「最近、食事に手をつけない」「口に入れたまま、なかなか飲み込まない」「お茶でむせることが増えた」――認知症の親を家で介護していると、食事の悩みはとても身近です。心配のあまり「もうひと口」と勧めて、お互いにつらくなることもあるかもしれません。
認知症の人が食べない・むせる背景には、認知症の種類や進み具合による「食べることのつまずき」と、口の痛みや薬の影響といった治せる原因が重なっていることがあります。この記事では、欧州臨床栄養代謝学会(ESPEN)の認知症の栄養ガイドライン(2024年改訂)[1]、日本老年医学会のガイドライン[2]、系統的レビュー(複数の研究をまとめて評価した研究)などをもとに、原因の見つけ方、家族ができる工夫、進行したときの考え方を整理します。
SECTION 01 結論:「食べない」の理由を探し、食べる場面を整える
つまずく所は、種類や時期で違う
食べ物だとわかりにくい、食べ始められない、気がそれる、飲み込みにくいなど、認知症の種類や進み具合によって「食べることのつまずき」は違います[3][4]。
まず「治せる原因」を確かめる
口の痛みや合わない入れ歯、薬の副作用、気分の落ち込み、痛み、急な病気などが隠れていることがあります。ESPENのガイドラインも、原因を探して対処するよう勧めています[1]。
食事の場面を整えてみる
落ち着ける環境、見分けやすい器、短い声かけ、手で食べられる形、好きなもの。研究の根拠は強くありませんが、害が少なく試しやすい工夫です[1][5]。
進行して食べられなくなったら、本人の望みを中心に
進行した認知症では、胃ろうなどの経管栄養で長生きや肺炎の予防につながるという根拠は見つかっていません[6][7]。口から食べる介助を続ける選択も含めて、家族と医療・ケアチームで話し合います[2]。
SECTION 02 なぜ食べられなくなる?種類と時期で違う「つまずき」
食べることは、「食べ物だと認識する → 口に運ぶ → かんで飲み込みやすくする → 飲み込む」という一連の流れです。認知症では、飲み込む力より前の、食べ物を認識して口に運ぶ段階(先行期)でつまずくことが少なくありません。
アルツハイマー型:食欲や食べ方の変化が目立ち、飲み込みの問題は進むほど増える
宮崎県の精神科病院のもの忘れ外来に通うアルツハイマー型認知症の220人(平均81.6歳)を、家族などへの質問票で調べた研究では、81.4%に何らかの食べることの問題がありました。軽い時期でも約半数(49.5%)に食欲の変化(減る・増える)があり、中ごろには食べ方の習慣や好みの変化が目立ち、重い時期には飲み込みの問題が大きくなっていました。飲み込みの問題(むせなど)があった人の割合は、次のとおりです[3]。
軽度は臨床認知症評価尺度(CDR)0.5と1の99人、中等度はCDR2の63人、重度はCDR3の58人[3]。
軽い時期でも約2割に飲み込みの問題があり、飲み込みの障害は比較的早い時期から始まることがあるとする報告もあります[8][9]。
介護施設に入所している認知症の高齢者233人を調べた日本の研究でも、アルツハイマー型では、重くなると「食べ始められない」「食事に注意を向け続けられない」「手先を使う動作がうまくいかない」といった問題が目立ちました[4]。
レビー小体型:パーキンソン症状とともに飲み込みにくさが
レビー小体型認知症は、体のこわばりや動作の遅さといったパーキンソン症状を伴いやすい認知症です。レビー小体型29人とアルツハイマー型33人を比べた日本の研究では、レビー小体型のほうが、飲み込みにくさ、むせ、飲み込むのに時間がかかる、食欲の低下、便秘などが多く、飲み込みにくさはパーキンソン症状の強さと関係していました[10]。
前頭側頭型・血管性
前頭側頭型認知症では、食欲が増す、食べ物の好みや食べ方の習慣が変わるといった変化が、アルツハイマー型より多くみられ[8]、飲み込みの障害は病気が進んだ時期に出てくるとされます[8][9]。早食いや詰め込みが目立つときは、窒息にも気をつけましょう。
脳梗塞などによる血管性認知症では、障害を受けた脳の場所によって、軽い時期から飲み込みの障害がみられることがあります。先の介護施設の研究でも、血管性認知症では、重症度にかかわらず、脳の障害による神経の症状からくる飲み込みの障害が、軽い時期からみられました[4]。
図1 認知症の種類・時期で違う「食べにくさ」の例
代表的な例です。人によって現れ方は違い、いくつかの型が重なることもあります。
出典:Kai ら[3]、枝広ら[4]、Ikeda ら[8]、Alagiakrishnan ら[9]、Shinagawa ら[10]をもとに作成。
認知症の人の飲み込みの障害の割合は、研究によって13〜57%と幅があります[9]。外来に通う人か、介護施設や病院にいる人か、認知症がどのくらい進んでいるか、質問票で調べたか検査で調べたかといった違いによって、数字が大きく変わるためと考えられます。
SECTION 03 まず確かめたい「治せる・軽くできる原因」
食べる量が減ったら、認知症の進行のせいと決める前に、治せる原因がないかを確かめましょう。ESPENのガイドラインは、低栄養や脱水の原因を探して対処することを勧め、次のような例を挙げています[1]。
- 口の中の問題:かみにくさ、飲み込みにくさ、口の乾き
- 気分の落ち込み(うつ)や不安
- 急な病気(感染症など)や、長く続く痛み
- 体の動きにくさ、手がうまく使えないこと
- 薬の副作用、支える人が足りないなど暮らしの中の問題
かみにくさの陰に、歯の痛みや合わない入れ歯が隠れていることもあります。このほか、便秘や発熱、脱水、急に混乱する「せん妄」なども、食べる量が急に減るきっかけになることがあります。急な変化は、認知症の進行より先に体の不調を疑いましょう。関連記事:「親の元気がない、うつ?認知症?」、「認知症で怒りっぽい・帰りたがる・眠らないとき」。
薬の影響を確かめる
ESPENのガイドラインは、食べる量に影響する副作用がないか、専門職が薬を見直すよう勧めています[1]。厚生労働省の指針は、高齢者で食欲が落ちる原因になりうる薬として、解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)、抗不安薬、抗精神病薬、一部の抗うつ薬などとともに、認知症の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)も挙げています。認知症の行動・心理症状に使う薬では、誤嚥や、体のこわばりなどの症状(錐体外路症状)に注意するよう求めています[11]。
薬が原因かもしれないと思っても自己判断でやめず、ほかの医療機関の薬も含めて主治医や薬剤師に相談してください。なお、ESPENのガイドラインは、食欲や体重を増やす目的で薬を使うことは勧めていません[1]。持病のための塩分などの食事制限が食べる量を減らしていないかも、主治医と見直しましょう。ESPENは、食べる量を減らすおそれのある食事制限は避けるよう勧めています[1]。
SECTION 04 食事の場面の工夫:本人に合うものを試す
ESPENのガイドラインは、落ち着いて食べられる環境、本人の好みに合わせた食事、ほかの人と一緒に食べる機会、必要に応じた介助、こまめな飲み物・間食・手で食べられる食べ物(フィンガーフード)などを勧めています[1]。家庭では、次のような工夫があります。
落ち着ける環境にする
テレビを消し、食卓の上は食事に使う物だけに。家族が一緒に食卓を囲むことも、食べるきっかけになります。
見分けやすい器を使う
白いご飯を白い茶わんに盛ると、見分けにくいことがあります。料理と色がはっきり違う器を試してみましょう。
一品ずつ出し、始めのひと口を手伝う
品数が多いと迷う人には一品ずつ。食べ始められないときは、スプーンを持ってもらい、最初のひと口だけ手を添えるなど、きっかけをつくります。
短い言葉で、せかさずに
「お味噌汁ですよ」など、ゆっくり短い言葉で声をかけ、本人のペースに合わせます。
手で食べられる形、こまめな間食と飲み物
おにぎりや一口大のおかずなど手で食べられる形に。1回の量を減らして回数を増やし、飲み物もこまめに勧めます。むせや飲み込みにくさがある人は、形やかたさを先に主治医などに相談しましょう(SECTION 05)。ご飯などのかたまりは、のどに詰まりやすいこともあります。
好きなもの、食べやすい時間を大切に
好みや昔からの食習慣、目が覚めている時間帯に合わせます。眠そうなときは無理に食べさせず、時間をおきます。
工夫の根拠は、どのくらい確か?
しっかりした研究は多くありません。認知症の人の食事を直接支える方法をまとめた系統的レビュー(2016年、43の介入)では、偏りの少ない研究はなく、食事の介助の効果はまちまちで、人との交流を取り入れた研究は小規模ながら生活の質の一部がよくなる傾向で一致していました[5]。環境や関わり方を変える方法のランダム化比較試験9件(1,502人)をまとめたコクランレビュー(2018年)でも、根拠の確かさは主に低い〜非常に低いとされています[12]。
器の色については、米国の長期療養施設で進行したアルツハイマー型認知症の男性9人を調べた小さな研究で、白い皿から色のはっきりした赤い皿に変えると、食べた量が平均25%、飲んだ量が84%増えました[13]。予備的な結果ですが、手軽に試せる工夫です。ESPENのガイドラインも、たとえば間食やフィンガーフードは、根拠は限られるものの費用がほとんどかからず害もないとして勧めています[1]。
食事だけでは足りないときは、少量でエネルギーやたんぱく質がとれる栄養補助食品もあります。ESPENのガイドラインは、低栄養(またはそのおそれ)がある認知症の人に栄養補助食品を勧めていますが、認知機能をよくする目的では勧めていません[1]。医薬品として医師が処方できる栄養剤もあります(関連記事:「処方できる経腸栄養剤の使い分け」)。
SECTION 05 むせるとき:家でできる基本と、相談のタイミング
米国ボストン周辺の22のナーシングホーム(介護施設)に入居する、最も進んだ段階の認知症の人323人を追った研究では、18か月の間に85.8%に食べることの問題が起こり、41.1%が肺炎になりました[14]。食事中や食後のむせ、のどのゴロゴロは、誤嚥(食べ物や唾液が気管に入ること)のサインのことがあります。むせがなくても誤嚥していることがあり(むせない誤嚥)、食後の熱や痰の増加がサインのこともあります。まず次の基本を確かめましょう。
- ✓目がしっかり覚めているときに、背すじを起こした姿勢で食べる
- ✓一口の量を少なめにし、飲み込んだのを確かめてから次の一口へ
- ✓水分でむせるときは、とろみをつけることを主治医に相談する
- ✓食後しばらくは、体を起こしておく
食べ物のかたさやとろみの段階は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」で、病院・施設・在宅で共通して使えるよう整理されています[15]。口のケアや姿勢のくわしい内容は「誤嚥性肺炎を防ぐには? 口のケア・食べ方・姿勢の工夫と受診の目安」で解説しています。
むせが続く、食事に時間がかかるようになったときは、主治医に相談しましょう。英国の国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインは、食事の安全に不安があるときは、言語聴覚士(飲み込みのリハビリなどの専門職)の関わりを検討するよう勧めています[16]。飲み込みの詳しい評価は、専門の医療機関や歯科、言語聴覚士などに相談できることがあります。
SECTION 06 進行して食べられなくなったとき
認知症が最終段階に近づくと、多くの人で食べることが難しくなります。先の米国の研究では、食べることの問題が起きた人の6か月以内の死亡率は、年齢などで調整した値で38.6%でした[14]。
2021年のコクランレビューは、重い認知症の人の経管栄養について14件の比較研究(49,714人。ランダム化比較試験はなし)をまとめ、胃ろうで生存期間がのびる根拠は見つからず(根拠の確かさは低い)、胃ろうでは床ずれが増えるおそれがある(確かさは中程度)としました[6]。米国老年医学会は2014年の声明で、進行した認知症の人には経管栄養を勧めず、ていねいに手で食べる介助を提供すべきだとしています。手で食べる介助は、死亡、誤嚥性肺炎、体の機能、快適さの点で、経管栄養と同等とされています[7]。
ESPENのガイドラインは、経管栄養や点滴による栄養・水分補給は、軽度〜中等度の認知症では一時的な選択肢になりうるが、重度の認知症や人生の最終段階では勧めないとしています[1]。NICEも、重い認知症の人に経管栄養をルーチンには行わないとし、治る見込みのある別の病気が原因の場合は例外としています[16]。いまどの段階にあり、食べられない原因は何かを、主治医とよく確かめることが大切です(関連記事:「胃ろうをつけるか迷ったら」)。
口から味わうことを続ける、という選択
米国の研究者らは、「食べさせない」と誤解されないよう、本人が心地よく過ごせることを目標に、できる範囲でていねいに手で食べる介助を続ける方針を「快適さのための食事介助(comfort feeding only)」として提案しています[17]。量にこだわらず、好きな味を少しずつ、本人の様子を見ながら味わってもらう考え方です。
日本老年医学会のガイドラインは、経管栄養などは、まず口から食べられる可能性とそれを支えるケアを十分に検討したうえで考えるとし、始めない・減らす・やめる選択も含めて皆が納得できる合意をめざすこと、認知症が進んでも本人の気持ちを大切にすることを求めています[2]。厚生労働省のガイドラインも、本人の意思を基本に、家族などと医療・ケアチームが繰り返し話し合うこと(アドバンス・ケア・プランニング。愛称「人生会議」)を重視しています[18]。「食べられなくなったらどうしたいか」を元気なうちに話しておくと、家族が本人の望みを推しはかる手がかりになります。点滴については「食べられなくなったら点滴は必要?」もご覧ください。
経管栄養を選んでも選ばなくても、本人を思って話し合った結論に、ひとつの正解はありません。迷いや後悔の気持ちは一人で抱えず、主治医や訪問看護師に話してください。
SECTION 07 在宅療養:訪問診療・訪問看護とご家族ができること
訪問診療・訪問看護で一般にできること
通院が難しい方には、医師が月1〜2回など計画的にご自宅を訪れる訪問診療や、看護師が訪れる訪問看護という選択肢があります。食べない・むせるといった悩みについては一般に、次のようなことを相談できます。
- 診察と、食事の量・体重・むせの様子の確認
- 口の痛み、便秘、感染症、気分の落ち込みなど、治せる原因の診察と治療
- ほかの医療機関の薬も含めた、薬の見直しと、栄養剤の処方
- 歯科(自宅に来てくれる訪問歯科診療を行う歯科医院もあります)や、飲み込みを詳しく調べる専門の医療機関への紹介が必要かの判断
- これからの食事や栄養についての話し合い(人生会議)
- ケアマネジャーや訪問看護との情報共有
ご家族ができること
- ✓何をどれくらい食べたか、むせたかを、数日分メモする
- ✓少なくとも月に1回、同じ条件で体重を量って記録する。減ってきたら量る回数を増やす[1]
- ✓便が出た日、水分のとれ具合、新しく始めた薬や量が変わった薬もメモする
- ✓本人の好物や昔からの食習慣を、医療・介護のスタッフに伝える
- ✓食事の介助を一人で抱え込まず、介護保険のサービスをケアマネジャーに相談する
訪問診療を依頼するときに準備するもの
訪問診療を依頼するときは、一般に次のものを用意しておくと手続きがスムーズです。
- ✓健康保険の資格が確認できるもの(マイナ保険証または資格確認書)
- ✓(可能なら)今かかっている医療機関の紹介状
- ✓(あれば)お薬手帳、またはお薬のデータ
- ✓(あれば)介護保険証
- ✓(あれば)公費の受給者証
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の訪問診療クリニックです。認知症を専門の柱のひとつとして、通院が難しい方のご自宅に医師が伺い、定期的に診療しています。食べる量が減った、むせることが増えたなど、認知症の方の食事のことで気になることがあれば、ご相談ください。お電話・メールのほか、公式LINEでもご相談を受け付けています。訪問エリアは、福岡市の早良区・西区・城南区・中央区です。
SECTION 08 受診・相談の目安
肺炎や脱水のように、急いで対応したほうがよい場合もあります。図2を目安に連絡しましょう。
図2 食べない・むせるときの連絡・相談の目安
上ほど急ぎます。連絡先は、訪問診療・訪問看護を受けている方は主治医・訪問看護、そうでない方はかかりつけ医です。自宅での看取りを主治医と話し合っている方は、病状の変化のときは、まず決めておいた緊急連絡先へ。窒息など急な事故のときにどうするかも、前もって主治医と決めておきましょう。
一般的な目安です。持病や病状によって判断は変わるので、主治医から受けている説明を優先してください。
食べる量や体重がはっきり・急に減ったときは、次の診察を待たずに早めに相談しましょう。食べ物が詰まって息ができない、声やせきが出ないときは、すぐに119番を。息が苦しそう、呼びかけへの反応が鈍いなど、命にかかわるおそれがあるときも、ためらわずに119番を。ただし、ご自宅での看取りについて主治医と話し合っている方は、病状の変化のときは、まず主治医や訪問看護の緊急連絡先に連絡してください。窒息などの急な事故のときにどうするかも、主治医と前もって決めておきましょう。救急車を呼ぶか迷うときは、福岡県の救急医療電話相談(#7119、24時間。つながらないときは092-471-0099)に相談する方法もあります[19]。
この記事の情報は2026年10月時点のものです。
SECTION 09 ご利用・採用のご案内
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参考文献
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