「痛み止めといえばロキソニン」。それくらい身近で、よく効く薬です。ドラッグストアでも買え、多くのご家庭の常備薬になっているでしょう。ですが「よく効く」ことと「安全」は別の話です。とくにご高齢の方・持病のある方・在宅で療養されている方では、飲み方しだいで胃・腎臓・心臓に思わぬ負担がかかることがあります。この記事では、ロキソニンの“効くしくみ”と“危険性”を、できるだけやさしく整理します。

ロキソニンとは、どんな薬か

ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)は、「NSAIDs(エヌセイズ/非ステロイド性抗炎症薬)」と呼ばれるグループの痛み止めです。頭痛・生理痛・腰痛・関節痛・発熱など、幅広い痛みと熱に使われます。処方薬だけでなく、市販薬としても販売されているため、医師の管理外で使われる機会が多いのも特徴です。

大切なのは、NSAIDsは「炎症・痛みの原因そのもの」を治す薬ではなく、痛みを一時的に抑える薬(対症療法)だという点です。これは添付文書にも明記されています。[5]

なぜ効くのか=なぜ副作用が出るのか

体の中には「プロスタグランジン」という物質があります。これは痛みや炎症・発熱を起こす“悪役”の側面がある一方で、胃の粘膜を守り、腎臓の血流を保つ“守り役”でもあります。[6]

ロキソニンは、このプロスタグランジンを作る酵素(COX)の働きを止めることで痛みを抑えます。ところが同時に“守り役”の分まで止めてしまうため、胃が荒れやすくなり、腎臓への血流が減る——これが副作用の正体です。効き目と副作用は、同じしくみの表と裏なのです。

ロキソニン(NSAIDs) COXを止める → PGが減る ◎ ねらった効果 痛みをやわらげる 炎症をおさえる 熱を下げる △ 同時に失われる守り 胃粘膜の保護 → 胃が荒れる 腎臓の血流維持 → 腎機能低下 血の巡りへの影響 → 心血管リスク

図1:プロスタグランジン(PG)は「痛みの原因」であると同時に「胃と腎臓の守り役」。ロキソニンは両方を同時に抑えるため、効果と副作用が表裏一体になる。

代表的な3つの危険性

RISK 01

胃腸のトラブル

胃・十二指腸潰瘍や消化管出血。近年は小腸の潰瘍も知られます。黒いタール状の便、吐血、みぞおちの痛みは危険なサインです。[3][5]

RISK 02

腎臓の障害

腎臓の血流が減り、急性腎障害やむくみ、高カリウム血症が起こることがあります。薬剤性の腎障害の原因薬剤で最も多いのがNSAIDsです。[4]

RISK 03

心臓・血管への影響

心筋梗塞や脳血管障害などの血栓・塞栓が起こることがあり、心不全の方では症状を悪化させる恐れがあります。[5]

とくに腎臓については、専門施設のデータで、薬が原因で起こる腎障害のうち最も多い原因がNSAIDsで、全体の約25%を占めると報告されています。[4] しかもその多くが高齢の方に集中していることが知られています。[3]

薬剤性腎障害の原因となった薬剤の割合(腎臓専門施設の報告) NSAIDs(痛み止め) 25.1% 抗腫瘍薬 18.0% 抗菌薬 17.5% 造影剤 5.7% その他 33.7% 出典:日本医事新報(薬剤性腎障害の原因薬剤の内訳)[4]

図2:薬が原因の腎障害のうち、最も多い“犯人”は痛み止め(NSAIDs)。身近な薬ほど油断しやすい点に注意が必要。

こんな方は特に注意(飲んではいけない・慎重に)

ロキソニンの添付文書では、以下のような方は「投与してはいけない(禁忌)」とされています。[5]

  • 胃・十二指腸潰瘍のある方
  • 重い腎臓・肝臓の病気、重い心不全のある方
  • 重い血液の異常のある方
  • アスピリンぜんそく(痛み止めで発作が出たことがある)の方
  • 妊娠後期の方、本剤で過敏症が出たことのある方
⚠ こんな症状が出たら、すぐ受診を

黒いタール状の便・血便・吐血、激しい腹痛、急なむくみや尿の減少、息切れの悪化、発疹やじんましん・息苦しさ。これらはロキソニンによる重い副作用のサインのことがあります。自己判断で様子を見ず、服用を中止して医療機関へご相談ください。[5]

【在宅医療の視点】ご高齢・在宅療養の方で、なぜ危険性が跳ね上がるのか

ここからは、当院が専門とする在宅医療の現場で特に重要になるポイントを、一段深く解説します。在宅で療養されている方の多くは、ご高齢で、複数の持病を抱え、たくさんの薬を飲んでいます。実はこの“背景”そのものが、ロキソニンのリスクを何倍にも大きくします。

厚生労働省の指針でも、NSAIDsは「上部消化管出血・腎機能障害・心血管障害のリスクを持ち、高齢者に特に慎重な投与を要する薬剤の一つ」と明記されています。[2] 日本老年医学会のガイドラインでも、NSAIDsは高齢者で“できるだけ避けたい薬”に位置づけられています。[1]

① 最大の落とし穴「トリプルワミー(3剤の重ね飲み)」

在宅の患者さんの多くは血圧の薬を飲んでいます。ここに痛み止めが加わると、腎臓に三重のパンチが入ります。これは医療の世界で「トリプルワミー(Triple Whammy)」と呼ばれる、有名な危険な組み合わせです。

トリプルワミー:腎臓に三重のパンチ 利尿薬 体の水分を減らす ACE阻害薬 / ARB 血圧の薬 NSAIDs ロキソニンなど 急性腎障害(AKI)のリスク上昇

図3:利尿薬+血圧の薬(ACE阻害薬/ARB)+痛み止め。この3つが揃うと腎臓を守る仕組みが三方向から崩れ、急性腎障害が起こりやすくなる。

研究では、血圧の薬(利尿薬+ACE阻害薬/ARB)に痛み止めが加わると、加えない場合に比べて急性腎障害のリスクが約1.3倍に上がると報告されています。[7] さらに日本のレセプトデータを用いた研究では、この組み合わせに痛み止めを追加してから腎障害が起こるまでの期間の中央値はわずか6.5日——つまり「飲み始めて1週間以内」に問題が起きうることが示されています。[8] 「ちょっと腰が痛いから数日だけ」のつもりが、危険につながりうるのです。

② 「腎臓は元気」という思い込み — 隠れた腎機能低下

健康診断でおなじみの腎臓の数値「クレアチニン(Cr)」には、落とし穴があります。クレアチニンは筋肉から作られるため、筋肉が少ないやせた高齢の方では、腎機能が落ちていても数値が低め(=一見正常)に出てしまうのです。[3]

在宅療養の方はフレイル(虚弱)や筋肉量の低下を伴うことが多く、「検査値は問題なさそう」に見えても、実際の腎機能はかなり低下していることが珍しくありません。当院では必要に応じて、筋肉量の影響を受けにくいシスタチンC(Cys-C)という指標も併用して、本当の腎機能を評価するよう心がけています。[3]

③ 脱水・夏場・食欲低下が“引き金”になる

NSAIDsによる腎障害は、体の水分が不足しているとき(脱水時)に特に起こりやすいことが知られています。[6] 在宅の患者さんは、暑さ・食欲低下・飲水量の減少などで容易に脱水に傾きます。夏場や体調を崩したときにロキソニンを重ねると、腎臓へのダメージが一気に表面化することがあります。

④ 市販薬・残薬の“自己判断”に注意

ロキソニンは市販もされているため、ご家族が良かれと思って渡したり、以前もらって余っていた薬を飲んでしまう、といったことが起こりがちです。しかし在宅の患者さんでは、その一錠が持病や飲み合わせと相まって大きなリスクになりえます。市販の痛み止めであっても、まずは訪問診療の医師・薬剤師にご相談ください。

🏠 在宅・緩和ケアでの、当院の考え方

痛みを我慢する必要はありません。ただし在宅では、腎機能・持病・飲み合わせ・脱水の有無を踏まえて、痛み止めを“選び分ける”ことが何より大切です。安全性の観点からは、まずアセトアミノフェン(抗炎症作用は弱めですが腎臓・胃への負担が少ない)を検討し、それでも足りない痛みには、種類・量・期間、胃薬の併用、他の鎮痛法を含めて医師が総合的に判断します。[4] 「効くから」ではなく「その方に合っているか」で選ぶ——これが在宅医療での鉄則です。

安全に付き合うための5つのポイント

ポイント具体的にどうする
できるだけ短く漫然と飲み続けない。急な痛みには短期間の使用にとどめる。[1][6]
まず弱い薬から解熱・鎮痛が目的なら、腎臓に優しいアセトアミノフェンを先に検討。[4]
胃を守る潰瘍の既往や高齢の方は、胃薬(PPIなど)の併用を医師と相談。[3]
飲み合わせを申告血圧の薬・利尿薬・血をサラサラにする薬などを必ず医師・薬剤師に伝える。[7]
水分と体調に注意脱水時・夏場・体調不良のときは特に慎重に。異変を感じたら中止して相談。[6]

まとめ

ロキソニンは、正しく使えば非常に頼りになる痛み止めです。危険なのは薬そのものというより、「よく効くから」と背景を確認せずに使ってしまうこと。とりわけご高齢の方・持病のある方・在宅で療養されている方では、胃・腎臓・心臓への負担や、血圧の薬との“トリプルワミー”に注意が必要です。痛みは我慢せず、しかし薬は自己判断せず——気になる痛みがあるときは、どうぞ主治医や訪問診療の医師にご相談ください。

ふくろう訪問クリニックでは、がんの緩和ケア・難病・精神科領域を含め、お一人おひとりの体の状態や飲み合わせに合わせた安全な痛みの治療を大切にしています。痛みや薬のことでお困りの際は、お気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」(NSAIDsは高齢者で「特に慎重な投与を要する薬物」に該当)/Mindsガイドラインライブラリ https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00323/(2023年12月確認)
  2. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
  3. 国立長寿医療研究センター 病院レター第37号「薬剤性消化管障害(NSAIDsと抗血小板薬)について」(NSAIDs腎障害の多くが高齢者、筋肉量とクレアチニンの関係) https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/037.html
  4. 日本医事新報社「NSAIDsによる腎機能障害」(薬剤性腎障害の原因薬剤の第1位がNSAIDs=25.1%、アセトアミノフェンの活用) https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_10861
  5. ロキソニン錠60mg 添付文書(禁忌・重大な副作用:消化管出血、急性腎障害、心血管系血栓塞栓性事象ほか/第一三共) 医療用医薬品情報(KEGG MEDICUS) https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057032
  6. 日本腎臓学会誌「NSAIDsによる腎障害」(プロスタグランジンの役割、輸入細動脈収縮によるGFR低下、脱水・夏季のリスク) https://jsn.or.jp/journal/document/58_7/1059-1063.pdf
  7. Lapi F, et al. Concurrent use of diuretics, ACE inhibitors, and ARBs with NSAIDs and risk of acute kidney injury: nested case–control study. BMJ. 2013;346:e8525.(トリプルワミーで急性腎障害リスク上昇)
  8. NSAID-induced acute kidney injury risk in patients on RAS inhibitors and diuretics: 日本のレセプトDBを用いたコホート研究(腎障害発症までの期間の中央値6.5日)PMC12359997, 2025 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC12359997/

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。お薬の開始・中止・変更は、必ず主治医または薬剤師にご相談ください。