根拠には強さの順番がある:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第2回/全30回
根拠には強さの順番がある

体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける

「効いた」という言葉は、どれも同じ重さに聞こえます。隣の人の体験談も、マウスの実験も、数千人の試験も。 でも医学では、この3つの重さはまったく違います。 この回では、その順番を一枚の図にして、宣伝の言葉を自分で量れるようにします。

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この回の結論

  1. 「効いた」には重さの順番があります。体験談がいちばん軽く、くじ引きで分けて比べた試験がいちばん重い
  2. 「マウスで効いた」薬が、人で承認までたどり着くのは、がんでは100に3つほどです。
  3. 「学会発表」「論文あり」「特許取得」「医師監修」は、どれも「効く」の証明ではありません。

SECTION 01 「効いた」の6段階

根拠の強さは、「どうやって確かめたか」で決まります。誰が言ったかではありません。 弱いほうから順に並べると、次の6段になります。

図1 根拠の強さの6段階(上ほど弱く、下ほど強い) 1 体験談・専門家の意見 「私は治った」「医師も推薦」。効かなかった人の声は、ここには残りません 2 試験管・動物の実験 「がん細胞が死んだ」「マウスの腫瘍が縮んだ」。人の体では別のことが起きます 3 少人数の報告(症例報告) 「使った5人のうち3人が改善」。比べる相手がいないので、偶然と区別できません 4 観察研究(使った人と使わない人を、あとから比べる) 元気な人ほど試す、お金がある人ほど買う。その差が「効果」に見えます 5 ランダム化比較試験(くじ引きで分けて、前向きに比べる) くじ引きなので、元気さもお金も両方の組に同じだけ入ります。ここで初めて「効く」と言えます 6 複数の比較試験をまとめたもの(系統的レビュー) 世界中の試験を集めて集計。診療ガイドラインは主にここを見て作られます 宣伝で使われる「効いた」の多くは1〜3段。標準治療の根拠は5〜6段にあります。

図1 根拠の強さの6段階。医学で「効く」と言えるのは5段目から。1〜4段は「効くかもしれない」の材料にすぎない。

ここだけ覚える「効いた人がいる」と「効く」は、別のことです。

SECTION 02 なぜ、効いていないものが「効いた」と感じるのか

1〜4段の「効いた」が信用できないのは、嘘だからではありません。 本当に良くなった人がいても、その理由が「その治療」だとは限らないからです。理由は主に3つあります。

  • 体調には、波がある痛みも疲れも、悪いときに人は何かを試します。その後は放っておいても、いくらか戻ります。試したものが、戻った手柄を取ります。
  • 「効くはず」と思うと、症状は軽く感じる(プラセボ効果)偽の薬でも、痛みや吐き気のような「本人が感じる症状」はいくらか和らぎます。ただし、腫瘍の大きさや血液の数値など、体そのものは変わりません。
  • 試す人は、もともと違う高い治療を選ぶ人は、体力とお金と情報がある人です。その人たちの成績が良くても、治療のおかげとは言えません。この差を消せるのが、くじ引き(ランダム化)です。
根拠はどこまであるか

プラセボ効果そのものを調べた研究があります。「偽の治療」と「何もしない」をくじ引きで分けた試験を世界中から集めた解析(202試験)では、 プラセボは全体としては体に測れる変化を起こしませんでしたが、痛みや吐き気のような本人が感じる症状には、いくらかの効果がありました(Hróbjartsson ら、Cochrane 2010)。 「楽になった」は本当でも、「治った」とは別だ、ということです。

ここだけ覚えるくじ引きで分けて比べないと、「効いた」の理由は分かりません。

SECTION 03 マウスから人までの、遠い道

「動物実験で効いた」は、宣伝でいちばんよく使われる言葉です。 では、動物で効いたもののうち、どれだけが人で効くのでしょうか。

2000年から2015年に人での試験に進んだ薬(2万1千あまり)を調べた研究では、 第1相から始めて承認までたどり着いた割合は、がんの薬で3.4%でした(Wong ら、Biostatistics 2019)。 人で試す段階に来た薬でさえ、この数字です。動物で効いただけの段階なら、もっと低くなります。

  • こう言われたら「マウスの実験で、がんが消えました」
    こう聞き返す「人で、くじ引きで分けて比べた試験はありますか」
  • こう言われたら「論文が出ています」
    こう聞き返す「人が対象ですか。何人ですか。何と比べましたか」
  • こう言われたら「9割の方が効果を実感しています」
    こう聞き返す「使わなかった人では、何割でしたか」
在宅の現場では

訪問先で、「先生、これ論文があるんです」とコピーを見せていただくことがあります。 読むと、マウスの実験だったり、販売元がお金を出した20人の研究だったりします。 そのとき私たちは、「嘘ですよ」とは言いません。一緒に、3つだけ探します。誰が対象か、何人か、何と比べたか。 この3つが見つからない論文は、図1の1〜3段です。それが分かれば、ご家族が自分で決められます。

ここだけ覚える論文は「誰が・何人・何と比べた」の3つで重さが決まります。

SECTION 04 偉そうな言葉ほど、軽い

宣伝には、根拠があるように聞こえる決まり文句があります。 それぞれが実際に何を意味するかを、一枚の表にします。

宣伝の言葉実際の意味図1の段
学会で発表多くの学会は、申し込めば発表できます。発表は「研究の途中報告」で、効果の証明ではありません。1〜3段
論文ありどの雑誌か、審査(査読)があるか、人か動物か、何人か、何と比べたかで重さが違います。お金を払えば載せる雑誌もあります。1〜6段のどれか
特許取得特許は「新しいか」の審査で、「効くか」の審査ではありません。効かないものにも特許は取れます。根拠ではない
医師監修・医師推薦一人の専門家の意見です。図1のいちばん下の段にあたります。1段
臨床試験中・研究中「結果がまだ出ていない」という意味です。効くかどうかは、その試験が終わるまで分かりません。結果待ち
厚生労働省に届出済み安全のための手続きをした、という意味です。効果を国が審査したわけではありません(第9回で詳しく)。根拠ではない

表1 宣伝の決まり文句と、その実際の重さ。

制度のしくみ

医学の論文には、他の専門家が内容を審査する「査読」というしくみがあります。ただし近年は、審査をほとんどせず掲載料だけを取る雑誌が増え、 国際的に問題になっています(Grudniewicz ら、Nature 2019)。「論文がある」だけでは、査読を通った研究かどうか分かりません。 診療ガイドラインは、こうした論文を集めて質を評価し、推奨を「強い」「弱い」と分けて示します。この評価のしくみは、 Minds ガイドラインライブラリの「診療ガイドライン Q&A(基礎編)」で一般向けに説明されています。

ここだけ覚える言葉が立派なほど、「誰が・何人・何と比べた」を確かめます。
在宅医の視点

「効いた人の話」は、嘘ではありません。

体験談を語る人は、たいてい本当に良くなった人です。だから、否定しても伝わりません。 問題は、その横に「同じものを使って良くならなかった人」が何人いるかが、誰にも見えないことです。 医学が、くじ引きで分けて比べるという面倒な手順を守るのは、その見えない人たちを数えるためです。

在宅の現場で私たちが大事にしているのは、ご家族が「これは何段目の話か」を自分で言えるようになることです。 それができれば、勧誘の場で怒る必要も、恥ずかしがる必要もありません。「人で比べた試験はありますか」と、静かに聞くだけで済みます。

この回のチェックリスト(第2回ぶん)

  • 勧められたものの「効いた」が、図1の何段目の話か、言葉で言える。
  • 「論文あり」と言われたら、「人が対象か・何人か・何と比べたか」の3つを聞いた。
  • 「9割が実感」と言われたら、「使わなかった人では何割か」を聞いた。
  • 「学会発表」「特許取得」「医師監修」を、効果の証明とは受け取らないことにした。
  • 「楽になった」と「治った」を、分けて考えるようにした。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Qくじ引きで分ける試験がないものは、すべて信用してはいけないのですか。
A「効くと分かっている」とは言えない、という意味です。効かないと決まったわけでもありません。ただ、まだ分からないものに払うお金と時間の上限を、先に決めておくことを勧めます。
Q診療ガイドラインに載っていれば、根拠は全部強いのですか。
Aいいえ。ガイドラインは推奨ごとに「根拠の確かさ」と「推奨の強さ」を分けて書いています。「弱く推奨」「根拠は乏しいが専門家の合意」という項目もあります。載っているかどうかより、その項目の強さを見てください。
Q家族でも、論文の重さを確かめられますか。
A要約(抄録)だけで十分です。「対象は人か」「何人か」「何と比べたか」「お金を出したのは誰か」の4つを探してください。健康食品の成分なら、国の「『健康食品』の安全性・有効性情報」に、人での試験の有無が成分ごとにまとまっています。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. Wong CH, Siah KW, Lo AW. Estimation of clinical trial success rates and related parameters. Biostatistics. 2019;20(2):273-286(https://doi.org/10.1093/biostatistics/kxx069
  2. Hróbjartsson A, Gøtzsche PC. Placebo interventions for all clinical conditions. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(1):CD003974(https://doi.org/10.1002/14651858.CD003974.pub3
  3. Grudniewicz A, Moher D, Cobey KD, et al. Predatory journals: no definition, no defence. Nature. 2019;576:210-212(https://doi.org/10.1038/d41586-019-03759-y
  4. 日本医療機能評価機構 Minds ガイドラインライブラリ「診療ガイドライン Q&A(基礎編)」(https://minds.jcqhc.or.jp/cpg/about-cpg/qa-basic/
  5. 国立がん研究センター がん情報サービス「研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct_summary.html
  6. 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html
  7. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」(https://hfnet.nibn.go.jp/
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。