肝臓と腎臓が、すでにやっていること
「体にたまった毒素を出す」。デトックスという言葉は、ジュース断食から足裏のシート、数十万円の点滴まで、あらゆるものに使われます。 でも、その「毒素」が何なのかを聞くと、答えが返ってこないことがほとんどです。 この回では、体が本当に毒をどう処理しているかと、「毒を出す」と称する商品で実際に何が起きたかを書きます。
この回の結論
- 体の「毒」を分解して出しているのは、肝臓と腎臓です。24時間、追加料金なしで。
- キレーション(点滴)は、鉛などの重金属中毒に対する承認された治療です。動脈硬化や「デトックス」目的の自由診療では効果が示されず、低カルシウムで亡くなった人がいます。
- 足裏シートや足湯で「黒くなる」のは、体の毒ではなく、汗や電極の鉄との化学反応です。米国では販売禁止の命令が出ています。
SECTION 01 何が、どう売られているか
- 飲む・食べるデトックスジュース断食、デトックスティー、腸内洗浄。「宿便を出す」「体をリセット」。
- 貼る・浸けるデトックス足裏に貼って寝るシート、電極を入れた足湯(イオンデトックス)。翌朝シートが黒くなる、足湯の水が茶色に濁る、それが「出た毒素」だと説明されます。
- 点滴のデトックス(キレーション)金属をつかむ薬(EDTA など)を点滴して、「体にたまった重金属を出す」「血管の詰まりを溶かす」「認知症や自閉症の原因を取り除く」。1回1〜3万円を数十回。
SECTION 02 体は、毒をこう処理している
図1 「毒を出す」ために必要なのは、肝臓と腎臓を守ること。つまり、お酒を控え、水分をとり、血圧と血糖を保つこと。
SECTION 03 キレーション:承認された使い方と、そうでない使い方
キレーション剤(エデト酸など)は、鉛中毒などの重金属中毒に対する承認された薬です。血液検査で中毒が確かめられた人に、専門の医師が、電解質を監視しながら使います。 一方、自由診療で行われる「動脈硬化を溶かす」「認知症・自閉症の原因の重金属を出す」「アンチエイジング」のキレーションは、承認された使い方の外にあります。
動脈硬化に対しては、人で大きな比較試験が2つ行われました。心筋梗塞を起こしたことのある1,708人に40回の点滴をした試験では、 心臓の出来事を合わせた指標が26%と30%で、ぎりぎり差がありましたが、死亡には差がなく、著者自身が「日常の治療として使うには十分な証拠ではない」と書いています(Lamas ら、JAMA 2013)。 それを確かめるために糖尿病のある959人で行われた2つ目の試験では、35.6%と35.7%で、差はありませんでした(Lamas ら、JAMA 2024)。
害のほうは、はっきりしています。米国疾病対策センターは、キレーション点滴による低カルシウム血症で心停止した3人の死亡を報告しました。 そのうち1人は自閉症の治療目的で点滴を受けた5歳の男児でした(CDC MMWR 2006)。
キレーション剤は、重金属だけをつかむわけではありません。カルシウムや亜鉛のような、体に必要なミネラルもつかんで出します。 だから承認された使い方では、血液の電解質を測りながら行います。「デトックス」の点滴で、そこまでの監視をしている施設がどれだけあるか。 腎臓の働きが落ちている高齢の方では、危険はさらに大きくなります。
SECTION 04 足裏シートと足湯:「黒くなる」の正体
足裏に貼って寝るシートは、翌朝、茶色や黒に変わります。電極を入れた足湯は、数十分で水が濁ります。 「これが体から出た毒素です」と説明されますが、足を入れなくても、同じことが起きます。 シートは湿気(汗や水蒸気)で成分が変色し、足湯は電極の鉄が電気分解でさびて水を茶色くします。
米国では、連邦取引委員会(FTC)が「体から毒素や重金属を出す」「高血圧やうつを治す」とうたった足裏シートの販売会社を訴え、2010年に裁判所が販売禁止を命じました。 会社は売上全額にあたる1,450万ドルの支払いに合意しています(支払い能力がないため執行は停止)。 日本でも同じ種類の商品が、1枚数百円、月に1万円前後で売られています。
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こう言われたら「体にたまった毒素を、出しましょう」こう聞き返す「何という毒素が、私の体にどれだけあると、どう測ったのですか」
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こう言われたら「ほら、シートがこんなに黒くなりました」こう聞き返す「足に貼らずに、湿らせただけのシートは黒くなりませんか」
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こう言われたら「キレーションで血管の詰まりが溶けます」こう聞き返す「959人の比較試験で差がなかったことを、どう考えますか」
ベッドの足元に、使い終わった黒いシートがまとめてあるのを見ることがあります。「こんなに毒が出ている」と、ご家族が心配そうに見せてくれます。 私たちは、新しいシートを1枚もらって、その場でコップの水に浸けます。数分で黒くなります。 それを見てもらってから、「本当に心配なのは、腎臓と肝臓の数字です。先月の血液検査では、どちらも大丈夫でしたよ」と伝えます。 シートを否定するより、体の本当の「デトックス」が働いていることを、数字で見せるほうが、安心につながります。
「体が汚れている」という感覚に、商品が売られています。
デトックスの宣伝が効くのは、多くの人が「自分の体は汚れている」「何かがたまっている」という漠然とした感覚を持っているからです。 その感覚は、疲れや不調の実感から来ていて、本物です。ただ、その原因は「毒」ではなく、睡眠不足や、運動不足や、飲みすぎや、病気の始まりです。
在宅で私たちが見ている「デトックス」は、地味です。水を飲めているか。便が出ているか。お酒が増えていないか。腎臓と肝臓の数字はどうか。 それが整っていれば、体は勝手に毒を出しています。整っていなければ、シートも点滴も、それを直しません。
この回のチェックリスト(第20回ぶん)
- 「毒を出す」のは肝臓と腎臓の仕事だと、人に説明できる。
- 「何の毒が、どれだけ、どう測って」を聞いた。
- キレーションが重金属中毒の承認薬で、それ以外の目的では効果が示されず死亡例があることを知っている。
- 足裏シートを、足に貼らずに水で湿らせて、黒くなるかを試した。
- 血液検査の結果の、肝臓と腎臓の欄を、自分で見る習慣をつけた。
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- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
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REFERENCE 参考資料
- Lamas GA, Goertz C, Boineau R, et al. Effect of disodium EDTA chelation regimen on cardiovascular events in patients with previous myocardial infarction: the TACT randomized trial. JAMA. 2013;309(12):1241-1250(https://doi.org/10.1001/jama.2013.2107)
- Lamas GA, Anstrom KJ, Navas-Acien A, et al. Edetate Disodium-Based Chelation for Patients With a Previous Myocardial Infarction and Diabetes: TACT2 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2024;332(10):794-803(https://doi.org/10.1001/jama.2024.11463)
- Centers for Disease Control and Prevention. Deaths associated with hypocalcemia from chelation therapy—Texas, Pennsylvania, and Oregon, 2003-2005. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2006;55(8):204-207(https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5508a3.htm)
- Federal Trade Commission. At FTC’s Request, Judge Imposes Ban on Marketers of Detox Foot Pads. November 2010(https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2010/11/ftcs-request-judge-imposes-ban-marketers-detox-foot-pads)
- National Center for Complementary and Integrative Health (NIH). “Detoxes” and “Cleanses”: What You Need To Know(https://www.nccih.nih.gov/health/detoxes-and-cleanses-what-you-need-to-know)

