グループホームという選択と、福岡市の認知症のしくみ
認知症があるとわかったとき、多くの家族が「グループホームしかない」と考えます。 でも、選択肢はそれだけではありませんし、グループホームにも向き不向きがあります。 そして福岡市には、施設に入る前に使える仕組みが、ほかの市にはないほど揃っています。 この回では、グループホームの中身を法令から確かめたうえで、 福岡市が用意している手を、ひとつずつ並べます。
この回の結論
- グループホームは9人までの家です。医師も看護職員も、配置の基準がありません。医療が濃くなると、住み続けられなくなることがあります。
- 地域密着型のサービスなので、原則としてその市町村に住んでいる人しか入れません。福岡市民は福岡市のグループホームへ、ということです。
- 認知症は、施設だけの問題ではありません。福岡市には家族が使える仕組みが揃っています。1時間500円で見守りを頼める事業まであります。
SECTION 01 グループホームは「9人までの家」
正式には認知症対応型共同生活介護といいます。省令の基本方針は、こう書かれています。
「家庭的な環境」と「地域住民との交流」。この2つが、グループホームの性格を決めています。 それが設備の基準にもそのまま出ています。
- 1つの共同生活住居(ユニット)の定員は5人以上9人以下1つの事業所が持てるユニットは1つから3つまでです。つまり、いちばん大きくても27人。特別養護老人ホームとはまったく規模が違います。
- 居室は1人部屋。床面積は7.43平方メートル以上処遇上必要と認められる場合に限って2人部屋にできます。
- 居間、食堂、台所、浴室を備える台所があるのがポイントです。料理や洗濯を職員と一緒にする暮らしが想定されています。居間と食堂は同じ場所でかまいません。
- 住宅地、またはそれと同程度に家族や地域住民との交流の機会が確保される地域にあること省令が立地まで定めています。山の中の大きな施設ではなく、まちなかの家であることが求められています。
職員の基準に、医師も看護師も入っていない
同じ省令の第90条が、職員の数を定めています。置くことになっているのは、 介護従業者と計画作成担当者です。
介護従業者は、共同生活住居ごとに、日中は利用者3人につき1人以上(常勤換算)。 そして夜間と深夜の時間帯は、共同生活住居ごとに1人以上が実際に勤務します (宿直ではなく、勤務です)。ただし、3つのユニットがすべて同じ階で隣接していて、 職員が速やかに対応できる構造であるなど一定の条件を満たす場合は、 事業所ごとに2人以上とすることができます。
注目していただきたいのは、この条文に医師も看護職員も出てこないことです。 特別養護老人ホームには医師が必置で、介護老人保健施設にはリハビリ職まで置くことになっていました。 グループホームには、その定めがありません。 看護師を独自に雇っているグループホームもありますが、それは各事業所の判断です。
| グループホーム | 特別養護老人ホーム | 介護老人保健施設 | |
|---|---|---|---|
| 1か所の規模 | 5〜9人が1ユニット。最大3ユニット | 数十人から百人以上 | 数十人から百人以上 |
| 医師 | 配置の基準なし | 必置(必要な数) | 入所者100人に1人以上 |
| 看護職員 | 配置の基準なし | 入所者数に応じて配置 | 介護職員と合わせて3人に1人 |
| 日中の介護職員 | 利用者3人に1人以上 | 看護職員と合わせて3人に1人以上 | 看護職員と合わせて3人に1人以上 |
| 夜間 | ユニットごとに1人以上が勤務 | 施設による | 施設による |
| 入れる人 | 認知症があること。原則その市町村の住民 | 原則要介護3以上 | 要介護1以上 |
| 訪問診療 | 入れる | 原則入れない | 入れない |
| 1か月の自己負担のめやす (要介護3・1割) | 25,457円 | 26,272円 | 32,134円 |
表1 グループホームと介護保険施設の比較。金額は福岡市が公表している目安(1か月30日、1割負担)で、 グループホームは2ユニットの場合。いずれも食費、居住費、おむつ代などが別に必要です。 グループホームの列を要介護度別に示すと、要介護1で23,607円、要介護5で26,491円。 要介護度が上がっても金額があまり変わらないのが、この住まいの特徴です。
SECTION 02 入れる人、入れない人
条件は3つあります。どれも見落とされやすいので、順に確かめてください。
- 認知症があること介護保険法の定義では「要介護者であって認知症であるもの(その者の認知症の原因となる疾患が急性の状態にある者を除く)」。急性期の状態にある方は対象外です。
- 要介護1以上。要支援2の方は介護予防のグループホームへ要支援1の方は利用できません。福岡市の案内にも明記されています。
- 原則として、その市町村に住んでいることグループホームは「地域密着型サービス」です。福岡市が指定し、福岡市の被保険者が使うことが前提になっています。隣の市の評判のよいホームに、という話は基本的に通りません。
条件を満たしていても、合わない方はいます。 グループホームは、5人から9人で一緒に暮らす場所です。 台所に立ち、洗濯物をたたみ、同じ居間で過ごします。 人と関わることが元々苦手な方、大きな音や人の気配が苦手な方には、 その環境が負担になることがあります。
逆に、大きな施設では落ち着かなかった方が、 少人数になったとたんに穏やかになることもあります。 こればかりは、見学して、できれば体験利用をしてみないとわかりません。 「認知症だからグループホーム」と決めつけないでください。
SECTION 03 いつまでいられるか、を先に聞く
グループホームでいちばん多い相談は、入るときの話ではなく、 出るときの話です。医療の配置基準がないことが、ここに効いてきます。
- 医療が濃くなったとき点滴が続く、たんの吸引が頻回になる、酸素が必要になる。看護職員がいないホームでは、対応が難しくなります。
- 入院したとき入院が長引くと、契約上は退去になることがあります。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅とは、ここの守りが違います。
- 他の入居者との関係が難しくなったとき9人までの共同生活なので、1人の状態の変化が全体に影響します。
- 看取りの段階になったとき看取りまで対応するグループホームもありますが、すべてではありません。
ここで大事なことをひとつ。グループホームには、訪問診療が入れます。 第6回で扱った介護老人保健施設や介護医療院とは違い、 医師の配置基準がないぶん、外から医療を足すことができます。 私たちも、グループホームに入っておられる方のところへ伺っています。
訪問看護も、条件によっては利用できます。 つまり、「医療が濃くなったから出なければならない」とは限らないのです。 外から医療を入れることで住み続けられるケースは、実際にあります。
ですから見学のときは、こう聞いてください。 「訪問診療や訪問看護を入れている入居者さんはいますか」。 あります、という答えなら、そのホームは医療との付き合い方を知っています。 そのうえで「どういう状態になったら、退去をお願いすることになりますか」 を、契約書のどこに書いてあるか指してもらいながら確認してください。 ここを曖昧にしたまま入ると、いちばん大変な時期に住まいを探し直すことになります。
SECTION 04 福岡市の認知症のしくみ(1)困ったときの入口
ここから福岡市の話です。福岡市は、認知症を市の重点政策として扱っています。 福祉局の部の名前が「ユマニチュード推進部」で、その中に認知症支援課があります。 介護のケア技法の名前が部署名に入っている自治体は、ほかにありません。 それだけの体制で、家族が使える仕組みが用意されています。
図1 この4つは、施設を探す前に使えます。とくに2の認知症サポートチームは、受診につながっていない段階のための仕組みです。
認知症サポートチーム(認知症初期集中支援チーム)について、もう少し書きます。 対象になるのは、福岡市内の自宅で生活している40歳以上の方で、 認知症が疑われるのに医療や介護サービスを受けていない、あるいは中断している方、 そして認知症の症状で対応に困っている方です。
「病院に行きたがらない」「介護保険の話をすると怒る」。 こういう段階で、家族が最も孤立します。そのための仕組みです。 相談は、いきいきセンターふくおか、または各区の地域保健福祉課へ。 チーム員が自宅を訪問し、受診に向けた支援や、介護サービスにつなげる支援を、 おおむね6か月を目安に行います。
SECTION 05 福岡市の認知症のしくみ(2)暮らしを支える
入口の次は、日々の暮らしです。ここに、福岡市の独自性がいちばん出ています。 介護保険のサービスとは別に、市が用意している事業です。
認知症介護家族やすらぎ支援事業。 認知症の方を自宅で介護している家族が、外出したいとき、あるいは疲れて休みたいときに、 認知症の介護知識を持ったボランティア(やすらぎ支援員)が自宅を訪問します。 見守り、話し相手、散歩の付き添い、食事の声かけ、トイレの誘導など。 家族の相談にも応じます(緊急時を除き、直接身体に触れる介護は行いません)。
1日1回、週3回まで。1回3時間以内(午前9時から午後6時)。 利用料は1時間500円と、支援員の交通費。 対象は、福岡市の介護保険被保険者で要支援・要介護の認定を受けている在宅の認知症の方を、 同居または同居に準じた状況で介護している家族です。 申し込みは、お住まいの区の福祉・介護保険課へ。
これは、デイサービスやショートステイとは性格が違います。 本人を外に出すのではなく、家に人が来て、家族が出かけられるようにする仕組みです。 「デイサービスには行きたがらないが、家に来てもらうならいい」という方に合います。
認知症の人の見守りネットワーク事業。 外に出て行って帰れなくなる、という心配への備えです。3つの仕組みがあります。
登録制度——氏名・住所・連絡先・特徴・写真などを、あらかじめ警察署や 区の保健福祉センターに登録しておきます。行方がわからなくなったときの早期発見と、 保護されたときの身元確認のためです。無料です。
捜してメール——登録した方が行方不明になったとき、 協力事業者・協力サポーターへ一斉にメールを配信します。午前8時から午後8時、365日。 こちらも無料です(受信する側の通信費は自己負担)。
捜索システム(GPS端末機)——端末を貸してもらえます。 本人がボタンを長押しすると現在地を発信でき、家族がコンタクトセンターに電話すれば 位置を確認できます。スマートフォンのアプリでも確認できます。 初期費用は市が助成するので無料。月額利用料は1,375円(税込)です。
申請は、各区の保健福祉センター地域保健福祉課、または お住まいの地域のいきいきセンターふくおかへ。 これは、まだ元気なうちに登録しておくものです。 いなくなってから探し始めても間に合いません。
このほかにも、福岡市には次のような仕組みがあります。 どれも認知症支援課のホームページからたどれます。
- ユマニチュードフランス生まれのケア技法で、見る・話す・触れる・立つを柱にします。福岡市は市民向け、児童生徒向けの講座を開き、DVDの貸し出しもしています。家族が学べる技術です。
- 認知症カフェ本人も家族も、地域の人も立ち寄れる場所。市が一覧を公表しています。
- 認知症ピアサポート、本人ミーティング同じ立場の人どうしで話す場です。診断を受けたご本人が参加できる場があるのが、福岡市の特徴です。
- 福岡市認知症ケアパス認知症の進行に応じて、どの時期にどんなサービスが使えるかをまとめた冊子です。この連載と合わせて読むと、地図が二重になります。
- 認知症フレンドリーセンター中央区舞鶴のあいれふ2階。展示を見たり、相談したり、交流したりできます。日曜・月曜と祝日、年末年始は閉館です。
SECTION 06 施設を決める前に、順番がある
認知症の場合、住まいを移すこと自体が本人の負担になります。 だから、移る回数はできるだけ少なくしたい。それが原則です。 そのために、次の順で考えてください。
- 診断をつける認知症といっても原因はさまざまで、治療で改善するものもあります。まず鑑別診断を受けてください。
- 家に手を入れるやすらぎ支援事業、見守りネットワークの登録、訪問介護、デイサービス。第3回で扱った小規模多機能型居宅介護は、同じ職員が通いも訪問も泊まりも担当するので、認知症のある方に向きます。
- 家族が学び、つながるユマニチュードの講座、認知症カフェ、ピアサポート。対応の仕方が変わるだけで、暮らしが変わることがあります。
- それでも難しくなったら、住まいを移すグループホームだけではありません。第4回の有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅も、第5回の特別養護老人ホームも、認知症のある方を受け入れています。特養の入所評価基準では、認知症の行動がほぼ毎日ある場合に10点が加算されます。
住み替えは、できれば一度で済ませたい。
認知症のある方を診ていて、いちばんつらいのは、 短い期間に二度、三度と住まいが変わるケースです。 グループホームに入ったが医療が濃くなって出ることになり、 病院を経て別の施設へ。そのたびに環境が変わり、そのたびに混乱が強くなります。
ですから、選ぶときには「いまの状態に合うか」だけでなく、 「1年後、2年後に状態が変わってもいられるか」を必ず聞いてください。 具体的には、点滴はできるか。たんの吸引はできるか。 訪問診療や訪問看護を入れている入居者はいるか。看取りまで対応するか。 この4つです。
そして、認知症であることは、訪問診療を受けられない理由にはなりません。 自宅でも、グループホームでも、有料老人ホームでも、私たちは伺えます。 医療を外から足せる住まいを選んでおけば、状態が変わっても動かずに済む可能性が上がります。 どの住まいに医療が入れるのかは、第9回で一枚の表にまとめます。
この回のチェックリスト(第7回ぶん)
- 認知症の診断(原因となる病気の鑑別)を受けた
- いきいきセンターふくおか、または区の地域保健福祉課に相談した
- 受診につながっていない場合、認知症サポートチームのことを知った
- 見守りネットワークの登録制度と捜してメールに登録した(どちらも無料)
- やすらぎ支援事業(1時間500円)が使えるか確認した
- ユマニチュードの講座や認知症カフェの情報を調べた
- グループホームを見学し、体験利用ができるか聞いた
- 「どういう状態になったら退去になるか」を契約書のどこに書いてあるか指してもらった
- 「訪問診療や訪問看護を入れている入居者はいるか」を聞いた
この回で出てきた福岡市の窓口
電話番号と受付時間は変わることがあります。最新の内容は各ページでご確認ください。
- 福岡市 福祉局 ユマニチュード推進部 認知症支援課認知症に関する市の施策の窓口/電話 092-711-4891/認知症のページ(施策の一覧)
- 認知症サポートチーム(認知症初期集中支援チーム)受診や介護につながっていない方への訪問支援。相談は各区の地域保健福祉課、またはいきいきセンターふくおかへ/サポートチームのページ
- 福岡市認知症疾患医療センター鑑別診断と専門医療相談(電話・面談は要予約)/九州大学病院(東区馬出3-1-1、092-642-6235)・福岡大学病院(城南区七隈7-45-1、092-801-1011 内線4693)/疾患医療センターのページ
- 認知症介護家族やすらぎ支援事業1時間500円+交通費。申し込みはお住まいの区の福祉・介護保険課/やすらぎ支援事業のページ
- 認知症の人の見守りネットワーク事業登録制度と捜してメールは無料、GPS端末は月額1,375円。申請は各区の地域保健福祉課またはいきいきセンターふくおか/見守りネットワークのページ
- 福岡市認知症フレンドリーセンター中央区舞鶴2-5-1 あいれふ2階/電話 092-791-9115/センターのホームページ
自宅でも、施設に移ってからでも、医療は続けられます。
ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区の在宅医療のクリニックです。 ご自宅はもちろん、有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームへも医師が伺います。 通院が難しくなってきた、施設に移るので主治医を探している、退院後の行き先を決めたい。 どの段階のご相談でもかまいません。ご家族だけでのお問い合わせも歓迎します。
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Q&A よくある質問
連載「親の施設の選び方」全10回
- 親の住まいには何種類あるのか——自宅から病院まで、選択肢を一枚の地図にする
- まず、どこに相談するか——「いきいきセンターふくおか」と要介護認定の受け方
- まだ自宅でいける——在宅サービスをどこまで積めるか、限界はどこにあるか
- 有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅——福岡市にいちばん多い住まいの見分け方
- 特別養護老人ホーム——いちばん安い、いちばん待つ。待ち方には作法がある
- 医療が必要になったら——老健・介護医療院・療養病床の使い分け
- 認知症のとき——グループホームという選択と、福岡市の認知症のしくみ
- 結局いくらかかるのか——月額の内訳と、公的に下げる手立てのすべて
- 施設に入っても医療は続く——訪問診療・訪問看護が入る住まい、入らない住まい
- 決めるとき、決めたあと——見学の見どころ、契約書の落とし穴、そして最期まで
REFERENCE 参考資料
- 指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第89条・第90条・第93条(https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000100034)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第20項(認知症対応型共同生活介護)(https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123)
- 福岡市「認知症」(施策の一覧)(https://www.city.fukuoka.lg.jp/healthcare/korei-kaigo/06/index.html)
- 福岡市「認知症サポートチーム(認知症初期集中支援チーム)について」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/dementia/health/00/04/ninchisyoufriendlycity/ninchishoshokishutyusien.html)
- 福岡市「福岡市認知症疾患医療センターのご案内」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/dementia/health/00/03/3-040102.html)
- 福岡市「認知症介護家族やすらぎ支援事業」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/dementia/health/00/03/3-040105.html)
- 福岡市「認知症の人の見守りネットワーク事業」(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/dementia/health/00/03/3-040103.html)
- 福岡市認知症フレンドリーセンター(https://dementia-friendly-center.city.fukuoka.lg.jp/)
- 福岡市「介護保険のサービス」(認知症対応型共同生活介護の利用者負担のめやす)(https://www.city.fukuoka.lg.jp/fukushi/kaigohoken/health/00/03/3-010601.html)

