「血液を一本採るだけで、がんのことが分かる」——ctDNA(血中循環腫瘍DNA)という言葉を、テレビやネットで目にした方も多いと思います。2026年6月には、大腸がんの手術後に使うMRD検査「Signatera」が日本で初めて薬事承認されました。
ただ、この検査は「何にでも使える万能の血液検査」ではありません。同じ「ctDNA検査」という言葉の中に、目的も精度も保険の扱いもまったく違う三つの検査が混ざっています。
このコラムでは、ctDNAが今の日本の医療でどこまで使えて、どこからはまだ使えないのかを、最新のガイドラインと臨床試験の結果に沿って整理します。在宅で療養されている方やご家族が知っておくと役に立つ部分にも、後半で踏み込みます。
血液の中には、もともとDNAが流れている
まず前提から。私たちの血液の中には、細胞の外に出たDNAの断片がいつも流れています。これをセルフリーDNA(cfDNA)と呼びます。健康な人でも血漿1mLあたり1〜10ngというごく微量が存在し、この現象自体は1948年に報告された古い話です。がんだけでなく、感染症や外傷、脳梗塞、さらには運動でも増えることが知られています。
このcfDNAのうち、がん細胞がこわれて出てきた分がctDNA(circulating tumor DNA/血中循環腫瘍DNA)です。cfDNA全体に占めるctDNAの割合は、おおむね0.1〜10%程度とされています。つまり、探しているものは「血液中のDNAのうち、多くても1割、少ないと1000分の1」という世界です。
ctDNAには重要な性質があります。半減期が1時間以内と非常に短いのです。だから採血した時点の体の状態をほぼリアルタイムに映します。組織の生検が「その日その場所の一部を切り取った写真」だとすれば、ctDNAは「今、体全体で何が起きているかの速報」に近い。ここがCTや腫瘍マーカーとは違う、この検査の本質的な強みです。
図1|血液中のDNAの大半は正常細胞由来で、がん由来のctDNAはごく一部。半減期が短いため「今」を反映する。
ctDNA検査は一つではない ── 三つの使い道
「ctDNA検査を受けたい」だけでは、話が前に進みません
診察室でよく起きるすれ違いがあります。患者さんやご家族が「血液でがんが分かる検査をお願いしたい」とおっしゃる。ところが、その言葉が指しうる検査は少なくとも三種類あり、目的も、必要な精度も、保険が効くかどうかも、まったく別物なのです。
いちばん分かりやすい違いは「どれだけ薄いものを探すか」です。治療薬を選ぶための遺伝子パネル検査は、変異が全体の0.1〜1%あれば検出できれば足ります。すでに進行したがんが体内にあり、ctDNAは比較的たくさん流れているからです。一方、手術で目に見えるがんを取りきった後に「残りかす」を探すMRD検査は、0.01〜0.1%という一桁も二桁も薄い濃度を狙います。同じ採血でも、必要な技術がまるで違う。
ですから、担当医と話すときは「ctDNAを調べたい」ではなく、「何を決めるために調べるのか」から始めてください。次の薬を選ぶためなのか、手術後の再発リスクを知るためなのか、それとも「がんが隠れていないか確かめたい」のか。この三つは、まったく別の相談です。
図2|日本癌治療学会「MRD検査の適正臨床利用に関する見解書」(2024年10月)などをもとに作成。①と②はどちらもctDNAを見るが、求められる検出感度が根本的に異なる。
使い道①:今すでに保険で使える「治療薬を選ぶ」ctDNA
三つの使い道のうち、日本で今この瞬間に保険診療として使えるのは①だけです。ここは意外と知られていません。
血液を使った包括的がん遺伝子パネル検査(CGP検査)としては、FoundationOne® Liquid CDxが2021年3月に薬事承認・同年8月に保険収載、Guardant360® CDxが2022年3月に承認・2023年7月に収載されています。検査提出時に44,000点、専門家会議(エキスパートパネル)を経た結果説明時に12,000点。患者さん1人につき原則1回限りです。
| 検査 | 何のための検査か | 保険上の扱い(2026年1月1日現在) |
|---|---|---|
| FoundationOne® Liquid CDx (血液CGP検査) | 多数の遺伝子を一度に調べ、使える薬を探す | 2021年8月収載。D006-19「がんゲノムプロファイリング検査」44,000点+B011-5「評価提供料」12,000点、1人1回 |
| Guardant360® CDx (血液CGP検査/CDx) | 同上。加えて特定薬剤の適応判定にも使用 | 2023年7月収載。大腸がんHER2はD006-27として2,500点。2026年4月27日、乳がんESR1変異のコンパニオン診断としても承認 |
| OncoBEAM™ RAS CRCキット | 大腸がんのRAS遺伝子変異を血液で調べる | 2020年8月収載。D006-22「RAS遺伝子検査(血漿)」7,500点。組織での検査が困難な場合に限る |
| MRD検査(Signatera等) | 手術後の再発リスク評価 | 2026年8月時点で保険収載なし(2026年6月に薬事承認、保険収載を経て年内の販売開始を予定と公表) |
日本臨床腫瘍学会「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第6版」の保険収載一覧などをもとに作成。点数・要件は改定で変わりうるため、実際の算定は最新の通知に従います。
なぜ「組織が使えないときだけ」という条件があるのか
血液CGP検査には、見落とされがちな重要な条件があります。医学的な理由で腫瘍組織を使った検査が難しい場合、または組織で調べたが結果が得られなかった場合に限り算定できる、というものです。「採血のほうが楽だから血液で」とはいきません。
理由は単純で、組織のほうが確実だからです。ctDNAは腫瘍から血液へ「にじみ出て」きたものなので、にじみ出る量が少ないがんでは、変異があっても血液では見つからないことがあります。
実際の数字を挙げます。大腸がんのRAS変異を血液で調べた場合、全体としては組織との一致率は86〜93%と良好です。ところが肺転移だけの患者さんでは一致率64.5〜68.8%、感度41.2%まで落ちます。腹膜転移だけで腫瘍が20mm未満の場合は、一致率75%・感度33%という報告もあります。つまり本当は変異があるのに「なし」と出てしまう人が、条件によっては半数を超えるということです。
ctDNA検査の「陰性」は、「がんがない」ではなく「血液からは見つからなかった」という意味です。
陽性のときの信頼度(特異度)は高い検査ですが、陰性のときの安心はそこまで強くありません。「血液で調べて何も出なかったから大丈夫」という読み方は、この検査の使い方として正しくありません。
逆のパターンもあります。組織では「RAS変異なし」と判定された患者さんの7.4〜13.0%で、血液では変異が見つかったという報告があります。がんは一つの塊の中でも場所によって性質が違い、時間とともに変わっていきます。組織生検は「一か所の、ある時点」しか見られないのに対し、血液は全身の平均をとらえる。どちらが優れているという話ではなく、見ている角度が違うのです。
この「全身の今」を見られる強みが最も生きているのが、大腸がんで抗EGFR抗体薬を再び使えるかを判断する場面です。いったん薬が効かなくなっても、薬をやめると耐性クローンは時間とともに減っていきます。そこで再投与の前に血液でRAS変異を確認する——この使い方は、ガイダンス第6版で「強く推奨する」と位置づけられています。
使い道②:手術後に「見えない残りかす」を探すMRD検査
手術でがんを取りきったはずなのに、数年後に再発する方がいます。これは、画像では見えない微小ながん細胞が体に残っていたためです。この状態をMRD(molecular residual disease/分子的残存病変)と呼び、血液中のctDNAで検出しようというのがMRD検査です。
日本には、この分野を世界的にリードしてきた研究があります。国立がん研究センター東病院を中心としたCIRCULATE-Japanプロジェクトです。その中核であるGALAXY試験は、国内外152施設が参加し、手術を受けた大腸がん患者2,240名を追跡しました。
図3|Nakamura Y, Watanabe J, et al. Nature Medicine 2024(国立がん研究センター2024年9月17日プレスリリース)の数値をもとに作成。
結果は明快でした。術後2〜10週の時点でctDNAが陽性だった患者さんは、陰性だった患者さんに比べて再発リスクが約12倍。2年後に再発していない割合は陽性20.6%対陰性85.1%、2年生存率は83.7%対98.5%。しかも、この予測力はRAS変異やBRAF変異といった遺伝子の特徴に関係なく成り立っていました。
さらに重要な知見として、術後にctDNAが陽性だった人でも、抗がん剤治療を受けてctDNAが消えた(陰性化した)人は、その後の再発が少なかったことが示されています。治療が効いているかどうかを、画像を待たずに早い段階で確かめられる可能性があるということです。
いつ採血するかが、結果を左右する
MRD検査には「採血の時期」という独特の難しさがあります。手術という大きな侵襲を受けると、正常な細胞由来のcfDNAが術後4週間ほど増えるため、早すぎるとがん由来のctDNAが埋もれて偽陰性になりかねません。一方、結果が返るまで2〜4週かかり、術後補助化学療法は術後8〜12週以内の開始が望ましいとされます。
この両方をにらんで、日本癌治療学会の見解書は「術後補助療法の開始前、かつ術後2〜8週を目安に」としています。狭い窓です。
図4|日本癌治療学会「MRD検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」CQ4の推奨をもとに作成。
本文には「再発リスク約12倍」(2,240例の2024年報告)と書きましたが、同じGALAXY試験の1,039例を解析した2023年の報告では「約10倍」でした。解析した人数と時点が違うためで、矛盾ではありません。
また、MRD検査の「感度」(再発した人のうち陽性だった割合)は、報告によって50〜70%程度とばらつきます。言い換えれば、再発する人の3〜5割はctDNAが陰性のまま再発しているということで、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)はこの点を「感度がしばしば50%未満で不十分」と指摘し、より高感度な検査の開発を求めています。陰性は「再発しない保証」ではありません。
2026年6月、日本で初めて承認されました
2026年6月、米Natera社のSignatera診断システムが、手術後の結腸・直腸がんを対象として日本で初めて薬事承認されたMRD検査となりました。承認の根拠となったのは、まさに上記のGALAXY試験です。同社は保険収載を経て、2026年末までの販売開始を予定していると公表しています(本コラム執筆時点では保険収載前です)。
学会の推奨も先行して整備されています。日本臨床腫瘍学会のガイダンス第6版は、大腸がんについて「術後再発リスク評価を目的としたMRD検査=強く推奨する」「再発サーベイランス目的=推奨する」と明記しました。保険収載されていない段階でこの推奨度が付いたのは、エビデンスの蓄積がそれだけ厚いという判断です。
「わかる」と「よくなる」は別のこと
ここが、このコラムでいちばんお伝えしたいところです
ctDNAの話題では、しばしば議論が一足飛びになります。「再発を半年早く見つけられる」→「だから早く治療すれば助かる」。この矢印は、直感的にはとても正しそうに見えます。しかし医学では、この矢印が成り立つかどうかは別に確かめなければならないのです。
2026年6月、その検証結果が『Nature Medicine』に掲載されました。ALTAIR試験です。手術と標準治療を終えたあと、画像では再発がないのにctDNAが陽性になった患者さん243人を対象に、抗がん剤(トリフルリジン・チピラシル)を早く始める群と、偽薬の群に分けて比較しました。日本と台湾で、二重盲検という最も厳密な方法で行われた第III相試験です。
結果は、再発までの期間の中央値が抗がん剤群9.3か月、偽薬群5.6か月(ハザード比0.79、P=0.107)。差はありそうに見えるが、統計学的に明確な差とはいえない——つまり主要評価項目を達成できませんでした。
これは「ctDNA検査に意味がない」ということでは、まったくありません。国立がん研究センターの発表も、ctDNA陽性の患者さんが再発リスクの高い集団であることは改めて確認されたと述べています。示されたのは「早く見つけること」と「早く手を打てば結果が良くなること」は、自動的にはつながらないという、地味だが決定的な事実です。
同じことは乳がんでも起きています。トリプルネガティブ乳がんでMRDが陽転化した時点でペムブロリズマブを投与するc-TRAK TN試験では、介入群の72%が、ctDNAが陽性になった時点ですでに画像上の再発をきたしていた。「早期に見つけた」つもりが、実は早くなかったのです。
私たちが検査に期待するとき、無意識に「分かれば手が打てる」と考えます。しかし本当に必要なのは、分かったときに打てる、有効な手があるかどうかです。この順序を逆にしないことが、新しい検査と付き合ううえで最も大切な姿勢だと考えています。
図5|検査の価値は「予測が当たるか(臨床的妥当性)」と「使うと結果が良くなるか(臨床的有用性)」に分けて評価される。両者は別の問いである。
いま日本では、逆方向の検証も進んでいます。VEGA試験——術後にctDNAが陰性だった患者さんで、抗がん剤治療を省略できるかを調べる第III相試験です。もしこれが証明されれば、再発しない人に半年間の抗がん剤治療をしなくて済むという、患者さんにとって非常に大きな意味を持つ結果になります。ctDNAの本当の価値は、治療を足す側よりも減らす側にあるかもしれません。
画像で悪くなる前に薬を替える ── 2026年に実現した使い方
「効かなくなってから替える」から「効かなくなる前に替える」へ
これまでのがん治療は、CTなどの画像で「大きくなった」と確認してから次の薬に替えるのが原則でした。ところが2026年、その原則を変える薬が日本で承認されています。
ホルモン受容体陽性・HER2陰性の進行乳がんでは、ホルモン療法を続けるうちにESR1という遺伝子に変異が生じ、薬が効かなくなっていくことが知られています。SERENA-6試験は、定期的な血液検査でこのESR1変異が現れた時点——画像ではまだ悪化していない段階で、薬をカミゼストラントという新しい薬に切り替える戦略を検証しました。結果、病気が進行するまでの期間はハザード比0.44(95%信頼区間0.31〜0.60)と、大幅に延長しました。
これを受けて、2026年4月27日にGuardant360® CDxがESR1変異のコンパニオン診断として承認され、続いて同年5月の薬事審議会でカミゼストラント(エトカマ錠75mg)が了承されました。その効能・効果には、はっきりとこう書かれています——「内分泌療法中にESR1遺伝子変異が確認され、疾患進行が認められない」ホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌。
つまり「画像では悪くなっていないが、血液で兆候が出たから薬を替える」ことが、正式な適応として認められたわけです。ALTAIR試験が主要評価項目を達成できなかったのとちょうど対をなす結果で、両者の違いははっきりしています。ctDNAで異変を見つけたとき、そこに「切り替える先の有効な薬」があったかどうか。これが分かれ目でした。
ctDNAは、それ単独では意味を持ちません。良い治療とセットになって初めて力を発揮する検査です。
使い道③:早期発見 ── ここがいちばん誤解されています
ここまで説明してきたctDNA検査は、すべて「がんと診断された人」のための検査です。症状のない健康な人が、がんが隠れていないかを調べる用途とは、目的も要求される精度もまるで違います。
血液一本で複数のがんを同時に見つける「多がん種早期検出(MCED)」の研究は、英国や米国で健康な人を対象にした大規模試験が進行中で、日本でも国立がん研究センターが準備を進めています。期待は大きい。日本人のがん死亡の約半分は、現在の検診対象になっていないがんによるものだからです。
日本で科学的根拠にもとづき推奨されているがん検診は、胃・大腸・肺・乳房・子宮頸部の5つです。そして「がんの早期発見のための検査」として国が承認したctDNA検査は、2026年8月時点で日本には存在しません。
自費で受けられる「血液でがんが分かる」という検査は各種ありますが、これらは死亡率を下げることが証明された検診とは別のものです。受ける前に、次の三点をご確認ください。
- 陽性だったとき、次に何をするのか。「どこかにがんがあるかもしれない」と言われた後、全身のCTやPET、内視鏡と検査が連鎖します。多くは結局何も見つからず、その間の不安と被曝と費用は残ります。
- 陰性だったとき、何を意味するのか。ctDNAは、腎がん・脳腫瘍・悪性黒色腫のようにDNAが血液へ出にくいがんでは検出されにくいことが分かっています。陰性を「がんはない」と受け取ると、かえって危険です。
- 推奨されている5つの検診の代わりにはならない。血液検査を受けたことで胃カメラや大腸内視鏡を先延ばしにするのは、差し引きでマイナスになりえます。
技術としてのctDNAは本物です。ただし「使える段階になっている用途」と「まだ研究段階の用途」を混ぜて語らないこと。ここを分けて考えるだけで、判断はかなり楽になります。
在宅で療養している方・ご家族にとって、ctDNAはどう関わるのか
ここからは、訪問診療を行う立場から正直にお話しします。
まず率直に:在宅でctDNA検査を行う場面は、現状ほとんどありません
理由は三つあります。①血液のがん遺伝子パネル検査は、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院で専門家会議(エキスパートパネル)を開くことが前提の仕組みになっている。②MRD検査は「手術でがんを取りきった後」の検査であり、在宅療養に移行された方の多くはその段階を過ぎている。③そして何より、終末期に近づくほど、検査より目の前の症状への対応が優先されるからです。
それでも、この検査を知っておくと役に立つ場面はあります。
場面1|病院からの紹介状に「ctDNA検査の結果」が書かれていることがある
診療情報提供書に、RAS変異やBRAF変異、HER2、MSI-Highといった記載を見かけることがあります。これはどの薬が効きうるか/効かないかの情報であり、在宅でも意味を持ちます。たとえば「もう一度あの薬を試せないか」というご相談に対して、判断材料になることがある。ご家族が退院時にお持ちの書類は、捨てずに保管しておいてください。
場面2|「結果が出るまで4〜6週」という時間差
遺伝子パネル検査は、提出から結果説明まで1か月以上かかることが珍しくありません。体力が落ちてから出しても、結果が返る頃には次の治療を受けられる状態でなくなっていることがあります。これは、がんの種類を問わず私たちが繰り返しお伝えしている点です。通院と在宅診療を併用している時期に、主治医と「検査を出すなら今か」を一度話し合っておく価値があります。
場面3|ご家族から「血液でがんが分かる検査を受けさせたい」と相談されたとき
大切なご家族の病状が思わしくないとき、「何か手はないか」と探すのは、ごく自然なお気持ちです。私たちもその気持ちを否定しません。ただ、そこで一緒に考えたいのは「その結果で、これからの過ごし方が変わるかどうか」です。
結果次第で受けられる治療が変わる段階なら、検査を出す意味は大きい。一方、通院自体が難しく、抗がん剤治療を続けられる状態ではない段階では、検査で得られるのは情報だけで、行動は変わりません。検査を増やすことが、そのまま安心を増やすとは限らない——これは在宅医療の現場で、私たちが繰り返し立ち会ってきたことです。
末期がんで在宅療養に移るとき、使える制度
「がん(末期)」と診断された方は、訪問看護の枠が大きく広がります。医療保険の別表第七に「末期の悪性腫瘍」が含まれるため、介護保険ではなく医療保険で訪問看護を受けられ、週4日以上の訪問、1日に複数回の訪問、2〜3か所の訪問看護ステーションの併用が可能になります。
40〜64歳の方も、介護保険の16特定疾病に「がん(末期)」が含まれるため、介護保険サービスを利用できます。
そして、しばしば誤解される点をひとつ。訪問診療を受ける条件は「末期であること」ではなく「通院が困難であること」です。抗がん剤治療を続けながら、通院がしんどくなった時期に訪問診療を併用する——そういう使い方も十分に可能です。
主治医に確認しておくとよい5つの質問
ctDNA検査をすすめられたとき、あるいは自分から相談したいとき。次の5つを聞いておくと、話がかみ合いやすくなります。
診察室で使える質問リスト
| 聞くこと | なぜ大事か |
|---|---|
| ① これは何を決めるための検査ですか | 薬を選ぶためか、再発リスクを測るためか、経過を見るためか。目的が違えば検査そのものが違う |
| ② 結果が出るまでどのくらいですか | 数日で出るものから1か月以上かかるものまで幅がある。体調の見通しと重なるかを確認する |
| ③ 陽性/陰性で、治療はどう変わりますか | 結果によって行動が変わらないなら、その検査は今は必要ないかもしれない |
| ④ 保険は使えますか。自己負担はいくらですか | 保険適用の検査でも高額な区分がある。高額療養費制度の対象になるかも合わせて確認を |
| ⑤ 「受けない」という選択もありますか | すすめられた検査を断ってよいか聞くのは、失礼ではありません。医師は必ず答えてくれます |
もうひとつ。結果を聞くときは、できればご家族と一緒に行ってください。遺伝子の話は専門用語が多く、その場で全部を理解するのは誰にとっても難しいものです。録音の可否を尋ねてもかまいませんし、メモを取るだけでも後で役に立ちます。
まとめ ── 2026年夏、ctDNAはどこまで来たか
- 治療薬を選ぶ目的のctDNA検査(血液の遺伝子パネル検査)は、すでに日本で保険適用。ただし原則として「組織で調べられない場合」に限られ、1人1回。
- 手術後の再発リスクを測るMRD検査は、2026年6月に大腸がんで日本初の薬事承認。保険収載はこれから。予測能力は非常に高い(再発リスク約12倍)。
- ただし「陽性の段階で治療を始めれば結果が良くなる」ことは、大腸がんではまだ証明されていない(ALTAIR試験)。一方、乳がんのESR1変異では、切り替える薬があったため成績が改善した(SERENA-6試験)。
- 健康な人の早期発見に使えるctDNA検査は、日本にはまだない。推奨されている5つのがん検診が、今も最も確かな手段です。
- そして、陰性は「がんがない」ではなく「血液からは見つからなかった」。この一点だけは、忘れないでいただきたいところです。
ctDNAは、確実にがん医療を変えつつある技術です。同時に、変わる速さと、変わったことが証明される速さには、必ず時間差があります。新しい検査に期待しすぎず、軽んじもせず——そのちょうどよい距離感を保つお手伝いができれば、このコラムの役目は果たせたと思います。
ふくろう訪問クリニックからのご案内
当院は福岡市早良区で、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする在宅医療を行っています。がんの療養では、抗がん剤治療を続けながら通院が難しくなってきた時期からのご相談も承っています。
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院長は放射線治療専門医として、国立がん研究センター中央病院・東京大学病院放射線科でがん治療に携わってきました。骨転移の痛みや脳転移など、放射線治療が力を発揮する場面の見極めや、病院との連携もお手伝いできます。まずはお気軽にご相談ください。
参考文献・資料
- 日本癌治療学会(日本臨床腫瘍学会・日本外科学会協力)「分子的残存病変(molecular residual disease: MRD)検査の適正臨床利用に関する見解書 第1版」2024年10月.
- 日本臨床腫瘍学会編「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第6版」2026年(第6版 Version 2, 2026年2月8日).
- Nakamura Y, Watanabe J, Akazawa N, et al. ctDNA-based molecular residual disease and survival in resectable colorectal cancer. Nat Med. 2024;30(11):3272-3283. DOI: 10.1038/s41591-024-03254-6
- 国立がん研究センター プレスリリース「CIRCULATE-Japan GALAXY、リキッドバイオプシーによる大腸がんの再発リスクと術後治療効果の予測に有効性を確認」2024年9月17日.
- Bando H, Watanabe J, Takahashi Y, et al. Post-adjuvant chemotherapy in ctDNA-positive patients with resected colorectal cancer: a randomized phase 3 trial (ALTAIR). Nat Med. 2026. DOI: 10.1038/s41591-026-04428-0(2026年6月8日掲載)
- 国立がん研究センター・関西医科大学・国立病院機構大阪医療センター プレスリリース「リキッドバイオプシーによる大腸がん再発高リスク群への早期先制治療戦略の可能性を世界に先駆けて検討―ctDNA陽性患者さんを対象とした第III相臨床試験(ALTAIR)―」2026年6月12日.
- Kotani D, Oki E, Nakamura Y, et al. Molecular residual disease and efficacy of adjuvant chemotherapy in patients with colorectal cancer. Nat Med. 2023;29(1):127-134. DOI: 10.1038/s41591-022-02115-4
- Tie J, Cohen JD, Lahouel K, et al. Circulating Tumor DNA Analysis Guiding Adjuvant Therapy in Stage II Colon Cancer (DYNAMIC). N Engl J Med. 2022;386(24):2261-2272. DOI: 10.1056/NEJMoa2200075
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- Natera, Inc. プレスリリース「大腸がんを対象に、Signatera診断システム™が薬事承認を取得」2026年6月24日(共同通信PRワイヤー配信).
- ガーダントヘルスジャパン株式会社 プレスリリース「Guardant360® CDx がん遺伝子パネル、ESR1遺伝子変異陽性の手術不能又は再発乳癌に対するカミゼストラントの適応判定を補助するためのコンパニオン診断として本邦薬事承認を取得」2026年4月27日.
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)審議結果報告書「エトカマ錠75mg(カミゼストラント)」令和8年5月29日.
- 臨床検査振興協議会 遺伝子関連検査に関する小委員会「リキッドバイオプシーによる循環血中の腫瘍由来DNA(circulating tumor DNA; ctDNA)検査の質保証に関する見解」2022年.
- 国立がん研究センター 医療コラム「リキッドバイオプシー活用でがんの克服目指す」.
※本コラムは2026年8月時点の公開情報にもとづく一般的な解説です。保険点数・算定要件・薬事承認の状況は改定や承認により変わります。検査や治療の適否は個々の病状によって異なりますので、実際の判断は必ず主治医とご相談ください。

