「また頭が痛い……とりあえずロキソニンを飲んでおこう」。片頭痛をお持ちの方の多くが、この習慣で毎日をやり過ごしています。 けれど市販薬や鎮痛薬で痛みを一時的に消すことと、片頭痛という病気をコントロールすることは、実はまったく別ものです。 この記事では、片頭痛が起こる体のしくみをやさしく解説し、「鎮痛薬でごまかし続ける」ことの落とし穴と、いま医療が用意している新しい選択肢までをお伝えします。

片頭痛は「体質」ではなく「脳と神経の病気」

片頭痛は決して珍しい病気ではありません。日本人の1年間の有病率は約8.4%と報告されており、およそ12人に1人が経験している計算になります。 女性は男性の約3.6倍多く、20〜40代の働き盛り・子育て世代の女性に特に多いことが知られています。 そして、患者さんの約4分の1では、頭痛の前に「閃輝暗点(せんきあんてん:視界にギザギザした光の波が見える)」などの前兆が現れます。

片頭痛の痛みは「片側がズキンズキンと脈打つように痛む」のが典型ですが、両側が痛むことも、締めつけられるように痛むこともあります。 光・音・においに敏感になったり、吐き気を伴ったりし、鎮痛薬を使わないと4時間以上続くのが特徴です。「ただの頭痛」で片づけるには、生活への支障が大きすぎる病気なのです。

なぜ痛むのか ―― 三叉神経と「CGRP」の物語

片頭痛の痛みは、血管そのものではなく、顔と頭の感覚を司る三叉神経(さんさしんけい)が主役だと考えられています(三叉神経血管説)。 ざっくり言うと、次のような連鎖で起こります。

ポイントは、片頭痛が「CGRPという痛み物質」を軸に、神経が過敏になっていく病気だということです。 このCGRPの発見が、後で触れる新しい治療薬の開発につながりました。片頭痛は気合いや我慢の問題ではなく、脳と神経のはっきりした反応なのです。

ロキソニンは「消火」はできても「火元」は消していない

ロキソニン(ロキソプロフェン)はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)という鎮痛薬で、軽度〜中等度の片頭痛にはきちんと効果があり、安価で使いやすい薬です。効いているうちは、それを賢く使うのは正しい選択です。 ただし理解しておきたいのは、鎮痛薬はすでに起きてしまった炎症と痛みを抑える「消火活動」であって、発作そのものを止めたり、次の発作を予防したりする設計の薬ではない、ということです。

火事のたびに消火器を使えばその場はしのげます。しかし、火がつきやすい家そのものを放置していれば、火事は何度でも起こります。 片頭痛を鎮痛薬だけで乗り切り続けるのは、まさにこの状態です。そして、さらに厄介な問題が待っています。

最大の落とし穴 ―― 鎮痛薬が「頭痛の原因」に変わる

「頭痛薬を飲んでいるのに効かない」「毎日のように頭が重い」「薬を切らすのが怖い」。 こう感じている方は、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)に陥っている可能性があります。 これは、頭痛薬を頻繁に使い続けることで脳がかえって痛みに過敏になり、頭痛が慢性化してしまう状態です。皮肉なことに、痛みを止めるための薬が、新たな頭痛の原因になってしまうのです。

薬の種類 「使いすぎ」とされる目安
(3か月を超えて続く場合)
ロキソニンなどの鎮痛薬
(NSAIDs・アセトアミノフェン等)
ひと月に15日以上
トリプタン・エルゴタミン・
複数の頭痛薬の併用・市販の複合鎮痛薬
ひと月に10日以上

表1:薬物乱用頭痛(MOH)の使用日数の目安。国際頭痛分類 第3版/頭痛の診療ガイドライン2021に基づく。市販薬でも起こります。

こんなサインはありませんか?
  • 頭痛薬を、ひと月に10日以上飲む週がある
  • 「痛くなりそう」と予感して、痛む前に薬を飲んでしまう
  • 以前より薬が効かなくなってきた/量が増えてきた
  • 朝起きた時からすでに頭が重い日が多い

ひとつでも当てはまるなら、それは「もっと薬が必要」ではなく「治療の方針を見直す時期」のサインです。

発想を変える ―― 「起きてから消す」から「起こさない」へ

片頭痛の治療には、大きく2つの柱があります。この2本立てで考えることが、鎮痛薬頼みから抜け出す第一歩です。

① 急性期治療 ―― 発作を「うまく止める」薬

発作が起きたときに使う薬です。鎮痛薬が効かない中等度以上の片頭痛には、トリプタンという片頭痛専用の薬があります。 痛みの根っこである血管の拡張や神経の興奮に働きかけるため、ただの鎮痛薬より的を射た止め方ができます。 近年はさらに、血管を締めつける作用を持たない新しいタイプの急性期治療薬も登場しています。「トリプタンが体質に合わない」「効きが悪い」という方にも、選択肢が広がっています。

② 予防療法 ―― 発作の「回数と重さ」を減らす薬

月に何度も発作がある、生活に支障が出ている――そんな方には、毎日または定期的に使って発作そのものを起こりにくくする予防療法があります。 従来から、血圧の薬・てんかんの薬・抗うつ薬・片頭痛予防薬(ロメリジンなど)が使われてきました。 そして2021年以降、片頭痛治療は大きく変わりました。

CGRPを標的にした新しい時代の薬

先ほど登場した痛み物質「CGRP」。この働きをピンポイントでブロックする薬が実用化されました。

タイプ特徴おもな薬(一般名/商品名)
CGRP関連
抗体薬(注射)
月1回などの皮下注射で発作を予防。多くの方で1週間〜1か月ほどで効果が現れます。 ガルカネズマブ(エムガルティ)/フレマネズマブ(アジョビ)/エレヌマブ(アイモビーグ)
ゲパント
(飲み薬)
CGRPの働きを抑える経口薬。日本でも2025年以降に順次登場。鎮痛薬と違い、薬物乱用頭痛を起こしにくいのが利点です。 リメゲパント(ナルティーク)/アトゲパント(アクイプタ)

※ CGRP関連抗体薬などの新しい予防薬は、「片頭痛と診断されていること」「過去3か月で月に平均4日以上の発作がある」「従来の予防薬で効果が不十分」など、いくつかの条件のもとで、頭痛診療に精通した医療機関で保険処方されます。すべての方が最初から使えるわけではなく、まずは正しい診断と段階的な治療が前提になります。

まず「診断してもらう」ことが、いちばんの治療

片頭痛は、正しく診断されれば、いまの医療でかなりコントロールできる病気になりました。 大切なのは、鎮痛薬で痛みを覆い隠し続けるのをやめ、「これは片頭痛なのか」「予防を始めたほうがよいのか」を一度きちんと評価してもらうことです。 特に、薬を飲む日が月に10日を超えてきている方は、なるべく早く相談してください。放っておくほど、頭痛は慢性化しやすくなります。

もちろん、急に強くなった頭痛、これまで経験したことのない激しい頭痛、手足のしびれや言葉の出にくさを伴う頭痛は、片頭痛以外の危険な病気の可能性もあります。その場合は様子を見ずに、すぐ医療機関を受診してください。

「ロキソニンでごまかす毎日」から卒業しませんか。

頭痛は我慢するものでも、市販薬でしのぎ続けるものでもありません。回数・強さ・薬を飲む頻度が増えていると感じたら、それが受診のタイミングです。あなたの頭痛のタイプに合った治療を、一緒に見つけていきましょう。

参考文献・出典

  1. 日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会『頭痛の診療ガイドライン2021』医学書院, 2021年10月発行.
  2. 日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会『国際頭痛分類 第3版(ICHD-3)』医学書院, 2018年(薬物乱用頭痛の診断基準:単純鎮痛薬 月15日以上/トリプタン・エルゴタミン・複合薬 月10日以上).
  3. 慶應義塾大学病院 KOMPAS「片頭痛の新しい治療」(有病率8.4%、女性は男性の約3.6倍、前兆は約25%)2021年.
  4. 竹島多賀夫 ほか「CGRP関連抗体による片頭痛の新規治療」臨床神経学 60巻10号, 2020年(三叉神経血管説・皮質拡延性抑制・感作の解説).
  5. 日本頭痛学会『CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)』/厚生労働省『最適使用推進ガイドライン』(ガルカネズマブ・フレマネズマブ・エレヌマブ 等).
  6. 日本経済新聞メディカル「片頭痛予防に2剤目の経口CGRP受容体拮抗薬」2026年4月(アトゲパント〔アクイプタ〕承認に関する報道).

本コラムは一般の方向けの啓発を目的とした情報提供であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療については主治医・頭痛を診療する医療機関にご相談ください。