家族が怪しい治療にはまったとき:詐欺医療に騙されない

詐欺医療に騙されない第30回/全30回
家族が怪しい治療にはまったとき

否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

最終回は、いちばん難しい場面のために書きます。親が、配偶者が、あるいは子どもが、証明されていない治療に何十万円も払い、病院の治療を断ろうとしている。 この29回で書いてきたことを、全部その人に言いたくなる。でも、言えば言うほど、その人は遠くへ行きます。 正しさより先に、必要なことがあります。

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この回の結論

  1. 正面から否定すると、本人は治療ではなく家族を切ります。目標は「やめさせる」ではなく、「主治医との線を切らせない」ことです。
  2. 怪しい治療にひかれる理由は、知識の不足ではなく、不安と孤独です。売る側は、それに時間をかけて応えています。家族にできるのは、その時間を取り戻すことです。
  3. 一人で抱えないでください。がん相談支援センター、地域包括支援センター、消費生活センター、そして主治医。相談は、本人でなく家族からでもできます。

SECTION 01 なぜ、正論が効かないのか

「そんなの効くわけない」「だまされてる」「いくら払ったの」。家族の口から出る最初の言葉は、たいていこの3つです。 どれも、事実としては正しいかもしれません。でも、言われた側に届くのは、内容ではなく「否定された」という感覚だけです。

本人にとって、その治療は「自分で選んだ、唯一の希望」です。それを否定されると、希望と一緒に自分を否定されたと感じます。 そのとき、隣で「あなたの選択は正しい」と言い続けてくれるのが、売る側です。 家族が否定するほど、売る側の言葉が温かく聞こえる。この構造を、まず知ってください。

根拠はどこまであるか

日本のがん患者さんの全国調査で、補完代替医療を始めたきっかけの77.7%は「家族や友人の勧め」でした(兵頭ら、J Clin Oncol 2005)。 同じ調査では、使っている人の60.7%が医師に相談しないまま使っていました。 つまり、怪しい治療は家族から入ってきて、家族と主治医の間の沈黙の中で育ちます。

標準治療をやめて代替医療だけにした場合の死亡リスクが2.5倍だったこと(Johnson ら、2018)は第1回で書きました。 同じ研究グループの続報では、標準治療に代替医療を「足した」人は、それを理由に手術や化学療法を断る割合が高く、それが生存の差につながっていました(Johnson ら、JAMA Oncol 2018)。 問題は「足すこと」より、足したあとに「標準治療を断ること」です。だから、目標は主治医との線を切らせないこと、に絞れます。

ここだけ覚える目標は「やめさせる」ではなく「主治医との線を切らせない」。これだけで、命に関わる部分は守れます。

SECTION 02 声のかけ方、5つの段階

図1 否定せずに、主治医につなぐ5つの段階 1 まず、聞く。「それ、どこで知ったの?」 評価をせず、経緯だけを聞く。本人が話す時間を、売る側より長くする 2 気持ちを言葉にする。「なんとかしたいんだね」 治療の是非ではなく、その下にある不安に触れる。「怖いよね」「病院の説明、足りなかったよね」 3 一つだけ、お願いする。「先生にも、見せてみない?」 「やめて」ではなく「見せて」。「一緒に行くから」を添える。主治医に隠さない、が唯一の条件 4 線を引く。「病院の治療は、続けてほしい」 サプリを飲むのは止めない。ただ、標準治療をやめることだけは、はっきり「やめないで」と言う 5 自分も、相談する。家族の側にも、支えが要る がん相談支援センター、地域包括支援センター、188。家族からも相談できます 1と2に、いちばん時間をかけてください。3以降は、1と2ができてから初めて、届きます。

図1 「やめて」は言わない。「見せて」と「病院は続けて」の2つだけを、繰り返し言う。

  • 言いたくなる言葉「そんなの効くわけないでしょ」
    代わりに言う「それ、どこで知ったの? ちょっと教えて」
  • 言いたくなる言葉「いくら払ったの、だまされてるよ」
    代わりに言う「なんとかしたいんだよね。私も同じ気持ちだよ」
  • 言いたくなる言葉「もうやめて。病院に行って」
    代わりに言う「これ、先生にも見せてみない? 一緒に行くから」
  • 言いたくなる言葉「好きにすれば。もう知らない」
    代わりに言う「サプリは止めない。でも、病院の治療だけは、続けてほしい」
ここだけ覚える「どこで知ったの?」「なんとかしたいんだね」「先生にも見せてみない?」。この3つの順番を、守ってください。

SECTION 03 それでも止まらないとき

  • 主治医に、家族から直接伝える本人が話さないなら、家族が診察に同席して、または電話で、伝えてください。医師は、知っていれば、飲み合わせや検査値の変化に目を配れます。知らないことが、いちばん困ります。
  • お金は、別の窓口で守る治療の是非と、契約の是非は別です。クーリングオフや取消しは、本人が納得していなくても、家族から消費生活センターに相談できます(第26回)。
  • 判断能力に不安があれば、制度を使う認知症などで契約の意味が分からない状態なら、成年後見制度や日常生活自立支援事業で、財産を守る人をつけられます。地域包括支援センターで相談が始められます。
  • 家族自身が、休む説得し続ける家族は、疲れて、最後に「もう知らない」と言ってしまいます。それが、いちばん売る側の望む結果です。休むために、相談窓口を使ってください。
在宅の現場では

娘さんが、玄関先で泣きながら私たちに言ったことがあります。「母が、抗がん剤をやめると言い出しました。何を言っても聞きません」。 私たちは、お母さまの部屋に入って、抗がん剤の話はしませんでした。棚に並んだサプリの箱を見て、「これ、どなたに勧められました?」と聞きました。 1時間、お母さまの話を聞きました。病院の説明が早すぎて、質問できなかったこと。娘に心配をかけたくなかったこと。 帰り際に、「サプリは続けていいですよ。抗がん剤の量のことだけ、病院の先生と一緒に考えさせてください」と言いました。抗がん剤は、続きました。

ここだけ覚える説得するのは、家族の仕事ではありません。家族の仕事は、線を切らせないことと、自分が倒れないことです。
在宅医の視点

30回かけて書いたのは、「疑え」ではなく「一人で決めるな」でした。

この連載を、「詐欺医療に騙されない」という題で始めました。読み返すと、どの回も同じことを言っています。 「一人で決めないでください。主治医に見せてください。お金の話は188に電話してください」。 疑う力は、病気のとき、いちばん弱くなります。だから、疑う力に頼らない仕組みを、元気なうちに作っておいてほしいのです。

私たちは在宅医です。ご自宅の棚のサプリも、玄関のパンフレットも、見えています。見えているのに黙っている医者にはなりたくない。 でも、頭ごなしに否定する医者にもなりたくない。「それ、どなたに勧められました?」から始める医者でいたいと思っています。 ご家族も、同じ一言から、始めてみてください。

この回のチェックリスト(第30回ぶん)

  • 家族が怪しい治療を始めたら、最初の一言を「それ、どこで知ったの?」にすると決めた。
  • 目標を「やめさせる」ではなく「主治医との線を切らせない」に置いた。
  • 「サプリは止めない。病院の治療は続けてほしい」と、線を引く言い方を覚えた。
  • 主治医に、家族から直接伝えてよいことを知っている。
  • 家族自身の相談先(がん相談支援センター・包括・188)を控えた。

困ったときの相談先

電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。すでに契約した・お金を払ったあとでも相談できます。

  • 消費者ホットライン 188(いやや)健康食品・健康器具・美容医療などの契約や勧誘の相談。局番なしの188で、お住まいの地域の消費生活センターにつながります/消費者庁「消費者ホットライン」
  • 福岡市消費生活センター相談専用 092-781-0999(月〜金 9:00〜17:00、土 10:00〜16:00は電話のみ)。クーリングオフや返金の相談はここへ/福岡市「消費生活相談ご利用案内」
  • 福岡市 医療安全相談窓口(各区衛生課)市内の医療機関での説明や診療に疑問があるとき。早良区 092-851-6567、城南区 092-831-4208、西区 092-895-7072、中央区 092-761-7325、南区 092-559-5115、博多区 092-419-1090、東区 092-645-1081(月〜金 9:30〜11:30、13:00〜16:00)/福岡市「医療安全相談窓口のご案内」
  • がん相談支援センターがんの治療で迷ったとき。県内すべてのがん拠点病院にあり、その病院にかかっていなくても無料で相談できます/福岡県「福岡県内のがん拠点病院がん相談支援センター」
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報サプリや健康食品の成分を、名前で調べられる公的データベース(国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所)/hfnet.nibn.go.jp
  • 医療機関ネットパトロール医療機関のホームページの「必ず治る」「副作用なし」などの表示を、厚生労働省の事業に通報できます/通報フォーム
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「これ、受けても大丈夫ですか」と聞ける主治医を、持ってください。

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 勧められた治療やサプリのことを、否定されずに相談したい。病院で「もう治療はない」と言われて、次をどうするか迷っている。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。

ふくろう訪問クリニック(訪問診療) 福岡市早良区荒江2-6-37 第2渡辺ビル1階
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入職祝い金は、クリニック・ステーションのどちらも20万円です。 人材紹介会社を通さず直接ご応募いただいた方が対象になります。 見学だけでも歓迎します。訪問の経験がない方、ブランクのある方もご相談ください。

Q&A よくある質問

Q本人に内緒で、主治医に伝えてもよいのでしょうか。
Aかまいません。医師は、患者さんが何を使っているかを知る必要があります。飲み合わせ、検査値への影響、治療の中断の兆し。伝え方は「本人には言わないでほしい」でも受け止めます。ただ、できれば「一緒に先生に見せよう」と本人を誘う形が、いちばん長続きします。
Q主治医が、忙しそうで相談しにくいです。
Aがん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」があり、その病院にかかっていなくても、無料で、家族だけでも相談できます。看護師や社会福祉士が、主治医への伝え方も一緒に考えてくれます。在宅医療を受けている方は、訪問看護師やケアマネジャーに、まず話してください。
Q結局、止められませんでした。私の言い方が悪かったのでしょうか。
A違います。売る側は、そのために訓練された言葉と時間を持っています。家族一人で勝てる相手ではありません。あなたが線を切らせずにいたなら、それは十分な仕事です。もし切れてしまっていても、線はつなぎ直せます。「病院にもう一度行ってみない?」は、何度言っても遅くありません。

この回に関連する記事

連載の外にある、ふくろう訪問クリニックのコラムです。この回の内容をさらに掘り下げたいときに読んでください。

連載「詐欺医療に騙されない」全30回

  1. 「標準治療」は最善の治療である——「並の治療」という誤解が、すべての入口になる
  2. 根拠には強さの順番がある——体験談・動物実験・比較試験を、一枚の表で見分ける
  3. 免疫細胞療法(ANK療法・樹状細胞療法など)——保険がきく免疫療法と、何が違うのか
  4. 高濃度ビタミンC点滴——試験管で起きたことと、患者さんで起きなかったこと
  5. 尿線虫検査(N-NOSE)——「精度」の数字を、家族が自分で読めるようになる
  6. 血液1滴の全身がん検査——マイクロRNA・CTC、「早期発見」の落とし穴
  7. 温熱療法(ハイパーサーミア)——保険がきく使い方と、「がんが消える」宣伝の境目
  8. 光免疫療法の便乗商法——承認された薬と、名前だけ似た自由診療の見分け方
  9. 幹細胞・遺伝子治療をうたうがん自由診療——「届出済み」は「効く」ではない
  10. 「がんが消える食事」——ゲルソン療法・糖質制限・重曹、効く前に栄養不良が来る
  11. 犬の駆虫薬・イベルメクチンでがんが治る?——SNSで広がる「隠された特効薬」
  12. 水素水・水素吸入——なぜ「水素は体の中で何も起こさない」と言えるのか
  13. アルカリイオン水・「奇跡の水」——血液のpHは、水では変わらない
  14. 酵素ドリンク・酵素サプリ——酵素は、胃で分解される
  15. フコイダン・アガリクス・AHCC——「学会発表」「特許取得」の本当の意味
  16. グルコサミン・コンドロイチン——飲んでも、軟骨には届かない
  17. 認知症予防サプリ——「機能性表示食品」の表示は、誰が確かめたのか
  18. 「免疫力を上げる」という言葉——医学に「免疫力」という数値はない
  19. ホメオパシー——「薄めるほど効く」を、科学はどう見ているか
  20. デトックス・キレーション・足裏デトックス——肝臓と腎臓が、すでにやっていること
  21. 幹細胞培養上清液・エクソソーム点滴——細胞を含まないから、法律の外にある
  22. 波動・量子医学(メタトロンなど)——物理学の言葉を借りた測定器
  23. 磁気・ゲルマニウム・チタン・遠赤外線——身につける健康グッズの根拠
  24. にんにく注射・プラセンタ・点滴バー——「疲れが取れる」の正体
  25. 「薬をやめれば健康になる」本——降圧薬・スタチンを自己判断でやめた結果
  26. 訪問販売・電話勧誘の健康器具——電位治療器・磁気マットレス・浄水器と、クーリングオフ
  27. 「余命宣告からの生還」体験談——なぜ成功例しか目に入らないのか
  28. ワクチン不安ビジネス——帯状疱疹・肺炎球菌・インフルエンザ、「打たないほうが安全」の売り方
  29. 怪しい医療を見抜くチェックリスト10項目——「奇跡」「医師も推薦」「副作用ゼロ」「今だけ」
  30. 家族が怪しい治療にはまったとき——否定せずに、主治医につなぐ声のかけ方

REFERENCE 参考資料

  1. Hyodo I, Amano N, Eguchi K, et al. Nationwide survey on complementary and alternative medicine in cancer patients in Japan. J Clin Oncol. 2005;23(12):2645-2654(https://doi.org/10.1200/JCO.2005.04.126
  2. Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Use of Alternative Medicine for Cancer and Its Impact on Survival. J Natl Cancer Inst. 2018;110(1)(https://doi.org/10.1093/jnci/djx145
  3. Johnson SB, Park HS, Gross CP, Yu JB. Complementary Medicine, Refusal of Conventional Cancer Therapy, and Survival Among Patients With Curable Cancers. JAMA Oncol. 2018;4(10):1375-1381(https://doi.org/10.1001/jamaoncol.2018.2487
  4. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん相談支援センターとは」(https://ganjoho.jp/public/institution/consultation/cisc/cisc.html
  5. 国民生活センター「2024年度 65歳以上の消費生活相談の状況」2025年9月3日(https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20250903_1.pdf
  6. 厚生労働省「成年後見はやわかり」(https://guardianship.mhlw.go.jp/
本記事は、公開されている法令・行政資料・学術論文・公的機関の情報をもとに、特定の療法や商品について 現時点で分かっていることを整理したものです。特定の事業者や商品を名指しで評価するものではなく、 記事中の療法名・商品の種類は一般名で記しています。研究は日々更新されますので、記載の内容は 公開時点のものとしてお読みください。治療の選択やお体のことは、かかりつけ医・主治医に必ずご相談ください。 契約や返金のことは、消費生活センター(局番なし188)にご相談ください。