熱中症とくすりの話

熱中症にロキソニンを飲ませてはいけない理由

「熱が高いから、とりあえず手元の解熱鎮痛薬を飲ませよう」——その判断が、かえって体を危険にさらすことがあります。日本救急医学会の最新ガイドラインが示す“飲ませてはいけない理由”を、なるべくやさしく解説します。

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結論:熱中症の高体温に、ロキソニン(ロキソプロフェン)などの解熱鎮痛薬は効きません。それどころか、脱水した体の腎臓・肝臓・血液に追い打ちをかける恐れがあります。最新のガイドラインも「解熱薬は使わない」ことをすすめています。やるべきは“薬”ではなく“冷やす・水分・涼しい場所・受診”です。

01そもそも「熱中症の熱」と「風邪の熱」は別物

まず大前提として、熱中症で体温が上がるしくみは、風邪やインフルエンザで熱が出るしくみとまったく違います。ここを取り違えると、「熱=解熱薬」という思い込みで危険な選択をしてしまいます。

🤒 風邪・インフルの熱

体が「敵と戦うために体温を上げよう」と、脳の体温設定(サーモスタット)をわざと高く設定した状態。この設定を左右しているのが「プロスタグランジン」という物質です。

解熱薬で設定を下げられる → 効く

🥵 熱中症の熱

暑さで熱がたまり、汗などの放熱が追いつかずに体温が勝手に上がってしまった状態。脳の設定は正常なのに、体を冷やすシステムそのものが壊れています。

設定はいじれない → 解熱薬は無力

解熱鎮痛薬(ロキソニンやアセトアミノフェンなど)は、「プロスタグランジン」を減らして脳の体温設定を下げる薬です。ところが熱中症は、そもそも体温設定が上がっているわけではありません。下げる対象(=上がった設定)が存在しないため、薬は効きようがないのです。

風邪の熱 脳の体温設定 ↑設定UP 設定を下げれば熱も下がる 熱中症の熱 設定は正常・放熱が破綻 薬では下げられない → 冷やすしかない

図1:風邪の熱は「設定が上がった」状態なので解熱薬が効くが、熱中症は「冷やすしくみが壊れた」状態のため薬は効かない。

02効かないだけでなく「体を傷つける」

問題は「効かない」だけではありません。熱中症のときの体は、大量の汗でひどい脱水状態におちいっています。この状態でロキソニンのような薬(NSAIDs=非ステロイド性抗炎症薬)を飲むと、弱った臓器にさらにダメージを与えかねません。

  • 腎臓 NSAIDsは腎臓を守る物質(プロスタグランジン)の働きを抑え、腎臓に入る血流を減らします。ただでさえ脱水で血流が細っているところに重なると、「腎前性の急性腎障害」を起こしやすくなります。脱水・発熱・高齢という熱中症の条件は、まさにこのリスクを高める組み合わせです。
  • 肝臓 重症の熱中症では、高体温そのものが肝臓を傷つけます。解熱鎮痛薬はいずれも肝臓で処理されるため、弱った肝臓に負担が上乗せされる可能性があります。
  • 血液 重い熱中症では血液が固まりにくくなる異常(凝固障害・DIC)が起こることがあります。NSAIDsは血小板の働きにも影響するため、出血のリスクをさらに悪化させうると考えられています。

だからこそ、日本救急医学会の『熱中症診療ガイドライン2024』は、解熱薬(NSAIDsもアセトアミノフェンも)について、「肝・腎障害や凝固障害を悪化させる可能性があるため、使用しないことを弱く推奨」と明記しています。1)

「アセトアミノフェンなら安全」ではありません アセトアミノフェン(カロナールなど)は、ふだんは胃や腎臓にやさしく安全性の高い薬です。しかし熱中症の場面では話が別。そもそも熱中症の熱には効かず、重症例では傷んだ肝臓への負担になりうるため、ガイドラインではNSAIDsと同じく「使わない」側に位置づけられています1)「解熱薬という選択肢自体を外す」——これが熱中症対応の原則です。

03薬の代わりに、やるべき3つのこと

熱中症で体温が上がったときの正解は、薬ではなく物理的に体を冷やすこと(Active Cooling/積極的冷却)です。ガイドライン2024も、迅速な冷却を治療の柱に据えています。1)

1 涼しい場所へ 日陰・冷房の効いた室内に すぐ移動する 2 体を冷やす 首・わきの下・足の付け根を 保冷剤や水で冷却 3 水分・塩分 意識がはっきりしていれば 経口補水液を少しずつ

図2:熱中症の応急処置の基本3ステップ。太い血管が皮膚に近い「首・わきの下・足の付け根」を冷やすのが効率的。

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次のサインがあれば、ためらわず救急要請(119番)を。呼びかけへの反応がおかしい/意識がもうろうとしている/自分で水が飲めない/けいれん・ふらつきがある/体が熱いのに汗が出ていない。これらは重症のサインです。「薬を探す前に、まず冷やして、救急を呼ぶ」と覚えてください。

在宅医療の視点

在宅で療養する方は、なぜ「特にハイリスク」なのか

ここからは、私たちふくろう訪問クリニックが日々の訪問診療で特に気をつけているポイントを、一段くわしくお伝えします。ご自宅で療養されている高齢の方や慢性疾患のある方は、熱中症のリスクも、解熱鎮痛薬による害のリスクも、健康な成人よりずっと高いのです。

① もともと腎臓の「余力」が少ない

加齢や持病(糖尿病・高血圧など)で腎機能が落ちている方は、そもそも腎臓の予備力が乏しい状態です。そこに熱中症の脱水が重なり、さらにNSAIDsが加われば、健康な人以上に急性腎障害へ傾きやすくなります。「効かないうえに、腎臓を一気に悪化させる引き金になりうる」——在宅ではこの点を特に警戒します。

② 「トリプルワミー」——飲み合わせの落とし穴

在宅で療養する方の多くは、複数の薬を毎日飲んでいます。なかでも「利尿薬」+「降圧薬(ACE阻害薬・ARB)」+「NSAIDs」の3つが重なると、腎臓の血流調整が破綻しやすく、腎障害のリスクが跳ね上がることが知られています(“トリプルワミー”と呼ばれます)。2) ご家族が良かれと思って市販のロキソニンを足す、というのが最も危ない場面です。

訪問現場でよくあるヒヤリ場面:「昨日から熱っぽくてぐったりしているので、家にあった痛み止めを飲ませました」——夏場、このお話を伺うたびに肝を冷やします。すでに降圧薬・利尿薬を服用中の方であれば、その一錠が腎臓への“最後の一押し”になりかねません。

③ 発見が遅れやすい・重症化しやすい

高齢の方はのどの渇きを感じにくく、暑さも自覚しにくいため、エアコンを使わずに室内で熱中症になるケースが目立ちます。認知機能の低下があると、症状をうまく訴えられないことも。だからこそ在宅では「本人任せ」にせず、周囲の目による予防と早期発見が命綱になります。

場面やってはいけないこと望ましい対応
熱っぽく、ぐったりしている 手元の解熱鎮痛薬(ロキソニン等)を飲ませる 涼しい場所で体を冷やし、意識があれば経口補水液。改善なければ受診・相談
すでに降圧薬・利尿薬を服用中 市販薬を自己判断で追加する 薬を足す前に必ず主治医・訪問看護へ連絡
水分が摂れない/反応が鈍い 様子を見て自宅で経過観察 ためらわず救急要請。かかりつけにも連絡

在宅療養では、「熱が出たときの対応」をあらかじめ主治医と決めておくことが何よりの予防になります。どんなときに冷やし、どんなときに連絡し、どんなときに救急を呼ぶのか。私たちは訪問時に、ご本人・ご家族と一緒にこの“わが家のルール”を整えるお手伝いをしています。

04よくある質問

すでにロキソニンを飲んでしまいました。どうすれば?
まずは落ち着いて、涼しい場所で体を冷やし、意識がはっきりしていれば経口補水液を少しずつ。1回飲んだだけで直ちに重篤になるとは限りませんが、ぐったりしている・水が飲めない・反応が鈍いなどがあれば受診や救急要請を。持病があり降圧薬・利尿薬を飲んでいる方は、念のため主治医や訪問看護にご相談ください。
頭痛がつらいのですが、痛み止めもダメ?
熱中症による頭痛は、多くが脱水と体温上昇そのものが原因です。まず「冷やす・水分・涼しい場所」で体を回復させることが、結果的に頭痛の改善につながります。薬で痛みを抑えても根本は解決せず、かえって腎臓などに負担をかけます。改善しない・強い頭痛が続く場合は、我慢せず受診してください。
解熱シートやアイスノンで頭を冷やせば熱は下がる?
おでこの冷却シートは気持ちよさはありますが、体温を下げる効果はほとんど期待できません。冷やすなら、太い血管が皮膚の近くを通る首すじ・わきの下・足の付け根を保冷剤や濡れタオルで冷やすのが効率的です。

この記事のまとめ

  • 熱中症の熱は「体温設定の上昇」ではなく「放熱の破綻」。だからロキソニンなどの解熱薬は効かない
  • 脱水した体に飲ませると、腎臓・肝臓・血液に追い打ちをかける恐れがある。
  • アセトアミノフェンも同様に「使わない」のが原則(『熱中症診療ガイドライン2024』)。
  • 正解は薬ではなく「涼しい場所・体を冷やす・水分/塩分」。重症サインがあれば迷わず119番。
  • 在宅療養の方は腎機能や飲み合わせの点で特にハイリスク。市販薬を足す前に必ず相談を。

「うちの場合はどうすれば?」に、訪問診療でお答えします

ご高齢の方や持病のある方が安全に夏を越えるには、その方の腎機能・お薬・生活環境に合わせた個別の備えが欠かせません。ふくろう訪問クリニックでは、熱が出たときの対応や飲み合わせの確認まで、ご自宅に伺って一緒に整えます。

福岡市早良区周辺で訪問診療をお探しの方は、お気軽にご相談ください。

参考文献

  1. 日本救急医学会 熱中症および低体温症に関する委員会.『熱中症診療ガイドライン2024』. 2024年7月25日公表.(解熱薬〔NSAIDs・アセトアミノフェン〕は肝・腎障害や凝固障害を悪化させうるため「使用しないことを弱く推奨」、Active Cooling/迅速な冷却を推奨)
  2. Dreischulte T, et al. Combined use of nonsteroidal anti-inflammatory drugs with diuretics and/or renin–angiotensin system inhibitors in the community increases the risk of acute kidney injury. Kidney Int. 2015;88(2):396-403. doi:10.1038/ki.2015.101(利尿薬+RAS阻害薬+NSAIDsの併用〔トリプルワミー〕による急性腎障害リスク上昇)
  3. 日本腎臓学会. NSAIDsによる腎障害(薬剤性腎障害の機序に関する総説). 日本腎臓学会誌 58(7):1059-1063.

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の診断・治療に代わるものではありません。症状や持病、服用中のお薬によって最適な対応は異なります。判断に迷う場合は、かかりつけ医・訪問看護、または救急(119番)にご相談ください。