なぜ成功例しか目に入らないのか
「余命3か月と言われたのに、5年たった今も元気です」。この形の話は、本にも、動画にも、健康食品の箱にも載っています。 そして、その多くは嘘ではありません。本当に、その人は生きています。 この回では、本当の体験談が、なぜ「効く証拠」にならないのかを、数の話として書きます。
この回の結論
- 体験談は、医療機関の広告では法律で禁止されています。嘘だからではなく、効かなかった人の話が絶対に出てこないからです。
- 「余命3か月」は中央値です。半分の人は、それより長く生きます。だから「余命を超えて生きた人」は、何をしていても必ず現れます。
- がんが自然に小さくなること(自然退縮)も、診断の誤りも、実際にあります。体験談の裏には、治療以外の理由が、いつも候補として並んでいます。
SECTION 01 体験談は、こうしてできる
図1 体験談は嘘ではない。ただ、それが選ばれてくる過程で、効かなかった人と亡くなった人が消える。だから「効く証拠」にはならない。
SECTION 02 「余命3か月」は、何を意味するか
ここから、大事なことが分かります。どんな治療をしていても、あるいは何もしていなくても、「余命宣告を超えて生きる人」は必ず一定数います。 その人が、たまたまその時期に飲んでいたもの、受けていたものが、「効いた」ものとして語られます。 余命の数字の読み方は、関連する記事「がんと診断されたら最初に読む記事」で詳しく書きました。
医療広告ガイドラインは、「患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談」の広告を禁止しています(第1回)。 国がこれを禁じているのは、体験談が嘘だからではなく、上の図のしくみで、必ず良い方に偏るからです。
がんが治療なしに小さくなる「自然退縮」は、まれですが医学的に実在し、報告が積み重ねられています(Žarković ら、2022)。 また、日本のがん患者さんの全国調査では、補完代替医療を使い始めたきっかけの77.7%が「家族や友人の勧め」でした(兵頭ら、J Clin Oncol 2005)。 体験談は、その「勧め」の中身として、いちばん強く働きます。
SECTION 03 体験談を読むときの、5つの質問
- 標準治療は、同時に受けていたか「手術のあと、この食事に変えて再発していない」なら、効いたのは手術かもしれません。体験談の多くは、標準治療と並行しています。
- 診断は、病理で確定していたか「がんの疑い」の段階で始めた治療の体験談は、そもそもがんでなかった可能性を含みます。
- 「余命」は、誰が、どう言ったか「余命3か月」は医師の正確な言葉だったのか、家族の受け止めだったのか。伝聞のたびに、数字は短くなります。
- 同じことをした、ほかの人はどうなったか(分母)厚生労働省の eJIM が挙げる「情報を見極める10か条」の一つが「出来事の『分母』を意識しよう」です。1人の話の後ろに、何人いたか。
- 語っているのは、誰か本人か、家族か、販売者か、本の著者か。売る側が選んで載せた体験談は、図1の「表に出る数人」をさらに選んだものです。
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こう言われたら「余命半年と言われた方が、この治療で5年元気です」こう聞き返す「同じ治療を受けた方は全部で何人で、そのうち何人が5年元気ですか」
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こう言われたら「病院に見放された人が、ここで治りました」こう聞き返す「その方は、病院の治療をまったく受けていなかったのですか」
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こう言われたら「体験談は、ホームページにたくさん載せています」こう聞き返す「医療機関の広告で体験談が禁止されていることは、ご存じですか」
体験談を根拠に標準治療をやめることが、いちばんの害です(第1回で見た2.5倍の死亡リスク)。 体験談は、読む分にはかまいません。心の支えにしてもかまいません。ただ、それを「治療の選択」の根拠にしないでください。 選択の根拠は、「同じ状態の人を、くじ引きで分けて比べた」数字にしか、ありません。
ご家族が、「ステージ4から生還した人」の本を握りしめて、私たちを待っていることがあります。 私たちは、その本を否定しません。「この方は本当に良くなったのでしょうね」と言います。そのうえで、一つだけ聞きます。「この本には、同じことをして良くならなかった人のことは、書いてありますか」。 たいてい、書いてありません。それに気づいたご家族は、自分で本を閉じます。私たちが閉じさせるのではなく、ご自身で。それが大事です。
生還した人の話は、本当です。だからこそ、その隣にいた人の数を。
私たちは在宅で、多くの方を看取ってきました。そのなかには、「余命1か月」と言われて1年生きた方も、「あと半年」と言われて数週間だった方もいます。 余命は、それほど幅のあるものです。長く生きた方が特別なことをしていたわけではなく、短かった方が何かを怠ったわけでもありません。
体験談を読んで心が軽くなるなら、読んでください。希望は、それ自体が大事なものです。 ただ、その希望を売り物にする人がいることだけは、覚えておいてください。本当の希望は、無料で、主治医の診察室にもあります。「まだできることは、あります」という言葉の形で。
この回のチェックリスト(第27回ぶん)
- 「余命」が中央値で、半分の人はそれより長く生きることを、人に説明できる。
- 体験談を読んだら、「標準治療も受けていたか」「診断は確定していたか」を確かめた。
- 「同じことをした人は何人で、何人が良くなったか」を聞いた。
- 医療機関の広告で体験談が禁止されている理由を知っている。
- 体験談を心の支えにしても、治療の選択の根拠にはしないと決めた。
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電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。
- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。
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Q&A よくある質問
この回に関連する記事
連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。
- がんと診断されたら最初に読む記事「余命」の数字が中央値であることと、その読み方を、診断直後の方向けに書いた記事です。
- 臨床試験で確かめること体験談ではなく「くじ引きで分けて比べる」ことで何が分かるのかを、しくみから説明しています。
連載「詐欺医療に騙されない」全30回
- 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
- 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
- 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
- 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
- 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
- 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
- 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
- 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
- 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
- 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
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- 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
- アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
- 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
- フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
- グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
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- ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
- 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
- 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方
REFERENCE 参考資料
- 厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」令和8年3月30日最終改正(体験談の広告の禁止)(https://www.mhlw.go.jp/content/001683594.pdf)
- Hyodo I, Amano N, Eguchi K, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-2654(https://doi.org/10.1200/JCO.2005.04.126)
- Žarković N, Jaganjac M, Žarković K, Gęgotek A, Skrzydlewska E. Spontaneous Regression of Cancer: Revealing Granulocytes and Oxidative Stress as the Crucial Double-edge Sword. Front Biosci (Landmark Ed). 2022;27(4):119(https://doi.org/10.31083/j.fbl2704119)
- Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1)(https://doi.org/10.1093/jnci/djx145)
- 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM「情報の見極め方」(情報を見極めるための10か条)(https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/hint/index.html)

