食が細くなり、やがて水分もあまりとれなくなってきた――。がんや老衰、認知症などで家族を自宅でみていると、いつかこの時期が訪れます。「点滴をしないと、脱水で苦しむのでは」「何もしないのは、見捨てるようでつらい」。そう感じるのは、大切に思っているからこそです。がんの家族を緩和ケア病棟で看取った遺族への日本の全国調査でも、約7割が、本人が食べられなくなったことをつらく感じていました[1]。
一方で、人生の最終段階の点滴(輸液)は「多いほど楽になる」ものではないことも、研究からわかってきました。この記事では、日本緩和医療学会の輸液のガイドライン[2]、日本老年医学会のガイドライン[3]、国内外の臨床試験や観察研究をもとに、点滴が楽にしてくれること・負担になりうること、量を減らすという選択肢、口の渇きへのケア、家族での話し合い方を整理します。
SECTION 01 結論:点滴は「する・しない」より「目的と量」で考える
最期が近い時期は、点滴を増やしても楽になりにくい
残された時間が週単位〜日単位になると、点滴を増やしても、だるさなどの症状や、本人が感じる口の渇きはあまり変わらないという研究結果があります[4][2]。
むくみや痰が増えることがある
体が水分を使いきれなくなると、むくみ・腹水・胸水が増えやすくなり[5]、痰(気道分泌)が増えるという報告もあります[6]。量を減らす・やめることで楽になる場合もあります。
点滴が役に立つ場面もある
がんの終末期について、日本緩和医療学会のガイドラインは、脱水が原因のせん妄や急な脱水、残された時間が1か月程度でまだ体力がある場合などに、点滴が助けになることがあるとしています[2]。
口の渇きには口腔ケア。決めたあとも見直せる
口の渇きには、口の中を湿らせるケアが役立ちます[2]。どの選択も本人の思いを中心に話し合い、状態に合わせて何度でも見直せます[7]。
SECTION 02 食べられなくなるのは、体の変化のサイン
病気が進むと、食欲が落ち、食べる量・飲む量が少しずつ減っていきます。がんでは「がん悪液質(あくえきしつ)」といって、がんの影響で筋肉や脂肪が減り、栄養をとっても体がうまく使えなくなる状態になることがあります[2]。老衰や認知症の終末期でも、飲み込む力や食べる意欲が少しずつ衰えていきます。
このため、最期の時期に食べられなくなるのは、「食べないから弱る」というより、「体が弱ってきたので食べられなくなる」と考えたほうが実態に近いことが多いのです。ガイドラインは、「点滴をしないと衰弱してしまう」といった誤解があれば、点滴の目的と利益・不利益を説明することを勧めています[2]。
また、体が弱ってくると、血管に入れた水分が血管の中にとどまりにくくなり、手足のむくみや、お腹の水(腹水)、胸の水(胸水)としてたまりやすくなります[2]。点滴の量を考えるときに、むくみや痰の様子を一緒にみるのはこのためです。
SECTION 03 研究でわかっていること:点滴を増やすと、どうなる?
米国のランダム化比較試験:症状に差はみられず
米国のホスピス6施設で、進行がんの患者さん129人を、1日1Lの点滴(生理食塩水)を受けるグループと、比較のためのごく少量(1日100mL)を受けるグループにくじ引きで分け、本人も医療者もどちらかわからない形で比べた試験があります[4]。主な評価項目とした、だるさ・眠気・幻覚・筋肉のぴくつき(脱水と関係するとされる症状)の4日後・7日後の変化に差はなく、せん妄や生活の質、生存期間にもはっきりした差はみられませんでした。
日本の観察研究:乾燥は軽いが、むくみ・腹水・胸水は増えやすい
日本の多施設で、お腹(腹部)のがんの終末期の患者さん226人を、亡くなるまで追った研究があります[5]。亡くなる3週間前と1週間前に1日1L以上の点滴を受けていた人は、そうでない人に比べて、診察でみる皮膚や口の乾燥(脱水のサイン)は軽い一方、むくみや腹水・胸水によるつらさが悪化しやすいという結果でした[2]。ただし、乾燥はどちらのグループでも最期に向けて進んでいました。ここでいう乾燥は医療者が診察でみたもので、本人が感じる口の渇きとは別のものです。
日本の2つの多施設前向き研究のデータをまとめた二次解析(お腹のがんの方300人)では、亡くなる1週間前に1日500mLを超える点滴を受けていた人は、最期の48時間に、のどの奥でゴロゴロと音がする状態(死前喘鳴〈しぜんぜんめい〉)が起こった割合が23.1%で、500mL以下の人の13.6%より高く、ほかの条件の違いを統計的に調整した後も関連が残っていました(調整オッズ比2.56)[6]。2005年の研究では、痰によるつらさが起こる割合に差はみられておらず、結果は一致していませんが、ガイドラインは、最期の数日に痰がつらい場合は点滴を減らすことを勧めています[2]。
一方、日本・韓国・台湾の緩和ケア病棟の約1,500人を調べた観察研究では、最期が近い時期にまったく点滴をしなかった人に比べて、少なめの量(250〜499mL)の点滴を受けていた人のほうが、「よい最期」の評価尺度で高い点数となる割合が多かったと報告されています[8]。統計的にはっきりした差がみられたのはこの量のグループだけで、観察研究のため点滴の効果とまでは言えませんが、「ゼロか、たっぷりか」ではなく量を調整するという考え方を支える結果の一つです。
複数の研究をまとめて評価するコクランレビュー(2023年)は、4つの研究・422人を検討し、点滴が生活の質を高めるのか、命を延ばすのかについて、確かな結論を出せるだけの質の高い根拠はまだないとしています[9]。対象はすべて進行がんの方で、認知症などほかの病気には当てはめられない可能性も指摘されています。
図1 研究でみえた「点滴を多めにしたとき」の変化
右のチップは、点滴の多いグループが少ないグループと比べてどうだったかを示します(「差なし」以外は、統計的に差がみられたもの)。
出典:Bruera ら 2013[4]、Morita ら 2005[5]、Yokomichi ら 2022[6]をもとに作成。
観察研究は、もともと状態の違う人どうしを比べているため、「点滴が原因でむくみが増えた」とまでは言い切れません。それでも、複数の研究とガイドラインが同じ方向を示していることは、量を考えるうえでの大切な手がかりになります。
SECTION 04 点滴が役に立つ場面とは
点滴が「いらない」わけではありません。ここでは、がんの終末期について、日本緩和医療学会のガイドラインの考え方を紹介します。ガイドラインは、「点滴をする」「しない」といった一律の対応は支持せず、一人ひとりの状態に合わせて考えることを求めています[2]。点滴が助けになりうるのは、たとえば次のような場面です。
残された時間が1か月程度で、まだ体力がある
がんによる腸閉塞(消化管閉塞)で口から飲めないものの、身の回りのことがある程度できる方では、1日500〜1,000mL程度の点滴が生活の質を高めることがあります[2]。
脱水が原因と考えられるせん妄
急につじつまの合わないことを言う、落ち着かなくなるといった「せん妄」が、脱水や薬の影響で起きている場合は、点滴で改善が期待できることがあります。残された時間が1か月程度と考えられる方では、1日500〜1,000mLの点滴を考えるとされています[2]。
急な脱水で、回復が見込める
嘔吐や下痢、発熱などで一時的に飲めなくなった場合は、急な脱水を点滴で補うことが、つらさの改善につながることがあります[2]。
家族が望み、本人の負担になっていない
本人が意思を伝えられず、家族が点滴を望むときは、点滴が本人の負担になっていなければ、様子をみながら行うことも勧められています[2]。
一方、残された時間が1〜2週間と考えられ、横になって過ごす時間が長い場合、ガイドラインは、1日1,000mLを超える点滴や、栄養を多く含む高カロリー輸液は行わないことを勧めています。腸閉塞以外の原因(がん悪液質や衰弱など)で飲めなくなっている場合は、本人・家族の意向を確かめたうえで、点滴をしないことも勧められています[2]。状況ごとの目安を、図2にまとめました。
図2 がんの方の場合:点滴を考えるときの目安
日本緩和医療学会の、がんの終末期(残された時間が1か月程度と考えられる時期)の方への推奨です。左のチップは残された時間の見通しです。実際の量は、体の状態をみて主治医が判断します。
出典:日本緩和医療学会「終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン 2013年版」の推奨をもとに、わかりやすく簡略化[2]。
SECTION 05 量を減らすことも、皮下輸液という方法も
点滴は、始めたら同じ量で続けなければならないものではありません。ガイドラインは、点滴の効果を数日〜数週間ごとにくり返し評価し、必要に応じて見直すことを勧めています。がんの終末期では、むくみや腹水・胸水がつらいときは1日1,000mL以下(むくみでは1,000mL未満)に、最期の数日で痰がつらいときは1日500mL以下に減らす、またはやめることが推奨されています。また、口から1日500mL程度飲める方で腹水や胸水がつらい場合は、本人・家族の意向を確かめて、点滴を行わないことも勧められています[2]。
皮下輸液(ひかゆえき)とは
血管ではなく、皮膚の下に細い針を入れて、ゆっくり水分を入れる方法です。血管に入れる点滴に比べて出血や感染などの合併症が少なく、管理しやすいため、在宅や施設でも比較的安全に行えるとされています。量は1日500〜1,500mL程度までが目安です[2]。
一方で、吸収がゆっくりなので急いで水分を補う必要があるときには向かないこと、栄養を多く含む高カロリー輸液は入れられないこと、針を刺した場所がむくむことがあることなどの注意点もあります[2]。血管に針が入りにくい方や、血管からの点滴を望まない方にとって、選択肢の一つになります。
SECTION 06 口の渇きには、点滴より口腔ケア
口の渇きは、終末期のがんの方の56〜95%にみられるとされます。ところが、口の渇きの程度と点滴の量には、はっきりした関係がみられなかったという研究があり、ガイドラインは、口から水分がとれて、残された時間が1〜2週間と考えられるがんの方の口の渇きに対して、点滴ではなく口腔ケアなどの看護ケアを勧めています[2]。
口腔ケアは、家族も一緒にできるケアです。看護師に方法を教わりながら、次のようなことを試してみてください。
- ✓水やお茶で湿らせたスポンジブラシやガーゼで、口の中をやさしく湿らせる
- ✓唇の乾燥には、保湿剤やワセリンなどを薄く塗る
- ✓飲み込めるうちは、好きな飲み物を少しずつ口に含んでもらう(むせるときは無理をしない)
- ✓小さな氷のかけらを口に含んでもらう(飲み込む力が弱い方は、医師・看護師に確認してから)
- ✓加湿器などで、部屋の乾燥を防ぐ
ガイドラインは、口腔ケアや氷片を口に含ませる、体をふく、マッサージをするといったケアに家族が加わることが、「何もしてあげられない」という無力感をやわらげることにつながるとしています。ただし、つらいときに無理に参加する必要はありません[2]。
SECTION 07 がん以外の病気(老衰・認知症など)では
老衰や認知症の終末期では、日本老年医学会のガイドライン(2012年)が参考になります[3]。このガイドラインは、胃ろうなどの経管栄養や点滴(末梢静脈からの点滴、皮下への持続的な注入)をまとめて「人工的水分・栄養補給」と呼び、次のような考え方を示しています。
- 本人の人生をより豊かにすること、少なくとも悪くしないことを目指し、本人・家族と医療・ケアチームが、話し合いを通じて合意をめざす
- 「始める」だけでなく、「始めない(差し控える)」ことも選択肢になる。延命と生活の質が両立しない段階では、生活の質(QOL)を優先する
- 始めたあとも効果を評価し、本人のためにならなくなれば、減らす・中止することを検討する
- 自然な経過に任せる場合も、ごく少量の水分や食べ物を口からとれるよう工夫する
なお、点滴の効果を調べた研究のほとんどはがんの方が対象で、がん以外の病気については根拠がさらに限られています[9]。胃ろうについては、「胃ろうをつけるか迷ったら:決めるときに考えたいこと」をご覧ください。
SECTION 08 本人の思いを中心に、話し合って決める
点滴をどうするかに、ひとつの「正解」はありません。大切なのは、本人がどう過ごしたいかを中心に、家族と医療・ケアチームが一緒に考えることです。厚生労働省のガイドラインも、本人の意思は変化しうるものだとして、話し合いをくり返し行い、その内容をそのつど文書にまとめておくことを求めています[7]。これからの医療やケアについて前もって話し合っておくこうした取り組みを、「アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)」と呼びます。
話し合うときは、次のことを手がかりにしてみてください。
本人が大切にしていること
「できるだけ家で過ごしたい」「管につながれたくない」「少しでも長く」など、本人の言葉や、これまでの生き方を思い出してみましょう。
点滴の目的
何を楽にするための点滴なのか(せん妄、口の渇き、急な脱水など)を、主治医と一緒に確かめます。
見直すタイミング
「むくみや痰が増えたら減らす」「数日試して変化がなければやめる」など、見直しの目安を前もって決めておくと安心です。
本人が話せなくなったとき
本人ならどう考えるかを家族で推し量り、その思いを尊重しながら、本人にとっての最善を医療・ケアチームと一緒に考えます[7]。
家族の中で意見が分かれることもあります。点滴を望む気持ちの背景には、「何かしてあげたい」という思いがあることも多いものです。一人で抱え込まず、主治医や訪問看護師に気持ちをそのまま伝えてください。
Q. 点滴をやめたら、命が縮んでしまいませんか?
A. 進行がんの方を対象にした試験では、1日1Lの点滴とごく少量の点滴で、生存期間にはっきりした差はみられませんでした[4]。研究をまとめた評価では、点滴を受けた人のほうが生存期間が長かったとする研究も1つありましたが、根拠の確実性は非常に低く、点滴が命を延ばすかどうかは確かではないとされています[9]。状態によって考え方は変わるので、主治医とよく相談してください。
Q. 点滴をしないと、のどが渇いて苦しむのでは?
A. 口の渇きは点滴の量だけでは決まらず、口腔ケアでやわらげられることが多いとされています[2]。気になる様子があれば、看護師にケアの方法を相談してください。
Q. 一度「点滴をしない」と決めたら、変えられませんか?
A. 変えられます。状態や気持ちの変化に合わせて、何度でも話し合い直してかまいません[7]。
SECTION 09 自宅で点滴のことを考えるとき
訪問診療では一般に、次のようなことを主治医と相談できます。
- 自宅での点滴(皮下輸液・静脈からの点滴)を行うかどうかと、その目的
- 点滴の量や時間帯の調整、減らす・やめるタイミング
- むくみ・腹水・胸水・痰・口の渇きの様子の確認と、つらさへの対応
- 口腔ケアの方法や、家族ができるケア
- 訪問看護と連携した、点滴の管理や日々の様子の確認
- 本人・家族との話し合い(ACP)と、方針の見直し
家族ができること
- ✓むくみ(手足・まぶた)、おしっこの量、痰の音、口の乾き、表情などに気づいたら、メモしておく
- ✓点滴の針を刺したところの腫れ・赤み・痛みに気づいたら、看護師に伝える
- ✓夜間・休日の連絡先を、主治医・訪問看護にあらかじめ確かめる
- ✓家族自身も、休む時間をとる
最期の数日に体がどう変わるかは「家で看取るとき、最期の数日に体はどう変わる?家族にできること」で、緩和ケア全般については「緩和ケアは最期の医療? 診断されたときから受けられる緩和ケア」で解説しています。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の訪問診療クリニックです。通院が難しい方のご自宅に医師が伺い、定期的に診療しています。食べられない・飲めないときの過ごし方や、ご自宅での看取りについて気になることがあれば、ご相談ください。お電話・メールのほか、公式LINEでもご相談を受け付けています。
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SECTION 10 受診・相談の目安
点滴をしているかどうかにかかわらず、次のようなときは連絡・相談してください。図の上ほど急ぎます。
図3 こんなときは連絡・相談を
左の様子に当てはまるとき、右の対応をとってください。
相談先は、訪問診療・訪問看護を受けている方は主治医・訪問看護、そうでない方はかかりつけ医です。夜間・休日に連絡がつかず、受診すべきか迷うときは、福岡県の救急医療電話相談 #7119 も利用できます。命に関わるときは119番に連絡してください(訪問診療・訪問看護を受けている方は、まず前もって決めておいた緊急連絡先へ)。
最期が近づくと、呼吸が浅くなる、反応が少なくなるといった変化が自然な経過として起こることがあります。救急隊は原則として救命処置を行うため、あわてて119番に連絡すると、本人の望みと違う対応になることがあります。どんなときに誰へ連絡するかを、あらかじめ主治医・訪問看護と決めておきましょう。
この記事の情報は2026年10月時点のものです。
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参考文献
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