FUKUROU COLUMN / 在宅緩和ケア

胆嚢がん末期の治療・療養
――症状の手当てと、家で過ごすという選択

胆嚢(たんのう)がんは、見つかったときにはすでに進行していることが少なくないがんです。黄疸(おうだん)や発熱をくり返しながら経過するという、ほかのがんとは少し違った特徴もあります。この記事では、末期といわれる時期に何が起こるのか、そのとき何ができるのかを、できるだけやさしい言葉で整理しました。後半は「家で過ごす」ことを選んだときに実際に何ができるのかを、一段深くご説明します。

SECTION 01

胆嚢がんとは、どんな病気か

胆嚢は、肝臓の下側にぶら下がっている、洋ナシのような形をした小さな袋です。肝臓でつくられた胆汁(脂肪の消化を助ける液)を一時的にためて濃縮し、食事のタイミングに合わせて胆管へ送り出す、いわば「胆汁の貯蔵庫」にあたります。

この袋の壁にできるのが胆嚢がんです。胆嚢がんは、胆管がん(肝内胆管がん・肝門部領域胆管がん・遠位胆管がん)、十二指腸乳頭部がんとあわせて「胆道がん」というグループにまとめられます。同じグループでも発生する場所によって症状の出方や治療の組み立てが変わるため、まずご自分(ご家族)のがんがどこにできたものかを、主治医に確認しておくと理解が進みます。

図1 胆道の地図と、胆嚢がんが広がる方向 肝臓 肝内胆管 総胆管 (胆汁の通り道) 十二指腸 (食べ物の通り道) 乳頭部(出口) 胆嚢 胆嚢がん 胆嚢の壁にできます 広がると起こること 肝臓へ  → 痛み・肝機能低下 胆管へ  → 黄疸・胆管炎 十二指腸へ → 吐き気・嘔吐 腹膜へ  → 腹水・腹の張り + リンパ節・遠くの臓器へ転移

胆嚢は胆管という「管」に直接つながり、肝臓と十二指腸に接しています。この位置関係が、胆嚢がん末期に起こる症状のほとんどを説明します。

胆嚢がんの数字

胆嚢がんと診断される人約8,200人/年男性 約3,600人/女性 約4,600人(2017年)
胆のう・胆管がんの罹患数20,9262023年・全国がん登録
胆のう・胆管がんの死亡数17,2322024年・人口動態統計
5年相対生存率24.5胆のう・胆管、2009〜2011年診断例

胆嚢がんは、女性にやや多いという特徴があります。また、国のがん統計では生存率などが「胆のう・胆管」としてまとめて公表されているため、胆嚢がんだけの数字と、胆管がんを含めた数字が混ざりやすい点に注意が必要です。上の数字も、診断数だけが胆嚢がん単独、ほかは胆のう・胆管をあわせた値です。

5年相対生存率が2割台にとどまるのは、胆嚢が「がんが小さいうちは症状を出さない臓器」だからです。胆嚢は袋なので、壁に小さながんができても胆汁の流れは止まりません。痛みや黄疸が出て「おかしい」と気づいたときには、すでに肝臓や胆管、周りのリンパ節に広がっていることが多いのです。逆に、胆石の手術で胆嚢を取ったあとに顕微鏡検査で偶然見つかる(偶発胆嚢がん)ケースもあり、この場合は比較的早期のことがあります。

数字は「集団の平均」であって、あなたの余命ではありません

生存率は何千人という患者さんをまとめたときの割合です。年齢、体力、がんの広がり方、治療の効き方によって、一人ひとりの経過は大きく異なります。数字は「だいたいの見取り図」として使い、実際の見通しは主治医と話し合ってください。

SECTION 02

「末期」とは、どういう状態を指すのか

「ステージⅣ=末期」と受け取られがちですが、この二つは別のものです。

言葉意味するもの
ステージⅣがんの広がり方の分類。遠くの臓器やリンパ節に転移がある状態。診断された時点の「地図」であり、体力や余命を直接示すものではありません。ステージⅣでも治療を続けながら年単位で過ごす方がいます。
末期(終末期)がんそのものを小さくする治療が難しくなり、体の力が落ちていく段階に入った状態。医学的には「回復が見込めず、予後がおおむね数か月以内と判断される時期」を指すことが多い言葉です。保険や介護の制度では「末期の悪性腫瘍」という区分として使われます。

胆嚢がんの「落ち方」には段差がある

多くのがんは、終末期にゆるやかな下り坂をたどり、最後の数週間で急に落ちる、という経過をとります。胆嚢がんはこれに加えて、胆汁の通り道がふさがることで起こる「段差」がしばしば重なります。

がんが胆管を圧迫したり、留置したステント(管を広げる筒)が詰まったりすると、胆汁が流れなくなって黄疸が出ます。そこに細菌が入ると急性胆管炎を起こし、高い熱と震え(悪寒戦慄)で一気に状態が悪くなります。ここでドレナージ(胆汁を逃がす処置)がうまくいけば、熱が下がり黄疸が引いて、いったん元気が戻る。しかし戻る位置は前より一段低い――これをくり返しながら経過するのが、胆道がんの特徴です。

図2 胆嚢がん末期の経過イメージ ―「段差」のある下り坂 高い 低い からだの力 時間 → (参考)段差がない場合 黄疸・胆管炎 高熱・震え・だるさ ドレナージで一部回復 ただし前より一段低い位置まで 処置をしても戻りにくくなる時期がくる

「急に悪くなった」と感じる場面の多くは、この赤い点=胆管炎です。ここで慌てないためには、熱が出たときにどうするかを前もって決めておくことが何よりの備えになります(→ SECTION 07)。

SECTION 03

末期に起こりやすい症状

すべての方に全部が起こるわけではありません。「これから何が来るかもしれないか」を知っておくための地図として読んでください。

図3 起こりやすい症状と、その理由 胆嚢がん (末期) 黄疸・かゆみ 白目や皮膚が黄色くなる/ 尿が濃い/全身がかゆい 発熱(胆管炎) 38℃以上の熱+がたがた震え。 急ぐべきサインです 痛み 右のわき腹・みぞおち。 右肩や背中に響くことも 吐き気・嘔吐 十二指腸が狭くなると 食べたものが通らない 腹水・腹の張り 腹膜へ広がると水がたまり、 息苦しさ・食欲低下に だるさ・やせ 食べられない、力が入らない。 最も多い訴えのひとつ

胆嚢がんの症状は「胆汁が流れない」「食べ物が通らない」「おなかに水がたまる」の3系統に整理すると理解しやすくなります。

とくに知っておいてほしい3つ

① 黄疸とかゆみ

胆汁が流れなくなると、本来は便に出ていくビリルビンという黄色い色素が血液にあふれます。白目や皮膚が黄色くなり、尿がウーロン茶のように濃くなり、便が白っぽくなります。同時に全身が強くかゆくなることがあり、これは市販のかゆみ止めではほとんど効きません。皮膚をかき壊して眠れなくなる方も多く、生活の質を大きく下げる症状です。原因が「胆汁のうっ滞」であるため、可能ならドレナージで胆汁を逃がすことが最も効果的な対処になります。

② 急性胆管炎

詰まった胆管に細菌が入って起こる感染症です。「高い熱」「がたがた震える(悪寒戦慄)」「黄疸が濃くなる」が典型で、進むと血圧が下がり、意識がもうろうとして命に関わる状態(敗血症)になります。数時間単位で悪くなることがあるため、末期の療養においても「様子を見る」判断が最も危険な症状です。

③ 十二指腸の通過障害

胆嚢のすぐ隣を十二指腸が走っているため、がんが広がると食べ物の通り道が狭くなります。食後しばらくして大量に吐く、水も通らないといった形で現れます。「食欲がない」のではなく「物理的に通らない」状態なので、無理に食べさせると苦しさが増します。ステントで通り道を広げる、点滴で水分を補う、吐き気止めを使うなど、対応の仕方が変わってきます。

SECTION 04

この時期に行う治療

末期の治療は、大きく「がんを叩く治療」「つらさを取る治療」の2本立てです。前者は体力と相談しながら続けるかどうかを判断し、後者は最後まで続けます。

薬物療法(抗がん剤・免疫チェックポイント阻害薬)

手術で取りきれない胆道がんに対しては、2025年6月に改訂された『エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン 改訂第4版』(日本肝胆膵外科学会)で、次の4つが一次治療として推奨されています(いずれも推奨度1)。

レジメン(薬の組み合わせ)主な根拠
ゲムシタビン+シスプラチン
デュルバルマブ
国際共同第Ⅲ相試験 TOPAZ-1:全生存期間の中央値 12.8か月 対 11.5か月(ハザード比0.80)。2年生存率は24.9% 対 10.4%。
ゲムシタビン+シスプラチン
ペムブロリズマブ
国際共同第Ⅲ相試験 KEYNOTE-966:全生存期間の中央値 12.7か月 対 10.9か月(ハザード比0.83)。
ゲムシタビン+S-1点滴と内服の組み合わせ。通院回数を抑えやすい。
ゲムシタビン+シスプラチン+S-13剤併用。効果は期待できるが副作用も強くなる。

数字を見て「思ったより差が小さい」と感じられたかもしれません。実際、免疫チェックポイント阻害薬を足しても中央値の差は1〜2か月ほどです。ただし2年後に生きている人の割合は約10%から約25%へと大きく変わっており、「長く効く人が一定数いる」のがこのタイプの薬の特徴です。中央値だけでは見えない部分があります。

遺伝子を調べて選ぶ薬

効かなくなったあとの二次治療としては、FOLFOX(フルオロウラシル+オキサリプラチン)などが用いられます。加えて、がんの遺伝子を調べて特定の変化が見つかった場合には、それを狙い撃ちする薬が使えることがあります。

  • FGFR2融合遺伝子:ペミガチニブ、フチバチニブ、タスルグラチニブ(2024年9月国内承認)。二次治療以降。
  • IDH1遺伝子変異:イボシデニブ。2026年6月19日に国内で胆道がんへの適応が追加されました。
  • MSI-High/TMB-High:ペムブロリズマブ(臓器を問わない適応)。
  • NTRK融合遺伝子:エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ。
  • BRAF V600E変異:ダブラフェニブ+トラメチニブ(臓器を問わない適応)。

胆嚢がんでは「当たり」が出にくい、という現実

FGFR2融合遺伝子やIDH1変異は、同じ胆道がんでも肝内胆管がんに多く、胆嚢がんではまれです。遺伝子検査を受けても使える薬が見つからないことのほうが多く、また検査の結果が出るまでに数週間かかります。体力が落ちている段階では「検査結果を待つ間に治療の機会を逃す」ことにもなりかねません。受けるかどうか、受けるならいつか。これは主治医とよく相談すべき判断です。

図4 治療の流れと、切り替えの判断 一次治療 GC+デュルバルマブ GC+ペムブロリズマブ GS/GCS 二次治療 FOLFOX など + 遺伝子の結果に応じて 分子標的薬 症状を和らげる治療が中心へ 痛み・黄疸・吐き気の手当て ドレナージの維持 在宅/緩和ケア病棟 切り替えを考える目安(胆道がんに特徴的なもの) ・ 全身状態(1日の半分以上を横になって過ごすようになった) 黄疸が引かない/ビリルビンが高い … 抗がん剤は肝臓で代謝されるため、投与できないことがある 胆管炎をくり返す … 治療の間隔が空き、そのたびに体力が削られる ・ 食べられない状態が続き、体重が落ち続けている

胆道がんでは、がんの大きさよりも「黄疸が引くかどうか」「胆管炎を抑えられるか」が治療継続の可否を決めることがしばしばあります。

胆道ドレナージ ―― 末期でも意味のある処置

「もう抗がん剤はしない」と決めたあとも、胆汁の通り道を確保する処置は続ける価値があります。黄疸が引けば、かゆみが軽くなり、食欲が戻り、だるさが減り、頭がはっきりします。これは寿命を延ばすためというより、残された時間の質を守るための処置です。

図5 胆汁を流す3つの方法と、家での管理 ① 内視鏡でステント 口から内視鏡を入れ、胆管に 筒(ステント)を置いて広げる 体の外に管が出ない 入浴も外出もしやすい 注意:詰まると胆管炎 数か月ごとに入れ替えが 必要になることがある ② 皮膚から管(PTBD) お腹の皮膚から肝臓を通して 胆管に管を入れ、外へ出す 体の外に管と袋がある 流れる量・色を毎日確認 在宅での管理が可能 訪問看護が固定・洗浄・ 皮膚のケアを担当します ③ 食べ物の道を広げる 十二指腸が狭くなったとき、 ステントやバイパス手術で対応 吐き気が減り、 口から食べられる可能性 体力があるうちに判断を 状態が落ちてからでは 処置自体が負担になります ※ どの方法をとるか、また「もう入れ替えはしない」と決めるかは、体力・見通し・ご本人の希望をふまえた相談で決まります。

②のPTBDは管が体の外に出るため敬遠されがちですが、在宅での管理がしやすく、詰まったときに自宅で対応しやすいという利点もあります。

HOME CARE / 一段深く 家で過ごす、ということ

ここからは、末期の胆嚢がんを自宅で診るとき、実際に何ができるのかを具体的にご説明します。「家に帰ったら何もしてもらえない」というのは、いちばん多い誤解です。

SECTION 05

訪問診療と往診、そして保険のしくみ

「訪問診療」と「往診」は別のもの

訪問診療往診
タイミングあらかじめ計画を立てて、定期的に伺う(週1回、2週に1回など)「熱が出た」「痛みが強い」など、そのときの要請を受けて臨時に伺う
目的症状の変化を先回りして拾い、薬を調整し、次に起こることに備える目の前で起きている困りごとに対応する
関係この二つはセットです。定期の訪問診療を受けている方が、必要なときに往診(24時間対応)を頼める、という組み立てになります。

末期のがんでは、訪問看護の「枠」が大きく広がる

通常、医療保険の訪問看護は週3日までですが、「末期の悪性腫瘍」は厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第七)に含まれるため、この制限が外れます。これは在宅療養を支える上でとても大きな意味を持ちます。

図6 末期がんで広がる訪問看護の枠 通常の場合 週3日まで/1日1回/1か所の訪問看護ステーション 「末期の悪性腫瘍」=別表第七に該当する場合 日数の制限なし(必要なら毎日)/1日2〜3回の訪問も可/2〜3か所のステーションを併用できる 65歳以上/40歳未満 訪問看護は医療保険。介護保険は ヘルパー・福祉用具・入浴などに使う 40〜64歳の方 「がん(末期)」は介護保険の16特定疾病。 若くても介護保険を申請できます

40〜64歳の方が「まだ介護保険は使えない」と思い込んでいるケースが少なくありません。末期のがんは16特定疾病に含まれるため、要介護認定を受けて介護ベッドや訪問介護を使うことができます。認定には時間がかかるので、早めの申請をおすすめします。

状態が急に動いたとき ―― 特別訪問看護指示書

胆管炎のあとや看取りが近づいた時期など、一時的に頻回の訪問が必要になったときには、主治医が特別訪問看護指示書(14日間有効)を出すことで、さらに手厚く入ることができます。「今週は毎日看護師さんに来てほしい」といった相談は遠慮なくしてください。

SECTION 06

家でできること・できないこと

できること内容
胆道ドレーンの管理PTBDチューブの固定、刺入部の消毒と皮膚ケア、排液量・色の記録、詰まりかけたときの生理食塩水による洗浄。抜けかけ・漏れへの応急対応。
痛みの管理医療用麻薬(貼り薬・内服・坐薬)の調整。飲めなくなったら持続皮下注射(PCA)へ。ボタンを押すと追加投与できる仕組みで、痛みが出たときにご本人・ご家族が自分で対応できます。
点滴・皮下輸液血管が細くて点滴が入らなくても、皮下(お腹や太もも)から水分を入れる方法があります。痛みが少なく、夜間だけ行うこともできます。
腹水の穿刺おなかが張って苦しいとき、エコーで見ながら自宅で抜くことが可能です。抜きすぎると血圧が下がるため、量を加減します。
吐き気・かゆみ・不眠の薬飲めなくても、坐薬・貼り薬・注射で対応できます。
酸素・吸引・採血在宅酸素、口腔・気道の吸引、採血と迅速な結果確認。
抗菌薬の点滴胆管炎が疑われるとき、状況によっては自宅で抗菌薬の点滴を始めることができます。
家では難しいことどうするか
詰まったステントの入れ替え、新しいドレナージの造設内視鏡やX線の設備が要るため入院が必要です。「詰まったら入れ替えに行くのか、行かないのか」を事前に決めておくことが、いざというときの迷いをなくします。
輸血、CTなどの画像検査必要性と負担を天秤にかけ、病院と連携して判断します。
24時間つきっきりの介護訪問看護・ヘルパー・デイサービス・レスパイト入院を組み合わせます。介護するご家族が倒れないことが、在宅療養を続ける最大の条件です。
SECTION 07

症状ごとの、家での手当て

熱が出たとき ―― いちばん大事な取り決め

胆嚢がんの在宅療養で、最も判断を迫られるのがこの場面です。あらかじめ方針を決めておけば、夜中に慌てて救急車を呼ぶ必要がなくなります。

図7 熱が出たときの判断の流れ 38℃以上の熱が出た 次のどれかがありますか? がたがた震える/黄疸が濃くなった/血圧が低い 受け答えがおかしい/ドレーンの流れが止まった ある ない 胆管炎の可能性 ― すぐ連絡 夜間でも遠慮は不要です 他の原因も考えます (肺炎・尿路感染・脱水など) 前もって決めておくこと ―― この2択を、元気なうちに家族で共有しておく A:まず自宅で抗菌薬の点滴を試し、改善しなければ入院を考える  /  B:胆管炎が疑われたらすぐ入院してドレナージを入れ替える

AとBのどちらが正しいということはありません。「もう入院はしたくない」「できるだけのことはしたい」――そのお気持ちを、平時に言葉にしておくことが大切です。

痛みへの対応

胆嚢がんの痛みは、右のわき腹やみぞおち、そして右肩や背中に響くのが典型です(関連痛といいます)。「肩こりがひどい」と訴えられることもあり、痛みと気づかれないことがあります。

  • 医療用麻薬(オピオイド)が基本です。「最後の手段」ではなく、痛みがある時期から使う薬です。中毒になったり寿命が縮んだりすることはありません。
  • 黄疸や肝機能の低下があるときは薬が体にたまりやすいため、少量から始めて慎重に増やします。ここは在宅医の腕の見せどころです。
  • 飲み込めなくなったら、貼り薬や持続皮下注射に切り替えます。効き目は落ちません。
  • 薬だけで取りきれない深い痛みには、神経の束にブロック注射を行う方法(腹腔神経叢ブロック)が有効なことがあります。病院と連携して検討します。

かゆみへの対応

  • 爪を短く整え、木綿の手袋を使う。かき壊しを防ぐだけでも眠れる時間が変わります。
  • 入浴やシャワーはぬるめに。熱いお湯はかゆみを強くします。
  • 保湿剤をたっぷり、こすらずに置くように塗る。冷やしたタオルも効果的です。
  • 薬は、市販の抗ヒスタミン薬ではあまり効きません。胆汁うっ滞によるかゆみには別の系統の薬を使います。「かゆみくらいで」と我慢せず、相談してください。

食べられないとき

この時期に最もご家族を苦しめるのが「食べてくれない」ことです。ここで知っておいていただきたいことが二つあります。

ひとつは、十二指腸が狭くなって「通らない」場合と、体が食べ物を必要としなくなっている場合は、意味がまったく違うということ。前者はステントなどで対応できる可能性があり、後者は自然な経過です。吐く量やタイミングを記録して伝えていただけると、判断の助けになります。

もうひとつは、終末期の点滴は「多ければ良い」わけではないということです。体が水分を処理できなくなった段階で1日1,000mLを超える点滴を続けると、むくみ、腹水、痰、息苦しさが増えて、かえって苦しくなります。この時期は500mL前後、あるいはそれ以下に絞ることが、多くの場合ご本人を楽にします。「点滴を減らす=見放す」ではありません。

SECTION 08

最期のとき、家族が慌てないために

亡くなったとき、警察を呼ぶ必要はありません

在宅での看取りで最も多い不安がこれです。訪問診療を受けている方が自宅で亡くなった場合、それは「異状死」ではありません。医師法第20条ただし書きにより、生前に診療していた傷病に関連する死亡であると判断できれば、最後の診察から24時間以上経っていても、医師は死亡診断書を交付できます(厚生労働省 平成24年8月31日 医政医発0831第1号)。

実際の在宅では、ご連絡をいただいてから医師が伺い、確認して死亡診断書をお渡しする、という流れになります。あわてて救急車を呼ぶ必要も、朝まで待つ必要もありません。まずクリニックにお電話ください。呼吸が止まったあと、少し時間をおいてからご連絡いただいても大丈夫です。お別れの時間を先に持っていただいて構いません。

介護する側が倒れないために ―― レスパイト入院

ご家族の休養や、冠婚葬祭・ご自身の通院などのために、一時的に入院していただく仕組みがあります。「家で看取ると決めたのだから最後まで」と気負う必要はありません。途中で入院しても、また家に戻ってくることができます。方針はいつでも変えられる、というのが在宅医療の実際です。

話し合いを、少しずつ

アドバンス・ケア・プランニング(ACP、人生会議)は、一度きりの大きな決断ではありません。「胆管炎になったら入院するか」「食べられなくなったらどうするか」「どこで過ごしたいか」――こうした一つひとつを、体調のよい日に少しずつ話しておく。気が変わったら変えてよい。その積み重ねが、いざというときにご家族を守ります。

図8 ご自宅を支えるチーム ご本人 ご家族 訪問診療医 24時間の往診・薬の調整 訪問看護師 ドレーン管理・体のケア 薬剤師 麻薬を含む薬の配達・管理 ケアマネジャー 介護サービスの組み立て ヘルパー・訪問入浴 日々の生活を支える 病院(消化器・緩和ケア) 処置・レスパイト入院

在宅は「ひとりで背負うこと」ではありません。それぞれの職種が別々の目でご様子を見て、情報を共有しながら支えます。

SECTION 09

ご家族へ ―― 見るポイントと、連絡の目安

場面見ていただきたいこと連絡の目安
熱が出た体温、震えの有無、黄疸の濃さ、意識のはっきり具合、ドレーンの流れ震えを伴う発熱はすぐに連絡。震えがなくても38℃以上が続くなら当日中に
黄疸白目の色、尿の色(濃くなっていないか)、便の色(白っぽくないか)数日で明らかに濃くなったら早めに相談
吐いた食後どれくらいで吐いたか、量、内容(食べたものが原形のままか)水分も通らない、繰り返し吐くときは当日中に
痛がるどこが、いつ、どんなときに強いか。頓用の薬を1日何回使ったか頓用が1日4〜5回を超えるなら、定期薬の見直しどきです
かゆがる眠れているか、かき傷ができていないか眠れないほどなら相談を。我慢する必要はありません
眠っている時間が増えた声かけへの反応、飲み込めるか、呼吸の様子看取りが近づいたサインのことがあります。次の訪問を待たず一報を

記録は、短くて構いません

体温、食べた量、吐いた回数、ドレーンの量、薬を使った時刻。カレンダーの余白にひと言ずつで十分です。この記録が、訪問時の判断を大きく助けます。完璧な記録より、続く記録を。

SECTION 10

迷ったときの相談先

すぐに連絡してください

  • 38℃以上の発熱に、がたがたと震える寒気を伴う
  • 黄疸が急に濃くなった/尿が急に濃くなった
  • 血圧が低い、冷や汗が出る、受け答えがおかしい
  • ドレーンが抜けた、流れが止まった、刺入部から大量に漏れる
  • 吐いて水分も取れない状態が続く
  • いつもの薬で痛みがおさまらない

ふくろう訪問クリニックにご相談ください

福岡市早良区を中心に、緩和ケアを含む在宅医療を行っています。胆道がんの療養では、痛みの調整、ドレーンの管理、胆管炎への備え、そして「どこで、どう過ごすか」というご相談まで、24時間の連絡体制でお受けしています。

「まだ在宅を決めたわけではないが、話だけ聞いてみたい」という段階でも構いません。入院中の方は、病院の医療相談室(がん相談支援センター)を通してご相談いただくとスムーズです。治療を続けながら、並行して在宅の準備を始めることもできます。

本記事は一般の方向けの情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。実際の治療やケアについては、必ず主治医・担当の医療者にご相談ください。掲載している統計値・承認状況は2026年7月時点で確認できたものです。

参考文献・出典

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  13. 厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」別表第七(厚生労働大臣が定める疾病等).
  14. 厚生労働省「介護保険の特定疾病(16疾病)」がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したもの).