卵はいつまで生で食べられる?

冷蔵庫の奥から出てきた卵のパック。賞味期限は3日前。「卵に賞味期限はないって聞いたことがある」「加熱すれば大丈夫でしょう」——どれも半分だけ本当です。卵の賞味期限は、ほかの食品と意味がちがいます。このコラムでは、行政の決まりごとと最新の研究をもとに、「いつまで生で食べられるのか」「加熱したら良いのか」「冷蔵庫なら良いのか」を、家庭の冷蔵庫の前で判断できる形に整理します。

SECTION 01 結論から——卵の賞味期限は「生で食べられる期限」

  1. 1卵の賞味期限は、ほかの食品とちがって「安全のための期限」スナック菓子の賞味期限は「おいしさの目安」ですが、卵の賞味期限は「生で食べても食中毒(サルモネラ)の心配がない期限」として設定されています。だから期限を過ぎたら、生で食べるのはやめる。これが一番の結論です。
  2. 2期限を過ぎても、冷蔵していてひびがなければ、しっかり加熱すれば食べられる農林水産省も「賞味期限を過ぎても、割ったときの状態に問題がなければ、食品全体が70℃に達するよう加熱すれば食べられる」と説明しています。逆に、期限内でも常温に長く置いた卵や、割ったまま放置した卵のほうが危険です。
  3. 3「卵に賞味期限はない」は、半分だけ正しい10℃以下で保存すれば理論上57日生食できるという計算が、確かに表示の根拠になっています。ただし店頭の表示は「夏の気温」を基準に2〜3週間へ安全側に寄せてあり、冬でも同じ表示です。そして高齢者・妊婦・乳幼児・免疫の下がった人は、期限内でも加熱して食べるのが基本です。

SECTION 02 「賞味期限」なのに安全の期限——卵だけの“ねじれ”

食品の期限表示には2種類あります。消費期限は「安全に食べられる期限」で、お弁当や生めんなど傷みやすい食品につきます。賞味期限は「品質が保たれておいしく食べられる期限」で、缶詰やスナック菓子など傷みにくい食品につき、過ぎてもすぐ食べられなくなるわけではありません。消費者庁は2025年3月28日に「食品期限表示の設定のためのガイドライン」を改正し、消費期限は微生物試験など安全性の試験を優先して、賞味期限は理化学試験や官能検査など品質の試験を優先して決めるべきだと整理し、食品ロスを減らすため安全係数は1に近づけることが望ましいとしました。

ところが卵は、この整理にきれいに収まりません。1998年11月25日の厚生省通知「食品衛生法に基づく鶏卵の表示基準」は、生食用の殻付き卵の期限は「生食しても食品衛生上の問題の生じることのない期限」を表示するよう定め、あわせて「賞味期限経過後は加熱殺菌を要する旨」の記載を求めました。つまり卵の期限は、名前こそ賞味期限ですが、中身は生食の安全ラインです。1990年前後に卵が原因のサルモネラ食中毒が急増したことを受けて、1998年11月に規格基準・表示基準がつくられ、1999年11月から施行されました。

ふつうの食品 賞味期限=おいしく食べられる期限 スナック菓子や缶詰など、傷みにくい食品につく。過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではない。 傷みやすい食品 消費期限=安全に食べられる期限 お弁当、生めん、生菓子など。過ぎたら食べないほうがよい。 卵だけ特別 卵の賞味期限=「生で」安全に食べられる期限 名前は賞味期限でも、中身はサルモネラ対策の安全ライン。過ぎたら生食はやめ、十分に加熱すれば食べられ る。この“ねじれ”が誤解のもと。 出典:消費者庁「食品期限表示の設定のためのガイドライン」(2025年3月改正)、厚生省通知「食品衛生法に基づく鶏卵の表示基準」(1998年11月 25日)をもとに作成

図1 賞味期限・消費期限・卵の賞味期限の違い。卵の賞味期限は「名前は品質、中身は安全」というねじれた位置にある。

飲食店には法律の縛りがあります。食品衛生法の規格基準では、殻付き卵を加熱殺菌せずに提供する場合は「賞味期限内の生食用の正常卵」を使わなければならないと定めています。お店の卵かけご飯やすき焼きの生卵は、期限を過ぎたものを出すことが認められていません。家庭での判断も、この線に合わせておくのが分かりやすい方法です。

SECTION 03 なぜ「2週間」なのか——表示の裏には計算式がある

卵の賞味期限は、法律で「何日」と決まっているわけではありません。日本卵業協会が科学的根拠にもとづく設定方法を示し、各事業者がそれに沿って自主的に決めています。その根拠になっているのが、英国の微生物学者ハンフリー(T. J. Humphrey)らの研究です。卵の中に少数のサルモネラがいたとしても、卵黄をつつむ膜が保たれているあいだは増えない。膜がゆるんで菌が卵黄の栄養に届くまでの日数は、保存温度で決まる——この知見から、温度ごとの「生で食べられる日数」の表がつくられました。

保存温度が高いほど、生で食べられる日数は短くなる(理論値・産卵日からの日数) 10℃ 57日 15℃ 43日 20℃ 30日 25℃ 21日 28℃ 16日 日本卵業協会はこの表と各季節の平均気温(東京)から、次の上限を置いている 夏(7〜9月) 8月の平均気温27.5℃→ 採卵後16日以内 春秋(4〜6月・10〜11月) 6月の平均気温22.5℃→ 採卵後25日以内 冬(12〜3月) 3月の平均気温10.0℃→ 採卵後57日以内 注:表示される賞味期限は、この日数から流通日数と「家庭の冷蔵庫で7日間」を見込んで短めに置かれる(多くはパック後2週間前後)。 出典:日本卵業協会「表示とタマゴの安心」、農林水産省 aff 2024年4月号、Humphrey TJ. Epidemiol Infect 1993 をもとに作成

図2 保存温度と生で食べられる日数の理論値。10℃なら57日、25℃なら21日、28℃なら16日。日本卵業協会は東京の各季節の平均気温をあてはめて上限を置いている。

農林水産省は2024年4月の広報誌で、卵の賞味期限は「現在は21日(家庭の冷蔵庫で7日間保管することを含む)を最長」としていると説明しています。これは夏(25℃)を基準にした数字です。実際の店頭では、バイヤーとパック事業者の話し合いで「パック後2週間程度」に統一している例が多く、冬でも同じ長さで表示されます。つまり冬の卵は、表示より実際にはかなり余裕があります。ただしこの理論値の前提は「10℃以下・温度変動なし・ひびなし」です。買い物袋の中で1時間、車の中で30分——こうした時間は計算に入っていません。

SECTION 04 敵はサルモネラ——卵の中で何が起きているか

卵の食中毒でいちばん問題になるのは、サルモネラ・エンテリティディス(SE)という菌です。汚染のしかたは2通りあり、ひとつは鶏の体内で卵がつくられる過程で卵の中に入る「卵内汚染」、もうひとつは殻の外側につく「殻汚染」です。日本の市販卵は選別包装施設(GPセンター)で洗卵・殺菌されるため、殻汚染はほぼ取り除かれます。問題は卵内汚染で、これは洗っても落ちません。

では、どれくらいの卵が中まで汚染しているのでしょうか。2004年の国内調査では10個ずつまとめた9,010検体のうち2検体から検出され、2007年の農林水産省の調査では市販卵20,300個の卵内容からは検出されませんでした。これらから北里大学の中村政幸氏は「約3万個に1個」と推定しています。日本人は1人あたり年間330個前後の卵を食べ、生卵や半熟卵は食品安全委員会の2006年の調査で1人年間47食程度です。「ごくまれ」と「毎日食べる」の掛け算が、日本の卵の安全対策がきびしい理由です。

産卵直後 菌がいても「数個」で、卵白の中では増えにくい 国内の市販卵で卵の中まで汚染しているのは推定3万個に1個程度。卵白は鉄を奪う成分やリゾチームで菌の増 殖を抑える。 日数が経つ 卵黄をつつむ膜(卵黄膜)が少しずつ弱くなる 弱り方は温度で決まる。20℃で約3週間、暖かい台所ではもっと早い。冷蔵庫の中ではゆっくり進む。 膜がゆるむ 菌が卵黄の栄養に届き、一気に増える ここからは生食の危険域。北里大学の実験では、10℃と20℃では6週間ほとんど増えなかったが、30℃では3 週間で菌が100万個を超える卵が目立って増えた。 温度が上下 常温と冷蔵を行き来する卵がいちばん危ない 22〜30℃で5日置いてから25℃に戻すと1〜2週間で急増。買い物袋や車内に置いた卵、出し入れの多いドアポ ケットが該当する。 出典:Humphrey TJ. Epidemiol Infect 1993;111:209-219/Okamura M. Epidemiol Infect 2008;136:1210-1216/鶏鳴新聞2012年12月5日(中村政幸 「約3万個に1個」)をもとに作成

図3 卵の中でサルモネラに何が起きるか。産卵直後の菌数は少なく、卵黄膜がゆるむまでは増えない。膜のゆるみ方は温度で決まり、温度が上下する卵がもっとも危ない。

ハンフリーらは1991年、自然にSEに感染した鶏群の卵5,700個以上を調べ、卵の中身が陽性だったのは0.6%で、ほとんどは菌数が少なかったこと、しかし21日を超えて保存した卵では菌数の多い卵が有意に増えることを報告しました。1993年の研究では、20℃で保存した卵の大半で、約3週間経つまで菌は急には増えないこと、温度が変動して30℃に達すると増殖が早まることを示しています。北里大学の岡村らは2008年、少数の菌を卵に接種して保存温度を変える実験を行い、10℃と20℃では6週間ほとんど増えず、30℃では3週間で急増したこと、そして22〜30℃で5日置いてから25℃に戻した卵は1〜2週間で急増したことを報告しました。「常温に置いた時間」が、賞味期限の日数を静かに削っていると考えると分かりやすいと思います。

SECTION 05 日本の卵の食中毒は、どれくらい減ったのか

厚生労働省の食中毒統計では、サルモネラ食中毒は1999年に825件・患者11,888人でした。表示基準と規格基準はまさにこの年に施行され、輸入ひなの検疫、鶏へのワクチン、GPセンターの洗卵殺菌、割った卵の「割り置き」禁止の指導などが重なって、2024年には21件・384人まで減っています。2025年(令和7年)は食中毒全体が1,172件と増えましたが、サルモネラは事件数の2.1%で、「卵類及びその加工品」が原因とされた事件は全体の0.1%(概数で1件)でした。2024年は0件です。

サルモネラ食中毒(全原因食品)の年間事件数と患者数 1999年 825件(患者11,888人) 2019年 21件(患者476人) 2020年 33件(患者861人) 2021年 8件(患者318人) 2022年 22件(患者698人) 2023年 25件(患者655人) 2024年 21件(患者384人) 注:1999年は卵の表示基準・規格基準が施行された年。2024年は「卵類及びその加工品」を原因とする食中毒は0件、2025年は全事件の0.1%(概数 で1件)。 出典:厚生労働省「食中毒統計調査」(令和6年食中毒発生状況、令和7年食中毒発生状況の概要)、農林水産省資料をもとに作成

図4 サルモネラ食中毒の事件数の推移。1999年の825件から、2019年以降は年10〜30件台で推移している。

ただし数字の読み方に注意が必要です。この統計は保健所が「食中毒」と断定した事件だけを数えており、家庭で1人が下痢をして受診しなかった例は入りません。実際の感染者はもっと多いと考えるのが自然です。それでも、海外との差は大きいと言えます。欧州食品安全機関(EFSA)と欧州疾病予防管理センター(ECDC)の2024年報告では、EU域内のサルモネラ症は79,703人(人口10万人あたり18.6人)で、「卵と卵製品」のサルモネラが、原因と食品の組み合わせとしてもっとも懸念されるとされています。2023年の報告ではサルモネラ症で88人が亡くなっています。日本でも2023年8月、和歌山県の仕出し弁当によるサルモネラ食中毒で117人が発症し、70歳以上の男性1人が亡くなりました。過去10年(2016〜2025年)の国内のサルモネラ食中毒は患者6,754人・死者2人です。「減った」と「なくなった」は違います。

SECTION 06 加熱したら良いのか——「70℃・1分」の意味

サルモネラは熱に弱く、食品衛生法の規格基準は、殻付き卵を加熱殺菌して提供する場合に「中心部の温度を70℃で1分間以上」またはこれと同等以上の方法で加熱するよう定めています。固ゆで卵、しっかり焼いた卵焼き、炒り卵、焼き菓子はこの条件を満たします。だから「賞味期限を過ぎた卵は加熱すれば食べられる」は正しいのです。

問題は「加熱」の中身です。半熟の目玉焼き、温泉卵、とろとろのオムレツ、親子丼の卵は、中心が70℃に届きません。菌は減りますがゼロにはならないので、これらは賞味期限内の卵で作って、すぐ食べる料理です。厚生労働省の家庭向けの注意事項でも、十分に加熱しない卵料理は調理を始めてから2時間以内に食べ、残ったら捨てるとされています。

期限内だけ 卵かけご飯・すき焼き・自家製マヨネーズ・ティラミス 加熱しない料理。賞味期限内で、冷蔵していて、ひびのない卵を、食べる直前に割る。作り置きしない。 期限内だけ 半熟の目玉焼き・温泉卵・とろとろオムレツ・親子丼 中心まで70℃に届かない調理。菌は減るがゼロにならないので、期限内の卵で作ってすぐ食べる。 期限後も可 固ゆで卵・しっかり火を通した卵焼き・炒り卵・ケーキ 中心部70℃で1分以上(またはこれと同等)でサルモネラは死滅する。冷蔵保存が守られていた卵なら、期限 を過ぎても食べられる。 やめる 割ってから時間が経った卵・常温に長く置いた卵・ひびの卵を生で 殻の外に出た卵は栄養豊富で菌が増えやすい。割った卵は放置せず、ひび卵は加熱用に回す。 出典:食品衛生法「食品、添加物等の規格基準」(鶏の殻付き卵を加熱殺菌して飲食に供する場合は中心部70℃で1分以上)、農林水産省・厚生労働 省の啓発資料をもとに作成

図5 料理別に見た、賞味期限と加熱の関係。生・半熟は期限内だけ、中心まで70℃1分の加熱なら期限後も可、割った卵の放置と常温放置は避ける。

「加熱すれば何でも大丈夫」にならない4つの場面
1. 割ってから時間が経った卵——殻の外に出た卵は栄養が豊富で、菌が一気に増えます。卵焼き用に前夜から溶いておく、弁当のために朝まとめて割っておく、はやめましょう。
2. ひびの入った卵——ひびから殻の外の菌が入ります。賞味期限内でも生食はやめ、早めに加熱調理に。
3. 二次汚染——生卵を割ったボウルや箸、殻を触った手で、サラダなど加熱しない食品を扱わない。過去に、生卵を割ったボウルを洗わずにポテトサラダを作って起きた食中毒があります。
4. 常温に長く置いた卵——加熱で菌は死にますが、菌が増えすぎた卵は加熱ムラで生き残る余地が大きくなり、においや性状も変わります。割ったときに異臭・濁り・水っぽさがあれば、加熱してもやめてください。

SECTION 07 冷蔵庫なら良いのか——「10℃以下」と「温度を動かさない」

食品衛生法の規格基準は、殻付き卵は10℃以下で保存することが望ましいとしています。ここで大事なのは、日本の卵は洗卵で殻の表面の保護膜(クチクラ)が落ちているため、冷蔵が前提の設計になっていることです。冷たい卵を暖かい部屋に出すと表面に結露し、その水分を通って殻の外の菌が中に入りやすくなります。「買ったらまっすぐ冷蔵庫へ、出したら戻さない」が基本です。

海外の考え方も参考になります。米国農務省(USDA)は、卵は4℃以下で冷蔵し、家庭では3〜5週間以内に使い、2時間以上室温に置かないよう案内しています。一方EUでは、卵を洗わずクチクラを残したまま流通させるため、店頭では常温で並び、賞味期限は産卵後28日以内と決められています。方式は正反対に見えますが、どちらも「途中で温度を行き来させない」ことを守っています。日本は米国型です。店で冷蔵されていた卵を、家でも冷蔵する——このつながりを切らないでください。

おすすめ 冷蔵庫の奥の棚に、買ってきたパックのまま入れる 10℃以下で温度が安定する場所。パックは殻の乾燥とにおい移りを防ぎ、賞味期限の表示も残る。 おすすめ とがったほうを下にして置く 丸いほう(気室がある側)を上にすると卵黄が中央に保たれやすい。 できれば避ける ドアポケットの卵ケース 開け閉めのたびに温度が上がり、結露もしやすい。数日で使い切る量なら大きな問題はないが、生食するな ら奥の棚が安全。 避ける 常温に長く置いた卵を、あとから冷蔵庫に戻す 日本の卵は洗卵で殻の保護膜が落ちているので、温度差の結露から菌が入りやすい。買ったらまっすぐ冷蔵 庫へ。 加熱用に ひびが入った卵、賞味期限を過ぎた卵 生食はやめて、しっかり火を通す料理に。割ったときににおい・濁り・水っぽさがあれば捨てる。 出典:厚生労働省「家庭における卵の衛生的な取扱いについて」、農林水産省「疑問解消!たまごのヒミツQ&A」、USDA FSIS「Shell Eggs from Farm to Table」をもとに作成

図6 冷蔵庫での卵の置き方。奥の棚にパックのまま、とがったほうを下。ドアポケットは温度が動きやすく、常温に置いた卵をあとから冷やすのが一番危ない。

ゆで卵は生卵より日持ちしません。ゆでると卵白の抗菌成分が失われ、殻の保護も弱くなるため、殻付きでも冷蔵で2〜3日、殻をむいたら当日中が目安です。なお、卵を水に入れて「浮くか沈むか」で確かめる方法は、殻の内側の空気(気室)が大きくなったかどうか、つまり鮮度の目安であって、サルモネラがいるかどうかは分かりません。

SECTION 08 「卵に賞味期限はない」説を検証する

この説には根拠があります。10℃以下なら理論上57日生で食べられる、という日本卵業協会の表です。冬に産まれた卵が、冷蔵庫で1か月経っても生で食べられた——という経験は、この理論値の範囲内です。それでも、家庭で「賞味期限はない」と扱うことは勧めません。理由は次の5つです。

  1. 1表示が短いのは「夏基準・安全側」だから、余裕の大きさが季節で変わる夏の卵は表示どおりに余裕が小さく、冬の卵は余裕が大きい。同じ「期限3日過ぎ」でも意味が違います。
  2. 2理論値の前提「10℃以下・温度変動なし」を、家庭で証明できない買い物から冷蔵庫までの時間、ドアポケットの開け閉め、停電。表示はこうしたブレを吸収するために短く置かれています。
  3. 3日数が経つほど、汚染していた場合の菌数が増える汚染卵は3万個に1個でも、その1個に当たったときの菌数が21日を境に増える(ハンフリーら1991年)。期限は「当たったときの被害」を小さくする仕組みです。
  4. 4水に浮くテストや見た目では、菌の有無は分からない鮮度と安全は別のものです。においや濁りは「捨てる理由」にはなっても、「なければ安全」の証明にはなりません。
  5. 5飲食店は期限を過ぎた卵を生で出せない規格基準で禁止されています。家庭だけが法律の外にいるからこそ、同じ線を引いておくほうが安心です。

まとめると、「卵に賞味期限はない」のではなく、「卵の賞味期限は温度管理が完璧でなくても安全なように、短く置かれている」が正確です。家庭で守れるのは温度だけなので、その温度が守られていた卵は加熱で活かし、生で食べるのは期限内にとどめる。これが表示の意図に沿った使い方です。

SECTION 09 期限内でも「生」を避けたほうがいい人

厚生労働省は、高齢者、2歳以下の乳幼児、妊娠中の女性、免疫機能が低下している人には、生卵を避けて十分に加熱した卵料理を提供するよう呼びかけています。当院の患者さんに多いのは、抗がん剤治療中、ステロイドや免疫抑制薬・生物学的製剤を使っている、造血幹細胞移植後、といった方々です。これに加えて、意外と知られていない2つの条件があります。

ひとつは胃酸を抑える薬です。胃酸は口から入った菌の関所で、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を使っている人はサルモネラ感染のリスクが約4.8倍(9研究のメタ解析、オッズ比4.84、95%信頼区間2.75〜8.54)という報告があります。逆流性食道炎や胃薬として長く飲んでいる高齢者は少なくありません。もうひとつは胃を切除している人で、同じ理由で菌が腸まで届きやすくなります。

かかったときの症状と受診の目安

サルモネラ食中毒は食べてから6〜72時間で、発熱、腹痛、下痢、嘔吐が出ます。健康な大人なら数日で自然に治り、米国感染症学会(IDSA)の2017年のガイドラインも、合併症のない健康な人のサルモネラ腸炎には抗菌薬を原則使わないとしています。抗菌薬を使うと、かえって菌を長く排出することがあるためです。ただし、生後3か月未満の乳児、50歳以上で動脈硬化のある人、免疫不全の人、人工弁や人工関節のある人では、菌が血液に入るリスクがあるため抗菌薬治療が検討されます。次のときは受診してください。

受診の目安
・38℃以上の熱が2日以上続く、または血便がある
・水分がとれない、尿が半日以上出ない、立ちくらみがする(脱水)
・高齢者、乳幼児、妊婦、抗がん剤・ステロイド・免疫抑制薬を使っている人の下痢と発熱
・下痢止めで無理に止めない。止めると菌の排出が遅れます。
・同じ食事をした人が複数いる場合は、保健所への届け出につながることがあります。

当院の視点——「期限内か」より「冷蔵庫のどこに、何日あったか」

在宅の診療で、卵の話は実はよく出ます。訪問先で私たちが見ているのは、卵そのものより温度の履歴です。

  1. 1訪問時に冷蔵庫の「置き場所」と「温度」を一緒に確かめる期限表示より、ドアポケットに1か月あるパックや、設定が「弱」で庫内が10℃を超えている冷蔵庫のほうが問題です。庫内温度計を1つ入れておくだけで判断が変わります。
  2. 2抗がん剤・ステロイド・PPIの方には「禁止」ではなく「加熱に変える」提案をする卵かけご飯が朝の楽しみという方に「生卵は駄目です」とだけ言うと食が細くなります。固ゆで卵、しっかり焼いた卵焼き、卵入りの雑炊など、同じ卵を安全に食べる形に置き換えます。
  3. 3下痢のときは「止める薬」ではなく「飲んでいる薬」を見る利尿薬、降圧薬(ARB・ACE阻害薬)、メトホルミン、NSAIDsは、下痢による脱水で腎臓を傷めやすい薬です。食中毒が疑われる下痢では、これらを一時的に減らす・止める判断が必要になることがあり、訪問看護と共有しています。
  4. 4認知症の一人暮らしでは、期限管理より「買い置きを減らす」賞味期限を読んで判断することが難しい方には、10個パックを6個パックに、あるいはゆで卵を訪問時に作って2日分だけ残す、といった形のほうが確実です。

SECTION 10 場面別の早見表

場面生で食べるどうするか
賞味期限内・冷蔵庫の奥・ひびなし食べる直前に割り、作ったらすぐ食べる。
賞味期限を1週間過ぎた・ずっと冷蔵不可固ゆで・しっかり卵焼きなど中心70℃1分以上の加熱で食べる。割って異臭・濁りがあれば捨てる。
賞味期限を1か月以上過ぎた不可冷蔵が保たれていたなら加熱で食べられることが多いが、風味は落ちる。迷ったら捨てる。
賞味期限内だが、買い物のあと車内に半日置いた不可温度変動で菌が増えやすい条件。加熱調理に回す。
ドアポケットに入れていた(期限内)できれば避ける数日で使い切るなら大きな問題はないが、生食は奥の棚の卵で。
ひびが入っている不可期限内でも早めに加熱調理に。
朝に溶いた卵を夕方に使う不可割った卵は放置しない。使う分だけ割る。
半熟の目玉焼き・温泉卵・親子丼期限内のみ期限内の卵で作り、2時間以内に食べる。高リスクの人は固めに。
自家製マヨネーズ・ティラミス期限内のみ使う分だけ作り、作り置きしない。高リスクの人には出さない。
高齢者・妊婦・乳幼児・抗がん剤やステロイド治療中避ける期限内でも加熱した卵料理に。
PPI(胃酸を抑える薬)を長く飲んでいる・胃切除後控えめにサルモネラ感染のリスクが高い。生食は控えめに、加熱を基本に。
ゆで卵の保存殻付きで冷蔵2〜3日、殻をむいたら当日中。

SECTION 11 よくある質問

賞味期限が過ぎた卵は、何日までなら加熱して食べられますか?
法律や行政が「何日まで」と示した数字はありません。10℃以下の冷蔵が守られていて、割ったときに異臭・濁り・水っぽさがなければ、期限後1〜2週間程度は加熱調理で使う家庭が多く、農林水産省の説明とも矛盾しません。冬の卵は余裕が大きく、夏は小さい、と覚えておくと判断しやすくなります。
冷蔵庫に入れていれば、期限内は絶対に安全ですか?
「絶対」ではありません。汚染卵は約3万個に1個ですが、ゼロではありません。期限内でも、ひびのある卵、割って時間が経った卵、常温に置いた卵は避けてください。高齢者や免疫の下がった方は期限内でも加熱が基本です。
温泉卵や半熟卵は「加熱」に入りますか?
入りません。中心が70℃1分に届かないため、サルモネラが残る可能性があります。賞味期限内の冷蔵卵で作り、作ったらすぐ食べてください。期限を過ぎた卵は固ゆで・しっかり焼きに。
スーパーの卵が常温で売られていることがあります。大丈夫ですか?
日本の卵は冷蔵前提の設計なので、家に持ち帰ったらすぐ冷蔵してください。買い物の最後に卵をかごに入れ、寄り道せずに帰ることが実は一番の対策です。海外(EU)で常温陳列が普通なのは、殻を洗わず保護膜を残しているためで、日本の卵とは前提が違います。
賞味期限の表示は、産卵日からですか?パック日からですか?
期限の年月日だけが必須で、起算日はパックによって違います。多くは「パック後2週間程度」で、産卵日からだと最長21日(夏基準)です。産卵日を書いているパックもあるので、生で食べるなら産卵日に近いものを選ぶのがよい方法です。
家族がサルモネラ食中毒になったら、抗菌薬をもらったほうがいいですか?
健康な大人の腸炎には原則使いません。水分と塩分をこまめにとり、下痢止めで無理に止めないことが大切です。乳児、高齢で動脈硬化のある方、免疫の下がった方、人工弁・人工関節のある方は菌が血液に入ることがあるので、早めに受診して相談してください。

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SECTION 13 参考文献・資料

  1. 農林水産省.特集「疑問解消! たまごのヒミツQ&A」.広報誌 aff 2024年4月号.https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2404/spe1_01.html
  2. 一般社団法人 日本卵業協会.「表示とタマゴの安心」(賞味期限の設定の仕方、保存温度と生食できる期間).http://www.nichirankyo.or.jp/ansin/amsin01.htm / amsin02.htm
  3. 厚生省生活衛生局.食品衛生法に基づく鶏卵の表示基準について(1998年11月25日 生衛発第1674号).
  4. 厚生労働省.食品、添加物等の規格基準(鶏の殻付き卵の使用基準・保存基準:加熱殺菌は中心部70℃1分間以上、10℃以下で保存することが望ましい).
  5. 厚生労働省.卵及び卵加工品によるサルモネラ食中毒の発生防止のための対策(参考5).https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000040842.pdf
  6. 消費者庁食品表示課.食品期限表示の設定のためのガイドライン(2025年3月28日改正).https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1029.pdf
  7. 厚生労働省.令和6年食中毒発生状況.https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001461269.pdf
  8. 厚生労働省.令和7年食中毒発生状況の概要.https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001679199.pdf
  9. 農林水産省消費・安全局.有害微生物のリスク管理について~鶏卵のサルモネラ~(資料2-1).https://www.maff.go.jp/j/study/risk_kanri/r2-2/attach/pdf/index-2.pdf
  10. 食品安全委員会.食品健康影響評価のためのリスクプロファイル~鶏卵中のサルモネラ・エンテリティディス~(改訂版).2010年4月.https://www.fsc.go.jp/sonota/risk_profile/risk_salmonella.pdf
  11. 中村政幸.わが国の殻付卵のSE汚染度 約3万個に1個の汚染率に低下.鶏鳴新聞 2012年12月5日.https://keimei.ne.jp/article/20121205n1.html
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  19. USDA Food Safety and Inspection Service. Shell Eggs from Farm to Table(家庭での冷蔵4℃以下・3〜5週間、室温放置は2時間まで).
  20. Commission Regulation (EC) No 589/2008 laying down detailed rules for marketing standards for eggs(賞味期限は産卵後28日以内).

本記事の作成にあたり、企業からの資金提供や便宜供与は受けていません。数値は2026年9月時点で確認できた公的資料・査読論文にもとづきます。