保険がきく免疫療法と、何が違うのか
「免疫療法」という同じ言葉で、まったく違う二つのものが並んでいます。 一つは効果が証明されて保険がきくもの、もう一つは証明されておらず全額自費のものです。 この回では、その二つの見分け方だけを、はっきりさせます。
この回の結論
- 「免疫療法」には、保険がきくもの(免疫チェックポイント阻害薬など)と、全額自費の免疫細胞療法があります。名前は似ていて、中身は別です。
- 自由診療の免疫細胞療法は、その方法で「人を、くじ引きで分けて比べ、長生きできた」という証明がありません。
- 「厚生労働省に届出済み」は安全のための手続きで、効果の審査ではありません。
SECTION 01 同じ「免疫療法」で、二つのもの
「免疫の力でがんと闘う」。この言葉は、保険診療でも自由診療でも使われます。 けれども、その中身は次の表のとおり別のものです。
| 保険がきく免疫療法 | 自由診療の免疫細胞療法 | |
|---|---|---|
| 代表例 | 免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブなど) | 活性化リンパ球療法、NK細胞療法、樹状細胞ワクチンなど(ANK療法もこの仲間) |
| しくみ | がん細胞が免疫にかけている「ブレーキ」を薬で外す | 患者さんの血液から免疫の細胞を取り出し、体の外で増やして、点滴で戻す |
| 誰が確かめたか | 確かめられている 数百〜数千人の比較試験で生存が延び、国が承認 | 確かめられていない その施設の方法で、くじ引きで分けて比べた試験がない |
| お金 | 保険適用。高額療養費で月の上限あり | 全額自費。1回数十万円、1クールで数百万円の例も |
| 受けられる場所 | がん診療連携拠点病院など。がんの種類と状態で適応が決まる | 自由診療のクリニック。「どのがんにも」「どの段階でも」と案内されることが多い |
表1 二つの「免疫療法」。国立がん研究センターは「効果が証明された免疫療法は、まだ一部に限られています」と明記している。
SECTION 02 免疫細胞療法は、何をするのか
手順そのものは、どの施設でもおおむね同じです。
- 採血する患者さんの血液を数十ミリリットル取ります。
- 体の外で増やす・活性化する血液の中の免疫の細胞(リンパ球、NK細胞、樹状細胞など)を、施設の培養室で2〜3週間かけて増やします。
- 点滴で体に戻す増やした細胞を点滴します。これを2〜4週おきに数回くり返して「1クール」とします。
理屈は魅力的です。自分の細胞なので副作用は少なく、「免疫を増やせば、がんは減るはず」と聞こえます。 問題は、その「はず」が、人で確かめられているかどうかです。
国立がん研究センターは、自由診療の免疫療法について「治療効果・安全性・費用について慎重な確認が必要」としています。 過去には、日本でもきちんとした比較試験がありました。肝臓がんの手術後に活性化リンパ球を点滴した150人の試験では、 再発は減りましたが、生存期間には差がありませんでした(Takayama ら、Lancet 2000)。標準治療にはなりませんでした。
近年は中国を中心に、抗がん剤と併用して生存が延びたとする試験をまとめた解析も出ています。 ただ、試験の質にばらつきが大きく、日本や欧米の診療ガイドラインで推奨されるには至っていません。 また、日本の自由診療で行われている方法は、それらの試験とは細胞の種類・手順・併用の条件が異なることが多く、その施設の方法で比べた試験は見当たりません。
SECTION 03 「厚生労働省に届出済み」の意味
免疫細胞療法の案内には、よく「再生医療等安全性確保法にもとづき、厚生労働省に届け出ています」と書かれています。 これは本当です。ただし、意味を正確に知っておく必要があります。
再生医療等安全性確保法は、細胞を加工して体に戻す医療を、リスクの高さで第1種・第2種・第3種に分けています。 自分の細胞を増やして戻す免疫細胞療法は、リスクが低いとされる第3種にあたります。
第3種は、認定された委員会の意見を聞いたうえで「提供計画」を厚生労働大臣に提出すれば実施できます。 国が安全性を確認する期間があるのは第1種だけで、どの種類でも、効果があるかどうかの審査はありません。 届出は「この手順で安全に行います」という約束であって、「効きます」の証明ではないのです。
-
こう言われたら「国に届け出ている、正式な治療です」こう聞き返す「その届出は、効果の審査ですか。安全の手続きですか」
-
こう言われたら「病院の免疫チェックポイント阻害薬と同じ、免疫療法です」こう聞き返す「同じなら、なぜ保険がきかないのですか」
-
こう言われたら「副作用がほとんどないので、試して損はありません」こう聞き返す「この方法で、人を比べて長生きできた試験はありますか」
SECTION 04 何を失うか
自分の細胞を戻すので、体への直接の害は少ないことが多いのは事実です。 失われるのは、別のものです。
1回あたり数十万円、1クールで数百万円になることがあります。2026年8月には、乳がんの女性が約440万円の免疫細胞療法を受け、 期待した効果が得られなかった事例で、裁判所がクリニック側の説明義務違反を認めました。ただし賠償額は請求の1割に届きませんでした (詳しくは、下の関連記事「『完治専門ですから』という言葉を信じてもいい?」)。 払ったお金は、裁判をしても、ほとんど戻らないと考えてください。
いちばんの損失は、お金ではなく判断の遅れです。「免疫細胞療法をやっているから」と、標準治療の変更や緩和ケアの開始を先延ばしにする場面を見ます。 また、通院のたびに採血と点滴で半日が消えます。残された時間が限られている方にとって、この半日は軽くありません。
訪問診療を始めてから、「実は月に2回、市内のクリニックに免疫細胞療法に通っている」と打ち明けられることがあります。 病院の主治医には言っていない、と。私たちは、やめなさいとは言いません。まず、いくら払っていて、あと何回の予定かを一緒に確かめます。 そして、「効いているかどうかを、何で判断していますか」と聞きます。多くの場合、判断の材料はありません。 それが分かると、ご本人とご家族が自分たちで、続けるか、区切りをつけるかを決められるようになります。
「免疫」は、いちばん売りやすい言葉です。
免疫チェックポイント阻害薬が登場して、「免疫でがんを治す」は本当の話になりました。 その本当の話の隣に、証明されていないものが同じ言葉で並んでいます。 売る側が悪意を持っているとは限りません。理屈を信じている医師もいます。ただ、信じていることと、確かめたことは違います。
保険がきく免疫療法が使えるかどうかは、がんの種類、遺伝子の検査結果、体の状態で決まります。 「自分にも使えるのか」は、自由診療のクリニックではなく、いま診てもらっている病院の主治医に聞いてください。 その答えが「いいえ」だったとしても、自由診療の免疫細胞療法がその代わりになるわけではありません。
この回のチェックリスト(第3回ぶん)
- 勧められた「免疫療法」が、保険がきくものか、全額自費のものか、確かめた。
- 「届出済み」と言われたら、「効果の審査ですか、安全の手続きですか」と聞いた。
- 「この方法で、人を比べて長生きできた試験はありますか」と聞いた。
- 1回いくらで、何回で、総額いくらになるかを、書面でもらった。
- 受けていること(受けようとしていること)を、病院の主治医に伝えた。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- 国立がん研究センター がん情報サービス「免疫療法 まず、知っておきたいこと」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/immunotherapy/index.html)
- 厚生労働省「再生医療等の安全性の確保等に関する法律について」(法の概要・リスク分類・提供計画の手続)(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000079192.pdf)
- 厚生労働省「再生医療等提供計画の提出等について(概要)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/plan.html)
- Takayama T, Sekine T, Makuuchi M, et al. Adoptive immunotherapy to lower postsurgical recurrence rates of hepatocellular carcinoma: a randomised trial. Lancet. 2000;356:802-807(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(00)02654-4)
- Jiang W, Wang Z, Luo Q, et al. Combined immunotherapy with dendritic cells and cytokine-induced killer cells for solid tumors: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Transl Med. 2024;22:1122(https://doi.org/10.1186/s12967-024-05940-y)
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)

