窓越しの日光浴は意味がない?

「外に出るのは大変だから、窓ぎわの椅子で日光浴をしています」——訪問診療の現場で、ほぼ毎日のように聞く言葉です。ご家族が一生懸命ベッドを窓に向け、カーテンを開け、日の当たる時間に合わせて椅子を移動させている。その光景には、確かな善意があります。

ところが、「窓越しの日光浴ではビタミンDは作れない」というのも、また事実です。では、あの時間はすべて無駄だったのでしょうか。

結論を先に言えば、「骨のためには効いていないが、別のことには確かに効いている」——それが、現時点の科学が示す答えです。この記事では、窓ガラスが紫外線に対して実際に何をしているのかを波長のレベルから確認し、多くの方が誤解しやすい点を整理したうえで、在宅療養の現場で何をどう変えればよいのかまで踏み込みます。

SECTION 01結論を3行で

  1. ビタミンDについては、窓越しの日光浴はほぼ無意味です。一般的な窓ガラスは、ビタミンD合成に必要な波長(UVB)をほとんど通しません。時間を延ばしても、この壁は越えられません。
  2. 一方で、紫外線の「害」の側は通り抜けます。光老化や薬剤性の光線過敏を起こすUVAは、窓ガラスを6〜7割ほど通過します。「利益はゼロ、害はゼロではない」という非対称が起きています。
  3. それでも窓ぎわの光には価値があります。体内時計を整え、日中の覚醒と夜の睡眠を支える働きは、ガラス越しの明るさでも十分に届きます。目的を「骨」から「昼と夜のリズム」に置き換えると、あの時間は意味を取り戻します。

SECTION 02まず、ビタミンDを作るのは「どの光」なのか

太陽から地表に届く紫外線は、波長によって3つに分けられます。波長の長いほうからUVA(315〜400ナノメートル)、UVB(280〜315ナノメートル)、UVC(200〜280ナノメートル)です。UVCはオゾン層でほぼ完全に吸収され、地表には届きません。

ここで重要なのは、皮膚でビタミンDを作れるのがUVBだけだという点です。皮膚にあるプロビタミンD(7-デヒドロコレステロール)という物質が、おおむね290〜315ナノメートルの狭い波長帯の光を吸収したときにだけ、ビタミンD3への変換が始まります。UVAはこの反応をまったく起こしません。日焼けの「ヒリヒリ」や日焼け止めのSPFが対象にしているのも、主にUVBのほうです。

つまりビタミンD合成は、「太陽の光を浴びる」という漠然とした話ではなく、幅25ナノメートルほどの、きわめて狭い波長の窓を開けられるかどうかという話なのです。そして窓ガラスは、まさにその窓だけを閉ざす性質を持っています。

図1 太陽紫外線の波長と、ガラスがつくる「壁」 UVB(280〜315nm) UVA(315〜400nm) ビタミンDが作られる波長帯 一般的な窓ガラスが ほぼ遮断する範囲 UVB UVA 290〜315nm ← ビタミンD合成はこの幅だけで起きる 280 290 315 400 nm ガラスの壁は、ちょうど「役に立つ側」の手前に立っている。だから時間を延ばしても越えられない。 一方、光老化や薬剤性光線過敏の原因になるUVAは、壁の向こう側にあるため通り抜けてくる。

図1/波長の目盛りとバンドの位置は文献値にもとづく模式図です。ガラスの遮断域の境界(およそ320nm付近)はガラスの種類・厚さによって前後します。

SECTION 03ガラスは何を止め、何を通しているのか

皮膚科領域では、窓ガラスの光防護作用は繰り返し実測されてきました。結論は一貫しています。建物用・自動車用を問わず、市販されているガラスはUVBのほとんどを遮断する。一方、UVAをどれだけ通すかはガラスの種類によって大きく異なる——というものです(Tuchindaら 2006、Almutawaら 2013)。

鍵になるのは「合わせガラス」かどうかです。2枚のガラスの間に樹脂の中間膜をはさんだ合わせガラスは、この中間膜がUVAをよく吸収します。自動車のフロントガラスは法規上この構造で、UVAもほぼ通しません。対して運転席側のドアガラスは強化ガラス(1枚もの)であることが多く、UVAはかなり通り抜けます。

2024年に米国で34台の車両を実測した最新の研究では、フロントガラスのUVA遮断率が平均99.25%だったのに対し、運転席側の窓は平均88.78%にとどまりました。しかも車種による差が大きく、非高級車では前後の窓で明らかな差があったと報告されています(Axelsonら、Arch Dermatol Res 2025)。眼科領域からの調査でも、フロントガラスのUVA遮断率が平均96%、サイドガラスが平均71%(車種により44〜96%と大きな幅)という同様の傾向が示されています(Boxer Wachler、JAMA Ophthalmol 2016)。

図2 ガラスの種類別・紫外線の「通過率」 バーが長いほど、その紫外線がたくさん通り抜けてくることを意味します(0〜100%)。 ① 一般的な窓ガラス(住宅・施設のフロート板ガラス) UVB ほぼ0% UVA 約6〜7割 ビタミンDは作れないが、光老化の原因になる光は届いている ② 合わせガラス(自動車のフロントガラス) UVB ほぼ0% UVA 約1% 中間膜がUVAを吸収するため、遮断率は平均99.25%(Axelson 2025) ③ 強化ガラス(自動車の運転席・助手席側のドアガラス) UVB ほぼ0% UVA 約11% 遮断率は平均88.78%。車種差が大きく、44〜96%という報告もある ④ UVカットフィルム貼付/Low-E複層ガラス UVB ほぼ0% UVA 数%以下 製品差が大きい。「UVカット」表示でもUVA側の性能は要確認

図2/UVAの数値はAxelsonら(2025)とAlmutawaら(2013)の報告にもとづく代表値です。実際の透過率はガラスの厚さ・色・コーティング・経年で変動します。②③は自動車ガラスの実測値で、住宅の窓とは条件が異なります。

ひとつ、直感に反する発見/Axelsonらの解析では、車の「製造年」ではなく「走行距離」のほうが運転席側のUVA遮断率を予測する因子でした。走行距離が長い車ほどUVAをよく遮っていたのです。ガラス表面の微細な傷や汚れが散乱を増やした結果と考えられますが、これは「新しい車だから安心」とは言えないことを意味しています。

SECTION 04では、窓越しでビタミンDはどれだけできるのか

答えは、実質ゼロです。「ほとんど作れない」ではなく「作られる反応そのものが起きない」に近い状態です。UVBが届かない以上、皮膚の中でプロビタミンDが変換されるスイッチは入りません。これは日照時間や座っている時間の長さでは補えません。1時間座っても2時間座っても、ゼロにゼロを足しているのと同じことになります。

屋外なら、どのくらいの時間が必要なのか

国立環境研究所のグループが、日本国内の紫外線観測データをもとに「顔と両手の甲(およそ600平方センチメートル)を出したとき、ビタミンDを5.5マイクログラム作るのに何分かかるか」を算出しています(Miyauchiら、J Nutr Sci Vitaminol 2013)。この結果は、多くの方の感覚を裏切ります。

図3 ビタミンD 5.5μgを皮膚で作るのに必要な日光浴時間(快晴・顔と両手の甲) 横軸は0〜120分。120分を超えるものはバー右端の矢印で示しています。 0分50分100分 つくば・7月・正午 3.5分 つくば・12月・正午 22.4分 札幌・12月・正午 76.4分 つくば・12月・午前9時 106.0分 つくば・12月・午後3時 271.3分 札幌・12月・午前9時 497.4分 札幌・12月・午後3時 2,741.7分 同じ12月・同じ札幌でも、正午なら76分、午後3時なら約46時間分。「時刻」が最大の変数になる。 これらはすべて「屋外・快晴」での数値。窓ガラス越しでは、いずれの条件でも合成は起きない。

図3/Miyauchi M, Hirai C, Nakajima H. J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2013;59(4):257-263 の数値シミュレーション結果より作図。スキンタイプIII、体表面積600cm²、雲のない条件での推計値です。福岡(北緯約33.6度)は札幌(約43度)とつくば(約36度)の中間よりも南に位置するため、冬季の必要時間はつくばの値より短めになると考えられますが、実測値ではなく推定である点にご注意ください。

この表が教えてくれることは3つあります。第一に、夏の日中なら数分で足りること。第二に、冬は同じ場所でも桁が変わること。第三に、「何分か」より「何時か」のほうが効くことです。冬の午後3時は、正午の10倍以上の時間を要します。「午後の日だまりで1時間」よりも「正午前後に15分」のほうが、はるかに合理的なのです。

SECTION 05利益はゼロ、害はゼロではないという非対称

ここが、この話でいちばん見落とされている部分です。窓ガラスはUVBを止めますが、UVAは通します。そしてUVAは、無害な光ではありません。

UVAはUVBより波長が長く、皮膚のより深い層(真皮の上層まで)に到達します。急激な日焼けは起こしにくい代わりに、長期的にコラーゲンや弾性線維を壊し、しみ・しわ・皮膚のごわつきといった光老化を進めます。また活性酸素を介して間接的にDNAを傷つけることが知られており、皮膚がんのリスク因子としても扱われています。

28年間トラックを運転した男性の顔

この現象を、これ以上ないほど鮮明に示した症例報告があります。2012年のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、69歳男性の写真です。この方は28年間トラックの配達運転手として働いており、顔の左半分だけが、著しく厚く、深いしわを刻み、皮脂腺が拡張していました。右半分はごく普通の高齢者の皮膚です。まるで2人の別人を縦に貼り合わせたような一枚でした。

診断は「片側性の光線性皮膚症(unilateral dermatoheliosis)」。米国は左ハンドルですから、運転席側の窓に面していたのは左側の顔でした。窓ガラスは彼を日焼けから守りましたが、老化からは守らなかったのです。米国では実際に、皮膚がんが顔と腕の左側に多いことが疫学的にも報告されています(Butler & Fosko、J Am Acad Dermatol 2010)。

日本では左右が逆になります。日本は右ハンドルですから、長時間運転する方で偏った光老化が起きるとすれば、それは右の顔・右腕です。長距離ドライバー、営業車で1日中移動する方、そして訪問診療・訪問看護で車に乗り続けている私たち自身も、この話の当事者です。
図4 窓ガラス越しの日光で「起きないこと」と「起きること」 起きないこと ── UVBが届かないため ● 皮膚でのビタミンD3の合成(プロビタミンDの変換反応そのものが始まらない) ● 赤くなる日焼け(サンバーン)。ヒリヒリしないので「浴びていない」と感じやすい ● 乾癬やアトピー性皮膚炎に対する紫外線療法のような治療効果 → 時間を延ばしても、この列は変わらない 起きること ── UVAは6〜7割が通過するため ● 光老化(しみ・しわ・皮膚のごわつき・弾性線維の変性)が少しずつ進む ● 薬剤性の光線過敏症。原因波長は主にUVAなので、屋内でも発症しうる ● 日光じんましん・多形日光疹など、UVAが誘因となる光線過敏性疾患の悪化 ● 長期にわたる場合、皮膚がんリスクへの寄与 → 自覚症状が出にくいまま、年単位で蓄積する

図4/窓越しの日光がもたらすものを整理した対比図です。「痛くない・赤くならない」ことが、かえって蓄積に気づきにくくさせます。

SECTION 06それでも、窓ぎわの光には意味がある

ここまで読むと、窓ぎわの椅子はすっかり悪者に見えてきます。しかし、話はそこで終わりません。

私たちの目の奥には、ものを見るための細胞(錐体・杆体)とは別に、メラノプシンという色素をもった網膜神経節細胞があります。この細胞は「見る」ためではなく、「今が昼か夜か」を脳に伝えるためにあります。ここから届いた信号が体内時計を合わせ、メラトニンの分泌タイミングを決め、日中の覚醒度を保っています。

そしてこの働きに必要な光は、UVBでもUVAでもなく、可視光です。ガラスは可視光をほとんど遮りません。つまり、窓ぎわの日光浴は「骨」には効かないけれど、「昼と夜のリズム」には確かに効いているのです。

2022年、光生物学と睡眠研究の国際的な専門家18名が、PLOS Biology誌に屋内の光環境に関する合意勧告を発表しました。そこでは日中、目の高さでメラノプシン換算照度(melanopic EDI)250ルクス以上を確保することが推奨されています。一般的な室内照明だけでこれを満たすのはかなり難しく、窓からの自然光が現実的な選択肢になります。

図5 明るさの目安(対数目盛。右にいくほど明るい) 1001,00010,000100,000 lx 屋外・快晴の日中 約100,000 lx 屋外・曇りの日中 約10,000 lx 晴れた日の窓ぎわ 約1,000〜3,000 lx 一般的な室内照明の下 約300〜500 lx 夜間の居室・常夜灯 100 lx未満 終日ベッド上・カーテンを閉めた居室 数十 lx 窓ぎわは、室内照明の数倍から10倍明るい。体内時計にとっては、この差が決定的に効く。 「日光浴の目的をビタミンDから昼夜のリズムに置き換える」——それがこの図の意味です。 ※ 数値は一般的な照度(lx)の目安です。国際合意勧告が用いる「メラノプシン換算照度」は   単位の定義が異なり、同じ照度でも光源の色によって値が変わるため、直接の比較はできません。

図5/照度は目安であり、方角・天候・窓の大きさ・カーテンの有無で大きく変わります。勧告値の出典はBrown TMら、PLoS Biol 2022;20(3):e3001571。

SECTION 07日本人のビタミンD事情——2025年に基準が変わりました

では、日本に住む私たちのビタミンDは足りているのでしょうか。

判定の基準として、日本内分泌学会と日本骨代謝学会は血清25(OH)D濃度で30 ng/mL以上を充足、20以上30未満を不足、20 ng/mL未満を欠乏としています(2017年、ビタミンD不足・欠乏の判定指針)。

この基準で都市部の健診受診者5,518人を最新の質量分析法で測定した研究(東京慈恵会医科大学、The Journal of Nutrition 2023年)では、充足していたのはわずか2%、不足が19%、欠乏が79%という結果でした。あわせて98%が不足以下という数字は、当時かなりの衝撃をもって受け止められました。

数字に幅がある理由/「日本人の◯割が不足」という数字は、報告によって8割前後から98%まで幅があります。これは判定に用いるカットオフ値(20 ng/mLか30 ng/mLか)、測定法(LC-MS/MSか免疫測定法か)、採血の季節、そして対象集団(健診受診者か地域住民か)が異なるためです。共通しているのは、どの基準で見ても「充足している人は少数派」という点です。

食事摂取基準が8.5μgから9.0μgへ

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」は2025年版に改定され、18歳以上のビタミンD目安量が1日8.5μgから9.0μgに引き上げられました(耐容上限量は100μgで据え置き)。この基準には注記があり、「日照により皮膚でビタミンDが産生されることを踏まえ、フレイル予防を図る者はもとより、全年齢区分を通じて、日常生活において可能な範囲内での適度な日光浴を心がける」ことが明記されています。

つまり公的な基準そのものが、「食事+日光」の合計で足りることを前提に設計されているのです。日光の側の入力がゼロになれば、その前提が崩れます。ここに、窓越しの日光浴という習慣の落とし穴があります。

SECTION 08足りないなら飲めばいい、とはならない

「日光で作れないならサプリメントで補えばよい」——これも半分は正解ですが、注意すべき点があります。

2024年に米国内分泌学会が10年以上ぶりに改訂した『疾患予防のためのビタミンD』診療ガイドラインは、慎重な立場を取りました。要点は次の通りです。

対象米国内分泌学会2024年ガイドラインの提案
75歳を超える成人経験的なビタミンD補充を提案(死亡リスク低下の可能性による)
1〜18歳/妊娠中/高リスクの前糖尿病経験的なビタミンD補充を提案
75歳以下の健康な成人推奨摂取量を超えた上乗せの補充は提案しない(日光曝露や食事摂取が不十分な場合を除く)
50歳以上で補充の適応がある人間欠的な高用量ではなく、毎日の低用量を提案
すべての集団確立した適応がない限り、25(OH)D濃度のルーチン測定は提案しない

「まとめて大量に」が裏目に出た2つの試験

とくに強調したいのが、4行目の「毎日の低用量」です。この根拠になっているのは、直感に反する2つの臨床試験です。

オーストラリアで高齢女性を対象に、年1回50万IUのビタミンDをまとめて内服する方法を検証した無作為化比較試験では、プラセボ群に比べて転倒が15%、骨折が26%増加しました。しかも増加は投与直後の3か月間にとくに集中していました(Sandersら、JAMA 2010)。

スイスで70歳以上・転倒歴のある200人を対象にした試験でも、月6万IUの高用量群は、24,000IU群と比べて血中濃度は確実に上がったにもかかわらず、下肢機能に改善はなく、転倒はむしろ増えていました(Bischoff-Ferrariら、JAMA Intern Med 2016)。

また、5万人規模のVITAL試験では、ベースラインで欠乏していない中高年へのビタミンD3補充(1日2,000IU)は骨折を減らしませんでした(LeBoffら、NEJM 2022)。「不足を埋める」ことと「多く摂れば効く」ことは、まったく別の話だということです。

結論として/ビタミンDは「足りていない人に、毎日少量ずつ」補うのが最も理にかなっています。数か月分をまとめて飲むような使い方には、明確な害の報告があります。サプリメントを選ぶ際も、1日あたりの量が耐容上限量(100μg=4,000IU)を超えていないかをご確認ください。

在宅医療の現場から──窓の内と外を分ける、たった一枚

ここからは、訪問診療の現場で私たちが実際に何を見て、何をお伝えしているかを掘り下げます。在宅療養の方にとって、この話は「知識」ではなく「今日から変えられる段取り」の問題です。

9-1.訪問でまず確かめるのは「窓が開くかどうか」

ベッドの向きやカーテンの状態は、ご家族が最も気を配っておられる部分です。しかし私たちがそこで確かめているのは、明るさよりも先に、その窓が実際に開くか、開けたときに手足を出せる位置にベッドや椅子があるかです。

ガラス一枚。それが、ビタミンDが作られる世界と作られない世界を分けています。窓を開けてしまえば、UVBを選んで止めるフィルターは消えます。網戸は光を物理的にいくらか遮りますが、ガラスのように「特定の波長だけを止める」働きは持ちません。「窓ぎわに座る」から「窓を開けて手を出す」へ。この一手間だけで、条件は根本的に変わります。

実際には、窓が家具でふさがれている、サッシが固くて高齢のご家族には開けられない、防犯上の理由で開けていない、といった事情が見つかることがよくあります。これらは医学の問題ではなく段取りの問題ですから、多職種で解決できます。

当院の視点

「日光浴をしましょう」は、処方としては不十分です。

私たちが在宅の場面でお伝えするときは、必ず4つを一緒に決めます。①どこで(ベランダ・縁側・玄関先・窓を開けた窓辺)、②いつ(正午前後)、③どのくらい(季節によって数分〜30分)、④どこを出して(顔と両手の甲、可能なら前腕)。この4点が決まっていないと、実行されないか、逆に炎天下に長時間ということになりかねません。

そして必ず添えるのが、「窓を閉めたままでは、この処方は効きません」という一文です。善意で続けてこられた習慣を否定するのではなく、同じ手間を、効く形に付け替えていただく。それが私たちの役割だと考えています。

9-2.「何分か」より「何時か」を先に決める

図3で見たとおり、必要時間を最も大きく左右するのは時刻です。冬の午後3時に1時間座っているより、正午前後に15分手を出すほうが効率的です。訪問看護やヘルパーの訪問時間を調整できる場合、冬季だけは正午前後に寄せられないかを検討する価値があります。

逆に夏は、正午前後は熱中症のリスクが高すぎます。夏場であれば午前中の早い時間に数分で十分です。「夏は短く早めに、冬は正午に少し長く」——これが実務上の目安になります。

9-3.高齢の在宅患者さんは、二重に不利な条件にある

加齢そのものが、皮膚のビタミンD産生能を低下させます。皮膚中のプロビタミンD濃度が減るためで、同じ時間・同じ日射でも若い方より作られる量は少なくなります。そこに、外出頻度の低下、日中もほぼ室内、冬季はさらに閉め切り、という条件が重なります。

さらに在宅療養中の方には、食事量そのものが少ない、魚を噛みにくい、脂溶性ビタミンの吸収が落ちているといった要因も加わります。「入力の全経路が細っている」状態と考えるのが実情に近いでしょう。

9-4.日光浴を勧めにくい、あるいは慎重にすべき場面

場面考えること
夏季・熱中症リスクが高い方脱水・体温調節障害がある方では、屋外の数分でも危険。日陰・短時間・水分と併せて。無理なら食事とサプリメントに切り替える
皮膚が脆弱な方ステロイド長期使用、抗凝固薬内服、低栄養では紫外線による紅斑・スキンテアが起こりやすい。前腕を出す場合はとくに短時間から
光線過敏を起こす薬を内服中後述。この場合は屋外だけでなく窓ぎわでも注意が必要
皮膚がんの既往・多発光線角化症紫外線曝露を増やす方針は取らない。食事とサプリメントで補う
膠原病(SLEなど)日光曝露が疾患活動性を悪化させうる。主治医の方針を優先する
認知症で外に出ると戻れない屋外より、窓を開けた窓辺で家族が付き添う形のほうが現実的で安全

9-5.窓越しでも起きる「薬剤性光線過敏症」

これは在宅の現場で見落とされやすい問題です。薬剤性光線過敏症の原因となる波長は主にUVAです。UVAは窓ガラスを通り抜けます。つまり、一日中屋内にいて、窓ぎわに座っているだけの方でも発症しうるのです。

「外に出ていないのだから日光は関係ない」という前提が、診断を遅らせます。訪問時に、露出部(顔・首のV字部・手背・前腕)に一致する紅斑や湿疹様の皮疹を見つけたら、まずお薬手帳を確認してください。

薬効分類在宅高齢者で遭遇しやすい代表例
利尿薬・降圧薬ヒドロクロロチアジド(配合降圧薬に含まれていることが多い)、フロセミド
抗菌薬ニューキノロン系、テトラサイクリン系(ドキシサイクリンなど)
抗不整脈薬アミオダロン
NSAIDsケトプロフェン外用(貼付剤は中止後も数週間反応が続くことがある)、ピロキシカム、ナプロキセン
抗真菌薬ボリコナゾール(長期投与では皮膚がんリスクの報告あり)
その他フェノチアジン系抗精神病薬、一部の抗腫瘍薬

とくにヒドロクロロチアジドは、長期使用と非黒色腫皮膚がんの関連が疫学研究で指摘され、米国FDAは2020年8月に添付文書へのリスク記載の変更を承認しています。降圧薬の配合剤に含まれていることが多く、「利尿薬を飲んでいる」という自覚がない患者さんも珍しくありません。成分名まで確認する必要があります。

当院の視点

「窓ぎわの席に移してから、顔に発疹が出た」——この訴えを、私たちは薬の話として聞きます。

在宅では、部屋の模様替えやベッドの移動が、意図せず「UVA曝露量の増加」を意味することがあります。夏に向けて日当たりのよい部屋に移った、デイサービスの窓ぎわの席になった、リハビリのために日中は起きて窓辺で過ごすようにした——どれも良かれと思っての変更です。

そのタイミングと皮疹の出現時期が一致していたら、まず疑うのは新しい洗剤でも食べ物でもなく、以前から飲んでいた薬です。薬剤性光線過敏症は、薬を始めた直後ではなく「光の条件が変わったとき」に顔を出すからです。

9-6.窓辺の光は、骨ではなく「夜」に効いている

在宅で最も多い相談のひとつが、昼夜逆転です。夜に眠らない、日中うとうとしている、夜間に大きな声が出る、せん妄が疑われる——。こうした場面で真っ先に検討されるのは、しばしば睡眠薬の追加です。

しかし、薬を足す前にできることとして、光の配置を変えるのは有力な選択肢です。図5で見たとおり、窓ぎわは一般的な室内照明の数倍から10倍明るく、体内時計に届く信号としては大きな差があります。カーテンを開ける時刻を決める、朝食を窓ぎわで摂る、日中はベッドを窓に向ける、日が暮れたら照明を落とす。これらは副作用のない介入です。

ここで、この記事の主題に立ち返ります。「窓越しの日光浴」は、この目的についてはまったく無駄ではありません。ガラスは可視光をほぼ通すからです。ご家族が続けてこられた習慣は、目的を置き換えたとたんに、正しい介入になります。

あわせてお読みください/睡眠薬の選び方と減らし方については、当院コラム「睡眠薬の使い分け」「ベンゾジアゼピン系薬剤の減薬法」もご参照ください。夜間の不眠を薬以外から組み立て直すという考え方は、共通しています。

9-7.検査は「測って決める」より「リスクで決める」ことが多い

「では血液検査でビタミンDを測ってください」と言われることがあります。ここには制度上の制約があります。

25-ヒドロキシビタミンDの測定が保険で算定できるのは、①原発性骨粗鬆症の患者に対して、薬剤治療方針の選択時に1回限り、②ビタミンD欠乏性くる病またはビタミンD欠乏性骨軟化症の診断時(1回)およびその治療中(3か月に1回)——この2つの場面に限られます。「なんとなく不足していそうだから測る」という使い方はできません。

興味深いことに、この制度的な制約は、米国内分泌学会2024年ガイドラインの「確立した適応がない限りルーチン測定は提案しない」という立場と、結果的に同じ方向を向いています。測定できないから困る、というより、そもそも測定値で治療方針が大きく変わる場面が限られているのです。

在宅では、次のような条件が重なる方をリスクで拾い上げ、食事・日光・(必要なら)補充を組み立てるほうが現実的です。ほぼ終日室内で過ごしている/魚類の摂取が週1回未満/体重減少がある/骨折の既往がある/冬季で高緯度地域に住んでいる/既に骨粗鬆症の治療中である。

当院の視点

日本で処方できるビタミンD製剤の多くは、実は「不足を埋める薬」ではありません。

骨粗鬆症の治療で広く使われるアルファカルシドールやエルデカルシトールは活性型ビタミンD3製剤です。これらは肝臓での25位水酸化を経ずに、または経て速やかに活性型となって作用するため、血中25(OH)D濃度を上げません。つまり「ビタミンDの薬を飲んでいるから足りている」とは言えないのです。ここは医療者の間でも混同されやすい点です。

では天然型(コレカルシフェロール)はどうか。日本で医療用医薬品として処方できる天然型ビタミンD3は、実質的にデノタスチュアブル配合錠(1錠中コレカルシフェロール200IU、1日2錠で400IU=10μg)のみで、その適応は「RANKL阻害剤投与に伴う低カルシウム血症の治療及び予防」に限られています。ビタミンD不足そのものを埋める目的では処方できません。

結果として、不足を埋める手段は「食事」「日光」「市販のサプリメント」の3つになります。この構造を知らないまま「薬でなんとかなる」と考えていると、対策が空回りします。訪問診療の場で、私たちがご家族に必ず説明する内容のひとつです。

9-8.活性型ビタミンD製剤を使っているときの落とし穴

活性型ビタミンD製剤を内服している在宅患者さんでは、高カルシウム血症に注意が必要です。とくに、脱水を起こしたとき、カルシウム製剤や炭酸カルシウムを併用しているとき、腎機能が低下したときに顕在化します。

症状は「食欲がない」「なんとなくだるい」「便秘がひどくなった」「意識がぼんやりする」といった、在宅では見過ごされやすいものばかりです。夏の脱水と、活性型ビタミンD製剤と、便秘の悪化。この3つが同時に来たら、採血を検討する——これは訪問診療の実務的な合図として覚えておく価値があります。

9-9.経管栄養・胃瘻の方の場合

経腸栄養剤には通常ビタミンDが配合されていますが、含有量は投与カロリーに比例します。減量目的や消化管の耐容性の問題で投与量を減らしている方では、ビタミンDの投与量も同時に減っています。「栄養剤を入れているから栄養は足りている」とは限りません。

加えて、経管栄養の方は臥床時間が長く、外に出る機会がさらに減ります。ベッドごと窓辺へ移動できるかどうか、リクライニング車いすで玄関先まで出られるかどうか——ここは福祉用具の選定と直結します。ケアマネジャーへの相談材料になります。

9-10.終末期における「窓辺の時間」について

当院の視点

終末期の方をご家族が窓辺へ連れて行くとき、それは骨のためではありません。

私たちがこの記事で「窓越しではビタミンDは作れません」と繰り返し書いてきたことは、終末期の場面にはあてはめません。予後が週単位・月単位となった段階で、骨密度のためにベランダへ出る意味はほとんどないからです。

それでも、ご家族はベッドを窓に向けます。桜が咲いたと伝え、雪が降ったと伝え、日が長くなったと伝えます。あれは治療ではなく、季節をまだ一緒に過ごしているという確認です。光は、外の世界とまだつながっていることを、言葉を使わずに伝えてくれます。

ですから私たちは、この時期に「効きませんよ」とは申し上げません。かわりに、日差しがまぶしくないか、暑くないか、寒くないか、その姿勢で苦しくないかを一緒に確認します。そして、その時間を大切にしておられるご家族に、「よい時間ですね」とお伝えします。目的が変わったのです。目的が変われば、正しい答えも変わります。

図6 「窓ぎわ」「窓を開ける」「屋外に出る」で何が変わるか 同じ「日光浴」という言葉でも、得られるものはまったく違います。 ① 窓を閉めたまま、窓ぎわに座る ビタミンD ほぼ 0 体内時計・覚醒 しっかり届く UVAの蓄積 ゼロではない ② 窓を開けて、顔と両手の甲を出す ビタミンD 作られる 体内時計・覚醒 しっかり届く 転倒・熱中症 室内なので低い ③ ベランダ・縁側・玄関先まで出る ビタミンD 最も効率がよい 体内時計・覚醒 最も強い 転倒・熱中症 対策が必要

図6/②は多くの在宅患者さんにとって、現実的でリスクの低い選択肢です。「外に出られないから諦める」ではなく「窓を開ける」という中間の段階があることを、ぜひ知っていただきたいと思います。

SECTION 09場面別・早見表

場面どう考えるか
窓ぎわで1時間の日光浴を毎日ビタミンDはゼロ。体内時計には有効。窓を開けて手を出す10分を追加できないか検討
洗濯物を干すときだけ外に出る夏なら十分。冬は正午前後で15〜30分程度を目安に
車で長時間移動する仕事ビタミンDは作れず、UVAだけ蓄積する典型。日本では右側の顔・右腕。日焼け止めまたはUVカットフィルムを
日焼け止めを毎日使っている実生活での塗布量では合成が完全に止まることは稀。ただし不足しやすい人では食事の見直しを
ほぼ終日ベッド上窓を開ける、ベッドを窓へ向ける、可能なら玄関先まで。あわせて食事とサプリメントを検討
骨粗鬆症でビタミンD製剤を内服中活性型なら25(OH)Dは上がらない。「薬を飲んでいるから足りている」とは限らない
サプリメントを買おうとしている毎日少量(上限は1日100μg=4,000IU)。「まとめて高用量」は避ける
屋内にいるのに露出部に皮疹薬剤性光線過敏症を疑い、お薬手帳を確認。UVAは窓を通る
夜眠れない・昼夜が逆転している睡眠薬を足す前に、日中の光の量と時刻を確認する
終末期の方が窓辺で過ごしている目的は骨ではない。姿勢・室温・まぶしさを確認し、その時間を尊重する

SECTION 10よくあるご質問

網戸越しならビタミンDは作れますか?

作れます。網戸は光の一部を物理的に遮りますが、ガラスのように「UVBだけを選んで止める」働きはありません。遮られる割合の分だけ効率は落ちるものの、質的にはガラス越しとまったく違います。窓を開けて網戸のままにするのは、安全性と有効性のバランスがよい選択です。

ガラス越しでも肌が焼けた気がするのですが。

それはUVAによるものです。UVAはすでに皮膚にあるメラニンを酸化させて一時的に色を濃くする作用があり、「焼けた」感じを生みます。しかしこれはビタミンD合成とは無関係で、光老化を進める側の変化です。色が濃くなったことは、ビタミンDができた証拠にはなりません。

日焼け止めを塗るとビタミンDが不足しませんか?

理論上は合成を妨げます。ただし実験室で規定量(2mg/cm²)を均一に塗った場合と違い、実生活での塗布量は少なく、塗り残しもあるため、合成が完全に止まることは稀です。日焼け止めをやめる理由にはなりませんが、屋外に出る機会が極端に少ない方では、食事とサプリメントの側で補うのが合理的です。

サンルームやガラス張りのベランダなら大丈夫ですか?

残念ながら、ガラスがある限り同じです。むしろ「屋外にいる感覚」があるぶん、ビタミンDが作られていると誤解しやすい環境と言えます。体内時計にはとてもよい場所ですので、目的を分けて使ってください。

日焼けサロンや家庭用の紫外線ランプはどうですか?

機器によってはUVBを含み、理論上は合成が起こります。しかし皮膚がんリスクの上昇が確立しており、ビタミンD補充を目的とした使用は国際的に推奨されていません。同じ目的なら、食事とサプリメントのほうが安全で確実です。

結局、どれくらい浴びればよいのでしょうか。

住んでいる緯度・季節・時刻・服装・肌の色で変わるため、単一の答えはありません。実務的な目安としては、夏なら午前中に数分、冬なら正午前後に15〜30分、顔と両手の甲を出すところから始め、赤みが出るほどは浴びない、という考え方が安全です。国立環境研究所は観測地点ごとの必要時間を公開していますので、ご参考になさってください。

ご相談ください

ふくろう訪問クリニックでは、福岡市早良区を中心に、緩和ケア・難病・精神疾患・認知症の方の在宅療養を支えています。ご自宅で過ごす時間をどう組み立てるか——日光の当たり方や部屋の使い方といった、一見小さなことも、療養生活の質を確かに左右します。

骨粗鬆症の治療方針、栄養やサプリメントの相談、内服薬の見直し、昼夜逆転への対応など、通院が難しくなった方の「今できること」を一緒に考えます。ご本人からでも、ご家族・ケアマネジャーの方からでも、お気軽にご連絡ください。

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※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的としています。個々の患者さんの診断・治療方針を示すものではありません。内服中のお薬やサプリメントの変更、日光浴の可否については、必ず主治医にご相談ください。記載内容は執筆時点で入手可能な情報にもとづいています。