血液1滴の全身がん検査:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第6回/全30回
血液1滴の全身がん検査

マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴

「血液1滴で、13種類のがんのリスクが分かる」。この言葉の元になった研究は、実在します。国立がん研究センターが進めてきた、本物の研究です。 ただ、その研究はいまも臨床試験の途中で、「がんで亡くなる人が減る」ことはまだ確かめられていません。 この回では、研究段階の技術と、その名前を借りた自費の検査の間にある距離を測ります。

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この回の結論

  1. 「血液1滴で全身のがん」には、研究段階の本物の技術と、その名前を借りた自費の検査が混ざっています。
  2. 世界最大級の実地研究(6,621人)では、陽性と出た人のうち、がんだったのは38%でした。がんでなかった人が白黒つくまで、中央値で162日かかりました。
  3. 「早く見つかる」と「長生きできる」は別のことです。それを確かめる試験は、まだ終わっていません。

SECTION 01 何が、どう売られているか

血液や尿の中にある小さな分子(マイクロRNA)、血液中を流れるがん細胞(CTC)、細胞が出す小さな袋(エクソソーム)、 血液中のアミノ酸のバランス、がん由来のDNAの目印。測るものは違いますが、宣伝の形は似ています。 「〇種類のがんのリスクを一度に」「A〜E判定」「自宅で採取して郵送」。数万円で、毎年受けることを勧められます。

リスク検査とは、多くの場合「がんがあるかどうか」ではなく「がんがある人に近い数値かどうか」を出す検査です。 国が勧める「がん検診」とは違い、この検査を受けた人が受けなかった人より長生きできたかは、確かめられていません。 「検診」と「リスク検査」は、言葉が似ていて、確かめられていることが違います。
ここだけ覚える「リスク検査」は「検診」ではありません。長生きにつながるかは、まだ分かっていません。

SECTION 02 研究は、どこまで進んでいるか

「13種類のがん」の元になったのは、国立がん研究センターが2014年から進めてきたマイクロRNAの研究です。 2020年12月には、まず乳がんを対象に、4つの道県で3,000人規模の臨床試験が始まりました。 つまり、13種類ではなく1種類で、いま検証の途中です。研究者自身が、そう位置づけています。

根拠はどこまであるか

海外では、血液中のがん由来DNAで数十種のがんを一度に探す検査(MCED)を、症状のない50歳以上の6,621人に実際に使った研究があります。 「がんの信号あり」と出たのは92人(1.4%)。そのうち本当にがんだったのは35人(38%)で、57人(62%)はがんではありませんでした。 がんでなかった人が「がんではない」と白黒つくまで、中央値で162日かかり、93%が画像検査を、30%が内視鏡などの処置を受けました(Schrag ら、Lancet 2023)。

この研究は、検査を作った会社が資金を出しています。研究者の結論は「実現の可能性は示せた。臨床的な有用性は、さらに研究が必要」です。 「この検査で死亡が減るか」を確かめる、くじ引きで分けた大規模な試験は、英国で進行中で、結果はまだ出ていません。

ここだけ覚える本物の研究でも、陽性の10人に6人はがんではなく、白黒つくまで半年近くかかりました。

SECTION 03 「見つかる」と「助かる」の間にあるもの

「早く見つかれば助かる」は、いつも正しいわけではありません。検査で「がん」と分かった人のその後は、4つに分かれます。

図1 検査で「がん」と出たあとの、4つの道 1 早く見つけたから、治った 検査が命を延ばすのは、この道だけ。国が勧める5つの検診は、これが確かめられています 2 早く見つけても、結果は変わらなかった 進みの速いがんは、早く見つけても経過は同じ。「がんと分かってからの時間」だけが延びます 3 見つけなくても、一生悪さをしなかった(過剰診断) 高齢の方の前立腺・甲状腺などに多い。見つけたことで、不要な治療と不安が生まれます 4 そもそも、がんではなかった(偽陽性) 上の研究では陽性の62%。全身を調べる数か月と、費用と不安だけが残ります 「早期発見で9割が治る」という宣伝は、1の道だけを見せています。2〜4の人数は、宣伝には出てきません。

図1 検査が命を延ばすのは1の道だけ。新しい検査が「死亡を減らす」と言えるのは、くじ引きで分けた試験で、1の道が2〜4の道の害を上回ると示されたとき。

ここだけ覚える「早期発見で治る」は、4つの道のうち1つだけを見せた言葉です。

SECTION 04 受けるなら、先に決めておくこと

  • こう言われたら「13種類のがんが、一度に分かります」
    こう聞き返す「陽性のとき、どの臓器を、何の検査で調べるのですか」
  • こう言われたら「国立がん研究センターの技術です」
    こう聞き返す「その臨床試験は終わって、結果は出ていますか」
  • こう言われたら「早期発見で、9割が治ります」
    こう聞き返す「この検査を受けた人で、がんの死亡が減った試験はありますか」
お金のはなし

検査そのものは数万円ですが、本当の出費はそのあとです。陽性のあとの全身の検査は、症状がなければ自費になることがあり、 画像検査や内視鏡を重ねると検査代を大きく超えます。上の研究では、陽性の人の9割以上が画像検査を受けていました。 毎年受けるなら、この「陽性のあとの費用」も毎年の可能性として見込んでください。

気をつけること

陰性の安心も、危険です。どの検査にも見逃しがあります。「先月の血液検査で低リスクだったから」と、血便や体重減少を様子見してしまう。 これが、この種の検査でいちばん避けたい結末です。症状があるときは、検査の結果に関係なく受診してください。

在宅の現場では

お子さんが取り寄せた郵送の検査で「リスク高め」と出た80代の方のご家族から、「全身を調べたほうがよいでしょうか」と相談されることがあります。 私たちは第5回と同じ順番で話します。まず、その検査で陽性の人の何割ががんだったか。次に、もし見つかったら治療を受けるか。 「手術はもう受けない」というご本人の答えがあるなら、全身を調べることは、不安を長引かせるだけになります。 検査を否定するのではなく、「結果を受け取ったあと、どうするか」を先に決めてもらうのです。

ここだけ覚える陽性のあとの道筋と、陰性でも症状があれば受診すること。この2つを決めてから受けます。
在宅医の視点

研究を応援することと、自分の親で試すことは、別です。

血液1滴でがんを探す研究は、本物です。日本の研究者が世界の先頭を走っている分野でもあります。 いつか、国が勧める検診の仲間入りをする日が来るかもしれません。私たちも、そう願っています。

ただ、それが確かめられる前に、研究の名前だけを借りた検査が売られています。 「国立がん研究センターの技術」「早期発見で9割」。言葉は本当の研究から取られ、確かめられていない部分だけが省かれています。 研究を応援したいなら、臨床試験に参加する道があります。自費の検査を受けることは、研究への協力にはなりません。

この回のチェックリスト(第6回ぶん)

  • 「リスク検査」と「がん検診」の違いを、言葉で言える。
  • 「この検査で死亡が減った試験があるか」を聞いた。
  • 陽性のとき、どの臓器を何の検査で調べるか、その費用は自費かを確かめた。
  • 「見つかったら治療を受けるか」を、受ける前に本人と決めた。
  • 陰性でも、症状があれば検査の結果に関係なく受診することにした。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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Q&A よくある質問

Q国立がん研究センターが研究している技術なら、信頼してよいのでは。
A研究そのものは信頼できます。ただ、研究は「まだ確かめている途中」という意味です。研究者自身が、まず乳がん1種類で3,000人の臨床試験をしている段階に、「13種類が分かる」と売る検査があれば、それは研究の結論を先取りしています。
Q国の5つの検診は受けています。それに足して受ける分には、よいですか。
A5つの検診を受けているなら、順番としては正しいです。足して受けるかどうかは、「陽性のとき全身を調べる覚悟と費用があるか」と「見つかったら治療するか」で決めてください。どちらも「はい」なら、受けること自体を止めはしません。
Q「リスク高め」と出ました。次に何をすればよいですか。
A結果の紙をかかりつけ医に持って行ってください。年齢・症状・持病・これまでの検診の結果から、どこまで調べるかを一緒に決めます。自分で全身の検査を予約して回る必要はありません。陽性の大半はがんではないことも、思い出してください。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

  • ctDNA検査をどう使うか血液中のがん由来DNAを、診断のあとの治療の場面でどう使うかの解説です。「見つける検査」と「治療を決める検査」の違いが分かります。
  • がんと診断されたら最初に読む記事検査で「がん」と言われたあとの数週間の過ごし方と、数字の読み方。陽性の紙を受け取って動揺しているときに読んでほしい記事です。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. Schrag D, Beer TM, McDonnell CH 3rd, et al. Blood-based tests for multicancer early detection (PATHFINDER): a prospective cohort study. Lancet. 2023;402(10409):1251-1260(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01700-2
  2. 国立がん研究センター プレスリリース「血液中マイクロRNAがんマーカー 初の大規模臨床試験 乳がんの新検診法開発目指して4道県で実施」2020年12月14日(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/1214/index.html
  3. 国立がん研究センター プレスリリース「血中マイクロRNAによって13種のがんを高精度に区別できることを実証」2022年12月7日(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/1207/index.html
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html
  5. 厚生労働省「がん検診」(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。