骨転移のランマーク投与はいつまで続けるべきか?

骨転移の治療でランマーク(一般名デノスマブ)を打ち続けている方から、あるいはご家族から、「これはいつまで続けるのですか」と尋ねられることがよくあります。

がんそのものが治る見込みはない。それでも4週間ごとに通院して、注射を受ける。歯の治療も自由にできない。この注射に、まだ意味はあるのだろうか——。

実はこの問いに、長いあいだ明確な答えはありませんでした。ところが2026年6月、正面から取り組んだ大規模試験の結果が発表され、状況が動いています。この記事では、治癒が見込めない前立腺がんの骨転移を主な例に、最新の医学情報と日本の保険制度の両面から整理します。

SECTION 01 まず、結論から

長くなるので、先に要点を5つ挙げます。

1「何年で終わり」という区切りは、どこにも書かれていない

添付文書にも、国内外のどの診療ガイドラインにも、投与期間の上限は定められていません。米国臨床腫瘍学会(ASCO)は2000年以来、「全身状態が大きく低下するまでは継続」という立場を取り続けています。

2この注射は「がんを小さくする薬」ではない

目的は、骨折・脊髄の圧迫による麻痺・骨への放射線治療といった「骨のトラブル」が起きる日を遅らせることです。効果の大きさは、比較試験で「約3〜4か月遅らせる」程度でした。生きられる期間が延びることは示されていません。

32026年、「間隔を空ける」という第三の道が現実味を帯びた

2026年6月に発表されたREDUSE試験で、最初の3か月を過ぎたら投与間隔を4週ごとから12週ごとに空けても、骨のトラブルを防ぐ力は落ちず、副作用はむしろ減ることが示されました。「続けるか、やめるか」の二択で考える必要はありません。

4やめたあと、6〜15か月に骨のトラブルが増える時期がある

この薬は骨に貯まらないため、切れると骨の吸収が跳ね返ります。福岡の九州がんセンターからの2025年の報告では、中止後の骨関連事象は投与中の約3.3倍に増え、12〜15か月がピークでした。「やめる」ことは「何もしなくてよくなる」ことではありません。

5保険上、投与期間そのものに上限はない

「長く続けたこと自体」を理由に査定される制度上の根拠はありません。減点されやすいのは期間ではなく、病名・用法・併用薬のズレです。詳しくはSECTION 09で扱います。

SECTION 02 ランマークは何をしている薬か

骨は、こわす細胞(破骨細胞)とつくる細胞(骨芽細胞)が入れ替わりながら、絶えず作り直されています。がんが骨に転移すると、がん細胞がこのバランスに割り込み、破骨細胞をどんどん活性化させます。骨がもろくなるのはそのためです。

その活性化のスイッチになっているのがRANKL(ランクル)というたんぱく質です。ランマークは、このRANKLに結合して破骨細胞の形成・機能・生存を抑え、骨の吸収を抑えることで、がんによる骨病変の進展を抑えると考えられています。

ここで大事なのは、がん細胞そのものを叩く薬ではないという点です。骨転移があっても、まず優先されるのは抗がん剤・ホルモン療法・分子標的薬など、がんの勢いを抑える治療です。ランマークやゾレドロン酸(ゾメタ)は、その横で「骨のトラブルを減らす」役割を担う補助的な薬——だから骨修飾薬(BMA)と呼ばれます。

防ごうとしている「骨関連事象(SRE)」とは

試験でも実臨床でも、この薬の成績は「SRE(skeletal related events:骨関連事象)をどれだけ減らせたか」で測られます。中身は次の4つです。

図1 ランマークが防ごうとしている「骨関連事象(SRE)」
1 病的骨折 転移で弱った骨が、ふだんの動作や軽い転倒で折れる 2 脊髄圧迫 背骨の転移が神経を押し、しびれ・麻痺・排尿障害が出る 3 骨への放射線治療 痛みや切迫骨折のために、放射線をかける必要が生じる 4 骨の手術 折れた骨や折れそうな骨を、金属などで固定する手術

試験によっては、高カルシウム血症をSREに含める場合もあります。REDUSE試験では、実際に症状を伴ったもの(症候性SRE)が評価対象とされました。

「4週間に1回」という間隔には、実は強い根拠がなかった

日本の添付文書では、多発性骨髄腫による骨病変および固形癌骨転移による骨病変に対して、デノスマブとして120mgを4週間に1回、皮下投与すると定められています。

ところが、この「4週ごと」という間隔は、薬の効き方から逆算して決められたものではありません。REDUSE試験の説明資料には、「4週ごとという設定は、化学療法と同じ日に投与できるという利便性に基づくものである。これらの薬剤の骨における半減期は数か月、あるいは数年に及ぶ」と率直に書かれています。

つまり最初から、「もっと空けてもよいのではないか」という疑問はくすぶっていたわけです。この点は、あとで大きな意味を持ちます。

SECTION 03 効果の大きさを、数字で確かめる

「いつまで続けるか」を考えるには、まず「どれだけ効くのか」を具体的な数字で知っておく必要があります。ランマークの承認根拠になったのは、ゾレドロン酸と比較した3つの第III相試験です。日本の添付文書に、そのまま数字が載っています。

表1 ランマークの承認根拠となった3つの第III相試験(対照はゾレドロン酸)
対象初回SREまでの期間(中央値)ハザード比(95%CI)読みどころ
骨転移のある進行乳がん
(国際共同・日本参加、2,046例)
ランマーク:到達せず
ゾレドロン酸:806日
0.82(0.71–0.95) 非劣性に加え、優越性も示された(p=0.0101)
骨転移のある去勢抵抗性前立腺がん
(海外、1,901例)
ランマーク:629日
ゾレドロン酸:521日
0.82(0.71–0.95) 優越性も示された(p=0.0085)。差は約108日
多発性骨髄腫/乳がん・前立腺がん以外の進行固形がん
(海外、1,776例)
ランマーク:625日
ゾレドロン酸:496日
0.84(0.71–0.98) 非劣性は示されたが、優越性は示せなかった(p=0.0619)

前立腺がんの行を、もう一度ゆっくり読んでみてください。骨のトラブルが初めて起きるまでの期間の中央値が、521日から629日へ、およそ108日(約3.5か月)延びた。これがこの薬の効果の実像です。

決して小さくはありません。骨折や麻痺は、それ自体が生活を一変させます。ただ同時に、次のことも意味しています。

効果が現れる時間軸は「年単位」である。初回SREまでの中央値が1年半〜2年という試験なのですから、この薬の恩恵を受け取るには、それだけの時間を生きる必要があります。予後が数週間から1〜2か月と見込まれる段階で新たに始めても、上乗せはほとんど期待できません。

もう一つ、表の3行目(乳がん・前立腺がん以外の固形がんと骨髄腫)に注目してください。ここではゾレドロン酸に対する優越性が示せていません。すべてのがん腫で同じように優れているわけではないという事実は、後の判断に効いてきます。

SECTION 04 続けるほど、確実に増えていくもの

効果の話をしたので、次は代償の話をします。ランマークの副作用には、「長く続けるほど増える」性質のものがあります。

顎骨壊死(がっこつえし)

あごの骨が壊死し、骨がむき出しになったり、膿が出たりする状態です。日本の添付文書には、「本剤の長期投与により顎骨壊死の発現率の増加が認められている」とはっきり書かれています。頻度は、重大な副作用として顎骨壊死・顎骨骨髄炎が1.8%と記載されています。

では実際に、期間でどれくらい違うのか。日本の6学会などによる「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」は、がん患者での累積発症率を次のようにまとめています。

図2 投与期間と顎骨壊死の累積発症率(がん患者に対する高用量投与)
薬剤 投与期間 顎骨壊死の累積発症率 0 5 10 15 20 (%) ゾレドロン酸 2年以内 1.6〜4% ゾレドロン酸 2年を超える 3.8〜18% デノスマブ 2年未満 1.9% デノスマブ 2年を超える 6.9% 濃い色=報告された下限値まで、淡い色=上限値までの幅を示す。 出典:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(Ng TL ら 2021 のシステマティックレビューに基づく)

2年を境に、およそ3〜4倍に増えています。ゾレドロン酸の「2年超」で幅が大きいのは、対象集団や診断基準が研究ごとに異なるためです。臨床試験では歯科管理が徹底されるぶん、実地診療より低く出る傾向があることも指摘されています。

歯科は「始める前」に済ませておくのが原則

ポジションペーパー2023は、投与開始前に必要な抜歯などの侵襲的な歯科治療を済ませておくことが顎骨壊死の予防に有効だとしています。一方で、いったん始まった後の抜歯については、「抜歯時に骨吸収抑制薬を休薬しないことを提案する(弱く推奨)」という立場に変わりました。休薬の利益を示した研究がなかったためです。

また、前立腺がんの骨転移253例を対象にした前向き研究では、3か月ごとの歯科介入を行わなかった群は、行った群に比べて顎骨壊死の発症リスクが2.59倍高かったと報告されています。続けると決めたなら、歯科に定期的にかかり続けることが治療の一部です。

低カルシウム血症 —— 前立腺がんでいちばん多い

ランマークには「警告」欄があり、その筆頭が低カルシウム血症です。治療開始後数日から重篤な低カルシウム血症があらわれることがあり、死亡に至った例も報告されています。だからこそ、血清補正カルシウム値が高くない限り、カルシウムと天然型ビタミンDの内服を併用したうえで投与することが求められています(デノタスチュアブル配合錠などが使われます)。

ここで注目したいのは、がん腫によって頻度がかなり違うことです。

表2 第III相試験における低カルシウム血症の発現頻度(有害事象として)
対象ランマーク群ゾレドロン酸群うち重篤(ランマーク群)
進行乳がん5.6%3.5%0.5%
去勢抵抗性前立腺がん12.8%5.8%2.5%
骨髄腫/その他の固形がん10.8%5.8%1.4%

前立腺がんの骨転移は、骨が溶けるタイプ(溶骨性)よりも、骨が過剰に作られるタイプ(造骨性)が主体です。血液中のカルシウムが骨にどんどん取り込まれていくところに、骨吸収を止める薬が入るため、カルシウムが下がりやすい。前立腺がんの方こそ、カルシウム・ビタミンDの内服を切らさないこと、採血で補正カルシウム値を見続けることが重要だといえます。

腎機能も関係します。添付文書によれば、クレアチニンクリアランス30mL/min未満の重度腎障害患者では18.8%、透析が必要な末期腎不全患者では62.5%に低カルシウム血症が生じたと報告されています。腎機能が悪い方では、ビタミンDを活性型に切り替えるなどの調整が必要です。

そのほかに、長期投与で問題になるもの

  • 非定型骨折:大腿骨の付け根の下あたりなどが、軽い力で折れることがあります。完全に折れる数週間〜数か月前に、太ももや鼠径部の痛みが先行することがあるとされています。
  • 治療中止後の多発性椎体骨折:重大な副作用として添付文書に明記されています。これは次のSECTION 07で詳しく扱います。
  • 重篤な皮膚感染症(0.1%):蜂窩織炎などです。

SECTION 05 2026年6月、答えの一つが出た —— REDUSE試験

ここまでを整理すると、ジレンマがはっきりします。やめれば骨のトラブルが増えるかもしれない。続ければ顎骨壊死が増えていく。この板挟みに、長いあいだ良い解決策がありませんでした。

ゾレドロン酸については、投与間隔を4週から12週に空けても効果が落ちないことが、すでに複数の試験(ZOOM試験、CALGB 70604試験、OPTIMIZE-2試験)で示されていました。日本の「骨転移診療ガイドライン 改訂第2版」(2022年)も、CQ28として「ゾレドロン酸の投与間隔を4週から最大12週まで延長すること」を提案しています(推奨の強さ:弱い、合意率90.6%、エビデンスレベルB)。

ところが、デノスマブについては同じ質問に答える臨床試験がありませんでした。ポジションペーパー2023にも「現在はREDUSE試験の結果待ちである」と書かれていたほどです。

結果:12週ごとで、効果は落ちず、副作用は減った

そのREDUSE試験(SAKK 96/12)の主要な結果が、2026年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表されました。乳がんまたは去勢抵抗性前立腺がんの骨転移患者、計1,380例という、この領域で最大規模の試験の一つです。

最初の3か月は両群とも4週ごとに投与し(導入期)、その後、4週ごとを続ける群と12週ごとに空ける群に振り分けました。

図3 REDUSE試験(SAKK 96/12)の主な結果
評価項目 4週ごと(従来) 12週ごと 導入期のあとの投与間隔 4週間に1回 12週間に1回 初回の症候性SREまでの期間 (比較の基準) 非劣性が示された 低カルシウム血症 46% 30% 顎骨壊死 8.5% 6.9%

初回および2回目以降のSREまでの期間についても非劣性が示されました(層別ハザード比 1.043、90%信頼区間 0.907–1.198)。2024年ASCOで先行報告された中間解析では、顎骨壊死または歯の感染が起きるまでの期間が12週ごと群で有利で、ハザード比0.67(95%CI 0.48–0.93)でした。

試験を報告した研究チームの結論は明快でした。「12週ごとの投与は、乳がん・去勢抵抗性前立腺がんの骨転移患者における新しい標準治療である」——効果は同等で、毒性・通院負担・コストが下がる、という理由です。

日本での位置づけについての注意。日本の添付文書は現在も「4週間に1回」のままです。したがって12週ごとの投与は、添付文書の用法から外れる使い方になります。骨転移診療ガイドラインでゾレドロン酸についてのみ12週延長が提案されているのも、デノスマブの試験結果が当時まだ出ていなかったためです。今後の学会ガイドライン改訂で扱いが変わる可能性がありますが、2026年8月時点では、主治医が個別に判断する領域だとお考えください。

SECTION 06 それで結局、いつまで続けるのか

「何年」という答えを期待して読んでこられた方には申し訳ないのですが、その数字はどこにも存在しません。存在しない理由も、はっきりしています。投与期間の最適解を検証した無作為化比較試験が、まだないからです。

ASCOのガイドラインは2000年以来、「全身状態(パフォーマンスステータス)が大きく低下するまでは無期限に使用する」という推奨を維持しています。2017年の改訂でも、投与期間の推奨は変更されず、「長期使用の利益と害を天秤にかけることが重要である」という注意書きが添えられただけでした。

日本でも事情は同じです。「前立腺癌診療ガイドライン 2023年版」の作成過程では、「骨修飾薬の併用は必要か、またいつまで投与すべきか」というクリニカルクエスチョンが候補に挙がりましたが、採用されず、未解決の課題として持ち越されました。専門家が集まっても答えが出せなかった、ということです。

「続ける/空ける/やめる」を分ける材料

答えがない以上、目の前の一人ひとりで判断するしかありません。実際の診療で天秤にかけているのは、次のような材料です。

図4 「いつまで」を決めるときに見ている3つの道
A.4週ごとを続ける 骨転移の勢いが強い/過去にSREを起こした/新しい骨転移が出ている 歯・あごの状態が良好で、定期的な歯科受診と採血が続けられる B.間隔を空ける(12週ごとなど) 導入期を終え、骨転移が落ち着いている/通院そのものが負担になってきた 顎骨壊死や低カルシウム血症のリスクを下げたい ※日本では用法外の判断 C.中止する 顎骨壊死が起きた/低カルシウム血症を繰り返す/通院・訪問での管理が困難 全身状態が大きく低下し、年単位の効果を待てる見通しがなくなった

実際には、この3つの間を行き来します。「Aで始めてBに移り、最後にCへ」という流れが自然なことも多くあります。

SECTION 07 やめると何が起きるか —— 福岡からの報告

「やめる」を選ぶときに、必ず知っておいていただきたいことがあります。

ランマークは、ビスホスホネート(ゾレドロン酸など)とは性質が違います。ビスホスホネートは骨に取り込まれて長く留まりますが、デノスマブは抗体なので骨には貯まりません。効果が切れると、抑えつけられていた骨の吸収が反動で強まる——これをリバウンド現象と呼びます。添付文書にも「治療中止後の多発性椎体骨折」が重大な副作用として記載されています。

骨粗鬆症でのリバウンドはよく知られていましたが、がんの骨転移で使う高用量(120mg)を中止したときのデータは長く不足していました。そこに、福岡の九州がんセンターの整形外科チームが2025年に報告を出しました。

図5 高用量デノスマブ中止後の骨関連事象(SRE)の増え方
時期 SREの起きやすさ(投与中を1とした倍率) 0 2 4 6 8 10 (倍) 投与を続けている間 1(基準) 中止後(全期間) 3.3倍 中止後 12〜15か月 8.7倍 九州がんセンターの78例の解析。中止後の増加は6〜15か月で統計学的に有意となり、その後は低下した。 出典:Setsu N ら, Journal of Bone Oncology, 2025

中止後の発生率は1,000人・月あたり14.1件で、投与中の3.3倍(95%CI 1.4–7.8)。12〜15か月の時期がピークで、発生率比は8.7倍(95%CI 2.8–27.5)でした。

この報告からは、実践的な示唆がいくつも読み取れます。

  • グレード3以上の高カルシウム血症は、中止後にだけ起きた(3例)。骨から一気にカルシウムが放出されるためで、投与中の「低カルシウム」とは逆向きの問題です。
  • 中止6か月時点のALP(アルカリホスファターゼ)が95 U/L以上だと、その後のSREを予測できた(AUC 0.80)。やめた後も採血で見ておくべき項目がある、ということです。
  • 投与回数が少なかった人ほど、中止後のSREが多かった。短期間で中断した場合こそ注意が必要と示唆されます。
「やめる」は「何もしなくてよくなる」ではありません

中止を決めたなら、やめた日で終わりにせず、少なくとも1年程度は、背中や腰の新しい痛み、しびれ、脱力に注意を払ってください。採血ではカルシウムとALPを見ておく価値があります。骨粗鬆症の領域では、デノスマブ中止後にビスホスホネートへ切り替えてリバウンドを和らげる方法が検討されていますが、がんの骨転移で同じことをすべきかは、まだ確立した答えがありません。

SECTION 08 やめておいたほうがよい、あるいは特に慎重にすべき場面

ご質問の中に「使わないほうがよいがん腫はあるのか」という点がありました。これは3つのレベルに分けて考えると整理しやすくなります。

レベル1:そもそも適応がない

ランマークの効能・効果は「多発性骨髄腫による骨病変及び固形癌骨転移による骨病変」と「骨巨細胞腫」だけです。次のような場面は適応外です。

  • 骨転移が確認されていない場合。PSAが上がっているだけ、腰が痛いだけでは適応になりません。画像で骨転移が裏づけられていることが前提です。
  • 多発性骨髄腫以外の造血器腫瘍(悪性リンパ腫、白血病など)の骨病変。骨髄腫だけが例外的に適応に含まれています。
  • ホルモン療法や薬物療法に伴う骨密度の低下(がん治療関連骨減少症)。前立腺がんのアンドロゲン遮断療法中や、乳がんのアロマターゼ阻害薬使用中に骨がもろくなることはよくありますが、これは骨粗鬆症の枠組みで、デノスマブ60mg(プラリア)が使われる場面です。同じ成分でも、ランマーク120mgの守備範囲ではありません。
  • 妊婦または妊娠している可能性のある女性は禁忌です。

レベル2:効果の上乗せが小さいかもしれない場面

乳がん・前立腺がん以外の固形がんと骨髄腫。SECTION 03の表1の3行目で見たとおり、この集団ではゾレドロン酸に対する優越性が示せませんでした(HR 0.84、p=0.0619)。「ランマークでなければならない」根拠は、乳がん・前立腺がんほど強くありません。腎機能が保たれていて点滴も可能なら、ゾレドロン酸で十分という判断もあり得ます。

予後が数週間〜数か月と見込まれる段階。初回SREまでの中央値が1年半〜2年という薬です。残された時間がそれより明らかに短ければ、恩恵が実現する前に経過してしまいます。新たに始める意味は乏しく、続けている場合も見直す時期です。

骨転移が小さく、SREのリスクが低い場合。骨シンチグラフィでわずかに集積があるだけで、荷重のかかる骨に病変がなく、痛みもない——という状況では、得られる差は小さくなります。

レベル3:リスクが相対的に大きい場面

表3 特に慎重な判断・準備を要する状況
状況理由と対応
前立腺がん(造骨性の骨転移)低カルシウム血症の頻度が最も高い(12.8%、うち重篤2.5%)。カルシウムと天然型ビタミンDの内服を絶対に切らさず、開始直後は頻回に採血する。
高度の腎機能障害・透析重度腎障害で18.8%、透析患者で62.5%に低カルシウム血症。ビタミンDを活性型に変更し、カルシウム量も調整する。ゾレドロン酸が使いにくい方にデノスマブが選ばれることは多いが、その分こちらの管理が要る。
甲状腺がんの術後、胃切除後、ビタミンD欠乏副甲状腺機能低下やカルシウム吸収低下があると、低カルシウム血症を起こしやすい。開始前に補正カルシウム値を必ず確認する。
口の中に治療していない虫歯・歯周病がある顎骨壊死の最大のリスク因子は、抜歯そのものよりも「顎骨の感染」。可能な限り開始前に歯科治療を終えておく。
ステロイド、血管新生阻害薬、mTOR阻害薬の併用、糖尿病、喫煙いずれも顎骨壊死のリスク因子として挙げられている。重なるほど注意が要る。
ゾレドロン酸からの切り替え切り替えが顎骨壊死の危険因子になるという報告が複数ある。切り替える理由が明確かを確認する。
骨端線が閉じていない小児・若年中止後(数週間〜数か月後)に、急性腎障害を伴う重篤な高カルシウム血症が起きた例が報告されている。

SECTION 09 保険のルールと、査定されやすいところ

ここからは医療者・医療事務の方向けの内容が中心になりますが、患者さんが「なぜこの薬は続けられるのか/続けられないのか」を理解するうえでも役に立ちます。

まず、投与期間に上限はない

結論から書くと、ランマークの投与回数や投与期間について、保険上の上限は設定されていません。添付文書にも「◯年まで」という記載はありません。したがって「3年続けたから」「50回打ったから」という理由だけで査定される制度上の根拠はありません。

ただし、療養担当規則が求める「必要があると認められる場合に行う」という大原則は当然かかります。骨転移の病名が転帰済みになっている、画像上の裏づけが何年も更新されていない、といった状態で漫然と請求が続けば、審査の対象になり得ます。

実務上、指摘を受けやすいのは「期間」ではなく「ズレ」

表4 ランマークで指摘を受けやすい主なパターン
パターン背景
骨転移の病名がない/画像の裏づけがない効能・効果は「固形癌骨転移による骨病変」。原発巣の病名だけでは足りない。
骨転移のない骨密度低下に120mgを使用アンドロゲン遮断療法中やアロマターゼ阻害薬使用中の骨量減少は、プラリア60mgの領域。
4週未満の間隔での投与用法は「4週間に1回」。月をまたぐ日付の管理も含めて注意が要る。
プラリアとの併用添付文書に「本剤投与中の患者にはプラリアの投与を避けること」と明記されている。
ゾレドロン酸など他の骨修飾薬との同時併用同じ目的の薬剤の重複投与にあたる。切り替えなら、切り替えたことが分かる記載を残す。
骨髄腫以外の造血器腫瘍の骨病変悪性リンパ腫・白血病の骨病変は適応外。
カルシウム・ビタミンDの補充や血清カルシウム測定の記録がない「警告」欄で求められている管理。査定というより、安全性の観点で問題になる。
12週ごとに空けた場合はどうなるか

REDUSE試験の結果を受けて間隔を空ける場合、日本では添付文書の用法から外れることになります。もっとも、請求額が下がる方向の変更なので減点(査定)の対象になるものではありません。むしろ問題になるのは記録のほうで、なぜ間隔を空けたのか(副作用、顎骨壊死のリスク、通院負担、患者の希望など)をカルテに残しておくことが、後から説明できる状態を保つ最善の方法です。

費用 —— バイオシミラーが2026年に登場した

ランマーク皮下注120mgの薬価は1瓶42,706円です(2026年8月時点)。4週に1回で1年間続けると13回、薬剤費だけで約55万円になります。3割負担なら年間約17万円、1割負担でも約5.5万円です(高額療養費制度による上限がかかります)。

ここに変化がありました。2026年5月19日、デノスマブのバイオシミラー「デノスマブBS皮下注120mgRM『F』」(富士製薬工業)が薬価収載され、薬価は1瓶23,481円——先行品の約55%になりました。同じ効能・効果、同じ用法・用量です。

令和8年度(2026年度)診療報酬改定でも、バイオ後続品使用体制加算の見直しなど、切り替えを後押しする仕組みが強化されています。「長く続ける」ことを選ぶなら、この選択肢を主治医と相談する価値は十分にあります。

当院の視点

この一連の情報から、私が最も大事だと考えているのは次の3点です。

1「続けるか、やめるか」の二択で考えない

2026年のREDUSE試験は、この二択そのものを崩しました。効果を保ったまま負担と副作用を下げる道があるなら、まずそこを検討すべきです。やめる決断は、その先にあります。

2やめどきを決めるのは「年数」ではなく「時間の見通し」

この薬の効果は年単位の時間軸で現れます。ですから問うべきは「何年打ったか」ではなく、「これから先、年単位の効果を受け取れる見通しがあるか」です。全身状態が落ちてきたとき、それが自然な区切りになります。

3やめたあとにも、見ておく期間がある

九州がんセンターの報告が示したとおり、中止後6〜15か月は骨のトラブルが増えます。「やめました、以上」ではなく、その後1年ほどの見守りまで含めて計画を立てるのが、責任のあるやめ方だと考えています。

在宅医療の視点から —— 通院が難しくなったとき、この注射をどうするか

ふくろう訪問クリニックには、外来でランマークを続けてきた方が、通院が難しくなって在宅に移ってこられることがあります。そのとき最初に決めなければならないのが、この注射の扱いです。

在宅で打つこと自体はできる

ランマークは皮下注射です。30分ほど横になる必要のあるゾレドロン酸の点滴とは違い、訪問診療の場で投与すること自体は技術的に可能です。「通院できなくなったから即中止」ではありません。

ただし、在宅で続けるには3つがセットで必要

1.採血でカルシウムを見続けること。補正カルシウム値の確認は「警告」欄で求められている管理です。訪問での採血体制が組めるかどうかが第一の条件になります。

2.カルシウムと天然型ビタミンDの内服を切らさないこと。デノタスチュアブル配合錠などが使われます。飲み込みが難しくなったり、内服がまとめて中止されたりしたときに、この一剤だけ抜け落ちてしまうことがあります。腎機能が低下していれば活性型ビタミンDへの変更も要ります。

3.歯科とつながっていること。顎骨壊死の予防には、投与中も定期的な歯科受診が要ります。通院が難しい方であれば、訪問歯科との連携が現実的な選択肢になります。訪問歯科が入っていない状態で高用量のデノスマブを続けることには、私は慎重です。

この3つが回らなくなったときが、実質的な「やめどき」

逆にいえば、採血・内服・歯科のどれかが維持できなくなったときが、現実的な区切りになります。そしてその状況は多くの場合、全身状態が落ちてきていることのサインでもあります。ASCOがいう「パフォーマンスステータスの大きな低下」は、在宅の現場ではこういう形で現れます。

「骨の薬をどうするか」は、話し合いの良い入り口になる

終末期の話し合い(ACP)は、切り出すのが難しいものです。ただ、「4週ごとの注射をどうしますか」という具体的な問いは、そこに入る自然な入り口になります。何のために打っているのか、これから何を大事にしたいのか。薬一つの相談から、そういう話に自然につながっていくことが少なくありません。

なお、末期の悪性腫瘍と診断されている方は、訪問看護が医療保険の扱いになり、週4日以上の訪問や1日複数回の訪問も可能になります(訪問看護療養費の別表第七)。40〜64歳の方も「がん(末期)」として介護保険の対象になります。骨転移で動きにくくなっている方こそ、この枠組みを使う価値があります。

SECTION 10 主治医に聞いてみるとよいこと

最後に、外来や訪問診療の場で使える質問を挙げておきます。どれも「治療をやめたい」という意思表示ではなく、一緒に見直すための問いです。

Q1.私の骨転移は、いま落ち着いていますか。増えていますか。

続けるか、間隔を空けるかを分ける最初の材料です。

Q2.これまでに骨のトラブル(骨折・麻痺・骨への放射線治療)はありましたか。

一度起きた方は、次も起きやすい傾向があります。

Q3.投与間隔を3か月ごとに空けるという選択肢は、私に当てはまりますか。

2026年に発表されたREDUSE試験の結果を踏まえた質問です。日本では添付文書の用法外になるため、主治医の判断が要ります。

Q4.歯科にはどのくらいの間隔でかかればよいですか。訪問歯科は使えますか。

続けると決めたなら、歯科受診は治療の一部です。

Q5.もしやめる場合、そのあと何を、どのくらいの期間見ていけばよいですか。

中止後6〜15か月という時期があることを知ったうえでの質問です。カルシウムとALPの採血、新しい背部痛への注意などが答えになるはずです。

Q6.バイオシミラーに変えることはできますか。

2026年5月に薬価収載され、薬剤費は先行品の約55%です。長く続けるほど差が大きくなります。

SECTION 11 まとめ

治癒が見込めない骨転移に対して、ランマークをいつまで続けるか。この問いに、確定した年数の答えはありません。ASCOは「全身状態が大きく低下するまで」と述べ、日本の学会も未解決の課題として扱っています。

しかし答えがないことと、考える材料がないことは違います。この薬が防いでいるのは骨のトラブルであり、その効果は年単位で現れること。続けるほど顎骨壊死は増えていくこと。2026年に、間隔を空けても効果が落ちないと示されたこと。やめたあとに反動の時期があること。——これだけの材料が、いまは手元にあります。

「なんとなく続いている」状態から、「材料を並べたうえで、いまはこうする」という状態へ。それが、この記事でお伝えしたかったことです。

この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の治療方針を示すものではありません。ランマーク(デノスマブ)の継続・中止・間隔の変更は、必ず主治医とご相談のうえ決めてください。自己判断での中止は、リバウンドによる骨折や高カルシウム血症につながる可能性があります。
ふくろう訪問クリニックでは、福岡市早良区を中心に、がんの終末期を含む在宅診療を行っています。骨転移の痛みや薬の管理、通院が難しくなったあとの療養についてのご相談も承っています。

参考文献・出典

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