膀胱がんは、「血が出る」という、家族にも本人にもはっきり見えてしまう症状を持つがんです。トイレの水が真っ赤になる。夜中に管が詰まって下腹部が張って苦しくなる。そうした場面は、ご家族にとって強い恐怖の記憶になります。
一方でこのがんは、終末期になっても打てる手が比較的多いという特徴もあります。家で持続灌流ができる。通いで数回の放射線をかけて止血できる。尿の通り道を確保して腎臓を守れる。装具の費用に公的な給付がある。──「怖いけれど、手はある」というのが、膀胱がんの療養の実像です。
このコラムでは、膀胱がんが進行した段階での治療と、在宅での過ごし方について、一般の方向けに整理します。在宅診療のパートは、実際に家で何ができて何ができないのかまで、一段掘り下げて解説します。
膀胱がんの数字と、その読み方
国立がん研究センターの最新のがん統計(膀胱/2026年7月22日更新)では、次のようになっています。
| 項目 | 全体 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|---|
| 診断される数(2023年) | 23,970例 | 17,901例 | 6,069例 |
| 死亡数(2024年) | 9,725人 | 6,583人 | 3,142人 |
| 5年相対生存率(2018年診断例) | 66.6% | 70.4% | 55.6% |
| 人口10万人あたり罹患率 | 19.3 | 29.6 | 9.5 |
| 人口10万人あたり死亡率 | 8.1 | 11.3 | 5.1 |
② 66.6%という数字は「膀胱がん全体の平均」です。膀胱がんの多くは、膀胱の壁の浅いところにとどまる筋層非浸潤がんで、これは内視鏡で切除でき予後も良好です。この良好なグループが平均値を大きく押し上げています。筋層に食い込んだ筋層浸潤がんや、転移を持つ段階の見通しはこれとは別物です。
③ 男女差が非常に大きい。男性70.4%に対し女性55.6%。がん種別の統計でこれほどの性差が開くものは多くありません。この差には理由があり、次のセクションで扱います。
なぜ「進んだ状態」で見つかることがあるのか
痛くない血尿が、一度で止まってしまう
膀胱がんの最初のサインは、ほとんどの場合「痛くない、目に見える血尿」です。しかもこの血尿には特徴があります。数日で自然に止まる。そして数週間〜数か月おいて、また出る。
痛みがなく、しかも止まってしまうので、「疲れていたのかな」「もう治った」と受け止められやすい。ここに、この病気がときに進んだ状態で見つかる最大の理由があります。
加えて、女性ではもう一つの事情が重なります。米国の大規模な保険請求データの解析(Cohnら、2004〜2010年、Cancer 2014)では、血尿で受診してから膀胱がんと診断されるまでの期間は女性が平均85.4日、男性が73.6日と女性で有意に長く、6か月を超える遅れも女性17.3%対男性14.1%と多いことが示されました。女性は尿路感染症(膀胱炎)と診断される割合が2.32倍高く、逆に腹部・骨盤の画像検査を受ける割合は0.80倍と低かったのです。
さらに、米国SEER-Medicareの解析(Richardsら、Int J Urol 2016)では、膀胱がんと診断される前に「膀胱炎のような症状」で受診していた女性は、血尿で受診した女性に比べて膀胱がんによる死亡リスクが1.37倍高いという結果でした。
統計に出ている男女の生存率差(70.4%対55.6%)は、こうした「見つかるまでの時間」の差を少なからず含んでいると考えられます。
ただ、もしご家族や周囲の方で「一度だけ赤い尿が出て、その後止まった」という方がいらっしゃれば、止まっていても一度は調べていただきたい──それだけはお伝えさせてください。
「ステージⅣ」と「末期」は同じではない
診察室でいちばん多い誤解が、ここです。ステージⅣは「がんの広がりを表す地図」、末期は「体の力がどこまで残っているかを表す時間」で、まったく別の物差しです。
| ステージⅣ(進行期) | 末期(終末期) | |
|---|---|---|
| 何を表すか | がんが膀胱を越えて骨盤内臓器や遠くの臓器に及んでいる、という広がりの分類 | がんに対する治療でこれ以上の延命が難しく、週〜月の単位で全身の力が落ちていく時期 |
| 治療の目標 | がんを小さくする・進行を止める | 症状をとる・その人らしい時間を守る |
| 薬物療法 | 一次治療から順に選択肢がある | 体が薬に耐えられないため、中止して緩和に切り替える |
| 期間の目安 | 年単位のこともある。新しい一次治療では全生存期間の中央値が2年半を超える成績が報告されている | おおむね週〜数か月 |
| 在宅診療 | 治療を続けながら並行して導入できる | 療養の中心が在宅に移る |
進行した膀胱がんで起こる七つの症状
薬による治療と、切り替えの目安
国内の指針は『膀胱癌診療ガイドライン 2019年版[増補版]』(日本泌尿器科学会 編/協力:日本放射線腫瘍学会、医学図書出版、2023年8月30日発行、2025年5月アップデート)です。ここ数年で、転移のある膀胱がん(正確には尿路上皮がん)の治療は大きく変わりました。
それぞれの薬について、少しだけ詳しく
- エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ(EV+P)/国際共同第Ⅲ相EV-302試験(886例)では、化学療法群と比べて全生存期間の中央値が31.5か月対16.1か月(ハザード比0.47)、無増悪生存期間が12.5か月対6.3か月(ハザード比0.45)と、いずれも有意に延長しました。日本では2024年9月24日に一次治療としての適応追加が承認され、プラチナ製剤に代わる最初の選択肢となりました。
- エルダフィチニブ/FGFR3遺伝子の変異・融合がある方に使う内服薬です。2024年12月27日承認、2025年7月16日薬価収載。THOR試験では化学療法と比べ全生存期間の中央値が12.1か月対7.8か月(ハザード比0.64)。特徴的な副作用として高リン血症があり、定期的な採血が必要です。
- アベルマブによる維持療法/プラチナ製剤の化学療法で病気が抑えられた方に、間をあけず続けて投与する治療です。
この「しびれ」は、在宅療養では見過ごせない意味を持ちます。箸が持てない/ボタンが留められない/薬のシートから錠剤を出せない/段差でつまずく──転倒と誤薬に直結するからです。
しかも、薬をやめたあとも数か月にわたって残ることがあります。訪問診療の初回には「いつ、どの薬を、いつまで使ったか」を必ず伺い、しびれの範囲を確認して、手すり・履物・服の形・薬の一包化まで含めて手当てします。
治療をやめるかどうかを考える目安
| 目安になるサイン | 意味するところ |
|---|---|
| 横になっている時間が一日の半分を超えてきた | 全身状態(PS)の低下。薬の効果より副作用が上回りやすくなる |
| 腎機能が下がり、薬の量を減らしても検査値が戻らない | 膀胱がんでは尿路の閉塞と重なりやすく、薬の選択肢そのものが狭まる |
| 治療の合間に体調が戻らないまま、次のクールに入っている | 回復力が追いついていないサイン |
| 治療のたびに入院・輸血が必要になっている | 家で過ごせる時間を治療が削っている状態 |
| しびれで日常の動作ができなくなってきた | 薬を続けることでQOLが下がっている |
| ご本人が「もう十分」と口にした | これが最も重い判断材料です |
治療をやめることは「あきらめ」ではありません。目標を「がんを小さくすること」から「残った時間を穏やかに過ごすこと」へ切り替えるという、積極的な選択です。
血尿 ── 家でいちばん怖く、いちばん手が打てる症状
血尿には「段階」がある
ご家族から夜間にお電話をいただく理由の第一位が、この血尿です。まず知っておいていただきたいのは、血尿には段階があり、段階ごとに緊急度がまったく違うということです。
止血の手立てには、順番がある
日本緩和医療学会『がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン(2016年版)』は、進行がんによる膀胱からの肉眼的血尿について、次のような推奨と手順を示しています。
| 段階 | 内容 | 推奨の強さ/根拠 | 在宅でできるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 膀胱洗浄で塊を除いたうえで、3wayカテーテルによる生理食塩水の膀胱持続灌流 | 1D(強い推奨・とても弱い根拠) | できる |
| 2 | 灌流が無効なら、可能であればまず内視鏡による止血手術 | 1D(強い推奨・とても弱い根拠) | 入院(麻酔下) |
| 3 | 内視鏡が不能・無効なら動脈塞栓術または放射線治療 | 2C(弱い推奨・弱い根拠) | 塞栓は入院/照射は通院可 |
| 4 | それでも制御できないとき、腎機能温存と苦痛緩和のための尿路変向 | 2C(弱い推奨・弱い根拠) | 手術(入院) |
ここを取り違えると「ずっと洗っているのに赤いまま」と落胆することになります。灌流の役割は「詰まらせない・痛みを出さない・腎臓を守る」ことであり、それ自体が十分に価値のある目標です。
なお、難治性の血尿にミョウバンやホルマリンを膀胱内に注入する方法が文献上ありますが、ミョウバンの膀胱内注入は国内で保険収載されておらず、アルミニウム脳症のリスクも指摘されています。ホルマリンは強い痛みのため麻酔を要し、膀胱萎縮・腎不全の合併リスクが大きいとされます。当院では原則として用いません。
家に用意しておいていただきたい五つ
- 濃い色のタオルと防水シーツ/白いタオルは、同じ出血量でも見た目の衝撃がまったく違います。恐怖そのものを減らすための備えです。
- 水分は控えない/「出血しているから水を控えよう」は逆効果です。尿が濃くなると塊ができやすくなり、脱水は腎機能をさらに落とします。医師から制限の指示がない限り、いつもより多めに。
- 連絡先を電話のそばに貼っておく/夜中に慌てて探さなくて済むように。
- 「詰まったとき、病院に行くのか行かないのか」をあらかじめ決めておく/これが最も大切です。詳しくは在宅パートで扱います。
- 尿の写真/同じ明るさ・同じ容器で撮っておくと、電話で状況を伝えるときに大きく役立ちます。
止血の放射線は、通いながらかけられる
数回だけ通う照射という選択肢
膀胱からの出血に対する放射線治療は、「治すため」ではなく「止めるため」にかけるものです。回数が少なく、体への負担も小さいため、在宅療養を続けながら実施できることがあります。
どのくらいの回数でかけるのか
| スケジュール例 | 通院回数 | 想定される場面 |
|---|---|---|
| 30グレイ/10回 | 約2週間・10回 | 体力があり、長く効かせたいとき(報告で最も多く用いられている) |
| 20グレイ/5回 | 約1週間・5回 | 通院の負担を抑えたいとき |
| 21グレイ/3回 | 1週間・3回 | 英国の無作為化試験(500例)で10回法と比較検討された短期法 |
| 8グレイ/1回 | 1回のみ | 体力が乏しく、通院そのものが負担なとき |
英国MRCのBA09試験(500例)では、35グレイ/10回と21グレイ/3回を比較し、開始時に血尿があった327例のうち88%が3か月時点で症状の改善を得ています。
だからこそ、「血が出はじめた」「輸血の回数が増えてきた」という段階で、まだ通える体力があるうちに相談していただきたいのです。放射線治療は最後の手段ではなく、早めに検討すべき選択肢です。
なお緩和ケアのガイドラインも、動脈塞栓術との比較について「終末期で比較的循環動態の安定した慢性的な膀胱出血の場合には、晩期合併症に配慮する必要がないことから放射線治療を優先してもよいかもしれない」としています。
当院の院長は放射線治療専門医です。「照射をかける価値があるか」「何回でかけるのが妥当か」「どの施設に相談するのが早いか」を、在宅の主治医として一緒に判断できます。
家で受けられる医療の枠組み
訪問診療と往診は、別のものです
| 訪問診療 | 往診 | |
|---|---|---|
| 性格 | 計画的・定期的に伺う | 臨時に呼ばれて伺う |
| 頻度 | 月2回が基本、状態により週1回以上 | 必要が生じたとき |
| 膀胱がんでの例 | 血尿の推移・尿量・カテーテルやストーマの確認、薬の調整 | 夜間に管が詰まった、突然の高熱、痛みが強くなった |
| 対象になる条件 | 「通院が困難」であること。病期が末期であることは要件ではありません | |
「末期の悪性腫瘍」に該当すると、訪問看護の枠が大きく広がります
訪問看護には通常、回数や日数の制限がありますが、健康保険法の「別表第七」に定められた疾病に該当すると、その枠が外れます。末期の悪性腫瘍はこの別表第七に含まれます。
確認していただきたいのは、むしろ次の三つです。
・1日複数回の訪問に対する難病等複数回訪問加算が算定されているか
・必要に応じて2〜3か所のステーションを併用できているか
・点滴が必要なら訪問点滴注射指示書(有効期間7日以内。週3日以上の点滴に必要で、訪問回数の話とは別枠です)が出ているか
年齢による制度の違い
- 65歳以上/介護保険を利用できます。膀胱がんは高齢の方に多く、多くの方がここに当てはまります。
- 40〜64歳/「がん(末期)」は介護保険の16特定疾病に含まれるため、介護保険の申請ができます。
- 39歳以下/介護保険は使えませんが、福岡市には「小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業」があります(訪問介護・訪問入浴・福祉用具などに月額上限のもとで助成。福岡市保健福祉局 地域医療課 医療支援係 092-711-4892)。申請にはサービス開始前後の期限がありますので、早めにご相談ください。
尿の通り道を、家でどう守るか
四つの「管」と、それぞれの在宅での扱い
進行した膀胱がんの療養では、多くの場合、体のどこかに尿を通すための人工物が入っています。ここが他のがんとの一番の違いです。何が入っているかによって、家でできることが変わります。
尿管がふさがったとき ── 造るか、造らないか
骨盤内で腫瘍が尿管を圧迫すると、腎臓に尿がたまる水腎症になります。片側だけならほとんど症状は出ませんが、両側がふさがると数日で腎臓が働かなくなります(腎後性腎不全)。だるさ、食欲低下、意識のもうろう、そして尿量の減少として現れます。
このとき、尿管ステントか腎瘻で尿の通り道を確保するかどうかが問われます。日本緩和医療学会のガイドラインは、この処置を1D(強い推奨・とても弱い根拠)としたうえで、非常に率直な但し書きを添えています。
つまり、「腎臓以外はまだ元気か」が判断の分かれ目です。腎臓さえ通れば月単位で過ごせる方には処置の価値がある。全身が日〜週の単位まで来ている方には、処置をしないという選択も同じだけ正当である──ガイドラインはそう述べています。
そして、この判断は実際に尿が出なくなってからでは落ち着いて話し合えません。まだ余裕のあるうちに、「もし両方の尿管が詰まったら、背中から管を入れるか」を、ご家族と一緒に決めておいてください。
管が入っていること自体が苦痛になり、しかもその管がもう役目を果たしていない段階がありえます。そのとき「抜く」ことは、医療の放棄ではなく、その人にとって余分になったものを外すという手当てです。ご家族には理解しづらい判断ですから、その場になってからではなく、事前に言葉にしておくことをおすすめします。
ストーマと、手帳と、装具のお金
使える制度を、使い切っていない方が少なくありません
膀胱を摘出して尿路ストーマがある方、あるいは尿管皮膚瘻の方は、身体障害者手帳の対象です。訪問診療でお会いして「手帳をお持ちですか」と伺うと、取得されていない方に出会うことがあります。
手続きのポイント
- 等級/尿路ストーマだけなら4級。消化器のストーマ(人工肛門)も併せて持つ場合は3級、他の障害が重なる場合は1級となることがあります。
- 申請の時期/ストーマ造設の直後から申請できます。「もう先が長くないから」と諦める必要はありません。
- いちばん大事な注意点/日常生活用具の給付は「購入前に」申請が必要です。先に買ってしまうと対象外になることがあります。
- その他/手帳があると、税の控除、交通運賃や公共料金の割引なども受けられます。ストーマ装具の購入費は医師の使用証明書があれば医療費控除の対象にもなります。
福岡市 福祉局 障がい在宅福祉課 電話 092-711-4985
どこに何を出せばよいか分からないときは、訪問時にご相談ください。当院からケアマネジャー・相談支援専門員と連携して整理します。
装具のことは、専門の看護師に見てもらえます
末期になると、体重が落ちてお腹の形が変わり、それまで問題のなかった装具が漏れるようになります。漏れは臭いと皮膚のただれを生み、外出をやめる理由になり、生活の質を大きく下げます。
診療報酬・介護報酬には、この場面を想定した仕組みが用意されています。緩和ケア・褥瘡ケア・人工肛門ケア/人工膀胱ケアの専門研修を受けた看護師が計画的な管理を行った場合に算定できる「専門管理加算」(訪問看護/2022年度に診療報酬、2024年度に介護報酬で整備)と、医療機関の看護師が専門の看護師と同行訪問する「在宅患者訪問看護・指導料3」です。いずれも対象に「人工肛門又は人工膀胱を造設している者で管理が困難な利用者」が明記されています。
つまり、ストーマの困りごとは「我慢して付き合うもの」ではなく、制度上も専門職が関与すべき課題と位置づけられているということです。当院は訪問看護リハビリステーションを併設しており、こうした連携を院内で組むことができます。
家でできること・できないこと
| 家でできること | 内容 |
|---|---|
| 尿道カテーテルの管理 | 2way・3wayの留置と交換、閉塞時の用手洗浄、持続灌流の管理 |
| 膀胱洗浄 | 凝血塊による閉塞時の緊急対応を含む |
| ストーマの管理 | 装具交換、面板の選び直し、皮膚障害の処置 |
| 腎瘻の日常管理 | 固定、刺入部の消毒とケア、尿漏れへの対応 |
| 痛みの治療 | 内服・貼付・座薬に加え、持続皮下注射(PCA=ご自身で早送りできるポンプ) |
| 点滴 | 皮下点滴・静脈点滴、抗菌薬の投与 |
| 採血・尿検査・尿培養 | 腎機能と感染の評価。結果は当日〜翌日に把握できる |
| エコー検査 | 残尿量、水腎症の有無、膀胱内の凝血塊の確認 |
| 酸素投与 | 貧血や肺転移による息苦しさに対して |
| 吐き気・便秘・不眠の薬の調整 | 症状に合わせて随時 |
| 床ずれの予防と処置 | 体位、マット、栄養、創の手当て |
| 看取りまでの対応 | 24時間の連絡体制と、ご自宅での看取り |
| 家では難しいこと | どうするか |
|---|---|
| 内視鏡による止血手術 | 入院(麻酔下)。出血が灌流で抑えられないときの選択肢 |
| 動脈塞栓術 | 入院。血管内から出血する動脈を詰める処置 |
| 放射線治療 | 通院。1〜10回程度。在宅療養と両立できることが多い |
| 尿管ステントの交換 | 外来または入院(膀胱鏡下) |
| 腎瘻カテーテルの交換 | 透視下で行うため通院が原則 |
| 点滴による抗がん剤治療 | 外来化学療法。在宅診療と併用できます |
痛みは、二つの種類に分けて考えます
| 痛みの種類 | どう感じるか | 主な手当て |
|---|---|---|
| 膀胱の痛み・尿意 | 下腹部が締めつけられる、常に尿意がある、出したあとも残る | オピオイド、膀胱の緊張をゆるめる薬、ステロイド、緩和照射、カテーテルの調整 |
| 神経の痛み | 骨盤の奥、会陰部、太ももの内側が焼ける・電気が走る | オピオイドだけでは効きにくく、鎮痛補助薬を併用。神経ブロックを検討することも |
モルヒネは代謝産物が体にたまり、眠気・吐き気・ミオクローヌス(体のぴくつき)・混乱を引き起こすことがあるためです。薬を替えるのは後退ではなく、体に合わせた調整です。「前の薬が効かなくなった」ではなく「体のほうが変わった」と受け止めてください。
重要なのは、詰まりがある状態では抗菌薬だけでは治らないという点です。膿がたまった袋に薬を入れても届かないのと同じで、尿の逃げ道を作らないと収まりません。だからこそ、あらかじめ次の二択を決めておきます。
A:家で抗菌薬の点滴をして様子を見る(詰まりがない、あるいは軽い場合)
B:詰まりを解除するために病院へ行く(ステント・腎瘻が必要な場合)
この二択は、熱が出てから初めて考えるには重すぎます。落ち着いているときに一度、話しておきましょう。
そのため終末期の輸液は、多くの場合1日500mL前後かそれ以下を目安に調整します。「点滴を減らす=見放す」ではありません。体が処理できる量に合わせるということです。
食事も同じです。「量より味」。一口のアイス、少しのお茶、好きだった味を舌で感じること。それが、無理に食べさせることよりも本人にとって意味を持つ時期があります。
看取りまでの備え
最期に立ち会えなくても、救急車を呼ばずに済みます
「自宅で息を引き取ったとき、医師がその場にいなければ警察を呼ぶことになるのでは」というご心配をよくいただきます。そうではありません。
医師法第20条のただし書きにより、診療していた患者さんが、その傷病で亡くなったと判断できる場合には、最後の診察から24時間以内でなくても、改めて診察したうえで死亡診断書を交付できます(厚生労働省 平成24年8月31日 医政医発0831第1号)。
つまり、夜中に息を引き取られても、慌てて救急車を呼ぶ必要はありません。まず当院にお電話ください。訪問して確認し、死亡診断書をお渡しします。
介護する側が倒れないために(レスパイト入院)
血尿の管理、夜間のカテーテル対応、ストーマの交換。膀胱がんの在宅介護は、手のかかる場面が続きます。ご家族が疲れ切ってしまえば在宅療養は続きません。数日〜2週間程度、一時的に入院して介護を休むレスパイト入院を、あらかじめ組み込んでおくことをおすすめします。「限界が来てから」ではなく、限界が来る前に使う仕組みです。
話し合っておきたい五つのこと(ACP)
| テーマ | 具体的に決めておくこと |
|---|---|
| ① 過ごす場所 | 最期まで家か、どこかの時点で入院か。「そのときの気持ちで変えてよい」ことも一緒に確認する |
| ② 血尿で詰まったとき | 家で灌流を続けるのか、内視鏡止血のために搬送するのか。夜間だった場合はどうするか |
| ③ 腎機能が落ちたとき | 尿管ステントや腎瘻を造るのか、造らずに症状を和らげる方向でいくのか |
| ④ 点滴と栄養 | 食べられなくなったとき、どこまで点滴を入れるか。中心静脈栄養をどう考えるか |
| ⑤ 伝えたいこと | 会っておきたい人、渡したいもの、済ませておきたい手続き。「言えなかった」という後悔を減らすために |
ご家族に見ていただきたい八つのこと
| 見るところ | 気にかけていただきたいこと |
|---|---|
| 尿の色 | ピンク/濃い赤/レバー状の塊。同じ明るさで写真を撮っておくと、電話での相談が正確になります |
| 尿の量 | 「昨日よりはっきり少ない」は重要なサイン。おむつの重さや袋の目盛りでおおよそで構いません |
| 下腹部の張り | ぽっこりして硬く、押すと痛がる。強い尿意があるのに出ない。詰まりのサインです |
| 管の流れ | 袋に尿が落ちているか。落ちていなければ、管の折れ・体の下敷き・詰まりを確認 |
| 熱と寒気 | がたがた震える寒気に続く発熱は、様子を見ずに連絡を |
| 足のむくみ | 両足のむくみは進行のサイン。片脚だけ急に腫れて痛むときは血栓の可能性 |
| 手足のしびれ・つまずき | 治療の副作用が残っていることがあります。転倒と誤薬を防ぐために早めに共有を |
| ストーマ周囲の皮膚 | 赤み、ただれ、装具の下からの漏れ。「そのうち治る」と待たずに相談してください |
受診・連絡の目安
ふくろう訪問クリニックにできること
- 血尿への対応/膀胱洗浄、3wayカテーテルの留置と持続灌流の管理まで、ご自宅で行います。夜間も含めた24時間の連絡体制を整えています。
- 放射線治療の判断/院長は放射線治療専門医です。止血目的の照射に意味があるか、何回でかけるのが妥当か、どの施設にいつ相談すべきかを、在宅の主治医の立場から一緒に検討します。
- 尿路の管の管理/尿道カテーテル、腎瘻、尿路ストーマの日常管理を担い、交換が必要な処置については病院の泌尿器科と連携して段取りします。
- ストーマケアと制度の整理/併設の訪問看護リハビリステーションと連携し、装具の見直しから身体障害者手帳・日常生活用具給付の手続きまでご案内します。
- 痛みと症状の緩和/腎機能に合わせた鎮痛薬の選択、持続皮下注射(PCA)による調整を行います。
- 「詰まったらどうするか」を一緒に決める/慌てる場面が来る前に、ご本人とご家族と方針を共有しておきます。
福岡市早良区/医療法人ふくろうの樹 ふくろう訪問クリニック
訪問診療のご相談は、通院が難しくなってきた段階でお早めにどうぞ。
「まだ末期ではないから」と待つ必要はありません。
参考文献・出典
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」膀胱(全国がん登録罹患データ・人口動態統計死亡データ・全国がん登録生存率データ)2026年7月22日更新
- 日本泌尿器科学会 編(協力:日本放射線腫瘍学会)『膀胱癌診療ガイドライン 2019年版[増補版]』医学図書出版、2023年8月30日発行(2025年5月アップデート)
- 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会 編『がん患者の泌尿器症状の緩和に関するガイドライン(2016年版)』金原出版
- 日本緩和医療学会 編『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』金原出版
- Cohn JA, Vekhter B, Lyttle C, Steinberg GD, Large MC. Sex disparities in diagnosis of bladder cancer after initial presentation with hematuria: a nationwide claims-based investigation. Cancer. 2014;120(4):555-561. doi:10.1002/cncr.28416
- Richards KA, Ham S, Cohn JA, Steinberg GD. Urinary tract infection-like symptom is associated with worse bladder cancer outcomes in the Medicare population: implications for sex disparities. Int J Urol. 2016;23(1):42-47. doi:10.1111/iju.12959
- Powles T, Valderrama BP, Gupta S, et al. Enfortumab vedotin and pembrolizumab in untreated advanced urothelial cancer (EV-302). N Engl J Med. 2024;390(10):875-888. doi:10.1056/NEJMoa2312117
- Loriot Y, Matsubara N, Park SH, et al. Erdafitinib or chemotherapy in advanced or metastatic urothelial carcinoma (THOR). N Engl J Med. 2023;389(21):1961-1971. doi:10.1056/NEJMoa2308849
- Ogita M, Kawamori J, Yamashita H, Nakagawa K. Palliative radiotherapy for gross hematuria in patients with advanced cancer. Sci Rep. 2021;11(1):9533. doi:10.1038/s41598-021-88952-8
- Tey J, Soon YY, Cheo T, et al. Palliative radiotherapy for bladder cancer: a systematic review and meta-analysis. Acta Oncol. 2021;60(5):635-644. doi:10.1080/0284186X.2021.1880025
- Duchesne GM, Bolger JJ, Griffiths GO, et al. A randomized trial of hypofractionated schedules of palliative radiotherapy in the management of bladder carcinoma: results of Medical Research Council trial BA09. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2000;47(2):379-388. doi:10.1016/s0360-3016(00)00430-2
- アステラス製薬「パドセブ 根治切除不能な尿路上皮癌に対する一次治療としてのペムブロリズマブとの併用療法について日本で適応追加に関する承認を取得」2024年9月24日/MSD株式会社 同日付プレスリリース(安全性情報を含む)
- 厚生労働省「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
- 福岡市「日常生活用具の給付」2025年4月1日更新/福岡市「小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業」
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定」「令和6年度介護報酬改定」(訪問看護 専門管理加算・在宅患者訪問看護・指導料に関する規定)
医療法人ふくろうの樹 ふくろう訪問クリニック(福岡市早良区)
緩和ケア・難病・精神科・認知症に対応する在宅療養支援診療所です。訪問看護リハビリステーションを併設しています。
