リキッドバイオプシー:優秀な抗がん剤

優秀な抗がん剤第50回/全50回
リキッドバイオプシー

血液でがんの遺伝子を追い、再発の芽を見る

血液の中には、がん細胞が壊れて放したDNAの断片が流れています。それを読むリキッドバイオプシーには、目的の違う3つの使い道があります。薬を選ぶ、手術後の再発の芽を見る、健康な人のがんを見つける。同じ「血液でがんが分かる」でも、証明の段階はまったく違います。 日本発の大規模研究が示した「手術後に陽性なら再発が約12倍」、2026年6月に日本で初めて承認された MRD 検査、陽性の人に薬を足しても再発を減らせなかった比較試験、英国の14万人の試験の結果、「血液1滴でがんが分かる」商法との線引き。そして最終回として、第1回の年表に2026年の行を足して、80年の連載を締めくくります。

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この回の結論

  1. 血液の中には、がん細胞が壊れて放したDNAの断片(血中循環腫瘍DNA、ctDNA)が流れています。それを読む「リキッドバイオプシー」には、目的の違う3つの使い道があります。(1)薬を選ぶ(保険で受けられる)、(2)手術後の再発の芽を見る(2026年6月に日本初の検査が承認、保険は今後)、(3)健康な人のがんを見つける(まだ確立していない)。
  2. (2)の代表が大腸がんです。日本発の大規模研究で、手術後に血液から ctDNA が見つかった人は、見つからなかった人より再発が約12倍多いことが分かりました。ただし「陽性の人に薬を足せば再発を減らせるか」は、2026年の比較試験で証明できず、使い方はまだ研究の途中です。
  3. 「血液1滴でがんが分かる」という広告は、(3)の未確立の技術を先取りして売るものです。この検査の「陰性」は「がんがない」ではなく「血液から見つからなかった」という意味です。80年の連載の最後に、第1回の年表に2026年の行を足して締めくくります。

この検査のプロフィール

名前リキッドバイオプシー(血液などの体液を使う検査)。がんでは、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を読む検査を指すことが多い
何を調べるか血液の中に流れる、がん細胞由来のDNAの断片。含まれる遺伝子の変化を読む
3つの使い道(1)進行がんで薬を選ぶ(血液のパネル検査、目印ごとの検査)(2)手術後に残った「見えないがん」を探す(MRD 検査)(3)症状のない人のがんを見つける(多がん種同時検出、MCED)
日本での位置づけ(1)は保険(血液のパネル検査 2021年〜、EGFR の血液検査 2017年〜)。(2)は2026年6月に大腸がんで承認、保険収載と発売は今後。(3)は未承認
費用(1)血液のパネル検査 56,000点(560,000円)、大腸がんの RAS 血液検査 7,500点。(2)(3)は2026年9月時点で薬価・保険点数なし

SECTION 01 生まれた日:血液に流れるDNAが見つかってから80年

血液の中に細胞の外のDNAが流れていることは、1948年に報告されました。がんの患者でそれが増えていることは1977年に、そのDNAにがんの遺伝子の変化が含まれることは1990年代に分かります。しかし、血液のDNAの大半は正常な細胞のもので、がん由来はごくわずか。それを読み分ける技術がありませんでした。 2000年代、遺伝子を大量に読む技術(第48回)が生まれ、2008年、大腸がんの患者の血液で、がん由来のDNAが数時間で入れ替わり、治療の効き目を映すことが示されました(Diehl ら、Nat Med 2008)。

2014年、14種類のがん640人の血液を調べた研究で、進行した膵がん・卵巣がん・大腸がん・膀胱がんなどでは4分の3以上の人から ctDNA が見つかる一方、脳腫瘍や腎がん、前立腺がんでは半数以下、そして早期のがんでは見つかりにくいことが分かりました(Bettegowda ら、Sci Transl Med 2014)。がんの種類と進み具合で、血液に「にじみ出る」量が違うのです。 日本では2016年12月、肺がんの EGFR T790M 変異を血液で調べる検査が、国内初のリキッドバイオプシーとして承認され、2017年7月に保険に入りました(第27回のオシメルチニブを使うための検査です)。

2016年、オーストラリアのグループが、大腸がんの手術後に ctDNA が残っている人はほとんどが再発し、残っていない人は再発が少ないことを示しました(Tie ら、Sci Transl Med 2016)。「手術で取り切れたか」を血液で見る、MRD(分子的残存病変)という考えの始まりです。 日本では2020年から、国立がん研究センター東病院を中心に150以上の施設が参加する CIRCULATE-Japan という大規模研究が始まり、2026年6月、その成果をもとに、大腸がんの手術後の MRD 検査(Signatera)が日本で初めて承認されました。

  • 1948年血液の中に、細胞の外のDNAが流れていることが報告される。
  • 1977年がんの患者で、血液のDNAが増えていると報告。
  • 2008年血液のがん由来DNAが数時間で入れ替わり、治療の効き目を映す(Diehl ら、Nat Med 2008)。
  • 2014年14種類のがん640人で、血液から見つかる割合はがんの種類と進み具合で違うと分かる(Bettegowda ら)。
  • 2016年大腸がんの手術後、血液にDNAが残る人は再発する(Tie ら)。12月、日本初のリキッドバイオプシー(EGFR T790M)承認。
  • 2020年CIRCULATE-Japan が始まる。
  • 2021〜23年血液のがん遺伝子パネル検査が保険に(第48回)。
  • 2024年日本の2,240人の研究で、手術後の ctDNA 陽性は再発が約12倍と報告(Nakamura ら、Nat Med 2024)。
  • 2026年陽性の人への薬の追加は再発を減らせず(ALTAIR)。6月、日本初の MRD 検査を承認。同年、英国の14万人の試験で「健康な人の血液検査」の結果が出る。
MRD(分子的残存病変)とは、手術や治療で「画像には映らない」ほど小さくなったがんの残りかすのことです。血液の ctDNA で探します。薬を選ぶための検査(1)は、がんが大きい時期のもので、変化が全体の0.1〜1%あれば見つけられれば足ります。MRD 検査(2)は、その10〜100分の1の薄さを狙うので、別の技術が要ります。 同じ「ctDNA 検査」でも、(1)と(2)は目的も精度も保険の扱いも違う別の検査です。当院の別のコラム(関連記事「ctDNA をどう使うか?」)に、3つの使い道を整理しています。
ここだけ覚える血液に流れるがんのDNAを読む。薬を選ぶ、残りかすを探す、健康な人のがんを探す。3つは別の検査。

SECTION 02 どうやって調べるのか:「にじみ出た」DNAを、薄さに応じた技術で読む

がん細胞が壊れると、DNAの断片が血液に出て、数時間で肝臓や腎臓で片づけられます。だから血液の ctDNA は「いまのがん」を映します。血液を採り、血漿からDNAを取り出し、目印の遺伝子の変化を探します。 薬を選ぶ検査(1)では、数十〜数百の遺伝子を読みます(第48回の血液のパネル)。MRD 検査(2)では、手術で取ったがんの遺伝子を先に読み、その人のがんに特有の変化を十数個選んで「その変化だけ」を血液で追います(患者ごとに作る検査)。健康な人のがんを探す検査(3)は、どこにあるかも分からないがんの気配を、DNAの化学的な印(メチル化)などから探します。

  • 「陰性」は「がんがない」ではないにじみ出る量が少ないがん(早期、脳、腎臓、前立腺、腹膜転移など)は、あっても血液に出ません。大腸がんの RAS 検査では、肺転移だけの人で感度が4割まで落ちる報告があります。血液で陰性でも、組織で確かめる。これがこの検査の第一の決まりです。
  • 「陽性」の意味は、使い道で違う(1)で陽性なら「その薬の目印がある」。(2)で陽性なら「再発の可能性が高い」(ただし、いつどこに出るかは分からない)。(3)で陽性なら「どこかにがんがあるかもしれない」(そのあと画像で探す)。同じ陽性でも、次にすることがまったく違います。
  • 組織が使えないときの代わり(1)は、保険では「組織の検査が難しい、または組織で結果が出なかった」場合に限られます。組織のほうが確実だからです。採血が楽だから血液で、とはいきません。
ここだけ覚える陰性は「血液からは見つからなかった」。陽性の意味は使い道で違う。組織が使えるなら組織。

SECTION 03 なぜまだ「研究の途中」なのか:予測はできる、変えられるかは証明の途中

決め手になった試験

薬を選ぶ(1):血液のパネル検査は、組織の検査と同じ目印を見つけられること(一致率)で承認されました。日本の消化器がん1,687人の研究では、血液の検査は組織より結果が早く出て、治験への参加につながりました(Nakamura ら、Nat Med 2020)。

再発の芽を見る(2):CIRCULATE-Japan の観察研究(GALAXY)では、大腸がんの手術後2〜10週に ctDNA が陽性だった人は、陰性の人より再発のリスクが約12倍高く、陽性の人が術後の化学療法で陰性に変われば再発が減っていました(Nakamura ら、Nat Med 2024)。 では、陽性の人に薬を足せばよいのか。2026年、標準の術後治療を終えたあとに ctDNA が陽性になった243人を、くじ引きで「トリフルリジン・チピラシル(第16回の仲間)」と「偽薬」に分けた試験(ALTAIR)では、再発までの期間の中央値は5.6か月に対して9.3か月と長かったものの、統計的な差は示せませんでした。予測はできても、「その結果で治療を変えれば、結果が良くなる」の証明は、まだ途中です。 一方、オーストラリアの試験では、ステージ2の大腸がん455人で、ctDNA を見て化学療法を「省く」判断をしても、再発は増えませんでした(Tie ら、NEJM 2022)。「足す」より「省く」のほうが、証明が進んでいます。

健康な人のがんを見つける(3):50種類以上のがんを1回の採血で探す検査(Galleri)は、がんがある人での感度が全体で51.5%、早期(ステージ1)では16.8%でした(Klein ら、Ann Oncol 2021)。英国の14万人の比較試験(NHS-Galleri)は、2026年、主要評価項目(進んだがんの減少)を達成できませんでしたが、ステージ4の診断は2〜3回目の検査で22〜26%減り、陽性になった人の半数にがんが見つかりました。有望だが、まだ「検診」として証明されていない段階です。

使い道対象日本での位置づけ(2026年9月)この検査で分かること・分からないこと
(1)薬を選ぶ進行・再発したがんの人保険。血液のパネル検査(組織が使えないとき)、EGFR・RAS などの目印の検査薬の目印があるかが分かる。陰性でも組織で確かめる
(2)再発の芽を見る(MRD)手術でがんを取り切った人(大腸がん)2026年6月承認、保険収載と発売は今後。他のがんは研究段階再発のリスクが分かる。陽性の人に薬を足す利益は未証明
(3)がんを見つける(MCED)症状のない人未承認。海外で大規模試験の途中一部のがんが早く見つかる可能性。早期がんの感度は低く、命を延ばす証明はまだ
自由診療の「血液1滴」検査健康な人比較試験の証明がなく、全額自己負担上の3つとは別物。関連記事(詐欺医療に騙されない)

表1 リキッドバイオプシーの3つの使い道と、日本での位置づけ。同じ「血液でがんの遺伝子を調べる」でも、証明の段階がまったく違う。

制度のしくみ

血液のがん遺伝子パネル検査は、組織の検査と同じ56,000点で、原則1人1回、組織が使えないときに限られます(第48回)。大腸がんの RAS の血液検査は7,500点で、これも組織での検査が困難な場合に限ります。 MRD 検査は、2026年6月に大腸がんの術後で承認され、保険収載(価格の決定)を経て年内に発売の予定と公表されています。日本癌治療学会は2024年10月に MRD 検査の使い方の見解を出し、日本臨床腫瘍学会のガイダンスも大腸がんでの使用を扱っています。使える時期と条件は変わりうるので、主治医に確かめてください。

ここだけ覚える再発のリスクは血液で予測できる。予測をもとに治療を「足す」証明はまだ、「省く」証明は進んでいる。

SECTION 04 検査の負担と、家でできること:結果とどう付き合うか

採血だけの検査なので、体の負担はほとんどありません。負担は「結果の意味」にあります。MRD 検査で陽性と言われた人は、画像に何も映らないのに「再発の可能性が高い」と知らされて暮らすことになります。陰性でも「見つからなかっただけ」です。この検査は、結果を受け取る側の準備が要る検査です。

検査の負担と、家でできること

受ける前に聞くこと。(1)この検査は3つの使い道のどれか。(2)陽性だったら何が変わるのか(薬が変わる、検査の間隔が変わる、何も変わらない)。(3)陰性だったら何が変わるのか。「変わらない」なら、受ける意味を主治医と考え直します。 結果のあと。MRD 陽性なら、画像検査の間隔を詰めることが多く、再発が「見つかる前に分かっている」時間を過ごします。不安の強い時期です。家族と、かかりつけ医と、その時間の過ごし方を話しておきます。

広告への対応。「血液1滴で全身のがんが分かる」「尿でがんが分かる」という自由診療の検査は、この回の(3)を先取りして売るものです。陽性なら不要な検査と不安を、陰性なら誤った安心を生みます。受ける前に、主治医か当院に相談してください。当院の別のコラムに、それぞれの検査の証明の段階を書きました。

  • こんなときは「血液でがんが分かる検査を受けたい」と思った
    こうする「何を決めるために調べるのか」を主治医に伝える。薬を選ぶのか、再発を見るのか、がんを探すのかで、検査が違う
  • こんなときはMRD 検査で「陽性」と言われた
    こうする「次の画像検査はいつか」「治療を変える証拠はあるか」を聞く。不安の時間の過ごし方を、家族とかかりつけ医と話す
  • こんなときは自由診療の「血液1滴」「尿」のがん検査で陽性と言われた
    こうするその検査の証明の段階を確かめる。がん検診(保険・公費)を受けているかを見直し、主治医に相談する
気をつけること

血液の検査は「組織の代わり」ではありません。組織が採れるなら組織で調べるのが原則です。また、血液の検査の結果は、がんの種類、進み具合、直前の治療で変わります。結果の紙には「検出感度」や「検体の状態」が書かれているので、主治医と一緒に読みます。 公的ながん検診(胃・大腸・肺・乳・子宮頸)は、命を延ばす証明のある検査です。「血液検査を受けたから検診はいい」とはなりません。

在宅の現場では

在宅で私たちが受ける相談で、この数年で最も増えたのが「血液でがんが分かる検査」の話です。患者さん本人より、家族が広告を見て持ってくることが多い。私たちは、この回の表1を見せながら、「その検査は3つのどれですか」と聞き返します。ほとんどは、証明のない自由診療の検査です。 一方で、大腸がんの手術後の MRD 検査は、2026年にようやく承認された「本物」です。本物と偽物が同じ言葉で売られる時代に、見分ける物差しを持つこと。この連載を通して書いてきたのは、結局それでした。

在宅の患者さんが血液の検査で得るものは、多くの場合「安心」ではなく「情報」です。情報をどう暮らしに生かすかは、患者さんと家族と、私たちが一緒に決めることです。

ここだけ覚える受ける前に「何を決めるための検査か」を聞く。陽性のあとの時間の過ごし方を、家族と決めておく。

SECTION 05 費用と自己負担:保険の検査は上限まで。「血液1滴」は全額自己負担

費用と自己負担の目安

血液のがん遺伝子パネル検査は56,000点(560,000円、第48回と同じ)、大腸がんの RAS 血液検査は7,500点(75,000円)で、いずれも高額療養費の対象です。70歳未満・年収約370〜770万円なら月85,800円+(医療費−286,000円)×1%、70歳以上・一般なら外来は月22,000円が上限です(第1回の表1)。 MRD 検査は2026年9月時点で価格が決まっておらず、承認から保険収載までの間は使えません。健康な人のがんを探す検査は未承認で、海外の検査を自由診療で受けると数十万円が全額自己負担です。

この連載で書いてきた50の薬と検査の値段は、1回数百円から1回3,000万円まで、5桁の幅がありました。共通していたのは、保険で受けられる限り、患者さんの自己負担は高額療養費の上限で止まる、ということです。その仕組みが、この80年の薬の進歩を、家で療養する人にも届けています。

他のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤による治療歴を有し、病勢進行が確認されている患者では、EGFR T790M変異が確認された患者に投与すること。 出典:アストラゼネカ「タグリッソ錠 添付文書」、効能又は効果に関連する注意の項(この T790M 変異を血液で調べる検査が、2016年に承認された日本初のリキッドバイオプシーだった)
ここだけ覚える保険の検査は上限まで。承認前・未承認の検査は全額自己負担で、証明もない。
在宅医の視点

第1回の年表に、2026年の行を足す。

第1回に、1942年の毒ガスから始まる年表を置きました。その最後の行は「2024年〜 RASを直接抑える薬、患者ごとに作るmRNAワクチンなどが開発中。まだ承認されていない」でした。50回を書き終えたいま、その先に2026年の行を足せます。RASの薬は米国で承認され(第33回)、mRNAワクチンは第3相試験に成功し(第44回)、手術後の再発の芽を血液で見る検査が日本で承認されました(この回)。年表は、書いている間にも伸びていきます。

80年前、毒ガスの研究から生まれた最初の薬は、がん細胞も正常な細胞も区別なく殺しました。いまの薬は、遺伝子の目印を読み、その人のがんにだけ届き、その人の免疫にがんを教え、血液でその効き目を追います。進歩の方向は一貫していました。「誰に効くかを、先に知る」。 在宅で私たちが担うのは、その進歩の最後の1メートルです。薬が効いている時間を家で支え、副作用を早く見つけ、効かなくなったときに次を一緒に考え、そして「もう探すものはない」と分かったときに、残された時間を大切にする。50回にわたって書いてきたのは、その1メートルのための知識でした。読んでくださった患者さんとご家族、そして毎日の現場でこの知識を使ってくれる看護師と事務の仲間に、心から感謝します。

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Q&A よくある質問

Q大腸がんの手術を受けました。MRD 検査は受けたほうがよいですか。
A2026年9月時点では、承認はされたものの保険収載の前で、一般には受けられません。受けられるようになったあとも、大切なのは「結果で何が変わるか」です。陽性なら画像検査の間隔を詰める、陰性なら術後の化学療法を省く判断の材料になる、といった使い方が学会の見解に示されていますが、「陽性の人に薬を足す」利益は比較試験で示せていません。受ける前に、主治医に「陽性だったら、陰性だったら、何が変わるか」を聞いてください。
Q「血液1滴で50種類のがんが分かる」検査を、海外から取り寄せられると聞きました。
Aその種類の検査(多がん種同時検出)は、英国の14万人の試験で「進んだがんを減らす」という主要な目標を達成できず、まだ検診として証明されていません。早期のがんでは6人に1人しか見つからず、陽性になった人の半数はがんではありませんでした。日本では未承認で、自由診療なら数十万円が全額自己負担です。受けるなら、証明の段階を知ったうえで、公的ながん検診を代わりにしないことが条件です。当院の関連記事(血液1滴の全身がん検査)も読んでください。
Qこの連載は終わりですか。新しい薬が出たら、どこで知ればよいですか。
A全50回はこの回で終わりです。薬の情報は、国立がん研究センターの「がん情報サービス」(がんの種類ごとの標準治療)、処方された薬なら「くすりのしおり」と患者向医薬品ガイド、そして主治医とがん相談支援センターが、確かな入口です。当院のコラムでも、大きな承認や試験の結果は、この連載とは別に書いていきます。第1回の「困ったときの相談先」を、いつでも見返してください。

この回のチェックリスト(第50回ぶん)

  • 「血液でがんが分かる検査」は、3つの使い道のどれかを確かめる。
  • 受ける前に「陽性なら何が変わるか、陰性なら何が変わるか」を聞く。
  • 血液の検査の陰性は「見つからなかった」の意味。組織が使えるなら組織で調べる。
  • 自由診療の「血液1滴」「尿」の検査は、証明の段階を確かめ、公的ながん検診の代わりにしない。
  • MRD 検査で陽性と言われたら、次の画像検査の時期と、不安の時間の過ごし方を家族と決める。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「優秀な抗がん剤」全50回

  1. 抗がん剤80年の歴史——毒ガスから「自分の細胞」まで、80年でここまで来た
  2. シクロホスファミド——毒ガスの研究から生まれた、最初の抗がん剤
  3. メトトレキサート——白血病の子どもに、初めて「寛解」をもたらした薬
  4. フルオロウラシル(5-FU)——60年以上、消化器がんの土台であり続ける理由
  5. ビンクリスチン——糖尿病の薬を探していたら、白血病の薬が見つかった
  6. ドキソルビシン——アドリア海の土から生まれた「赤い薬」と、心臓の話
  7. シスプラチン——電極の実験の偶然が、精巣がんを「治る病気」に変えた
  8. カルボプラチン——腎臓と吐き気にやさしく設計された、シスプラチンの「弟」
  9. パクリタキセル——イチイの木を切り尽くす前に、葉から作れるようになるまで
  10. ドセタキセル——前立腺がんで初めて「延命」を証明した化学療法
  11. ゲムシタビン——抗ウイルス薬の候補が、膵がんの標準治療になるまで
  12. ペメトレキセド——蝶の羽の色素の研究から生まれた、肺がんと中皮腫の薬
  13. テモゾロミド——脳腫瘍の治療を変えた、家で飲める抗がん剤
  14. オキサリプラチン——名古屋で生まれ、フランスで育ち、日本に帰ってきた薬
  15. イリノテカン——中国の木の成分を、日本の乳酸菌の会社が薬にした
  16. S-1(ティーエスワン)——日本生まれの「飲む5-FU」が、世界の標準を変えた
  17. タモキシフェン——避妊薬の失敗作が、世界で最も使われた乳がんの薬になった
  18. アロマターゼ阻害薬——「女性ホルモンを作らせない」という発想の乳がん治療
  19. リュープロレリン——武田薬品の徐放製剤が変えた、前立腺がんのホルモン療法
  20. エンザルタミドとアビラテロン——前立腺がんのホルモン療法に「上乗せ」する時代へ
  21. リツキシマブ——世界初のがん抗体医薬。CHOPに「R」がついて何が変わったか
  22. トラスツズマブ——HER2という「敵の印」を初めて狙い撃ちした薬
  23. ベバシズマブ——「がんは血管を呼ぶ」という仮説から、30年かけて薬になった
  24. セツキシマブとパニツムマブ——皮疹が出る人ほど効く、大腸がんの抗体薬
  25. ゾルベツキシマブ——胃の細胞の「接着剤」を狙う、2024年の新しい胃がんの薬
  26. イマチニブ——「魔法の弾丸」が、死の病だった白血病を飲み薬で抑えた
  27. オシメルチニブ——イレッサの光と影から、第3世代の肺がんの薬へ
  28. アレクチニブ——自治医大の発見を中外製薬が薬にした、純国産の肺がん治療薬
  29. レンバチニブ——エーザイの研究所から生まれた、肝がん・甲状腺がんの飲み薬
  30. エベロリムス——イースター島の土から見つかった成分の子孫
  31. CDK4/6阻害薬——お蔵入り寸前の化合物が、乳がんのホルモン療法を変えた
  32. オラパリブ——「合成致死」という発想と、BRCA遺伝子検査
  33. RASの40年——「薬にできない」と言われた標的に、ソトラシブからダラクソンラシブへ
  34. レナリドミド——サリドマイド薬害から復活した、骨髄腫の薬
  35. ダラツムマブ——点滴8時間が皮下注5分になった、骨髄腫の抗体薬
  36. ベネトクラクス——「細胞の自殺」を止めるタンパクを外す、高齢者の白血病の薬
  37. トレチノインと亜ヒ酸——ビタミンAの仲間と「毒」が、最も治る白血病を作った
  38. イピリムマブ——免疫の「ブレーキ」を外す最初の薬と、ノーベル賞
  39. ニボルマブ(オプジーボ)——本庶佑のPD-1と、薬価をめぐる騒動
  40. ペムブロリズマブ(キイトルーダ)——開発中止寸前だった薬が、世界一売れる薬になった
  41. アテゾリズマブ+ベバシズマブ——肝がんの一次治療を10年ぶりに変えた組み合わせ
  42. 二重特異性抗体——片手でがん、片手で免疫細胞をつかむ薬
  43. CAR-T細胞療法——6歳の少女を救った「自分の免疫細胞を薬にする」治療
  44. mRNAがんワクチン——コロナワクチンの技術で、患者ごとに作る「オーダーメイド」
  45. トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ)——第一三共の「がんに薬を運ぶミサイル」
  46. エンホルツマブ ベドチンとADC——40年続いたシスプラチンの時代を終わらせた薬
  47. ルテチウム-177——「診断と治療を同じ分子で」放射線を出す薬が家に帰るとき
  48. がん遺伝子パネル検査——56万円で数百の遺伝子を読み、薬にたどり着くのは約1割
  49. 臓器横断的な薬——「臓器ではなく遺伝子で」薬を選ぶ時代
  50. リキッドバイオプシー——血液でがんの遺伝子を追い、再発の芽を見る

薬のこと・お金のことの相談先

電話番号や制度の内容は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。治療中の方も、治療を終えた方も、ご家族だけでも相談できます。

  • 治療を受けている病院の外来・化学療法室副作用が出たとき、まず連絡する先です。夜間や休日の連絡先は、治療の説明書や「治療日誌」に書かれていることが多いので、目につく場所に貼っておいてください。
  • がん相談支援センター治療や薬のこと、お金や仕事のことを無料で相談できます。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても利用できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • がん情報サービス(国立がん研究センター)がんの種類ごとの標準治療と、使われる薬の情報を、公的機関がまとめています/ganjoho.jp
  • くすりのしおり(くすりの適正使用協議会)処方された薬の飲み方・注意・副作用を、薬の名前で調べられる患者向けの情報です/rad-ar.or.jp/siori
  • 高額療養費制度の窓口(加入している健康保険)1か月の自己負担に上限を設ける制度です。会社の健康保険組合・協会けんぽ・市区町村の国民健康保険・後期高齢者医療広域連合など、保険証(資格確認書)に書かれた保険者に申請します。マイナ保険証を使えば、窓口での支払いが最初から上限額までになります/厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
  • かかりつけ薬局の薬剤師飲み薬の抗がん剤と、ほかの薬・サプリメント・食べ物との飲み合わせは、薬局で確かめられます。お薬手帳を1冊にまとめておくと早いです。

REFERENCE 参考資料

  1. アストラゼネカ「タグリッソ錠40mg/80mg 添付文書」(販売開始2016年5月)(https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/670227_4291045F1027_1_15);ロシュ・ダイアグノスティックス「「コバス EGFR 変異検出キット v2.0」EGFR遺伝子検査(血漿)の保険収載」2017年6月30日(https://www.roche-diagnostics.jp/media/releases/2017-6-30)
  2. Natera「Signatera Receives Regulatory Approval in Japan for Colorectal Cancer」2026年6月23日(https://www.natera.com/company/news/signatera-receives-regulatory-approval-in-japan-for-colorectal-cancer-2/);国立がん研究センター プレスリリース「CIRCULATE-Japan GALAXY 試験:大腸がんの再発リスクと術後治療の効果予測におけるリキッドバイオプシーの有用性を確認」2024年9月17日(https://www.ncc.go.jp/en/information/press_release/2024/0917_1/index.html)
  3. Diehl F, et al. Circulating mutant DNA to assess tumor dynamics. Nat Med. 2008;14(9):985-990(https://doi.org/10.1038/nm.1789);Bettegowda C, et al. Detection of circulating tumor DNA in early- and late-stage human malignancies. Sci Transl Med. 2014;6(224):224ra24(https://doi.org/10.1126/scitranslmed.3007094);Oxnard GR, et al. Association between plasma genotyping and outcomes of treatment with osimertinib (AZD9291) in advanced non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2016;34(28):3375-3382(https://doi.org/10.1200/JCO.2016.66.7162)
  4. Tie J, et al. Circulating tumor DNA analysis detects minimal residual disease and predicts recurrence in patients with stage II colon cancer. Sci Transl Med. 2016;8(346):346ra92(https://doi.org/10.1126/scitranslmed.aaf6219);Tie J, et al. Circulating tumor DNA analysis guiding adjuvant therapy in stage II colon cancer. N Engl J Med. 2022;386(24):2261-2272(https://doi.org/10.1056/NEJMoa2200075)
  5. Nakamura Y, et al. Clinical utility of circulating tumor DNA sequencing in advanced gastrointestinal cancer: SCRUM-Japan GI-SCREEN and GOZILA studies. Nat Med. 2020;26(12):1859-1864(https://doi.org/10.1038/s41591-020-1063-5);Kotani D, et al. Molecular residual disease and efficacy of adjuvant chemotherapy in patients with colorectal cancer. Nat Med. 2023;29(1):127-134(https://doi.org/10.1038/s41591-022-02115-4);Nakamura Y, et al. ctDNA-based molecular residual disease and survival in resectable colorectal cancer. Nat Med. 2024;30(11):3272-3283(https://doi.org/10.1038/s41591-024-03254-6);Post-adjuvant chemotherapy in ctDNA-positive patients with resected colorectal cancer: a randomized phase 3 trial (ALTAIR). Nat Med. 2026(https://doi.org/10.1038/s41591-026-04428-0)
  6. Klein EA, et al. Clinical validation of a targeted methylation-based multi-cancer early detection test using an independent validation set. Ann Oncol. 2021;32(9):1167-1177(https://doi.org/10.1016/j.annonc.2021.05.806);Schrag D, et al. Blood-based tests for multicancer early detection (PATHFINDER): a prospective cohort study. Lancet. 2023;402(10409):1251-1260(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01700-2);NHS-Galleri: primary results from a randomised controlled trial to assess the clinical utility of a multi-cancer early detection (MCED) test in population screening. J Clin Oncol. 2026;44(17_suppl):LBA100(https://doi.org/10.1200/JCO.2026.44.17_suppl.LBA100)
  7. 国立がん研究センター がん情報サービス「大腸がん」2025年7月17日更新(https://ganjoho.jp/public/cancer/colon/index.html)、同「がんゲノム医療 もっと詳しく」(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/treatment/genomic_medicine/genmed02.html)
本記事は、添付文書・学術論文・公的機関の資料をもとに、それぞれの薬について現時点で分かっていることを、 一般の方向けに整理したものです。記事中の効果の数字は臨床試験に参加した集団の結果であり、 一人ひとりの効き方や副作用の現れ方とは異なります。薬価は記載時点の薬価基準によるもので、改定で変わります。 治療の選択・変更・中止は、必ず主治医とご相談ください。研究は日々更新されますので、 記載の内容は公開時点のものとしてお読みください。