「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
「記憶力を維持する」「中高年の物忘れに」。パッケージにそう書いてあるサプリが、薬局の棚に並んでいます。 認知症は、家族がいちばん恐れる病気の一つです。だから、このサプリの市場は大きい。 この回では、人で確かめた試験の結果と、「機能性表示食品」という表示を誰が確かめたのかを書きます。
この回の結論
- 認知症を予防すると、人の大きな比較試験で確かめられたサプリは、いまのところ一つもありません。3,069人のイチョウ葉の試験でも、差はありませんでした。
- 「機能性表示食品」の「記憶力を維持」は、国が審査した表示ではありません。事業者が届け出た、事業者の責任の表示です。
- 予防に根拠があるのは、運動、難聴への対応、血圧の管理、禁煙、人と会うこと。どれも、サプリより確かです。
SECTION 01 何が、どう売られているか
イチョウ葉エキス、DHA・EPA(魚の油)、プラズマローゲン、ホスファチジルセリン、ウコン、ヤマブシタケ。 「認知機能の一部である記憶力を維持する」「加齢による物忘れが気になる方に」。月に数千円から、高いものは数万円です。 多くに「機能性表示食品」の表示がついています。「認知症を予防する」とは、どこにも書いてありません。書けないからです。
SECTION 02 人で確かめた結果
| 成分 | 大きな比較試験 | 結果 |
|---|---|---|
| イチョウ葉 | 75歳以上の3,069人を、イチョウ葉と偽薬にくじ引きで分けて中央値6.1年追跡(GEM試験) | 差なし 認知症になった人はイチョウ葉277人、偽薬246人。予防効果はなし(DeKosky ら、JAMA 2008) |
| DHA・EPA(魚の油) | 認知症のない60歳以上を対象にした比較試験3本・4,080人のまとめ(コクラン) | 差なし 6〜40か月の摂取で、認知機能の検査に偽薬との差なし(Sydenham ら、2012) |
| プラズマローゲン | 軽い認知症・軽度認知障害の328人、24週の比較試験(日本) | 全体では差なし 主な指標に差はなく、一部の小さなグループでのみ改善(Fujino ら、2017)。資金は関連学会 |
| ビタミンB・E、複合サプリ | 世界保健機関(WHO)が世界中の試験を評価 | 勧めない 認知機能の低下・認知症の予防に「推奨しない」(WHO 2019) |
表1 認知症予防をうたう主な成分の、人での比較試験の結果。
いちばん大きな試験は、イチョウ葉です。75歳以上の3,069人を、1日240ミリグラムのイチョウ葉エキスと偽薬にくじ引きで分けて6年追いました。 認知症になった人は、イチョウ葉の組で277人、偽薬の組で246人。予防効果はありませんでした(DeKosky ら、JAMA 2008)。 魚の油も、健康な高齢者4,080人分の比較試験をまとめた解析で、認知機能の検査に差はありませんでした。
日本発のプラズマローゲンは328人の比較試験があり、全体では主な指標に差がなく、一部の小さなグループでだけ改善が見られました。 第2回で見たとおり、「一部のグループでだけ効いた」は、次の試験で確かめる材料であって、結論ではありません。 WHOは2019年の指針で、ビタミンB・E、多価不飽和脂肪酸、複合サプリメントを、認知症予防のために「推奨しない」としています。
SECTION 03 3つの「表示」を、見分ける
薬局の棚には、見た目の似た3種類の食品が並んでいます。違いは「誰が確かめたか」です。
図1 「機能性表示食品」は、トクホと「いわゆる健康食品」の中間にある。国が確かめたのはトクホだけで、それでも「病気の予防」は表示できない。
機能性表示食品の制度は2015年に始まりました。2024年3月、この制度の下で売られていた紅麹のサプリで腎臓の病気などの健康被害が多数出たことを受けて、 国は制度を見直しました。2024年9月からは、健康被害の情報を都道府県に報告することが義務になり、2026年9月からは、サプリ形状の製品に製造管理の基準(GMP)が義務づけられます。 それでも、「効くかどうかを国が審査する」しくみにはなっていません。届出制のままです。
-
こう言われたら「機能性表示食品だから、国が認めています」こう聞き返す「国が審査したのですか。それとも事業者が届け出たのですか」
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こう言われたら「記憶力を維持する、と書いてあります」こう聞き返す「認知症を予防する、とは書いてありますか」
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こう言われたら「早めに始めれば、認知症を防げます」こう聞き返す「飲んだ人で、認知症になる人が減った試験はありますか」
SECTION 04 根拠のある予防は、ある
サプリに根拠がないことは、予防に手がないことではありません。 世界の研究をまとめた2024年の報告は、認知症の危険因子のうち対処できるものを挙げ、それらに手を打てば認知症の一部は防げるか遅らせられるとしています。 在宅の現場で、私たちが実際に取り組んでいるのは次の5つです。
- 体を動かす歩く、体操をする、筋肉を使う。運動は、頭にも効くことがくじ引き試験で示されています。
- 聞こえにくさに、補聴器で対応する難聴は、対処できる危険因子のなかで大きなものの一つです。「年だから」と放っておかず、耳鼻科で相談してください。
- 血圧・糖尿病・コレステロールを管理する血管を守ることは、脳を守ることです。薬をやめる本より、薬を続けることのほうが、認知症予防の根拠があります(第25回)。
- たばこをやめ、お酒を減らすどちらも、対処できる危険因子です。
- 人と会い、役割を持つ孤立とうつは、認知症の危険を上げます。デイサービスも、趣味の集まりも、孫の世話も、予防の一部です。
棚に認知症予防のサプリが何種類も並んでいるお宅で、ご本人は補聴器を持っておらず、テレビの音が廊下まで響いていることがあります。 サプリに月1万円払って、補聴器を「高いから」と我慢している。私たちが最初にお願いするのは、耳鼻科の受診です。 サプリを責めるためではありません。同じお金と関心を、根拠のあるほうに向けてほしいだけです。
「何かを飲ませたい」気持ちは、「何かをしたい」気持ちです。
親の物忘れに気づいたお子さんが、最初にすることは、たいていサプリを買うことです。会いに行く回数を増やすより、簡単だからです。 それを責める気はありません。ただ、認知症の予防に根拠があるのは、「飲む」ことより「会う」「動く」「聞こえる」ことのほうなのです。
サプリの箱を買う代わりに、月に一度、一緒に散歩をする。補聴器を作りに行く。血圧の薬が切れていないか見る。 それは、サプリより効いて、しかも、お互いの記憶に残ります。
この回のチェックリスト(第17回ぶん)
- 「機能性表示食品」が国の審査ではなく事業者の届出だと、人に説明できる。
- 「記憶力を維持」と「認知症を予防」が別の文だと知っている。
- 3,069人のイチョウ葉の試験で差がなかったことを知っている。
- 家族の聞こえにくさに気づいたら、耳鼻科の受診を勧めた。
- サプリに使っている月額を、運動・補聴器・受診に回すことを考えた。
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- 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- DeKosky ST, Williamson JD, Fitzpatrick AL, et al. Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial. JAMA. 2008;300(19):2253-2262(https://doi.org/10.1001/jama.2008.683)
- Sydenham E, Dangour AD, Lim WS. Omega 3 fatty acid for the prevention of cognitive decline and dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2012;(6):CD005379(https://doi.org/10.1002/14651858.CD005379.pub3)
- Fujino T, Yamada T, Asada T, et al. Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer’s Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial. EBioMedicine. 2017;17:199-205(https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2017.02.012)
- World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. 2019(https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543)
- Livingston G, Huntley J, Liu KY, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628(https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01296-0)
- 消費者庁「機能性表示食品について」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/)
- 消費者庁食品表示課「機能性表示食品の今後について」2024年8月(https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms201_240823_01.pdf)

