住み慣れた家で、家族に囲まれて最期を迎えたい。その思いに寄りそい、ご自宅での看取りを考えるご家族は少なくありません。一方で、「最期が近づくと、どんなことが起こるのだろう」「苦しそうに見えたら、どうすればいいのだろう」という不安を抱えている方も多いと思います。
この記事では、研究や学会・公的機関のガイドラインをもとに、最期の1〜2週間・数日・数時間に起こりやすい体の変化と、その理由、ご家族にできることを整理します。
SECTION 01 結論:変化の多くは自然な経過。前もって知っておくことが支えに
体の変化の多くは「自然な経過」
眠る時間が増える、食べられなくなる、呼吸の仕方が変わる。体の働きが静かになっていく過程で、多くの方にみられる変化です。
時期には目安と個人差がある
時期ごとに起こりやすい変化はありますが、順番も時期も人によって違い、すべてが起こるわけではありません。
ご家族にできることがある
口を湿らせる、体の向きを整える、声をかけて手を握る。無理に食べさせたり、飲ませたりする必要はありません。
慌てたら、まず訪問診療の医師・訪問看護へ
救急車を呼ぶ前に、主治医や訪問看護に連絡を。夜間・休日の連絡先と、もしものときの方針を、前もって確かめておきましょう。
SECTION 02 最期が近づくと、体の中で何が起きているのか
命の終わりが近づくと、体は少しずつ働きを弱めていきます。心臓が送り出す血液が減ると、尿が減ったり、手足の先まで血液が届きにくくなったりします。脳の働きも穏やかになり、眠る時間が長くなります。
2014年に報告された、米国とブラジルの2つの緩和ケア病棟で進行がんの患者さん357人(うち203人が入院中に死亡)の体の状態を、看護師が12時間ごとに記録した研究があります[1]。この研究では、亡くなるまでに現れる変化が、大きく2つに分かれました。
- 早い時期から多くの人にみられる変化:反応が鈍くなる(意識の低下)、ほぼ一日中横になって過ごす(日常のほとんどに介助が必要)、水分を飲み込みにくくなる。亡くなる3日以上前から現れることが多いものです。
- 最後の3日間に現れることが多い変化:呼吸が止まる間がある、呼吸のリズムが周期的に変わる(チェーン・ストークス呼吸)、喉のゴロゴロ(死前喘鳴)、手足の先が紫色になる、手首の脈が触れない、あごを動かす呼吸(下顎呼吸)、尿の量が減る。
後者のうち5つ(手首の脈が触れない、下顎呼吸、尿の量の減少、チェーン・ストークス呼吸、死前喘鳴)は、3日以内に亡くならなかった人にはほとんどみられず(特異度95%超)、現れたときは3日以内に亡くなる可能性が高いサインと考えられました[1]。一方で、亡くなる前の最後の12時間をみても、それぞれの変化が記録されていた人は半数に満たず、研究者は、これらがないからといって近いうちに亡くなる可能性は否定できない、と述べています[1]。同じ患者さんたちについて、ほかの52の徴候を調べた2015年の研究でも、死が近いことを強く示す8つの徴候が最後の3日間に現れた人の割合は、5〜78%とまちまちでした[2]。
ここで紹介する変化は「起こりうること」の目安です。はっきりしたサインがないまま、静かに息を引き取る方もいます。
図1 最期が近づいたときに起こりやすい変化(目安)
上から下へ時間が進みます。時期の区切りは目安で、順番や時期には個人差があり、すべてが起こるわけではありません。
出典:Hui D, et al. 2014[1]、Morita T, et al. 1998[3]、米国国立がん研究所 PDQ「Last Days of Life」[4]をもとに作成。
SECTION 03 1〜2週間前ごろ:眠る時間が増え、食べる量が減っていく
眠っている時間が長くなる
1998年に報告された日本のホスピス(静岡県)の研究で、がんの患者さん100人の最期の経過を記録したところ、亡くなる1週間前の時点で、目が覚めている人が56%、うとうとしている人が44%でした。最後の24時間では目が覚めている人は26%に減り、最後の6時間では半数の人が、呼びかけてもほとんど反応しない深い眠りの状態でした[3]。
無理に起こさなくて大丈夫です。目が覚めているときに、伝えたいことを話しておきましょう。
食べられない・飲めない
食べる量や飲む量が減り、水分でもむせやすくなります。前述の研究でも、水分を飲み込みにくくなる変化は、亡くなる3日以上前から多くの人にみられました[1]。
「食べないと弱ってしまう」と心配になるのは自然なことです。けれども、この時期は「食べないから弱る」のではなく、「体が弱ってきたので、食べ物や水分を受けつけなくなる」と考えられています。米国国立がん研究所の解説も、無理に食べ物や水分を口に入れると誤嚥(食べ物などが気管に入ること)につながるおそれがあるとして、口や唇を湿らせることを勧めています[4]。
日本緩和医療学会のガイドライン(2013年版。2026年10月時点で最新版)は、余命1〜2週間と考えられる方の口の渇きには、点滴ではなく口のケアなどの看護ケアを勧めています[5]。点滴をどうするかは、ご本人の状態と希望をふまえて医師と相談します。
時間や場所がわからなくなる・落ち着かなくなる
最期が近づくと、時間や場所がわからなくなったり、つじつまの合わないことを言ったり、落ち着かずに手足を動かしたりすることがあります。これは「せん妄」と呼ばれる状態で、米国国立がん研究所の解説では、亡くなる前のがんの患者さんの50〜90%にみられるとされています。多くは、ぼんやりして反応が少なくなるタイプです[4]。
一般に、痛み、便秘、尿のたまり、薬、発熱などがきっかけになることもあります。否定したり強く言い聞かせたりせず、穏やかな声で話しかけてください。落ち着かない様子が強いときは、訪問看護や医師に相談を。原因に応じて和らげる方法があります。せん妄はご家族にとってもつらいものです[4]。ひとりで抱え込まないでください。
SECTION 04 数日前ごろ:尿が減り、呼吸や喉の音が変わる
尿が減る
腎臓に流れる血液が減るため、尿の量が減り、色が濃くなります。尿の量の減少は、最後の3日間に現れやすい変化のひとつです[1]。おむつが乾いている時間が長くなっても、無理に水分をとらせる必要はありません。下腹部が張って苦しそうなときは、尿が出にくくなっていることがあるので訪問看護に相談を。
呼吸のリズムが変わる
呼吸が浅く速くなったり、だんだん深くなってはまた浅くなる呼吸のあとに、しばらく呼吸が止まったりすることがあります(チェーン・ストークス呼吸)。止まったように見えても、また呼吸が戻ることがよくあります。呼吸を調節する脳の働きが弱まるために起こると考えられています。
表情が穏やかで、眉間にしわを寄せたり、うめいたりしていなければ、慌てずに見守ってください。苦しそうな表情がみられるときは、息苦しさを和らげる薬(医療用麻薬など)を使えることがあります[4]。
喉の奥がゴロゴロ鳴る(死前喘鳴)
呼吸のたびに、喉の奥でゴロゴロという音がすることがあります。「死前喘鳴(しぜんぜんめい)」と呼ばれます。飲み込む力や咳をする力が弱まり、唾液や痰が喉の奥にたまって、空気が通るときに音が出るものです[4]。
2014年の系統的レビュー(多くの研究をまとめた解析)によると、どれくらいの人に起こるかは研究によって12〜92%と大きな幅があり、まとめると平均で約35%でした[6]。幅が大きいのは、死前喘鳴とみなす基準や観察の頻度、対象の患者さんの病気や療養場所が、研究ごとに違うためと考えられます。前述の日本の研究では、死前喘鳴が始まってから亡くなるまでの時間は、中央値で23時間でした(平均は57時間で、人による差が大きい)[3]。
同じ系統的レビューは、死前喘鳴はご家族や医療者にとってつらいものの、ご本人への影響ははっきりしないとしています[6]。米国国立がん研究所の解説も、ご本人にとっては苦痛ではないようだが、ご家族は「息が苦しいのでは」と受け止めることがある、としています[4]。
ご家族にできること:体の向きを変える(横向きにする、枕で頭のほうを少し高くするなど)と、音が和らぐことがあります[4][7]。口の中にたまった唾液は、ガーゼなどでやさしく拭い取ります。管を入れて吸い取る「吸引」は、反射を起こしてかえってつらくさせることもあるため、必要かどうかは訪問看護師や医師と相談します[4]。
分泌物を減らす薬(抗コリン薬)が使われることもあります。ただ、すでに始まった死前喘鳴に対して、どの薬も偽薬(プラセボ)より効くという確かな証拠はないことが、2008年のコクランの系統的レビューで示されています[8]。一方、2021年に報告されたオランダの6つのホスピスでのランダム化比較試験では、亡くなる時期が近いと判断された段階で、症状が出る前から予防的に薬を皮下注射したところ、死前喘鳴が起こった人は偽薬の群では27%、薬の群では13%でした(162人を割り付け、157人を解析)[9]。薬を使うかどうかは、ほかの症状や副作用もふまえて医師が判断します。
SECTION 05 数時間前ごろ:あごを動かす呼吸、手足の色の変化
あごを動かす呼吸(下顎呼吸)
息を吸うたびに、あごを下げて口を開けるような呼吸になることがあります。「下顎呼吸(かがくこきゅう)」と呼ばれ、命の終わりがかなり近いことを示す変化のひとつです[1]。前述の日本の研究では、下顎呼吸が始まってから亡くなるまでの時間は、中央値で2.5時間(平均7.6時間)でした[3]。
あえいでいるように見えるため、ご家族は「苦しいのでは」と心配になります。この時期、多くの方は眠っているか、意識が低下した状態にあります[3]。表情が穏やかであれば、見た目ほど苦しんでいるとは限らないと考えられています。気になるときは、訪問看護師や医師に一緒に確かめてもらいましょう。
手足が冷たくなり、色が変わる
血液が体の中心に集まるようになり、手足の先が冷たくなって、紫色になったり(チアノーゼ)、まだら模様が出たりすることがあります。手首の脈も触れにくくなります。前述の日本の研究では、手足のチアノーゼ、手首の脈が触れなくなる変化が現れてから亡くなるまでの時間は、中央値はどちらも1時間(平均はチアノーゼ5.1時間、脈2.6時間)で、数時間以上続くこともあります[3]。
薄手の毛布や靴下で保温し、手足をやさしくさすってあげてください。電気毛布や湯たんぽを直接当てると、低温やけどのおそれがあるので避けましょう。
米国・ブラジルの研究は変化を「3日以内に現れやすいか」で分け[1]、日本の研究は「現れてから亡くなるまでの時間」を測ったものなので[3]、2つの結果は矛盾しません。どちらも緩和ケア病棟・ホスピスのがんの患者さんが対象で、ご自宅やがん以外の病気では経過が異なることもあります。
SECTION 06 最後まで、声は届いているかもしれない
反応がなくなっても、耳は聞こえているかもしれません。2020年に報告されたカナダのホスピスの研究では、亡くなる前の患者さんに音を聞かせて、脳波(脳の電気的な反応)を調べました。呼びかけに反応しなくなった状態で測定できた5人では、全員に音の変化に対する何らかの脳の反応がみられ、健康な若い人の反応と似ていました。より意識的な聞き分けにかかわるとされる反応がみられた人もいました[10]。
ただし、研究の規模は小さく、言葉の意味まで理解しているかどうかはわかっていません[10]。それでも米国国立がん研究所の解説は、ご本人はまわりの人がいることに気づいているかもしれないので、聞こえていると思って話しかけるよう、ご家族に勧めています[4]。
いつものように名前を呼び、手を握って、感謝の気持ちや思い出話、「そばにいるよ」という一言を伝えてください。
SECTION 07 ご家族にできること:「こんなとき、まずこれを」
よくある場面ごとに、ご家族がまずできることをまとめました。
図2 こんなとき、まずすること
左はよくある場面、右はまずできることです。
出典:米国国立がん研究所 PDQ「Last Days of Life」専門家向け[4]・患者向け[7]、Lokker ME, et al. 2014[6]などをもとに作成。
口と唇を湿らせる
湿らせたガーゼやスポンジで口の中を拭い、唇に保湿剤を塗ります。飲み込めない方の口に水を流し込むのは避けます。
楽な姿勢に整える
クッションや枕で体を支えます。向きを変える回数は訪問看護師と相談を。
部屋の環境を整える
まぶしすぎない照明と心地よい室温に。好きだった音楽や家族の話し声も、安心につながるかもしれません。
SECTION 08 在宅では:訪問診療・訪問看護が看取りの時期にできること
ご自宅での看取りは、ご家族だけで行うものではありません。訪問診療(医師が定期的にご自宅に伺う診療)と訪問看護は、一般に次のような形で最期の時期を支えます。
症状を和らげる薬の調整
痛み、息苦しさ、落ち着かなさなどに合わせて薬を調整します。飲み込めなくなったときは、貼り薬や坐薬、皮下への注射など、口から飲まなくてよい方法に切り替えることがあります。
これから起こる変化の説明
いまどのような段階にあるのか、これから何が起こりうるのかを、ご家族にわかりやすく説明します。
連絡体制と方針の確認
夜間・休日にどこへ電話するか、呼吸が止まったときにどうするか、病院へ移ることを望むかどうかを、前もって話し合います。
亡くなった後の死亡診断
医師がご自宅で死亡を確認し、死亡診断書を書きます。最後の診察から24時間を過ぎていても、亡くなった後に改めて診察し、診療していた病気に関連する死亡と判断できれば交付できることが、厚生労働省の通知で示されています[11]。
方針を決めるときの基本になるのが、厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。本人の意思決定を基本とし、意思は変わりうるものとして、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合うことが大切だとしています[12]。訪問診療をこれから始める方は、患者さんとご家族のための訪問診療開始ガイドもあわせてご覧ください。
ご家族自身の休息とつらさ
看取りの時期は、昼も夜も気が抜けず、ご家族の心と体にも大きな負担がかかります。交代で休む時間をつくる、介護保険のサービスを使う、つらさや不安を訪問看護師や医師に話す。ご家族が倒れないことも、ご本人を支えることにつながります。厚生労働省のガイドラインも、家族等への精神的・社会的な援助を含めた総合的な医療・ケアを求めています[12]。
Q. 呼吸が止まっているのに気づいたら、どうすればいいですか?
A. 慌てずに時刻を確かめ、あらかじめ決めておいた訪問診療の医師か訪問看護に連絡してください。救急車を呼ぶと、病院へ運ばれて救命のための処置が行われることがあり、ご本人が望んでいた過ごし方と違う形になることもあります。医師が着くまで、ご家族でゆっくりお別れの時間をとって構いません。
Q. 点滴を減らしたり、やめたりするのは、見捨てることになりませんか?
A. いいえ。この時期に点滴の量が多いと、むくみや痰を増やし、かえってつらさにつながることがあります[5]。点滴の量は、ご本人の楽さを第一に、医師と相談して決めるものです。
Q. 最期の瞬間に立ち会えなかったら、と心配です。
A. その瞬間にそばにいられないこともあります。ともに過ごしてきた日々そのものが大切な時間です。ご自分を責めないでください。
SECTION 09 こんなときは、訪問診療の医師・訪問看護に連絡を
次のようなときは、前もって確かめておいた連絡先(夜間・休日の連絡先を含む)に連絡してください。
苦しそう・痛そうな様子が続く
表情がゆがむ、うめく、肩で息をする。薬で和らげられることがあります。
強い興奮や混乱がある
ベッドから降りようとする、管や貼り薬をはがそうとするなど、安全が保てないとき。
予想外の変化が起きた
多量の出血、けいれん、転んでけがをした、などのとき。
呼吸が止まった、亡くなったと思われる
時刻を確かめて、慌てずに連絡してください。
ご家族が「もう限界」と感じた
眠れない、不安で押しつぶされそう。遠慮はいりません。
電話の近くやベッドのそばに、連絡先と決めておいた方針をメモして貼っておくと安心です。多量の出血やけが、強い苦しさなど、急いで手当てが必要なときに主治医や訪問看護に連絡がつかない場合は、救急車を呼ぶことをためらわないでください。呼吸が止まったと思われるときに連絡がつかない場合は、急ぐ必要はありません。少し時間をおいて、もう一度連絡してください(最後の診察から時間がたっていても、医師が改めて診察して死亡診断書を書くことができます[11])。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の訪問診療クリニックです。緩和ケアを専門の柱のひとつとして、通院が難しい方のご自宅に医師が伺い、定期的に診療しています。ご自宅での看取りや、最期の時期の過ごし方について気になることがあれば、ご相談ください。
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参考文献
- Hui D, dos Santos R, Chisholm G, et al. Clinical signs of impending death in cancer patients. Oncologist. 2014;19(6):681-687. doi:10.1634/theoncologist.2013-0457. PMID: 24760709
- Hui D, dos Santos R, Chisholm G, et al. Bedside clinical signs associated with impending death in patients with advanced cancer: preliminary findings of a prospective, longitudinal cohort study. Cancer. 2015;121(6):960-967. doi:10.1002/cncr.29048. PMID: 25676895
- Morita T, Ichiki T, Tsunoda J, Inoue S, Chihara S. A prospective study on the dying process in terminally ill cancer patients. Am J Hosp Palliat Care. 1998;15(4):217-222. doi:10.1177/104990919801500407. PMID: 9729972
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