飲んでも、軟骨には届かない
膝の痛みに悩む方の家で、いちばん多く見かけるサプリメントです。テレビでも新聞でも、毎日のように広告を目にします。 「軟骨の成分を補う」という理屈は、直感的で分かりやすい。だからこそ、人で確かめた結果を知っておく価値があります。 この回では、飲んだ成分がどこへ行くのかと、1,583人の試験が示したことを書きます。
この回の結論
- 飲んだグルコサミンやコンドロイチンが、そのまま膝の軟骨の材料になるわけではありません。消化され、分解されます。
- 1,583人の比較試験でも、10試験3,803人をまとめた解析でも、痛みも関節のすき間も、偽薬と意味のある差はありませんでした。国際学会は勧めておらず、日本整形外科学会も治療の選択肢に入れていません。
- 膝の痛みに効くと確かめられているのは、運動と減量です。「飲む」より「動く」です。
SECTION 01 何が、どう売られているか
グルコサミンは糖の一種、コンドロイチンは糖が長くつながった鎖で、どちらも軟骨に含まれる成分です。 「すり減った軟骨の材料を補う」「関節の動きをサポート」。月に数千円で、テレビ・新聞・折り込みで毎日のように宣伝されています。 中には「機能性表示食品」の表示がついたものもあります。
SECTION 02 飲んだ成分は、どこへ行くか
図1 「軟骨の成分を飲めば軟骨になる」は、髪の毛を食べれば髪が生えると言うのに近い。体は食べたものを分解して、必要なものを自分で作る。
SECTION 03 人で確かめた結果
米国の国立衛生研究所が資金を出した大規模な試験(GAIT)では、膝の変形性関節症で痛みのある1,583人を、グルコサミン、コンドロイチン、両方、痛み止め(セレコキシブ)、偽薬の5組にくじ引きで分け、24週間追いました。 「痛みが2割以上減った人」の割合は、偽薬で60.1%。グルコサミンはそれより3.9ポイント、コンドロイチンは5.3ポイント、両方で6.5ポイント高いだけで、統計的に意味のある差ではありませんでした。 痛み止めは10ポイント高く、こちらは意味のある差でした(Clegg ら、N Engl J Med 2006)。
その後、200人以上の試験10本・3,803人をまとめた解析でも、痛みの差は10センチの物差しで0.3〜0.5センチにとどまり、「患者さんが感じ取れる差」とされる0.9センチに届きませんでした。 関節のすき間(軟骨の厚み)にも差はなく、企業が資金を出した試験のほうが効果が大きく出る傾向がありました(Wandel ら、BMJ 2010)。
国際的な変形性関節症の学会(OARSI)の2019年の指針は、これらを勧める治療に入れていません。日本整形外科学会の2023年の指針も、サプリメントを推奨の対象(治療の選択肢)にはせず、参考資料の扱いにとどめています。 欧州の一部の学会は医薬品グレードのグルコサミン硫酸を推奨していますが、それは処方薬として品質と量が管理されたもので、日本で健康食品として売られている製品とは別物です。
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こう言われたら「軟骨の成分を補って、すり減りを防ぎます」こう聞き返す「飲んだ人の軟骨の厚みが保たれた試験はありますか」
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こう言われたら「機能性表示食品として届け出ています」こう聞き返す「国が審査したのですか。それとも事業者の届出ですか」
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こう言われたら「飲み続けている人は、みんな調子がいいと言っています」こう聞き返す「偽薬を飲んだ人では、何割が調子がいいと言いましたか」
SECTION 04 膝に効くと確かめられていること
サプリメントに効果がないという話で終わると、膝の痛い人には何も残りません。 確かめられている方法は、あります。国際学会の指針が「すべての人に勧める中核の治療」としているのは、次の3つです。
- 運動太ももの前の筋肉を鍛える運動と、歩く・自転車・水中歩行のような有酸素運動。痛みと動きの両方に、くじ引き試験で効果が示されています。
- 体重を減らす(太っている場合)歩くとき、膝には体重の何倍もの力がかかります。体重が減ると、その分だけ膝の負担が減ります。
- 病気について知ること変形性関節症は「軟骨がすり減って終わり」の病気ではなく、筋肉と体重と動かし方で経過が変わる病気だと知ること。それ自体が治療の一部です。
グルコサミン・コンドロイチンそのものの害は少ないほうです。ただし、エビ・カニの殻から作るものが多く、甲殻類アレルギーの方は注意が要ります。 血液をさらさらにする薬(ワルファリン)を飲んでいる方は、影響の報告があるので、主治医か薬剤師に伝えてください。 それより大きな害は、「飲んでいるから」と運動を後回しにすることです。膝は、動かさないと筋肉が落ち、さらに痛くなります。
月3,000〜5,000円を10年続けると、40〜60万円です。同じお金で、地域の運動教室に通う、理学療法士に自宅で運動を教わる(訪問リハビリは介護保険・医療保険で受けられます)、膝に合った靴や杖を買う。 どれも、サプリより確かに膝を楽にします。
訪問先の食卓に、グルコサミンの大きな袋が置いてあることは珍しくありません。私たちは、「それ、やめましょう」とは言いません。害が少ないからです。 代わりに、その場で椅子から立ち上がる練習を一緒にします。太ももの筋肉を使う運動です。「サプリを飲む時間に、これを10回」とお願いします。 数か月後に「立ち上がりが楽になった」と言われることが、いちばん多い結末です。
「飲んでいると調子がいい」は、本当です。ただ、理由が違います。
サプリを飲み始めた人が「調子がいい」と感じるのは、嘘でも気のせいでもありません。偽薬でも6割の人が良くなった、という試験の結果は、 膝の痛みには波があって、「何かを始めたとき」は良くなる時期に重なりやすい、ということを教えてくれます。
だから私たちは、サプリを否定しません。ただ、その「調子がいい」を、運動を始めるきっかけに使ってほしいのです。 調子がいいうちに筋肉をつければ、次の波が来たとき、膝はもっと楽に耐えられます。それは、飲み続けるだけでは手に入らないものです。
この回のチェックリスト(第16回ぶん)
- 「飲んだ成分がそのまま軟骨になるわけではない」と、人に説明できる。
- 1,583人の試験で偽薬と差がなかったこと、学会の指針が勧めていないことを知っている。
- 「機能性表示食品」が国の審査ではなく事業者の届出だと知っている。
- 太ももの筋肉を使う運動を、週に何回か始めた。
- サプリに使っている月額を計算し、運動や靴に回すことを考えた。
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- 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
- 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
- がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
- 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
- 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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REFERENCE 参考資料
- Clegg DO, Reda DJ, Harris CL, et al. Glucosamine, chondroitin sulfate, and the two in combination for painful knee osteoarthritis. N Engl J Med. 2006;354(8):795-808(https://doi.org/10.1056/NEJMoa052771)
- Wandel S, Jüni P, Tendal B, et al. Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis. BMJ. 2010;341:c4675(https://doi.org/10.1136/bmj.c4675)
- Bannuru RR, Osani MC, Vaysbrot EE, et al. OARSI guidelines for the non-surgical management of knee, hip, and polyarticular osteoarthritis. Osteoarthritis Cartilage. 2019;27(11):1578-1589(https://doi.org/10.1016/j.joca.2019.06.011)
- 日本整形外科学会 監修「変形性膝関節症診療ガイドライン2023」(https://www.joa.or.jp/topics/2023/files/guideline.pdf)
- 消費者庁「機能性表示食品について」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_with_function_claims/)

