保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
「がん細胞は熱に弱い」。これは本当です。そして、保険がきく温熱療法は実際にあります。 だからこそ、この言葉は「温めればがんが消える」という宣伝に使われやすいのです。 この回では、保険がきく温熱療法と、そうでない「温熱」の境目をはっきりさせます。
この回の結論
- 保険がきく温熱療法(電磁波温熱療法)はあります。腫瘍そのものを専用の機械で温め、放射線や抗がん剤と組み合わせる治療です。
- 効果が比較試験で示されたのは、この「組み合わせ」だけです。温熱だけで「がんが消える」ことは示されていません。
- 遠赤外線ドーム、岩盤浴、陶板浴、温熱マットで体を温めることは、別物です。がんに効くという比較試験はありません。
SECTION 01 同じ「温熱療法」で、二つのもの
「温熱療法」「ハイパーサーミア」という言葉は、病院でも、自由診療のクリニックでも、サロンでも使われます。 中身は次の表のとおり別のものです。
| 保険がきく電磁波温熱療法 | 自由診療・サロンの「温熱」 | |
|---|---|---|
| 何を温めるか | がんのある部位だけを、体の内側から42〜43度に | 体の表面や全身を、気持ちよい程度に |
| 使う機械 | 承認された医療機器(体を電極ではさみ、電磁波で深部を加温) | 遠赤外線ドーム、陶板浴、岩盤浴、温熱マット、サウナ |
| 組み合わせ | 放射線治療・抗がん剤と同じ時期に行う | 単独、または食事療法・サプリなどと |
| 誰が確かめたか | 確かめられている 放射線に足すと効果が上がる比較試験が複数 | 確かめられていない がんに効くという比較試験がない |
| お金 | 保険適用(深部の腫瘍 9,000点、浅い腫瘍 6,000点、一連につき) | 全額自費。1回数千円〜数万円、通い続ける |
表1 二つの「温熱療法」。点数は診療報酬点数表 M003 電磁波温熱療法(1点=10円、自己負担は1〜3割)。
SECTION 02 「がん細胞は熱に弱い」の、正しい読み方
図1 「熱に弱い」という事実が治療として成り立つには、腫瘍を実際にその温度にする機械と、放射線・抗がん剤との組み合わせが要る。
オランダで、膀胱がん・子宮頸がん・直腸がんの358人を、放射線だけの組と、放射線に温熱を足した組にくじ引きで分けた試験があります。 がんが消えた割合は39%から55%に上がり、子宮頸がんでは57%から83%、3年後に生きている割合は27%から51%に上がりました(van der Zee ら、Lancet 2000)。
その後、子宮頸がんの比較試験6本をまとめた解析でも、放射線に温熱を足すと、がんが消える割合と局所の制御は22〜23ポイント上がりました。 ただし生存期間の差は8.4ポイントで、統計的にはっきりしたものではありませんでした(Datta ら、Int J Hyperthermia 2016)。 いずれも放射線に「足した」試験で、温熱だけの効果を調べたものではありません。
SECTION 03 「体温を上げれば免疫が上がる」は、どこから来たか
「体温が1度下がると免疫が30%落ちる」「がんは35度台の体で育つ」。 よく聞く言葉ですが、この数字を示した人での比較試験は、私たちの知る限りありません。 平熱には個人差があり、35度台でも健康な人は大勢います。がんの人の平熱が低いという証拠もありません。
-
こう言われたら「がん細胞は熱に弱いので、温めれば消えます」こう聞き返す「腫瘍の温度を測っていますか。放射線と併用ですか」
-
こう言われたら「病院でも保険で温熱療法をやっています」こう聞き返す「同じ機械ですか。医療機器の承認番号を教えてください」
-
こう言われたら「体温を1度上げると、免疫力が5倍になります」こう聞き返す「その数字は、人で比べた試験のものですか」
「体に害はない」わけではありません。高齢の方や、抗がん剤で体力が落ちている方が、ドームやサウナで長時間温まると、 脱水と熱中症、心臓への負担が起きます。私たちは、温熱サロンの帰りに血圧が下がってふらついた方を診たことがあります。 とくに心臓・腎臓の病気がある方、利尿薬を飲んでいる方は、主治医に相談してから。
保険の電磁波温熱療法は「一連につき」の点数で、放射線治療の期間中に週1〜2回行っても、自己負担は1〜3割です。 一方、自由診療の温熱は1回数千円から数万円で、「続けることに意味がある」と言われて年単位で通う方がいます。 合計すると、保険の治療よりはるかに高くなります。回数券や年間契約を勧められたら、いったん持ち帰ってください。
訪問先の寝室に、大きな遠赤外線のドームや温熱マットが置いてあることがあります。「がんが見つかってから、毎日入っている」と。 私たちは、やめなさいとは言いません。まず「入ったあと、気持ちがいいですか」と聞きます。気持ちがよく、脱水にならず、費用が家計を圧迫していないなら、それは「がんの治療」ではなく「暮らしの楽しみ」として続けてよいものです。 ただ、「これでがんが小さくなっているはず」と、病院の治療や緩和ケアの相談を後回しにしているなら、そこだけは話し合います。
「本当の一部」でできた宣伝が、いちばん見分けにくい。
温熱療法の宣伝は、全部が嘘ではありません。「がん細胞は熱に弱い」も、「保険がきく温熱療法がある」も、本当です。 その本当の部品を組み合わせて、「だから温めればがんが消える」という、確かめられていない結論に運んでいきます。
見分け方は一つです。「その結論を、人で比べた試験はあるか」。部品がどれだけ本当でも、結論はそれだけでは本当になりません。 保険がきく温熱療法を受けたいなら、放射線治療をしている病院の担当医に「併用できますか」と聞いてください。それが正しい入口です。
この回のチェックリスト(第7回ぶん)
- 勧められた「温熱」が、腫瘍を機械で温めるものか、体の表面を温めるものか、確かめた。
- 放射線・抗がん剤と組み合わせる前提か、単独か、確かめた。
- 「温熱だけでがんが消えた比較試験はあるか」を聞いた。
- 心臓・腎臓の病気や利尿薬があるなら、主治医に相談してから温まることにした。
- 回数券・年間契約は、その場で契約せず持ち帰った。
困ったときの相談先
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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REFERENCE 参考資料
- van der Zee J, González González D, van Rhoon GC, et al. Comparison of radiotherapy alone with radiotherapy plus hyperthermia in locally advanced pelvic tumours: a prospective, randomised, multicentre trial. Lancet. 2000;355(9210):1119-1125(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(00)02059-6)
- Datta NR, Rogers S, Klingbiel D, et al. Hyperthermia and radiotherapy with or without chemotherapy in locally advanced cervical cancer: a systematic review with conventional and network meta-analyses. Int J Hyperthermia. 2016;32(7):809-821(https://doi.org/10.1080/02656736.2016.1195924)
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」医科診療報酬点数表 第2章第12部 放射線治療 M003 電磁波温熱療法(一連につき)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html)
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)

