「白髪は抜くと増えるから、抜かないほうがいい」――鏡の前で白い毛を見つけたとき、こんな言い伝えを思い出す方は多いのではないでしょうか。「1本抜くと、そこから何本も生えてくる」という言い方を聞いたことがある方もいるかもしれません。
この記事では、白髪ができるしくみを最近の研究をもとに整理したうえで、「抜くと増える」に科学的な根拠があるのかを確かめます。あわせて、このうわさがなぜ信じられてきたのか、考えられる理由もご紹介します。
SECTION 01 結論:抜いても増えない。でも、抜くのはおすすめしません
先に結論をまとめます。
1本抜いても、まわりの毛は白くならない
白髪は、毛の根元で色をつくるしくみが、毛穴(毛包)ごとに働かなくなって起こる変化です。1本を抜いたことで、となりの毛穴の毛まで白くなるしくみは知られていません。人で「抜くと白髪が増えるか」を直接調べた研究も、調べた範囲では見当たりませんでした。
抜いた毛穴からは、たいていまた白髪が生える
色をつくる細胞の補充が途切れた毛穴から生えてくるためです。抜いても、白髪がなくなるわけではありません。
同じ毛穴を何度も抜くのは避けたほうが無難
マウスの実験では、同じ場所の毛をくり返し抜いて生え替わりの回数を増やすと、白髪が増えることが確かめられています。人で同じことが起こるかはわかっていませんが、抜き続けると毛が薄くなったり、皮膚を傷めたりすることもあります。
気になる白髪は「根元で切る」か「染める」
毛染めをする場合は、かぶれ(アレルギー性の皮膚炎)を防ぐために、使うたびに皮膚のテストをすることが勧められています。
SECTION 02 髪の色はどこでつくられる? 白髪ができるしくみ
髪の毛は、頭皮の中にある「毛包(もうほう)」という小さな袋のような器官から生えてきます。頭髪は3〜5年ほど伸び続け(成長期)、1か月におよそ1cmのペースで伸びます。やがて成長が止まって抜け落ち、同じ毛包から次の毛が生えてきます。毛包は、このサイクルを一生くり返しています[1]。
髪の色のもとは、メラニンという色素です。成長期の毛包の根元には、メラニンをつくる「色素細胞(メラノサイト)」がいて、伸びていく毛にメラニンを渡しています。この色素細胞は、成長期が終わると消えてしまいます。次の成長期のたびに新しい色素細胞を送り出しているのが、毛包の中で待機している「色素幹細胞(メラノサイト幹細胞)」です[2]。
図1 髪に色がつくしくみと、白髪になるとき
上が毛の時期、下がそのとき毛包の中で起きていることです。
出典:Pandhi D, et al. 2013[1]、Sun Q, et al. 2023[2]をもとに作成。
白髪は、この補充がうまくいかなくなった毛包から生えてくる毛です。色素幹細胞が減ったり、働けない状態になったりすると、毛そのものは伸びても色がつきません。白く見えるのは光の反射によるもので、毛の本来の色は薄い黄色です[1]。
白髪のしくみは、この20年ほどで研究が大きく進みました。代表的なものを紹介します。
2005年:色素幹細胞を「保てなくなる」ことが白髪の原因
西村栄美氏らの研究グループは、マウスと人の毛包を調べ、年齢とともに増える白髪は、色素幹細胞が自分自身を保てなくなることで起こると示しました[3]。
2023年:幹細胞が「動けなくなる」と色をつくれない
米国ニューヨーク大学の研究グループは、マウスの色素幹細胞が毛包の中の区画を行き来しながら、未熟な状態と少し成熟した状態を切り替えていることを明らかにしました。年をとると、本来の場所に戻れず「取り残される」幹細胞が増え、色素細胞を送り出せなくなっていました[2]。
ストレスとの関係
マウスでは、強いストレスで交感神経が過剰に働き、そこから出るノルアドレナリンが色素幹細胞を一気に使い果たして白髪になることが示されています[4]。人では、14人の毛を詳しく調べた小規模な研究で、強いストレスの時期に毛の色が抜け、ストレスが和らいだ時期に色が戻った例が報告されています[5]。
2025年:白髪は「がんを防ぐ反応」の裏返しかもしれない
東京大学などの研究グループは、マウスで、DNAに深い傷を負った色素幹細胞が成熟して毛包から消えていくことで白髪になり、この反応が皮膚がんの一種(メラノーマ)を防ぐ方向に働いていることを示しました[6]。
これらの多くはマウスでの研究で、人にそのまま当てはまるとは限りません。ただ、いずれも「白髪は、毛包の中の色素幹細胞に起きる変化」という点で一致しています。
SECTION 03 白髪はいつから、どのくらい増える?
白髪が出始める年齢には、個人差や人種差があります。皮膚科の総説によると、日本人では男性で30〜34歳、女性で35〜39歳ごろに白髪が出始めるとされ、アジア人では25歳より前に始まる白髪を「早すぎる白髪(若白髪)」と呼びます[1]。
2012年に発表された、世界各地の健康な成人4,192人の髪を調べた調査では、45〜65歳の74%に白髪があり、頭髪に占める白髪の割合は平均27%でした。男性のほうが白髪が多く、アジア系・アフリカ系の人は、同じ年齢のヨーロッパ系の人より白髪が少ない傾向でした[7]。
「50歳になると半数の人が、髪の半分以上が白髪になる」という“50のルール”がよく知られています。上の調査で実際に計算すると、50歳で髪の半分以上が白髪の人は6〜23%(人種や元の髪の色によって違う)で、このルールは大げさだったことがわかりました[7]。なお、この調査は化粧品会社の研究者によるもので、白髪の量は専門家が色見本と見比べて判定しています。数字はおおよその目安と考えてください。
ここで大切なのは、白髪は年齢とともに少しずつ「自然に増えていく」ものだということです。最初の1本を見つけてから数年のうちに白髪が増えるのは、抜いても抜かなくても起こりうることです。
SECTION 04 「抜くと増える」は本当? 研究からわかること
結論から言うと、「白髪を抜くと、まわりの白髪が増える」ことを示す研究は見当たりません。一方で、毛を抜くことが毛包にまったく影響しないわけでもありません。言い伝えごとに整理すると、図2のようになります。
図2 白髪の言い伝えと、研究でわかっていること
左が言い伝え、右が研究からの判断です。
出典:本文で紹介する各研究[1][2][8][9][10]をもとに作成。
それぞれの根拠を見ていきます。
白髪は、毛包ごとに進む
1本の毛の中でも根元と毛先で色が変わることがあり、毛と毛の間でも色はさまざまです。黒い毛と白い毛が混ざることで、全体がグレーに見えます[1]。白髪化は、1つひとつの毛包の中で別々に進む変化です。
まばらに抜いても、まわりの毛は反応しない(マウス)
マウスの背中で200本の毛を、直径6mmを超える広い範囲からまばらに抜いても、まわりの毛に変化は起きませんでした。直径3〜5mmほどの狭い範囲から密に抜いたときにだけ、抜いていない周囲の休んでいた毛まで一斉に生え替わりを始めました(最大で、抜いた本数の約5倍)[8]。これは毛の生え替わりが起きる話で、白髪が増える話ではありません。数本の白髪を抜く程度で、まわりの毛に影響が及ぶとは考えにくい結果です。
同じ毛穴で生え替わりをくり返させると、白髪が増える(マウス)
日本の研究グループは、マウスの体の毛をくり返し抜くなどして生え替わりの回数を増やすと、遺伝子に異常がなくても白髪がはっきり増えることを報告し、これを白髪研究のモデルとして使っています[9]。前述のニューヨーク大学の研究でも、生後3週から生え替わりのたびに毛を抜き続けたマウスは白髪になり、色素幹細胞が本来の場所から外れて「取り残された」毛包の割合が、約10%から50%超に増えていました(図3)[2]。
人では「抜く回数」と白髪の関係はわかっていない
マウスの毛は短い周期で生え替わりますが、人の頭髪の成長期は3〜5年と長く[1]、ときどき数本を抜く程度で同じことが起こるかはわかっていません。ただし、自分の毛をくり返し抜いてしまう「抜毛症」では、抜いた部分の髪が薄くなり、毛抜きなどを使うと皮膚を傷つけることもあります[10]。
図3 毛を抜き続けたマウスの毛包で起きていた変化
色素幹細胞が本来の場所から外れて「取り残された」毛包の割合
(抜き始めて間もない時期)
(抜き続けたあと)
出典:Sun Q, et al. Nature. 2023[2]。生後3週から、休止期のたびに毛を抜いて生え替わりを早めたマウスでの結果。取り残された色素幹細胞は、色素細胞をほとんど送り出していませんでした。
SECTION 05 うわさはどこから来たのか
「白髪を抜くと増える」という言い伝えが、いつ、どこで生まれたのかを記録した学術的な資料は、調べた範囲では見つかりませんでした。ただ、ここまでの研究を重ね合わせると、多くの人が「抜いたら本当に増えた」と感じてきた理由は、ある程度説明できます。
白髪は、もともと年齢とともに増えていく
45〜65歳の約4人に3人に白髪があります[7]。抜いたあとに白髪が増えたのは、抜いたからではなく、時間がたったからと考えるのが自然です。前後して起きた2つのことを「原因と結果」と取り違えるのは、よくある思い込みです。
抜いた場所から、また白髪が出てくる
白髪化はふつう進んでいくもので、自然に元へ戻ることはまれです[1]。抜いても同じ毛穴からまた白髪が生えてくるため、「抜いても抜いても生えてくる」と感じやすくなります。
白髪は太く、伸びるのが速い傾向がある
閉経後の女性12人の髪を調べた研究では、白髪は色のある毛より伸びるのが速く(1日あたり0.38mm対0.35mm)[11]、白髪は太く硬く、まとまりにくいとされています[1]。生えてきたばかりの短い白髪は、ピンと立って目につきやすいと考えられます。
一度見つけると、探してしまう
最初の1本に気づくと、鏡で白髪を探す回数が増え、もともとあった白髪にも気づきやすくなります。「増えた」のではなく「見つけるようになった」部分もあるでしょう。※研究で確かめられたものではなく、考えられる理由のひとつです。
「抜かないほうがいい」は、結果的に的外れではない
マウスでは、同じ毛を何度も抜くと白髪化が進みます[2][9]。言い伝えが生まれたころにこうした知見があったわけではありませんが、「抜くな」という戒めそのものには、理にかなった面もありそうです。
「剃ると毛が濃くなる」:剃っても毛の太さや伸びる速さは変わらないことが、古くからの研究で確かめられています。剃った毛は先が細くなっていないため太く見え、日光で色があせていない新しい毛は濃く見えるだけです[12]。
「一晩で白髪になる」:フランス王妃マリー・アントワネットの逸話で知られます。医学的には、円形脱毛症などで色のある毛だけが短期間に抜け落ち、もともとあった白髪が残ることで、急に白髪になったように見えると考えられています[1][13]。
SECTION 06 気になる白髪との付き合い方
年齢とともに増える白髪そのものは、病気ではありません。気になる場合は、次のような方法があります。
抜くより、根元近くで切る
はさみで根元近くを切れば、毛包を傷めずに目立たなくできます。皮膚科の総説には、白髪が全体の1割に満たなければ抜くのも選択肢のひとつ、とするものもあります[1]。ただ、マウスでの結果や毛包への負担を考えると、同じ毛を何度も抜くより切るほうが無難です。
染めるなら、使うたびに皮膚テストを
一般的なヘアカラーや白髪染めの多くは「酸化染毛剤」で、ヘアマニキュアなどの染毛料に比べてアレルギーを起こしやすいとされています。これまで問題がなかった人でも、くり返し使ううちにかぶれるようになることがあり、一度アレルギーになると、使うたびに症状が重くなることもあります。厚生労働省は、使用前に皮膚アレルギー試験(パッチテスト)を行い、塗ってから約30分後と48時間後に皮膚の様子を見ること、塗った部分を絆創膏などで覆わないこと、かゆみ・赤み・痛みなどが出たら使用をやめて医療機関を受診することを、利用者に伝えるよう求めています[14]。
「白髪が黒くなる」とうたう商品は慎重に
2013年の皮膚科の総説では、白髪を黒く戻す効果が科学的に確かめられた治療はなく、ビタミンやミネラルのサプリメントも効果を示す根拠は乏しいとされています[1]。
たばこを控える
喫煙は白髪と関係があると報告されています[1]。禁煙は、白髪に限らず全身の健康のために勧められます。
SECTION 07 こんなときは医療機関に相談を
年齢相応の白髪であれば心配はいりませんが、次のような場合は病気が隠れていることがあります。
若いうちに白髪が急に増え、家族に同じような人がいない
早すぎる白髪は、悪性貧血(ビタミンB12をうまく吸収できない病気)や、甲状腺の働きが強すぎる・弱すぎる病気などと関係することがあります。家族に早い白髪の人がいない場合は、ビタミンB12・葉酸・甲状腺の血液検査が考慮されます[1]。
一部分だけ白くなった
白斑(はくはん)という病気では、白くなった毛の下の皮膚の色も抜けていることがあります[1]。皮膚科で相談してください。
短い期間に髪がまとまって抜け、白髪だけが残ったように見える
円形脱毛症では、色のある毛が狙われるように抜けることがあり、急に白髪になったように見えます[1]。
髪を抜くのがやめられない
白髪に限らず、自分の毛をくり返し抜いてしまい、やめようとしてもやめられずに困っている場合は、「抜毛症」という病気かもしれません。人口の0.5〜2.0%にみられるとされ、習慣逆転法という行動療法や、薬による治療があります[10]。精神科や心療内科で相談できます。
SECTION 08 在宅での身だしなみのケアで気をつけたいこと
ご自宅で療養している方にとっても、髪を整えたり、白髪を染めたりすることは、その人らしく過ごすための大切なケアのひとつです。次の点に気をつけましょう。
毛染めのあとは、ご家族が皮膚の様子を確認
かゆみや痛みを言葉で伝えにくい方では、毛染めのあと、生え際・首すじ・耳のまわりに赤みやはれ、かき傷がないかを見てあげてください。アレルギーの反応は翌日以降に出ることもあります。異常があれば次からは使わず、医師に相談しましょう。アレルギーは、使うたびに重くなることがあります[14]。
髪を抜く・皮膚をかきむしる行為が増えたら
かゆみや皮膚の病気、不安や落ち着かなさなど、さまざまな理由が考えられます。気づいたことを、訪問診療の医師や訪問看護師に伝えてください。
通院が難しい方は、訪問診療でご自宅にいながら相談できます。ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区・西区・城南区・中央区で、月1〜2回の定期的な訪問診療を行っています。ご相談は、お電話・メール・公式LINEで受け付けています。ご依頼の際は、保険証のほか、可能であれば今かかっている医療機関の紹介状、お持ちであればお薬手帳(お薬のデータ)・介護保険証・公費の受給者証をご用意ください。
SECTION 09 ご利用・採用のご案内
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参考文献
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