「子宮頸がんの末期」と告げられたとき、多くの方がまず知りたいのは、これから体に何が起きるのか、痛みはどうなるのか、そして家で過ごすことはできるのか、という三つだと思います。

子宮頸がんの終末期には、他のがんとは少し違う特徴があります。ひとつは、骨盤という体のなかで最も混み合った場所で進むため、尿の通り道・便の通り道・血液やリンパの通り道が同時に圧迫されやすいこと。もうひとつは、出血やにおい、下腹部の症状など「人に言いにくい症状」が中心になりやすいこと。そして三つめは、比較的若い世代で起こることがあり、介護保険が使えない年齢の方が少なくないことです。

このコラムでは、子宮頸がんの末期に体で起きていることを一般の方向けに整理したうえで、在宅診療でどこまでできるのかを一段深く解説します。福岡市早良区のふくろう訪問クリニックが、日々の訪問診療の現場で実際にお伝えしている内容をもとにまとめました。

SECTION 01

子宮頸がんという病気の輪郭

子宮頸がんは、子宮の入り口(頸部)にできるがんです。その大部分はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染をきっかけに、前がん病変を経て何年もかけて発生します。時間をかけて進むということは、裏を返せば検診で見つけられる期間が長いということでもあります。

10,4571年間に診断される人(2023年・全国がん登録)
2,7511年間に亡くなる人(2024年・人口動態統計)
73.15年相対生存率(2018年診断例)

これらは国立がん研究センターがん情報サービスの「がん統計(子宮頸部)」の数値で、2026年7月22日時点の公表値です。全体としての5年相対生存率は7割を超えており、早期に見つかれば治せるがんです。一方で、進行した状態で見つかる方も一定数おられ、その場合の経過はここでお伝えする内容に近いものになります。

もうひとつ知っておいていただきたいのが年齢の分布です。子宮頸がんは20歳代後半から増え始め、30〜40歳代が罹患の中心になります。乳がんや大腸がんのように高齢期に多いがんとは、ここが決定的に違います。子育て中の方、働き盛りの方が末期を迎えることがあり、後で触れる「介護保険が使えない」という制度上の壁が、そのまま療養の壁になってしまうことがあります。

予防の話を一度だけ

このコラムは末期の療養がテーマですが、子宮頸がんは予防できるがんでもあります。HPVワクチンの定期接種(小学6年〜高校1年相当の女子)は続いており、2026年度からは9価ワクチン(シルガード9)が使われています。なお、接種機会を逃した世代を対象とした「キャッチアップ接種」の経過措置は2026年3月31日で終了しました。また、20歳以上の方の子宮頸がん検診(2年に1度)は、ワクチンを打った方も打っていない方も同じように重要です。ご家族やお子さんのことで気になる方は、かかりつけ医にご相談ください。

SECTION 02

「ステージⅣ」と「末期」は同じではない

診察室でよく起こる誤解です。ステージⅣと言われた時点で「もう末期だ」と受け取ってしまう方が非常に多いのですが、この二つはまったく別の言葉です。

ステージ(進行期)は、診断されたときにがんがどこまで広がっていたかを表す「地図」です。一度決まったら、その後の治療でよくなっても悪くなっても、原則として変わりません。一方「末期」は、がんを小さくする治療で病気の流れを変えることが難しくなり、体を支える治療(緩和ケア)が療養の中心になった「今の状態」を指します。

ステージⅣと診断されても、薬物療法が効いて年単位で日常生活を続けておられる方は珍しくありません。後で触れる免疫チェックポイント阻害薬の登場以降、この幅はさらに広がりました。逆に、最初はステージⅡだった方が数年後に骨盤内で再発し、そこから末期の経過をたどることもあります。

ステージ(進行期) 診断されたときの「広がりの地図」 ・Ⅰ〜Ⅳの4段階 ・原則、あとから変わらない ・治療方針を決めるための分類 Ⅳ=広がっている =すぐに末期、ではない 末期(終末期) いま体がどんな状態かという「現在地」 ・がんを縮める治療が難しくなった ・支える治療が療養の中心になる ・数か月単位の見通しで考える時期 Ⅱ期から再発して末期になることも ステージの数字とは別に決まる

図1|ステージは「診断時の地図」、末期は「いまの現在地」。二つは別々に決まります。

SECTION 03

骨盤という、体で一番混み合った場所

子宮頸がんの終末期を理解するうえで、いちばんの鍵になるのが解剖です。子宮頸部は、骨盤のちょうど真ん中にあります。すぐ前には膀胱、すぐ後ろには直腸、両側には腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管が走り、骨盤の壁沿いには足へ向かう血管とリンパ管、そして腰から下肢へ向かう腰仙骨神経叢という太い神経の束が通っています。

これらすべてが、握りこぶし程度の狭い空間に詰め込まれています。がんが子宮頸部から周囲へ広がるということは、この混み合った配管をひとつずつ押していくということです。だからこそ、子宮頸がんの末期には「がんそのものの痛み」だけでなく、通り道がふさがることによる症状が前面に出てきます。

正面から見た図|尿管は左右とも膀胱へ 骨盤の骨 尿管 尿管 子宮 子宮頸部 膀胱 (子宮の手前) 骨盤壁 血管・リンパ管 腰仙骨神経叢 骨盤壁 (左右対称) 左右の尿管は、子宮頸部のすぐ横をかすめて 膀胱に入ります。がんが横へ広がると、まず ここが押しつぶされます。 横から見た図|前に膀胱、後ろに直腸 恥骨(前) 仙骨(後ろ) 膀胱 尿管 子宮 子宮頸部 直腸 腰仙骨神経叢 子宮頸部のすぐ前が膀胱、すぐ後ろが直腸。 がんが前後に破れると、腟との間に穴(瘻孔) ができることがあります。

図2|左は正面から見た図で、左右の尿管が子宮頸部の脇を通って膀胱に入る様子。右は横から見た図で、前が膀胱、後ろが直腸という位置関係です。がんはこの中心から、前・後ろ・左右へ同時に押し広がります。

末期に起こりやすい7つの症状

実際にどんな症状が出るのかを、原因ごとに整理します。すべてが起きるわけではありませんし、順番も人によって違います。

① 出血・分泌物 不正性器出血、ときに大量出血 悪臭をともなうおりもの → 貧血、だるさ、外出しづらさ、孤立 ② 骨盤の痛み 下腹部・腰・おしり・会陰部の痛み 足へ走る、しびれるような痛み → 神経が巻き込まれた痛みが混ざる ③ 尿の通り道の閉塞 尿管が押されて腎臓が腫れる(水腎症) 自覚症状がほとんど出ないことも → 静かに腎機能が落ちる(SECTION 04) ④ 便の通り道の狭窄 便が細くなる、出しづらい 残便感、しぶり腹 → 便秘対策とオピオイド調整が両輪に ⑤ 下肢のむくみ 片脚から始まることが多い リンパの流れ+血栓 → 歩行・転倒リスクに直結 ⑥ 瘻孔(ろうこう) 腟と膀胱、腟と直腸が つながってしまう → 尿や便が腟から漏れる ⑦ 全身の衰弱 食欲低下、体重減少 だるさ、眠気 → 終末期に共通する変化

図3|症状マップ。子宮頸がんの末期は「痛み」だけでなく「通り道がふさがる症状」が特徴です。

言いにくい症状こそ、伝えてほしい

出血、におい、腟から尿や便が漏れる、陰部が痛い——これらは、医療者相手であっても口に出しにくい症状です。「恥ずかしいから」「大したことないから」と我慢して、往診のたびに世間話で終わってしまう方が本当に多い。しかし、この7つの症状のほとんどには手立てがあります。次のセクションから、ひとつずつ何ができるかをお話しします。

SECTION 04

静かに進む腎不全という、子宮頸がん特有の分かれ道

ここは、子宮頸がんの末期を語るうえで最も重要で、しかし最も知られていない部分です。少し詳しく説明します。

腎臓でつくられた尿は、左右の尿管という細い管を通って膀胱へ流れます。この尿管が、子宮頸部のすぐ横を通っています。がんが横方向に広がると、尿管は外から押しつぶされます。すると尿が流れなくなり、腎臓の内部に尿がたまって腫れます。これが水腎症です。

やっかいなのは、この過程でほとんど症状が出ないことです。片側だけなら、もう片方の腎臓が働くので尿量も変わりません。痛みも出ないことが多い。そして両側が詰まって初めて、尿が減り、体がむくみ、吐き気が出て、意識がぼんやりしてくる——腎後性腎不全という状態になります。ここまで来ると、数日単位で状態が動きます。

尿管がふさがってから起きること 尿管が 外から押される 腎臓が腫れる (水腎症) 自覚症状は ほとんど出ない 両側が詰まると 腎後性腎不全へ 腎機能が落ちると、療養全体に波及します 薬が使いにくくなる 抗がん剤の多くが中止に 痛み止めの量も要調整 眠気・混乱が出る 老廃物と薬がたまり 意識がぼんやりする 時間の見通しが変わる 週単位から日単位へ 動きが速くなる だから、詰まる前に決めておく二つの選択肢 A|尿の出口をつくる 腎ろう造設/尿管ステント(入院・処置が必要) B|処置は行わず、症状を和らげる 自宅で過ごす時間を優先する

図4|尿管閉塞は静かに進み、腎機能低下は療養全体に波及します。だからこそ事前の話し合いが要になります。

腎ろうを造るか、造らないか

尿管が詰まったとき、尿の出口を人工的に作る方法があります。背中から腎臓に管を刺して尿を体外へ出す腎ろうと、膀胱側から尿管に細い管を通す尿管ステントです。腎機能は回復し、尿毒症の症状は改善します。

ただし、これは「必ずやるべき処置」ではありません。進行した子宮頸がんで尿路の閉塞に対して腎ろうを造設した163例の報告では、造設後の生存期間の中央値は5か月(1〜17か月)で、年齢・遠隔転移の有無・全身状態(ECOG PS)によって大きく差がありました。同様に、悪性腫瘍による尿管閉塞に対する腎ろうを扱った系統的レビューでも、造設後の平均生存期間は2〜8.5か月と報告されています。

つまり、腎ろうは「命を大きく取り戻す処置」ではなく、「残された時間の質をどう使うかを選ぶ処置」です。管を入れれば、以後は定期的な交換のための通院や、詰まり・感染時の対応が必要になります。一方で、まだやりたいことがある方、次の治療につなげたい方、家族の行事を控えている方にとっては、意味の大きい選択にもなります。

「詰まったらどうするか」を、詰まる前に決める

訪問診療の現場でいちばん困るのは、深夜に尿が出なくなり、意識がもうろうとしている段階で、ご家族が初めてこの選択を迫られることです。判断する時間も、ご本人の意思を確認する余裕もありません。
採血で腎機能の低下が見え始めた時点、あるいは画像で片側の水腎症が指摘された時点が、話し合いのタイミングです。「両方詰まったら、腎ろうを造りますか、造りませんか」——この一問への答えを、あらかじめカルテと家族の間で共有しておくだけで、最期の数週間はまったく違うものになります。

SECTION 05

薬物療法と、その切り替えどき

進行・再発した子宮頸がんの薬物療法は、この10年で大きく変わりました。国内では日本婦人科腫瘍学会の『子宮頸癌治療ガイドライン2022年版』が指針となっており、ⅣB期の治療(CQ21)と再発時の多剤併用化学療法(CQ29)については学会ホームページでアップデート版が公開されています。現在は2027年版への改訂作業が進んでおり、2026年11月頃にパブリックコメント、2027年4月の学術講演会での公開が予定されています。

一次治療|化学療法に免疫療法を加える

これまでの標準は、シスプラチン(またはカルボプラチン)+パクリタキセルという抗がん剤の組み合わせに、血管新生を抑えるベバシズマブを加える方法でした。ここにペムブロリズマブという免疫チェックポイント阻害薬を上乗せする治療が加わっています。

その根拠となったKEYNOTE-826試験の最終解析では、生存期間の中央値がペムブロリズマブを加えた群で26.4か月、加えなかった群で16.8か月(ハザード比0.63)と報告されています。約10か月の差は、この領域では大きな前進です。

二次治療以降|選択肢が増えた領域

一次治療が効かなくなったあとの選択肢も広がりました。

  • セミプリマブ(免疫チェックポイント阻害薬):EMPOWER-Cervical 1試験で、生存期間中央値12.0か月と、化学療法群の8.5か月を上回りました(ハザード比0.69)。
  • チソツマブ ベドチン(抗体薬物複合体):がん細胞に発現する組織因子を狙って抗がん剤を届ける薬です。innovaTV 301試験で生存期間中央値11.5か月(化学療法群9.5か月、ハザード比0.70)。国内では2025年3月27日に「がん化学療法後に増悪した進行又は再発の子宮頸癌」に対して承認され、同年5月に発売されました。特徴的な副作用として眼の障害があり、点眼薬の使用や定期的な眼科受診が必要です。
進行・再発子宮頸がんの薬物療法(おおまかな流れ) 一次治療 プラチナ+パクリタキセル +ベバシズマブ +ペムブロリズマブ 二次治療以降 セミプリマブ チソツマブ ベドチン など 支える治療が中心へ 症状緩和・緩和照射 在宅療養へ 「そろそろ切り替えどき」を考えるサイン 画像でも症状でも、はっきりと悪化している 腎機能が落ちて、使える薬が限られてきた 1日の半分以上を横になって過ごすようになった 副作用のつらさが、効果を上回っている 通院そのものが体力を削っている ご本人が「もう十分」と感じている

図5|薬物療法の流れと、切り替えを考えるサイン。最後の一つが、実はいちばん大切な指標です。

ここで強調しておきたいのは、「薬をやめる=何もしない」ではないということです。抗がん剤をやめた後こそ、痛み・出血・むくみ・便通といった症状への手立てが本格的に始まります。実際、次のセクションでお話しする緩和照射のように、抗がん剤が効かなくなってから最も力を発揮する治療もあります。

SECTION 06

出血・におい・痛みに、局所の治療が効く

子宮頸がんの末期でご本人とご家族を最も苦しめるのは、多くの場合「出血」と「におい」です。ここには、はっきりと効く手立てがあります。

止血目的の放射線治療(緩和照射)

出血している腫瘍に放射線を当てると、多くの場合で出血が止まります。これは「がんを治すための治療」ではなく、症状を止めるための短い治療です。

骨盤内の腫瘍出血に対する緩和照射:報告された止血率 0% 25% 50% 75% 100% 10Gy 単回(反復可) 90% 25Gy/5回 82% 39Gy/13回(完全止血) 80% 短期照射(≦5回) 78.8% 184例の集計(完全奏効) 77.7% ※対象・線量・判定基準が研究ごとに異なるため、単純比較ではなく「いずれの方法でもおおむね8割前後で止血が得られる」と読んでください。

図6|報告により線量も対象も異なりますが、止血率はおおむね8割前後で一致しています。

効果が出るまでの時間も報告されています。短期の緩和照射を受けた婦人科がん33例の検討では、出血が減り始めるまでの中央値が5日、最大の効果が得られるまでが13日でした。もう少し長い日程(39Gy/13回)の報告では、完全な止血までの中央値が16日です。「今日照射して、来週には出血が落ち着いてくる」という時間感覚で考えていただくとよいと思います。

日程については、日本の施設から25Gy/5回という短い日程での報告があり、止血の奏効が82%、痛みの緩和が78%と報告されています。5回で終わるということは、平日1週間の通院で完結するということです。すでに在宅療養に移っている方でも、この程度なら通えることが少なくありません。重い有害事象の報告も少なく、体力が落ちた方でも受けやすい治療です。

「もう放射線は当てられません」と言われた方へ

以前に骨盤へ根治的な放射線治療を受けた方は、同じ場所に再度当てることが難しい場合があります。ただし「難しい」と「絶対にできない」は違います。当てた範囲・線量・経過年数によっては、慎重に条件を設定すれば実施できることもあります。当院の院長は放射線治療専門医です。過去の照射記録を確認したうえで、その方にとって現実的な選択肢かどうかを一緒に検討し、必要に応じて放射線治療施設へおつなぎします。

においへの対応

がんが表面に露出すると、そこに嫌気性菌という酸素を嫌う細菌が増え、独特の強いにおいの原因物質を作ります。においは、ご本人を人に会うことから遠ざけ、ご家族の介護にも影響します。

国内ではメトロニダゾールのゲル製剤が「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」の適応で使用でき、2015年から保険適用になっています。潰瘍面をきれいにしたあと、1日1〜2回、ガーゼに伸ばして貼るか直接塗布します。原則12週間までの使用が目安です。あわせて、生理食塩水での洗浄、活性炭シートによる吸着、換気の工夫を組み合わせます。香水や芳香剤で覆おうとすると、においが混ざってかえって不快になることがあるので注意してください。

瘻孔(ろうこう)ができたとき

がんが膀胱や直腸の壁を破ると、腟との間に穴(瘻孔)ができ、尿や便が腟から出てくるようになります。ご本人にとっては極めてつらい状況ですが、対応の方向性は決まっています。

  • 漏れを受け止める:高吸収パッド、皮膚保護材、こまめな交換で皮膚のただれを防ぎます。
  • 流れを別にする:状況によっては、尿路の変更(腎ろう)や人工肛門で流れそのものを迂回させます。ただし手術・処置の負担と残された時間のバランスで判断します。
  • 皮膚を守る:ワセリンや被膜剤で周囲の皮膚を守ります。訪問看護師が最も力を発揮する場面のひとつです。

痛みへの対応

子宮頸がんの骨盤の痛みは、2種類が混ざります。腫瘍が組織を圧迫する痛みと、神経が巻き込まれた神経障害性疼痛です。後者は「電気が走る」「足がしびれて焼けるよう」と表現され、医療用麻薬(オピオイド)だけでは取り切れないことがあります。

このため、オピオイドに加えて神経障害性疼痛に用いる鎮痛補助薬を組み合わせるのが基本です。腎機能が落ちている場合は、体内にたまりやすい薬を避けるか、少量から慎重に始めます。ここでも、SECTION 04でお話しした腎機能が判断の土台になります。それでも取れない痛みには、神経ブロックや、痛みに対する緩和照射という手段もあります。

HOME CARE

ここからは在宅診療の話を、一段深く

「家で過ごしたい」と思っても、点滴は? 痛み止めは? 夜中に出血したら? 誰が来てくれるの? お金は?——ここからは、子宮頸がんの末期で在宅療養を選ぶときに実際に必要になる制度と手技を、具体的に説明します。

SECTION 07

末期がんでは、在宅の枠が大きく広がる

まず、訪問診療と往診の違いから

混同されがちですが、この二つは別のものです。

 訪問診療往診
性格計画的・定期的に伺うその時々の求めに応じて伺う
頻度週1回〜月2回など、あらかじめ決める不定期(体調が急に変わったとき)
目的症状の見通しを立て、先回りして備える目の前の困りごとに対応する
関係訪問診療で土台をつくり、そのうえで必要なときに往診する。両輪です。

「困ったときだけ来てもらえばいい」と考える方がおられますが、末期がんの療養では逆です。定期的に伺って先回りしておくからこそ、夜中の往診が減ります。痛み止めの頓用薬をあらかじめ自宅に置いておく、出血時の対応を家族と決めておく、腎機能の推移を追っておく——こうした準備が、救急車を呼ぶ回数を大きく減らします。

「末期の悪性腫瘍」で外れる制限

ここが制度上、最も重要な部分です。訪問看護は通常、介護保険が優先され、回数や日数に制限があります。しかし、「末期の悪性腫瘍」に該当する場合は、健康保険法の「別表第七」に定められた疾病等に当たり、扱いが大きく変わります。

通常の訪問看護 末期の悪性腫瘍(別表第七) 保険:介護保険が優先 日数:週3回まで が原則 1日の回数:1回まで 事業所:原則1か所 時間:所定の枠内 区分支給限度額の対象 保険:医療保険で受けられる 日数:日数制限なし(毎日可) 1日の回数:複数回の訪問が可能 事業所:2〜3か所まで利用可 時間:長時間訪問にも対応 介護保険の限度額を圧迫しない

図7|末期がんでは、訪問看護の枠が大きく広がります。制度を知らずに使えないままの方が少なくありません。

さらに、状態が不安定なときには医師が特別訪問看護指示書を交付することで、14日間を限度に毎日の訪問看護が可能になります。出血が続いているとき、腎ろうを入れた直後、看取りが近づいたとき——こうした場面で機動的に使える仕組みです。

SECTION 08

40歳という壁と、その越え方

ここは、子宮頸がん特有の、そして最も見落とされやすい問題です。

介護保険は原則65歳以上が対象ですが、40〜64歳の方も16の特定疾病に該当すれば使えます。その筆頭が「がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)」、つまり末期がんです。ですから40歳以上であれば、介護保険で訪問介護(ヘルパー)、訪問入浴、介護ベッドや車いすのレンタルが利用できます。

問題は、39歳以下の方です。子宮頸がんは30〜40歳代が罹患の中心ですから、この年齢に当てはまる方が現実に多くおられます。介護保険が使えないと、介護ベッドも車いすもヘルパーも全額自己負担になってしまいます。

年齢によって、使える制度が変わります 40歳 65歳 訪問診療・訪問看護(医療保険)── 年齢に関係なく使えます 介護保険(40〜64歳は末期がんが16特定疾病に該当) 介護保険が使えない 自治体の若年がん患者 在宅療養支援を使う 40歳を過ぎていれば、要介護認定の申請から スタートします(主治医意見書が必要)

図8|訪問診療・訪問看護は年齢を問いません。介護サービスの部分だけが40歳で分かれます。

福岡市の「小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業」

この壁を埋めるために、多くの自治体が独自の助成制度を設けています。福岡市にもあります。

項目内容
対象40歳未満の福岡市民で、介護保険の特定疾病としての「がん」の定義・診断基準に該当し、在宅療養上の生活支援や介護が必要な方(他制度で同等のサービスを受けられない方)
対象サービス訪問介護(身体介護・生活援助・通院等乗降介助)/訪問入浴介護/福祉用具の貸与・購入(車いす、特殊寝台、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり、スロープ、歩行器、移動用リフト、自動排泄処理装置、腰掛便座、入浴補助用具 ほか)
助成額1か月あたりのサービス利用料について、上限6万円を基準に9割相当額(最大5万4千円)を助成。生活保護世帯は10割相当額
申請時期サービス開始前、または開始の翌日から30日以内
必要書類申請書、医師の意見書、本人確認書類
窓口福岡市 保健医療局健康医療部 地域医療課 医療支援係(電話 092-711-4892)
申請の期限に注意してください

この制度はいったん全額を支払ってから、後で助成金を受け取る仕組みです。そして申請には「サービス開始の翌日から30日以内」という期限があります。介護ベッドを借りてから1か月以上経って気づいた、というケースが実際にあります。
医師の意見書が必要になりますので、40歳未満の方が在宅療養を始めるときは、初回の訪問診療の場で必ずこの話をさせていただきます。制度の内容は変更されることがありますので、最新の要件は福岡市の窓口でご確認ください。

SECTION 09

家で、実際にどこまでできるのか

「病院でしかできない」と思われがちな処置の多くが、自宅で可能です。子宮頸がんの末期で実際に行っているものを挙げます。

できること補足
医療用麻薬による痛みの管理飲み薬、貼り薬、坐薬。飲めなくなっても切り替えられます
持続皮下注射(PCA)お腹などに細い針を留置し、少量ずつ持続注入。痛いときにご本人がボタンを押して追加できます。点滴の針を血管に入れる必要がありません
点滴(皮下・静脈)脱水や薬剤投与に。終末期は量を絞るのが原則です
腎ろう・尿管ステントの管理日常のケア、皮膚の観察、閉塞・感染時の初期対応。交換は入院での処置になります
膀胱留置カテーテルの管理交換・トラブル対応まで自宅で対応可能です
出血部位の処置圧迫、止血材の使用、腟内パッキング、貧血の評価
創部・瘻孔のケア洗浄、皮膚保護、メトロニダゾールゲルの塗布
下肢のむくみのケアスキンケア、圧迫、体位の工夫。血栓が疑われれば評価します
腹水穿刺腹水がたまってお腹が張るときに、自宅で抜くことができます
酸素療法・吸引機器を自宅に設置して継続できます
抗菌薬の点滴感染時に、入院せず自宅で治療できることがあります
採血・血液検査腎機能や貧血の推移を自宅で追えます

終末期の点滴は「減らす」のが原則

ご家族から最も多く受けるご希望が「せめて点滴だけでも」というものです。お気持ちはよくわかります。しかし終末期には、体が水分を処理する力そのものが落ちています。ここで通常量の点滴を続けると、水分は血管の外へ漏れ出し、手足のむくみ、腹水の増加、痰の増加、息苦しさとなって、かえってご本人を苦しめます。

このため、状態に応じて1日500mL前後、あるいはそれ以下に絞るのが一般的です。「点滴をしないと餓死させてしまう」というものではありません。むしろ、口の中を湿らせるケア、好きなものをひと口だけ味わっていただくこと、体位を整えることのほうが、この時期のご本人の快適さに直結します。

夜中に出血したら、どうすればいいか

子宮頸がんの在宅療養で、ご家族が最も恐れる場面です。あらかじめ次の準備をしておきます。

  1. 暗い色のタオルを用意しておく:白いタオルだと出血量が実際より多く見え、パニックにつながります。濃紺や黒のタオルを枕元に置いておきます。
  2. 圧迫の方法を練習しておく:訪問看護師が実際にやってみせて、ご家族に一度やっていただきます。
  3. 連絡先を紙で貼っておく:24時間つながる電話番号を、電話機のそばと冷蔵庫に貼ります。
  4. 「そのとき何をするか」を先に決めておく:救急搬送するのか、自宅で対応するのか。ご本人の希望を含めて、あらかじめ話し合っておきます。

大量出血が起こりうると分かっている場合は、あらかじめ鎮静に使う薬を自宅に配置しておくこともあります。備えがあるかないかで、その夜の意味がまったく変わります。

最期を自宅で迎えても、警察は来ません

「家で亡くなったら警察を呼ぶことになる」「不審死として扱われる」という誤解が、いまも根強くあります。そんなことはありません。

医師法第20条のただし書きにより、診療継続中の患者が、その診療にかかる傷病で亡くなった場合、最後の診察から24時間以上経っていても、改めて診察したうえで死亡診断書を交付できます。この点は厚生労働省の通知(平成24年8月31日 医政医発0831第1号)でも明確に示されています。

つまり、訪問診療でお付き合いしてきた方が自宅で息を引き取られた場合、慌てて救急車を呼ぶ必要はありません。まず当院にご連絡ください。医師が伺い、確認のうえ死亡診断書をお渡しします。亡くなった直後にすぐ連絡しなければならない、ということもありません。お別れの時間を過ごしてから、落ち着いてお電話いただいて構いません。

レスパイト入院という休憩

在宅療養は、ご家族にとって24時間の仕事です。特に子宮頸がんの場合、介護される方がお子さんの親であることも多く、育児と介護が同時に重なります。

そこで使うのがレスパイト入院です。ご本人の状態が悪くなったからではなく、ご家族が休むために数日から1〜2週間入院していただく仕組みです。「限界まで頑張ってから」ではなく、「まだ頑張れるうちに」使うのがコツです。当院から連携先の病院へお繋ぎします。

これから先の希望を話しておく(ACP)

アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)と呼ばれる話し合いです。難しく考える必要はありません。次のようなことを、元気なうちに少しずつ話しておきます。

  • 両側の尿管が詰まったとき、腎ろうを造るか造らないか(SECTION 04)
  • 大量出血したとき、救急搬送を希望するか、自宅で対応するか
  • 食べられなくなったときに、点滴や栄養をどこまで行うか
  • 最期をどこで迎えたいか。そして、それが難しくなったときはどうするか
  • お子さんに、病気のことをどこまで、どのように伝えるか

最後の項目は、若い世代の子宮頸がんで特に大きなテーマになります。「まだ小さいから」と伝えずにいた結果、お子さんが後になって深く傷つくことがあります。年齢に応じた伝え方があり、当院からもご相談に応じますし、必要に応じて専門の支援につなぎます。

在宅療養を支えるチーム ご本人 ご家族 訪問診療医 訪問看護師 ケアマネジャー 薬剤師(訪問可) ヘルパー・リハビリ がん治療をしてきた病院 ※病院との縁は切れません。連携を続けながら、必要なときにいつでも戻れる形をつくります。

図9|在宅に移っても、これまでの主治医との関係は続きます。役割が増えるだけです。

SECTION 10

ご家族が、家で見ておくとよいこと

専門的な判断は医療者に任せていただいて構いません。ただ、日々そばにおられるご家族にしか気づけない変化があります。次のことを、気づいたときにメモしておいていただけると、訪問時の判断が格段に正確になります。

見るところ気づいてほしい変化連絡の目安
尿1日の量が減った、色が濃い、トイレの回数が明らかに減った半日以上ほとんど出ない → 早めに連絡
出血ナプキンやパッドの交換回数、色(鮮やかな赤か、古い茶色か)交換回数が急に増えた → 連絡
むくみ足だけか、顔や手にも出ているか。片脚だけ急に腫れていないか片脚が急に腫れて痛む → 早めに連絡
意識・受け答え返事がぼんやりする、つじつまが合わない、日中も眠り続ける昨日と明らかに違う → 連絡
痛み「どこが」「どんなふうに」「1日のいつ」痛むか。頓用薬を何回使ったか頓用薬が1日4回を超える日が続く → 連絡
食事・水分食べた量より「飲めているか」。むせていないかまったく飲めない日が続く → 連絡
におい・分泌物においが強くなった、量が増えた、色が変わった次回訪問時に必ず伝える
介護する側ご自身が眠れているか、食べられているか限界を感じる前に相談を

最後の行は冗談ではありません。介護される方が倒れてしまうと、在宅療養そのものが続かなくなります。「まだ大丈夫」と思っている段階でご相談いただくのが、結果的にいちばん長く自宅で過ごせる道です。

SECTION 11

在宅診療を考えるタイミング

「まだ早いのでは」と迷われる方が本当に多いのですが、早すぎて困ることはありません。次のいずれかに当てはまるようなら、一度ご相談いただくのがよいと思います。

段階こんな状態のとき
まず情報だけでも抗がん剤の変更や中止の話が出た/通院が体力的にきつくなってきた/今後どうなるのか見通しを知りたい
そろそろ具体的に痛みや出血で日常生活に支障が出ている/腎機能の低下を指摘された/「そろそろ在宅も」と主治医から言われた/39歳以下で介護保険が使えない
すぐにご連絡を尿がほとんど出ていない/出血が止まらない/意識がぼんやりして受け答えがおかしい/退院日が決まっているのに在宅の準備ができていない

ふくろう訪問クリニックにできること

当院は福岡市早良区を拠点に、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする在宅医療を行っています。子宮頸がんの末期療養では、次の点でお力になれます。

  • 放射線治療専門医による判断:院長は放射線治療専門医(国立がん研究センター中央病院、東京大学病院放射線科での勤務歴)です。出血や痛みに対する緩和照射が選択肢になるかどうか、過去の照射歴を踏まえて具体的に検討し、必要に応じて治療施設へおつなぎします。
  • 腎機能を軸にした先回りの管理:自宅での採血で腎機能を追い、腎ろうの判断や薬の調整を、切迫する前に一緒に考えます。
  • 訪問看護との一体運用:法人内で訪問看護リハビリステーションを運営しており、出血・瘻孔・においのケアを医師と看護師が同じ情報のもとで行います。
  • 若い世代の制度支援:39歳以下の方には、福岡市の助成制度の申請までご案内します。
  • 24時間の連絡体制:夜間・休日もつながる体制をとっています。

ご本人からでも、ご家族からでも、病院の相談員の方からでも構いません。まずは現在の状況をお聞かせください。ご相談の段階で費用はかかりません。

REFERENCES

参考文献

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計(子宮頸部)」全国がん登録罹患データ(2023年)、人口動態統計死亡データ(2024年)、全国がん登録生存率データ(2018年診断例).更新・確認日 2026年7月22日.https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/17_cervix_uteri.html
  2. 日本婦人科腫瘍学会編『子宮頸癌治療ガイドライン 2022年版』金原出版,2022年7月15日発行.同学会ウェブサイト「CQ21・CQ29アップデイト」「CQ19アップデイト」.https://jsgo.or.jp/guideline/
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  16. 厚生労働省医政局医事課長通知「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号
  17. 健康保険法における訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法 別表第七に掲げる疾病等(末期の悪性腫瘍を含む)
  18. 福岡市「小児・AYA世代がん患者在宅療養生活支援事業について」(更新日 2025年4月1日).https://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/chiikiiryo/health/gankanjya_zaitakuryouyouseikatusien.html
  19. ロゼックスゲル0.75% 電子添文(がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減/2015年2月24日薬価収載)
  20. 公益財団法人 日本対がん協会「子宮頸がんの予防のためにHPVワクチン」(2026年4月更新)

本コラムは一般の方に向けた情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。実際の治療については必ず主治医にご相談ください。統計・制度の数値は執筆時点のものです。制度の内容は改定されることがありますので、最新の情報は各窓口でご確認ください。
執筆:医療法人ふくろうの樹 ふくろう訪問クリニック 院長 上松正和(放射線治療専門医)