Oura Ring 5で何がわかるのか
―― 第4世代からの変化と、データが「示せること/示せないこと」
睡眠・体温・心拍を24時間測り続ける指輪型ウェアラブルの最新世代を、公表されている仕様と査読付き文献をもとに整理します。後半では、在宅医療の現場で実際に使えるのかを一段深く掘り下げます。
「指輪をはめて寝るだけで血圧がわかる」「病気になる前に教えてくれる」――Oura Ring 5の話題はこうした形で広がっています。ですが公式資料を丁寧に読むと、実際にできることは、その言い方とはかなり違います。この記事では、何が本当に新しくなり、何が変わっていないのか、そしてそのデータを医療の判断にどこまで使えるのかを、できるだけ正確に切り分けます。
先に結論を3つ
- 本体の進化は、ほぼ「小さくなったこと」に集約されます。センサーの種類はOura Ring 4と同じで、受光素子はむしろ3個から2個に減りました。測れる生体信号そのものは増えていません。
- 話題の新機能はRing 5専用ではありません。血圧シグナル・夜間の呼吸などを含む新機能群は、第3世代以降の旧モデルにも配信されます。「Ring 5を買わないと得られない健康情報」は、現時点ではほとんどありません。
- そして最も重要な点。血圧シグナルは、血圧の数値(mmHg)を表示しません。2025年の米国心臓協会/米国心臓病学会の高血圧ガイドラインは、カフ(腕帯)を使わない血圧機器を高血圧の診断・治療に用いないよう勧告しています。Ouraはその線を意図的に越えず、「傾向を示すウェルネス機能」という位置づけに留めています。
つまりOura Ring 5は、「新しい何かを測れるようになった機械」ではなく、同じ生体信号を、より装着し続けやすい形で、より長期に集めるための機械です。この違いが、この記事全体を通しての軸になります。
Ring 4から何が変わったのか(ハードウェア)
Oura Ring 5は2026年5月28日に発表され、日本では同年6月5日に発売されました。メーカー公式のサポート資料に掲載されている仕様を、第4世代と並べて比較します。注目すべきは、すべてが良くなったわけではないという点です。
図1|メーカー公式サポート資料(2026年7月27日更新)の比較表をもとに作成。発光素子はどちらも「赤・緑・赤外の三色LED×2組」で共通。
薄型化のために犠牲になった部分がはっきりあります。本体メモリが約7日分から約3日分に減ったことは、スマートフォンと同期しない期間が続くとデータが欠けることを意味します。サイズ展開が4〜15号から6〜13号に狭まったことは、指の細い方・太い方が装着できなくなる可能性を意味します。いずれも高齢の方や在宅療養中の方に使ってもらう場面では、無視できない変更です。
一方、センサーの土台(ドーム)が0.3mmから0.7mmに高くなり、皮膚への密着が改善された点、そしてOuraが「12の信号経路」により指の太さや肌の色による差を減らしたと説明している点は、光学式センサーの弱点を突いた実質的な改良といえます。ただしOura自身も、本体が小さくなったぶん利用できる光学経路の数は減っており、既存経路の性能を上げることで補ったと説明しています。「経路が増えて精度が上がった」のではなく、「経路を減らしても精度を落とさない工夫をした」というのが正確な理解です。
その他の主な仕様は、6〜9日のバッテリー(充電約80分)、100m防水、動作温度−10〜54℃、Bluetooth 5.0、全チタン外装。日本での価格は65,800円(シルバー/ブラック)または81,800円(ゴールドほか4色)で、機能を使うには別途メンバーシップ(月額999円/年額11,800円)が必要です。
なぜ「手首」ではなく「指」なのか
スマートウォッチもスマートリングも、心拍を測る原理は同じ光電容積脈波(PPG:photoplethysmography)です。皮膚に光を当て、血管を流れる血液に吸収されずに戻ってきた光の量の変化から、脈の波を読み取ります。
指が有利なのは、単純に血管が密で、皮膚が薄く、動脈が体表に近いからです。Ouraは自社製品について、手首装着型と比べて脈波信号が最大100倍強いと説明しています。この「信号の強さ」は、後で述べる睡眠段階の判定や、夜間の血圧関連パターンの推定といった、微細な波形の形を使う解析すべての土台になります。
逆にいえば、指先の血流が乏しい状態では、この方式は原理的に弱くなります。末梢循環障害、重度の心不全、ショック、強い浮腫、極端な低体温――こうした状況で数値が不安定になるのは、機械の故障ではなく方式そのものの限界です。この点は在宅医療のセクションで改めて掘り下げます。
「50以上の健康指標」の正体 ―― 実測は3種類だけ
Oura Ring 5は「50を超える健康指標を計測」と宣伝されています。しかしハードウェアの仕様を見ればわかるとおり、この指輪が物理的に測定しているのは3種類の信号だけです。残りはすべて、その3つから計算によって導かれた「推定値」です。
図2|メーカー公式のセンサー仕様・機能一覧をもとに作成。
「50以上の指標」は、50種類のセンサーがあるという意味ではありません。3種類の信号を、50通りの角度から解釈しているだけです。したがって、もとの3つの信号が乱れる条件(末梢の血流低下、装着のゆるみ、不整脈など)では、50の指標が一斉に信頼できなくなります。1つの数値だけを疑うのではなく、その日のデータ全体を疑うのが正しい読み方です。
睡眠はどこまで当たるのか ―― 「平均は合うが、その日はぶれる」
Oura Ringの機能のうち、最も研究が蓄積しているのが睡眠測定です。基準となるのは睡眠ポリグラフ検査(PSG)で、脳波・眼球運動・筋電図を同時記録して睡眠段階を判定する検査室の標準法です。
集団の平均で見ると、ほぼ一致する
2025年に発表された初のメタ解析(6研究・388人)では、総睡眠時間・睡眠効率・中途覚醒時間・入眠潜時・浅い睡眠・深い睡眠・レム睡眠の7項目すべてで、Oura RingとPSGの間に統計的に有意な差はありませんでした。総睡眠時間の平均差はわずか−2.97分でした。
日本人96人・のべ421,045エポックを多夜のPSGと比較した2024年の研究(東京大学ほか)でも、就床時間・総睡眠時間・入眠潜時・中途覚醒時間・睡眠効率でPSGと有意差はなく、睡眠と覚醒を見分ける精度は91.7〜91.8%、感度94.4〜94.5%でした。「眠っているか起きているか」の判定は、かなり信頼できます。
しかし個人の1日単位では、大きくぶれる
問題は、平均が合うことと、あなたの昨夜のデータが合っていることは別だという点です。同じ日本人研究で、睡眠段階を見分ける感度は深い睡眠で64.0%、浅い睡眠で76.8%にとどまり、覚醒の判定の特異度は73.0〜74.6%でした。睡眠効率は1.1〜1.5%、レム睡眠は4.1〜5.6分ほど過小評価される傾向がありました。
さらに、睡眠検査を受けている患者を対象に複数の指輪型デバイスを検証した2025年の研究では、Oura Ringが深い睡眠を過大評価した幅は平均でわずか5.98分だったのに対し、そのばらつき(標準偏差)は67.79分でした。平均としては優秀でも、個人の一晩を見れば1時間以上ずれることが珍しくないという意味です。
図3|Khan S ら(2025年、OTO Open)のメタ解析と、指輪型デバイスの臨床場面での検証(2025年、Scientific Reports)をもとに作成。
昨夜の「深い睡眠が32分しかなかった」という表示に一喜一憂する意味はほとんどありません。使うべきは2週間・1か月といった単位の傾向です。「先月より就床時刻が1時間遅くなっている」「旅行後2週間、中途覚醒が増えたまま戻らない」――このレベルの変化なら、機器の誤差より大きく、意味を持ちます。
新機能①「血圧シグナル」―― 血圧は表示されない
Ring 5と同時に発表された最大の新機能がHealth Radar(ヘルスレーダー)で、その中核が「Blood Pressure Signals(血圧シグナル)」と「Nighttime Breathing(夜間の呼吸)」です。40名以上の社内の医師・研究者と共同開発されたとされています。
何をしていて、何をしていないのか
血圧シグナルは、夜間のPPG波形を30日単位でまとめて解析し、心血管系に負担がかかっている可能性のあるパターンが出ていないかを判定する機能です。公式サポート資料は明確に、「この機能は実際の血圧をmmHgで測定するものではない」と記載しています。関連機能として、夜間の血圧の下がり方の変化を経時的に示す「Nighttime BP」、そして自分で測った上腕式血圧計の値を手入力して並べて見る「Cuff Inputs」が用意されています。
つまりこの機能は、血圧計の代わりではなく、血圧計で測るきっかけをつくる仕組みです。実際、上腕式で測った値を手入力させる設計になっていること自体が、その位置づけを物語っています。
なぜ「夜間」なのか ―― ここには確かな医学的根拠がある
健康な体では、夜間に血圧が10〜20%ほど下がります(dipper型)。この夜間の低下が乏しい、あるいは逆に上がってしまう人は、日中の血圧が同じでも心血管疾患のリスクが高いことが、多くの研究で示されています。
日本発の代表的な研究がJAMP研究(2020年、Circulation誌)です。6,359人の高血圧患者を追跡し、夜間収縮期血圧が20mmHg高いごとに心血管イベントのリスクが21〜36%増加すること、そして夜間にむしろ血圧が上がるriser型では、心不全の発症リスクがdipper型の約2.5倍(診察室血圧と24時間血圧で補正後もハザード比2.45)であることを示しました。
図4|Kario K ら(2020年、Circulation誌 142巻1810-1820頁)をもとに作成。夜間血圧の測定は本来、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)が基準です。
それでも、この数値で治療方針は決められない
夜間血圧に注目すること自体は、医学的に完全に正しい方向です。問題は「指輪から推定した数値をどこまで信じてよいか」です。
- 2025年のAHA/ACC高血圧ガイドラインは、精度と信頼性が十分に示されるまで、カフレス(腕帯を使わない)血圧機器を高血圧の診断・治療に使わないよう勧告しています。
- 2025年12月の米国心臓協会の科学的声明は、スマートウォッチ・指輪・パッチなどのカフレス機器について、有望ではあるが高血圧の診断や治療判断に足る精度はまだ証明されていないと結論づけています。腕の位置、肌の色、較正からの経過時間といった要因が精度に影響することも指摘されています。
- 欧州高血圧学会も、カフレス機器を高血圧の診断・管理に推奨していません。
- 日本の高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)は、家庭血圧の測定に上腕式血圧計を推奨し、家庭血圧125/75mmHg未満を降圧目標としています。
OuraがmmHgを表示しないという設計は、この規制環境を正確に理解したうえでの判断です。「血圧が測れる指輪」なのではなく、「血圧を測りに行くべきタイミングを知らせる指輪」と考えるのが適切です。
なお、この機能は米国・アラブ首長国連邦・インドで2026年6月から順次提供が始まっており、日本では現時点で利用できません(提供地域は今後変わる可能性があります)。妊娠関連機能を使用中の方には自動的に無効化される仕様です。
新機能②「夜間の呼吸」―― 睡眠時無呼吸は診断しない
もうひとつの新機能が「Nighttime Breathing(夜間の呼吸)」です。従来は一晩ごとに「呼吸の規則性」が表示されるだけでしたが、30日分をまとめて見られるようになったのが変更点です。
Oura側の担当者は、この機能について「睡眠時無呼吸のような特定の病名を指摘することはできず、長期の傾向を示せるだけ」と明言しています。実際、Oura公式のヘルプページも「Oura Ringは睡眠時無呼吸の診断には使えない」と記載しています。米国では、乱れが多く検出された利用者を睡眠医療機器メーカーのResMed社の評価窓口に案内する連携が組まれています。
この設計は誠実だと考えます。睡眠時無呼吸の診断には、無呼吸低呼吸指数(AHI)を算出するために気流・呼吸努力・酸素飽和度の同時測定が必要で、指の脈波と体動だけでは代替できません。「30日のうち呼吸の乱れが多い夜が増えている」という気づきを、簡易検査や睡眠検査につなげる入口として使う――それがこの機能の適切な使い方です。
「体調の予兆」は本当に当たるのか ―― 感度と特異度の話
2024年から提供されているSymptom Radar(症状レーダー)は、安静時心拍・心拍変動・体表温・呼吸数が自分の平常値からずれていないかを毎朝チェックし、「サインなし/軽度のサイン/明確なサイン」の3段階で表示する機能です。Ring 5世代でも、Health Radarの一部として引き継がれています。
この機能の根拠となっているのが、6万3,153人が参加した米国UCSFのTemPredict研究です。2022年にScientific Reports誌に発表された解析では、アルゴリズムは検査を受けに行くより平均2.75日早く新型コロナウイルス感染を検出し、感度82%・特異度63%(ROC曲線下面積0.819)という成績でした。Ouraの自社研究チームによる別解析(2023年、Digital Biomarkers誌)でも、感染申告の最大2.5日前から体温・呼吸数・心拍変動・睡眠効率に変化が出ていたと報告されています。
「2.75日早く、82%の感度」という数字だけを見ると魅力的です。しかし特異度63%という数字の意味を、必ず一緒に理解する必要があります。
図5|Mason AE ら(2022年、Scientific Reports 12巻3463)の感度82%・特異度63%を、それぞれ100人あたりに換算して図示。実際に「サインが出た人のうち本当に発症する割合」は、その集団でどれだけ流行しているかによって大きく変わります。
睡眠不足、飲酒、激しい運動、月経周期、暑い夜、ワクチン接種の翌日――こうした要因でも、心拍・体温・心拍変動は同じように動きます。アルゴリズムには、それが感染症なのか単なる寝不足なのかを区別する手段がありません。「体調に注意」という通知は、原因を特定した宣告ではなく、あくまで「いつもと違う」という報告だと受け止めてください。
その他の新機能と、地域による差
- GLP-1 Insights:GLP-1受容体作動薬(肥満症・2型糖尿病治療薬)を使用中の方が、投与記録・副作用・体重と生体データを一画面でまとめて見られる機能。米国・UAE・インドで2026年6月から。
- Live Activity Tracking:アプリから運動を開始し、ペース・距離・心拍をリアルタイム表示。自動運動検出も40種類以上に対応し、ピラティスやヨガなど動きの少ない運動の精度が改善。2026年6月4日からグローバル提供。
- Counsel Health連携:アプリ内でAIとやり取りし、必要に応じて医師とメッセージで相談できる仕組み。米国の一部州を除く地域限定で、実験的機能の枠組み(Oura Labs)での提供。
- データ削除:アカウントや履歴全体を失わずに、指定した期間の健康データだけを削除できる機能。第2世代以降で、2026年6月4日からグローバル提供。
- Locate:紛失したリングや充電ケースを探す機能。
Health Radar(血圧シグナル・夜間の呼吸)、GLP-1 Insights、Counsel Health連携は、いずれも米国を中心とした地域での提供開始であり、日本では現時点で利用できません。一方、Live Activity Trackingやデータ削除機能はグローバル提供です。「Ring 5を買えばニュースで見た機能がすべて使える」わけではない点に注意が必要です。また、これらの新機能の多くは第3世代以降の旧モデルにも配信されるため、買い替えの動機としては弱いことも申し添えます。
Oura Ring 5に「できないこと」
誤解が生まれやすい部分を、まとめて整理します。
| よくある期待 | 実際 |
|---|---|
| 血圧を測れる | 測れません。mmHgの数値は表示されず、30日単位の「パターン」を示すのみ。日本では未提供。 |
| 心房細動を見つけてくれる | 市販モデルに心房細動の検出・通知機能はありません。心電図電極も搭載されていません。研究段階の報告はありますが、製品機能ではありません。 |
| 血糖値がわかる | 血糖を実測する機能はありません。食事記録と連携する機能はありますが、持続血糖測定器(CGM)とは別物です。 |
| 睡眠時無呼吸を診断できる | できません。Oura公式ヘルプにも診断には使えないと明記されています。 |
| 体温を測れる | 測っているのは指の「体表温」で、平常値からのズレとして扱われます。発熱の有無を体温計の代わりに判断することはできません。 |
| 医療機器である | 医療機器ではありません。日本の正規販売代理店も「本製品は医療機器ではありません。診断を行うものではなく、表示される内容はあくまで参考情報です」と明記しています。 |
| 子どもにも使える | 対象年齢は18歳以上。設計・アルゴリズムが未成年者を対象としていないためです。 |
ここからは、ふくろう訪問クリニックが日々の訪問診療で見ている現実に照らして、一段踏み込んで考えます。結論から申し上げると、「多くの在宅患者さんには向かない。ただし、向く人が確かに存在する」というのが私たちの立場です。
1|在宅の現場で価値が出そうな3つの場面
- 夜間の様子が誰にもわからない、独居の方。訪問診療は、どうしても日中の一場面しか見られません。「夜は眠れています」というご本人の申告と、実際の中途覚醒の回数が食い違うことは日常的にあります。睡眠か覚醒かの判定精度は9割を超えるため、「何時に寝て、夜中に何回起きているか」という粗い情報なら十分に信頼できます。
- 昼夜逆転や夜間せん妄が問題になっている方。睡眠薬を増やすか減らすかを判断するとき、家族の主観的な印象だけが頼りになる場面は多くあります。連続した客観記録があると、「薬を変えた前後で何が変わったか」を確かめられます。
- 介護するご家族の不安が強いケース。これは医学的な理由ではなく、心理的な理由です。「夜、静かにしているけれど大丈夫だろうか」という不安が続くと、介護そのものが続かなくなります。データが介護者の安心につながるなら、それ自体に価値があります。
2|しかし、在宅患者さんほど精度が落ちるという構造
ここが最も重要な指摘です。Oura自身が公式ヘルプで、「以下の疾患があるとデータが変わる可能性がある」として挙げているのは次の項目です。
睡眠時無呼吸症候群/ペースメーカー/不整脈/血液循環の問題/むずむず脚症候群/心臓疾患
お気づきでしょうか。これは、在宅療養中の高齢の方が抱えている併存疾患のリストと、ほとんど一致します。心房細動があれば脈波の間隔は不規則になり、心拍変動の解釈が成り立ちません。心不全や末梢動脈疾患があれば指先の血流が乏しく、光学式センサーの信号そのものが弱くなります。つまり、データがいちばん欲しい人ほど、データがいちばん当てにならないという逆転が起きます。
加えて、機器の側の問題があります。
- 浮腫と体重変動。心不全・腎不全・低栄養の方は、日によって指の太さが変わります。きつくなれば皮膚を傷めますし、ゆるくなれば密着が失われて測定が不安定になります。サイズ展開が6〜13号に狭まったことも、痩せの強い方には不利です。
- 認知症のある方の自己抜去。装着し続けられなければ、そもそもデータが取れません。
- 皮膚の脆弱性。ステロイド長期使用、低栄養、るい痩の方では、常時装着する異物そのものがリスクになります。
- 本体メモリが3日分に減ったこと。ご本人がスマートフォンを操作されない場合、ご家族が定期的に同期しなければデータは消えます。週1回の訪問時にまとめて確認する、といった運用は成り立ちません。
- リチウム電池を内蔵していること。MRI検査時は外す必要があり、看取りの後の扱い(火葬時の取り外し)についても、あらかじめご家族と共有しておくべき事項です。
3|制度の壁 ―― 医療の判断材料として扱えるか
Oura Ringは医療機器ではありません。したがって、そのデータを診断の根拠にすることも、診療報酬の算定根拠にすることもできません。在宅酸素療法や在宅持続陽圧呼吸療法(CPAP)については遠隔モニタリングを評価する枠組みが整備されていますが、これらは専用の治療機器から得られるデータを前提としたものであり、一般消費者向けウェアラブルはその枠外です。
現実的には、「患者さんが自費で購入し、自身の記録として持参されたものを、参考情報として一緒に見る」という位置づけになります。血圧手帳や食事日記と同じ扱いです。有用ではありますが、そこに医学的な重みを与えるのは検査と診察であって、指輪ではありません。
4|見落とされがちなリスク ―― データが不安を増やす
心房細動の患者172名(平均72.6歳)を対象とした2024年の研究(Journal of the American Heart Association誌)では、ウェアラブルを使用している群は、使用していない群と比べて症状への過度な注視・とらわれが有意に高く、治療への不安も強いことが示されました。さらに、ウェアラブル使用者の20%は、不整脈の通知を受け取るたびに不安を感じ、必ず主治医に連絡していたと報告されています。心電図検査・心エコー検査・アブレーションの実施率も、使用者群で有意に高くなっていました。
これは軽視できない知見です。私たちが訪問診療で出会う方の多くは、すでに複数の不安を抱えています。そこに「昨夜の回復スコアは38でした」「体調の変化に注意」という毎朝の通知が加わったとき、それが安心をもたらすのか、新しい心配の種になるのかは、その方の性格と状況によって正反対に分かれます。導入前に、そこを見極める必要があります。
5|それでも勧める場合の、当院の線引き
図6|ふくろう訪問クリニックにおける運用の考え方。医学的根拠に基づく一般的推奨ではなく、当院の臨床判断としての整理です。
私たちがこの機器に感じている価値は、実のところ「測定」ではなく「継続」にあります。血圧計は測ろうと思わなければ測れません。睡眠検査は一晩しか記録できません。しかし指輪は、意識しなくても毎日つながっています。1日の精度では劣っても、90日の連続記録が持つ情報量は、年に数回の検査を上回ることがあります。
ただし、その情報が意味を持つのは、誰かがそれを継続的に読み、変化に気づき、次の行動につなげたときだけです。読む人がいないデータは、ただ蓄積されるだけです。もしお使いになるなら、ぜひ診察の場に持ってきてください。私たちが一緒に読みます。それがこの機器を医療に接続する、いまのところ唯一の方法だと考えています。
場面別・早見表
| あなたの状況 | Oura Ring 5は役に立つか |
|---|---|
| 生活リズムを整えたい健康な成人 | 向いています。就床時刻・起床時刻・中途覚醒の傾向を長期に見る用途は、この機器が最も得意とするところです。 |
| すでにRing 4を使っている | 買い替えの必要性は低いです。新機能は第3世代以降にも配信されます。装着感の改善に価値を感じるかどうかで判断してください。 |
| 高血圧を管理したい | 血圧計の代わりにはなりません。上腕式の家庭血圧計をお使いください。日本では血圧シグナル機能自体が未提供です。 |
| いびきや日中の眠気が気になる | 受診のきっかけとしては有用。ただし診断はできません。簡易検査や睡眠検査を受けてください。 |
| 動悸があり不整脈が心配 | 役に立ちません。心房細動の検出機能はありません。心電図やホルター検査が必要です。 |
| 糖尿病の管理をしたい | 血糖は測れません。必要な方は主治医とCGMの適応を相談してください。 |
| 高齢のご家族を見守りたい | 条件つき。装着継続と同期の運用ができるか、そして併存疾患で精度が落ちないかを先に確認してください。 |
| 数値を見ると不安になりやすい | お勧めしません。毎朝の通知が心配の種になる可能性があります。 |
| 18歳未満 | 対象外です。メーカーが18歳以上を対象としています。 |
よくあるご質問
睡眠スコアが毎日60台です。病気でしょうか。
スコアそのものはメーカー独自の合成指標で、診断的な意味はありません。ただし、日中の強い眠気、集中力の低下、大きないびき、朝の頭痛といった症状が伴うなら、それはスコアとは別に受診の理由になります。判断の材料はスコアではなく、症状と経過です。
「体調に注意」の通知が出ました。仕事を休むべきですか。
通知の根拠は「あなたの平常値からのズレ」であり、原因は特定されていません。前日の飲酒、睡眠不足、激しい運動、暑さでも同じ変化が出ます。体温を測り、症状の有無を確認したうえで判断してください。研究で示された特異度は63%で、発症しない方の約4割にもサインが出る計算になります。
Ring 4を持っています。Ring 5に買い替えるべきでしょうか。
新機能の大半は第3世代以降にも配信されるため、機能を理由とした買い替えの必要性は高くありません。判断材料になるのは、40%の小型化による装着感の改善、そしてセンサードームの改良による信号品質です。一方で、本体メモリが3日分に減り、サイズ展開が狭まった点は後退です。
日本でも血圧シグナルは使えますか。
2026年8月時点では提供されていません。米国・アラブ首長国連邦・インドで2026年6月から順次開始されています。なお提供が始まったとしても、表示されるのは血圧の数値ではなく30日単位のパターンです。
主治医にデータを見せれば、薬を調整してもらえますか。
参考情報として一緒に見ることはできますが、それだけで薬の量を決めることはできません。医療機器ではないため、診断や治療方針の根拠にはならないためです。降圧薬なら家庭血圧の記録、睡眠薬なら症状と生活の変化――標準的な指標と併せてお持ちください。
MRI検査や手術のときはどうすればよいですか。
金属製でリチウム電池を内蔵しているため、MRI検査時は必ず外してください。手術時も同様です。また、指の腫れが予想される処置の前には、あらかじめ外しておくことをお勧めします。
睡眠や夜間の様子でお困りのとき
ふくろう訪問クリニックでは、福岡市早良区を中心に訪問診療を行っています。夜間の不眠・昼夜逆転・睡眠薬の調整、ご家族の介護負担など、ご自宅での療養にまつわるご相談をお受けしています。ウェアラブルの記録をお持ちの方は、診察の際にお見せください。標準的な診察・検査と併せて、一緒に読み解きます。
通院が難しくなってきた方、退院後の療養先をお探しの方も、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考文献・出典
製品仕様(メーカー公式資料)
- Oura Health Oy.「Discover Oura Ring 5」Oura Member Care.(2026年7月27日更新)
- Oura Health Oy.「Introducing Oura Ring 5: The World’s Smallest Smart Ring」The Pulse Blog.(2026年5月28日)
- Oura Health Oy.「Inside the Ring: Building Oura Ring 5」The Pulse Blog.(2026年5月28日)
- Oura Health Oy.「From Early Signals to Early Intervention: Introducing Health Radar」The Pulse Blog.(2026年5月28日)
- Oura Health Oy.「New Oura Features to Help You Stay Ahead of Your Health」The Pulse Blog.(2026年5月28日)
- Oura Health Oy.「Health Radar」Oura Member Care.(2026年7月)
- Oura Health Oy.「Ouraと医療条件」Ouraヘルプセンター(日本語版)
- ソースネクスト株式会社「Oura Ring 5」製品情報ページ(日本国内正規販売代理店、2026年6月)
診療ガイドライン・学会の公式声明
- 日本高血圧学会 高血圧管理・治療ガイドライン作成委員会編『高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)』ライフサイエンス出版、2025年8月29日発行.
- Cohen JB, Byfield RL, Hardy ST, et al; American Heart Association Council on Hypertension, et al. Cuffless Devices for the Measurement of Blood Pressure: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2025 Dec 11 (online ahead of print). doi:10.1161/HYP.0000000000000254. PMID: 41376592
- 2025 AHA/ACC/AANP/AAPA/ABC/ACCP/ACPM/AGS/AMA/ASPC/NMA/PCNA/SGIM Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation, and Management of High Blood Pressure in Adults. Hypertension. 2025;82:e212–e316. doi:10.1161/HYP.0000000000000249
- Stergiou GS, Avolio AP, Palatini P, et al. European Society of Hypertension recommendations for the validation of cuffless blood pressure measuring devices. J Hypertens. 2023;41(12):2074–2087. doi:10.1097/HJH.0000000000003483. PMID: 37303198
- Stergiou GS, Mukkamala R, Avolio A, et al. Cuffless blood pressure measuring devices: review and statement by the European Society of Hypertension Working Group on Blood Pressure Monitoring and Cardiovascular Variability. J Hypertens. 2022;40(8):1449–1460. PMID: 35708294
査読付き原著論文
- Khan S, Ibrahim AF, Vasudevan SS, Quatela OE, Nanu DP, Carr MM. The Oura Ring Versus Medical-Grade Sleep Studies: A Systematic Review and Meta-Analysis. OTO Open. 2025;9(4):e70181. doi:10.1002/oto2.70181
- Svensson T, Madhawa K, Nt H, Chung UI, Svensson AK. Validity and reliability of the Oura Ring Generation 3 (Gen3) with Oura sleep staging algorithm 2.0 (OSSA 2.0) when compared to multi-night ambulatory polysomnography: A validation study of 96 participants and 421,045 epochs. Sleep Med. 2024;115:251–263. doi:10.1016/j.sleep.2024.01.020. PMID: 38382312 ※本研究はOura Health Oyから資金提供を受けています。
- Robbins R, Weaver MD, Sullivan JP, et al. Accuracy of Three Commercial Wearable Devices for Sleep Tracking in Healthy Adults. Sensors. 2024;24(20):6532. doi:10.3390/s24206532
- Performance of wearable finger ring trackers for diagnostic sleep measurement in the clinical context. Sci Rep. 2025. doi:10.1038/s41598-025-93774-z
- Kario K, Hoshide S, Mizuno H, et al; JAMP Study Group. Nighttime Blood Pressure Phenotype and Cardiovascular Prognosis: Practitioner-Based Nationwide JAMP Study. Circulation. 2020;142(19):1810–1820. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.120.049730. PMID: 33131317
- Mason AE, Hecht FM, Davis SW, et al. Detection of COVID-19 using multimodal data from a wearable device: results from the first TemPredict Study. Sci Rep. 2022;12:3463. doi:10.1038/s41598-022-07314-0
- Pho G, Thigpen N, Patel S, Tily H. Physiological Responses to COVID-19 Infection and Vaccination Measured by a Wearable Device. Digital Biomarkers. 2023.(Oura社研究チームによる解析)
- Rosman L, Lampert R, Zhuo S, et al. Wearable Devices, Health Care Use, and Psychological Well-Being in Patients With Atrial Fibrillation. J Am Heart Assoc. 2024;13(15):e033750. doi:10.1161/JAHA.123.033750
公的機関
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
本記事は2026年8月時点で公開されている情報に基づいて作成しています。製品の仕様・提供地域・価格は変更される場合があります。記載内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の診断や治療方針を示すものではありません。体調に不安がある場合や、機器の表示について気になる点がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
ふくろう訪問クリニック/医療法人ふくろうの樹

