認知症予防サプリ:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第17回/全30回
認知症予防サプリ

「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか

「記憶力を維持する」「中高年の物忘れに」。パッケージにそう書いてあるサプリが、薬局の棚に並んでいます。 認知症は、家族がいちばん恐れる病気の一つです。だから、このサプリの市場は大きい。 この回では、人で確かめた試験の結果と、「機能性表示食品」という表示を誰が確かめたのかを書きます。

この連載の現在地 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 第17回 認知症予防サプリ

この回の結論

  1. 認知症を予防すると、人の大きな比較試験で確かめられたサプリは、いまのところ一つもありません。3,069人のイチョウ葉の試験でも、差はありませんでした。
  2. 「機能性表示食品」の「記憶力を維持」は、国が審査した表示ではありません。事業者が届け出た、事業者の責任の表示です。
  3. 予防に根拠があるのは、運動、難聴への対応、血圧の管理、禁煙、人と会うこと。どれも、サプリより確かです。

SECTION 01 何が、どう売られているか

イチョウ葉エキス、DHA・EPA(魚の油)、プラズマローゲン、ホスファチジルセリン、ウコン、ヤマブシタケ。 「認知機能の一部である記憶力を維持する」「加齢による物忘れが気になる方に」。月に数千円から、高いものは数万円です。 多くに「機能性表示食品」の表示がついています。「認知症を予防する」とは、どこにも書いてありません。書けないからです。

機能性表示食品とは、事業者が「この成分にはこういう働きがある」という科学的な根拠を、販売前に消費者庁に届け出て表示する食品です。 消費者庁は「特定保健用食品(トクホ)と異なり、国が審査を行いません」「事業者は自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります」と説明しています。
ここだけ覚える「機能性表示食品」は、国が認めた表示ではなく、事業者が届け出た表示です。

SECTION 02 人で確かめた結果

成分大きな比較試験結果
イチョウ葉 75歳以上の3,069人を、イチョウ葉と偽薬にくじ引きで分けて中央値6.1年追跡(GEM試験) 差なし
認知症になった人はイチョウ葉277人、偽薬246人。予防効果はなし(DeKosky ら、JAMA 2008)
DHA・EPA(魚の油) 認知症のない60歳以上を対象にした比較試験3本・4,080人のまとめ(コクラン) 差なし
6〜40か月の摂取で、認知機能の検査に偽薬との差なし(Sydenham ら、2012)
プラズマローゲン 軽い認知症・軽度認知障害の328人、24週の比較試験(日本) 全体では差なし
主な指標に差はなく、一部の小さなグループでのみ改善(Fujino ら、2017)。資金は関連学会
ビタミンB・E、複合サプリ 世界保健機関(WHO)が世界中の試験を評価 勧めない
認知機能の低下・認知症の予防に「推奨しない」(WHO 2019)

表1 認知症予防をうたう主な成分の、人での比較試験の結果。

根拠はどこまであるか

いちばん大きな試験は、イチョウ葉です。75歳以上の3,069人を、1日240ミリグラムのイチョウ葉エキスと偽薬にくじ引きで分けて6年追いました。 認知症になった人は、イチョウ葉の組で277人、偽薬の組で246人。予防効果はありませんでした(DeKosky ら、JAMA 2008)。 魚の油も、健康な高齢者4,080人分の比較試験をまとめた解析で、認知機能の検査に差はありませんでした。

日本発のプラズマローゲンは328人の比較試験があり、全体では主な指標に差がなく、一部の小さなグループでだけ改善が見られました。 第2回で見たとおり、「一部のグループでだけ効いた」は、次の試験で確かめる材料であって、結論ではありません。 WHOは2019年の指針で、ビタミンB・E、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントを、認知症予防のために「推奨しない」としています。

ここだけ覚えるいちばん大きな試験(3,069人・6年)で、差はありませんでした。

SECTION 03 3つの「表示」を、見分ける

薬局の棚には、見た目の似た3種類の食品が並んでいます。違いは「誰が確かめたか」です。

図1 棚に並ぶ3種類の「健康食品」。誰が確かめたか 1 特定保健用食品(トクホ) → 国が審査し、許可した 人での試験を国が審査。表示できるのは「血圧が高めの方に」程度で、病気の予防は書けません 2 機能性表示食品 → 事業者が届け出た。国は審査しない 根拠は事業者が選んだ論文。「記憶力を維持」とは書けても、「認知症を予防」とは書けません 3 いわゆる健康食品 → 誰も確かめていない 効果を表示すること自体が法律違反。だから「元気」「イキイキ」のような言葉になります 2024年の紅麹の健康被害を受け、健康被害の報告義務(2024年9月)と製造管理の基準(2026年9月)が課されました。

図1 「機能性表示食品」は、トクホと「いわゆる健康食品」の中間にある。国が確かめたのはトクホだけで、それでも「病気の予防」は表示できない。

制度のしくみ

機能性表示食品の制度は2015年に始まりました。2024年3月、この制度の下で売られていた紅麹のサプリで腎臓の病気などの健康被害が多数出たことを受けて、 国は制度を見直しました。2024年9月からは、健康被害の情報を都道府県に報告することが義務になり、2026年9月からは、サプリ形状の製品に製造管理の基準(GMP)が義務づけられます。 それでも、「効くかどうかを国が審査する」しくみにはなっていません。届出制のままです。

  • こう言われたら「機能性表示食品だから、国が認めています」
    こう聞き返す「国が審査したのですか。それとも事業者が届け出たのですか」
  • こう言われたら「記憶力を維持する、と書いてあります」
    こう聞き返す「認知症を予防する、とは書いてありますか」
  • こう言われたら「早めに始めれば、認知症を防げます」
    こう聞き返す「飲んだ人で、認知症になる人が減った試験はありますか」
ここだけ覚える「記憶力を維持」と「認知症を予防」は、法律上も科学上も、別の文です。

SECTION 04 根拠のある予防は、ある

サプリに根拠がないことは、予防に手がないことではありません。 世界の研究をまとめた2024年の報告は、認知症の危険因子のうち対処できるものを挙げ、それらに手を打てば認知症の一部は防げるか遅らせられるとしています。 在宅の現場で、私たちが実際に取り組んでいるのは次の5つです。

  • 体を動かす歩く、体操をする、筋肉を使う。運動は、頭にも効くことがくじ引き試験で示されています。
  • 聞こえにくさに、補聴器で対応する難聴は、対処できる危険因子のなかで大きなものの一つです。「年だから」と放っておかず、耳鼻科で相談してください。
  • 血圧・糖尿病・コレステロールを管理する血管を守ることは、脳を守ることです。薬をやめる本より、薬を続けることのほうが、認知症予防の根拠があります(第25回)。
  • たばこをやめ、お酒を減らすどちらも、対処できる危険因子です。
  • 人と会い、役割を持つ孤立とうつは、認知症の危険を上げます。デイサービスも、趣味の集まりも、孫の世話も、予防の一部です。
在宅の現場では

棚に認知症予防のサプリが何種類も並んでいるお宅で、ご本人は補聴器を持っておらず、テレビの音が廊下まで響いていることがあります。 サプリに月1万円払って、補聴器を「高いから」と我慢している。私たちが最初にお願いするのは、耳鼻科の受診です。 サプリを責めるためではありません。同じお金と関心を、根拠のあるほうに向けてほしいだけです。

ここだけ覚えるサプリのお金を、補聴器と運動と血圧の薬に。それが、根拠のある予防です。
在宅医の視点

「何かを飲ませたい」気持ちは、「何かをしたい」気持ちです。

親の物忘れに気づいたお子さんが、最初にすることは、たいていサプリを買うことです。会いに行く回数を増やすより、簡単だからです。 それを責める気はありません。ただ、認知症の予防に根拠があるのは、「飲む」ことより「会う」「動く」「聞こえる」ことのほうなのです。

サプリの箱を買う代わりに、月に一度、一緒に散歩をする。補聴器を作りに行く。血圧の薬が切れていないか見る。 それは、サプリより効いて、しかも、お互いの記憶に残ります。

この回のチェックリスト(第17回ぶん)

  • 「機能性表示食品」が国の審査ではなく事業者の届出だと、人に説明できる。
  • 「記憶力を維持」と「認知症を予防」が別の文だと知っている。
  • 3,069人のイチョウ葉の試験で差がなかったことを知っている。
  • 家族の聞こえにくさに気づいたら、耳鼻科の受診を勧めた。
  • サプリに使っている月額を、運動・補聴器・受診に回すことを考えた。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
利用のご案内

「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。

ふくろう訪問クリニック(訪問診療) 福岡市早良区荒江2-6-37 第2渡辺ビル1階
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
クリニックのご案内
ふくろう訪問看護リハビリステーション 看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が伺います。
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
ステーションのご案内

訪問看護は、ふくろう訪問クリニック以外がかかりつけの方でもご利用いただけます。 主治医を変える必要はありません。

採用のご案内

在宅医療の現場で、一緒に働く方を募集しています。

ふくろう訪問クリニック 入職祝い金20万円直接応募限定 医師(常勤・非常勤)/看護師/医療事務
お電話:092-407-7337
メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp
採用情報のページ
ふくろう訪問看護リハビリステーション 入職祝い金20万円直接応募限定 看護師/理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(常勤・非常勤)
お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)
メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp
求人情報のページ

入職祝い金は、クリニック・ステーションのどちらも20万円です。 人材紹介会社を通さず直接ご応募いただいた方が対象になります。 見学だけでも歓迎します。訪問の経験がない方、ブランクのある方もご相談ください。

Q&A よくある質問

Q魚を食べるのは、認知症予防に良いと聞きました。サプリとは違うのですか。
A魚をよく食べる人に認知症が少ない、という観察研究はあります(第2回の4段目)。ただ、魚の油をサプリで飲む比較試験では差が出ませんでした。魚を食べる人は、食事全体や生活も違うのかもしれません。魚を食べること自体は良い食事なので、続けてください。それをサプリで置き換えられるかは、別の話です。
Q害がないなら、親が飲みたがっているサプリを止めなくてもよいですか。
A2つ確かめてください。飲んでいる薬との相互作用(イチョウ葉は血液をさらさらにする薬と、出血の報告があります)を薬剤師に聞くこと。そして、金額が家計を圧迫していないこと。この2つが大丈夫なら、無理に止めなくてかまいません。
Q物忘れが増えてきました。サプリより先に、何をすればよいですか。
Aまず、かかりつけ医に相談してください。甲状腺や薬の副作用など、治せる原因が隠れていることがあります。そのうえで、聞こえ、血圧、運動、人との交流を見直します。関連する記事「認知症の前兆を科学的に解説」も参考にしてください。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. DeKosky ST, Williamson JD, Fitzpatrick AL, et al. Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial. JAMA. 2008;300(19):2253-2262(https://doi.org/10.1001/jama.2008.683
  2. Sydenham E, Dangour AD, Lim WS. Omega 3 fatty acid for the prevention of cognitive decline and dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2012;(6):CD005379(https://doi.org/10.1002/14651858.CD005379.pub3
  3. Fujino T, Yamada T, Asada T, et al. Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer’s Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial. EBioMedicine. 2017;17:199-205(https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2017.02.012
  4. World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. 2019(https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543
  5. Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01296-0
  6. 消費者庁「機能性表示食品について」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/
  7. 消費者庁食品表示課「機能性表示食品の今後について」2024年8月(https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms201_240823_01.pdf
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。