自治医大の発見を中外製薬が薬にした、純国産の肺がん治療薬
2007年、自治医科大学の研究者が、たばこを吸わない肺がんの患者さんの腫瘍から、2つの遺伝子がつながった「融合遺伝子」を見つけました。中外製薬がそれをふさぐ薬を作り、2014年、日本が世界で最初に承認します。発見から承認まで日本で完結した薬です。 最初から使うと5年生存6割、手術後2年で再発が4分の1になった試験、便秘とむくみと日焼けの手当て、間質性肺炎の見張り、月83万円の薬代と高額療養費の多数回該当まで書きます。
この回の結論
- 2007年、自治医科大学の間野博行らが、肺がんの一部で2つの遺伝子がつながった「ALK融合遺伝子」が運転手になっていることを発見しました。中外製薬がそれをふさぐ飲み薬を作り、2014年、日本が世界で最初に承認しました。発見から承認まで、日本で完結した薬です。
- ALK陽性の肺がんは全体の3〜5%で、若い人やたばこを吸わない人に多いのが特徴です。この薬を最初から使うと、進行までの期間が第1世代の3倍近くに延び、5年後に生きている人が6割を超えました。手術後に2年飲むと再発が4分の1に減ります。
- 副作用は便秘、むくみ、肝機能の数値の上昇、筋肉の酵素の上昇、光線過敏、味覚の変化などで、多くは軽いものです。間質性肺炎(3.7%)は見張ります。薬代は1日約2万8千円、月約83万円で、高額療養費の上限に届きます。
この薬のプロフィール
| 一般名(商品名) | アレクチニブ(アレセンサカプセル) |
|---|---|
| 薬の家族 | 分子標的薬(ALKチロシンキナーゼ阻害薬、第2世代) |
| 主に使うがん | ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(進行・再発の一次治療、手術後の補助療法)、ALK陽性の未分化大細胞リンパ腫、ALK陽性の小児を含む固形がん |
| 使い方 | 飲み薬。1回300mgを1日2回(150mgカプセル4個)。手術後は1回600mgを1日2回、2年まで |
| 日本での承認 | 2014年7月(世界初)。2020年リンパ腫、2024年術後、2026年ALK陽性の固形がん全体(小児を含む) |
| 薬価の目安 | アレセンサカプセル150mg 6,905.5円(薬価基準、令和8年8月13日適用) |
SECTION 01 生まれた日:自治医大の発見から7年で、日本が世界初承認
2007年、自治医科大学の間野博行らは、たばこを吸わない肺がんの患者さんの腫瘍から、2つの遺伝子(EML4とALK)が途中でつながった「融合遺伝子」を見つけました(Soda ら、Nature 2007)。 ALKは、もともと悪性リンパ腫の一部で見つかっていた酵素の遺伝子です。それが肺がんでも、別の遺伝子とつながることで「増えろ」の合図を出し続けていました。
この発見を受け、中外製薬は100万を超える化合物の中からALKをふさぐ骨格を探し、選択性の高い化合物(アレクチニブ)を作りました(アレセンサのインタビューフォーム)。 先に米国で承認されていたクリゾチニブという薬は、ALK以外の酵素にも作用し、脳への転移に効きにくいという弱点がありました。アレクチニブは、ALKに絞り、脳にも届くよう設計されています。国内の第1/2相試験で奏効率93.5%という結果が出て、2014年7月、日本は世界で最初にこの薬を承認しました。
- 1994年悪性リンパ腫の一部でALK融合遺伝子が見つかる。
- 2007年間野らが、肺がんでEML4-ALK融合遺伝子を発見。肺がんの新しい「運転手」。
- 2010年米国で第1世代クリゾチニブがALK陽性肺がんに効くと報告(Kwak ら、NEJM 2010)。
- 2014年7月、アレクチニブが日本で世界初承認。2015年、150mgカプセルに。
- 2017年日本の比較試験(J-ALEX)と国際試験(ALEX)で、クリゾチニブより長く効くと証明。
- 2020年5年生存率62.5%と報告。同年、ALK陽性リンパ腫に承認。
- 2024年手術後に2年飲むと再発が4分の1に減ると報告(ALINA試験)。8月、日本で術後の使用が承認。2026年、小児を含むALK陽性の固形がん全体へ。
SECTION 02 どうやって効くのか:常にオンの酵素をふさぎ、脳にも届く
融合したALKは、「増えろ」の合図を出し続ける酵素です。アレクチニブはその酵素のATPの穴にはまり込み、合図を止めます。イマチニブ(第26回)やオシメルチニブ(第27回)と同じ仕組みです。 ALKは大人の正常な細胞ではほとんど働いていないので、副作用は比較的軽くすみます。
- 脳の関門を通るALK陽性の肺がんは脳に転移しやすく、第1世代は脳の中に入りにくいのが弱点でした。アレクチニブは脳に届き、国際試験では脳への進行が45%から12%に減りました。
- それでも逃げ道はできる長く使うと、酵素の形が変わって(変異)効かなくなることがあります。そのときは第3世代のロルラチニブなどに替えます。
- 手術後に使う意味取り切ったあとに残る目に見えない細胞を2年抑えると、再発が大きく減ります。ALK陽性は再発しやすい型なので、この意味は大きいと考えられています。
SECTION 03 なぜこんなに使われるのか:一次治療で5年生存6割、術後で再発4分の1
2017年、日本のALK陽性肺がん207人を、くじ引きで「アレクチニブ」と「クリゾチニブ」に分けた試験では、進行か死亡のリスクが66%減りました(Hida ら、Lancet 2017、J-ALEX試験)。 同じ年の国際試験(303人)でも、進行のリスクは53%減り、1年後に進行していない人は48.7%対68.4%でした(Peters ら、NEJM 2017、ALEX試験)。5年生存率はアレクチニブで62.5%、クリゾチニブで45.5%です(Mok ら、Ann Oncol 2020)。
2024年、手術で取り切ったALK陽性の1B〜3A期257人で、化学療法の代わりにこの薬を2年飲むと、再発か死亡のリスクが76%減り、2年後に再発していない人は63.0%から93.8%に上がりました(Solomon ら、NEJM 2024、ALINA試験)。
| 場面 | 使い方 | 決め手になった試験 |
|---|---|---|
| 進行・再発、最初の治療 | 1回300mg 1日2回、進行するまで | J-ALEX 2017、ALEX 2017(5年生存62.5%) |
| 手術のあと(1B〜3A期) | 1回600mg 1日2回を2年 | ALINA 2024(2年無再発63→94%) |
| 効かなくなったあと | 第3世代ロルラチニブなど、または化学療法(第8・9・12回) | 各試験 |
| ALK陽性リンパ腫・小児の固形がん | 体重に合わせた量 | 国内の医師主導試験 |
表1 アレクチニブの主な使われ方(添付文書と学会ガイドラインによる)。ALK陽性は非小細胞肺がんの3〜5%で、若い人・たばこを吸わない人・腺がんに多い。
添付文書の対象は、ALK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん(非小細胞肺がんを含む)、同じく非小細胞肺がんの術後補助療法、再発または難治性のALK陽性未分化大細胞リンパ腫です。 使う前に承認された検査でALK融合遺伝子を確かめます。警告として、間質性肺疾患の初期症状の確認と胸のCT、治療初期は入院かそれに準じた管理を定めています。
SECTION 04 副作用と、家でできること:便秘、むくみ、採血の数値、日焼け
添付文書の集計では、便秘29.2%、筋肉の酵素(CK)の上昇25.8%、AST上昇25.8%、ビリルビン上昇25.5%、ALT上昇20.3%、味覚障害、発疹、むくみ、けん怠感、貧血。重大なものは間質性肺疾患3.7%、好中球減少9.2%、白血球減少5.5%、腎機能障害0.9%、肝機能障害、徐脈、光線過敏症です。
便秘は3人に1人。水分、食物繊維、必要なら下剤を最初から。むくみは脚に出やすく、夕方に靴がきつくなります。急な体重増加は連絡します。 採血の数値(肝臓、筋肉の酵素、腎臓)は病院で定期的に見ます。筋肉痛や脱力が強いときは伝えます。
日焼けで赤くなりやすいので、日焼け止めと長袖を。味覚の変化は塩味や酸味を工夫します。 肺は、空咳・息切れ・発熱が出たら日数に関係なく連絡します。徐脈(脈が遅い)は、めまいやふらつきがあれば伝えます。
-
こんなときは空咳が増えた、息切れ、微熱が続くこうする間質性肺炎の合図。日数に関係なく、その日のうちに病院へ連絡する
-
こんなときは白目が黄色い、尿が濃い、強いだるさ、筋肉痛と脱力こうする肝障害や筋肉の障害の合図。早めに受診して採血を受ける
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こんなときはふらつき、めまい、脈が1分間に50回を切るこうする徐脈のことがある。血圧の薬との組み合わせも含めて、その日のうちに連絡する
脈を遅くする薬(一部の血圧の薬)を飲んでいる人は伝えます。飲み合わせのある薬があるため、市販薬・サプリを含めて薬剤師に確かめます。 妊娠中は使えません。日光に当たる仕事や外出の多い人は、日焼け対策を最初から始めます。
ALK陽性の方は若い方が多く、仕事や子育てを続けながら飲んでいます。在宅で関わるのは、脳転移などで症状が出てからのことが多いのですが、この薬が脳に届くおかげで、症状が落ち着いて家に戻れる方がいます。 便秘とむくみは「がまんする副作用」になりがちなので、訪問のたびに聞きます。
年単位で飲む薬なので、高額療養費の多数回該当(4か月目から44,400円)を最初に説明し、限度額の手続きを済ませてもらいます。
SECTION 05 薬価と自己負担:1日約2万8千円、月約83万円
アレセンサカプセル150mgは6,905.5円。1回2カプセルを1日2回で1日27,622円、30日で約82万9千円です。手術後の2年間では約2,000万円になります(薬価基準、令和8年8月13日適用)。 3割負担なら月約24万9千円ですが、高額療養費で、70歳未満・年収約370〜770万円なら月85,800円+(医療費−286,000円)×1%=約9万1千円、4か月目からは44,400円。70歳以上・一般なら外来22,000円が上限です(第1回の表1)。
若い方が多い薬なので、加入している健康保険組合の「付加給付」(上限がさらに低い制度)があるかどうかも確かめる価値があります。
「純国産」の意味は、発見から承認までの7年にある。
日本の研究者が原因を見つけ、日本の会社が薬を作り、日本の試験で日本が最初に承認する。この連載で初めての形です。第14回で書いたドラッグ・ラグ(海外の薬が日本に来るまでの遅れ)が、この薬では逆向きでした。 間野博行はその後、国立がん研究センターの研究所長として、がんの「運転手」を探す研究を続けています。
在宅で若い患者さんを診るとき、私たちが気にするのは薬の値段の話をいつ切り出すかです。月83万円という数字は本人を驚かせますが、上限を知れば「続けられる」に変わります。最初の訪問で、必ず話します。
「この薬、家ではどう気をつければいいですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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Q&A よくある質問
この回のチェックリスト(第28回ぶん)
- ALK融合遺伝子の検査結果をお薬手帳に書いた。
- 便秘の対策(水分・食物繊維・下剤)を最初から始めた。
- 日焼け止めと長袖を用意した。
- 空咳・息切れ・微熱、黄疸、ふらつきは、日数に関係なく連絡する。
- 高額療養費の限度額と、健康保険組合の付加給付の有無を確かめた。
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電話番号や制度の内容は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。治療中の方も、治療を終えた方も、ご家族だけでも相談できます。
- 治療を受けている病院の外来・化学療法室副作用が出たとき、まず連絡する先です。夜間や休日の連絡先は、治療の説明書や「治療日誌」に書かれていることが多いので、目につく場所に貼っておいてください。
- がん相談支援センター治療や薬のこと、お金や仕事のことを無料で相談できます。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても利用できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- がん情報サービス(国立がん研究センター)がんの種類ごとの標準治療と、使われる薬の情報を、公的機関がまとめています/ganjoho.jp
- くすりのしおり(くすりの適正使用協議会)処方された薬の飲み方・注意・副作用を、薬の名前で調べられる患者向けの情報です/rad-ar.or.jp/siori
- 高額療養費制度の窓口(加入している健康保険)1か月の自己負担に上限を設ける制度です。会社の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療広域連合など、保険証(資格確認書)に書かれた保険者に申請します。マイナ保険証を使えば、窓口での支払いが最初から上限額までになります/厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
- かかりつけ薬局の薬剤師飲み薬の抗がん剤と、ほかの薬・サプリメント・食べ物との飲み合わせは、薬局で確かめられます。お薬手帳を1冊にまとめておくと早いです。
REFERENCE 参考資料
- 中外製薬「アレセンサカプセル150mg 添付文書」2026年5月改訂(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/450045_4291032M3021_1_08)、同 医薬品インタビューフォーム(開発の経緯:2007年EML4-ALK発見、100万以上の化合物からのスクリーニング、2014年7月世界初承認、2020年2月未分化大細胞リンパ腫、2024年8月術後補助療法、2026年5月ALK陽性固形癌)
- 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(令和8年8月13日適用)」(https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html)
- Soda M, et al. Identification of the transforming EML4-ALK fusion gene in non-small-cell lung cancer. Nature. 2007;448(7153):561-566(https://doi.org/10.1038/nature05945);Mano H. ALKoma: a cancer subtype with a shared target. Cancer Discov. 2012;2(6):495-502(https://doi.org/10.1158/2159-8290.CD-12-0009)
- Kwak EL, et al. Anaplastic lymphoma kinase inhibition in non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010;363(18):1693-1703(https://doi.org/10.1056/NEJMoa1006448)
- Hida T, et al. Alectinib versus crizotinib in patients with ALK-positive non-small-cell lung cancer (J-ALEX): an open-label, randomised phase 3 trial. Lancet. 2017;390(10089):29-39(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(17)30565-2)
- Peters S, et al. Alectinib versus crizotinib in untreated ALK-positive non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2017;377(9):829-838(https://doi.org/10.1056/NEJMoa1704795);Mok T, et al. Updated overall survival and final progression-free survival data for patients with treatment-naive advanced ALK-positive non-small-cell lung cancer in the ALEX study. Ann Oncol. 2020;31(8):1056-1064(https://doi.org/10.1016/j.annonc.2020.04.478)
- Solomon BJ, et al. Alectinib in resected ALK-positive non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2024;390(14):1265-1276(https://doi.org/10.1056/NEJMoa2310532)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 治療」2026年8月26日更新(https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment.html)

