胃切除後の療養
――手術のかたちで、その後の暮らしはこう変わる
術式・再建法ごとの随伴症状と対処法を、胃癌治療ガイドライン第7版(2025年3月改訂)と全国規模の調査データ、そして令和8年度診療報酬改定までふまえて整理します。
この記事でお伝えしたいことは、3つです。
1.「どれだけ切ったか」より「どの弁を失ったか」で、出る症状の“種類”が決まります。胃の出口(幽門)を失えばダンピング、入口(噴門)を失えば逆流。まずここを知ると、自分に何が起きうるかの見通しが立ちます。
2.体重は減ります。ただし全国1,777人のデータでは、生活の満足度を左右していたのは「何kg減ったか」ではなく「今の体格がどこか」でした。しかもその影響は思ったより小さく、いちばん効いていたのは食事のつらさとダンピングでした。
3.静かに進むもの(貧血・骨・栄養)は、症状が出てから気づくのでは遅れます。とくに骨は、全摘でも幽門側切除でも骨粗鬆症になる割合が変わらないというデータがあり、「部分切除だから大丈夫」は成り立ちません。
SECTION 01胃は、何をしていた臓器だったのか
胃切除後に起こることは、ほとんどすべて「胃がしていた仕事のうち、何が失われたか」から説明がつきます。裏を返せば、胃の仕事を6つに分けて理解しておけば、あとの話はその組み合わせです。
胃は単なる袋ではありません。食べたものを数時間ためて少しずつ送り出す貯留と調節、胃酸とペプシンで粥状にする下ごしらえ、鉄をイオン化しビタミンB12の吸収に必要な内因子を出す吸収の準備、食欲を高めるグレリンを出す内分泌、そして入口と出口にある2つの弁――この6つを同時に担っています。
図1:胃切除後に起こることは、失われた「仕事」から逆算して理解できます。
SECTION 02いま行われている胃切除の術式
2025年3月、日本胃癌学会の『胃癌治療ガイドライン』が第7版に改訂されました(2021年の第6版から約4年ぶり)。この版で胃の切除範囲は従来の6種類に「胃亜全摘術」が加わり7種類となり、クリニカルクエスチョン(CQ)は全41項目に増えています[1][2]。
また同版では、腹腔鏡下幽門側胃切除術が「標準治療の選択肢の一つとして行うことを強く推奨」(合意率100%、エビデンスの強さA)となり、ロボット支援手術も「弱く推奨」(合意率100%、エビデンスの強さC)と、前版よりも推奨範囲が広がりました[2]。
図2:術式名を聞いたら、まず「幽門と噴門のどちらが残っているか」を確認してください。
第7版では高齢者に関するCQも新設され、「高齢者に対してはリンパ節郭清範囲を縮小した縮小手術や低侵襲手術を行うことを弱く推奨する」とされました(合意率70%、エビデンスの強さD)[2]。合意率が70%にとどまり、エビデンスの強さも最も低いD――つまり「そうした方がよさそうだが、確たる根拠はまだない」という段階です。一律に決まるものではなく、体力・併存症・ご本人の希望を含めた個別の判断になります。
SECTION 03再建法――つなぎ方でも症状は変わる
胃を切ったあと、食べ物の通り道をどうつなぎ直すか。これを再建法といいます。同じ幽門側胃切除でも、再建法によって出やすい症状が変わります。手術の説明書や退院時の紹介状に必ず書いてありますので、一度確認しておくと後々役に立ちます。
図3:出典はPGSAS研究(文献3〜6)。「どれが一番よい」ではなく、何と引き換えに何を得るかの選択です。
SECTION 04食後に起きること――ダンピング症候群と小胃症状
早期ダンピング症候群(食後5〜30分)
「ダンピング」は、ダンプカーが荷を一気に降ろすさまから来た言葉です。幽門という弁を失うと、食べたものが濃いまま一気に小腸へ流れ込みます。すると濃度を薄めるために血管から水分が腸へ移動し、一時的に血液量が減ったのと同じ状態になります。
症状は、冷や汗・動悸・めまい・顔面の紅潮または蒼白・脱力感といった全身の症状と、腹痛・下痢・吐き気・お腹の張りといったお腹の症状です[7]。
後期ダンピング症候群(食後2〜3時間)
こちらは別のしくみです。糖質が急速に吸収されて血糖が一気に上がると、それを下げようとインスリンが過剰に分泌されます。ところが胃から送られてくる糖はすでに吸収し終わっているため、結果として血糖が下がりすぎる――つまり低血糖です。
食後2〜3時間して冷や汗・強い脱力感・手のふるえ・集中できない・頭痛が出るときは、これを疑います。糖分をとれば数分で改善するのが特徴です[7]。
図4:症状が出たときの対処と、次につなげる予防をセットで覚えておくと負担が減ります。
SECTION 05体重の話――「何kg減ったか」より「今どこにいるか」
体重減少は、胃切除後にもっとも多く聞かれる悩みです。ここには全国規模の良質なデータがあります。
日本胃外科・術後障害研究会は、胃切除後の症状・生活・QOLを測るための質問票PGSAS-45を開発し、全国52施設の患者さん2,368人から回答を集めました[3]。このうちステージⅠで根治切除を受けた1,777人を解析した研究では、術後平均37.0±26.8か月の時点で、体重は平均9.5±8.0%減っていました[4]。
図5:出典 Tanabe K, et al. World J Gastroenterol. 2017(文献4)。ステージⅠ・根治切除例に限定した解析です。
この研究がさらに踏み込んだのは、「体重が減ることは、本当に生活の質を落とすのか」という問いでした。結果は意外なものでした。QOLをより強く左右していたのは「どれだけ減ったか」ではなく「今のBMIがどこか」で、しかも両者を合わせた影響の大きさ(決定係数R²)は0.028〜0.080と、一般に考えられているよりずっと小さかったのです[4]。
では何がQOLを決めていたのか。同じPGSAS研究の別解析では、症状の重さ・働ける度合い・補食が必要かどうかが最も強い要因で、個々の症状では食事に関するつらさ>ダンピング>腹痛>逆流の順でした。消化不良・下痢・便秘の影響は有意ではなく、切除範囲そのものも、他の条件をそろえると有意な要因ではなくなりました[5]。
体重計の数字とにらめっこするより、「食事の時間がつらくないか」「食後に症状が出ていないか」「仕事や家事ができているか」を見るほうが、生活の質に直結します。体重維持が不要という意味ではありません。ただ、減った量そのものに一喜一憂しすぎる必要はない、ということです。
SECTION 06静かに進む3つ――貧血・骨・栄養
① 貧血:鉄は早く、ビタミンB12は遅い
胃酸が減ると鉄がイオン化されにくくなり、鉄欠乏性貧血が術後数か月から現れます。一方、ビタミンB12は内因子がないと吸収できませんが、肝臓に数年分の貯金があるため、欠乏が表に出るのは術後4〜5年後というのが従来の説明でした[8]。
ただし近年、この「定説」に注意を促す報告があります。胃がんの多くは長年の萎縮性胃炎を背景に発生するため、手術前からすでにB12の吸収障害が始まっている可能性があるのです。国内の報告では、術前患者16名のうち10名(半数以上)がすでに欠乏域にあり、術後3年以内の21名でも重度欠乏19.0%・欠乏52.4%でした[9]。ただしこれは少人数の単施設の報告で、これだけで一般化はできません。それでも「5年経つまでは大丈夫」と決めつけない理由には十分なります。
第7版では「胃切除後長期障害への対応」というCQ群が新設され、3つの問いに答えが出されました[2]。
・胃全摘後のビタミンB12投与:行うことを弱く推奨(合意率90%、エビデンスの強さC)
・脾臓を摘出した場合の肺炎球菌ワクチン:接種を弱く推奨(合意率90%、エビデンスの強さD)
・胃切除後のピロリ菌除菌:明確な推奨ができない(合意率100%、エビデンスの強さC)
注目すべきは、これほど基本的に見える「胃全摘後のB12補充」ですら「弱く推奨」にとどまっていることです。臨床では当たり前に行われてきたことでも、質の高い比較試験が乏しい領域なのだと、ガイドライン自身が正直に示しています。
② 骨:「部分切除だから大丈夫」は成り立たない
胃切除後はカルシウムの吸収が落ち、ビタミンD不足と二次性副甲状腺機能亢進が重なって骨が減ります。これは古くから知られた現象ですが、数字で見ると想像以上です。
図6:[A]の出典は文献10・11、[B]は韓国の全国データ85,124人(文献12)。数え方が違うため、単純比較はできません。
この「矛盾」は、実は矛盾ではありません。メタ解析[10]はある一時点で骨密度を測って何%が骨粗鬆症かを数えたもので、症例数は1,204人。一方、韓国のデータ[12]は85,124人を何年も追いかけて、実際に骨折が起きた人を数えたものです。前者は「今の状態」、後者は「これから起きること」を見ています。
日本の多施設研究でも、骨密度の減り方は胃全摘+ルーワイ > 幽門側切除+ルーワイ > 幽門側切除+ビルロートⅠの順で、術後5年時点の椎体骨折は19.2%と報告されています[13]。
「部分切除だから骨は大丈夫」とは言えません。術後3年を目安に一度、骨密度を測っておくことをおすすめします。日本の多施設研究では、骨粗鬆症と診断された胃切除後の患者さんに月1回のミノドロン酸を投与したところ、腰椎骨密度が12か月で+4.52%と、活性型ビタミンD群の+1.72%を上回りました(P=.001)[14]。骨を減らさないための手立ては、すでにあります。
③ 低栄養とサルコペニア
体重減少の内訳は脂肪だけではありません。筋肉も同時に減ります。とくに術後補助化学療法が加わると骨格筋の減少が加速することが知られており、これが転倒・骨折・体力低下へとつながっていきます。
第7版では「高齢者・サルコペニア患者に対する周術期の栄養/運動療法は推奨されるか」というCQも新設されましたが、答えは「明確な推奨ができない」でした(合意率94.7%、エビデンスの強さD)[2]。合併症を減らす可能性は示唆されるものの、対象や介入方法のばらつきが大きすぎて結論が出せなかった、という判断です。
これは「やっても無駄」という意味ではありません。効果の証明がまだ十分でない領域だということです。実際の現場では、術前からの栄養状態の維持と、術後の無理のない運動は、標準的に勧められています。
SECTION 07時期ごとに、起きやすいことは変わる
図7:胆石の頻度は日本胃癌学会『患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版』、乳糖不耐は日本臨床外科学会の市民向け解説(文献7・8)に基づきます。
まれですが、知っておいていただきたいこと
| 起こりうること | どんなときに疑うか |
|---|---|
| 輸入脚症候群 | ビルロートⅡ法の後。食後30分〜1時間の右上腹部痛が強く、大量に吐くと急に楽になるのが特徴。繰り返すときは受診を。 |
| 胆石症・胆嚢炎 | 胃切除後の10〜20%に。術後3年以内に多い。右上腹部の痛み、発熱、黄疸。手術時に予防的に胆嚢を切除しておくこともあります。 |
| 乳糖不耐症 | 術後1〜3か月ごろ、10〜15%の方に。牛乳でお腹が鳴る・腹痛・下痢。少量から、温めて、が試す価値のある工夫です。 |
| 腸閉塞(イレウス) | お腹の手術後はいつでも起こりえます。腹痛+嘔吐+排ガス・排便が止まるときは、様子を見ずに受診してください。 |
| 残胃炎・残胃がん | 胃を残した術式では、残った胃の内視鏡検査を続ける必要があります。第7版でも残胃がんに関するCQが設けられています。 |
| 脾臓を摘出した場合 | 重い感染症のリスクが上がります。第7版は肺炎球菌ワクチンの接種を弱く推奨しています(合意率90%)。 |
SECTION 08制度――使えるしくみを知っておく
療養は、食事の工夫だけで成り立つものではありません。2026年(令和8年)度の診療報酬改定で、胃切除後の方にとって使いやすくなった仕組みがいくつかあります。
入院していた医療機関の管理栄養士が、退院直後にご自宅を訪問して栄養指導を行うための点数が新設されました。退院日を除く1か月以内、最大4回まで。対象にはがん患者・低栄養状態にある方・摂食嚥下機能が低下した方が含まれます[15]。
退院時に病院で受けた指導が、実際の台所と実際の家族構成のなかでどう成り立つのか――そこを埋めるための制度です。胃切除後にはとりわけ噛み合う仕組みだと考えています。
栄養指導は「特別食」でなくても受けられます
外来栄養食事指導料は、がん患者・摂食嚥下機能が低下した方・低栄養状態の方も対象です。さらに「侵襲の大きな消化管手術後の患者に対する潰瘍食」は特別食として明記されており、胃切除後の方はいずれかに該当することがほとんどです。
| 外来栄養食事指導料1(令和8年度) | 対面 | 情報通信機器 |
|---|---|---|
| 初回 | 260点 | 235点 |
| 2回目以降 | 200点 | 180点 |
| 2回目以降の追加的指導 (今回の改定で新設) | 50点(指導料1)/45点(指導料2)※情報通信機器または電話 | |
今回の改定では、2回目以降に電話やオンラインで短く追加のフォローをする区分が新設されました[15]。指導時間の要件がないため、「一度説明を受けたけれど、家に帰ってみたら困った」という場面に使いやすくなっています。
そのほか、確認しておきたい制度
- 高額療養費制度:2026年8月から自己負担限度額の仕組みが見直され、年間の上限が新たに設けられました。手術後に薬物療法が続く場合は、加入している健康保険組合・協会けんぽ・市区町村の窓口でご確認ください。
- 傷病手当金:会社員・公務員の方が病気で仕事を休む場合、最長1年6か月まで受け取れる制度です。手続きには勤務先と医師の証明が必要です。
- がん相談支援センター:全国のがん診療連携拠点病院に設置され、その病院にかかっていない方でも無料で相談できます。就労、経済面、療養の悩みまで幅広く対応しています。
- 介護保険:65歳以上の方は原因を問わず申請できます。40〜64歳の方は「がん(末期)」など16の特定疾病に限られるため、根治手術後の胃切除後障害では対象になりません。
- 身体障害者手帳:胃の切除そのものは、原則として身体障害者手帳の対象ではありません。よく誤解される点なので、あらかじめ知っておいていただければと思います。
2026年6月、抗PD-L1抗体デュルバルマブが「胃癌における術前・術後補助療法」の適応追加で国内承認されました[16]。手術と術後補助化学療法を中心としてきた日本の胃がん治療に、手術の前後を通じて薬物療法を行う「周術期治療」という選択肢が加わったことになります。
療養という観点では、手術前から治療が始まる分だけ、体力と栄養を保つ期間が長くなることを意味します。術前の栄養状態は術後の回復に直結しますので、これから治療を受ける方は、この段階からの食事の相談を検討されるとよいと思います。
当院の視点――在宅の現場から見た「胃切除後」
ふくろう訪問クリニックが訪問しているご高齢の方のなかには、何十年も前に胃を切った方が少なくありません。ご本人も「もう治った手術」と思っておられます。ですが在宅の現場から見ると、胃切除後という経歴は、その後の人生を通じて静かに効き続けています。
- 1 「30年前に胃を切った」は、いまも現在進行形の情報です 訪問診療で新しく担当させていただく際、既往歴に「胃切除」と一行だけ書かれていることがあります。そこから、貧血・骨密度・体重の推移を確認し直すと、治療の余地が見つかることがあります。何年前の手術かに関係なく、この一行は今も読む価値のある情報だと考えています。
- 2 「食が細くなった」を、年のせいで済ませない 高齢の方の食欲低下は、加齢・認知症・薬の副作用など原因がいくつも重なります。ただ胃切除の既往がある方では、貧血、ビタミンB12欠乏、逆流、そして胆石という、手当てできる原因が混ざっていることがあります。まず採血をしてみる価値は十分にあります。
- 3 転倒したときに、骨のことを思い出す 胃切除後の骨粗鬆症は、幽門側切除でも胃全摘でも起こります。ご自宅で転んで手をついた、腰を打った――そのときに「この方は胃を切っている」と思い出せるかどうかで、次の骨折を防げるかが変わります。背が縮んだ、背中が丸くなったという変化も、静かに起きている椎体骨折のサインのことがあります。
- 4 数字より、食卓を見る 全国1,777人のデータが示したのは、生活の質を決めるのは体重の減少幅ではなく、食事のつらさとダンピングだということでした。訪問診療でうかがうのは、体重計の数字ではなく台所と食卓です。何を、どのくらいの回数で、誰と食べているのか。そこを一緒に組み直すことが、いちばん効く介入だと感じています。
胃を切ったあとの体は、切る前の体とは別のルールで動いています。それは不便ではありますが、ルールがわかっていれば、対処のしようがあるということでもあります。困りごとがあれば、遠慮なくご相談ください。
SECTION 09場面別の早見表
| こんなとき | 考えられること/どうするか |
|---|---|
| 食後すぐに冷や汗と動悸 | 早期ダンピング。20〜30分横になって休む。次回から1回量を減らして回数を増やす。 |
| 食後2〜3時間で手がふるえる | 後期ダンピング(低血糖)。すぐ糖分をとる。運転・入浴の予定はこの時間帯を避ける。 |
| 夜、横になると込み上げる | 逆流。夕食は就寝2〜4時間前まで。上体を10〜15cm高くする。薬で軽くできます。 |
| 食事の量が増えない | 術後1年ほどは自然な経過です。栄養補助食品と間食を「食事の一部」として計画に。 |
| 最近だるい・息切れする | 鉄欠乏性貧血の可能性。採血で確認を。術後数か月〜1年ごろから出やすくなります。 |
| 手足がしびれる・舌が赤い | ビタミンB12欠乏を疑います。術後年数にかかわらず一度採血を。 |
| 背が縮んだ・背中が丸い | 椎体骨折の可能性。骨密度検査を。術後3年を目安に一度は測っておきたいところです。 |
| 右上腹部が痛い・熱が出た | 胆石・胆嚢炎の可能性。術後1〜3年に多く見られます。早めに受診してください。 |
| 腹痛+嘔吐+ガスが出ない | 腸閉塞の可能性。様子を見ずに受診を。 |
| 牛乳でお腹がゴロゴロする | 乳糖不耐。術後1〜3か月ごろに10〜15%の方に。少量ずつ、温めて試してみてください。 |
| 退院直後で食事が不安 | 退院後訪問栄養食事指導(530点・1か月以内4回まで)が使える場合があります。病院に相談を。 |
| お金や仕事のことが心配 | 高額療養費、傷病手当金、がん相談支援センター。相談は無料で、他院の患者さんでも可能です。 |
SECTION 10よくあるご質問
Q1.食べる量は、いつになったら元に戻りますか。
術式によって大きく異なります。内視鏡的切除であれば2〜3週間で術前とほぼ同じ食生活に戻れることが多い一方、胃全摘では「元に戻る」というより新しい食べ方に体を合わせていく過程になります。多くの方は術後1年ほどで生活が安定します。全国調査でも、術後1年を超えるとQOLの指標は概ね安定することが報告されています。
Q2.体重が10%減りました。心配したほうがいいですか。
術後平均37か月時点での平均が9.5%ですから、数字だけ見れば平均的な範囲です。ただし術前の体格によって「順調な減り方」は変わります。もともとBMIが25を超えていた方の平均は12.3%、18.5未満だった方は約2%でした[4]。減った量よりも、今のBMIがどこか、そして食事がつらくないかを主治医と確認するのが実際的です。
Q3.ビタミンB12の注射は、一生続けるのですか。
胃全摘の場合は、内因子が分泌されないため補充が必要になります。ガイドライン第7版でも投与が弱く推奨されています[2]。近年は内服(メコバラミン)でも十分な補充が可能という報告が増えており、注射一択ではありません。投与の方法と間隔は、血液検査の値を見ながら主治医と決めていくことになります。
Q4.幽門側切除でしたが、骨の検査は必要ですか。
必要です。19研究1,204人のメタ解析では、骨粗鬆症の割合は部分切除と全摘で有意差がありませんでした(オッズ比0.983、p=0.939)[10]。「全部は取っていないから大丈夫」とは言えません。とくに女性は男性の約1.9倍の頻度で、日本の高齢者を対象とした研究では女性の60.0%が骨粗鬆症でした[11]。
Q5.胃を切ったあと、ピロリ菌の除菌はしたほうがいいですか。
ガイドライン第7版はこの問いに対し、「明確な推奨ができない」と回答しています(合意率100%、エビデンスの強さC)[2]。「してはいけない」ではなく、推奨できるだけの根拠がまだそろっていないという意味です。残胃の状態や年齢、他の要因を含めて個別に判断されることになりますので、主治医とご相談ください。
Q6.お酒やコーヒーは、もう飲めませんか。
一律に禁止されるものではありません。ただし胃で薄まる工程がなくなるため、アルコールの吸収が速くなり、少量で酔いやすくなる方が多くいらっしゃいます。逆流症状がある方では、コーヒー・アルコール・脂肪の多い食事は症状を強めることがあります。まずは少量から試し、ご自身の体の反応を確かめてみてください。
胃切除後の療養について、ご相談ください
ふくろう訪問クリニック(福岡市早良区)は、緩和ケア・難病・精神科・認知症を中心とした在宅医療を行っています。通院が難しくなった方の胃切除後の栄養・貧血・骨の管理についても、ご自宅で継続してお手伝いできます。
「食が細くなった」「体重が戻らない」「通院が負担になってきた」といったご相談は、ご本人からでもご家族からでも、ケアマネジャーさんからでも承ります。
※症状が急に強くなったとき、腹痛と嘔吐が続くとき、ガスや便が止まったときは、様子を見ずに医療機関を受診してください。
REFERENCES参考文献
- 日本胃癌学会 編.胃癌治療ガイドライン医師用 2025年3月改訂[第7版].金原出版,2025.ISBN 978-4-307-20487-3.
- 木下敬弘.「胃癌治療ガイドライン第7版 改訂のポイント」外科治療.第97回日本胃癌学会総会(2025年3月12〜14日,名古屋)シンポジウム報告.
- Nakada K, Ikeda M, Takahashi M, et al. Characteristics and clinical relevance of postgastrectomy syndrome assessment scale (PGSAS)-45: newly developed integrated questionnaires for assessment of living status and quality of life in postgastrectomy patients. Gastric Cancer. 2015;18(1):147-158. doi:10.1007/s10120-014-0344-4. PMID 24515247.
- Tanabe K, Takahashi M, Urushihara T, et al. Predictive factors for body weight loss and its impact on quality of life following gastrectomy. World J Gastroenterol. 2017;23(26):4823-4830. doi:10.3748/wjg.v23.i26.4823. PMID 28765704.
- Nakada K, Takahashi M, Ikeda M, et al. Factors affecting the quality of life of patients after gastrectomy as assessed using the newly developed PGSAS-45 scale: a nationwide multi-institutional study. World J Gastroenterol. 2016;22(40):8978-8990. PMID 27833389.
- Ikeda M, Takiguchi N, Morita T, et al. Quality of life comparison between esophagogastrostomy and double tract reconstruction for proximal gastrectomy assessed by Postgastrectomy Syndrome Assessment Scale (PGSAS)-45. Ann Gastroenterol Surg. 2023;7(3):430-440. doi:10.1002/ags3.12645. PMID 37152778.
- 日本胃癌学会 編.患者さんのための胃がん治療ガイドライン 2023年版.金原出版,2023.
- 日本臨床外科学会.市民の皆さまへ「胃切除後に気をつけたい症状――退院後に起こる問題と対処法/胃切除後症候群とは」.
- 日本ビタミン学会.胃がん患者における胃切除の術前および術後早期からのビタミンB12欠乏(2024年度 研究助成論文サマリー).
- Oh HJ, Yoon BH, Ha YC, et al. The change of bone mineral density and bone metabolism after gastrectomy for gastric cancer: a meta-analysis. Osteoporos Int. 2020;31(2):267-275. doi:10.1007/s00198-019-05220-2. PMID 31776636.
- Analysis of the risk factors for osteoporosis and its prevalence after gastrectomy for gastric cancer in older patients: a prospective study. Surg Today. 2022. doi:10.1007/s00595-022-02581-w.(多施設前向き研究、術後3年以上の高齢者271例)
- The risk of osteoporotic fracture in gastric cancer survivors: total gastrectomy versus subtotal gastrectomy versus endoscopic treatment. Gastric Cancer. 2023. doi:10.1007/s10120-023-01397-y. PMID 37209225.(韓国全国データ85,124人)
- Impact of gastrectomy for gastric cancer on postoperative bone mineral density loss and fracture risk: a multicenter study. Clin Nutr. 2025.(日本の多施設後ろ向き研究485例、術後5年までの骨密度と椎体骨折を評価)
- Hirota M, Takahashi T, Saito Y, et al. Utility of monthly minodronate for osteoporosis after gastrectomy: prospective multicenter randomized controlled trials. Ann Gastroenterol Surg. 2021;5(6):754-766. doi:10.1002/ags3.12474.
- 厚生労働省.令和8年度診療報酬改定について(外来栄養食事指導料、退院後訪問栄養食事指導料)/公益社団法人日本栄養士会「令和8年度診療報酬改定のポイント」.
- デュルバルマブ(イミフィンジ)、胃癌における術前・術後補助療法の適応追加で国内承認(2026年6月)/日本胃癌学会 ガイドライン速報(2026年6月19日).
- Yoo SH, Lee JA, Kang SY, et al. Risk of osteoporosis after gastrectomy in long-term gastric cancer survivors. Gastric Cancer. 2018. doi:10.1007/s10120-017-0777-7.
本記事は一般の方向けの情報提供を目的としたもので、個々の診断・治療方針に代わるものではありません。術式・再建法によって注意点は異なりますので、実際の療養にあたっては手術を受けた医療機関の主治医の指示を優先してください。記載した数値は執筆時点(2026年8月)で確認できた最新の情報に基づいており、制度については今後変更される可能性があります。また、記載した企業・製品から資金提供や便宜供与は受けていません。

