いで決まるため、主治医の判断になります。
肺炎球菌とインフルエンザのワクチン
ワクチンは誤嚥そのものを防ぐものではありませんが、肺炎球菌による肺炎や、インフルエンザをきっかけにした肺炎を防ぐための手段です。日本呼吸器学会も、肺炎球菌ワクチンを受けておくよう勧めています[1]。
国の制度変更により、2026年4月から福岡市でも、高齢者の肺炎球菌の定期接種に使うワクチンが、23価の多糖体ワクチンから20価の結合型ワクチンに切り替わりました。対象は主に65歳の方で、公費での接種は1人1回です(過去に公費で23価のワクチンを受けた方は対象外)[15]。インフルエンザワクチンについては、「高齢者のインフルエンザワクチン、今年はいつ打つ? 2026/27の要点」もご覧ください。
SECTION 06 ご自宅でできること、訪問診療で相談できること
毎日の口のケアのコツ
- ✓歯だけでなく、舌や頬の内側、上あごの汚れも、やわらかいブラシやスポンジでぬぐう。歯がない方にも口の中のケアは必要です[8][9]
- ✓入れ歯は毎日外して洗い、寝るときは外して保管する[10]
- ✓眠っている間の誤嚥に備えて、寝る前のケアをとくにていねいに行う[2]
- ✓ケアは体を起こした姿勢で行い、汚れた水や唾液は飲み込ませずにぬぐい取る
- ✓口が乾く、歯ぐきから血が出る、入れ歯が合わないときは、歯科に相談する(通院が難しい方には、自宅に来てくれる訪問歯科診療を行う歯科医院もあります)
経管栄養の方も口のケアを
口から食べていない方でも、唾液は毎日つくられ、それを誤嚥することがあります。長期療養の病院で、口から食べずに経管栄養を受けている高齢の方63人を調べた日本の研究では、毎日の口のケアを取り入れたグループで、肺炎の発生が少なかったと報告されています(カルテをさかのぼって調べた予備的な研究)[16]。胃ろうについて迷っている方は、「胃ろうをつけるか迷ったら:決めるときに考えたいこと」もご覧ください。
訪問診療で一般にできること
通院が難しい方には、医師が定期的にご自宅を訪れる訪問診療という選択肢があります。訪問診療では一般に、次のようなことを主治医と相談できます。
- 全身の状態や体重、食事のときの様子(むせ・食事にかかる時間など)の確認
- 飲んでいる薬の見直し(眠気が強く出る薬など)
- 熱や息苦しさなど、肺炎が疑われるときの診察と、自宅で治療を続けるか入院が必要かの判断
- 訪問看護、ケアマネジャー、地域の歯科医院の訪問歯科診療などとの連携
- 内視鏡やX線で飲み込みをくわしく調べる検査が必要なときの、専門の医療機関への紹介
入院と在宅での医療費の違いについては、「高齢者の肺炎・尿路感染症入院と在宅で「医療費」はどう違う?」で解説しています。
誤嚥性肺炎をくり返す場合について、日本呼吸器学会のガイドラインは、本人の意思や生活の質を重んじた治療・ケアを考えることや、本人が話し合いに加われるうちから、これからの医療やケアについて繰り返し話し合っておくこと(アドバンス・ケア・プランニング)を勧めています[4]。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の訪問診療クリニックです。通院が難しい方のご自宅に医師が伺い、定期的に診療しています。むせることが増えた、肺炎をくり返すなど、飲み込みや食事のことで気になることがあれば、ご相談ください。お電話・メールのほか、公式LINEでもご相談を受け付けています。
SECTION 07 受診・相談の目安
誤嚥性肺炎は、熱や咳、痰といった肺炎の典型的な症状がはっきりせず、「なんとなく元気がない」「食欲がない」「のどがゴロゴロ鳴る」といった変化だけのことが多いとされています[1]。高齢の方の肺炎は、「いつもと様子が変」「ぼーっとする時間が多い」ことから見つかることもあります[7]。
図2 受診・相談の目安
上ほど急ぎます。「すぐ主治医へ」「早めに相談」の相談先は、訪問診療・訪問看護を受けている方は主治医・訪問看護、そうでない方はかかりつけ医です。夜間・休日で連絡がつかないときは#7119へ。息苦しさが強い、反応が鈍いときは119番を。
出典:日本呼吸器学会[1][7]、福岡県[17]をもとに作成。持病や症状の組み合わせによって判断は変わります。
意識がない、息が苦しそうなど、命にかかわるときは、ためらわずに119番を。救急車を呼ぶか迷うときは、福岡県の救急医療電話相談(#7119、24時間。つながらないときは092-471-0099)に相談する方法もあります[17]。訪問診療を受けている場合は、まず主治医・訪問看護に連絡し、夜間・休日の連絡先を前もって確かめておくと安心です。
急ぎではなくても、飲み込みの変化は早めに伝えることが大切です。学会誌で発表された飲み込みの障害を見つけるための質問紙(15項目)でも、肺炎にかかったことがあるか、栄養状態、口やのど・食道の働きなどを尋ねています[18]。食事中・食後のむせが増えた、食事に時間がかかるようになった、やせてきたといった変化があれば、次の診察で主治医に伝えましょう。
この記事の情報は2026年10月時点のものです。
SECTION 08 ご利用・採用のご案内
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参考文献
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- 厚生労働省. 令和7年(2025)人口動態統計(確定数)の概況. 統計表 第7表「性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・構成割合」. 2026年9月30日公表. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei25/index.html
- 日本呼吸器学会 成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会 編. 成人肺炎診療ガイドライン2024. 日本呼吸器学会, 2024(CQ20「肺炎の予防に口腔ケアは推奨されるか」、Ⅰ章 肺炎の疫学・誤嚥性肺炎・ACP). https://www.jrs.or.jp/publication/file/adult_pneumonia_2024v5.pdf
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