体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
「効いた」という言葉は、どれも同じ重さに聞こえます。隣の人の体験談も、マウスの実験も、数千人の試験も。 でも医学では、この3つの重さはまったく違います。 この回では、その順番を一枚の図にして、宣伝の言葉を自分で量れるようにします。
この回の結論
- 「効いた」には重さの順番があります。体験談がいちばん軽く、くじ引きで分けて比べた試験がいちばん重い。
- 「マウスで効いた」薬が、人で承認までたどり着くのは、がんでは100に3つほどです。
- 「学会発表」「論文あり」「特許取得」「医師監修」は、どれも「効く」の証明ではありません。
SECTION 01 「効いた」の6段階
根拠の強さは、「どうやって確かめたか」で決まります。誰が言ったかではありません。 弱いほうから順に並べると、次の6段になります。
図1 根拠の強さの6段階。医学で「効く」と言えるのは5段目から。1〜4段は「効くかもしれない」の材料にすぎない。
SECTION 02 なぜ、効いていないものが「効いた」と感じるのか
1〜4段の「効いた」が信用できないのは、嘘だからではありません。 本当に良くなった人がいても、その理由が「その治療」だとは限らないからです。理由は主に3つあります。
- 体調には、波がある痛みも疲れも、悪いときに人は何かを試します。その後は放っておいても、いくらか戻ります。試したものが、戻った手柄を取ります。
- 「効くはず」と思うと、症状は軽く感じる(プラセボ効果)偽の薬でも、痛みや吐き気のような「本人が感じる症状」はいくらか和らぎます。ただし、腫瘍の大きさや血液の数値など、体そのものは変わりません。
- 試す人は、もともと違う高い治療を選ぶ人は、体力とお金と情報がある人です。その人たちの成績が良くても、治療のおかげとは言えません。この差を消せるのが、くじ引き(ランダム化)です。
プラセボ効果そのものを調べた研究があります。「偽の治療」と「何もしない」をくじ引きで分けた試験を世界中から集めた解析(202試験)では、 プラセボは全体としては体に測れる変化を起こしませんでしたが、痛みや吐き気のような本人が感じる症状には、いくらかの効果がありました(Hróbjartsson ら、Cochrane 2010)。 「楽になった」は本当でも、「治った」とは別だ、ということです。
SECTION 03 マウスから人までの、遠い道
「動物実験で効いた」は、宣伝でいちばんよく使われる言葉です。 では、動物で効いたもののうち、どれだけが人で効くのでしょうか。
2000年から2015年に人での試験に進んだ薬(2万1千あまり)を調べた研究では、 第1相から始めて承認までたどり着いた割合は、がんの薬で3.4%でした(Wong ら、Biostatistics 2019)。 人で試す段階に来た薬でさえ、この数字です。動物で効いただけの段階なら、もっと低くなります。
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こう言われたら「マウスの実験で、がんが消えました」こう聞き返す「人で、くじ引きで分けて比べた試験はありますか」
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こう言われたら「論文が出ています」こう聞き返す「人が対象ですか。何人ですか。何と比べましたか」
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こう言われたら「9割の方が効果を実感しています」こう聞き返す「使わなかった人では、何割でしたか」
訪問先で、「先生、これ論文があるんです」とコピーを見せていただくことがあります。 読むと、マウスの実験だったり、販売元がお金を出した20人の研究だったりします。 そのとき私たちは、「嘘ですよ」とは言いません。一緒に、3つだけ探します。誰が対象か、何人か、何と比べたか。 この3つが見つからない論文は、図1の1〜3段です。それが分かれば、ご家族が自分で決められます。
SECTION 04 偉そうな言葉ほど、軽い
宣伝には、根拠があるように聞こえる決まり文句があります。 それぞれが実際に何を意味するかを、一枚の表にします。
| 宣伝の言葉 | 実際の意味 | 図1の段 |
|---|---|---|
| 学会で発表 | 多くの学会は、申し込めば発表できます。発表は「研究の途中報告」で、効果の証明ではありません。 | 1〜3段 |
| 論文あり | どの雑誌か、審査(査読)があるか、人か動物か、何人か、何と比べたかで重さが違います。お金を払えば載せる雑誌もあります。 | 1〜6段のどれか |
| 特許取得 | 特許は「新しいか」の審査で、「効くか」の審査ではありません。効かないものにも特許は取れます。 | 根拠ではない |
| 医師監修・医師推薦 | 一人の専門家の意見です。図1のいちばん下の段にあたります。 | 1段 |
| 臨床試験中・研究中 | 「結果がまだ出ていない」という意味です。効くかどうかは、その試験が終わるまで分かりません。 | 結果待ち |
| 厚生労働省に届出済み | 安全のための手続きをした、という意味です。効果を国が審査したわけではありません(第9回で詳しく)。 | 根拠ではない |
表1 宣伝の決まり文句と、その実際の重さ。
医学の論文には、他の専門家が内容を審査する「査読」というしくみがあります。ただし近年は、審査をほとんどせず掲載料だけを取る雑誌が増え、 国際的に問題になっています(Grudniewicz ら、Nature 2019)。「論文がある」だけでは、査読を通った研究かどうか分かりません。 診療ガイドラインは、こうした論文を集めて質を評価し、推奨を「強い」「弱い」と分けて示します。この評価のしくみは、 Minds ガイドラインライブラリの「診療ガイドライン Q&A(基礎編)」で一般向けに説明されています。
「効いた人の話」は、嘘ではありません。
体験談を語る人は、たいてい本当に良くなった人です。だから、否定しても伝わりません。 問題は、その横に「同じものを使って良くならなかった人」が何人いるかが、誰にも見えないことです。 医学が、くじ引きで分けて比べるという面倒な手順を守るのは、その見えない人たちを数えるためです。
在宅の現場で私たちが大事にしているのは、ご家族が「これは何段目の話か」を自分で言えるようになることです。 それができれば、勧誘の場で怒る必要も、恥ずかしがる必要もありません。「人で比べた試験はありますか」と、静かに聞くだけで済みます。
この回のチェックリスト(第2回ぶん)
- 勧められたものの「効いた」が、図1の何段目の話か、言葉で言える。
- 「論文あり」と言われたら、「人が対象か・何人か・何と比べたか」の3つを聞いた。
- 「9割が実感」と言われたら、「使わなかった人では何割か」を聞いた。
- 「学会発表」「特許取得」「医師監修」を、効果の証明とは受け取らないことにした。
- 「楽になった」と「治った」を、分けて考えるようにした。
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- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
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REFERENCE 参考資料
- Wong CH, Siah KW, Lo AW. Estimation of clinical trial success rates and related parameters. Biostatistics. 2019;20(2):273-286(https://doi.org/10.1093/biostatistics/kxx069)
- Hróbjartsson A, Gøtzsche PC. Placebo interventions for all clinical conditions. Cochrane Database Syst Rev. 2010;(1):CD003974(https://doi.org/10.1002/14651858.CD003974.pub3)
- Grudniewicz A, Moher D, Cobey KD, et al. Predatory journals: no definition, no defence. Nature. 2019;576:210-212(https://doi.org/10.1038/d41586-019-03759-y)
- 日本医療機能評価機構 Minds ガイドラインライブラリ「診療ガイドライン Q&A(基礎編)」(https://minds.jcqhc.or.jp/cpg/about-cpg/qa-basic/)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「研究段階の医療(臨床試験、治験など)基礎知識」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/ct_summary.html)
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html)
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」(https://hfnet.nibn.go.jp/)

