膵臓(すいぞう)がんは、「見つかったときにはすでに進んでいることが多いがん」として知られています。実際、日本で1年間に診断される人の数と、亡くなる人の数がほとんど変わりません。

ただ、「治りにくい」ことと「できることがない」ことは、まったく別の話です。膵臓がんの終末期には、背中に響く痛み食べているのに痩せていく黄疸(おうだん)や吐き気といった、この病気に特有の、そして手を打てば確実に軽くできるつらさが並びます。

このコラムでは、膵臓がん末期に何が起こるのかを一般の方向けに整理したうえで、在宅診療(訪問診療・訪問看護)で実際に何ができるのかを一段掘り下げてご説明します。ご本人・ご家族が「次に何を決めればいいか」を持ち帰れることを目指しました。

SECTION 01膵臓がんは、どういう病気か

まず数字から確認します。国立がん研究センターの最新のがん統計(2026年7月22日更新)によると、膵臓がんの状況は次のとおりです。

47,5401年間に診断される数
(2023年)
41,2351年間に亡くなる数
(2024年)
13.2%5年相対生存率
(2018年診断例)

診断される数が約4万7千人、亡くなる数が約4万1千人。この2つの数字がここまで近いがんは、ほかにあまりありません。たとえば大腸がんでは診断数の約3分の1、乳がんでは10分の1程度が死亡数です。膵臓がんは、診断された人の多くが数年以内に亡くなるという、きわめて厳しい経過をたどります。

男女差はほとんどなく(2023年の罹患は男性23,761例・女性23,779例)、高齢になるほど増えます。

なぜ、早く見つからないのか

理由は主に3つあります。

  • 場所が悪い。膵臓は胃の裏側、背骨の前という、お腹のいちばん奥(後腹膜)にあります。手で触れることも、通常の腹部エコーで全体を見ることも難しい位置です。
  • 症状が出にくい。膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。がんが小さいうちは、痛みも出血も詰まりも起こしません。
  • 症状が出たときには、周りに広がっている。膵臓のすぐ周りには、太い動脈・門脈・胆管・十二指腸・神経の束が密集しています。症状が出る=これらに達している、ということでもあります。
「糖尿病が急に悪くなった」は、膵臓からのサインのことがある

膵臓はインスリンをつくる臓器でもあります。そのため、これまで糖尿病がなかった人に急に糖尿病が現れる/もともとの糖尿病が急に効きにくくなることが、膵臓がん発見のきっかけになる場合があります。膵癌診療ガイドラインでも糖尿病は膵がんの危険因子として位置づけられています。

もちろん、糖尿病の新規発症のほとんどは膵臓がんとは無関係です。ただ、体重が減っている・背中が重い・食欲が落ちているといった変化が一緒にあるときは、かかりつけ医にその旨を伝えてください。

血縁者に膵臓がんが複数いる方へ

2025年7月に改訂された膵癌診療ガイドライン2025年版(第7版)では、新たな項目として、膵がんのリスクとなる遺伝子の変化を持つ方や、家族性膵がんの血縁者に対して、膵がんを念頭に置いた検査・経過観察を行うことが提案されました(推奨の強さ:弱い/エビデンスの確実性:C)。定期的に調べていた群のほうが生存期間が長かった、というデータの蓄積を受けたものです。

「親と兄弟に膵臓がんがいる」といった場合は、主治医や、がん相談支援センターにご相談ください。

SECTION 02「ステージⅣ」と「末期」は、同じではありません

診察室で最も誤解が多いところです。この2つは、まったく別のことを指しています。

ステージⅣ 末期(終末期) = がんの「広がり方」の分類 ・膵臓から離れた臓器(肝臓・肺・腹膜  など)に転移がある状態 ・診断された「時点」の地図 ・抗がん剤治療の対象になる ・元気に働いている方も多い 診断された日から、ずっとステージⅣ = 体力と経過の「時期」の判断 ・がんを抑える治療が体に見合わなく  なった/効かなくなった状態 ・数か月単位の見通しを想定する時期 ・症状をやわらげる治療が中心になる ・在宅医療・訪問看護の出番 経過の途中で、ある時期から末期になる

図1:ステージⅣは「がんがどこまで広がっているか」の分類。末期は「体の状態と経過の時期」の判断です。ステージⅣと診断されても、末期とは限りません。

膵臓がんの場合、診断された時点ですでにステージⅣであることが多いため、この2つが特に混同されやすくなります。ステージⅣと言われた=もう何もできない、ではありません。抗がん剤が効いて、年単位で日常生活を送る方もいます。

一方で「末期」は、がんを抑える治療の負担が、得られる利益を上回った時期を指します。膵臓がんではこの切り替えが、後で述べる「黄疸」「食べられなくなること」「体重減少」といった具体的な変化として現れることが多く、判断の目安になります。

SECTION 03膵臓の位置と「三つの通り道」

膵臓がんの症状は、ほとんどが「膵臓そのもの」ではなく、膵臓のすぐ隣を通っている“通り道”が押しつぶされることで起こります。ここを押さえておくと、この先の話がすべてつながります。

膵臓は、三つの「通り道」に囲まれている 肝臓 ① 胆管 胆汁の通り道 膵 臓 膵頭部 膵体部 膵尾部 ③ 膵管 消化液の通り道 ② 十二指腸 食べ物の通り道 腹腔神経叢 痛みを伝える神経の束 背骨 (すぐ裏) ①がふさがる → 黄疸・かゆみ  ②がふさがる → 吐く・食べられない  ③がふさがる → 消化できない・脂肪便 神経の束にがんが達する → みぞおちから背中に突き抜ける痛み

図2:膵臓は、胆管・十二指腸・膵管という三つの管と、痛みを伝える神経の束(腹腔神経叢)に囲まれています。膵臓がん末期の症状は、そのほとんどがここで説明できます。

特に、膵臓の「頭」の部分(膵頭部)にできたがんは、①胆管と②十二指腸のどちらもふさぎやすい位置にあります。「黄色くなってきた」「吐くようになった」は、どちらもこの構造から来ています。

そして、膵臓の裏側に密集している腹腔神経叢(ふくくうしんけいそう)。ここにがんが達すると、みぞおちの奥から背中へ突き抜けるような、体を丸めていないと耐えられないタイプの痛みが出ます。膵臓がんの痛みが「背中の痛み」として自覚されるのは、このためです。

SECTION 04末期に現れる7つの症状

膵臓がん 末期の症状 ① 背中に抜ける痛み みぞおちの奥から背部へ。 前かがみで少し楽になる ② 黄疸・かゆみ 白目と皮膚が黄色く、尿が 濃くなる。強いかゆみを伴う ③ 吐き気・詰まり 十二指腸が狭くなり、食後に 吐く。食べる量が急に減る ④ 脂肪便・下痢 消化酵素が届かず、脂が浮く 便・水に流れにくい便が出る ⑤ 血糖の乱れ 糖尿病の悪化と、低血糖の 起こりやすさが同時に来る ⑥ 腹水・お腹の張り 腹膜播種によりお腹に水が たまる。少量で満腹になる ⑦ 血栓(血のかたまり) 片脚の急なむくみと痛み、 突然の息切れに注意 + 全身の消耗 体重減少・だるさ・筋肉の やせ(がん悪液質)

図3:膵臓がん末期の主な症状。①〜④は「通り道」がふさがること、⑤は膵臓の内分泌機能が失われること、⑥⑦は腹膜播種と血液の固まりやすさによって起こります。

このうち、膵臓がんで特に重く、そして対応の余地が大きいのが、①の痛みと、③④の「食べられない・痩せる」です。次の3つのセクションで、それぞれ深く掘り下げます。

SECTION 05抗がん剤治療と、やめどきの目安

2025年7月25日、日本膵臓学会から「膵癌診療ガイドライン2025年版(第7版)」が発行されました(金原出版)。2022年版から3年ぶりの改訂で、九州大学の中村雅史教授が改訂委員長を務めています。薬物療法の推奨が実際の使われ方に近づいたことが、今回の大きな変更点です。

転移がある膵臓がんの、最初の治療

転移のある膵臓がんの一次化学療法(膵癌診療ガイドライン2025年版 CQ MC1) 体力(全身状態)と年齢、合併症、本人の希望で決める GnP療法 ゲムシタビン + ナブパクリタキセル 推奨の強さ:強い エビデンス:A(強) 点滴。しびれ・脱毛が出やすい FOLFIRINOX療法 4種類の薬を組み合わせる 推奨の強さ:強い エビデンス:A(強) 効果は高いが、体力が必要 NALIRIFOX療法 推奨の強さ:弱い/2026年8月時点で国内未承認 ゲムシタビン単独/S-1単独 上記が体に合わないとき。推奨の強さ:弱い + BRCA遺伝子に生まれつきの変化がある場合 白金製剤を含む治療でがんが抑えられていれば、飲み薬のオラパリブによる 維持療法という選択肢があります(2020年12月承認)

図4:転移のある膵臓がんの一次化学療法。2025年版では、国内のJCOG1611試験の結果を踏まえ、GnP療法・FOLFIRINOX療法の順で推奨が示されました。

いくつか補足します。

  • GnP療法が先に来たのは、日本のデータによるものです。国内で行われたJCOG1611試験で、GnP療法が3剤併用の他のレジメンより有用という結果が出たことを受けた変更です。
  • NALIRIFOX療法は、海外では標準治療ですが、日本ではまだ使えません。ナノリポソーム型イリノテカン(オニバイド)を含む4剤併用で、海外第Ⅲ相試験(NAPOLI-3)でGnP療法を上回りました。国内では2025年12月16日に一次治療への適応追加が申請されており、承認が待たれている段階です(本コラム執筆時点では二次治療以降の適応のみ)。
  • 局所進行(転移はないが手術できない)膵臓がんについても、2025年版で大きく変わりました。FOLFIRINOX療法とGnP療法が提案され、これらが使えない場合にゲムシタビン単独またはS-1単独、という整理になっています。
  • がん遺伝子パネル検査については、2022年版では「実施を提案する」でしたが、2025年版では膵がん特有の事情(進行が早い・生検が難しい)を踏まえ「現時点でエビデンスは不十分である」という記載に変わりました。ただしBRCA検査は、オラパリブにつながるコンパニオン診断として提案されています。

「治療を続けるか、やめるか」の目安

これは主治医と何度も話し合う内容ですが、判断材料として使われている項目を挙げます。膵臓がんでは、次のような変化が重なってきたときが、切り替えを考えるタイミングになります。

見ている項目続けられる状態切り替えを考える状態
日中の過ごし方身の回りのことは自分ででき、日中の半分以上は起きている日中の半分以上を横になって過ごす/ほとんど床上
体重減っていない、あるいは緩やかな減少数か月で5〜10%以上減り、下げ止まらない
食事量は減っても、食べられている吐く/通らない/点滴に頼っている
黄疸ステントで下がり、保てている処置をしても下がらない、繰り返し詰まる
副作用予定どおりに投与できている減量・休薬を繰り返している
画像と腫瘍マーカー抑えられている/ゆっくり投与中も明らかに大きくなる
「やめる」ではなく「切り替える」

抗がん剤をやめることは、治療をやめることではありません。この先で述べる痛みの治療、消化を助ける薬、詰まりへの処置、栄養と生活の支え——これらはすべて医療であり、しかも膵臓がんでは効果が実感しやすい領域です。「もう打つ手がない」と言われたと感じたときこそ、緩和ケアと在宅医療に一度ご相談ください。

SECTION 06この病気に特有の話 ①
痛みは、背中に出る

進行した膵臓がんでは、お腹または背中の痛みを7〜8割の方が経験します。しかも、この痛みは「お腹が痛い」という言葉では表しきれないことが多く、次のような特徴があります。

  • みぞおちの奥から、背中へ突き抜けるように響く
  • 前かがみになると少し楽になり、仰向けに寝ると強くなる(そのため、夜つらい)
  • 食後に強くなることがある
  • 「重い」「うずく」「焼ける」など、鈍く広い痛み方をする

「腰痛だと思って整形外科に通っていた」という話が膵臓がんでよく聞かれるのは、この痛み方のためです。

痛みへの手当ては、三段構え

大事なのは、痛み止め(オピオイド)だけで戦わないということです。膵臓がんの痛みには、薬以外に効果が確かめられた方法が2つあります。

膵臓がんの痛みへの三段構え 1 薬(土台。ここは在宅でできる) 医療用麻薬(モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルなど)+ 鎮痛補助薬 飲めなくなったら、持続皮下注射(PCA)に切り替え → 自宅で24時間、痛いときは自分でボタン ※ 便秘・眠気・吐き気の対策を同時に組む 2 腹腔神経叢ブロック 痛みを伝える神経の束に、直接 薬を注入して働きを止める処置 ・胃の中から超音波内視鏡で(EUS-CPN) ・または背中からCTを見ながら/入院で 3 緩和的な放射線治療 がんそのものを小さくして、神経 への圧迫と刺激を減らす ・通院での照射が可能/回数は状況による ・在宅療養を続けながら受けられる 2と3は「薬が効かなくなってから」ではなく、「薬の副作用がつらくなってきたら」検討します 医療用麻薬を増やすほど、便秘・眠気・食欲低下も増えます。神経ブロックや照射で痛みの土台を下げられれば、 薬を減らせて、頭がはっきりしたまま過ごせる時間が長くなります。

図5:膵臓がんの痛みへの三段構え。薬・神経ブロック・放射線治療は、どれかを選ぶものではなく、重ねるものです。

どのくらい効くのか(データで見る)

ここは正直にお伝えしたいところです。「痛みは確かに減るが、生存期間は延びない」——これが、質の高い研究から分かっていることです。

① 腹腔神経叢ブロックの効果(Wong ら, JAMA 2004・100例の二重盲検ランダム化比較試験) 最初の6週間に「中等度以上の痛み(10点満点で5点以上)」を訴えた人の割合 痛み止めのみ 40% +神経ブロック 14% p = 0.005 ただし同じ研究で、生活の質(QOL)の総合点・生存期間・鎮痛薬の使用量には、はっきりした差は出ませんでした。 「痛みそのものは確実に軽くなる。しかし寿命が延びる治療ではない」——ここを正確に知って選ぶことが大切です。 ② 定位放射線治療(SBRT)の除痛効果(Buwenge ら, Curr Oncol 2022・19研究の系統的レビュー) 痛みが軽くなった 78.3% 95%CI 71.0–84.5 痛み止めを減量・中止 71.5% 95%CI 61.6–80.0 ※研究ごとのばらつきが大きく(I²=79〜84%)、比較試験ではない点に注意が必要な数値です。

図6:痛みへの局所治療の効果。神経ブロックは中等度以上の痛みを40%から14%に減らしましたが、生存期間は変わりませんでした。放射線治療のデータは研究間のばらつきが大きく、参考値として読む必要があります。

放射線治療は「もう間に合わない」とは限りません

膵臓がんに対する放射線治療というと、手術できない局所進行例への根治的な治療をイメージされるかもしれません。しかし、痛みを取るための照射という使い方があります。定位放射線治療(SBRT)は、日本でも「転移病巣のない限局性の膵癌」および「5個以内のオリゴ転移」に保険適用があります。転移が広がっている場合には、通常の分割照射で痛みの強い部位に絞って照射することもあります。

在宅療養に移行したあとでも、短期間の通院で受けられる照射は選択肢として残ります。「痛みで動けないから照射も無理」と決めてしまう前に、一度ご相談ください。当院院長は放射線治療専門医であり、照射が有効かどうか、通院に耐えられるかを含めて、放射線治療施設との橋渡しをいたします。

SECTION 07この病気に特有の話 ②
食べているのに、痩せていく

ご家族から最もよく聞くのが、この訴えです。「ちゃんと食べさせているのに、どんどん痩せていく」。膵臓がんでは、この現象に3つの別々の原因が同時に関わっています。原因が違えば、打つ手も違います。

「食べているのに痩せる」の三つの原因と、それぞれの手当て ① 消化できていない 膵外分泌機能不全(PEI) 膵管がふさがり、消化酵素 が腸に届かない。食べた脂 やたんぱく質が、消化され ないまま便に出ていく 進行例の約72%に → 手当て 消化酵素薬(パンクレリ パーゼ)を食事のたびに 十分な量を。食直後に内服 ② 通り道が狭い 十二指腸の通過障害 胃の出口〜十二指腸が 押しつぶされ、食べたもの が先に進まない。食後に 吐く、すぐ満腹になる 切除不能例の約2割に → 手当て 十二指腸ステント、または 胃空腸バイパス手術 (次のセクションで詳述) ③ 体が作り替えられる がん悪液質(あくえきしつ) がんが出す物質により、代謝 そのものが変わり、筋肉が 分解される。栄養を入れても 体重が戻りにくい 膵がんで特に強く出る → 手当て 栄養療法、体を動かすこと、 条件が合えばアナモレリン (内服薬)という選択肢も 「食べる量を増やす」だけでは、①②③のどれも解決しません

図7:食べても痩せる3つの理由。①は薬で、②は処置で、③は総合的な支えで対応します。原因の見きわめが最初の一歩です。

① 消化酵素を補う(見落とされやすい治療)

これは、膵臓がんの緩和ケアで最も見落とされやすく、最も手応えのある手当てのひとつです。

進行した膵臓がん患者さんを対象とした系統的レビュー・メタ解析(de la Iglesia ら, 2020年)によれば、膵外分泌機能不全は進行膵がんの72%(95%信頼区間 55〜86%)に見られ、膵頭部にがんがある場合はさらに高くなります(相対リスク3.36)。同じ解析では、消化酵素補充療法を受けた群で3.8か月(1.37〜6.19か月)の生存期間の延長と関連していたとも報告されています。ただしこれは比較試験ではなく観察研究をまとめたものなので、「薬を飲めば3.8か月延びる」と読むのは行きすぎです。

こんなサインがあれば、消化酵素薬を主治医に相談してください

・便に脂が浮く/水洗トイレで流れにくい/便器に付着する
・便の色が薄く、においが強い
・食後にお腹が張る、ゴロゴロする、下痢をする
・食べているのに体重が減り続ける

日本ではリパーゼ力価の高いパンクレリパーゼ製剤(リパクレオン)が2011年に承認されており、「膵外分泌機能不全における膵消化酵素の補充」が保険適応です。ポイントは量と飲むタイミングで、少量を漫然と飲んでも効きません。毎食、十分な量を、食直後に飲むのが基本です。効きが悪いときは、胃酸を抑える薬を併用することもあります。

③ がん悪液質と、アナモレリンという薬

がん悪液質は、単なる栄養不足ではありません。がんが出す物質によって代謝そのものが変わり、食べても筋肉が減っていく状態です。膵臓がんは、悪液質が最も強く現れるがんのひとつです。

日本では2021年1月、アナモレリン塩酸塩(商品名エドルミズ)が国内初のがん悪液質治療薬として承認されました。適応は「非小細胞肺癌、胃癌、膵癌、大腸癌におけるがん悪液質」で、膵がんが含まれています。グレリンという食欲に関わるホルモンと同じように働く飲み薬です。

ただし、誰にでも使える薬ではありません。適正使用の指針では、次の条件が示されています。

  • 切除不能な進行・再発の膵癌等であること
  • 栄養療法などを行っても効果が不十分ながん悪液質であること
  • 6か月以内に5%以上の体重減少食欲不振があり、加えて「疲労・倦怠感」「全身の筋力低下」「血液検査の異常(CRP 0.5mg/dL超、ヘモグロビン12g/dL未満、アルブミン3.2g/dL未満のいずれか)」のうち2つ以上を認めること

逆に言えば、「体重が減ってきた段階」で相談すれば選択肢に入るが、寝たきりになってからでは条件を満たしにくい薬でもあります。体重が減り始めたら、早めに主治医に相談してください。

「食べさせたい家族」と「食べられない本人」

終末期が近づくと、ご家族は「食べてくれれば元気になるはず」と考え、ご本人は「食べられないのに勧められるのがつらい」と感じる——この二つがすれ違います。どちらも間違っていません。

私たちが在宅の現場でお伝えしているのは、「量より、味と、口の気持ちよさ」です。ひと口のアイス、好きな出汁の香り、口の中を湿らせて清潔に保つこと。これらは、無理に量を入れることよりも、ご本人にとってずっと意味があります。

そして、食べさせること以外にもケアはたくさんあります。手足をさする、髪を整える、好きな音楽をかける、外の空気を入れる。ご家族が「してあげられること」は、食事だけではありません。

SECTION 08この病気に特有の話 ③
通り道がふさがったとき、どう決めるか

膵臓がんの経過は、なだらかな下り坂ではありません。ふさがる → 処置をして戻る → またふさがるという「段差」を繰り返しながら進みます。この段差のたびに、入院して処置を受けるのか、家で過ごすことを優先するのかという選択が発生します。

ここが、この病気の在宅療養で最も大事な意思決定です。詰まってから慌てて決めるのではなく、詰まる前に決めておくことをおすすめしています。

① 胆管がふさがったとき(黄疸) 白目が黄色い/尿が濃い/全身がかゆい/灰白色の便が出たら、まず連絡してください。 放置すると胆管炎(発熱・悪寒・血圧低下)を起こし、命に関わることがあります。 A:胆道ステントを入れる/入れ替える ・内視鏡で行う。原則入院(数日) ・黄疸とかゆみが取れ、食欲も戻ることが多い ・終末期でも、生活の質を保つ価値は大きい B:入院せず、自宅で症状をやわらげる ・かゆみ止め、抗菌薬の点滴を在宅で ・移動の負担をかけたくない時期の選択 ・「もう病院には行かない」と決めている場合 ② 十二指腸がふさがったとき(吐く・食べられない) 食後しばらくして吐く/前に食べたものが出てくる/お腹が張って苦しい。切除不能例の約2割に起こります。 A:十二指腸ステント(内視鏡) ・処置後、早ければ翌日から食べられる ・体への負担が軽く、入院も短い ・ただし食物残渣や腫瘍で再び詰まりうる 食べられるまで中央値5日/持続 中央値50日 B:胃空腸バイパス手術 ・胃と小腸をつなぎ、狭い部分を迂回する ・回復に時間はかかるが、長く保ちやすい ・2か月以上の見通しがある場合に向く 食べられるまで中央値8日/持続 中央値72日 見通しが短いほどステント、長いほどバイパスが向く。だからこそ「今、どちらの時期か」の共有が要ります

図8:十二指腸ステントとバイパス手術の比較数値は、海外の比較試験(SUSTENT study)の報告に基づきます。「早く食べられる」のはステント、「長く保つ」のはバイパスという傾向があります。

ぜひ、詰まる前に決めておいてください

在宅診療の現場で最も判断に迷うのが、深夜に黄疸や嘔吐が出たときです。ご家族が「入院させたほうがいいのか」「本人は家にいたいと言っていたが」と揺れ、救急要請の判断がつかないまま朝を迎えることがあります。

そこで、症状が出る前に、次の質問への答えを主治医・訪問看護師と共有しておくことをおすすめします。

「もし胆管(または十二指腸)がまた詰まったら、入院して処置を受けますか。それとも、家で症状をやわらげる方針にしますか」

この答えは、途中で変えて構いません。むしろ、時期によって変わるのが自然です。大事なのは、「その時が来たら考える」ではなく、いま一度言葉にしておくことです。

HOME MEDICAL CARE ここから、在宅診療の話をします

ここまでは「膵臓がん末期に何が起こるか」でした。ここからは、それを家でどう支えるか——訪問診療と訪問看護で実際にできること、使える制度、費用の仕組み、急変時の備えを、具体的にご説明します。膵臓がんは、痛みと栄養と「詰まり」への備えさえ組んでおけば、最期まで自宅で過ごせる方の多い病気です。

SECTION 09在宅医療の仕組み——まず、言葉の整理から

「訪問診療」と「往診」は別のものです

訪問診療往診
性格計画的・定期的に伺う臨時に伺う
頻度月2回が基本。状態により週1回以上も必要が生じたそのつど
きっかけあらかじめ決めた日程ご本人・ご家族・訪問看護師からの連絡
主な役割症状の見通しを立て、薬を調整し、次に起こることに備える痛みの急な増強、発熱、嘔吐、看取りなどに対応する

この2つは、セットで機能します。定期の訪問診療で状態を把握しているからこそ、夜間に連絡が来たときに、電話で対応できるのか、往診が必要か、入院を勧めるべきかを短時間で判断できます。「何かあったときだけ来てもらう」という使い方では、その判断ができません。

末期がんでは、訪問看護の枠が大きく広がります

ここは制度の話ですが、ご家族の負担に直結するので、ぜひ知っておいてください。

訪問看護は通常、介護保険で「週◯回まで」といった制約の中で使います。しかし、「末期の悪性腫瘍」は、健康保険法の別表第七に定められた疾病にあたり、この場合は介護保険ではなく医療保険で訪問看護を利用します。そして枠が大きく広がります。

「末期の悪性腫瘍」で、訪問看護の枠はこう変わります 通常(介護保険) ・週3日までが原則 ・1日1回 ・原則1か所の事業所 ・区分支給限度基準額の枠内  (他のサービスと取り合いになる) ※要介護度によって使える量が決まる 末期がん(医療保険) ・日数の制限なし(毎日でも可) ・1日に複数回の訪問が可能 ・2〜3か所の事業所を併用できる ・介護保険の限度額とは別枠  (介護のサービスを削らずに済む) ※医療保険の高額療養費制度が使えます

図9:「末期の悪性腫瘍」に該当すると、訪問看護は医療保険で行われ、回数・事業所数の制限が大きく緩みます。介護保険の限度額とは別枠になるため、ヘルパーや福祉用具を削らずに済むのも利点です。

40〜64歳の方も、介護保険が使えます

介護保険は65歳以上が原則ですが、40〜64歳の方でも「16の特定疾病」に該当すれば申請できます。この16疾病の筆頭が「がん(末期)」です。介護ベッド、車いす、ポータブルトイレ、手すり、訪問介護、訪問入浴——これらは介護保険で用意します。

働き盛りの世代で膵臓がんと診断された方が、この制度を知らずに全額自費で福祉用具を借りていた、というケースを何度も見てきました。診断がついたら、早めに市区町村の窓口かケアマネジャーにご相談ください。申請から認定まで時間がかかるため、「必要になってから」では間に合わないことがあります。

「特別訪問看護指示書」は、膵臓がん末期では原則として必要ありません

ここは誤解が多いところなので、はっきり書いておきます。

訪問看護を一時的に毎日入れたいとき、通常は特別訪問看護指示書(14日間の期限つき)を主治医が交付します。しかし末期の悪性腫瘍は、この指示書がなくても最初から毎日の訪問看護が可能です。先に述べたとおり、別表第七に該当することで、はじめから日数の制限がないためです。

つまり、「特別指示書を出してもらわないと毎日来てもらえない」と待つ必要はありません。必要になったその日から、回数を増やせます。持続皮下注射を始めた直後、黄疸や発熱が出たとき、嘔吐が続くとき、看取りが近づいたとき——いずれも、指示書の追加交付を待たずに訪問を組み直せます。

代わりに、確認しておいていただきたいこと

・1日に複数回の訪問が必要か。朝夕の2回、あるいは1日3回といった訪問も、別表第七の対象であれば組めます(難病等複数回訪問加算)。「夕方の吐き気の時間帯にもう一度来てほしい」といったご希望は、遠慮なくお伝えください。

・訪問看護ステーションを2〜3か所併用するか。末期がんでは複数の事業所を組み合わせられます。夜間対応に強いところ、リハビリに強いところ、というように役割を分けることも可能です。

・在宅で点滴を行うか。点滴が必要になった場合は、在宅患者訪問点滴注射指示書(訪問点滴指示書)を別途交付します。こちらは有効期間7日以内で、看護師が週3日以上の点滴を行うために必要な書類です。訪問看護の回数とは別の話なので、混同しないようにしてください。

SECTION 10家で、実際に何ができるのか

「病院でしかできないと思っていた」と言われることの多い処置を、一覧にしました。膵臓がんの在宅療養で実際に行っているものです。

できること内容と、膵臓がんでの位置づけ
医療用麻薬の管理貼り薬・飲み薬・座薬・注射。自宅に持って行き、量の調整もその場で行う
持続皮下注射(PCA)小さなポンプで24時間、痛み止めや吐き気止めを注入。痛いときはボタンで追加できる。膵臓がんで最も出番が多い
点滴(補液・抗菌薬)脱水や感染時に。胆管炎の初期には在宅で抗菌薬を開始できる場合がある
腹水穿刺お腹の張りが苦しいときに、自宅で水を抜く。抜きすぎないことが大切
消化酵素薬の調整便の状態を訪問看護師が確認し、量とタイミングを見直す
胆道ドレーンの管理体外に出ているドレーンの洗浄、固定、皮膚のケア、排液の色の観察
胃管による減圧吐き気が強く通過障害があるとき、胃にたまった内容を抜いて楽にする
血糖測定・インスリン膵性糖尿病の管理。終末期は「下げすぎない」ことが目標になる
酸素療法肺転移や胸水、貧血による息切れに
褥瘡(床ずれ)の処置やせが進むと骨の出っ張りに褥瘡ができやすい。予防と処置
口腔ケア食べられなくなるほど重要。口の乾きと汚れは苦痛と感染につながる
入浴・清拭訪問入浴、または訪問看護師による清拭。かゆみの強い時期は特に大切

痛みが強くなったら——持続皮下注射(PCA)

飲み薬が飲めなくなったとき、あるいは痛みが動くたびに強くなるとき、持続皮下注射に切り替えます。お腹や胸に細い針を留置し、携帯できる小さなポンプから薬を持続的に注入する方法です。

  • 飲み込む必要がありません。吐いてしまう方、意識が落ちてきた方でも確実に届きます。
  • ご本人がボタンを押して追加できます。痛みが強くなったときに、自分のタイミングで。押しすぎても安全な仕組みになっています。
  • 点滴の管につながれません。針は皮下なので、抱きかかえて移動することも、風呂に入ることもできます。
  • 吐き気止めや鎮静薬も同じ回路で使えます。

膵臓がんでは、この持続皮下注射に神経障害性疼痛の補助薬(プレガバリンやデュロキセチンなど)を組み合わせることが多くあります。神経の束にがんが達しているタイプの痛みは、医療用麻薬だけでは取り切れないことがあるためです。

膵性糖尿病:終末期は「下げること」が目標ではありません

膵臓は、インスリンだけでなくグルカゴン(血糖を上げるホルモン)もつくっています。膵臓がんが進むと両方が失われるため、血糖が上がりやすいのに、下がりだすと戻りにくいという不安定な状態になります。食事量が日によって大きく変わる終末期には、これが低血糖の危険につながります。

そのため、在宅では血糖の目標をゆるめ、低血糖を起こさないことを最優先にします。「数値が高めでも構いません」とお伝えすると驚かれるご家族もいますが、この時期に大切なのは、意識がはっきりしていること、そして本人が食べたいものを食べられることです。ステロイドを使っている場合は血糖が上がるので、そこは別途調整します。

血栓(血のかたまり)に気をつけてください

膵臓がんは、あらゆるがんの中で最も血栓ができやすいがんのひとつです。国内の大規模研究(Cancer-VTE Registry、9,735人)では、治療開始前の時点で静脈血栓塞栓症があった割合は全体で5.9%でしたが、膵がんは8.5%と6つのがん種で最も高く(乳がんは2.0%)、治療中の発生も他のがん種より多いと報告されています。

ご家族に見ていただきたいサインは2つです。①片方の脚だけが急に腫れて痛む②急に息が切れる・胸が苦しくなる。どちらもすぐにご連絡ください。ただし終末期には、抗凝固薬を使うかどうか(出血のリスクとの兼ね合い)も含めて方針を決めることになります。

終末期の点滴は、減らしたほうが楽になります

これは、ご家族に最も納得していただきにくい話のひとつです。

「食べられないなら、せめて点滴を」というお気持ちはよく分かります。しかし、亡くなる前の数週間、体は水分をうまく処理できなくなります。入れた水分は血管の外に漏れ出し、次のような形で本人を苦しめます。

  • 痰が増えて、ゴロゴロと苦しそうな呼吸になる
  • 手足や顔がむくむ
  • お腹の水(腹水)が増えて、張りが強くなる
  • 胸に水がたまり、息苦しさが増す

そのため終末期には、1日500mL前後かそれ以下を目安に点滴を絞ることが多く、これによって呼吸が楽になり、むくみも軽くなります。「点滴を減らす=見放す」ではなく、「点滴を減らす=楽にする」治療です。口の渇きは、口腔ケアと少量の氷片で十分にやわらぎます。

SECTION 11最期のときと、その前後の備え

自宅で亡くなっても、警察を呼ぶ必要はありません

これは、繰り返しお伝えしたいことです。在宅で看取ることに、法律上の問題は一切ありません。

医師法第20条は「医師は自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付してはならない」と定めていますが、そのただし書きに「診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない」とあります。

さらに厚生労働省の通知(平成24年8月31日 医政医発0831第1号)により、24時間以上経過していても、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判断できる場合には、改めて診察したうえで死亡診断書を交付できることが明確にされています。

息を引き取られたときに、していただきたいこと

1. 慌てて119番を呼ばないでください。救急車を呼ぶと蘇生処置が始まり、警察が介入することもあります。ご本人にもご家族にも、望まない負担がかかります。

2. まず、クリニックまたは訪問看護ステーションにお電話ください。24時間つながる番号を、あらかじめ冷蔵庫や電話のそばに貼っておきましょう。

3. 到着まで、そばにいてあげてください。お顔を拭く、手を握る、声をかける。急ぐ必要はまったくありません。深夜であれば、朝の訪問で構わない場合もあります。

介護するご家族のための「レスパイト入院」

在宅療養が続かなくなる理由の多くは、病状ではなく介護される側の限界です。膵臓がんの経過は数か月と短いことが多い一方で、痛みと嘔吐と夜間の対応が重なると、その数か月はご家族にとって非常に濃密なものになります。

レスパイト入院は、介護しているご家族が休むために、一時的に入院していただく仕組みです。数日から2週間程度が一般的で、法事や、ご家族自身の受診・休養に使えます。

「そんなことで入院させるなんて」と遠慮される方がほとんどですが、ご家族が倒れてしまえば、在宅療養そのものが終わってしまいます。あらかじめ受け入れ先を決めておくことも含めて、遠慮なくご相談ください。

ACP(人生会議)——膵臓がんで決めておきたい5つのこと

ACPとは、これからの医療とケアについて、ご本人・ご家族・医療者があらかじめ話し合っておくことです。膵臓がんでは、次の5つを早めに共有しておくことをおすすめしています。

テーマ話し合っておきたいこと
① 過ごす場所最期まで自宅か。緩和ケア病棟も候補に入れるか。「今は家、状況が変われば入院」も立派な方針
② 詰まったとき胆管や十二指腸がまた詰まったら、入院して処置を受けるか。膵臓がんでは、これが最も現実的な分岐点
③ 点滴と栄養食べられなくなったとき、点滴をどこまで行うか。中心静脈栄養を希望するか
④ 眠らせる選択痛みや苦しさがどうしても取れないとき、意識を落とす治療(鎮静)をどう考えるか
⑤ 伝えたいこと会っておきたい人。行きたい場所。伝えたい言葉。財産や仕事の引き継ぎ

ACPで最も大切なのは、結論を出すことではなく、家族が「本人ならこう言うだろう」と思える状態にしておくことです。膵臓がんの経過は速く、判断を迫られる場面が突然訪れます。そのとき、一度でも話し合った記憶があるかどうかで、ご家族の負担はまったく違います。

在宅を支えるチーム

ご本人 とご家族 訪問診療医 定期訪問・薬の調整 往診・看取り・24時間対応 訪問看護師 処置・観察・注射ポンプ管理 ご家族への手技指導 訪問薬剤師 医療用麻薬の配達と管理 飲み方の相談・残薬の整理 ケアマネジャー 介護保険の全体調整 サービスの手配 リハビリ職 動ける範囲を保つ 起き方・移り方の工夫 ヘルパー・訪問入浴 生活の支え・清潔の保持 ご家族の休息時間をつくる がん治療の主治医 これまでの経過の情報共有 処置が必要なときの受け入れ 消化器内科・放射線科 ステント処置・神経ブロック 痛みへの照射

図10:在宅療養は、多職種のチームで支えます。膵臓がんでは、処置が必要になったときに備えて、病院側との連携を最初から組んでおくことが特に重要です。

SECTION 12ご家族に見ていただきたい8つのこと

毎日そばにいるご家族の観察は、私たちにとって最も価値のある情報です。次の項目を、記録として残しておいていただけると助かります。

見るところ気にしていただきたい変化その変化が意味すること
① 白目の色白目や皮膚が黄色い。尿が濃い。かゆがる胆管がふさがっている可能性。連絡してください
② 熱と震えガタガタ震える悪寒を伴う発熱胆管炎の可能性。急ぐ連絡が必要です
③ 吐き方食後しばらくして吐く。前に食べたものが出る十二指腸の通過障害。方針の確認が必要
④ 便の様子脂が浮く。水に流れにくい。色が薄い消化酵素が不足。薬の量の見直しで改善しうる
⑤ 痛みの出方いつ・どこが・どんなふうに。何をすると楽か痛み止めの量と種類、局所治療の判断材料
⑥ 脚と呼吸片脚だけ急に腫れる。急に息が切れる血栓の可能性。すぐ連絡してください
⑦ 食べた量と体重「何をどのくらい」を、ざっくりで構いません栄養と点滴の方針、薬の調整に直結します
⑧ 起きている時間1日のうち、どのくらい横になっているか治療の切り替え時期と、見通しを考える指標
そして、ご自身のことも

介護されているご家族に、私たちが必ずお聞きするのは「昨夜は眠れましたか」です。夜間の痛みや嘔吐に対応していると、睡眠が細切れになります。それが2週間続けば、誰でも判断力が落ちます。

疲れていることは、訪問時に遠慮なくおっしゃってください。薬の使い方を変えて夜の対応を減らす、訪問回数を増やす、レスパイト入院を手配する——打てる手はあります。私たちが支えているのは、ご本人だけではありません。

SECTION 13ご相談・受診の目安

すぐにご連絡ください(夜間・休日を問わず)

・ガタガタ震える悪寒を伴う高熱(胆管炎の疑い)/急に黄疸が出た
・痛みが、これまでの薬でまったく抑えられない
・吐いて水分も取れない状態が続いている
・片方の脚だけが急に腫れて痛む/急に息が切れる
・呼びかけへの反応が明らかに鈍い、意識がもうろうとしている
・血を吐いた/黒い便が出た

数日のうちにご相談ください

・食事量が急に落ちた/体重が目に見えて減っている
・便に脂が浮く、水に流れにくい状態が続く
・お腹の張りが強くなり、少ししか食べられない
・むくみが増えてきた/痰がゴロゴロして苦しそう
・痛み止めの副作用(便秘・眠気・吐き気)がつらい
・介護しているご家族が眠れていない、限界を感じている

落ち着いているうちに、話しておきたいこと

・胆管や十二指腸がまた詰まったとき、入院して処置を受けるかどうか
・どこで過ごしたいか(自宅/緩和ケア病棟/その時々で)
・点滴や栄養を、どこまで行うか
・痛みが取れないとき、眠らせる治療をどう考えるか
・会っておきたい人、伝えておきたいこと

ふくろう訪問クリニックにできること

当院は福岡市早良区で、緩和ケア・難病・精神科・認知症を専門とする訪問診療を行っています。膵臓がんの患者さんについては、次の点を大切にしています。

1. 痛みを、薬だけで抱え込まない。院長は放射線治療専門医です。痛みへの照射が有効かどうか、通院に耐えられるかを含めて判断し、放射線治療施設・消化器内科との橋渡しをいたします。腹腔神経叢ブロックについても同様です。

2. 「詰まったとき、どうするか」を先に決めておく。胆管炎や嘔吐は、必ず不意に訪れます。そのときにご家族が迷わないよう、事前に方針を共有し、連携先の病院も決めておきます。

3. 消化と栄養に、きちんと手を入れる。消化酵素薬の量とタイミング、悪液質への対応、終末期の点滴量。「食べられない」の原因を分けて考え、打てる手から打ちます。

4. 24時間つながる体制と、法人内の訪問看護ステーション。ふくろう訪問看護リハビリステーションと連携し、夜間・休日も対応します。ご家族が休むための調整も一緒に考えます。

「まだ在宅医療の段階ではないかもしれない」という時期のご相談も歓迎します。むしろ早めにお会いしておくほうが、いざというときに動けます。ご本人・ご家族はもちろん、病院の医療相談室、ケアマネジャーの方からのお問い合わせもお受けしています。

参考文献
  1. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん統計」膵臓(罹患47,540例/2023年、死亡41,235人/2024年、5年相対生存率13.2%/2018年診断例)2026年7月22日更新.
  2. 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会 編『膵癌診療ガイドライン 2025年版(第7版)』金原出版, 2025年7月25日発行. ISBN 978-4-307-20500-9.
  3. Wong GY, Schroeder DR, Carns PE, et al. Effect of neurolytic celiac plexus block on pain relief, quality of life, and survival in patients with unresectable pancreatic cancer: a randomized controlled trial. JAMA. 2004;291(9):1092-1099. doi:10.1001/jama.291.9.1092 (PMID: 14996778)
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  8. Ji K, Shao YJ, Hao JL, et al. Celiac Plexus Block After Stereotactic Body Radiotherapy Improves Pain Relief in Locally Advanced Pancreatic Cancer. J Pain Res. 2020;13:919-925. doi:10.2147/JPR.S247303
  9. Doi S, Yasuda I, Kawakami H, et al. Endoscopic ultrasound-guided celiac ganglia neurolysis vs. celiac plexus neurolysis: a randomized multicenter trial. Endoscopy. 2013;45(5):362-369. doi:10.1055/s-0032-1326225
  10. 小野薬品工業株式会社・アナモレリン適正使用委員会「エドルミズ®錠50mgの適正使用に関するお願い」2021年1月22日策定(日本膵臓学会 掲載).
  11. 厚生労働省「医師法第20条ただし書の適切な運用について」平成24年8月31日 医政医発0831第1号.
  12. 厚生労働省「診療報酬の算定方法」別表第七(訪問看護が医療保険の対象となる疾病等)および介護保険法施行令に定める特定疾病(16疾病).
  13. 日本消化器内視鏡学会「悪性十二指腸閉塞に対する内視鏡的ステント留置術の現状と将来展望」Gastroenterol Endosc. 2019;61(7). (SUSTENT study の結果を含む)
  14. 日本セルヴィエ株式会社 プレスリリース「抗悪性腫瘍剤『オニバイド®点滴静注43mg』治癒切除不能な膵がんの一次治療に係る一部変更承認申請」2025年12月16日.

※本コラムは一般の方向けの情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。実際の治療については必ず主治医とご相談ください。※薬剤の承認状況・診療報酬・制度に関する記載は2026年8月時点のものです。制度は改定されることがあります。※統計値は国立がん研究センターの公表値に基づいており、集計年が項目ごとに異なります(罹患は2023年、死亡は2024年、生存率は2018年診断例)。