皮膚がんは、体の中で唯一「外から見えるがん」です。鏡に映り、指で触れ、家族が気づくことができる。それなのに、実際にはかなり進んでから見つかることが少なくありません。痛くないから、自分では見えない場所だから、「年のせいのシミ」「治りにくい湿疹」と思ってしまうからです。

このコラムでは、皮膚がんのうちメラノーマ(悪性黒色腫)を除いたもの——基底細胞癌、有棘細胞癌とその前段階、乳房外パジェット病、メルケル細胞癌、皮膚血管肉腫について、治療と療養の全体像を一般の方向けに整理します。

そして後半では、在宅診療でできることを一段深く掘り下げます。皮膚がんは、じつは在宅でできることがもっとも多いがんのひとつです。診察も、診断のための検査も、塗り薬による治療も、においや出血への手当ても、家で続けられます。

SECTION 01

数字で見る皮膚がん — 「94%」の読み方

国立がん研究センターの全国集計では、皮膚がんの状況は次のとおりです(2026年7月22日更新)。

項目全体男性女性
診断された数(2023年)27,353例14,364例12,989例
死亡数(2024年)1,894人974人920人
5年相対生存率(2018年診断例)94.0%93.0%95.0%

5年相対生存率94.0%は、がんのなかでもきわめて高い部類です。ただしこの数字は、そのまま「自分の見通し」として受け取るべきものではありません。理由が三つあります。

「94%」を読むときの三つの注意

① メラノーマも一緒に数えられている。この「皮膚」という集計単位には、このコラムで扱わないメラノーマ(悪性黒色腫)も含まれます。逆に言えば、94%という数字は、予後の良い基底細胞癌などが大多数を占めることで押し上げられています。

② 上皮内の病変は含まれていない。日光角化症やボーエン病といった「前段階」「表面にとどまる段階」の病変は、この罹患数には入りません。皮膚科の外来で実際に扱われている皮膚がん・前がん病変の数は、この数字よりずっと多いのが実情です。

③ タイプごとの差が非常に大きい。ほとんど転移しない基底細胞癌と、高齢者の頭部に生じて予後の厳しい皮膚血管肉腫が、同じ「皮膚」の欄に入っています。平均値の94%は、個々のタイプの見通しをまったく表していません。

もうひとつ、押さえておきたいのは「増えている」ということです。皮膚がんは高齢化とともに増加しており、日本皮膚科学会の診療ガイドラインでは、秋田県での調査で有棘細胞癌の罹患率が2007年の10万人あたり2.5人から2016年には10.0人へと急増し、とくに80歳以上では10万人あたり14.7人から51.6人へと大幅に増えたことが紹介されています。皮膚がんは「めったにないもの」ではなく、これから在宅療養の現場でますます出会うがんです。

SECTION 02

メラノーマ以外の皮膚がん — 五つのタイプ

ひとくちに皮膚がんと言っても、性格はまったく違います。まずは地図を持つところから始めましょう。

メラノーマを除く皮膚がん — 五つのタイプ 1 基底細胞癌 日本人ではほとんどが黒い・黒褐色のできもの 約8割が頭頸部、なかでも顔面。ゆっくり育つ 転移は1%未満。ただし放置すると深く食い込む 平均発症年齢 74.3歳/男女差ほぼなし 2 有棘細胞癌 かさぶた・ただれ・盛り上がり。半数が頭頸部 紫外線、やけどの跡、慢性の傷が母地になる リンパ節へ転移することがある(3.7〜5.2%) 平均発症年齢 77.8歳/80〜85歳が最多 [2の前段階]日光角化症・ボーエン病 日光角化症は前がん病変、ボーエン病は表面にとどまる段階の有棘細胞癌。放置すると有棘細胞癌に進みます。 この段階なら、塗り薬や凍結療法という体に負担の少ない治療が選べます。 3 乳房外パジェット病 陰部・肛門周囲・わきの下 赤い・白っぽい湿疹のような 見た目。かゆみを伴う 「湿疹の薬で治らない」が鍵 4 メルケル細胞癌 高齢者の顔・頭・手足 赤〜赤紫の硬いしこりが 数週間で急に大きくなる まれだが進行が速い 5 皮膚血管肉腫 高齢者の頭皮・顔。ぶつけた あざのような紫斑から始まる 出血しやすく、広がりが速い 予後が厳しく、在宅の課題が多い 共通するのは「見える」こと どのタイプも、外から見て、触れて、写真に撮って記録できます。これが在宅療養で大きな意味を持ちます。

図1:メラノーマを除く主な皮膚がん。数字は日本皮膚科学会・日本皮膚悪性腫瘍学会「皮膚がん診療ガイドライン第4版」(有棘細胞癌診療ガイドライン2025/基底細胞癌診療ガイドライン2025)による。

日本での頻度については、ガイドラインが明快に整理しています。日光角化症やボーエン病といった前段階の病変まで含めれば有棘細胞癌が最も多く、それらを除くと基底細胞癌が最も多い——これが日本の皮膚がんの姿です。基底細胞癌の罹患率は10万人あたり年3.63人(2016〜2017年の全国がん登録)と報告されています。

日本人の基底細胞癌は「黒い」

欧米の教科書には「皮膚色の、光沢のある、真珠のようなできもの」と書かれています。ところが日本人では事情が違い、色素を持つものが88.0%を占めます。黒色37.8%、黒褐色30.4%、紅褐色11.9%、褐色7.9%。欧米の白人では色素を持つものは6%にすぎません。

つまり日本では、「黒いできもの=ほくろ」とは限らないということです。年をとってから新しく現れた黒いできものが少しずつ大きくなっているなら、それは基底細胞癌かもしれません。

SECTION 03

見えるのに、いちばん見つかるのが遅い

当院の視点

「見えるがん」が遅れる四つの理由

胃がんや膵がんは、体の奥にあるから見つかりにくい。それは誰でも納得できます。けれど皮膚がんは、目の前にあるのに遅れます。訪問診療の現場で最初に見つけるのが医師ではなく、入浴介助のヘルパーさんや訪問看護師であることは珍しくありません。理由は四つあります。

見つかるのが遅れる四つの理由 ① 痛くない 初期の皮膚がんは 痛みもかゆみもない ことがほとんど。 受診の動機が働かない ② 見えない場所 頭皮・耳の後ろ・背中 足の裏・足の指の間 陰部・肛門のまわり。 自分では確認できない ③ 年のせいと思う 「老人性のシミ」 「かぶれ」「湿疹」 「治りにくい傷」。 説明がついてしまう ④ 変化に紛れる 高齢の皮膚にはシミも イボもたくさんある。 そのなかの一つだと 見分けがつかない できやすい場所 — 「日の当たるところ」と「見えないところ」 ● 露光部(日の当たるところ) 頭のてっぺん(とくに髪の薄い方)・額・鼻・耳・頬・首の後ろ・手の甲 有棘細胞癌の約半数、基底細胞癌の約8割が頭頸部に生じます ● 慢性の刺激があるところ やけどの跡・古い傷跡・長く治らない潰瘍・褥瘡・放射線を当てた皮膚 ● 見えないところ 陰部・肛門のまわり・わきの下(乳房外パジェット病)/下腿(ボーエン病)

図2:皮膚がんが見つかりにくい理由と、できやすい場所。部位の割合は「皮膚がん診療ガイドライン第4版」による。

覚えていただきたい、たった一つの合図

難しい見分け方を覚える必要はありません。専門家でも見た目だけでは判断できず、最終的には組織を採って顕微鏡で確認します。ですから、ご本人とご家族に覚えていただきたいのは、次の一点だけです。

「1か月たっても治らない皮膚の異常」は、いちど診てもらう

ふつうのすり傷やかぶれは、遅くとも数週間で治ります。ひと月以上、同じ場所のかさぶた・ただれ・赤みが続く。あるいは治ったと思うとまた同じ場所が崩れる。これが、いちばん役に立つ合図です。

加えて、①だんだん大きくなる、②少しの刺激で血が出る、③盛り上がってきた、④しこりとして触れる——このどれかがあれば、早めに相談してください。塗り薬をもらって「様子を見ましょう」と言われたまま何か月も経っている場合も、もう一度確認する価値があります。

SECTION 04

症状マップ — 進んだときに何が起きるか

進んだ皮膚がんで起きること(七つ) 1. 出血 ガーゼを替えるだけで血がにじむ。 血管肉腫ではとくに問題になる。 2. におい 崩れた腫瘍で嫌気性菌が増える。 本人と家族をもっとも苦しめる症状。 3. 滲出液 じくじくと汁が出て、衣類や寝具 を汚す。まわりの皮膚もただれる。 4. 痛み 深く進むと骨や神経に届く。処置の たびに痛む「処置時の痛み」も重要。 5. 感染 周囲が赤く腫れ、熱を持つ。発熱や 悪寒があれば早めの連絡を。 6. リンパ節のはれ 首・わき・足のつけ根に、痛くない しこり。有棘細胞癌では要注意。 7. 外に出られなくなる(社会的な症状) 顔や頭にできると、人に会いたくなくなる。においを気にして来客を断る。理容室や美容室に行けなくなる。 医学の教科書には載りませんが、実際にはこれが生活をいちばん狭くします。手当ての対象になる症状です。

図3:進行した皮膚がんで生じる症状。1〜3は「がん性皮膚潰瘍」としてまとめて扱われ、在宅ケアの中心になります。

SECTION 05

「転移」より「局所進行」— このがん特有の考え方

多くのがんでは、「ステージⅣ=遠くの臓器に転移した状態」が最も深刻です。ところが皮膚がん、とくに基底細胞癌では、少し事情が違います。

タイプ転移の頻度本当に困ること
基底細胞癌1%未満(報告では0.0028〜0.55%)転移ではなく、その場で深く広がること(局所進行型)
有棘細胞癌リンパ節転移 3.7〜5.2%
原病死 1.5〜2.1%
リンパ節転移が起きると見通しが大きく変わる
メルケル細胞癌比較的高い進行が速く、早期の診断が難しい
皮膚血管肉腫局所再発・遠隔転移とも多い局所の制御そのものが難しく、出血が生活を圧迫する

局所進行型 — 「転移していないのに困る」状態

基底細胞癌診療ガイドライン2025は、局所進行型を次のように整理しています。①長い間、無治療または適切でない治療を受けていた、②非常に広い範囲で組織が壊れている、③機能の障害が出ている、④通常の手術や放射線治療を行うことが難しい状態

目や鼻や耳を巻き込み、骨まで達し、においと出血で生活が成り立たなくなる。それでも転移はしていないので、全身の「がんの進行」としては軽く見えてしまう。これが皮膚がんの独特の難しさです。「転移がないから大丈夫」ではなく、「その場でどこまで壊れているか」で判断する——ここが、ほかのがんと考え方を切り替えるべきところです。

なぜ「長い間、無治療または不適切な治療」が起きるのか

ガイドラインが第一に挙げているこの要因は、責める言葉ではなく、現実の記述です。ひとり暮らしで、痛くなくて、通院が難しくて、家族が遠方で、帽子で隠せてしまって、「もう歳だから」と自分に言い聞かせて——そうして数年が過ぎます。

訪問診療がここに入る意味は大きいと考えています。通院できない方の皮膚を、定期的に見る人がいるかどうか。それだけで、局所進行型に至るまでの時間はまったく変わります。

SECTION 06

治療の全体像 — 四つの道

治療の四つの道(メラノーマを除く皮膚がん) A. 手術(第一選択) 切除できる状況ならこれが標準。日本の報告では、基底細胞癌を切除したあとの局所再発率は0.24〜0.78%と非常に低い。 近年は「小さく切る」方向へ。日本人の基底細胞癌は色がついていて境界を見分けやすいため、縮小マージン切除が提案されている。 B. 放射線治療 手術が難しい・したくない・顔の形や働きを守りたい場合の正当な選択肢。切らずに、痛みなく、通院で受けられる。 根治を目指す照射のほか、出血・におい・痛みをやわらげる緩和照射もある(後述)。 英国のガイドラインは「高齢または虚弱」「整容や機能の面で有利な部位」「手術が禁忌」の場合の代替として位置づけている。 C. 塗り薬・凍結療法(前段階・浅い病変) 日光角化症・ボーエン病では、有棘細胞癌ガイドライン2025が「手術より非手術療法を優先することを提案」(弱い推奨)。 フルオロウラシル軟膏、イミキモドクリーム、液体窒素による凍結療法。超高齢の方や持病の多い方に向く。 ★フルオロウラシル軟膏は基底細胞癌を含む皮膚悪性腫瘍に保険適用があり、在宅で使える(後述)。 D. 薬物療法(切除できない・転移した場合) 2024年2月、ニボルマブが「根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍」に保険適用となり、選択肢が広がった。

図4:治療の四つの道。出典は「皮膚がん診療ガイドライン第4版」有棘細胞癌診療ガイドライン2025および基底細胞癌診療ガイドライン2025。

薬物療法の現在地

切除も放射線もできない、あるいは転移した皮膚がんに対して、免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになりました。

薬剤日本での位置づけガイドラインの推奨
ニボルマブ2024年2月、「根治切除不能な進行・再発の上皮系皮膚悪性腫瘍」に適応追加承認有棘細胞癌:抗PD-1抗体治療を行うことを提案(弱い推奨)
基底細胞癌:免疫チェックポイント阻害薬を提案(弱い推奨)
アベルマブメルケル細胞癌に適応あり。厚生労働省の最適使用推進ガイドラインが定められている
従来の抗がん剤イリノテカン、ブレオマイシン、ペプロマイシンが有棘細胞癌または皮膚癌に保険適用効果は一定程度あるが、無増悪期間・生存期間では抗PD-1抗体が上回る可能性
免疫の薬を使う/使わないは、慎重に考えるべき判断です

有棘細胞癌診療ガイドライン2025は、率直にこう書いています。免疫チェックポイント阻害薬には一定の確率で免疫関連有害事象が生じ、時に致命的となりうる。有棘細胞癌は高齢者に多く、免疫抑制薬を使っている患者に生じることもあるため、その対応まで見据えると、投与の適応とならない患者も一定数存在すると。

「新しい薬があるのに使わないのは損」ではありません。副腎の機能低下、糖尿病の急な発症、肺の炎症、大腸炎——これらが起きたときに支えられる体力と体制があるかどうかまで含めて決める判断です。使わないという選択も、同じだけ正当です。

SECTION 07

手術以外の選択肢が、いちばん多いがん

当院の視点

「切れない」は「治療できない」ではない

90歳を超えて、心臓に持病があって、認知症があって、顔面の大きな腫瘍。「手術は難しいと言われました」——訪問診療で出会う典型的な場面です。ここで会話が終わってしまうことがありますが、皮膚がんは、手術以外の手が最も多く残っているがんです。院長は放射線治療専門医として、国立がん研究センター中央病院と東京大学病院で放射線治療に携わってきました。この選択肢を最初から視野に入れて話ができることを、当院の役割のひとつと考えています。

放射線治療は、どのくらい効くのか

放射線治療の局所制御率(腫瘍の大きさ別) 有棘細胞癌(根治的放射線療法) 2cm以下 90%以上 2〜4cm 80%以上 基底細胞癌(根治的放射線療法) 1cm未満 97% 1〜5cm 87% 5cm超 87% T3/T4(骨浸潤など) 50〜60% 基底細胞癌では5年局所制御率93〜96%。放射線後の再発は治療後2年以内が75%、5年以内が95%で、 5年を過ぎてからの再発は少ないと報告されています。ただし進行例では制御率が下がることも明記されています。

図5:放射線治療の局所制御率。「皮膚がん診療ガイドライン第4版」有棘細胞癌診療ガイドライン2025および基底細胞癌診療ガイドライン2025より作図。

照射のスケジュールは「体力に合わせて選べる」

放射線治療というと「毎日30回以上、何週間も通う」というイメージがあるかもしれません。実際には、目的と体力に応じて幅があります。

目的代表的なスケジュール特徴
根治を目指す
(通常分割)
60〜64Gy/30〜32回/6〜7週最も局所制御がよく、見た目への影響も少ない。進行例・広い範囲・軟骨の近くではこちらが望ましい
根治を目指す
(回数を減らす)
50〜55Gy/15〜20回/3〜4週
40Gy/10回/2週
30Gy/5回/2〜3週など
通院回数を大きく減らせる。ただし1回線量が高いほど、後になって現れる見た目の変化が問題になりやすい
症状をやわらげる
(緩和照射)
30Gy/10回/2週が一般的
体力に応じて20Gy/5回/1週
8Gy/1回という選択も
出血・におい・痛み・潰瘍・機能障害で生活の質が著しく落ちている場合に。1回だけの照射という選択肢もある
在宅療養中でも、照射だけ通うという形はありえます

ふだんは訪問診療を受けていて、出血とにおいがつらい期間だけ、5回あるいは1回、放射線治療のために外来へ通う。そういう組み立ては現実的に可能です。「在宅を選んだら、もう病院の治療は受けられない」というものではありません。

ご本人の体力、移動手段、介護タクシーの手配、ご家族の付き添い。これらを含めて「通えるか」を一緒に検討し、必要なら放射線治療の施設へ紹介します。

放射線治療のデメリットも、はっきりお伝えします

照射した範囲の毛は永久に生えなくなります。頭皮への照射では、治療前に必ずご説明すべき点です。ほかに、色素沈着・色素が抜ける・皮膚が乾く・皮膚が薄くなる・細い血管が浮き出る、といった変化が後から現れます。

血のめぐりが悪い部位、手足の指、すねの前面では、潰瘍ができることがあります。血糖のコントロールがついていない糖尿病では有害事象が強く出ることがあり、活動性の膠原病(強皮症など)は相対的な禁忌です。若い方では二次発がんのリスクを考え、慎重に判断します。

また、断端が陽性だった基底細胞癌に対しては、基底細胞癌診療ガイドライン2025は「術後放射線療法を行わないこと(追加切除を行うこと)を提案する」としています。放射線が万能なわけではありません。

ここから在宅診療のはなし
SECTION 08

まず、制度の枠組みを知っておく

訪問診療と往診は別のもの

訪問診療は、通院が難しい方のご自宅へ、あらかじめ決めた計画にそって定期的にうかがう医療です。当院では月2回程度を基本に、状態に応じて回数を調整します。往診は、急な発熱や出血など、その場の必要に応じて臨時にうかがうものです。両方を組み合わせて、24時間の連絡体制で支えます。

「末期の悪性腫瘍」に該当すると、訪問看護の枠が大きく広がる

訪問看護は原則として介護保険から、週3回までという制限のもとで受けます。ところが、厚生労働大臣が定める疾病等(別表第七)に該当すると、この枠がまったく変わります。「末期の悪性腫瘍」はこの別表第七に含まれます。

訪問看護の枠は、こう変わります 通常(介護保険) ・原則 週3回まで ・1日1回 ・原則 1か所のステーション ・区分支給限度基準額のなかで  ほかのサービスと取り合いになる 末期の悪性腫瘍(別表第七) 医療保険からの訪問看護になる 日数の制限なし(毎日でも可) 1日に複数回の訪問が可能 2〜3か所のステーションを併用可 ・介護保険の限度額を圧迫しない 40〜64歳の方でも「がん(末期)」は介護保険の16特定疾病に該当し、介護保険を使えます

図6:末期の悪性腫瘍に該当したときの訪問看護の枠。皮膚がんでは、においや出血の手当てのために1日2回の訪問が必要になることがあり、この枠が実際に効いてきます。

よくある誤解:「特別訪問看護指示書をもらわないと毎日来てもらえない」

これは、末期がんの場合には当てはまりません。末期の悪性腫瘍はもともと別表第七に該当するため、特別訪問看護指示書がなくても、最初から医療保険で毎日の訪問看護を受けられます。指示書の交付を待つ必要はありません。

確認しておくとよいのは別のことです。①難病等複数回訪問加算(1日に2回・3回入ってもらうとき)、②2〜3か所のステーションの併用(夜間・土日の体制を厚くしたいとき)、③訪問看護指示書に「点滴の指示」が別途必要かどうか(週3日以上の点滴には有効期間7日以内の訪問点滴指示書が必要で、これは訪問回数の話とは別枠です)。

大切な補足:「末期」でなくても、在宅診療は使えます

ここまで別表第七の説明をしましたが、皮膚がんの在宅診療は「末期」に限りません。訪問診療の要件は「通院が困難であること」です。歩行が難しい、認知症がある、家を出るのに介助が要る——それだけで対象になります。

むしろ皮膚がんでは、末期になる前に在宅診療が入ることに大きな意味があります。治せる段階で見つけて専門医につなぐ、塗り薬の治療を最後まで続ける、処置のために毎週通う負担をなくす。これらはすべて、末期になる前の仕事です。

SECTION 09

在宅でできることが、いちばん多いがん

当院の視点

見えるがんは、家でも診られるがん

胃がんを家で診断することはできません。肺がんの広がりを家で評価することもできません。ところが皮膚がんは、診察も、診断のための検査も、治療そのものも、経過の記録も、家で完結できる部分がとても大きいのです。「病院に行けないから、皮膚のことは諦める」という結論に、私たちはなかなか同意できません。

家でできる五つのこと 1 診察 拡大鏡(ダーモスコピー)を持って行けます。全身の皮膚を、入浴やおむつ交換の機会に合わせて確認できます。 2 診断のための検査 部分麻酔での皮膚生検は、条件が整えばご自宅で行えます。「診断がつかないまま」を減らせます。 3 塗り薬による治療 フルオロウラシル軟膏は皮膚悪性腫瘍に保険適用があります。訪問看護師が塗布を担うことができます。 4 創のケア 洗浄、被覆材の選択、におい・出血・滲出液への手当て。訪問看護がもっとも力を発揮する領域です。 5 専門の看護師に、家まで来てもらう 緩和ケアや皮膚・排泄ケアの専門研修を受けた看護師が、ふだんの訪問看護師と一緒に訪問する仕組みがあります。

図7:皮膚がんで在宅診療ができること。5については次の囲みで説明します。

ガイドラインが、訪問看護に言及している

基底細胞癌診療ガイドライン2025のCQ3(手術が難しい表在型の基底細胞癌に、どの局所療法を選ぶか)の「臨床に用いる際の注意点」には、こう書かれています。

高齢者では合併症や体力の低さから、医療者側あるいはご本人・ご家族の意向により手術が避けられることがあるが、局所療法を選んでも塗り忘れという問題が生じうる。すでに訪問看護が導入されている場合は外用を指示することも可能だが、連日や1日2回の外用の指示は難しい——。

診療ガイドラインが訪問看護の存在を治療選択の条件として書き込んでいるのは、注目に値します。訪問看護が入っているかどうかで、その方が選べる治療が変わるということです。「手術は無理、通院も無理、だから何もできません」ではなく、「訪問看護が入るなら塗り薬の治療ができます」という道が開ける。当院が訪問看護リハビリステーションを併設している理由のひとつが、ここにあります。

専門の看護師に家まで来てもらう仕組み

2012年度の診療報酬改定で、病院などに所属する専門看護師・認定看護師が、ふだんの訪問看護師と一緒に患者さんのお宅へ出向いて(同行訪問)、療養上の注意点やケアのポイントについて助言する仕組みができました(在宅患者訪問看護・指導料3)。対象は、通院が困難な方のうち、悪性腫瘍の鎮痛療法または化学療法を受けている方、真皮を越える深さの創がある方、人工肛門・人工膀胱の管理が難しい方などです。

皮膚がんの崩れた創は、まさに「真皮を越える創」です。訪問看護ステーション側にも、緩和ケア・褥瘡ケア・皮膚排泄ケアなどの専門研修を受けた看護師による計画的な管理を評価する専門管理加算があります。難しいケアを、家族だけで背負う必要はありません。

SECTION 10

におい・出血・滲出液 — がん性皮膚潰瘍への手当て

当院の視点

「におい」は、医学の問題です

においは、患者さんが最後まで口にしない症状です。「迷惑をかけている」と思い込み、部屋を閉め切り、来客を断り、家族と食卓を分ける。ご家族のほうも、においが気になる自分を責める。この静かな苦しみは、放っておくと確実に生活を壊します。

けれど、においには原因があり、対処法があります。気の持ちようでも、我慢の問題でもありません。まず、そう申し上げたいのです。

がん性皮膚潰瘍 — 三つの症状と手当て におい 原因:崩れた腫瘍のなかで嫌気性菌が増え、脂肪酸やポリアミン(プトレシン、カダベリン)という臭気物質をつくる。 対処① メトロニダゾールゲル0.75%(2015年2月に薬価収載。適応は「がん性皮膚潰瘍部位の殺菌・臭気の軽減」) 潰瘍面を清拭したあと、1日1〜2回、ガーゼにのばして貼るか、直接塗ってガーゼで保護します。 対処② 活性炭を含む消臭ドレッシング / 対処③ こまめな洗浄と換気 / 対処④ 汚れた被覆材はすぐ密閉して捨てる 出血 原因:腫瘍にできた血管はもろく、被覆材をはがすときの摩擦だけで破れる。血管肉腫ではとくに問題になる。 対処① くっつかない被覆材を選ぶ(乾いたガーゼが固着したまま無理にはがすのが、出血の最大の原因) 対処② 止血作用のあるアルギン酸塩の被覆材 / 対処③ しっかり圧迫(5〜10分は手を離さない) 対処④ 出血が繰り返すときは止血目的の緩和照射を検討する 滲出液・まわりの皮膚のただれ 原因:崩れた腫瘍からしみ出す液。量が多いと衣類や寝具を汚し、まわりの正常な皮膚をふやけさせて傷める。 対処① 吸収力の高い被覆材で受け止め、交換の回数を調整する 対処② まわりの皮膚を撥水性のクリームや皮膚被膜剤で守る(創そのものより、まわりの皮膚が痛むほうが苦痛は強い) 対処③ ぬるま湯で洗ってよい。シャワー浴・訪問入浴も、条件を整えれば可能です

図8:がん性皮膚潰瘍の三つの症状と手当て。いずれも在宅で対応できる範囲です。

メトロニダゾールゲルを使うときの三つの注意

① 芳香剤で上書きしないこと。においの原因は菌です。香りを重ねると、においが混ざってかえって不快になります。原因に効く薬と、換気と、こまめな交換が正攻法です。

② 直射日光や日焼けランプを避けること。この薬は紫外線を浴びると効かない形に変わってしまいます。塗ったところに日が当たらないよう覆ってください。

③ 広い範囲に塗るときは注意が必要です。潰瘍面から体内に吸収されるため、塗る範囲が広い場合には、飲み薬や点滴で見られるような副作用(手足のしびれなどの末梢神経障害、白血球の減少など)が出ることがあります。範囲と期間は主治医と相談して決めます。

処置のときの痛みは、我慢するものではありません

皮膚がんのケアで見落とされがちなのが、処置そのものの痛みです。1日1〜2回、被覆材を替えるたびに痛い。これが毎日続くと、ご本人は処置を拒むようになり、ご家族は「痛がるのに触らなければいけない」という罪悪感を抱えます。

手当ての方法があります。①処置の30分前にレスキューの痛み止めを使う、②くっつかない被覆材に変える、③はがす前にぬるま湯や生理食塩水で十分に湿らせる、④交換の回数そのものを減らせないか見直す、⑤処置の順番と時間を決めて予測できるようにする。「処置が痛い」は、遠慮せず伝えてください。

SECTION 11

在宅でできる処置・できないこと

できること(ご自宅で)内容
皮膚の診察・ダーモスコピー拡大鏡を持参し、全身の皮膚を定期的に確認
皮膚生検部分麻酔下でのパンチ生検など。条件が整えばご自宅で施行可能
創の洗浄・被覆材の交換訪問看護が中心。ご家族への手技指導も行います
においの管理メトロニダゾールゲル、消臭ドレッシング、環境調整
出血への対応圧迫止血、止血効果のある被覆材、必要時の往診
外用抗がん剤(フルオロウラシル軟膏)皮膚悪性腫瘍に保険適用。訪問看護師による塗布が可能
痛みの治療内服・貼付剤・坐剤に加え、必要なら持続皮下注(PCA)で在宅管理
感染への抗菌薬内服または点滴。訪問看護と連携して在宅で完結できます
点滴・皮下輸液脱水や食事量低下に対して。終末期は500mL前後以下を目安に
採血・簡易検査貧血や炎症の評価
栄養・褥瘡の予防管理寝たきりの時間が増えるほど重要。マットレスや体位の調整
看取りご自宅での看取りまで対応します
在宅では難しいことどうするか
手術(切除・再建)専門施設へ紹介。切除できるかどうかの判断も含めて相談します
放射線治療通院で受けていただきます。緩和照射なら1〜5回で済むこともあります
点滴の抗がん剤・免疫チェックポイント阻害薬病院での投与。副作用の観察と体調管理は在宅で分担できます
大きな腫瘍からの大量出血「そのとき運ぶのか、家で対応するのか」をあらかじめ決めておくことが最も大切です
当院の視点

顔にできたがんと、外に出られなくなること

頭と顔は、皮膚がんが最もできやすい場所です。そしてそこは、その方が世界と向き合う場所でもあります。

「床屋に行けなくなった」「デイサービスをやめた」「孫に会わせたくない」。診療のなかで聞くこうした言葉は、雑談ではありません。治療の目的そのものに関わる情報です。腫瘍を小さくすることより、帽子で自然に隠せる状態を保つことのほうが、その方にとって価値が高いこともあります。緩和照射を選ぶ理由が「出血を止めるため」ではなく「においを減らして、また人に会えるようにするため」であることもあります。

訪問理美容を手配する、においを抑えて来客を受けられるようにする、写真に写れる状態を整える。医療の言葉になりにくいこれらのことも、私たちは治療計画の一部として扱います。何をいちばん取り戻したいか、遠慮なくお聞かせください。

SECTION 12

最期まで家で過ごすということ

「亡くなったとき、必ず病院に行かないといけない」わけではありません

よくある不安ですが、誤解です。医師法第20条のただし書きにより、診療していた患者さんが、その診療にかかる傷病で亡くなった場合、医師は改めて診察をしなくても死亡診断書を交付できます(厚生労働省 平成24年8月31日 医政医発0831第1号)。定期的に訪問診療を受けていれば、夜中に息を引き取られても、あわてて救急車を呼ぶ必要はありません。まず当院にご連絡ください。

介護する側が休むための入院(レスパイト入院)

においや出血の処置が毎日続くと、介護するご家族は消耗します。数日から1〜2週間、ご本人に入院して過ごしていただき、その間ご家族に休んでもらう。これがレスパイト入院です。在宅を続けるための入院であり、「もう家では無理」ということではありません。連携している病院と調整します。

元気なうちに話しておきたい五つのこと(ACP)

  1. どこで過ごしたいか — 家か、病院か。状況が変わったらどうするか
  2. 大きな出血が起きたとき — 救急車を呼んで運ぶのか、家で止血と鎮静で対応するのか
  3. 点滴と栄養 — 食べられなくなったときに、どこまで行うか
  4. 苦痛が強くなったとき — 眠って過ごす選択(鎮静)についてどう考えるか
  5. 伝えておきたいこと — 会っておきたい人、渡しておきたいもの、託しておきたいこと

一度で決める必要はありません。何度でも変えていいものです。ただ、出血については、起きてから考えるのでは間に合わないことがあります。暗い色のタオルを用意しておく、圧迫の練習をしておく、連絡先を電話のそばに貼っておく。この四つだけでも、いざというときの混乱がまったく違います。

在宅療養を支えるチーム ご本人 ご家族 訪問診療医 診断・治療方針・看取り 訪問看護師 創のケア・症状の観察 ケアマネジャー サービスの調整 皮膚科・形成外科 診断・手術 放射線治療科 根治照射・緩和照射 薬局・ヘルパー 薬の配達・入浴介助 まん中にいるのは、いつもご本人とご家族です

図9:在宅療養を支えるチーム。皮膚がんでは、入浴介助のヘルパーが最初の異変に気づくことも珍しくありません。

SECTION 13

ご家族に見ていただきたいこと

毎日そばにいるご家族の観察は、どんな検査よりも早く変化を教えてくれます。次の八つを、ときどき思い出してください。

見るところ気づいたら伝えてほしいこと
大きさ先週より広がっている/盛り上がりが増した/深くなった
出血ガーゼに付く血の量が増えた/圧迫してもなかなか止まらなくなった
におい強くなった/薬を使っているのに戻ってきた
滲出液量が増えた/色が変わった/寝具まで汚れるようになった
まわりの皮膚赤くなって熱を持つ/腫れが広がる/触ると痛がる
痛み処置のときだけか、じっとしていても痛むのか/痛み止めが効かなくなった
しこり首・わきの下・足のつけ根に、新しく痛くないしこりを触れる
全身発熱/悪寒やふるえ/食欲が落ちた/眠っている時間が急に増えた
写真は、最も役に立つ記録です

皮膚がんは目に見えるがんです。だからこそ、週に一度、同じ明るさ・同じ距離・同じ向きで写真を撮っておくと、変化がはっきりわかります。定規や硬貨を横に置くと大きさの比較ができます。記憶や印象より、写真のほうがずっと確かです。診察のときに見せていただければ、判断の助けになります。

SECTION 14

受診・相談の目安

すぐに連絡してください(その日のうちに) 圧迫しても止まらない出血/急に大きくなった・急に色が変わった/悪寒やふるえを伴う発熱/創のまわりが急速に赤く腫れて広がる/今までと違う強い痛みが出た
早めに相談してください(数日〜2週間以内) 1か月以上治らないかさぶた・ただれ・赤みがある/少しの刺激で血が出る/新しく現れた黒いできものが大きくなってきた/首・わき・足のつけ根に痛くないしこりを触れる/においが強くなってきた/処置のときの痛みが我慢できなくなった
在宅診療のご相談(いつでも) 通院が難しくなってきた/処置が家族の手に負えなくなってきた/手術は難しいと言われたが、ほかの選択肢を知りたい/最期まで家で過ごすことを考え始めた/今かかっている病院と在宅を両立させたい

ふくろう訪問クリニックにできること

  • 通院できない方の皮膚を、定期的に診ます。拡大鏡(ダーモスコピー)を持って伺い、必要なら部分麻酔での皮膚生検もご自宅で行います。治せる段階で見つけることを目指します。
  • 「切れない」で終わらせません。院長は放射線治療専門医です(国立がん研究センター中央病院・東京大学病院 放射線科での勤務歴)。手術が難しい場合の放射線治療について、根治を目指す照射から1〜5回の緩和照射まで、現実的な選択肢を一緒に検討し、必要な施設へつなぎます。
  • におい・出血・滲出液に、正面から手当てをします。併設のふくろう訪問看護リハビリステーションと連携し、被覆材の選択から消臭、処置時の痛みの対策まで、生活が続けられる形を組み立てます。
  • 緩和ケアと難病を専門としています。皮膚がん以外の持病、認知症、精神症状も含めて、まるごと診ます。24時間の連絡体制で、ご自宅での看取りまで対応します。
  • 「末期」でなくても、ご相談ください。通院が困難であれば訪問診療の対象になります。むしろ早い段階で入るほど、できることは多くなります。

このコラムは、皮膚がん(メラノーマを除く)について、学会の診療ガイドラインと公的機関の統計をもとに一般の方向けに解説したものです。個々の患者さんの診断・治療方針は、病変の場所や大きさ、組織のタイプ、持病、生活の状況によって大きく異なります。実際の治療については、主治医とよくご相談ください。

参考文献

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  14. 一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会:診療報酬「在宅患者訪問看護・指導料」(専門の研修を受けた看護師による同行訪問)解説.https://jwocm.org/topics/medical-fees/m-002/
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