温熱療法(ハイパーサーミア):詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第7回/全30回
温熱療法(ハイパーサーミア)

保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目

「がん細胞は熱に弱い」。これは本当です。そして、保険がきく温熱療法は実際にあります。 だからこそ、この言葉は「温めればがんが消える」という宣伝に使われやすいのです。 この回では、保険がきく温熱療法と、そうでない「温熱」の境目をはっきりさせます。

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この回の結論

  1. 保険がきく温熱療法(電磁波温熱療法)はあります。腫瘍そのものを専用の機械で温め、放射線や抗がん剤と組み合わせる治療です。
  2. 効果が比較試験で示されたのは、この「組み合わせ」だけです。温熱だけで「がんが消える」ことは示されていません。
  3. 遠赤外線ドーム、岩盤浴、陶板浴、温熱マットで体を温めることは、別物です。がんに効くという比較試験はありません。

SECTION 01 同じ「温熱療法」で、二つのもの

「温熱療法」「ハイパーサーミア」という言葉は、病院でも、自由診療のクリニックでも、サロンでも使われます。 中身は次の表のとおり別のものです。

保険がきく電磁波温熱療法自由診療・サロンの「温熱」
何を温めるかがんのある部位だけを、体の内側から42〜43度に体の表面や全身を、気持ちよい程度に
使う機械承認された医療機器(体を電極ではさみ、電磁波で深部を加温)遠赤外線ドーム、陶板浴、岩盤浴、温熱マット、サウナ
組み合わせ放射線治療・抗がん剤と同じ時期に行う単独、または食事療法・サプリなどと
誰が確かめたか確かめられている
放射線に足すと効果が上がる比較試験が複数
確かめられていない
がんに効くという比較試験がない
お金保険適用(深部の腫瘍 9,000点、浅い腫瘍 6,000点、一連につき)全額自費。1回数千円〜数万円、通い続ける

表1 二つの「温熱療法」。点数は診療報酬点数表 M003 電磁波温熱療法(1点=10円、自己負担は1〜3割)。

ここだけ覚える保険がきくのは「腫瘍を機械で温めて、放射線・抗がん剤と組み合わせる」ときだけです。

SECTION 02 「がん細胞は熱に弱い」の、正しい読み方

図1 「熱に弱い」が治療になるまでの、3つの条件 1 がん細胞は42.5度を超えると弱る → 本当(試験管) 正常な細胞より熱に弱く、放射線や抗がん剤が効きやすくなります 2 腫瘍の中をその温度にするには、専用の機械が要る 体は血流で体温を守ります。体表を温めても、深部の腫瘍は42度になりません 3 効果が示されたのは、放射線・抗がん剤と組み合わせたとき 温熱だけをくじ引きで比べて「がんが消えた」試験はありません 遠赤外線・岩盤浴・温熱マットは、1の条件しか使っていません。2と3を欠いたまま「がんに効く」とは言えません。

図1 「熱に弱い」という事実が治療として成り立つには、腫瘍を実際にその温度にする機械と、放射線・抗がん剤との組み合わせが要る。

根拠はどこまであるか

オランダで、膀胱がん・子宮頸がん・直腸がんの358人を、放射線だけの組と、放射線に温熱を足した組にくじ引きで分けた試験があります。 がんが消えた割合は39%から55%に上がり、子宮頸がんでは57%から83%、3年後に生きている割合は27%から51%に上がりました(van der Zee ら、Lancet 2000)。

その後、子宮頸がんの比較試験6本をまとめた解析でも、放射線に温熱を足すと、がんが消える割合と局所の制御は22〜23ポイント上がりました。 ただし生存期間の差は8.4ポイントで、統計的にはっきりしたものではありませんでした(Datta ら、Int J Hyperthermia 2016)。 いずれも放射線に「足した」試験で、温熱だけの効果を調べたものではありません。

ここだけ覚える温熱は、放射線の「効きを上げる」治療。単独で「消す」治療ではありません。

SECTION 03 「体温を上げれば免疫が上がる」は、どこから来たか

「体温が1度下がると免疫が30%落ちる」「がんは35度台の体で育つ」。 よく聞く言葉ですが、この数字を示した人での比較試験は、私たちの知る限りありません。 平熱には個人差があり、35度台でも健康な人は大勢います。がんの人の平熱が低いという証拠もありません。

  • こう言われたら「がん細胞は熱に弱いので、温めれば消えます」
    こう聞き返す「腫瘍の温度を測っていますか。放射線と併用ですか」
  • こう言われたら「病院でも保険で温熱療法をやっています」
    こう聞き返す「同じ機械ですか。医療機器の承認番号を教えてください」
  • こう言われたら「体温を1度上げると、免疫力が5倍になります」
    こう聞き返す「その数字は、人で比べた試験のものですか」
気をつけること

「体に害はない」わけではありません。高齢の方や、抗がん剤で体力が落ちている方が、ドームやサウナで長時間温まると、 脱水と熱中症、心臓への負担が起きます。私たちは、温熱サロンの帰りに血圧が下がってふらついた方を診たことがあります。 とくに心臓・腎臓の病気がある方、利尿薬を飲んでいる方は、主治医に相談してから。

お金のはなし

保険の電磁波温熱療法は「一連につき」の点数で、放射線治療の期間中に週1〜2回行っても、自己負担は1〜3割です。 一方、自由診療の温熱は1回数千円から数万円で、「続けることに意味がある」と言われて年単位で通う方がいます。 合計すると、保険の治療よりはるかに高くなります。回数券や年間契約を勧められたら、いったん持ち帰ってください。

在宅の現場では

訪問先の寝室に、大きな遠赤外線のドームや温熱マットが置いてあることがあります。「がんが見つかってから、毎日入っている」と。 私たちは、やめなさいとは言いません。まず「入ったあと、気持ちがいいですか」と聞きます。気持ちがよく、脱水にならず、費用が家計を圧迫していないなら、それは「がんの治療」ではなく「暮らしの楽しみ」として続けてよいものです。 ただ、「これでがんが小さくなっているはず」と、病院の治療や緩和ケアの相談を後回しにしているなら、そこだけは話し合います。

ここだけ覚える「気持ちがいい」は続けてよい理由。「がんが消える」は続ける理由になりません。
在宅医の視点

「本当の一部」でできた宣伝が、いちばん見分けにくい。

温熱療法の宣伝は、全部が嘘ではありません。「がん細胞は熱に弱い」も、「保険がきく温熱療法がある」も、本当です。 その本当の部品を組み合わせて、「だから温めればがんが消える」という、確かめられていない結論に運んでいきます。

見分け方は一つです。「その結論を、人で比べた試験はあるか」。部品がどれだけ本当でも、結論はそれだけでは本当になりません。 保険がきく温熱療法を受けたいなら、放射線治療をしている病院の担当医に「併用できますか」と聞いてください。それが正しい入口です。

この回のチェックリスト(第7回ぶん)

  • 勧められた「温熱」が、腫瘍を機械で温めるものか、体の表面を温めるものか、確かめた。
  • 放射線・抗がん剤と組み合わせる前提か、単独か、確かめた。
  • 「温熱だけでがんが消えた比較試験はあるか」を聞いた。
  • 心臓・腎臓の病気や利尿薬があるなら、主治医に相談してから温まることにした。
  • 回数券・年間契約は、その場で契約せず持ち帰った。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。

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Q&A よくある質問

Q保険がきく温熱療法を受けたいのですが、どこに行けばよいですか。
Aいま放射線や抗がん剤の治療を受けている病院の担当医に、「電磁波温熱療法を併用できますか」と聞いてください。機械のある病院は限られるので、紹介という形になることがあります。自由診療のクリニックの「温熱」は、保険の治療とは別物です。
Q岩盤浴や温泉は、がんに悪いのですか。
A悪くはありません。がんが「熱で広がる」という証拠もありません。気持ちよく、脱水に気をつけて入るなら、暮らしの楽しみとして続けてください。ただし「がんの治療として」入るのであれば、その効果は確かめられていない、というだけです。
Q抗がん剤の治療中ですが、温熱サロンに通ってもかまいませんか。
A主治医に伝えてから決めてください。抗がん剤の時期は脱水と感染に弱く、白血球が下がっている週は人の多い場所を避けたほうがよいこともあります。「通っていること」を隠さないことが、いちばん大事です。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. van der Zee J, González González D, van Rhoon GC, et al. Comparison of radiotherapy alone with radiotherapy plus hyperthermia in locally advanced pelvic tumours: a prospective, randomised, multicentre trial. Lancet. 2000;355(9210):1119-1125(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(00)02059-6
  2. Datta NR, Rogers S, Klingbiel D, et al. Hyperthermia and radiotherapy with or without chemotherapy in locally advanced cervical cancer: a systematic review with conventional and network meta-analyses. Int J Hyperthermia. 2016;32(7):809-821(https://doi.org/10.1080/02656736.2016.1195924
  3. 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」医科診療報酬点数表 第2章第12部 放射線治療 M003 電磁波温熱療法(一連につき)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
  4. 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。