治験をどうやって探す?

治験をどうやって探す?
― 主治医に「わからない」と言われたときに、患者・家族ができること

jRCT・がん情報サービス・難病治験ウェブ・PMDA。公的な探し方と、見つけたあとの動き方を整理しました。

ふくろう訪問クリニック|2026年8月22日

「ほかに治療法はありませんか」「治験はありませんか」とたずねたときに、「治験ですか……ちょっとわからないですね」と返ってくることがあります。

この返答は、多くの場合、担当医が不親切なのではありません。日本では治験の情報が医師のところに自動的に集まる仕組みになっておらず、自分の病院でやっていない試験は、専門医であっても把握していないのが普通だからです。

一方で、治験の情報は法律にもとづいてすべて公開されています。探し方さえ知っていれば、患者さんやご家族が自分で調べて、その紙を持って担当医に相談することができます。この記事では、公的な入口だけを使った探し方と、見つけたあとに何をするかを順番に説明します。

SECTION 01

先に結論

1
入口は病気によって3つに分かれる

どの病気でも共通の入口が国のjRCT。がんなら国立がん研究センターの「がんの臨床試験を探す」、指定難病なら「難病治験ウェブ」という、一般の方向けに読みやすく整理された入口が別にあります。

2
探すことより、見つけたあとの動き方のほうが本番

治験は自分で申し込んで終わりではありません。印刷して担当医に見せるところから始まります。拡大治験や患者申出療養にいたっては、制度上、本人ではなく主治医からしか申し込めません

3
「見つかること」と「たどりつけること」は別

がん遺伝子パネル検査を受けた5万人超の国内データでは、治療の標的になりうる遺伝子異常は72.7%の方に見つかった一方、実際にその治療を受けられた方は8.0%でした。ただしこの割合は年々上がっています。

4
2026年3月、情報提供のルールが変わった

これまで治験の募集案内には薬の名前すら書けませんでした。2026年3月30日の厚生労働省の新しい通知で、参加者募集に必要な範囲であれば薬機法上の広告にあたらないと整理され、今後は情報が探しやすくなる方向に動いています。

SECTION 02

なぜ主治医は「わからない」と言うのか

まず、この言葉の意味を正確にとらえておくと、次の一手が決めやすくなります。「わからない」は多くの場合、「あなたに合う治験は存在しない」ではなく「私の手元に調べる仕組みがない」という意味です。理由は三つあります。

1
治験は「やっている病院にかかっている人」に届く仕組みになっている

治験は参加できる医療機関があらかじめ決まっています。実施していない病院の医師には、その試験の資料も説明文書も届きません。同じ病院の中ですら、別の診療科で走っている医師主導治験を知らない、ということが起こります。

2
公開されている情報が、そもそも読みにくい

国のjRCTは行政への届出システムであり、患者さんが読むために作られたものではありません。試験の名前は「〇〇を対象に△△の有効性及び安全性を評価する第III相多施設共同無作為化二重盲検比較試験」といった形で並びます。

3
どこでやっているかが書かれていない試験が、半分以上ある

国立がん研究センターの検索サイトは、注意書きとして「現時点では医療機関の情報が登録されていない臨床試験が半分以上あり、求める情報が見つからないことがあります」と明記しています。つまり、病名で試験は見つかっても、通える範囲でやっているかどうかは、そこから先の問い合わせでしか分かりません。

数字で見る「探しにくさ」

日本製薬工業協会が指定難病の患者さん438名に行った調査(2022年10〜11月実施、2023年2月公表)では、発症から現在までのどこかで「必要な情報の取得に苦労した」経験がある方が74.9%にのぼりました。患者数の少ない疾患群では81.5%、確定診断まで5年以上かかった方では88.9%と、条件が厳しいほど高くなります。

そして情報の種類別に満足度をみると、「新薬・治験薬の情報」は満足33.8%と最も低く、不満と答えた方が26.9%いました。病気そのものの情報(満足55.4%)より、ずっと届いていないということです。

SECTION 03

言葉の整理 ― 「治験」と紛らわしいもの

探し始める前に、言葉を分けておきます。ここが混ざっていると、危ない選択肢と安全な選択肢の区別がつかなくなります。

図1 「治験」はどこに位置するのか 右端のタグ=費用の扱い。上の3つは公的医療保険と併用できるが、自由診療は併用できない 保険診療(標準治療) 国が承認し、公的医療保険で使える治療。効果と安全性が 確かめられており、診療ガイドラインに載っているもの。 保険で受けられる 治験(企業治験・医師主導治験) 国の承認を得るためのデータを集める臨床試験。国への届出、 治験審査委員会の審査、文書での同意取得が法律で必須。 治験薬の代金を患者に請求することはない。 併用できる 先進医療A・B/患者申出療養 保険適用を目指して、国が個別に認めた枠組み。診察・検査・ 入院などの共通部分は保険が使え、その技術の費用だけが 全額自己負担になる(保険外併用療養費制度)。 一部が自己負担 自由診療(自費の「〇〇療法」など) 上のどれにも当てはまらないもの。効果の検証を経ていない。 全額自己負担

図1:治験は「研究」ですが、参加者の保護のために最も厳しい法的手続きが定められている枠組みでもあります。自費の治療と決定的に違うのは、技術の新しさではなく、検証と監視のされ方です。

よく混同される言葉

臨床試験は人を対象とした試験全般を指す広い言葉で、治験はそのうち「国の承認申請に使うデータを集めるもの」に限られます。承認申請を目的としない試験は臨床研究法などのルールで実施され、これも同じjRCTに登録されます。この記事では、探し方が共通なので両方をまとめて扱います。

SECTION 04

探し方の全体像 ― 病名で入口が変わる

やみくもにjRCTを開くより、自分の病気に合った入口から入ったほうが早く着きます。

図2 病気の種類ごとの入口 いずれも公的機関が運営。個人情報を入力せずに検索できる すべての 病気 jRCT(臨床研究等提出・公開システム) 厚生労働省。国内の治験・臨床研究がすべて登録される大本。 情報量は最大だが、専門用語のまま並ぶので読むのに慣れが要る。 jrct.mhlw.go.jp(2025年3月にアドレスが変わりました) がん (希少がん含む) がん情報サービス「がんの臨床試験を探す」 国立がん研究センター。チャット形式でも、がん種を選ぶ形でも 検索でき、治験・先進医療・患者申出療養を横断して探せる。 見つけたページを印刷して担当医に見せる使い方が想定されている。 ganjoho.jp「がんの臨床試験を探す」 指定難病 (348疾患) 難病治験ウェブ 医薬基盤・健康・栄養研究所と厚生労働省研究班。2025年7月公開。 jRCTから難病ごとの治験を抜き出し、募集中・募集前に絞って 目的・対象・問い合わせ先を患者向けに整理し直したもの。 nanbyo-chiken.nibn.go.jp

図2:がん・指定難病以外の病気(生活習慣病、精神疾患、皮膚疾患など)は、jRCTを直接使うか、後述するPMDAのリストを見ることになります。

SECTION 05

すべての病気に共通の入口 ― jRCTの使い方

jRCT(ジェイアールシーティー、Japan Registry of Clinical Trials)は、国内で行われている治験・臨床研究の情報が集まる厚生労働省のシステムです。2020年から、実施医療機関の名称を含めて公開することが義務づけられています。検索に会員登録も個人情報の入力も不要です。

最低限の使い方(3手順)

1.「jRCT」で検索してトップページを開く(アドレスは jrct.mhlw.go.jp)。2025年3月にアドレスが変わっているので、古いブックマークが開かない場合があります。

2.トップの簡易検索で、フリーワードではなく「対象疾患名」の欄に病名を入れる。あわせて「募集前または募集中」にチェックを入れると、これから始まる・今参加者を募集している試験に絞り込めます。都道府県も指定できます。

3.「がん」「癌」「腫瘍」といった語を外して「〇〇」だけで入れ直してみる。登録者によって表記がそろっていないため、この一手間でヒット数が変わります。

結果の一覧から個別のページを開くと、「2 試験等の目的及び内容」の項に、その試験が何を確かめようとしているか、そして適格基準(参加できる条件=選択基準/参加できない条件=除外基準)が書かれています。ここが読めれば、この記事の目的の半分は達成です。

読み方に自信がないときの助け

日本製薬工業協会が作成した「治験の探し方 〜jRCTのみかた〜」(第3版・2025年4月)という無料の解説資料があり、jRCTの公式サイト自身からリンクされています。画面の写真つきで、どこをどう押せばよいかが順に説明されています。「jRCT みかた」で検索すると出てきます。

また、jRCTとUMIN(大学病院医療情報ネットワーク)を横断して検索したい場合は、厚生労働省の臨床研究情報ポータルサイト(rctportal.mhlw.go.jp)が使えます。

SECTION 06

がんの場合 ― 「がんの臨床試験を探す」が最短

がんについては、国立がん研究センターの「がん情報サービス」に専用の検索サイトがあり、チャットで検索(調べたい言葉を入力して対話形式で絞る)とカテゴリで検索(がんの種類を選ぶ)の2つの入口が用意されています。

ここで探せるのは、次の8種類です。この幅の広さが、jRCTを直接見るより優れている点です。

種類どういうものか
企業治験製薬企業が承認申請のために行う治験
医師主導治験医師・研究者が自ら計画して行う治験
主たる治験国内開発の最終段階にあたる治験(PMDAが別途一覧を公開)
拡大治験治験の参加条件に満たない方への、人道的見地からの提供(SECTION 09)
先進医療A・B保険適用を目指して国が認めた医療技術
患者申出療養患者の申出を起点に、未承認薬を保険と併用して使う仕組み
医師・研究者主導臨床試験承認申請を目的としない臨床試験

使う前に知っておきたい3つの限界

1.リアルタイムではありません。このサイトは各データベースから定期的に情報を取り込む形で運用されており、2026年8月現在に表示されているのは、jRCTとUMINは2026年2月20日時点、PMDAの主たる治験・拡大治験は2026年3月16日時点、先進医療と患者申出療養は2025年4月5日時点の情報です(ページ更新日2026年4月10日)。その後に始まった試験は載っていませんし、すでに募集を終えた試験が残っていることもあります。

2.医療機関の情報がない試験が半分以上あります。サイト自身がそう明記したうえで、「医療機関の情報がない臨床試験も含めて検索すること」を勧めています。場所で絞り込みすぎると、かえって見落とします。

3.内容は医療者向けです。サイトの冒頭にも「医学・医療関係者向けの内容になっています」と書かれています。全部を理解しようとしなくて構いません。

がん相談支援センターという近道

全国のがん診療連携拠点病院などに置かれているがん相談支援センターは、その病院にかかっていない方でも、無料で、匿名でも相談できます。「この病気で参加できる試験を一緒に探してほしい」という相談も受け付けています。検索が苦手な方は、ここに行くのがいちばん早い場合があります。

電話で相談したい場合は、国立がん研究センターのがん情報サービスサポートセンター(0570-02-3410)もあります。

がん遺伝子パネル検査から治験にたどりつく道

標準治療が終了した、あるいは終了が見込まれる固形がんの方は、保険診療でがん遺伝子パネル検査を受けられる場合があります。結果は国立がん研究センターのがんゲノム情報管理センター(C-CAT)に送られ、その方の遺伝子変化に対応する薬や臨床試験の情報を整理した「C-CAT調査結果」が病院に返却され、専門家会議(エキスパートパネル)で検討されます。

「C-CATの結果をそのままください」と言っても断られる理由

学会のガイダンス(次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス 改訂第2.0版)では、C-CAT調査結果のレポートそのものは患者に返却しないとされています。冷たい対応に見えますが、理由があります。このレポートは専門家が議論するための資料で、その方が実際には参加できない試験も幅広く載っているためです。C-CAT自身も、レポートが手渡された結果、条件を満たさない方が他院を直接受診してしまい、結果的に不要な受診になった事例が報告されていると説明しています。

ですから求めるべきはレポートの原本ではなく、「私が今、実際に相談できる試験はどれですか」という説明です。この聞き方であれば、担当医は答えられます。

SECTION 07

見つかることと、たどりつけることは別

ここで、期待の目盛りを現実に合わせておきます。2026年1月にNature Medicineに掲載された、国立がん研究センターと慶應義塾大学の研究が参考になります。2019年6月から2024年6月までに国内で保険診療としてがん遺伝子パネル検査を受けた54,185例の解析です。

図3 見つかった人と、たどりつけた人(国内54,185例) 出典:国立がん研究センター/慶應義塾大学、Nature Medicine 2026年1月6日 A 全体 治療の標的になりうる 遺伝子異常が見つかった 72.7% 実際にその治療を受けた 8.0% B がん種による差(実際に治療を受けた割合) 横軸は0〜40% 甲状腺がん 34.8% 非小細胞肺がん 20.3% 小細胞肺がん 20.1% 消化管間質腫瘍 2.7% 肝臓がん 1.8% 膵臓がん 1.3% C 検査を受けた時期による変化(全がん種) 横軸は0〜12% 2019〜2020年 5.5% 2021〜2022年 7.3% 2023〜2024年 10.0%

図3:AとBは軸の目盛りが異なります(Aは0〜100%、Bは0〜40%、Cは0〜12%)。バーの長さを図をまたいで比べないでください。

この研究はもう一つ重要なことを示しています。国内では未承認でも有効性が示されている薬の標的が見つかった方でも、予後が改善していたという点です。研究グループはこれを、治験や患者申出療養を通じた未承認薬の使用が予後を改善する可能性を示唆するものと述べています。

この数字をどう受け取るか

8.0%を「低いからやめておこう」と読むのは早いと思います。この割合は2019〜2020年の5.5%から2023〜2024年には10.0%まで上がっており、選択肢そのものが増え続けています。また甲状腺がんの34.8%と膵臓がんの1.3%では、置かれている状況がまったく違います。ご自身のがん種で何が起きているかは、平均値では分かりません。

SECTION 08

指定難病の場合 ― 難病治験ウェブ

2025年7月8日に公開された「難病治験ウェブ」(医薬基盤・健康・栄養研究所/厚生労働省難治性疾患政策研究事業)は、指定難病に特化した患者・家族向けの検索サイトです。

1
jRCTから抜き出し、患者向けに整理し直したもの

指定難病ごとに、医師主導治験と企業治験をjRCTから抽出し、目的・実施期間・対象となる方・研究責任者・問い合わせ先といった、必要な項目だけを選んで表示します。公開時点(2025年7月)で98の指定難病・393件の治験が掲載されていました。

2
今と、これからの治験だけが載る

募集中・募集前が中心で、終了して3か月経った治験は掲載されなくなります。更新は月1回程度。「終わった試験が延々と出てくる」というjRCT検索の疲れがない代わりに、ひと月前になかったものが今日はあるということが起こります。時期を空けて見直す価値があります。

3
地図から見られる

トップページに地方ごとの実施件数が集計された地図があり、「九州で何件動いているか」がひと目で分かります。通院の現実から逆算して考えるときに便利です。

このほか、公益財団法人難病医学研究財団の「治験情報」ページでは、治験実施機関から掲載の申し出があった指定難病の治験が公開されています。掲載されているのは申し出があったものだけなので網羅的ではありませんが、そのぶん問い合わせ窓口がはっきりしています。

SECTION 09

PMDAの2つのリストと「拡大治験」

あまり知られていませんが、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のサイトには、患者・家族が直接使える2つのリストが公開されています。がんにも難病にも当てはまらない病気の方には、ここが実質的な入口になります。

リスト中身
主たる治験情報リスト国内開発の最終段階にあたる治験。効能・効果や用法・用量が定まったあとに、有効性と安全性を検証するために行われるもの。PDFとExcelで公開され、前回から変わった箇所に印がついている。
人道的見地から実施される治験(拡大治験)情報下記のとおり、通常の治験の条件に合わない方に向けた枠組み。
治験届出者の連絡先一覧上の2つに載っている個々の治験について、問い合わせ先(製薬企業などの担当窓口)が公開されている。
拡大治験(人道的見地から実施される治験)

2016年4月に始まった制度で、日本版のコンパッショネート・ユースにあたります。対象は生命に重大な影響がある疾患で、有効な既存治療がなく、承認・保険適用を待つことができない場合の、未承認薬・適応外薬です。通常の治験に組み入れられなかった方が対象になりえます。

この制度でいちばん大事な一点

厚生労働省の通知(令和6年9月13日 医薬薬審発第913002号)は、「安全性確保の観点から、拡大治験の実施の検討には患者の病状等を熟知する主治医の経験・見識が必要であることから、主治医が治験実施者に拡大治験の実施の要望を行うこととする」と定めています。

つまり、患者さんご本人が製薬企業に申し込むことはできません。PMDAのリストで対象になりそうな薬を見つけたら、その情報を主治医に渡し、主治医から企業に要望してもらう、という順番になります。またこの制度は法的義務ではなく、実施するかどうかは薬を提供する側が決めるため、要望しても応じられないことがあります。

SECTION 10

海外のデータベースを見るとき

米国国立衛生研究所が運営するClinicalTrials.govには、世界中の臨床試験が登録されています。英語ですが、ブラウザの翻訳機能で十分に読めます。日本の施設が参加している国際共同治験も登録されているため、日本語のサイトでは見つからなかった試験が、こちらで見つかることがあります

ただし、前提を間違えないでください

海外で行われている試験に、日本から渡航して参加することは、現実にはほとんどできません。試験には居住地や通院の要件があり、渡航費・滞在費・現地での医療費はすべて自己負担で、体調の面でも困難です。

ClinicalTrials.govを見る目的は「日本で同じ薬の開発が動いているかどうかの手がかりを得ること」と考えてください。そこで薬の名前や試験の名称が分かれば、その語でjRCTを検索し直すことができます。

SECTION 11

見つけたあと、何をするか

ここからが本番です。検索結果の画面を眺めているだけでは何も進みません。

図4 見つけてから、参加が決まるまで 右端=目安の期間。試験や病院によって大きく変わります 1 ページを印刷して、担当医に見せる 口頭で「治験を探してほしい」ではなく、紙を出す。がん情報サービスも 「印刷して担当医に相談してください」という使い方を想定している。 次の外来で 2 条件に合うかを、担当医と一緒に見る 前の治療の内容と回数、体力の状態、腎臓や肝臓の数値、ほかの持病。 これらは診療録を見なければ判断できず、自己判断はできない。 その日のうちに 3 実施施設に問い合わせる/紹介状を書いてもらう 問い合わせ先は公開されている。ご本人やご家族が電話しても構わない。 実際に動くときは、診療情報提供書と直近の画像・病理・血液データが要る。 数日〜2週間 4 受診し、説明を受けて、文書で同意する 説明文書は持ち帰ってよい。その場で決める必要はなく、家族と相談できる。 同意したあとでも、理由を問わずいつでも撤回できる。 1〜数週間 5 検査(スクリーニング)を受け、参加できるかが決まる ここで条件に合わず参加できないことは、まったく珍しくありません。 2〜4週間

図4:全体で1〜2か月かかることも珍しくありません。体力があるうちに動き始めることが、そのまま選択肢の広さになります。

適格基準の読み方

jRCTの「参加できる条件(選択基準)」「参加できない条件(除外基準)」には、だいたい次のことが書かれています。

項目よく書かれていること
病名と病期組織診断がついていること、進行度、測定可能な病変があること
前の治療の内容「〇〇による治療歴があること」「前治療は2レジメン以内」など。ここが最も引っかかりやすい
体力(全身状態)ECOG PS 0〜1、など。身の回りのことが自分でできる状態かどうか
臓器の機能血液・腎臓・肝臓・心臓の数値が一定の範囲にあること
年齢「20歳以上」「18歳以上75歳以下」など
除外条件ほかの活動性のがん、重い感染症、間質性肺炎、脳転移、特定の薬の使用中など

条件を満たしていても、参加できるとは限りません

最終的な判断は、診察と検査にもとづく医学的な判断です。自己判断で「私は該当する」と決めてしまうと、期待が大きくなったぶんだけ落胆も大きくなります。「合うかもしれないので、確認していただけますか」という持っていき方をおすすめします。

患者申出療養という、もう一つの道

治験にも先進医療にも当てはまらないが、その未承認薬を使いたい、という場合の仕組みが患者申出療養です(2016年4月創設)。患者の申出を起点としますが、実際の手続きは臨床研究中核病院を通じて行われます。

現実的な時間の見積もり

九州大学病院(福岡県内で唯一の臨床研究中核病院)は、自院の説明のなかで、国内に前例がない治療の場合、実施計画書の策定や国に提出する意見書の作成などに約半年から1年間が必要で、そのあと国の審査に原則6週間、と説明しています。すでに他の臨床研究中核病院で前例がある治療であれば、もう少し早く開始できることもあります。

また、申し込みは主治医からのみという運用をとる施設が一般的です。全国で84の病院(臨床研究中核病院と特定機能病院)が患者申出療養の相談窓口を設けており、その一覧と電話番号は厚生労働省のサイトで公開されています。

SECTION 12

お金はどうなるのか

「治験は無料」と聞くことも、「未承認薬だから全額自己負担なのでは」と心配されることもありますが、どちらも正確ではありません。治験は保険外併用療養費制度の「評価療養」に位置づけられ、費用が切り分けられます。

図5 企業が行う治験に参加したときの、費用の切り分け 医師主導治験や患者申出療養では扱いが異なります 治験を依頼した企業が負担する ・治験薬そのもの ・治験薬を使っている期間の 検査・画像診断の費用 ・治験薬と同じ効能をもつ薬の 投薬・注射の費用 ・通院や時間の負担に対する 「負担軽減費」の支払い これまでどおり自分が払う ・初診料、再診料 ・入院基本料、食事の自己負担 ・治験と関係のない病気の治療、 治験計画に入っていない薬 ・差額ベッド代 ・通院の交通費、宿泊費 (負担軽減費で足りない分) 負担軽減費とは 通院回数や検査が増えることへの補償。国立病院等では「当面7,000円を標準」 とする通知(平成11年7月2日 政医第196号)があり、これが目安になっている。

図5:この切り分けの結果、治験に参加している期間は、通常の診療より窓口での支払いが少なくなることがしばしばあります。ただし通院回数が増えるので、交通費や付き添いの負担は増えます。

先進医療・患者申出療養は扱いが違います

これらの制度では、診察・検査・入院などの共通部分には保険が使えますが、その技術や未承認薬にかかる費用は全額自己負担です。金額は制度や薬によって大きく異なるので、必ず事前に窓口で確認してください。「保険と併用できる」=「安く済む」ではありません。

SECTION 13

2026年3月、情報提供のルールが変わりました

ここは、今この記事を読む意味がいちばん大きいところかもしれません。

これまで、治験の参加者募集の案内には治験薬の名称や治験記号を書くことができませんでした。未承認の医薬品の広告が薬機法で禁じられているためです。その結果、募集案内はどうしても「ある病気を対象とした新しいお薬の試験」といった抽象的な書き方にならざるをえず、患者さんが自分に関係があるかどうかを判断しにくい状態が続いていました。

令和8年3月30日 医薬監麻発0330第1号「治験等に係る情報提供の取扱いについて」

変わった点1:参加者募集のための情報提供については、募集の目的に必要な限度の情報であれば、治験薬の名称等を記載しても薬機法上の広告には該当しないと整理されました。ホームページ、SNS、新聞広告、動画配信といった各種の媒体で情報提供ができます。

変わった点2:募集以外の情報(試験の結果を平易にまとめた要約など)についても、jRCTやClinicalTrials.govに掲載された情報などに限って、他の情報と切り分けるための具体的な条件が明確化されました。

変わった点3:患者団体などが治験の情報を発信する場合の考え方が、別途Q&Aとして示されました。利益相反が適切に管理されていること、情報提供先を限定・把握していること、企業から提供された情報を改変していないこと、といった要件が示されています。

あわせて、厚生労働省の資料は「治験について一般的な患者は必ずしも正しい理解があるとは限らず、新薬への期待を生じさせやすいため、過度な期待を煽ることがないよう丁寧な対応が同時に求められる」とも述べています。情報提供にあたっては、治験とは何か、有効性がまだ確認の途中であることなど、正しく理解するための留意事項を記載することが求められています。

患者・家族にとっての意味

これから、製薬企業や医療機関のサイトで、これまでより具体的な募集情報を目にする機会が増えていくと考えられます。情報が増えるのは良いことですが、増えるのは「読む側の負担」でもあります。次のSECTIONの見分け方が、これまで以上に大切になります。

SECTION 14

紛らわしいものの見分け方

「治験」という言葉は、法律で守られた枠組みを指す言葉であると同時に、自費診療の宣伝に借用されやすい言葉でもあります。判断に迷ったら、次の5点を確認してください。

図6 確認したい5つのこと 左=確認すること/右=法律にもとづく治験ならこうなる jRCTの番号があるか 「jRCT2031〇〇〇〇〇〇」のような番号があり、 jRCTで検索すると同じ内容が出てくる。 実施する病院の名前が出るか どこで受けるのかが具体的に示される。 「提携クリニック」のような曖昧な表現ではない。 審査委員会の名前が出るか 治験審査委員会(IRB)または認定臨床研究審査 委員会の審査を受けており、その名称が公開される。 薬の代金を請求されないか 治験薬の代金を患者に請求することはない。 「参加費」「薬剤費」を求められたら治験ではない。 効果を断定していないか 治験は効果を「確かめている途中」の段階なので、 「効きます」「治ります」とは書けない。

図6:自費の「〇〇療法」が悪だと言いたいのではありません。違うのは技術の新しさではなく、効果と安全性が第三者に検証され、監視されているかどうかです。

健康な人向けの「高額バイト」型の募集とは別物です

ネット広告でよく見る、宿泊して薬を飲み謝礼を受け取るタイプの募集は、主に健康な方を対象とした第I相試験などです。病気の治療として参加する治験とは目的も内容もまったく異なります。混同すると、判断の基準を誤ります。

当院の視点

在宅で「もう治験はないんでしょうか」と聞かれたときに、考えていること

1
いちばん多い答えは「ない」ではなく「まだ誰も調べていない」

この質問をいただくとき、たいていは大きな病院で「これ以上の治療は難しい」と告げられたあとです。その説明はほとんどの場合、正しい。ただしそれは「保険で使える標準治療の中には、次の一手がない」という意味であって、「国内のどこにも試験がない」という意味ではありません。この二つは、告げる側も聞く側も、しばしば同じ言葉で扱ってしまいます。訪問診療の場でご一緒にjRCTを開いてみて、少なくとも「探した」という事実をつくることには意味があると考えています。

2
現実には「通えるかどうか」が最大の適格基準です

適格基準の一覧には書かれていませんが、在宅医の立場から見ていちばん効いてくるのは通院の可否です。治験は2〜4週ごとの来院、当日の長い滞在、追加の検査を前提に組まれています。付き添える家族がいるか、外来で半日座っていられるか。ここが崩れると、条件をすべて満たしていても続けられません。

だからこそ「まだ動けるうちに探す」ことが、そのまま選択肢の広さになります。近年は来院回数を減らす分散型の試験も出てきており、今後は変わっていく可能性がありますが、2026年時点の現実はこうです。なお、訪問診療を受けていること自体が治験参加を妨げるわけではありません。在宅医療の条件は「末期であること」ではなく「通院が困難であること」であり、通院しながら訪問診療を併用している方もいらっしゃいます。

3
探し続けることが、生活を削ってしまうことがあります

ご家族が夜中まで検索を続け、翌日の介護に響いている場面に何度も出会ってきました。情報を探すことは希望を保つ行為であると同時に、消耗する行為でもあります。「今週はここまで調べたら、いったん止める」という区切りを、探し始めるときに決めておくことをおすすめしています。がん相談支援センターのように、探す作業を分担してくれる窓口があることも、この意味で重要です。

4
「参加しない」という判断も、同じだけ正当です

調べたうえで、通院の負担や不確実さを考えて参加しないと決める方がいます。それは撤退ではなく、情報にもとづいた選択です。また、治験に参加することと、つらさをやわらげる医療を受けることは対立しません。転移性肺がんの方を対象とした試験(Temel ら、New England Journal of Medicine 2010年)では、早い段階から緩和ケアを併用した群のほうが生存期間の中央値が長いという結果も報告されています。症状を取ることは、治療を続ける体力を守ることでもあります。

SECTION 15

場面別・まずどこを見るか

あなたの状況最初に開く場所
がんで、標準治療が終わりに近いと言われたがん情報サービス「がんの臨床試験を探す」+通っている病院のがん相談支援センター
がんで、遺伝子パネル検査の結果を聞いたばかり担当医に「今、実際に相談できる試験はどれか」を確認。結果説明の場は家族も同席を
指定難病と診断されている難病治験ウェブ(地図から九州の件数も見られる)
がんでも指定難病でもない病気jRCTの「対象疾患名」検索+PMDAの主たる治験情報リスト
薬の名前は分かっているが、日本で使えるか知りたいその名称でjRCTを検索。出てこなければClinicalTrials.govで名称を確かめて再検索
通常の治験の条件から外れてしまったPMDAの拡大治験情報リストを見て、主治医から実施者に要望してもらう
使いたい未承認薬があるが、治験も先進医療もない患者申出療養の相談窓口(全国84病院、厚労省サイトに一覧)。福岡なら九州大学病院
本人が高齢・認知症で、家族が調べている検索は家族で。ただし申し込みと同意は本人が主体。判断が難しい場合の手続きは施設に確認を
検索そのものが負担で、続けられないがん相談支援センター、難病相談支援センター。無料で、通院先でなくても相談できます
ネットで見た「治験」の広告が気になっている図6の5点を確認。jRCT番号がなければ、まず疑ってよい
SECTION 16

よくあるご質問

Q1.治験は「もう打つ手がなくなった人」が受けるものですか。

いいえ。標準治療の前や、標準治療に何かを上乗せする形の試験も数多くあります。むしろ、前の治療の回数や体力に関する条件があるため、治療の早い段階のほうが条件に合いやすいのが実情です。「最後の手段」と考えていると、参加できる時期を過ぎてしまうことがあります。

Q2.偽薬(プラセボ)だけを飲まされることはありませんか。

進行したがんなどでは、標準治療を全員が受けたうえで、そこに新しい薬を加えるか偽薬を加えるかを比べる「上乗せ」の形が多く用いられます。何の治療も受けない群を置くことは、倫理的に許されない場面が大半です。ただし試験によって設計は異なりますので、説明文書で必ず確認してください。比較のしかたは説明文書に必ず書かれています。

Q3.一度参加したら、途中でやめられませんか。

やめられます。同意したあとでも、理由を問わず、いつでも撤回できます。撤回したことで、その後の診療で不利益を受けることはありません。これは説明文書に明記される事項です。

Q4.副作用が出たときの補償はどうなりますか。

治験には、健康被害が生じた場合の補償の取り決めがあらかじめ定められており、その内容は説明文書に書かれています。ここは必ず読み、分からなければ質問してください。なお、承認された医薬品を対象とする「医薬品副作用被害救済制度」は、治験薬には適用されません。だからこそ、依頼者側の補償の内容が重要になります。

Q5.実施している病院が遠方しかありません。

まず問い合わせて、通院の頻度と1回あたりの所要時間を具体的に聞いてください。「月1回・半日」と「2週ごと・終日」ではまったく話が違います。近年は来院回数を減らす工夫をした試験も増えています。そのうえで、生活と体力の現実に照らして判断すれば十分です。

Q6.家族が本人に代わって探してもよいですか。

調べること自体はまったく問題ありません。個人情報を入力せずに検索できます。ただし、参加の申し込みと同意はご本人が主体になります。ご本人の判断が難しい場合の手続きは試験ごとに定められていますので、実施施設に確認してください。

ふくろう訪問クリニックにできること

当院は福岡市早良区を中心に、緩和ケア・難病・精神科・認知症に対応する訪問診療を行っています。治験そのものを当院で実施することはできませんが、次のようなご相談はお受けしています。

  • 公開されている試験情報を一緒に確認し、今の状態で現実的に検討できるかどうかを整理すること
  • 相談先の病院への診療情報提供書の作成、直近の検査データの整理
  • 院長は放射線治療専門医です。放射線治療を含む選択肢が残っていないかを、別の角度から検討できます
  • 治験を検討する/しないにかかわらず、痛み・息苦しさ・食べられなさを取るための在宅緩和ケア
  • ご家族が探し疲れてしまったときに、いったん立ち止まって話をすること
  • 訪問看護リハビリステーションを併設しており、通院と在宅を並行するときの調整

訪問診療の条件は「末期であること」ではなく「通院が困難であること」です。まだ通院できている段階でも、ご相談いただいて構いません。

REFERENCES

参考にした情報

  1. 厚生労働省.臨床研究等提出・公開システム(jRCT).https://jrct.mhlw.go.jp/(2026年8月22日閲覧。サイトのアドレスは令和7年3月25日に変更)
  2. 厚生労働省.臨床研究情報ポータルサイト(jRCTとUMIN-CTRの横断検索).https://rctportal.mhlw.go.jp/
  3. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会.治験の探し方 〜jRCTのみかた〜 第3版.2025年4月(jRCT公式サイトからリンクされている患者・市民向け解説資料)
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス.がんの臨床試験を探す.更新・確認日2026年4月10日(データ収集日:jRCTおよびUMIN 2026年2月20日、PMDA主たる治験・拡大治験 2026年3月16日、先進医療A・B/患者申出療養 2025年4月5日)
  5. Saito Y, Horie S, Kogure Y, et al. Real-world clinical utility of comprehensive genomic profiling in advanced solid tumors. Nature Medicine. 2026年1月6日オンライン公開.DOI: 10.1038/s41591-025-04086-8(国立がん研究センター・慶應義塾大学プレスリリース 2026年1月8日)
  6. 日本臨床腫瘍学会・日本癌治療学会・日本癌学会.次世代シークエンサー等を用いた遺伝子パネル検査に基づくがん診療ガイダンス 改訂第2.0版(2.6.5.3 レポートの取り扱い)
  7. 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT).C-CAT調査結果の取り扱いに関するご質問.https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/
  8. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所/厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「難病の克服に向けた研究推進と医療向上を図るための戦略的統括研究」(研究代表者:直江知樹).難病治験ウェブ.2025年7月8日公開.https://nanbyo-chiken.nibn.go.jp/
  9. 公益財団法人難病医学研究財団.治験情報.https://www.nanbyou.jp/
  10. 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA).治験情報の公開(主たる治験情報リスト/人道的見地から実施される治験(拡大治験)情報/治験届出者の連絡先一覧).https://www.pmda.go.jp/review-services/trials/0019.html
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  12. 厚生労働省.患者申出療養制度.https://www.mhlw.go.jp/moushideryouyou/ および「臨床研究中核病院及び特定機能病院に係る患者申出療養相談窓口設置状況一覧表」(84病院)
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  14. 厚生労働省医政局研究開発政策課.臨床研究中核病院の承認要件見直しについて.第37回厚生科学審議会臨床研究部会 資料1.令和6年10月22日(令和6年10月現在15病院。九州大学病院は平成28年1月27日承認)
  15. 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課.治験等に係る情報提供の取扱いについて.令和8年3月30日 医薬監麻発0330第1号.あわせて「治験等に係る情報提供の取扱いに関するQ&A」「患者団体等による治験等に係る情報提供に関するQ&A」(いずれも令和8年3月30日 事務連絡)。第45回厚生科学審議会臨床研究部会 資料7(令和8年3月26日)
  16. 厚生労働省保険局.保険外併用療養費制度の概要(評価療養としての治験の位置づけ)
  17. 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会.治験119番 見解(5)被験者の負担軽減費(平成11年7月2日 政医第196号「当面、7,000円を標準とすること」を引用)
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  19. Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2010;363(8):733-742. DOI: 10.1056/NEJMoa1000678
  20. U.S. National Library of Medicine. ClinicalTrials.gov. https://clinicaltrials.gov/

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。治験や臨床試験への参加の可否は、診察と検査にもとづく医学的な判断が必要です。必ず担当医にご相談ください。記載した制度・サイトの内容は2026年8月22日時点で公開されている情報にもとづいており、その後変更される可能性があります。特定の製薬企業・医療機関からの資金提供や便宜供与は受けていません。