水素水・水素吸入:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第12回/全30回
水素水・水素吸入

なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか

水素水は、この連載で扱うもののなかで、いちばん多くの家に置いてあるものです。 「活性酸素を消す」「がんを予防する」「体が若返る」。そしてこの話にも、元になった本物の研究があります。 この回では、その研究と、ペットボトルの水の間にある距離を測ります。

この連載の現在地 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 第12回 水素水・水素吸入

この回の結論

  1. 水素が体に良い可能性を示した研究は、ラットに高濃度の水素ガスを吸わせた実験から始まりました。飲む水の話ではありません。
  2. 市販の水素水には公的な基準がなく、国民生活センターの調査では、水素が入っていない製品も、表示より少ない製品もありました。開けると抜けます。
  3. 「活性酸素を消す」「がんを予防する」などの効果は、国の評価で「信頼できる十分なデータが見当たらない」とされ、消費者庁は根拠のない表示に措置命令を出しています。

SECTION 01 元になった、本物の研究

2007年、日本の研究者が「水素ガスが体に悪い活性酸素だけを選んで消す」という論文を発表しました。 培養した細胞と、脳の血流を止めたラットに水素ガスを吸わせる実験で、脳の損傷が抑えられました(Ohsawa ら、Nat Med 2007)。 水素水ブームは、ここから始まりました。

この研究は、その後も続いています。心臓が止まって蘇生したあとの患者さんに、集中治療室で2%の水素ガスを18時間吸わせる治療は、 日本で先進医療として比較試験が行われました。73人の小さな試験で、主な目標(脳の回復)には統計的な差が出ませんでしたが、 90日後の生存は85%と61%で、水素を吸った組のほうが良い傾向でした(Tamura ら、eClinicalMedicine 2023)。

ここだけ覚える本物の研究は「集中治療室で、高濃度の水素ガスを、18時間吸う」。ペットボトルの水ではありません。

SECTION 02 研究と、店頭の水の間にあるもの

図1 「水素の研究」と「店頭の水素水」の間にある、4つの段差 1 量の段差:吸う水素ガスと、水に溶けた水素 水に溶ける水素は、1リットルにせいぜい1.6ミリグラム。吸入とは桁が違います 2 対象の段差:心停止後の患者と、健康な人 研究は重い酸化ストレスのある人が対象。健康な人で効果を示した研究ではありません 3 中身の段差:表示どおり水素が入っているとは限らない 国の調査では、開封時に水素が検出されない製品、表示より少ない製品がありました 4 時間の段差:開けると、抜ける 水素はいちばん小さな分子です。開封後・生成後は徐々に抜け、コップに注げばさらに減ります 腸内細菌も水素を作っていて、食物繊維で増えます。飲む水素の量は、その分も考える必要があります(国の評価より)。

図1 「水素の研究がある」から「この水が効く」までには、量・対象・中身・時間の4つの段差がある。宣伝は、この段差を飛び越える。

根拠はどこまであるか

国民生活センターは2016年12月、容器入りの水素水10銘柄と生成器9銘柄を実際に測りました。ペットボトルの2銘柄は開封時に水素が検出されず、 濃度を表示していた製品の多くが表示値より低い結果でした。あわせて、10銘柄中6銘柄、生成器9銘柄中7銘柄の販売ページに、 「悪玉活性酸素を無害化する」などの効能をうたう記載があり、薬機法や景品表示法に触れるおそれがあるとして改善を求めました。

国の「『健康食品』の安全性・有効性情報」は、水素水について「俗に『活性酸素を除去する』『がんを予防する』『ダイエット効果がある』などと言われているが、 ヒトでの有効性について信頼できる十分なデータが見当たらない」としています。 消費者庁は2017年3月に水素水の飲料・サプリを売る3社に、2021年3月に生成器を売る4社に、合理的な根拠のない表示として措置命令を出しています。

ここだけ覚える「水素の研究」は本物。「この水が効く」は、国が根拠なしと判断した表示です。

SECTION 03 害は、お金と「安心」

水素水そのものは、ただの水です。飲んで体に害はありません。失うのは、別のものです。

お金のはなし

容器入りは1本数百円、毎日飲めば月1万円を超えます。生成器やサーバーは数万円から数十万円で、「月々のレンタル」や「カートリッジ交換」が続きます。 高齢の方が訪問販売で数十万円の生成器を契約した相談は、消費生活センターに繰り返し寄せられています。 訪問販売なら、契約書を受け取った日から8日間はクーリングオフができます(第26回で詳しく)。

気をつけること

本当の害は、「水素水を飲んでいるから大丈夫」という安心です。血圧の薬を減らした、検診に行かなくなった、がんの治療を先延ばしにした。 水が悪いのではなく、水に預けた安心が、ほかの判断を狂わせます。 また、生成器の一部はアルカリ性の水を作ります。腎臓の病気がある方は、主治医に相談してください(第13回で詳しく)。

  • こう言われたら「水素が活性酸素を消して、がんを防ぎます」
    こう聞き返す「健康な人がこの水を飲んで、病気が減った試験はありますか」
  • こう言われたら「病院でも水素の治療が先進医療になっています」
    こう聞き返す「それは集中治療室で吸う水素ガスですね。この水と同じですか」
  • こう言われたら「水素濃度〇ppmの高濃度です」
    こう聞き返す「開けて1時間後、コップに注いだあとは何ppmですか」
在宅の現場では

枕元に水素水のパウチが積んである家は、珍しくありません。私たちは「やめてください」とは言いません。ただの水なので、飲むこと自体に害はないからです。 代わりに、二つだけ確かめます。一つは、月にいくら使っていて、それが家計を圧迫していないか。もう一つは、水素水を理由に、薬や検診や治療をやめていないか。 この二つが大丈夫なら、「お好きなら、どうぞ」です。水分をしっかり取ること自体は、高齢の方にとって大事なことですから。

ここだけ覚える飲むこと自体は止めません。お金と、水に預けた「安心」だけを確かめます。
在宅医の視点

「研究がある」は、「この商品が効く」ではありません。

水素の研究は、日本の医学者が真面目に続けている本物の研究です。私たちは、その研究が実を結ぶことを願っています。 ただ、研究者が集中治療室で確かめようとしていることと、スーパーの棚に並ぶ水は、別のものです。 「研究がある」という事実を、「この商品が効く」の根拠として使う。この形は、水素水に限らず、この連載の多くの回に出てきます。

見分け方は、いつも同じです。「その研究は、この商品を、この使い方で、人に使って確かめたものですか」。 その問いに「はい」と答えられる商品は、宣伝ではなく、承認や特定保健用食品の表示の形で、そう書いてあります。

この回のチェックリスト(第12回ぶん)

  • 「水素の研究」が、吸入ガスの研究であって、飲む水の研究ではないと知っている。
  • 「この水を飲んで病気が減った試験はあるか」を聞いた。
  • 水素水に、特定保健用食品や機能性表示食品として認められたものがないと知っている。
  • 月にいくら使っているかを計算し、家計に照らして決めた。
  • 水素水を理由に、薬・検診・治療をやめたり先延ばしにしたりしていない。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
利用のご案内

「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。

ふくろう訪問クリニック(訪問診療) 福岡市早良区荒江2-6-37 第2渡辺ビル1階
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
クリニックのご案内
ふくろう訪問看護リハビリステーション 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が伺います。
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
ステーションのご案内

訪問看護は、ふくろう訪問クリニック以外がかかりつけの方でもご利用いただけます。 主治医を変える必要はありません。

採用のご案内

在宅医療の現場で、一緒に働く方を募集しています。

ふくろう訪問クリニック 入職祝い金20万円直接応募限定 医師(常勤・非常勤)/看護師/医療事務
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
採用情報のページ
ふくろう訪問看護リハビリステーション 入職祝い金20万円直接応募限定 看護師/理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(常勤・非常勤)
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
求人情報のページ

入職祝い金は、クリニック・ステーションのどちらも20万円です。 人材紹介会社を通さず直接ご応募いただいた方が対象になります。 見学だけでも歓迎します。訪問の経験がない方、ブランクのある方もご相談ください。

Q&A よくある質問

Q水素水は害がないなら、飲んでいてもよいですか。
Aはい。ただの水として飲む分には問題ありません。水分をしっかり取ることは、高齢の方にはむしろ大事です。ただし「効く」と思って高いお金を払い続けること、それを理由に薬や検診をやめることだけは避けてください。
Q水素吸入のサロンや、家庭用の吸入器はどうですか。
A研究で使われているのは、集中治療室で医療用のガスを一定濃度で長時間吸わせる方法です。サロンや家庭用の機器で、健康な人や慢性の病気の人に効果を示した比較試験は、私たちの知る限りありません。水素は燃える気体でもあるので、機器の安全性も確かめてください。
Q親が訪問販売で高い生成器を契約してしまいました。
A訪問販売や電話勧誘なら、契約書を受け取った日から8日以内は無条件でクーリングオフできます。8日を過ぎていても、説明に問題があれば取り消せる場合があります。すぐに消費生活センター(局番なし188、福岡市は 092-781-0999)に相談してください。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. 国民生活センター「容器入り及び生成器で作る、飲む『水素水』―『水素水』に公的な定義等はありません―」2016年12月15日(https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20161215_2.pdf
  2. 消費者庁「水素水生成器の販売・レンタルサービスの提供事業者4社に対する景品表示法に基づく措置命令について」2021年3月30日(https://www.caa.go.jp/notice/entry/023608/
  3. Ohsawa I, Ishikawa M, Takahashi K, et al. Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals. Nat Med. 2007;13(6):688-694(https://doi.org/10.1038/nm1577
  4. Tamura T, Suzuki M, Homma K, Sano M; HYBRID II Study Group. Efficacy of inhaled hydrogen on neurological outcome following brain ischaemia during post-cardiac arrest care (HYBRID II): a multi-centre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial. eClinicalMedicine. 2023;58:101907(https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2023.101907
  5. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」素材情報データベース「水素水」(https://hfnet.nibn.go.jp/material-infodb/material-data/水素水/
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。