マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
「血液1滴で、13種類のがんのリスクが分かる」。この言葉の元になった研究は、実在します。国立がん研究センターが進めてきた、本物の研究です。 ただ、その研究はいまも臨床試験の途中で、「がんで亡くなる人が減る」ことはまだ確かめられていません。 この回では、研究段階の技術と、その名前を借りた自費の検査の間にある距離を測ります。
この回の結論
- 「血液1滴で全身のがん」には、研究段階の本物の技術と、その名前を借りた自費の検査が混ざっています。
- 世界最大級の実地研究(6,621人)では、陽性と出た人のうち、がんだったのは38%でした。がんでなかった人が白黒つくまで、中央値で162日かかりました。
- 「早く見つかる」と「長生きできる」は別のことです。それを確かめる試験は、まだ終わっていません。
SECTION 01 何が、どう売られているか
血液や尿の中にある小さな分子(マイクロRNA)、血液中を流れるがん細胞(CTC)、細胞が出す小さな袋(エクソソーム)、 血液中のアミノ酸のバランス、がん由来のDNAの目印。測るものは違いますが、宣伝の形は似ています。 「〇種類のがんのリスクを一度に」「A〜E判定」「自宅で採取して郵送」。数万円で、毎年受けることを勧められます。
SECTION 02 研究は、どこまで進んでいるか
「13種類のがん」の元になったのは、国立がん研究センターが2014年から進めてきたマイクロRNAの研究です。 2020年12月には、まず乳がんを対象に、4つの道県で3,000人規模の臨床試験が始まりました。 つまり、13種類ではなく1種類で、いま検証の途中です。研究者自身が、そう位置づけています。
海外では、血液中のがん由来DNAで数十種のがんを一度に探す検査(MCED)を、症状のない50歳以上の6,621人に実際に使った研究があります。 「がんの信号あり」と出たのは92人(1.4%)。そのうち本当にがんだったのは35人(38%)で、57人(62%)はがんではありませんでした。 がんでなかった人が「がんではない」と白黒つくまで、中央値で162日かかり、93%が画像検査を、30%が内視鏡などの処置を受けました(Schrag ら、Lancet 2023)。
この研究は、検査を作った会社が資金を出しています。研究者の結論は「実現の可能性は示せた。臨床的な有用性は、さらに研究が必要」です。 「この検査で死亡が減るか」を確かめる、くじ引きで分けた大規模な試験は、英国で進行中で、結果はまだ出ていません。
SECTION 03 「見つかる」と「助かる」の間にあるもの
「早く見つかれば助かる」は、いつも正しいわけではありません。検査で「がん」と分かった人のその後は、4つに分かれます。
図1 検査が命を延ばすのは1の道だけ。新しい検査が「死亡を減らす」と言えるのは、くじ引きで分けた試験で、1の道が2〜4の道の害を上回ると示されたとき。
SECTION 04 受けるなら、先に決めておくこと
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こう言われたら「13種類のがんが、一度に分かります」こう聞き返す「陽性のとき、どの臓器を、何の検査で調べるのですか」
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こう言われたら「国立がん研究センターの技術です」こう聞き返す「その臨床試験は終わって、結果は出ていますか」
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こう言われたら「早期発見で、9割が治ります」こう聞き返す「この検査を受けた人で、がんの死亡が減った試験はありますか」
検査そのものは数万円ですが、本当の出費はそのあとです。陽性のあとの全身の検査は、症状がなければ自費になることがあり、 画像検査や内視鏡を重ねると検査代を大きく超えます。上の研究では、陽性の人の9割以上が画像検査を受けていました。 毎年受けるなら、この「陽性のあとの費用」も毎年の可能性として見込んでください。
陰性の安心も、危険です。どの検査にも見逃しがあります。「先月の血液検査で低リスクだったから」と、血便や体重減少を様子見してしまう。 これが、この種の検査でいちばん避けたい結末です。症状があるときは、検査の結果に関係なく受診してください。
お子さんが取り寄せた郵送の検査で「リスク高め」と出た80代の方のご家族から、「全身を調べたほうがよいでしょうか」と相談されることがあります。 私たちは第5回と同じ順番で話します。まず、その検査で陽性の人の何割ががんだったか。次に、もし見つかったら治療を受けるか。 「手術はもう受けない」というご本人の答えがあるなら、全身を調べることは、不安を長引かせるだけになります。 検査を否定するのではなく、「結果を受け取ったあと、どうするか」を先に決めてもらうのです。
研究を応援することと、自分の親で試すことは、別です。
血液1滴でがんを探す研究は、本物です。日本の研究者が世界の先頭を走っている分野でもあります。 いつか、国が勧める検診の仲間入りをする日が来るかもしれません。私たちも、そう願っています。
ただ、それが確かめられる前に、研究の名前だけを借りた検査が売られています。 「国立がん研究センターの技術」「早期発見で9割」。言葉は本当の研究から取られ、確かめられていない部分だけが省かれています。 研究を応援したいなら、臨床試験に参加する道があります。自費の検査を受けることは、研究への協力にはなりません。
この回のチェックリスト(第6回ぶん)
- 「リスク検査」と「がん検診」の違いを、言葉で言える。
- 「この検査で死亡が減った試験があるか」を聞いた。
- 陽性のとき、どの臓器を何の検査で調べるか、その費用は自費かを確かめた。
- 「見つかったら治療を受けるか」を、受ける前に本人と決めた。
- 陰性でも、症状があれば検査の結果に関係なく受診することにした。
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- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- Schrag D, Beer TM, McDonnell CH 3rd, et al. Blood-based tests for multicancer early detection (PATHFINDER): a prospective cohort study. Lancet. 2023;402(10409):1251-1260(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01700-2)
- 国立がん研究センター プレスリリース「血液中マイクロRNAがんマーカー 初の大規模臨床試験 乳がんの新検診法開発目指して4道県で実施」2020年12月14日(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2020/1214/index.html)
- 国立がん研究センター プレスリリース「血中マイクロRNAによって13種のがんを高精度に区別できることを実証」2022年12月7日(https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2022/1207/index.html)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」(https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/about_scr01.html)
- 厚生労働省「がん検診」(がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059490.html)

