「薬をやめれば健康になる」本:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第25回/全30回
「薬をやめれば健康になる」本

降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果

「医者が飲まない薬」「薬が病気を作る」「血圧は下げるな」。書店の健康書の棚で、いちばん売れている一角です。 この本には、半分の真実があります。高齢者の薬は多すぎることがあり、減らしたほうがよい薬は確かにあります。 問題は、残りの半分です。この回では、「医師と減らす」と「本を読んでやめる」の間にある距離を測ります。

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この回の結論

  1. 「薬をやめる」には二種類あります。主治医と数値を見ながら減らすことと、本を読んで自分でやめること。前者には根拠があり、後者には害の証拠があります。
  2. 75歳でスタチンを自分でやめた12万人の追跡では、心臓や脳の病気での入院が33%増えました。心臓のステント治療のあと抗血小板薬を早くやめた人は、血栓の危険が約90倍でした。
  3. 本当に減らすべき薬は、あります。それを決めるのは本ではなく、あなたの数値を見ている主治医です。

SECTION 01 なぜ、この本は売れるのか

「医者は自分では飲まない」「薬が新しい病気を作る」「血圧は年齢プラス90でいい」「コレステロールは高いほうが長生き」。 こうした本が売れるのには、理由があります。半分は本当だからです。 高齢の方が10種類以上の薬を飲んでいることは珍しくなく、副作用の重なりや飲み合わせで体調を崩すことは、実際にあります。国も学会も、高齢者の薬は見直すべきだと言っています。

本は、その「本当の半分」を入口にして、「だから自分でやめよう」という結論へ運びます。 ここが、確かめられていない部分です。

ここだけ覚える「高齢者の薬は多すぎる」は本当。「だから自分でやめよう」は、本が足した部分です。

SECTION 02 二種類の「やめる」

図1 同じ「薬をやめる」でも、この二つは別のものです 医師と一緒に減らす(減薬) 数値を見ながら、一つずつ、様子を見て、必要なら戻す。国の指針と学会のガイドラインに手順がある 「なぜ飲んでいるか」を薬ごとに確かめ、目的が消えた薬・害が益を上回った薬をやめる 本を読んで自分でやめる(自己中断) 数値を見ずに、一度に、誰にも言わず。「やめて調子がいい」は、脳卒中が起きる前の期間の感想 主治医は飲んでいないことを知らないまま、効いていない前提で薬を増やすこともある 上は「医療の一部」。下は「医療の外」。本が勧めているのは、下です。

図1 減薬は医療の正式な手順で、私たちも在宅で毎日やっている。自己中断は、その手順を飛ばしたもの。

制度のしくみ

厚生労働省は2018年に「高齢者の医薬品適正使用の指針」を出し、日本老年医学会は2025年に「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を10年ぶりに改訂しました。 どちらも、高齢者の薬を「一つひとつ、処方の目的に立ち返って見直す」ことを勧めています。つまり、薬を減らすことは、国と学会が勧める正式な医療です。 本を買わなくても、主治医に「薬を見直したい」と言えば、その手順は始まります。

ここだけ覚える薬を減らすのは、医師と一緒にやる正式な医療です。本の仕事ではありません。

SECTION 03 自分でやめた人に、何が起きたか

根拠はどこまであるか

フランスの全国データで、心臓や脳の病気になったことのない75歳の人12万173人を追跡した研究があります。それまで2年以上きちんとスタチン(コレステロールの薬)を飲んでいた人のうち、 14.3%が薬をやめました。やめた人は、続けた人に比べて、心臓や脳の病気で入院する危険が33%高く、冠動脈の病気では46%高くなっていました(Giral ら、Eur Heart J 2019)。

心臓の血管にステント(金属の筒)を入れた2,229人の追跡では、血栓でステントが詰まった人は1.3%で、そのうち45%が亡くなりました。 詰まる危険をいちばん強く予測したのは、抗血小板薬(血液をさらさらにする薬)を早くやめたことで、危険は約90倍でした(Iakovou ら、JAMA 2005)。

一方、公平のために書きます。医師の管理のもとで高齢者の降圧薬をやめる試験(6本・1,073人)をまとめたコクランの解析では、短期間では死亡や心筋梗塞に明らかな差は見えませんでした。 ただし証拠の確実性は低く、期間は最長でも1年ほどでした(Gnjidic ら、2025)。「医師の管理下で、選ばれた人が、様子を見ながら」やめた結果です。本を読んで一人でやめた結果ではありません。

自分で急にやめると医師と減らすときは
抗血小板薬・抗凝固薬最も危険。ステント血栓、脳梗塞。数日で起きることがある手術前など、やめる理由があるときだけ。期間を決めて
降圧薬種類によっては血圧が急に跳ね上がる(反跳)。脳卒中の危険血圧を家で測りながら、1剤ずつ減らす
スタチンすぐには何も起きない。数年で心臓・脳の病気が増える(上の研究)余命や目的を考えて、主治医と相談して決める余地がある
ステロイド・抗てんかん薬・インスリン最も危険。急な中断で命にかかわる必ず医師と。自分で減らしてはいけない
睡眠薬・胃薬・痛み止め離脱症状や再発はあるが、上の薬ほどの緊急性はない減らせることが多い。主治医に「減らしたい」と言う

表1 薬の種類ごとの、自己中断の危険と、減薬の進め方。「やめる相談」は歓迎、「やめてから報告」は危険。

ここだけ覚える「やめて調子がいい」は、脳卒中や心筋梗塞が起きる前の期間の感想です。

SECTION 04 本を持って、主治医のところへ

  • こう言われたら「医者は、自分ではこの薬を飲みません」
    こう聞き返す「私の主治医は、私の数値を見て、そう言いましたか」
  • こう言われたら「血圧は、年齢プラス90でいいんです」
    こう聞き返す「その数字で脳卒中が減った試験は、いつ、何人で行われましたか」
  • こう言われたら「薬をやめたら、みんな元気になっています」
    こう聞き返す「やめた人のうち、脳卒中や心筋梗塞になった人は、何人ですか」
気をつけること

いちばん危ないのは、「やめたことを主治医に言わない」ことです。飲んでいない前提を知らない主治医は、「効いていない」と判断して薬を増やすかもしれません。 そして、やめた薬の代わりに健康食品を始めるという組み合わせは、この連載で見てきた被害の典型です。

在宅の現場では

「先生、この本を読んだんですが」と、付箋だらけの本を差し出されることがあります。私たちは、その場で一緒に読みます。 「この章は本当です。この薬は、あなたにはもう要らないかもしれない。次の採血で確かめて、減らしましょう」「この章は、あなたには当てはまりません。この薬をやめると、脳梗塞の危険が上がります」。 本を否定せず、薬ごとに仕分けする。それが、本の正しい使い方です。実際、その本がきっかけで、3種類減らせた方もいます。

ここだけ覚える本は、捨てなくていい。主治医のところへ持って行って、薬ごとに仕分けしてもらってください。
在宅医の視点

「減らしたい」という相談は、大歓迎です。

在宅医療で私たちが毎日やっていることの一つが、薬を減らすことです。入院中に始まったまま目的を失った薬、別々の病院で重なった薬、80代になって益より害が大きくなった薬。 減らすと、ふらつきが消え、食欲が戻り、飲み忘れが減ります。減薬は、本当に効く医療です。

だから、「薬をやめたい」という気持ちを、私たちは否定しません。ただ、その気持ちを、本ではなく、主治医に向けてください。 「全部やめたい」と言ってくれれば、そこから一緒に仕分けが始まります。黙ってやめられることだけが、私たちにとっていちばん怖いことです。

この回のチェックリスト(第25回ぶん)

  • 「医師と減らす」と「自分でやめる」が別のものだと、人に説明できる。
  • 抗血小板薬・抗凝固薬・ステロイド・抗てんかん薬・インスリンは、自分で止めてはいけないと知っている。
  • 減らしたい薬があるなら、主治医に「減らしたい」と伝えた。
  • すでに自分でやめている薬があるなら、次の受診でそのことを伝えることにした。
  • 飲んでいる薬の一覧(お薬手帳)を、家族も見られる場所に置いた。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。

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Q&A よくある質問

Q90歳の親が、コレステロールの薬を飲んでいます。本当に要りますか。
Aよい質問で、主治医に聞く価値があります。90代で、心臓や脳の病気を起こしたことがなく、余命や生活の目標を考えると、やめる余地のある薬の一つです。ただし、心筋梗塞や脳梗塞のあとに飲んでいる場合は話が別です。「なぜこの薬を飲んでいるか」を、主治医に確かめてください。
Q薬をやめたいと言うと、主治医が嫌な顔をしそうで、言い出せません。
A「減らせる薬があれば減らしたい。飲み忘れも多くて」という言い方なら、嫌がる医師はほとんどいません。それでも取り合ってもらえなければ、薬剤師(かかりつけ薬局)に相談してください。薬剤師は、飲み合わせと重複を見て、医師に提案する役割を持っています。
Q実は、もう血圧の薬を自分でやめて半年になります。調子はいいです。
Aまず、次の受診で必ず伝えてください。叱られることより、知らされないことのほうが危険です。そのうえで、家で血圧を測った記録を持って行ってください。数値が本当に落ち着いているなら、「やめてよかった」と主治医が判断することもあります。それを判断するのは、数値と主治医です。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. Giral P, Neumann A, Weill A, Coste J. Cardiovascular effect of discontinuing statins for primary prevention at the age of 75 years: a nationwide population-based cohort study in France. Eur Heart J. 2019;40(43):3516-3525(https://doi.org/10.1093/eurheartj/ehz458
  2. Iakovou I, Schmidt T, Bonizzoni E, et al. Incidence, predictors, and outcome of thrombosis after successful implantation of drug-eluting stents. JAMA. 2005;293(17):2126-2130(https://doi.org/10.1001/jama.293.17.2126
  3. Gnjidic D, Langford AV, Jordan V, et al. Withdrawal of antihypertensive drugs in older people. Cochrane Database Syst Rev. 2025;3:CD012572(https://doi.org/10.1002/14651858.CD012572.pub3
  4. 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」2018年5月(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
  5. 日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」の概要(厚生労働省 検討会資料)(https://www.mhlw.go.jp/content/11125000/001622381.pdf
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。