精神科の『相談員』とは誰か — 名前も権限も違う5種類を整理する

精神科にかかると、診察室のほかに、もうひとつ話す相手が現れることがあります。「相談員です」「精神保健福祉士の◯◯です」と名乗るその人は、いったい何をしてくれるのか。薬も出さないし、診断もしない。それでも、その人がいるかいないかで、治療が続くかどうかが変わることがあります。この記事では、精神科まわりの「相談員」と呼ばれる人たちを、法律の根拠と最新の制度改正、そして海外の臨床研究の両方から整理します。

SECTION 01 この記事の結論

1
「相談員」はひとつの職業名ではない同じ「相談員」でも、精神科病院の中にいる人、役所の窓口にいる人、地域の事業所にいる人では、根拠になる法律も、権限も、動ける範囲も違います。だから「誰に頼めばいいか」は、資格名ではなくどこに置かれている人かで見分けるのが、いちばん早い。
2
仕事の中身は「話を聞くこと」ではなく「生活を組み直すこと」医療費、住まい、仕事、家族、手続き、そして支援が途切れたときのつなぎ直し。相談員が扱うのは、診察室では時間が足りない領域です。治療そのものはしませんが、治療が続けられる条件のほうを整えます。
3
制度は「同じ人が最初から最後まで伴走する」方向へ動いた2024年4月の改正精神保健福祉法と、2026年6月施行の診療報酬改定は、どちらもこの方向を向いています。ただし、「相談員がつけば再入院が減る」という証拠は、期待されるほど強くありません。そこは正直に書きます(SECTION 09)。

SECTION 02 「相談員」は職名ではなく、置かれた場所の呼び名

「相談員さんに聞いてみてください」と言われて、どの相談員のことか分からなくなる。これは利用する側の理解不足ではなく、制度がそう作られているからです。精神科まわりで「相談員」と呼ばれる人には、少なくとも5つの居場所があり、それぞれ別の法律に根拠を持っています。

図1「相談員」は職名ではない — 置かれている場所で名前も根拠も変わる精神科の医療機関の中精神保健福祉士(MHSW)精神保健福祉士法(1997年)医療費の心配、休職や復職、家族との関係、退院後の住まいまで、診察室では話しきれないことを引き受ける。診断も処方もしないが、通院が続くかどうかをいちばん左右する立場。ただし配置は義務ではなく、精神科病院にはほぼ置かれている一方、小規模な診療所にはいないことも多い。精神科病院に入院しているあいだ退院後生活環境相談員精神保健福祉法 第33条の4ほか医療保護入院と措置入院では、入院から7日以内に必ず1人選ばれ、本人と家族に「私が担当です」と名乗ることになっている。退院に向けた相談の中心役で、おおむね入院者50人につき1人が目安。入院中に、病院の外から会いに来る入院者訪問支援員精神保健福祉法 第35条の2(2024年4月〜)都道府県が行う事業で、本人が希望したときだけ来る。病院職員でも家族でもない立場で話を聞き、入院生活の相談に乗り、必要な情報を渡す。市町村長同意の医療保護入院の人が中心。退院してから、暮らしの場で相談支援専門員障害者総合支援法障害福祉サービスを使うときの「サービス等利用計画」を本人と一緒に作り、事業所や役所と調整する。自宅を訪問して面接することが基準で定められている。介護保険のケアマネジャーの、障害福祉版にあたる。役所・保健所・センターの窓口精神保健福祉相談員精神保健福祉法 第48条都道府県・市町村が精神保健福祉センターや保健所などに置くことができる職員。受診につながっていない段階の相談、家族だけの相談、訪問しての働きかけを担う。

図1|同じ「相談員」でも、根拠になる法律と動ける範囲が違う。資格としては精神保健福祉士や社会福祉士が担っていることが多いが、資格名と役割名は一致しない。

ここに、介護保険のケアマネジャー(介護支援専門員)、就労支援事業所の支援員、そして自分自身も精神疾患の経験を持つピアサポーターが加わります。関わる人が多いほど心強い反面、「結局、誰が主担当なのか分からない」という状態も起きやすい。この点は後で触れます。

SECTION 03 精神保健福祉士(MHSW)とは何をする人か

精神科の「相談員」の中核を担うのが、精神保健福祉士です。1997年の精神保健福祉士法でつくられた国家資格で、登録者は113,332人(令和8年1月末現在・厚生労働省)。医師や看護師のような業務独占ではなく名称独占の資格なので、「精神保健福祉士を名乗れるのは有資格者だけ」ですが、「相談援助は有資格者しかできない」わけではありません。職能団体は2020年に英語名をPSW(Psychiatric Social Worker)からMHSW(Mental Health Social Worker)へ改めており、最近はMHSWの表記も増えています。

この資格は2024年4月に、法律上の守備範囲が広がりました。

図22024年4月、精神保健福祉士の守備範囲が広がった2024年3月まで対象は「精神障害の医療を受けている人」「社会復帰施設を利用している人」。つまり、すでに精神科につながっている人の相談が中心だった。2024年4月からこれに「精神障害者及び精神保健に関する課題を抱える者の精神保健に関する相談」が加わった。診断がついていなくても、保健・医療・福祉・住まい・就労など暮らしの困りごとから心の健康に課題が生じている人は、法律上の相談の対象になった。※ 名称独占の国家資格。登録者は113,332人(令和8年1月末現在・厚生労働省)。職能団体は2020年に英語名をPSWからMHSW(Mental Health Social Worker)に改めている。

図2|精神保健福祉士法第2条(定義)の改正。「精神障害の医療を受けている人」に限られていた対象に、「精神保健に関する課題を抱える者」が加わった。

カウンセラーとの違い
公認心理師や臨床心理士が担うのは、心理検査や心理療法(カウンセリング)です。一方、精神保健福祉士が扱うのは制度・お金・人間関係・環境のほう。「気持ちを整理する」のが前者、「暮らしが回るように条件を変える」のが後者、と分けて考えるとおおむね合っています。実際にはどちらも聴くところから始まるので、受ける側からは区別がつきにくいのが正直なところです。

SECTION 04 相談員が実際に引き受けている7つの領域

ここが、いちばん誤解されているところだと思います。相談員の仕事は「悩みを聞いてもらう」ことではありません。次の7つは、いずれも具体的な作業です。

図3相談員が実際に引き受けている7つの領域お金自立支援医療・障害年金・手帳・生活保護・傷病手当金。使える制度を探し、申請の書類をそろえ、窓口に一緒に行く。住まい退院先がない、家族と離れたい、家賃が払えない。グループホームや公営住宅、居住支援法人につなぐ。仕事・学校休職と復職のタイミング、就労移行支援やIPS型の就労支援、職場や学校への説明の仕方を一緒に考える。手続き役所の書類は種類が多く、期限もばらばら。どれをいつ出すのかを整理し、抜けを防ぐ。家族家族だけの相談も受ける。本人が受診を拒んでいる段階の相談先にもなる。家族会や家族教室を紹介する。危ないとき調子が崩れたときに誰へどの順で連絡するかを、平時のうちに紙に書いて決めておく。つなぎ直し支援が途切れたとき、関係がこじれたときに、間に立って組み直す。ここがいちばん相談員らしい仕事。

図3|相談員が引き受けている領域。診断も処方もしないが、この7つが崩れると治療は続かない。

とくに7番目の「つなぎ直し」は、外からは見えにくい仕事です。訪問看護と本人の相性が悪くなった、ヘルパーが辞めた、家族が疲れて距離を置いた——こうしたとき、間に立って組み直せる人がいるかどうかで、その後の数か月がまるで変わります。

SECTION 05 お金の話 — 相談員が最初に確認すること

精神科の治療は、いったん始まると年単位で続くことが珍しくありません。そのため、良い相談員ほど早い段階でお金の話をします。冷たいのではなく、お金が理由で通院が途切れるのがいちばん多いパターンだからです。

図4お金の負担を下げる3つの柱(精神科の通院に関わるもの)自立支援医療(精神通院医療)申請先=お住まいの市区町村精神科の通院医療費の自己負担が原則1割になる。世帯の課税状況と「重度かつ継続」に当たるかで、月あたりの上限額も決まる。指定を受けた病院・薬局・訪問看護でだけ使え、有効期間は原則1年で毎年の更新が要る。精神障害者保健福祉手帳申請先=お住まいの市区町村1級から3級。税の控除、公共料金や交通機関の割引、障害者雇用での就職などにつながる。自立支援医療と同時に申請すると、診断書が1枚で済む場合がある。障害年金申請先=年金事務所・市区町村初診日から一定の期間が過ぎ、生活や仕事に相当の支障が続いているときの現金給付。初診日の証明が要になるため、早い段階で相談員に相談しておくと詰まりにくい。※ 3つは別々の制度で、申請先も判定基準も違う。1つ通ったから他も通る、という関係にはない。

図4|精神科の通院に関わる3つの制度。相談員は、この3つを本人の状況に当てはめて確認していく。

実務でとくに知られていないのが、自立支援医療は精神科の訪問看護にも使えるという点です。受給者証に記載された訪問看護ステーションであれば、訪問看護の自己負担も1割になり、月額の上限額の中に収まります。当院のように在宅で精神科の診療と訪問看護を組み合わせる場合、ここを整えるかどうかで月々の負担がはっきり変わります。

更新を忘れると、いったん3割に戻ります
自立支援医療の有効期間は原則1年で、毎年の更新が必要です(診断書の提出は通常2年に1回)。有効期間を過ぎると「再開申請」となり、診断書が要ります。更新の時期を管理し、声をかけるのも相談員の仕事のひとつです。

SECTION 06 入院したとき — 2024年4月に変わった3つのこと

2022年12月に公布された改正精神保健福祉法が、2024年4月1日から施行されました。入院中の相談体制について、大きく3つが変わっています。

図5入院しているあいだ、相談できる相手は3種類ある病院の中の人退院後生活環境相談員入院後7日以内に選任医療保護入院・措置入院では必ず選ばれる。本人と家族に役割を説明し、退院に向けた相談に乗り、地域の相談支援事業所(地域援助事業者)を紹介する。2024年4月から、この紹介は努力義務ではなく義務になった。病院の外から来る人入院者訪問支援員本人が希望したときだけ2024年4月にできた仕組み。都道府県の研修を修了した人が、本人の求めに応じて訪問し、話を誠実に聴き、入院中の生活の相談に乗る。病院にも家族にも属さない立場であることが、この制度の要になっている。地域で待っている人相談支援専門員退院前から関われる退院後に使うサービスを、入院中から一緒に組み立てる。1年以上入院している人などは「地域移行支援」を使うと、退院前から訪問・同行してもらえる。

図5|入院しているあいだ、相談できる相手は3種類ある。それぞれ立場と根拠が違う。

  1. 退院後生活環境相談員が、措置入院でも必ず選ばれるようになりました。それまで医療保護入院だけだった義務が、措置入院にも広がりました。入院から7日以内に選任し、本人と家族に役割を説明することになっています。
  2. 地域援助事業者の紹介が、努力義務から義務になりました。「退院後に使える地域の相談支援事業所やサービスを紹介する」ことが、病院の義務です。本人や家族が希望した場合には、紹介しなければなりません。
  3. 入院者訪問支援事業ができました。都道府県が行う事業で、研修を修了した入院者訪問支援員が、本人の求めに応じて訪問し、話を誠実に聴き、入院中の生活の相談に乗り、必要な情報を提供します。市町村長同意による医療保護入院の方が中心に想定されています。

あわせて、入院期間そのものにも上限ができました
医療保護入院の入院期間は、入院から6か月を経過するまでは3か月以内、その後は6か月以内と法律で定められ、続けるには退院支援委員会の開催と家族等の同意による「更新」の手続きが要ることになりました。入院が自動的に延びていく仕組みではなくなった、という理解でおおむね合っています。ただし、都道府県によって入院者訪問支援事業の実施状況には差があります。利用できるかどうかは、病棟の相談員に確認してください。

SECTION 07 退院してから — 地域の相談支援は3種類ある

退院した後、あるいは入院せずに地域で暮らしている場合の相談支援は、障害者総合支援法にもとづく3つの仕組みでできています。名前が似ているのですが、中身はかなり違います。

図6地域の相談支援は3種類 — 名前が似ていて中身が違う計画相談支援期間の定めなし対象は、障害福祉サービスを使う人。相談支援専門員が「サービス等利用計画」を作り、決められた月にモニタリングをする。自分や家族が作る「セルフプラン」も選べる。利用者の自己負担はない。地域移行支援6か月以内・更新可対象は、精神科病院に入院している人(原則1年以上の入院者で市町村が必要と認めた人)や施設入所者。住まい探し、見学の同行、体験の泊まりなどを、退院前から手伝う。利用者の自己負担はない。地域定着支援1年以内・更新可対象は、ひとり暮らしなどで、緊急時に頼れる人が身近にいない人。24時間つながる連絡体制を確保し、調子が崩れたときに駆けつける。利用者の自己負担はない。※ 全国の指定一般相談支援事業所(地域移行・地域定着を行う事業所)は3,837か所(令和6年4月時点・厚生労働省「障害者相談支援事業の実施状況等について」)。

図6|3つの相談支援。いずれも利用者の自己負担はなく、費用は市区町村から事業所に支払われる。

使い始めるときの入口は、原則としてお住まいの市区町村の障がい福祉の窓口です。どの事業所に頼めばいいか分からないときは、市区町村や基幹相談支援センター(地域の相談支援の中核を担う機関)が事業所探しを手伝ってくれます。福岡市の場合は、市の障がい者基幹相談支援センターが各区のセンター14か所を統括する形をとっています。

65歳になると、担当が替わることがあります
介護保険で同じ内容のサービスが使える場合、原則として介護保険が優先されます(介護保険優先原則)。このとき、計画を作る人が相談支援専門員からケアマネジャーに替わることがあります。ただし障害福祉サービスが一律に打ち切られるわけではありません。介護保険にない支援は障害福祉から続けられますし、一人ひとりの状況をみて判断することとされています。切り替えの半年ほど前から、相談支援専門員と一緒に整理しておくと詰まりにくくなります。

SECTION 08 なぜ「退院直後」が勝負なのか

制度がここまで「退院支援」に力を入れる理由は、数字を見ると分かります。

図7退院した直後が、いちばん危ない時期精神科病床から退院した人の自殺率(10万人・年あたり)/Chung DT et al. JAMA Psychiatry 2017退院後3か月以内1,132 人追跡期間ぜんたいの平均484 人(参考)自殺念慮や自傷で入院した人2,078 人100本の研究・183の集団・17,857件の自殺を統合した結果。日本の一般人口の自殺死亡率は10万人あたり年20人前後で、桁がひとつ違う。「退院おめでとう」の直後こそ、相談員が動く時期にあたる。

図7|精神科病床から退院した後の自殺率。Chung DT et al. JAMA Psychiatry 2017(100本の研究・183集団の統合解析)より作成。

退院した直後の3か月は、生活が大きく変わり、病院という守りが外れ、それでいて外来の予約はまだ先、という時期です。ここに担当者がいるかどうかは、単なる親切の問題ではありません。2026年6月施行の診療報酬改定で「同じ精神保健福祉士が退院後まで関われるようにする」方向へ要件が緩められたのも(SECTION 11)、この時期の空白を埋めるためです。

いま、つらい気持ちが強い方へ
眠れない、消えてしまいたい、そうした気持ちが続いているときは、ひとりで抱えずに次のような窓口に連絡してください。医療機関にかかっている方は、次の予約を待たずに主治医や相談員に連絡してかまいません。
・こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
・よりそいホットライン 0120-279-338(24時間)
・福岡市精神保健福祉センター(自殺に関する相談) 092-737-1275(平日10時〜16時/祝日・年末年始を除く)
・お住まいの区の保健福祉センター、または保健所

SECTION 09 正直に書く — 「相談員がつけば再入院が減る」とは、まだ言い切れない

ここまで読むと「相談員をつければ良くなるはずだ」と思えてきますが、研究の結果はそこまできれいではありません。当院はこの点をぼかさずに書くことにしています。

図8「相談員がつくと良くなる」は、どこまで確かめられているかIPS型の就労支援はっきり効く一般就労に就けた割合は、従来型の職業リハビリの2.40倍(95%信頼区間 1.99〜2.90/17件の無作為化試験)。相談支援の中で、いちばん証拠がそろっている領域。濃密なケースマネジメント(ICM)条件つきで効く入院日数を減らす効果は、もともと入院が多い人(過去2年でひと月あたり4日程度)に絞ると認められる。元のACTモデルに忠実なチームほど入院日数が短くなった。退院前後をつなぐ支援ぜんぱん差がつかなかった再入院のオッズ比0.76(95%信頼区間 0.55〜1.05/9件の無作為化試験・1,258人)。減る方向には見えるが、統計的な差はつかなかった。ただし利用者はこの形を望んでいる、と論文自身が書いている。退院直後9か月の集中支援(CTI)限られた集団で効く住まいを失うおそれのある人150人の試験で、追跡の終盤にホームレス状態が有意に少なかった。対象を絞って、期間を区切ったときに効いている。※ 4行はそれぞれ測っているものが違う(就職の割合/入院日数/再入院/住まい)。行をまたいで数字の大小を比べることはできない。

図8|相談支援の効果を検証した主な研究。効いている領域と、差がつかなかった領域がはっきり分かれる。

いちばん効果がはっきりしているのは、就労支援です。IPS(Individual Placement and Support)という、訓練を先にせず「まず働きたい職場を探し、就いた後も支え続ける」型の支援では、一般就労に就けた割合が従来型の職業リハビリの2.40倍でした(17件の無作為化試験の統合解析)。別の統合解析でも同じ方向の結果が出ています。一方で、生活の質や全般的な機能、症状そのものへの効果は、はっきりしませんでした。「働けるようにはなるが、それで病気がよくなるわけではない」という、正直な結果です。

逆に、いちばん期待されそうな「退院前後をつなぐ支援で再入院を減らす」は、9件の無作為化試験・1,258人をまとめてもオッズ比0.76(95%信頼区間 0.55〜1.05)で、統計的な差はつきませんでした。ただしこの論文の著者たちは、結論の最後に「それでも利用者はこの形の支援を望んでおり、通常のやり方に代わる選択肢として検討されるべきだ」と書き添えています。

SECTION 10 数字が食い違って見える5つの理由

図8の4行は、一見すると矛盾しています。「効く」と「差がつかない」が並んでいるからです。理由は5つに分解できます。

  1. 測っているものが違う。就職した割合、入院日数、再入院の有無、住まいを失ったかどうか。これらは別々の指標で、行をまたいで大小を比べることはできません。
  2. 対象にした人が違う。濃密なケースマネジメントは、もともと入院が多い人(過去2年でひと月あたり4日程度)に絞ると入院日数が減りますが、全員に配ると差が薄まります。効果が出やすい人に届いているかどうかで、結果が変わります。
  3. 比べた相手が違う。「何もしない」と比べるのか、「通常のケア」と比べるのかで、見える差は大きく変わります。日本を含む多くの国では、比較対象の「通常のケア」の中にもすでに相談員がいます。
  4. 支援の濃さが違う。ひとりの担当者が20人未満を受け持つ形と、50人を受け持つ形では、同じ「ケースマネジメント」でも中身が別物です。元のACTモデルに忠実なチームほど入院日数が短くなった、という分析があります。
  5. 再入院は、必ずしも失敗ではない。早めに気づいて短く入院し、悪化しきる前に戻ってくる——これは支援がうまくいった形でもあります。再入院を「減らすべき悪いこと」として数える設計自体に、限界があります。

SECTION 11 2026年6月、制度は「同じ人が伴走する」方向へ動いた

令和8年度診療報酬改定(2026年6月1日施行)では、精神医療の分野でいくつかの見直しがありました。事業者向けの話に見えますが、患者や家族にとっての意味は、はっきりしています。

  • 精神保健福祉士の「病棟専従」要件が緩められました。これまでは病棟に専従で置かれた精神保健福祉士は、原則その病棟の中でしか動けませんでした。改定後は、患者の支援を目的とする場合、院外への付き添いや、その病棟に入る予定の患者・退棟や退院をした後の患者への支援を病棟の外で行ってよいことが明記されました。「入院前から退院後まで、同じ人が伴走する」ことを制度が後押しした形です。
  • 精神病棟看護・多職種協働加算が新設されました。看護職員に加えて、精神保健福祉士・作業療法士・公認心理師が病棟に配置されていることを評価する加算です(13対1で357点、15対1で196点)。相談員が病棟にいることが、はっきりと評価対象になりました。
  • 医療保護入院等診療料2が新設されました(400点)。多職種で退院支援のカンファレンスを行った場合に算定できます。医療保護入院者退院支援委員会の開催をもってカンファレンスとみなすことができます。
  • 精神科地域密着多機能体制加算が新設されました。病床を減らしながら、外来・訪問・障害福祉サービスまで一体で担う中小規模の医療機関を評価するもので、常勤の精神保健福祉士2名以上などが要件に入っています。

この方向にも、宿題は残っています
制度が「同じ人が伴走する」を後押ししても、担い手の数が足りなければ絵に描いた餅です。精神保健福祉士の登録者は11万人を超えましたが、全員がこの分野で働いているわけではありません。また地域側では、地域移行・地域定着を行う指定一般相談支援事業所が全国で3,837か所(令和6年4月時点)と、市区町村の数を大きく上回るとは言えない規模です。「相談員につながれる人」と「つながれない人」の差は、当面残ると考えたほうが現実的です。

当院の視点 — 在宅で精神科の診療をしていて思うこと

ふくろう訪問クリニックは、福岡市早良区で緩和ケア・難病・精神科・認知症の在宅診療を行っています。訪問診療と精神科訪問看護の現場から、4つだけ書きます。

1
在宅では、まず「訪問できる相談員」を探すところから始まります。精神科病院に通えている方なら、病院の相談窓口で相談員に会えます。ただし相談員の配置は医療機関の義務ではなく、小規模な診療所にはいないことも多い(当院にも相談員は在籍していません)。そして家から出られない方の場合は、相談員のほうから来てもらう必要があります。相談支援専門員は基準上、自宅を訪問して面接することになっていますし、保健所や市区町村の精神保健福祉相談員も訪問を担っています。「相談に行けないから無理」ではなく、来てもらえる相談員を探す、が正しい順番です。
2
「主担当は誰か」を1人に決めて、紙に書いて貼っておく。関わる人が5人も6人もいるのに、困ったときに誰へ連絡すればいいか決まっていない、という状態を頻繁に見ます。医師・訪問看護・相談員・ケアマネジャー・家族のうち、最初に電話する人を1人決めて、電話番号ごと冷蔵庫に貼っておく。これだけで、夜間や休日の混乱がかなり減ります。
3
診断書・意見書は、主治医が書きます。自立支援医療も、精神障害者保健福祉手帳も、障害年金も、申請そのものはご本人・ご家族、あるいは相談員が行いますが、添える診断書や意見書を書くのは主治医です。制度を使うと決めたら、まず主治医にその一言を伝えてください。書類の準備は医療機関側の仕事で、当院でも訪問診療の中で対応しています。
4
家族だけの相談から始めて構いません。本人が受診を拒んでいる段階では、家族が動くしかない時期があります。2024年4月の法改正で、市区町村と都道府県は「精神保健に関する課題を抱える者とその家族等」に相談支援を行えることが法律に明記されました。本人を連れて行けなくても、家族だけで市区町村の窓口や保健所に相談してよい、という後ろ盾ができたことになります。

SECTION 12 場面別・まずどこに相談するか

こんなときまず相談する相手ひとこと
精神科にかかるべきか分からない市区町村の窓口・保健所本人が来なくても、家族だけで相談できる。受診前の段階が精神保健福祉相談員の担当範囲。
通院の医療費が重い市区町村の窓口・通院先の相談員自立支援医療で自己負担が原則1割に。申請先はお住まいの市区町村。
訪問看護の費用も下げたい市区町村の窓口・主治医自立支援医療は、受給者証に記載された訪問看護ステーションでも使える。
仕事を休むか迷っている主治医・通院先の相談員傷病手当金と復職の段取りはセットで考える。休む前に一度相談を。
働きたいが、いきなりは不安相談支援専門員・就労支援事業所IPS型の就労支援は、相談支援の中で最も証拠がそろっている領域。
入院した。退院の見通しを知りたい退院後生活環境相談員医療保護入院・措置入院では入院から7日以内に選ばれ、名乗ることになっている。
入院中、病院の人以外と話したい入院者訪問支援員本人が希望したときだけ来る。まずは病棟の相談員に希望を伝える。
長く入院していて、帰る場所がない相談支援専門員(地域移行支援)原則1年以上の入院者などが対象。退院前から訪問・同行してもらえる。
ひとり暮らしで、夜が不安相談支援専門員(地域定着支援)24時間つながる連絡体制をつくる仕組み。自己負担はない。
障害福祉サービスを使いたい市区町村の障がい福祉窓口計画相談支援でサービス等利用計画を作る。自分で作るセルフプランも選べる。
65歳になる。支援はどうなる相談支援専門員とケアマネジャー介護保険が優先されるが、障害福祉が全部なくなるわけではない。早めに相談を。
支援者との関係がこじれた基幹相談支援センター・市区町村事業所は変えられる。相性の問題を我慢し続ける必要はない。

SECTION 13 よくある質問

相談員に相談するのに、お金はかかりますか?

相談員が置かれている医療機関であれば、相談に別料金はかかりません。地域の計画相談支援・地域移行支援・地域定着支援も、利用者の自己負担はなく、費用は市区町村から事業所へ支払われます。市区町村や保健所の窓口も無料です。ただし、地域移行支援で外出に同行してもらう際の交通費など、実費がかかる場面はあります。

相談員とカウンセラーは、どう違いますか?

カウンセリング(心理療法)を担うのは公認心理師や臨床心理士で、扱うのは主に気持ちや考え方です。相談員(精神保健福祉士)が扱うのは、制度・お金・住まい・仕事・家族といった環境のほう。どちらも話を聴くところから始まるので外からは似て見えますが、「何を動かそうとしているか」が違います。

家族だけで相談してもいいですか?

かまいません。むしろ、本人が受診を拒んでいる段階では家族相談が入口になります。2024年4月の改正で、市区町村と都道府県が「本人及びその家族等」に相談支援を行えることが法律に明記されました。全国に家族会もあり、福岡県精神保健福祉会連合会などが相談を受けています。

相談員に話したことは、主治医に伝わりますか?

同じ医療機関の中では、治療に必要な範囲でチームに共有されるのが原則です。ただし「これは先生には言わないでほしい」という希望があるなら、その場ではっきり伝えてください。相談員は本人の意向に十分配慮することとされており、何をどこまで共有するかは相談して決められます。

相談員が「合わない」と感じたら、変えられますか?

変えられます。地域の相談支援事業所は自分で選ぶことができ、途中で変更することもできます。どこに言えばいいか分からないときは、市区町村の障がい福祉窓口か基幹相談支援センターに相談してください。相性の問題を我慢し続けると、結局は支援そのものが途切れてしまいます。

65歳になると、障害福祉サービスは使えなくなりますか?

一律になくなるわけではありません。介護保険で同じ内容のサービスが使える場合は介護保険が優先されますが、介護保険にない支援は障害福祉から続けられます。計画を作る人が相談支援専門員からケアマネジャーへ替わることがあるため、誕生日の半年ほど前から、両方に声をかけて引き継ぎの段取りを作っておくのが現実的です。

SECTION 14 ご利用・採用のご案内

ふくろう訪問クリニック

福岡市早良区を中心とした訪問診療・往診

  • 緩和ケア・難病・精神科・認知症
  • 通院が難しい方のご自宅・施設へうかがいます
  • 複数の医療機関から出ている薬の整理もご相談ください

自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・障害年金の診断書や意見書は、訪問診療の中で作成します。初回はお薬手帳(市販薬・サプリメントも書き足したもの)をご用意いただけると、具体的な話ができます。

https://fukurou.fukuoka.jp/

ふくろう訪問看護リハビリステーション

看護師・リハビリ職がご自宅へうかがいます

  • 精神科訪問看護、服薬の管理・残薬の確認・体調の観察
  • 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士によるリハビリ
  • 主治医・ケアマネジャーと連携して支えます

他院にかかっている方もご利用いただけます。ケアマネジャーさんからのご相談も承ります。自立支援医療の受給者証に記載があれば、訪問看護の自己負担も原則1割になります。

https://nurse-fukurou.jp/

採用のご案内

在宅医療の現場で、一緒に働く方を募集しています。

ふくろう訪問クリニック

入職祝い金 20万円直接応募限定

医師(常勤・非常勤)/看護師/医療事務

お電話:092-407-7337

メール:clinic@fukurou.fukuoka.jp

採用情報のページ

ふくろう訪問看護リハビリステーション

入職祝い金 20万円直接応募限定

看護師/理学療法士・作業療法士・言語聴覚士(常勤・非常勤)

お電話:092-834-8581(平日 9:00〜18:00)

メール:nurse@fukurou.fukuoka.jp

求人情報のページ

入職祝い金は、人材紹介会社を通さずに直接ご応募いただいた方に限りお渡ししています。紹介手数料がかからないぶんを、応募してくださった方に還元する趣旨です。見学だけのご連絡も歓迎します。

SECTION 15 参考文献・出典

  1. 精神保健福祉士法(平成9年法律第131号)第2条(定義)/厚生労働省「精神保健福祉士について」
  2. 厚生労働省「第28回精神保健福祉士国家試験合格結果を公表します」(令和8年3月3日発表。精神保健福祉士登録者113,332人・令和8年1月末現在)
  3. 公益社団法人日本精神保健福祉士協会「【報告】『精神保健福祉士』の定義が改正されました—2024(令和6)年4月1日から施行—」2022年12月12日
  4. 厚生労働省「令和4年精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正について」(令和4年法律第104号、令和6年4月1日施行)
  5. 障発1127第7号「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第33条の4等の規定に基づく退院後生活環境相談員の選任等について」令和5年11月27日
  6. 公益社団法人日本精神保健福祉士協会「退院後生活環境相談員のための退院促進措置運用ガイドライン」(令和5年度・令和6年度 厚生労働省障害者総合福祉推進事業)
  7. 厚生労働省「精神保健福祉相談員について」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第48条)
  8. 厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課「令和6年4月施行の改正精神保健福祉法と精神保健に関する相談支援体制整備」
  9. 厚生労働省「障害者相談支援事業の実施状況等について(令和5年度 都道府県分)」(指定一般相談支援事業所3,837か所・令和6年4月時点)
  10. 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の概要 11. 重点的な対応が求められる分野(精神医療)」(令和8年6月1日施行)
  11. 厚生労働省「患者調査」(令和2年:精神疾患を有する総患者数 約614.8万人、入院 約28.8万人、外来 約586.1万人)
  12. Chung DT, Ryan CJ, Hadzi-Pavlovic D, Singh SP, Stanton C, Large MM. Suicide rates after discharge from psychiatric facilities: a systematic review and meta-analysis. JAMA Psychiatry. 2017;74(7):694-702. doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.1044(PMID: 28564699)
  13. Hegedüs A, Kozel B, Richter D, Behrens J. Effectiveness of transitional interventions in improving patient outcomes and service use after discharge from psychiatric inpatient care: a systematic review and meta-analysis. Front Psychiatry. 2020;10:969. doi:10.3389/fpsyt.2019.00969(PMID: 32038320)
  14. Dieterich M, Irving CB, Bergman H, Khokhar MA, Park B, Marshall M. Intensive case management for severe mental illness. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1(1):CD007906. doi:10.1002/14651858.CD007906.pub3(PMID: 28067944)
  15. Modini M, Tan L, Brinchmann B, Wang MJ, Killackey E, Glozier N, Mykletun A, Harvey SB. Supported employment for people with severe mental illness: systematic review and meta-analysis of the international evidence. Br J Psychiatry. 2016;209(1):14-22. doi:10.1192/bjp.bp.115.165092
  16. Frederick DE, VanderWeele TJ. Supported employment: meta-analysis and review of randomized controlled trials of individual placement and support. PLoS One. 2019;14(2):e0212208. doi:10.1371/journal.pone.0212208(PMID: 30785954)
  17. Herman DB, Conover S, Gorroochurn P, Hinterland K, Hoepner L, Susser ES. Randomized trial of critical time intervention to prevent homelessness after hospital discharge. Psychiatr Serv. 2011;62(7):713-719. doi:10.1176/ps.62.7.pss6207_0713(PMID: 21724782)
  18. 福岡市精神保健福祉センター(福岡市中央区舞鶴2-5-1 あいれふ3階/092-737-8825)
  19. 福岡県精神保健福祉センター「自立支援医療(精神通院医療)及び精神障害者保健福祉手帳のお知らせ」(2026年6月9日更新)
  20. 福岡市「福岡市障がい者基幹相談支援センター」(区の障がい者基幹相談支援センター14か所を統括)
この記事は、公的機関の一次資料と査読付き論文にもとづいて作成しています。制度の運用は市区町村・都道府県によって差があり、内容は公開時点(2026年9月)のものです。実際の申請や利用にあたっては、必ずお住まいの自治体の窓口、または通院先の相談員にご確認ください。また、この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。本記事の作成にあたり、企業からの資金提供や便宜供与は受けていません。