「標準治療」は最善の治療である:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第1回/全30回
「標準治療」は最善の治療である

「並の治療」という誤解が、すべての入口になる

「標準治療しかない、と言われました」。訪問診療を始めるお宅で、何度も聞く言葉です。 「標準」と聞くと、もっと上があるはずだと思ってしまいます。この誤解が、根拠のない治療への入口になります。 全30回の連載の土台として、第1回は「標準治療とは何か」だけをお話しします。

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この回の結論

  1. 標準治療は「並」ではなく、今ある治療のなかで、いちばん良い成績を出したものです。
  2. 「最新」「最先端」は、「まだ確かめられていない」の言い換えであることがほとんどです。
  3. 根拠のない医療は、必ず標準治療の「外」で売られます。だから、まず標準治療を知ります。

SECTION 01 「標準」は「並」ではない

標準サイズ、標準装備、標準コース。日本語の「標準」は、上のグレードがあることを前提にした言葉です。 だから「標準治療」と聞いて、もっといい治療を探し始めるのは、ごく自然なことです。

ところが医療では、意味が逆です。国立がん研究センターは、こう定義しています。

標準治療とは、科学的根拠(中略)に基づいた観点で、現在利用できる「最良の治療」であることが示され、多くの患者に行われることが推奨される治療のことをいいます。 出典:国立がん研究センター がん情報サービス「標準治療と診療ガイドライン」(2023年4月19日更新)
ここだけ覚える標準治療は、松竹梅の「竹」ではなく、いまの時点での「松」です。

根拠のない医療を売る側は、「標準治療は並の治療だ」という思い込みを、そのまま使います。 「病院の治療は画一的」「あなただけのオーダーメイド治療」。 標準治療が「最良」だと知っていれば、「最良より上」を売る言葉の不自然さに気づけます。

SECTION 02 治療が「標準」になるまで

新しい治療は、いきなり患者さんに使われるわけではありません。 試験管と動物から始まり、少人数、数百人、数千人と段階を踏みます。 そして最後に、いまの標準治療と正面から比べられます

図1 治療が「標準」になるまでの5段階 1 試験管・動物で調べる 「がん細胞が死んだ」はここ。ヒトで同じとは限りません 2 第1相:安全に使える量を探す 数人〜数十人。効くかどうかは、まだ調べていません 3 第2相:効きそうかを見る 数十人〜百数十人。「有望」と言えるのはここまで 4 第3相:いまの標準治療と、くじ引きで分けて比べる 数百人〜数千人。ここで勝ったものだけが次へ進みます 5 承認・保険適用・診療ガイドライン → 新しい標準治療 専門家が結果を検討し、「現在の最良」として推奨します 「最新」「独自」「オーダーメイド」と書かれた治療の多くは、1か2の段階にとどまっています。

図1 段階が上がるほど人数が増え、最後は必ず「いまの標準治療」との比較になる。各段階の詳しい話は、下の関連記事「臨床試験で確かめること」に譲る。

ここだけ覚える新しい治療は、いまの標準治療に勝ってはじめて、標準治療になります。

国立がん研究センターも、「最新の治療」が最も優れているとは限らない、 標準治療になるには、それまでの標準治療より優れていると証明される必要がある、と書いています。 ここから、ひとつの聞き方が生まれます。

  • こう言われたら「最新の治療です」「最先端の技術です」
    こう聞き返す「それは、図1のどの段階まで来ていますか」
  • こう言われたら「動物実験で効きました」「海外では使われています」
    こう聞き返す「ヒトで、いまの標準治療と比べた試験は終わっていますか」

答えが「まだ」なら、それは「最良」ではなく「まだ分からない」ものです。 悪いとは限りません。ただ、そう分かったうえで、お金と時間を使うかを決めてください。

SECTION 03 標準治療の「外」にある4つ

「病院以外の治療」は、ぜんぶ同じではありません。4つに分けると、見え方が変わります。

  • 確かめている途中の医療(治験・先進医療・患者申出療養)図1の2〜4段目。国に届け出て、結果を公開する約束で行われます。「新しい治療を試したい」なら、まずここです。
  • 自由診療(保険がきかず、全額自己負担)医師が行いますが、効果を第三者が審査した事実がありません。がんの自由診療の多くがここです。第3〜9回で扱います。
  • そもそも医療ではないもの(健康食品・器具・水)「病気に効く」と言った時点で法律に触れます。だから宣伝は「免疫力」「体質改善」という言葉になります。第12〜24回で扱います。
  • じつは標準治療の「内側」にあるもの(緩和ケア)「もう治療がない」と言われたあとの医療は、外ではありません。痛みや息苦しさを取る緩和ケアは、根拠のある標準治療です。
種類誰が効果を確かめたかお金被害が出たとき
標準治療 確かめられている
世界中の比較試験と専門家の合意
保険で1〜3割。高額療養費で月の上限あり 公的な救済制度の対象
治験・先進医療 確かめている途中
計画も結果も公開される
治験は薬代が無料のことが多い。先進医療は技術料だけ自費 治験には補償の取り決めがある
自由診療 確かめられていない
審査する第三者がいない
全額自費。総額で数百万円になる例も 未承認薬は救済制度の対象外
健康食品・器具 確かめる仕組みがない
機能性表示食品も企業の届出のみ
全額自費。月数万円が何年も続く例が多い 救済制度なし

表1 標準治療と、その「外」にあるものの違い。金額は一般的な目安で、個別の回で出典つきの数字を示す。

根拠はどこまであるか

標準治療を受けずに代替医療だけを選ぶと、何が起きるか。米国の全国がんデータベースで、転移のない乳がん・前立腺がん・肺がん・大腸がんの患者さんを比べた研究があります。 代替医療だけを選んだ281人は、標準治療を受けた560人に比べて、死亡リスクが2.5倍でした。乳がんでは5.7倍です(Johnson ら、J Natl Cancer Inst 2018)。

日本の全国調査では、がん患者さんの44.6%が何らかの補完代替医療を使い、その60.7%は医師に相談していませんでした(兵頭ら、J Clin Oncol 2005)。

ここだけ覚えるいちばん避けたいのは、標準治療を「やめて」乗り換えることです。

SECTION 04 「もう標準治療はありません」と言われたら

在宅の現場で、根拠のない治療の話がいちばん出るのは、この言葉の直後です。 ご家族は「病院に見捨てられた」と感じています。

この言葉の意味は、「がんを小さくする治療の選択肢が尽きた」です。「医療が終わった」ではありません。 痛みを取る、息苦しさを和らげる、食べられるようにする。こうした緩和ケアは、最期まで続く標準治療です。

在宅の現場では

訪問診療の初回に、「病院ではもう何もしてくれない。でも、あるクリニックには末期でも治った人の話が載っていた」と聞くことがあります。 私たちがまず伝えるのは、「見捨てられたのではなく、治療の目標が変わったのです」ということです。 そのうえで、見つけてきた治療については否定から入らず、「図1のどの段階か」「費用はいくらか」を一緒に確かめます。 効くか分からない治療にいくら出すかは、医学ではなく、そのご家庭の暮らしの問題だからです。

SECTION 05 ホームページで見る、3つのこと

医療機関の広告とホームページには、法律上のルールがあります(医療広告ガイドライン)。 覚えるのは、読み方に直した3つだけで十分です。

  • 体験談と、治療前後の写真で説得していないか「ステージ4から生還した◯◯さん」は、医療機関のホームページでは法律で禁止されています。禁止された手段で説得している、という事実がまず大事です。
  • 費用とリスクが、効果と同じ大きさで、同じページにあるか自由診療を載せるなら、費用・期間・回数と、主なリスク・副作用を書くことが義務です。「お問い合わせください」と小さな文字のリンクは、ガイドラインが名指しで禁じている形です。
  • 未承認の薬なら、「救済制度の対象外」と書いてあるか承認薬で重い副作用が出れば公的な救済がありますが、未承認薬にはありません。ここが書かれていないページは、いちばん不利な情報を隠しています。
制度のしくみ

医療機関の広告・ホームページで禁止されているのは、次の5つです(医療法第6条の5、医療法施行規則第1条の9)。

1. 他より優れていると言う「比較優良広告」
2. 事実を大げさに言う「誇大広告」
3. 公序良俗に反する広告
4. 患者の体験談
5. 誤解を招く治療前後の写真

明らかな違反は、厚生労働省の「医療機関ネットパトロール」に通報できます。入口は下の「困ったときの相談先」にあります。

ここだけ覚える書いてあるべきことが書いてないページは、その時点で信用しません。
在宅医の視点

「標準」と聞いたら、安心してください。

標準治療は、その人の前に立った何万人もの患者さんが、臨床試験に参加して残していった結果です。 どこかの誰かが独自に思いついた治療とは、背負っているものの重さが違います。

だから、「特別な治療」を探すより、標準治療を最後まで受けきれる体を保つことに力を使ってください。 食べる、動く、眠る、痛みを我慢しない。地味ですが、これらは根拠のある「治療」です。 それでも気になる治療があれば、隠さずに主治医に聞いてください。「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける関係が、いちばんの防御です。

この回のチェックリスト(第1回ぶん)

  • 勧められた治療が、「標準治療」「治験・先進医療」「自由診療」「健康食品」のどれか、言葉で言える。
  • 「最新」と言われたら、「ヒトで、いまの標準治療と比べた試験は終わっていますか」と聞いた。
  • そのホームページに、費用と副作用が、効果と同じ大きさで書いてあった。
  • 「もう治療がない」は「がんを小さくする治療」の話で、緩和ケアは続くと理解している。
  • 使っている健康食品・受けている自由診療を、主治医に伝えてある。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。

ふくろう訪問クリニック(訪問診療) 福岡市早良区荒江2-6-37 第2渡辺ビル1階
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Q&A よくある質問

Q標準治療は、保険の都合で決められた「安い治療」ではないのですか。
A順番が逆です。先に効果が確かめられ、そのあとで保険がきくようになります。保険がきくことは「検証を通った」の印です。1回数百万円する新薬も、効果が証明されたものは保険で使えます。
Q自由診療をしているのも医師です。それでも信用できないのですか。
A医師免許は「診療をしてよい資格」で、「その治療が効く」ことの保証ではありません。標準治療には、その医師とは別に、効果を確かめた試験と審査した専門家がいます。自由診療には、その第三者がいません。
Qいま受けている治療が標準治療かどうか、家族でも確かめられますか。
Aできます。国立がん研究センター「がん情報サービス」の「病名から探す」に、がんの種類ごとの標準治療の流れが一般向けに書かれています。迷ったら、がん相談支援センター(下の相談先)に、資料を持って行ってください。無料で、どの病院にかかっていても相談できます。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「標準治療と診療ガイドライン」2023年4月19日更新(https://ganjoho.jp/public/knowledge/guideline/index.html
  2. 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf
  3. 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
  4. 厚生労働省「先進医療の概要について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index.html
  5. Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1)(https://doi.org/10.1093/jnci/djx145
  6. Hyodo I, Amano N, Eguchi K, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-2654(https://doi.org/10.1200/JCO.2005.04.126
  7. 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(https://www.ejim.ncgg.go.jp/public/hint/index.html
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。