外用抗真菌薬は、どれがコスパがいいのか
―水虫の塗り薬を「お金」から考える
水虫(白癬)の塗り薬は、いま日本に10種類以上あります。値段は1gあたり9円台から1,300円台まで、実に140倍の開きがあります。ところが「高い薬ほどよく効く」わけではありません。では、どこにお金を払う価値があるのでしょうか。最新のガイドライン、2026年4月の薬価、そして現在進行形の出荷制限までふまえて、費用の面から整理します。
SECTION 01結論を3行で
- 皮膚に塗る抗真菌薬は、どれを選んでも効果に大きな差はない。ジェネリックなら1gあたり10〜15円。1か月使っても薬代は数百円で、先発品との差は月100円程度です。値段で悩む意味はほとんどありません。
- いちばん高くつくのは「水虫ではないのに塗ること」と「効いていない薬を続けること」。薬そのものより、診察料・通院・時間のほうがずっと高い。だからこそ最初に「本当に水虫か」を確かめるお金は、いちばん割のいい出費です。
- 爪水虫だけは、経済がまるで別物。塗り薬は1gあたり594〜1,313円。1年塗り続けても完全に治るのは6〜7人に1人程度です。飲める人なら、飲み薬のほうが安く、治りやすいことが多いのが実情です。
SECTION 02まず前提:塗り薬は「5つの系統」に分かれている
外用抗真菌薬は、真菌(カビ)の細胞膜をつくる仕組みのどこを止めるかで、大きく5系統に分かれます。日本皮膚科学会と日本医真菌学会は2025年12月に「皮膚真菌症診療ガイドライン2025」を6年ぶりに改訂しました1。ここに、現在使える外用薬が系統別に整理されています。
系統と保険適用は皮膚真菌症診療ガイドライン2025(表3)による1。ブテナフィンとリラナフタートは、テルビナフィンと同じ酵素を標的にするため、耐性を考えるうえでは「別系統」とみなせない点が実務的に重要です。
SECTION 03薬価を並べてみる ― 1gあたり9円台から1,300円台まで
2026年度の薬価改定は、令和8年3月5日に告示され、2026年4月1日から適用されています(医療費ベースで▲0.86%、薬剤費ベースで▲4.02%)2。この改定後の価格で並べたのが次の表です。
| 成分(系統) | 先発品 | 薬価/g | ジェネリック | 薬価/g |
|---|---|---|---|---|
| テルビナフィン (アリルアミン) | ラミシールクリーム1% | 15.8円 | テルビナフィン塩酸塩クリーム1% | 9.5〜10.8円 |
| ケトコナゾール (イミダゾール) | ニゾラールクリーム2% | 14.5円 | ケトコナゾールクリーム2% | 10.8〜12.5円 |
| ルリコナゾール (イミダゾール) | ルリコンクリーム1% | 28.2円 | ルリコナゾールクリーム1% | 14.9円 |
| ラノコナゾール (イミダゾール) | アスタットクリーム1% | 16.1円 | ラノコナゾールクリーム1% | 24.2円 |
| ケトコナゾール (別剤形) | ニゾラールローション2% | 22.1円 | ケトコナゾール外用ポンプスプレー2% | 19円 |
| ここから「爪に塗る液」― 単位が変わります | ||||
| エフィナコナゾール | クレナフィン爪外用液10% | 1,312.5円 | ― | ― |
| ルリコナゾール | ルコナック爪外用液5% | 593.7円 | ― | ― |
薬価は2026年4月1日適用の薬価基準収載品目リストに基づく値で、KEGG MEDICUS 2026年7月22日版で確認(2026年8月5日時点)2,3。ジェネリックは製造販売業者により価格が異なるため幅で示しています。
対数目盛りなので、右へ1目盛り進むごとに10倍になります。クリーム同士の値段の差(9.5円と28.2円)は、爪外用液との差に比べればごくわずかであることが視覚的にわかります。
ジェネリックのほうが高い、という逆転も起きている
表のなかで一か所だけ色を変えたところがあります。ラノコナゾールです。先発品のアスタットクリームが16.1円/gなのに対し、ジェネリックは24.2円/gと後発品のほうが1.5倍高いという逆転が起きています。
これは間違いではありません。原材料費の高騰などで採算が取れなくなった医薬品に対しては、安定供給を守るために「不採算品再算定」という仕組みで薬価を引き上げることがあります。2026年度改定では232成分704品目がこの対象になりました2。「ジェネリック=必ず安い」は、もはや前提として成り立たなくなっています。
SECTION 041本で何日もつのか ― 実際に払う金額に直す
1gあたりの値段がわかっても、実感には届きません。「1本でどれくらいもつのか」に直してみます。
塗布量はFTU(Finger Tip Unit)と体表面積からの概算です。塗布期間の目安、および「病巣より一回り広く塗る」「顕微鏡で菌が消えてからさらに1か月続ける」はガイドライン2025の記載によります1。薬剤費はルリコナゾール後発14.9円/gで計算しています。
3か月きちんと塗り切っても、ジェネリックなら薬剤費は3割負担で約600円です。一方、その間に必要な診察料や調剤料は、初診・再診・薬局分を合わせればそれを上回ります。薬の値段は、水虫治療の総費用のなかでは小さな項目だということです。だとすれば、値段でなく「かぶれずに、最後まで塗り切れる薬」を選ぶほうが、はるかに割がいい。
SECTION 05効き目に差はあるのか ― 「ある」とは言い切れない
「安い薬でいいのか」という疑問は当然です。結論から言えば、系統をまたいだ明確な優劣は、現時点で証明されていません。
足の水虫に対する外用薬の効果を、プラセボ(薬効成分の入っていない基剤)と比べたコクラン・システマティックレビューでは、いずれの系統も明らかに有効でした4。
| 系統 | 代表成分 | プラセボと比べた「治療がうまくいかないリスク」 |
|---|---|---|
| イミダゾール系 | ビホナゾール等 | 相対リスク 0.30(95%信頼区間 0.20〜0.45) |
| アリルアミン系 | テルビナフィン | 相対リスク 0.33(0.24〜0.44) |
| ベンジルアミン系 | ブテナフィン | 相対リスク 0.33(0.24〜0.45) |
| チオカルバミン酸系 | トルナフテート | 相対リスク 0.19(0.08〜0.44) |
数字が小さいほど「失敗しにくい」という意味です。系統ごとに0.19〜0.33と幅はありますが、これらはそれぞれ別々にプラセボと比べた結果であって、薬同士を直接比べたものではありません。実際、14種類の抗真菌薬を直接比べたメタ分析では、薬剤間に統計学的に有意な効果差は認められていません1。テルビナフィンとブテナフィンを比べた検討でも同等でした。
したがって、選ぶ基準は効果ではなく次の3点になります。
- 部位に合った適用があるか。ブテナフィン(メンタックス・ボレー)とリラナフタート(ゼフナート)は、カンジダ症に保険適用がありません。股や指の間の赤みがカンジダだった場合、この2剤では的を外します。
- かぶれないか。抗真菌薬は接触皮膚炎(かぶれ)を起こすことがあり、同じ系統内では交差反応が起きやすいことが知られています。市販薬でかぶれた経験がある人は、その系統を避ける必要があります。
- 塗る回数。ガイドラインは「いずれも1日1回でよい」としていますが、発売が古い一部の薬は添付文書上1日2〜3回と定められています。回数が増えるほど塗り忘れが増え、結果的に治療期間が延びます。
SECTION 06いちばん高くつくのは「診断せずに塗ること」
ガイドライン2025には、専門家として率直な一文があります。皮膚真菌症には貨幣状湿疹・接触皮膚炎・脂漏性皮膚炎・汗疱・紅色陰癬など鑑別すべき疾患が多く、「直接鏡検を怠ったために診断を誤り、患者に迷惑をかけている事例は枚挙にいとまがない」というのです1。
費用の観点でこれを言い換えると、こうなります。
爪白癬では、顕微鏡検査が難しい場合の補助として、爪の白癬菌抗原を調べるイムノクロマト法(白癬菌抗原定性・233点+免疫学的検査判断料144点)が2022年2月から保険適用となっています5。ただし日本皮膚科学会は「あくまで顕微鏡検査の補完」という立場を示しています6。
市販の水虫薬は1本およそ1,000〜2,000円台で、成分は医療用と同じものも多くあります。ただしすでに塗ってしまってから受診すると、顕微鏡検査で菌が見つかりにくくなり、診断が難しくなります。「市販薬で治らないから受診する」場合は、受診前の数日は塗るのを控えていただくほうが、結果的に早く決着がつきます。
SECTION 07爪水虫は、まったく別の経済圏
ここまでの話は「皮膚」の水虫です。爪になると、費用も治りやすさも桁が変わります。
爪白癬は日本人の約7.9%(13人に1人)が持っていると推計されています。これは2023年に日本臨床皮膚科医会が実施したFoot Check 2023の結果で、足白癬は13.7%(7人に1人)でした1,7。皮膚科を受診した患者の統計では、足白癬・爪白癬とも70歳代がピークで、80歳代以上の割合が増え続けています8。
各試験は対象とした爪の重症度・判定時期・治癒の定義が異なるため、数字を横並びで直接比較することはできません(クレナフィン・ルコナックは爪の濁りが20〜50%、ネイリンは25%以上が対象)。あくまで「桁の感覚」としてご覧ください1,9,10,11。
ガイドラインの推奨度は、そのまま費用対効果の順位に近い
| 治療 | 推奨度 | 期間 | 薬剤費(3割) | ハードル |
|---|---|---|---|---|
| テルビナフィン内服 | A | 6か月 | 約1,600円 | 定期的な血液検査が必須。飲み合わせの注意はあるが併用禁忌はない |
| ホスラブコナゾール内服 (ネイリン) | A | 12週 | 約19,500円 | 飲む期間が短く管理しやすい。肝機能検査が望ましい。妊婦は禁忌 |
| イトラコナゾール内服 (パルス療法) | B | 3か月 | ― | 併用禁忌・併用注意の薬が非常に多く、高齢者では使いにくい |
| エフィナコナゾール外用 (クレナフィン) | B | 48週 | 約5,600円〜 | 飲めない・飲みたくない中等症以下が対象。治癒率は内服に劣る |
| ルリコナゾール外用 (ルコナック) | B | 48週 | ― | 同上。原因菌がT. rubrumだと治癒率が低い(後述) |
推奨度は皮膚真菌症診療ガイドライン2025によります(A=行うよう強く勧める、B=行うよう勧める)1。ガイドラインは、爪白癬に対するイトラコナゾールとテルビナフィンの比較で、費用対効果を検討した報告はいずれもテルビナフィンが勝っていたと記載しています。
ルコナック爪外用液の国内第III相試験には、参考として実施された追加解析があります。原因菌別の48週治癒率は、Trichophyton mentagrophytesでは47.8%だったのに対し、Trichophyton rubrumでは4.7%でした10。日本の爪白癬の原因菌はT. rubrumが多数を占めます。つまり多くの患者さんでは、1年塗り続けても完全治癒は期待しにくい計算になります。これは「効かない薬」という意味ではなく、外用で爪白癬を治すことの難しさを示す数字です。
SECTION 082026年夏、実際に起きている出荷制限
コスパを考えるうえで避けて通れないのが、いま起きている供給の問題です。「いちばん安いジェネリックを選ぶ」という判断が、薬局に在庫がなくて成立しないことがあるからです。
- ルリコナゾールクリーム・軟膏1%「イワキ」は出荷停止が続いていましたが、2026年7月17日から「限定出荷」として供給を再開しました。ただし十分な供給量には達しておらず、当面のあいだ出荷数量が制限されています12。
- テルビナフィン塩酸塩クリーム1%も、複数のメーカーが2026年5月以降に限定出荷へ移行しています。他社品の供給停止による需要増が理由に挙げられているものもあり、1社の不調が連鎖する構図になっています。
- 厚生労働省が公表する医薬品供給状況一覧では、2026年7月末時点でルリコナゾール外用剤(1%1g規格)の掲載2銘柄がいずれも限定出荷の状態でした。
患者側にできる対策は多くありませんが、ひとつだけ有効なのは「この成分でなければ困る、という事情がなければ、一般名処方にしてもらう」ことです。薬局が在庫のある同一成分の製品を選べるようになり、「取り寄せに3日かかります」と言われる場面が減ります。
SECTION 09耐性菌 ― 安さで選ぶと、かえって高くつく場面
ガイドライン2025で新しく大きく加筆されたのが、抗真菌薬が効かない白癬菌の話です。
- 2020年に全国の医療機関から集めた白癬菌の臨床分離株を調べたところ、2.3%(210株中5株)がテルビナフィン耐性でした13。2022年の多施設調査では1.0%(288例中3例)にイトラコナゾール耐性株が見つかっています14。
- 2020年にはインド・ネパール由来の新種Trichophyton indotineaeが報告されました。テルビナフィン耐性を示すことが多く、広い範囲に炎症の強い皮疹をつくり、人から人へうつります15。日本国内でも難治例の報告が増えています。
- グループホームで、テルビナフィンを3年間内服していた入所者を発端に、耐性白癬が集団発生した報告もあります16。
実務上いちばん大事なのは、耐性が「効かない薬を、長く・とぎれとぎれに使う」ことで育つという点です。ガイドラインは、足白癬なら1か月、爪白癬なら3か月を目安に効果を判定し、改善がなければ系統を変えることを求めています1。
「症状が消えた=菌が死んだ」ではありません。菌の増殖が止まって炎症が引くと見た目は治りますが、角層には菌が残っています。ここでやめると再発し、また薬を買い直すことになります1。
「テルビナフィンが効かなかったので、ブテナフィンに替えてみる」――これは系統を変えたことになりません。テルビナフィン・ブテナフィン・リラナフタートはいずれもスクアレンエポキシダーゼという同じ酵素を止める薬だからです1。効果不十分で切り替えるなら、イミダゾール系(ルリコナゾール、ケトコナゾール等)やモルホリン系へ移る必要があります。
在宅診療で考える「塗り薬のコスパ」
訪問診療の現場では、外来とは前提条件がまったく違います。顕微鏡がない、薬を塗るのは本人ではない、通院という選択肢がない――。ここからは在宅ならではの費用構造を、一段深く掘り下げます。
1. 在宅で最大のコスト要因は「診断できないこと」
外来なら数分で終わる顕微鏡検査(KOH直接鏡検)が、訪問先ではできません。その結果、見た目だけで抗真菌薬を塗り始めることが起こりがちです。高齢者の足には、白癬とまぎらわしいものがたくさんあります。
- 皮脂欠乏性湿疹、うっ滞性皮膚炎(むくみのある下腿の変色と鱗屑)
- 爪甲鉤彎症、圧迫による爪の変形、爪乾癬、掌蹠膿疱症
- おむつの中の紅斑(白癬ではなくカンジダのことが多い)
解決策は3つあります。ひとつは検体だけ持ち帰る方法です。ガイドラインは、痛みなく広い範囲から鱗屑を採るために両面テープを使う、硬い爪はグラインダーで粉状にする、といった工夫を挙げています1。訪問時に採取し、診療所で鏡検すれば診断はつきます。
ふたつめが白癬菌抗原キットです。爪白癬に限られますが、イムノクロマト法で爪のなかの白癬菌抗原を数分で検出できます。保険上は「白癬菌抗原定性」233点+免疫学的検査判断料144点で、KOH直接鏡検が実施できない場合にも算定できます(その理由をレセプトの摘要欄に記載することが条件)5。顕微鏡のない往診先では、まさにこのための検査です。ただし日本皮膚科学会は、あくまで顕微鏡検査の補完であり、陽性なら皮膚科への紹介を検討すべきという立場を示しています6。
3つめが皮膚科医への相談です。訪問診療でも、写真の共有や併診で判断を仰げる体制があるかどうかで、その後数か月の費用がまったく変わります。
白癬菌抗原キットは爪白癬のみが対象で、皮膚の白癬には使えません。また死んだ菌にも反応するため、治療を続けるかどうかの判定には使えません1。
2. おむつの中の赤みは、白癬ではなくカンジダのことが多い
これは在宅・施設で非常に多い、そして費用を無駄にしやすい落とし穴です。2021年の全国疫学調査によれば、皮膚・粘膜カンジダ症の病型で最も多かったのは「高齢者のおむつカンジダ」で23%、次いでカンジダ性間擦疹21%でした8。
ここで薬の選択がそのまま結果を左右します。
| 薬 | 白癬 | 皮膚カンジダ症 | おむつ部の赤みに使えるか |
|---|---|---|---|
| ルリコナゾール、ケトコナゾール等 (イミダゾール系) | ○ | ○ | 使える |
| テルビナフィン(ラミシール) | ○ | ○ | 使える |
| アモロルフィン(ペキロン) | ○ | ○ | 使える |
| ブテナフィン(メンタックス、ボレー) | ○ | 適用なし | カンジダには保険適用外 |
| リラナフタート(ゼフナート) | ○ | 適用なし | 白癬のみ |
「前に足の水虫で出た薬が余っているから」とおむつ部に流用すると、成分によっては的を外し、赤みが引かないまま数週間が過ぎることになります。逆に、ステロイドと抗菌薬の配合外用剤(リンデロンVGなど)を白癬部位に塗ると、一時的にかゆみは楽になっても白癬は広がります。
皮膚カンジダ症は、有効な薬を1日1〜2回外用すればおおむね2週間以内に治ります(ガイドライン推奨度A)1。同時に、患部を清潔に保って乾燥させることが回復を早め、再発も防ぎます。おむつ交換の頻度、清拭のしかた、乾かす時間――薬より先に、ここを整えるほうが効きます。
3. 「誰が、いつ塗るか」を決めなければ、薬は効かない
在宅で塗り薬が失敗する最大の理由は、薬の選択ではなく塗られていないことです。高齢の患者さんは、足に手が届かない、目が見えにくい、指の間まで広げられない、という現実があります。
- 生活動線に埋め込む。「1日1回」は、入浴後・清拭後・おむつ交換時など、すでにある動作にくっつけると定着します。回数が1日1回で済む薬を選ぶ意味は、ここにあります。
- 訪問看護指示書に具体的に書く。「抗真菌薬外用」ではなく、部位(足底全体と趾間、病巣より一回り広く)、量(1回1g程度)、期間(3か月)、見直し時期まで書くと、実施率が変わります。
- デイサービス・ヘルパーとの分担を決める。訪問看護が入らない日をどうするかを最初に決めておかないと、塗布が週2〜3回に落ちます。効かない理由が「薬」だと誤解され、より高い薬に切り替わるのが最悪の流れです。
- 剤形を介護者目線で選ぶ。びらんや亀裂には液剤はしみるためクリームや軟膏を、自分で足に手が届かない人にはスプレー剤を、という選び方は理にかなっています。ただし同じ成分でも剤形で薬価は変わります(例:ケトコナゾールはクリーム10.8〜12.5円/gに対し、外用ポンプスプレーは19円/g)。
4. 在宅の爪白癬は「治す/治さない」から考える
訪問診療で爪白癬を見つけたとき、いきなり治療の中身を考える前に、治療する目的があるかを確認するほうが合理的です。
- 治療する理由になるもの:厚く変形した爪が皮膚に食い込んで痛む/歩行や靴の装着に支障がある/足白癬を繰り返す供給源になっている/糖尿病や末梢動脈疾患があり、足のトラブルが重症化しやすい/介護者の負担になっている
- 急がなくてよい場合:見た目だけの問題で痛みも支障もない/余命や全身状態から、1年かけた治療が本人の利益にならない
爪が生え替わるには半年から1年かかります。その時間を使う価値があるかどうかを、本人・家族と共有してから始める。これは費用の話であると同時に、在宅医療の意思決定の話でもあります。
治療すると決めた場合、在宅にはひとつ強みがあります。採血がその場でできることです。テルビナフィン内服は定期的な血液検査が前提ですが、これは訪問診療でこそやりやすい。薬剤費が6か月で3割負担約1,600円という価格を考えれば、通院が困難な方にとってむしろ現実的な選択肢になり得ます。一方でイトラコナゾールは併用禁忌・併用注意の薬が非常に多く、多剤併用の高齢者では現実的でないことがほとんどです。ネイリンは12週で飲み終わるため服薬管理の負担は最も軽い反面、薬剤費は3割負担で約19,500円かかります。
5. 施設・家族への広がりをどう抑えるか
白癬は、菌が付いただけではすぐには感染しません。角層に入り込んで定着するまでには時間がかかるため、毎日足を洗って乾かすという基本が、最も費用のかからない予防策です。ガイドラインが挙げる生活指導は明快です1。
- 指の間の型・水疱の型は、局所を蒸れさせない(靴下の交換、指の間まで乾かす)
- かかとが硬くなる型は、角質を厚くする刺激をやめる(健康サンダルや軽石の使用中止・軽減)
施設や同居家族では、足拭きマット・スリッパ・入浴介助の順番が共用の場になります。過剰な消毒は必要ありませんが、共用する布類を分ける、入浴後にしっかり乾かす、といった運用の工夫は費用ゼロで効果があります。加えて、ひとりの耐性菌が施設全体に広がりうることは、グループホームでの集団発生の報告が示しています16。効かない薬を漫然と続けないことは、その人だけの問題ではありません。
6. 供給不安を前提にした処方設計
在宅では「薬局に在庫がなく、次の訪問まで届かない」ことが、そのまま治療の中断になります。前述のとおり、2026年夏の時点でルリコナゾール外用剤とテルビナフィンクリームは限定出荷が続いています12。
- 一般名処方を基本にする。薬局が在庫のある製品で対応できます。
- 代替の系統をあらかじめ決めておく。ただし、テルビナフィン・ブテナフィン・リラナフタートは同じ標的の薬です。「別の名前だから別系統」ではありません。
- まとめて出しすぎない。効果判定の前に大量に処方すると、効かなかった場合にそのまま廃棄になります。1か月分=10g×3本を目安に、判定日とセットで組むのが結局いちばん安く済みます。
SECTION 11場面別・早見表
| 場面 | コスパの観点でどうするか |
|---|---|
| 足がかゆい・皮がむける (初めて) | 市販薬を塗る前に受診して顕微鏡で確かめる。塗ってから受診すると診断が難しくなる。水虫と決まれば、ジェネリックの塗り薬で薬剤費は月数百円 |
| 市販薬を試してみたい | 1本1,000〜2,000円台。ただし「2週間塗って改善しない」なら受診の目安。だらだら続けるのがいちばん高くつく |
| かかとがガサガサ (角化型) | 塗り薬だけでは届きにくく6か月以上かかる。飲み薬の併用を相談したほうが、総額では安く早い |
| 爪が白く濁った・分厚い | まず本当に爪白癬かを確認。飲める体なら内服が安く治りやすい。テルビナフィン内服は6か月で3割負担約1,600円 |
| 肝臓が悪い・薬が多い | 爪の塗り薬(クレナフィン/ルコナック)が選択肢。ただし治癒率は内服に劣り、48週で3割負担約5,600円以上かかることを了解したうえで |
| おむつの中が赤い | 白癬よりカンジダが多い。ブテナフィン・リラナフタートはカンジダに適用がない。清潔と乾燥がまず先 |
| 1か月塗っても変わらない | 続けずに受診。診断が違う/系統が合わない/耐性のいずれか。同じ薬を続けるのが最も損 |
| 家族にうつしたくない | 毎日洗って乾かす。バスマットやスリッパの共用を減らす。過剰な消毒は不要 |
SECTION 12よくある質問
結局、いちばんコスパのいい塗り薬はどれですか?
皮膚の水虫であれば、ジェネリックのテルビナフィンかルリコナゾールのクリームが、価格・1日1回・適用の広さのバランスで優れています。ただし効果に有意差はないため、かぶれた経験がある系統を避け、その時点で安定して入手できるものを選ぶのが実際的です。「これでなければ治らない」という薬は存在しません。
ジェネリックは本当に同じですか?
外用薬は有効成分だけでなく基剤(軟膏やクリームのベース)も効果や使い心地に影響します。とはいえ、外用抗真菌薬について先発とジェネリックの効果差を示す確かなデータはありません。むしろ2026年時点では、ラノコナゾールのようにジェネリックのほうが高い逆転例も出ています。値段だけで自動的に選ぶ時代ではなくなりました。
爪水虫の塗り薬は、意味がないということですか?
そうではありません。ガイドラインは推奨度B(行うよう勧める)としており、肝機能障害などで内服できない、あるいは内服を希望しない中等症以下の方には有用と位置づけています。ただし内服より治癒率が低く費用は高い、という前提を知ったうえで選ぶ必要がある、ということです。
飲み薬は肝臓に悪いと聞いて怖いのですが。
テルビナフィン内服では、まれに重い肝障害や血球減少が起こりうるため、定期的な血液検査が必要です。逆に言えば、検査をしながら使えば異常を早期に見つけられます。ホスラブコナゾール(ネイリン)でも肝機能検査が望ましいとされています。飲み合わせの多い方はイトラコナゾールを避けるなど、薬の選択で回避できる部分も大きいので、いま飲んでいる薬をすべて見せていただくのが第一歩です。
症状が消えたら、やめてもいいですか?
いちばん多い失敗がこれです。菌の増殖が止まると見た目は治りますが、角層にはまだ菌が残っています。ガイドラインは、顕微鏡で菌が陰性になったことを確認したうえで、さらに1か月塗り続けることを治癒のコツとして挙げています。ここで数百円をけちると、翌年また同じ治療を最初からやり直すことになります。
水虫の薬が薬局にないと言われました。
2026年夏の時点で、ルリコナゾール外用剤とテルビナフィンクリームは複数のメーカーが限定出荷を続けています。効果に大きな差はないので、入手できる別の薬に変えるのが現実的です。処方の際に一般名処方にしておくと、薬局側で在庫のあるものに対応しやすくなります。
ふくろう訪問クリニックから
足や爪の変化は、ご本人が気づきにくく、ご家族も「年のせい」と考えがちな部分です。しかし、痛みで歩きにくくなる、靴が履けない、皮膚のトラブルが繰り返される――生活への影響は決して小さくありません。
当院は福岡市早良区で、通院が難しい方のご自宅や施設にうかがう訪問診療を行っています。足の状態を確認し、本当に治療が必要かどうか、どこまでやるのが本人にとって最善かを、ご家族や訪問看護・ケアマネジャーと一緒に考えます。訪問看護リハビリステーションとの連携により、日々の塗布やスキンケアまで含めた体制をつくることができます。
「これは水虫でしょうか」という段階のご相談で構いません。どうぞお気軽にお問い合わせください。
参考文献
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- KEGG MEDICUS 医療用医薬品データベース(2026年7月22日版)に収載の薬価および各製品の電子添文(クレナフィン爪外用液10%:2022年7月改訂第1版/ネイリンカプセル100mg:2026年4月改訂第3版/ルコナック爪外用液5%:2024年7月改訂).
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- 岩城製薬株式会社:限定出荷(一時出荷停止解除)のご案内(2026年7月/ルリコナゾールクリーム1%「イワキ」、ルリコナゾール軟膏1%「イワキ」、2026年7月17日より限定出荷).厚生労働省「医薬品供給状況一覧」(2026年7月27日時点).
- Hiruma J, Noguchi H, Hase M, et al. Epidemiological study of terbinafine-resistant dermatophytes isolated from Japanese patients. J Dermatol. 2021;48(4):564-567.
- Hiruma J, Noguchi H, Shimizu T, Hiruma M, Harada K, Kano R. Epidemiological study of antifungal-resistant dermatophytes isolated from Japanese patients. J Dermatol. 2023;50(8):1068-1071.
- Kano R, Kimura U, Kakurai M, et al. Trichophyton indotineae sp. nov.: a new highly terbinafine-resistant anthropophilic dermatophyte species. Mycopathologia. 2020;185(6):947-958.
- Noguchi H, Matsumoto T, Hiruma M, et al. Cluster infection caused by a terbinafine-resistant dermatophyte at a group home: the first case series in Japan. Acta Derm Venereol. 2021;101:adv00563.
本記事は2026年8月5日時点の情報にもとづく一般的な解説であり、個々の診断・治療方針を示すものではありません。薬価および供給状況は改定・変更されることがあります。実際の治療については、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。3割負担での金額はいずれも薬剤費のみの概算で、診察料・検査料・調剤にかかる費用は含まれていません。
